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日米地位協定
2006.01.12 更新
 1月3日朝、横須賀市内で出勤途中の女性パート社員を殺害して所持金を奪った米空母乗員が、7日、強盗殺人容疑で神奈川県警に逮捕された。当初、日米地位協定に基づいて米海軍に身柄を拘束され、取り調べを受けていたものの、日本側の要請に応じた。日米合同委員会が起訴前の身柄引き渡しに合意したことによるもので、身柄引き渡しを要求した即日に実施されたのは、2004年に地位協定の運用改善が行われて以来初めてのことだ。

 日米地位協定とは、1960年に締結された日米安保条約6条に基づいて、米軍とその構成員の法的地位や、基地の管理、運用などを定めた政府間の協定で、28条から成っている。同協定の17条では、裁判権を行使する第一次の権利は米軍にあるとしており、これを受けて日本の刑事特別法11条は、在日米軍・軍属の容疑者は、日本側が現行犯逮捕した場合を除いて、原則として起訴前までは米軍が身柄を拘束し、起訴後に日本側に引き渡すと規定している。

 95年9月、沖縄で米海兵隊員が小学生の女児を暴行する事件が起きたとき、再三の身柄引き渡し要求を拒否する在日米軍に国民感情が悪化したのは記憶に新しい。この事件がクローズアップされた結果、地位協定の運用改善を行うことになり、95年10月、日米両政府は、殺人や強姦といった凶悪犯罪の容疑者の起訴前身柄引き渡しについては「好意的配慮を払う」ことで合意した。次いで04年4月には「日本政府が重大な関心を有するいかなる犯罪も排除するものではない」と、日本側の取り調べに米軍側が立ち会うことを条件に対象の犯罪が拡大された。96年以降は、日本側の要請に対し3件が実現(今回で4件目)している。

 今回、米軍側がきわめて異例ともいえる迅速な対応をした背景には、横須賀に米海軍第7艦隊の司令部があり、空母機動部隊の母港となっているという基地の持つ重要性と、目下、進められている米軍再編がある。また、強盗殺人という凶悪な犯行の模様が防犯カメラに記録されていたという、米軍にとって致命的な証拠があった。在日米海軍司令官らがいち早く知事や市長に謝罪し、日米合同委員会にただちに応じたのは、国民感情に最大限に配慮しつつ、08年からの原子力空母「ジョージ・ワシントン」配備に支障をきたさないようにとの思惑があったものとみられる。

「米側の好意に委ねるというのは大きな問題だ」(稲嶺恵一沖縄県知事)として、米軍基地を抱える地方自治体の多くは地位協定の改定を要求しているが、沖縄や神奈川など14の都道府県では「渉外関係主要都道府県知事連絡協議会」(会長・松沢成文神奈川県知事)をつくり、すべての犯罪事件について身柄を引き渡すことを明文化するよう求めている。

地位協定に詳しい本間浩法政大教授(国際法)によると、海外では、ドイツが93年に米軍など駐留NATO軍の地位を規定したボン協定を改定、環境問題については自治体の基地立ち入り権を認めており、イタリアでは、イタリア国防当局が米軍基地を使用する権限を形式的に容認されているという。そのうえで本間教授は「運用は行政の判断であり、法を根拠にしていない。明文化が必要だ。ただ、米国は自国で犯罪者の人権擁護が進んでおり、他国は遅れていると考えている。改定は、実際は非常に難しい」と指摘している(東京新聞1月8日付)。

 いっぽう、地位協定とは別に、特別協定によって米軍基地の光熱費や基地で働く日本人従業員の人件費を日本側が負担(03年度は2460億円)する、いわゆる「思いやり予算」があるが、敗戦から60年を経たいまでも、他国に例のない厚遇を米軍に与えているのは、いまだ独立国の要件を満たしていない証拠だ、という議論も根強い。



関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2005年)在外米軍の削減は東アジアの不安定化をもたらす恐れがある
村井友秀(防衛大学校教授)
(2005年)運用の改善はもう限界。地位協定を改定しなければ沖縄県民の犠牲が続く
稲嶺惠一(沖縄県知事)
(2002年)地位協定は日本に不利ではない――政府には沖縄を説得する義務がある
田久保忠衛(杏林大学社会科学部教授、学部長)
(2002年)運用改善では地位協定の不公正は是正されない。条文改定こそ唯一の選択
前田哲男(軍事評論家、東京国際大学教授)
(2001年)基地の返還・縮小に拘泥せず、日本自ら戦略的意義を提案するとき
ポール・S・ジアラ(元米国防総省日本部長、軍事問題コンサルタント)
(2001年)存在理由を失った沖縄米軍基地――海兵隊は二〇〇〇人に縮小せよ
田岡俊次(朝日新聞編集委員、「AERA」スタッフライター、筑波大学客員教授)
(2000年)日米安保の本質は「抑止」にあり――新ガイドラインはその実効性を高めた
岡本行夫(岡本アソシエイツ代表)
(2000年)軍事的下請け体制の成立――新ガイドラインで露わになる戦略外交の不在
豊下楢彦(立命館大学教授)
(1997年)沖縄への基地集中には合理的理由がある――政府は理解を得る努力を
志方俊之(帝京大学教授、元陸上自衛隊北部方面総監)
(1997年)沖縄の米海兵隊は無用。ハワイへ移駐を要求し、移転費を出すのが最良
田岡俊次(「AERA」スタッフライター、朝日新聞編集委員)
(1997年)沖縄の人々は基地問題について「理」と「人権」を第一義に行動した
又吉栄喜(作家)

議論に勝つ常識
(2005年)[米軍再編についての基礎知識]
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(2000年)周辺有事の際の日本の行動を知るための基礎知識
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(1997年)沖縄の米軍基地の現状と縮小問題を考えるための基礎知識
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