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[18686] 【習作】異世界親子旅(リリカルなのは×スパロボW)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/08 23:39
(前書き)

リリカルなのはとスパロボWのクロスオーバーです。
スパロボのクロスと言えばOGが多いですが、版権スパロボとくにWが好きなので
書いてみました。
戦闘中心のは既に名作が多いのでほのぼの中心、戦闘たまにで行こうと思います。
序盤の展開はかなり早足です。





[18686] 1話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/08 21:38
「平和なのはいいんだけど、38回目の倒産危機を何とかしないとなあ」

 宇宙を見ながら、ヴァルストークファミリーの一員、カズマ・アーディガンはそう呟く。彼の家族が営む家業トレイラーは物資や元々、宇宙開拓時代に生まれた職業で、物資や元々は人の輸送を担っていたが、流通が整備されてきた現代では政府による規制から活躍の場を失い、傭兵やトラブル解決なども行う何でも屋となることで生き残っている状態である。
 しかしこういった職業というのは乱世でこそ求められるものである。大規模な戦争が終わり、小競り合い位はあっても基本的には小康状態の現在、彼らに入ってくる仕事はほとんどなかった。

「たまには何か事件でも……。って、縁起でもないか。んっ、って、なんだありゃ!?」

 窓の外から見える宇宙、その一部が『歪んで』いたのだ。まるで、ヴァルザカードがディメンジョンブレイカーを使った時のように。
 そしてそのまま見ていると、その歪んでいた空間が割れた。ますますディメンジョンブレイカーのようだと感じるカズマだったが、一つ大きく違う点があった。ディメンジョンブレイカーは空間に穴をあけ、そこに敵を叩きこみ、別次元の宇宙に追放する技である。しかし、その現象ではそれとは逆に、空間の割れ目からこの次元に出てきたものがあったのだ。

「あれは、って、やばい!?」

 それを見てカズマは駆け出す。彼の見たものが見間違いでなければ、そしてそれがまだ“生きている”のならば一刻も早く助けなければならなかった。故に彼の愛機、ヴァルホークがある格納庫、目指して一直線に走る。途中でミヒロとすれ違うが今は話している暇は無いと、無視して突っ走る。
 そして、格納庫に辿りついた彼は早速機体に乗り込もうとするが、そこで彼の慌てた様子を見たミヒロが息を切らしながら、追いかけてきた。

「お、お兄ちゃん、どうしたの?」

「宇宙空間に人が浮いているんだ!! まだ、生きてるかもしれない。早く助けないと!!」
 
「えーーーーーー!!!?」

 カズマの説明に驚くミヒロ。そのまま機体を発進させようとするカズマ。しかし、ミヒロがそこで彼を引きとめる。
 
「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!!」

「なんだよ!?」

 焦りから苛立ちの混じった声を返してしまうカズマ。しかし、次のミヒロの言葉で一気に冷静になるのだった。

「宇宙服着ないで、どうやってその人達助ける気なの!?」






「よし、ミヒロ、俺が外にでるからヴァルホークを頼む」

「うん」

 ミヒロに言われ、急いで宇宙服を着こんだカズマ。
 そして、ミヒロも一緒に乗せ、ヴァルホークに乗り込むとヴァルストークを飛び出し、宇宙に漂う人間の傍に近づき機体を停止させる。そしてコックピットを開けると外に飛び出した。

「急がないと」

 カズマが空間の割れ目を確認してから既に10分近くが経過している。カズマが目撃したその姿は宇宙服等をまとっていなかった。生身で宇宙空間に10分と言うのは生存には絶望的な時間だ。しかし、それでも可能性が0になるまでカズマは諦めるつもりはなかった。

「宇宙の怖さ、一人の人間の弱さ、そして生命の大切さ!! 俺は助けられるかもしれない命を諦めたりしない!!……こいつは!?」

 救助のために近づいたカズマは“それ”を見て驚いた。カズマが見た人影の正体は見た目が20代位の女性で生きているか死んでいるか判別できない。ここまでは予想の反中である。驚いたのはその先、女性が抱きかかえているものの中身だった。

「子供?」

 女性は液体の満たされたガラスのようなポッドを抱きかかえ、その中にミヒロよりも遥かに幼い裸の少女が浮かんでいるのだった。その奇妙な光景に一瞬呆然とし、しかし直ぐに正気に戻って救助を再開する。

「これが何なのか確かめるのは後だ!」

 カズマは二人を抱きかかえると、宇宙空間で移動するための銃を使い、その反動でヴァルストークに戻る。
 そして機体に乗り込むとシートを倒し、そこに女性を寝かせ応急手当ての手順を思い出す。

「心臓は……っと、照れてる場合じゃねえ!!」

 心音を確認しようとして胸に触れてしまうことに気付き、一瞬、躊躇するが、自分に活を入れると思いきって手を触れる。そして驚愕の声を上げた。

「い、生きてる!?」

「ほんと、お兄ちゃん!?」

 心臓の鼓動、それがはっきりと感じられたのだ。希望を捨てていなかったとはいえ、普通に考えればあり得ないことにカズマは何度も胸に触れ直して確認する。
 だがそれは間違いではなかった。女性の心臓は確かに動いていた。

「うっ……」

 その時、女性の口から呻き声が漏れる。慌てて、女性の胸から手を話すカズマ。 そして女性の目が開く。

「おい、あんた、大丈夫か?」

「あり……しあ」

 目を覚ました女性にカズマが話しかけるが、女性はまるで聞こえていなかいようだった。その時、女性の口から洩れる言葉が彼の耳に入る。

「アリシア? もしかして、この子の名前か?」

 その言葉を名前と予測し、女性を手当てするため、彼女からひきはがし、脇に置いたポッドとその中で眠る少女を指さす。

「あっ……あああ」

 それを見た女性を声にならない嗚咽をあげた。何故ならポッドの中に入っていた少女の顔に“死んでいた筈”の少女の顔には赤みがさしていたのだから。



[18686] 2話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/06/02 05:48
『宇宙暦101.3.10
 今日、宇宙で親子を拾った。
 プレシアさんとアリシア、二人は何と異世界人、しかもプレシアさんの方は魔法使いなのだそうだ。
 驚愕の事実であるが、異星人や時間を超えて過去に飛んだ地球人の子孫が居る昨今、それほど不思議なことではないと気付く。
 それより凄いのはアリシアが一度死んで生き返ったらしい事である。
 プレシアさんは死んだ娘であるアリシアを生き返らせるため、アルハザードという伝説の地を目指していたのだそうだが、失敗してこの世界に来てしまったらしい。
 そして、この世界に来るとアリシアは生き返っていたそうだ。
 他にもプレシアさんの方は病気だった体が健康体に戻っていたり、若返っていたりするそうだ。
 原因は全くのところ不明である』






「カズマ-、あそぼー」

「こ、こら、アリシア」

 カズマが日誌を書いているとアリシアが部屋に突入してきた。目を覚まして以来、アリシアは何故かカズマに懐いている。『カズマさんは年下の女の子にはよく好かれますねえ』とはホリスの言、『精神年齢が近いからじゃない』とはアカネの言である。

「アリシアちゃん、お兄ちゃんの邪魔しちゃ駄目だよ」

「えー、だって、お母さん何か最近変でつまんないんだもん」

 後ろからついてきたミヒロが彼女を諌める。それに対し、頬を膨らますアリシア。
 アリシアが生き返った時には劇的に喜び、自分が死んでいたことをよく理解せず戸惑う彼女を号泣しながら抱きしめたプレシアだったが、それ以降どうにも様子がおかしいかった。ほとんどの時間部屋に閉じこもり、時にはアリシアを避けるような態度すら見せていた。

「確かに変だよな」

「うん。先の事が心配なのかな?」

 異世界に来てしまい、元の世界に戻る方法の無い彼女達は今はこの世界で生活するための基盤を整えている最中である。それに対し、ヴァルスト―クファミリーも完全後払いでの依頼ということで彼女の手伝いをしていた。

「うーん、まあ、確かにいきなり異世界になんて飛ばされれば不安だろうけど」

 ミヒロの推察は確かに納得できる話だ。だからと言って最愛の娘を避ける必要が無い。彼女には他に何か悩む理由がある気がする。そう考えるもののそれ以上のことを察することはカズマには出来なかった。






「どうして、私は、アリシアの事を見て、あの子のことを思い出すの……」

 アリシアがカズマの部屋を訪れていた頃、与えられた私室でプレシアは一人椅子に座り、俯いた状態になっていた。アリシアが生き返った時、それは今まで生きてきたどんな時よりも嬉しい瞬間だった。しかし、直ぐに彼女は怖くなったのだ。一つは自分のしてきたことを娘に知られた時、拒絶されるのではないかという恐怖。 そしてもう一つはアリシアの顔を見ているとフェイトの姿が思い浮かぶようになったこと。

「私は、アリシアを、大切な娘を、あの子なんかと同一視しているというの!? あのにんぎょ……」

 『あの人形』そう言おうとしてその先の言葉がでてこない。彼女はわかっていた、アリシアをフェイトと重ねることで抱く罪悪感はアリシアに対してのものだけではない。彼女が抱えているのはアリシアとフェイト、両方に対する罪悪感。今まで行ってきた非道な行いに対する罪の意識だということを。
 この世界に来る以前は感じなかったこれらの感情を感じるようになったのは、アリシアが生き返ったことで心の余裕が生まれたためのものかもしれない。あるいは肉体と共に精神の時間までもが若返ったのかもしれない。どちらにしても彼女は自分自身の感情を認めざるを得なかった。そして認めながらそれを受け止めることができないでいた。彼女は本質的には心の弱い人間であり、優しい人間でもある。故に正気を取り戻した彼女には自らの罪は受け止めるにはあまりに重すぎた。
 そしてそうであるが故に、何より追い求めていた筈の最愛の娘からさえ逃げてしまっていたのである。

「すいません、入ってもよろしいでしょうか?」

 悩み落ち込み、いっそ全てを捨てて、命を絶ってしまおうか。そう考えてしまう程に彼女が追い詰められたその瞬間、ドアをノックする音と声が聞こえた。それが、今の彼女にとって家主であるシホミ・アーディガンのものであることを理解したプレシアは肯定の意を返す。

「ええ、どうぞ」

「それでは、失礼します」

 挨拶をしながらシホミが入っている。一体何の用かと視線をやるプレシアに対し彼女はカードを2枚さしだした。

「知り合いに頼んであなたの戸籍を用意してもらいました。その他に口座データなど、生活に必要な最低限のデータもこのカードに入っています」

「ええ、ありがとう。けど、そんなことよくできたわね」

「政府筋に知り合いがいましたので。それに私達の星では少しですが異星人の人との交流もありますから、その際のルールを適用してもらいました」

 シホミの説明を聞いて納得すると形だけの感謝の意を伝えカードを受け取る。しかし、カードを渡してもシホミは何故か部屋を立ち去ろうとはしなかった。

「まだ他に何か?」

「差し出がましいことかもしれませんか。何か、お悩みのことがあるのではありませんか?」

「!!……別にそんなことはないわ」

 シホミの言葉に動揺しながら否定する。しかし、その態度は明らかに何かあると言っているようなものだった。そんなプレシアの態度にシホミは何時も浮かべている笑顔を少し変え、優しい声色で語りかけた。

「無理にとはいいません。けど、悩みは誰かに打ち明ければそれだけでも軽くなるものですよ。勿論、誰にも口外はしませんよ。トレイラーの誇りにかけて」

「……」

 彼女の言葉には強い慈愛と威厳のようなものが感じられた。それでも普通であれば、簡単には話したりはしなかっただろうが、既に追い詰められ、限界に達していたプレシアは半ば投げやりな気持ちで、もう半分は誰かに許されたい、そんな気持ちで己の罪の全てをぶちまけた。それは罪人が神父に告解するような心境だったのかもしれない。
 そして話の全てを聞いたシホミはこう告げた。

「私にはあなたのしたことを許すことはできません」

 その言葉を聞いた時、プレシアが抱いたのは怒りではなく、あるいは失望でもなく、ただ諦めの気持ちだった。自分はやはり罪人なのだと、裁かれるべき存在、幸せになることなど許されない存在なのだと。そんな想いが彼女を包む。しかしその続く言葉はそれを吹き飛ばし彼女に大きな衝撃を与えた。

「それができるのはあなたの娘さん、フェイトさんだけですから」

「!!」

「ですから、いつか元の世界に戻る方法を見つけて、フェイトさんに今のあなたの想いを伝えてあげてください。直ぐにでなくてもいい、勇気が持ててからでいいと思います。真っ直ぐに向き合ってあげてください。きっと、許してくれると思います。時にはすれ違ったり喧嘩しても、逃げずに向き合っていればいつかは分かりあえる。家族ってそういうものだって私は信じてますから」

「そう……ね」

 シホミの言うように許されるとしても、そうでないとしてもフェイトともう一度向き合って話し合う、それが自分の義務なのだとプレシアは思った。今はまだどちらの娘にも真実を告げる勇気が持てないけれど、いつかはすべてを話そう。彼女はそう心のなかで誓った。

「ありがとう」

「いえ、若輩の身で偉そうな事を言ってしまい申し訳ありませんでした」

 感謝の言葉を一言告げるプレシアにシホミはにっこり笑って頭を下げるのだった。



[18686] 3話
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/09 20:16
『宇宙暦101.3.10
一時期アリシアを避けていたように見えていたプレシアさんだが、最近はアリシアにべったりだ。
何故か、シホミ姉さんがいつも以上にニコニコしているように見える。
まあ、家族の仲がよいのはいいことだと思うので気にする必要はないだろう。
さて今日は、プレシアさんの職探しである。
元の世界で技術者をやっていたというプレシアさんの経験を生かすためにまずはジャンク屋ギルドを目指すこととする』






「わあー、すごーい」

 ジャンク屋ギルドの本部であるコロニ―で活動する作業用に改良されたMSを見てアリシアが目を輝かせる。そしてその隣ではプレシアが目を丸くしている。

「話には聞いていたけど凄いわね。このサイズの人型の機械を造って動かすなんて」

 プレシアが元居た世界で、魔法を使わない人型の機械と言えば人間をベースにしたサイボーグと言える戦闘機人が唯一のものだ。それに対して、この世界では全長20メートル近いMSやASが大量につくられている。それどころか一部には100メートルを超える巨大ロボットが実用化されていると知った時には彼女は心底驚いたものである。

「そういや言ってなかったけど、俺のヴァルホークだって、人型に変形するんだぜ」

「変形!? 本当に凄いわね。魔法を使わず、そんな技術を生み出すなんて」

 カズマの言葉に再度驚くプレシア。その時、頭にバンダナを巻いた男が近寄ってくる。そしてその男はカズマに親しげに話しかけてくる。

「ようカズマ久しぶりだな」

「ロウ、火星行きの準備で忙しいところ悪いな」

「いや、気にすんな。俺も異世界の技術者さんには興味があるからな。この人がそうか?」

 ロウが視線をプレシアに向ける。それに気付いたプレシアは手を差し出すと握手を求めた。

「ええ。プレシア・テスタロッサです。今日はよろしくお願いします」

「ロウ・ギュールだ。よろしくな」

 プレシアの手を握り返し、挨拶を返す。そしてお互いに自己紹介を終えた二人は早速とばかりに自分対の世界の技術について話し始める。

「私達の居た世界では魔法と科学を組み合わせた技術を使っているの」

「なるほど。けど、魔法を使っていても、基本となるとこは結構変わらない部分もあるみたいだな」

「ええ、そうね。元々は魔法と科学はある程度平行して進歩していて、それが次第に融合していった形だから。それにしてもこの世界の技術は本当に凄いわ。純粋な科学力ならば私達の世界を凌駕している」

 その間、他のメンバーは話について行けず、完全に置いてけぼりであった。特にアリシアは母親の話している内容がまったく理解できず、退屈そうにしている。それを見たロウの仲間であるキサトが彼女に声をかける。

「お母さんが話終わるまであっちでジュースでも飲もうか? 確かゲームとかもあったと思うし」

「えっ、ほんと、行く!!」

「あっ、あたしもそっち行こうかな」

 キサトの言葉に喜ぶアリシア。そして同じように退屈していたアカネも賛同の意を示す。それを見て許可を得るためにホリスがプレシアに話しかける。

「ふむ、そうですね。プレシアさん、そう言う訳ですので、我々はあちらの建物の中で待っていたいと思うのですがいいでしょうか?」

「えっ、ああ、そうね。お願いします」

 プレシアの承諾が得られたことでロウとプレシア二人を残した他のメンバーは建物中へと移動する。そして建物のドアをあけるとそこには灰色のネズミが立っていた。

「ふも」

「ボン太くん!?」

「うわあ。かわいい」

 その姿を見て驚愕するカズマと先程MSを見た時以上に目を輝かせるアリシア。それを見てキサトが説明に入る。

「ああ、これ、中身リーアムだよ」

「なかみ?」

 キサトの言葉に不思議そうな顔をするアリシア。その言葉を聞いてその場の年長組ははっとして声を合わせる。

「「「「中の人などいない!!!!」」」」

 その言葉に更に不思議そうな顔をするアリシア。ごまかすためにボン太君が奇妙な踊りを始める。

「ふもっふもっ」

「かわいい!!!!!」

 それを見てボン太君に抱きつくアリシア。それをちょっと羨ましそうに見るミヒロとほっと胸をなでおろす年長組。そしてカズマはアリシアに聞こえないようキサトの耳元に口を寄せると尋ねる。

「なんで、リーアムがボン太君に入ってるんだよ」

「いや、あれ、今ジャンク屋の中で流行ってるのよ。結構安いのに下手なASより強いから自衛手段にもなるし、水中でも宇宙空間でも活動できるし、小型だから狭いとこで動けるし。それにあの手の形なのに不思議なことに細かい作業もできるの。あれ着た状態で、米粒に字を書いた人、私知ってるよ」

「ま、まじかよ!? しかし、そんだけ高性能ならデザイン変えて売り出せば……」

「それがね。試した企業が居るらしいんだけど、デザインを変えたら何故か性能が6割ダウンしたらしいのよね」

 色々な意味で内容に突っ込みどころのありすぎるヒソヒソ話を交わすカズマとキサトの横でボン太君と戯れるアリシア。その後、ゲームをしたりジュースやお茶を飲んだりして、時間を潰していると2時間程がたち、ロウとプレシアが戻ってくる。

「いや、なかなか楽しかったぜ」

「ええっ、勉強になったわ」

 二人とも思いっきり話し、満足した表情だった。そして丁度ゲームに飽きていたころだったアリシアがプレシアの姿を確認し、抱きつく。

「ママ―」

「あら、待たせちゃってごめんなさいね。ロウ、今日は本当にありがとう。あなたからもらった参考書役立たせてもらうわ」

「こっちもな。火星行きの間に暇潰せるものができたぜ。返ってきたら何か一緒に造ろうぜ」

「ええっ。楽しみにしてるわ」

 勉強用にお互いの世界の基本的な技術資料を交換したことをお互いに礼をいい別れと再会の約束を交わす二人。アリシアはボン太君(をきたリーアム)と別れるのが残念そうだったが、大人しくプレシアの言うことを聞き、ヴァルストークへと帰還する。

「どうしでした? ジャンク屋は。やってみたいと思いました?」

「ええ、こちらの知識も色々と勉強できそうだし、楽しそうだし。中々いいかもしれないわ。ただ、できればもう少し色々とこの世界の仕事を見て周りたいのだけれど」

「構わないぜ。仕事は誇りを持ってやらなくちゃいけないからな。じっくり考えて選べばいいさ」

 ミヒロの問いかけにプレシアは少し申し訳なさそうに言う。プレシアの職探しは、一応仕事、後で報酬を支払うとはいえ、今は完全居候状態であるのだから、そう感じるのは当然のことであろう。しかし、カズマはきにしなくていいと彼女を後押しする。

「うん。気にしなくていいよ。けど、そろそろ財政がやばいから別の仕事を挟まなくちゃいけないかな」

「それだったら私にも手伝わせてもらえるかしら。できることなら出来る限り頑張らせていただくわ」

「私もがんばるー」

 アカネもカズマの言葉に同意する。プレシアとアリシアはそれに感謝し、仕事の協力を申し出る。

「ああ、頼りにしてるよ。それじゃあ、ヴァルストークに戻ろうか」

 こうして彼らはジャンク屋ギルドをあとにし、プレシアの職探しの旅が始まるのだった。



[18686] 4話前半
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/09 17:54
『宇宙暦101.3.20
本日は久々に大きな仕事が入った。
依頼内容は護衛、依頼主はなんとフレイである。
彼女は今、ノイ・ヴェルターでの経験を生かし、コーディネーターとナチュラルが上手く共存していけるよう父親の後をついで政治家や事務次官を目指しているそうだ。
しかし、そんな彼女のことを疎ましく思っている者がいるらしい。
そこで信頼を置ける俺達にプラントまでの護衛を頼みたいと言う依頼が来た訳である』






「久しぶりだなフレイ」

「うん、カズマも久しぶりね」

 フレイとカズマ、大西洋連邦の宇宙空港で二人は久しぶりの再会を喜び合う。側に立ったプレシアはそれを微笑ましそうな表情で見てカズマにからかいの言葉を投げかけた。

「あら、仲がいいわね。もしかしてカズマのいい子なのかしら?」

「ははっ、だったら嬉しいんだけどな。残念だけどフレイは婚約者がいるよ」

「あら、それはごめんなさい」

 プレシアの言葉に苦笑いして答えるカズマ。そのやり取りを見てフレイは不思議そうな視線を彼女に向けた。

「ねえカズマ、その人は?」

「ああ、この人はプレシア・テスタロッサ。まあ、うちの臨時従業員ってとこかな。今回の依頼では一緒にフレアの護衛を務めてもらうよ」

「へえ、臨時従業員なんて以外と繁盛してるのね。あっ、フレイ・アルスターです。よろしくお願いします」

「ええ。プレシア・テスタロッサよ。あなたの安全しっかりと守らせていただくわ」

 カズマの説明に驚いた顔をした後、プレシアに向かって挨拶をし、プレシアもそれに返す。そして3人はヴァルストークへと向かいながらフレイの現在の事情と依頼内容についての話をすることにした。

「ところでフレイ。命を狙われてるってのは本当なのかよ」

「ええ、何度か危ない目にあってるわ。だから優秀な護衛の人を雇って、屋敷に居る時はその人に守ってもらっているの。名前はカイトって言う人」

「うぐっ、もしかしてそれ皮肉か?」

「えっ、なんで?」

 フレイの口からでてきた名前に詰まるカズマとそんな彼の言葉に不思議そうな顔をするフレイ。偶然の一致であるが、カイトという名前はカズマが一時期失踪し、更に邪気眼を発症していた時に名乗っていた偽名と同じなのであった。故にその名前をだされることはカズマにとって古傷をえぐられるに等しいのである。

「けど、そんな人がいるのなら、今回の件でもその人について来てもらった方がよかったのではなくて?」

 その辺の事情を知らないのでフレイと同じように不思議そうな顔をしながら、疑問に思ったことを尋ねるプレシア。常についている護衛が居るのなら、今回だけそれを外すというのは不自然である。それに対し、フレイは頷き答えた。

「うん。けど、何時までも守ってばかりじゃきりが無いでしょう? だから、カイトには私の命を狙っている黒幕を見つけ出してもらうようお願いしたの。それでカイトがその仕事をしておいてくれる間に私はプラントを見て、そこでコーディネーターの人達の暮らしぶりを見ておきたい。将来のためにね」

「なるほど、それでその間の護衛を俺達が務めるってことだな」

「ええ。カズマには行き帰りとプラントの滞在中の護衛をお願いするわ。期間は1ヶ月位になっちゃうけどその分の報酬はちゃんと払うから」

 フレイの話に納得するカズマとプレシア。そして3人はヴァルストークに乗り込み、地球を出発するのだった。






地球を出発してから3日、その間ヴァルストーク内は平和だった。フレイはヴァルストークファミリーと旧交を温め、新しく知り合ったプレシア、アリシアとも仲良くなった。 
しかし、プラントまで後1日となった時、懸念していた事件は起きたのである。

「まさか、警告も無しにいきなり襲撃してくるとわな。ミヒロ、ヴァルスト―クで出るぞ」

「うん!!」

 航行中のヴァルストークに2隻の戦艦が接近し、そしてその戦艦は通信を入れることも無く、いきなり砲撃をしてきたのだ。迎撃するためミヒロを連れ、ヴァルスト―クに向かう。

「カズマ!!」

 そこでカズマを呼びとめる者がいた。フレイであるその表情には心配が浮かんでいた。そんな彼女にカズマは自信を持った表情で宣言した。

「大丈夫だ。必ず俺が守ってやる。あんな奴等俺の相手じゃねえぜ!」

「うん、信じてる。だから、あなたも気をつけてね」

「おう!」

 そしてヴァルストークが出撃する。それを見てか、戦艦からも4隻のメビウスと2機のストライクダガ―が飛び出してくる。1対6、戦艦を入れれば2対8。普通に考えれば多勢に無勢だがカズマにもヴァルストークファミリーにもまるで気負いはなかった。ヴェルター、ノイ・ヴェルター時代にはもっと絶望的な状況を何度も経験しているし、それ以前にもこの程度の苦境など彼らは幾度も乗り越えてきている。今更怯む必要などどこにもなかった。

「しかし、まさか、ここまで派手なことやってくるとはな」

 思わず呟くカズマ。フレイの命を狙っているとは聞いていたが、予想以上に大胆な襲撃に驚きを隠せない。しかしそれはそれだけフレイが大きな影響力を持つ存在になる可能性があるということである。

(フレイは命の大切さをわかっている人間だ。こんなところで死なせる訳にはいかない)

 彼女が政治家になれば、きっと世の中はよくなると思える。フレイは友人で更に今回は依頼人。それだけで守る理由は十分以上だし、万一にも彼女を死なせる理由はなかったが、これでますます負けられなくなった。カズマはそう改めて決意し、ヴァルスト―クを変形させた。






「凄いわね」

「すごーい。カズマかっこいい!!」

 艦内でカズマの戦いぶりを観戦しながら、プレシアは感嘆の声を漏らし、アリシアは歓声を上げていた。映像資料でこの世界の機動兵器の性能の高さは知っていたプレシアは、それ故にカズマの技量の高さを理解することができた。嘗ては自身を二流と評した彼であったが、仲間達と共に激戦を乗り越えた今では間違いなく一流の技量をもっており、そこにミヒロのフォローが加わることで超一流となる。6体もの敵をあっという間に残り2体にまで減らしてしまっていた。
しかし、そこで予期せぬ事態が起きる。突然、警戒しないところからの攻撃を受け、艦が大きく揺れたのだ。

「ホリス!」

「どうやら、敵はミラージュ・コロイドを用いてきたようですね」

 ミラージュ・コロイド、特殊なコロイド状の粒子で表面に纏うことによって、可視を含めたほぼ全てに対し、完璧に近い隠密を可能とする粒子である。静止状態でなければ粒子の乱れなどによって探知することも可能な代物だが、それでも見つけにくいことに変わりはなく、今回のように奇襲に使用されると非常に厄介な代物だ。

「まずい。艦内に侵入されたわ!!」

 シホミが彼女にしては珍しく大きな声をあげる。ミラージュ・コロイドを装備したメビウスから量産型のソルテッカマンが射出され、壁を破壊し艦内に侵入してきたのだ。

「どうやら、私の出番みたいね」

「そうですね。よろしくお願いします」

 その報告を聞いてプレシアが立ちあがり、ホリスが頭を下げる。しかし、そのやり取りを見てフレイが声をあげた。

「ちょっと待って。ソルテッカマン相手にどうしようって言うの!?」

 ソルテッカマンはとても生身で相手にできるようなものではない。機動兵器で迎え撃つか、エヴォリューダー凱やサイボーグのルネ達のような存在でなければ太刀打ちすることは不可能である。つまりは艦に潜入されてしまった時点で通常は負けがほぼ決まってしまうのだ。

「ふむ、ではどうしますか?」

「わ、私一人が犠牲になるわ。この艦まで巻き込む必要はないもの」

 問いかけるホリスにフレイは真っ直ぐに見てそう答えた。それを見てホリスは感心する。

「(ふむ、立派になりましたね。残念です。彼女がカズマさんとくっついてくれれば次世代のヴァルストークファミリーも安泰だったのですが)確かに現状ではそれが最善と言えるでしょう。しかし、私達はトレイラーの誇りに掛けてそのようなことはいたしません。それに最善と言えるのは普通の場合であり、運がいいことに今、我々は普通の状態ではありませんので」

 胸の内とは全然違う事を呟きながら答えるホリス。そしてプレシアの方に向き、改めて確認する。

「自信の方はいかがですか?」

「ええ、世界を救ったっていうカズマや彼の仲間だったって人達が相手ならともかく、こそこそ動いて女の子を狙ってくるような卑怯者相手なら相手がちょっと優秀な兵器に乗っているからって負ける気はないわよ」

「それは結構です。それでは、よろしくお願いします」

 ホリスの言葉に二コリと笑って答えるプレシア。異世界の大魔導師、プレシア・テスタロッサのこの世界での初めての戦いの幕開けだった。



[18686] 4話後半
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/10 23:41
「くそ!!」

「お兄ちゃん、このままじゃあ!!」

 ヴァルストークに敵が侵入したことに気付いたカズマとミヒロは焦りの声を上げる。早く敵を片づけて戻ろうとするが、焦りが腕を鈍らせ僅か2機の敵を仕留めきれないでいた。その時、ヴァルストークから通信が入る。

『カズマさん』

「ホリス、艦内は!?」

 叫ぶカズマ。その様子にホリスが小さくため息をつく。そして不敵な笑みを浮かべて言った。

『まだまだですねえ。まあ焦っていても敵の攻撃を喰らっていないのは成長が見られますが。お忘れですか? 今、この艦には彼女がいるのですよ』

「あっ」

 そこでカズマは思い出す。ヴァルストークファミリーのメンバーはプレシアから魔法でどんなことができるか聞かされ、一度は実際に使っているところを見せてもらったことがある。その力は凄まじく流石の彼らも驚愕させられるものだった。

「だ、だけど、幾らなんでもソルテッカマンが相手じゃ」

 しかし、それでもカズマは不安が消すことはできなかった。繰り返すが、ソルテッカマンは生身の人間にとってはあまりに強すぎる強敵なのである。それは共闘も敵対も何度も行ったカズマだからこそよく理解している。それに対し、ホリスはカズマを真っ直ぐに見て問いかけた。

『プレシアさんは大丈夫だと言いました。カズマさんは信用できませんか、彼女が?』

「……いや、トレイラ―心得【人事を尽くして仲間を信じろ!!】だ」

 迷いを消し去ったその言葉にホリスは満足そうに頷く。そこでアカネが彼の前に立つ。そしてカズマに向かって叱咤した。

『それじゃあカズマ、あんたは何をすればいいかわかってるね!?』

「ああ、目の前の奴等は全部俺がやっつけてやる!!

 カズマはその叱咤に答え、敵機へと向かうのだった。






「んっ、なんだ?」

 ヴァルストークに乗り込んだソルテッカマン。その前に一人の人間の姿が映る。銃を持つでもなく、代わりに変な杖のようなものを持って通路に立つ姿に疑念を持つが、どの道、艦の乗員は皆殺しにするつもりであったその男は彼女にフェルミオン砲を向けようとした。

「その銃は流石に防げる気がしないから、その前に決めさせてもらうわ」

 女が呟くと共に彼女の目の前に魔法陣が浮かびあがる。その奇妙な光景に動揺し、男の動きが一瞬止まる。

[サンダースマッシャー(Thunder Smasher)]

「ぐわああああ!!!」

そしてその魔法陣に向かって、女が杖を向けた瞬間、凄まじい雷撃が発射されソルテッカマンに直撃する。その衝撃に銃を投げ出してしまい、苦悶の声をあげ倒れるソルテッカマン。しかし女がそのまま様子を伺っているとよろよろと立ちあがり、再び戦闘体勢をとる。

「今の直撃を受けて立ちあがるなんて随分と頑丈ね」

 それを見た女は驚きと呆れの混じった声を漏らし、再び魔法陣を展開する。それに対し、妨害しようと急加速飛びだしたソルテッカマンの拳が女の体を貫いた。

「!?」

 だがソルテッカマンの拳貫いた瞬間、女の姿が描き消える。その光景に目を見開き、首を振って周囲を見るがどこにも女の姿は見えない。
女が使ったのは二つの幻術魔法、[オプティックハイド(Optic Hide)] [フェイク・シルエット(Fake Silhouette)]姿を隠す魔法と幻影を映す魔法を同時に使用をしたのだ。
 そしてソルテッカマンの真後ろに回った女は必殺の魔法を放つ。

「喰らいなさい。これを!!」

[プラズマランサー(Plasma Lancer)]

 連続して放たれた10発の雷撃、それらの攻撃は全てソルテッカマンに直撃し、今度こそ打ち倒す。
 そして女が、プレシアがそれを成し遂げるのとほぼ同じタイミングでカズマが
全て戦艦と機動兵器を沈黙させるのだった。






「今回は本当にどうもありがとう、カズマ、プレシアさん」

「いや、気にするなって。それよりもいいのか、報酬こんなにもらっちまって」

「うん、気にしないで」

その後の航海は順調だった。プラントに辿りつくと同時にカイトからフレイを狙った襲撃者達の黒幕を捕えたと連絡が入り、全ての問題は解決した。フレイが危険にさらされることが無くなったことでこれ以上、護衛を続ける必要もなくなり、1ヶ月の予定だった契約は打ち切り、しかし報酬はそのまま当初の予定通りのものが支払われ、更に経費として艦の修理費を受け取ることもできた。
流石にそれは申し訳ないと遠慮したが、修理費については後で賠償金として襲撃犯達からせしめると笑って語る当たり、フレイが政治家として順調に成長して行っていることが伺える。
なにはともあれ、十分以上の黒字を得たことでヴァルストークファミリーは38回目の倒産の危機を脱出したのであった。

「それじゃあ、また会いましょうね」

 そうして、フレイと別れる。カズマは友人を守り切れたことと大量の報酬でホクホク顔。しかし、この結果がプレシアのおかげであることは勿論皆、理解していた。

「し今回はプレシアさん大殊勲でしたね」

「そうね。ボーナスを支払わなければいけないかしら」

 ヴァルストークファミリーのメンバー全員が皆、彼女を褒めたたえる。あまりに褒められ照れて顔を赤くするプレシア。

「気にしないで。あなた達がいなければ今頃私達は死んでいた可能性の方が高いんでもの。その恩を返させてもらっただけよ。それから、まだ、しばらくは御厄介になるしね」

「ママー。顔、真っ赤」

「こ、こら、アリシア!!」

 冷静に振る舞ってみせるが、そこを娘に突っ込まれますます赤くなる。それを見て、皆、一同に笑うのだった。


(後書き)
プレシア初バトルです。どうだったでしょうか?ちなみにプレシアさんの魔導師ランクはSS-という設定です。ソルテッカマンの性能は装着者次第で(あと量産型かどうかで)AA~AAAの魔導師に匹敵位で考えて書きました。



[18686] 5話前半
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/12 05:27
『宇宙暦101.4.5
 今日、地球に向かうことになった。
久しぶりに甲児達に会えるのが楽しみだ。
とはいえ、遊んでばかりもいられない。
目的はあくまで、プレシアさんの職探しである。
後は、前回大活躍のプレシアさんへのボーナスの意味合いも含まれている。
初日はネルガルに訪れるが、その後しばらく滞在し休暇を取る予定だ。
アリシアもたまには外で遊びたいだろうから、娯楽施設の多い地球は二人にとっては嬉しい贈り物になるだろう』






「ここが、地球。不思議ね、違う世界で同じ名前の世界があって、それでいて似てるなんて」

「プレシアさんの元居た世界にも地球って星があったの?」

 地球に降り立ったプレシアの呟きにアカネが問いかける。彼女は頷いて答えた。

「ええ、私達の居た世界では宇宙への進出があまり進んでいなかった代わりに平行世界間への移動技術が進んでいたの。そしてその中に地球という星があったわ。けど、私達の世界では自力で平行世界への移動技術を掴んだ世界か、魔法技術のある世界には原則介入をしなかったからその星の人達は一部を除いて私達のことを知らなかったと思うけど」

「えーと、すいません。もう少しわかりやすく」

「あら、ごめんなさい」

 次元世界の構造についてその背景を知らないアカネはプレシアの説明に混乱する。そこで、プレシアはもう一度わかりやすく、詳しく次元世界の説明をした。

~~~~~プレシア説明中~~~~~~

「これでわかったかしら?」

「ええと、なんとなく。あれ? けどそうすると異世界への移動する魔法があるんですよね? それを使って元の世界へ帰れるんじゃあないですか?」

「そうなんだけど、何故か上手くいかないの。もしかしたら、この世界と私達が次元世界と呼んでいたものは根本的に別物なのかもしれないわね」

 アカネの質問に困ったような表情をしてプレシアが答える。実際の所、彼女にも原因はさっぱりとわからなかったが、この世界に来て以降、元の世界に帰る事はおろか、別の次元世界に移動すること自体が不可能になっていたのである。

「きっと何時か帰れる方法が見つかりますよ」

「ええ、そうね。私は何としてでも帰らないとね」

 シホミの言葉にプレシアは頷く。彼女にはフェイトに謝るという目的があり、その為に何としてでも元の世界に帰る方法を見つけなければならなかった。そして、そう考える彼女にとって衝撃的な発言をシホミが口にする。

「もしかしたら、今日、訪れるところでその手掛かりがみつかるかもしれませんしね」

「えっ?」

「姉さん、もしかして、ボソンジャンプを使うつもりなのか?」

 カズマの予測に頷く。ボソンジャンプはそれは空間跳躍は愚か時間跳躍すらも可能とする技術である。その技術ならば、異世界に飛べる可能性も存在するのではないかと思えた。

「ええ。この世界にある技術のなかでは可能性の高いものの一つだと思います。ただ、現在では研究・利用に制限がかけられている技術ですので出来ることは過去の研究結果の中からヒントを探す程度だと思いますが」

ボソンジャンプは軍事利用された場合非常に危険な技術だ。更に時を超えることも可能とする性質から場合によっては世界そのものを崩壊させる危険性すらある。また、古代火星にあった文明によって生み出された技術であるため、未知の部分が多くあり、研究のためとして悲惨な人体実験も過去に行われている。カズマ達の嘗ての仲間であるテンカワ・アキトもその被害者の一人だ。そのため、現在では木星のザ・パワーと同じく人類にはあまる力としてその研究や利用には大幅な制限がかけられていた。シホミはその辺も含めてボソンジャンプについてプレシアに説明する

「そういうことなら過剰な期待はしないでおくわね。確かに私は元の世界に戻らければならないけど、無理をして罪を重ねる訳にはいかないものね(少しでも胸を張ってあの子に会えるようにね)」

(重ねる?)

 説明を聞いたプレシアは興奮しかけた気持ちを抑えると、最後の言葉を口には出さず心の中でだけ付け加えて答えた。その発言にカズマはほんの少し疑問を感じるが言い間違いか何かだろうと思い気にしないことにし、代わりにひとつ提案する

「なんだったら、いっそこのままこの世界にずっと住むのもいいんじゃないか?」

「あっ、いいかも。この世界だって悪くないと思いますよ」

「えっ?」

 カズマの提案に賛同するミヒロと今まで考えたこともなかった提案に不意をつかれ驚くプレシア。そして少し考え笑顔を浮かべて答えた。

「そうね。それもいいかもね。けど、まだ元の世界にやり残してきたことがあるの。だから、それをするために一度は元の世界に帰らないといけないわ。何としてもね」

「ママ、やり残してきた事って何?」 

「それは内緒よ」

アリシアの問いかけをプレシアははぐらかす。フェイトのことを知るのはヴァルストークファミリーの中でもシホミだけである。彼女以外にはアリシアにも他の誰にもまだ教えていなかった。

「んー、そう言われると余計に気になるな」

「駄目よ。カズマちゃん、女の秘密を無理に探るようじゃ、いい男には慣れないわよ」

秘密を探ろうとするカズマはたしなめるシホミ。そんな彼らに対し、プレシアは真っ直ぐに見て言うのであった。

「いつか教えるわ。アリシアにも貴方達にもね」






 色々と話した後、ネルガルを訪れる約束の時間にはまだ時間があるとして、カズマ達はアキト達の働く雪谷食堂を訪れていた。

「いらっしゃーい。あっ、カズマ君!? うわあ、久しぶりだね」

「お久しぶりです。ユリカさん」

 雪谷食堂のドアを開けるとそこにはミスマル・ユリカ、いやテンカワ・ユリカの姿があった。嘗ての仲間であるカズマ達の姿を見て喜びの声をあげる。

「元気そうだね。アキトさんの調子はどう?」

「うん、大分よくなったみたい。最近はラーメン以外でも厨房に入ってつくってるんだよ」

 アキトの様態を確認するアカネに嬉しそうに答えるユリカ。アキトは人体実験により、五感、特に味覚を喪失していたが、その後の治療とリハビリによって回復の兆しが見えつつあったのである。

「いらっしゃいませ」

 そこでユリカと別の声が聞こえる。棒読みの口調であったが、どことなく可愛らしさを感じさせる声。声のした方を見るとそこには桃色の髪と金色の目をした特徴的な少女の姿があった。

「おっ、ラピスも店の手伝いをしてるのか」

「うん」

 ラピス・ラズリ、いや、テンカワ・ラピス・ラズリ。IFS強化体質として、コンピュータに特別強くなるよう遺伝子調整され生まれた少女。アキトが研究所から助け出し、その後彼と共に戦い続けた少女は、戦後の今、アキトとユリカの養子となり、一緒に店の手伝いをしていた。そしてカズマ達の声に気付き、店の奥からアキトが中からでてくる。しかし、その瞬間店に悲鳴があがった。

「きゃああ!!」

 悲鳴の正体、それはアリシアであった。プレシアが彼女を守るように前に立ち、杖を構えるとアキトを睨みつける。

「えっ、えっ?」

 その状況に慌てるユリカ。カズマやミヒロもどうして二人がそんな態度を取ったのかわからず戸惑う。そしてその原因を察するシホミ。アリシアの前に座り、優しく話しかける。

「アリシアちゃん。あのお兄ちゃんは怖くないのよ。あの変な仮面みたいなのは眼鏡みたいなものなの。あれが無いとお兄ちゃんはよく目が見えないからかけてるだけなのよ」

「……ほんと?」

「ええ、ほんとよ」

 涙目になっていたアリシアはシホミの説明を聞いておずおずと前にでる。そしてアキトがバイザーをかけた姿を見て“変質者”と思ってしまったプレシアもその説明に申し訳なさそうな顔をする。

「これ、そんなに変か……。俺は……そんなに怖いのか」

 そして店の隅には何気にへこむアキトの姿があった。


(後書き)
次元世界については実際のところ、どういった感じなのか原作でも語られていないので適当にごまかしてしまいました。何か、設定もころころ変わってますし。無印の頃は地球は10番目の平行世界みたいな説明だったのに、STSでは97管理外世界ってなってますし。管理世界+管理外世界の数だけ平行世界が確認されていて宇宙進出はまったく進んでいないのか、実際は一つの宇宙で虚数空間を通って移動しているだけなのか、確認されている平行世界がいくつかあって、一つの平行世界につき数~数十の次元世界があるのか、実際のところどうなっているんでしょうねえ?



[18686] 5話中編
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/15 12:28
「あら、おいしい」

「ママ、これおいしいよ」

 プレシアとアリシア、落ち込みから復帰したアキトが作った料理を食べた二人の口から称賛が飛び出す。正直なところアリシアはともかくとしてプレシアの方は店構えから見てあまり料理には期待していなかったのだが、実際に食べた料理の予想外なおいしさに驚きを感じていた。

「ああ、ラピスが味見してくれるからな。どうもあの子は味覚がかなり優れているらしい」

「少し前まではおいしいとかまずいとか自体あんまりわからなかったみたいなんだけどね。だから、私とアキトで色んな所にご飯食べに連れていって教えてあげたの」

 アキトとユリカがまるで我が子を自慢するかのように楽しそうに話す。それを見て同じ母親として共感する気持ちを覚えた。同時にフェイトのことを思い出し申し訳無さを感じる。

(あの子は、私のためにあんなに頑張って。けど、私は一度もあの子のことを褒めてあげなかった……)

 けれど、以前のように罪悪感に押しつぶされたりはしない。後悔に落ちこむ位なら、少しでもその過ちを取り返すための行動をすべきだと今の彼女は理解していた。

「ういっす。アキトさんいるかい?」

 その時だった。声と共に店の中に別の客が入っている。その聞き覚えのある声に姿を見たカズマが声を上げた。

「甲児!」

「んっ、カズマか!? こんなところで会うなんて偶然だな!!」

 店に入ってきたのは始業式帰りに立ち寄った、甲児、さやか、ボス、ムチャ、ヌケ、ゲッターチーム、そしてかなめの9人の陣代高校メンバーであった。久しぶりの再会を懐かしむカズマ達。しかし、そこで居るべき筈のものが一人欠けていることに気付く。

「あれ、宗介の奴は一緒じゃないのか?」

 護衛としていつもかなめの隣に居る宗介の姿が無い事にカズマが疑問を発する。それに対し、かなめは呆れたような表情を浮かべて応えた。

「それがねえ。あいつ、今裁判中なのよ」

「裁判って。とうとう逮捕されちまったのかよ!?」

 ボスの言葉にカズマが叫ぶ。宗介は危険地帯でばかり暮らしてきたため、戦争ボケをしている人間である。日常の中で過剰な防衛反応を示してしまい、只のナンパ男をかなめの命を狙う暗殺者と疑い銃を向けたりするなど過去にも色々と問題行動を起こしているのだ。故にカズマは裁判と聞いて、それらの行動が遂に問題にされ逮捕されてしまったのだと思ったのだ。

「いや、多分、カズマが想像している理由とは違うぜ。別に重火器を振り回して捕まったりした訳じゃない」

「ボン太君。宗介が作ったパワードスーツのこと覚えているか?」

 しかし彼の想像を弁慶が否定する。そして隼人の口からでてきたボン太君の名前に脳裏にハテナマークが浮かぶ。

「ああ、勿論。何か最近、ジャンク屋の間で流行ってるらしいな」

「ええ、それが問題になっちゃったのよ」

 カズマの言葉にかなめが相槌をうつ。しかし何が問題なのか彼にもミヒロ達にもさっぱりわからない。そこで甲児と弁慶が補足の説明を付け加えた。

「実はな。ボン太君というのは元々遊園地のマスコットキャラクター何だが……」

「宗介の奴使用許可をとっていなかったらしい」

「それって、もしかして……」

 そこまで聞いてピンと来たアカネが口を開く。甲児達は皆、一同に頷いて答えた。

「あいつ、著作物の無断盗用で捕まっちまったんだよ」

「まじかよ!?」

 笑っていいのか、心配すべきか困る結論にカズマは思わず声を上げた。ミヒロ達も声こそあげないが、彼と同じような複雑な表情を浮かべる。

「まあ、ミスリルが優秀な弁護士をつけてくれたみたいだから大丈夫でしょう」

「あれの量産にはミスリルのダミー会社が関わっているらしい。他人事じゃないから真剣に対応してくれる筈だ。心配はないだろう」

 そんな彼らをフォローするようにかなめと隼人が状況を説明する。それを聞いてカズマ達は安堵した。

 「そっか。じゃあ、まあ、大丈夫か。まっ、揉め事がそんくらいなら平和なもんだよな」

 安心したことで笑い話にできると軽口を飛ばすカズマ。しかし、陣代校メンバーが抱える問題は宗介のことばかりではなかったのである。カズマの言葉に甲児が少し深刻な表情になる。

「あー、そうでもねえんだよ。あのミケーネの奴等がまた性懲りも無く攻めてきやがったんだ。しかも、今度は“闇の帝王”とかいう真の親玉まででてきやがってな」

「奴は恐ろしい強さだった。真ゲッターとマジンカイザー、それにジェネシックガオガイガ-の3体で戦い、何とか追い返したものの俺達の機体も大破してしまったんだ」

「まじかよ!?」

 甲児と竜馬の話にカズマ達は目を開いた。真ゲッター、マジンカイザー、ジェネシックガオガイガ-、この3機は強豪ぞろいのノイ・ヴェルターのなかでもトップクラスに位置する強さを持っている。その3機が3体がかりで実質的な相打ち状態。闇の帝王が如何に化け物じみた強さをしていたかがわかる話だった。

「しかも敵はそれだけじゃないんだ。ミケーネは一旦引いたが、入れ替わるように百鬼帝国って奴らが攻めてきて、戦えない俺達の代わりに鉄矢さんとアキトさんが頑張ってくれたんだが。その戦いで真グレートとブラックサレナまで大破しちまった」

 そして更なる脅威について弁慶が語る。知らない間におとずれていた脅威にカズマ達は驚きを隠せない。

「おいおい、そんな状態で宗介までいないなんて目茶苦茶やばいじゃねえか。だったら、戦えるのはGGGのメンバーしかいないってことかよ!?」

「いや、今はマジンガーZとプロトグレートマジンガー、それに修復したゲッターロボGにガオファイガーが居る。それにボスやさやかさん達も居るからな。今の所は問題ないさ」

 心配するカズマに竜馬が自信に満ちた表情で答える。それを見てほっと息をつく。

「そうか、まっ、本気でやばくなったら何時でも声かけてくれよ」

「ああ、その時は頼りにしてるぜ」

 そう言葉をかわす。そしてそこでそれまで黙って話を聞いていたプレシアが口を開いた。

「話に区切りがついたみたいだから、自己紹介させてもらってもいいかしら?」

「あっ、わりい、プレシアさん。えっと、この人達は今、内の客兼臨時の従業員でプレシアさんとアリシア。聞いて驚けよ、なんとこの二人異世界から来たんだぜ」

 懐かしいメンバーだけで話してしまい、すっかりプレシアやアリシアを放置してしまったことに気付いたカズマが二人を紹介する。それに対し、異世界から来たという話を聞いた甲児達の反応は実に平然としたものだった。

「へぇ、ほんとかよ」

「そいつは凄いな」

 その反応にカズマは拍子抜けする。とは言え、色々と非常識な経験をしてきて、非常識な知り合いも多いノイ・ヴェルターからすれば異世界からの住人などちょっと珍しい程度のことでしかなかったのだから仕方ない。

「おまえらなあ。もっと驚けよ」

「まあ、あたし達も話を聞いた時、似たようなもんだったしね」

「あなた達って本当になんていうか、今まで凄い経験してきたのねえ」

 嘆くカズマに笑うアカネと呆れるプレシア。次元世界という異世界の存在が当たり前の環境で暮らしてきたプレシアから見ても彼らの平然と受け止める様は呆れるしかないものだった。
そしてその後、アリシアは年上の女の子組みに相手をしてもらい、仲良くなり、プレシアも母親同士ユリカと子育てについて会話し、カズマは戦友達と近況について話し合った。
 そうこうしている間に時間はあっという間に過ぎ、約束時間が近づいたため、別れを告げ、一行は店を出て、ネルガルへと向かうのだった。


(後書き)
せっかくのスパロボなのでやはり“共闘”を書きたいと思って幾つか敵勢力を出してみました。

おまけ
(ボン太君についての勝手に作った設定資料)

ボン太君スーツ お値段:プライスレス
宗介が作ったオリジナル。大地を走り、海を泳ぎ、深海、宇宙空間、マグマの中、あらゆる環境下で行動でき、その戦闘力はM9並のスーパースーツ

量産型ボン太君 お値段:3000万円
スタンダードな量産型ボン太君、深海や宇宙空間、マグマには対応していない。戦闘力もオリジナルに比べて低下しているが、それでも並のASに匹敵する

量産型スペースボン太君 お値段:4000万円
耐圧性、密閉性を強化し、時間制限付きながら深海や宇宙空間での活動を可能にしている

量産型ボン太君マークⅡ お値段:1200万円
警察や警備会社への販売用に量産型ボン太君をデチューンした安価型タイプ。性能は低下しているが、それでもアニメのボン太君の2倍の性能

量産型ボン太君マークⅢ お値段:1400万円
レスキュー用に特化させてデチューンしたボン太君。機動力は低いが耐火性、耐水性、耐圧性においては通常の量産型ボン太君に近い性能を誇る

<参考資料:一般兵器のお値段(全て状態良好、装備無しの中古品値段)>
ソルテッカマン:9千万円
バードマン:8千万円
メビウス:1億3千万円
ジン:2億2千万円
M6:2億5千万円
ストライクダガ―:3億4千万円
※現実の兵器と比べて全体的にかなりの低価格化している設定です。宇宙海賊とかだって平気で何台も持っている世界ですので。ちなみにM6の中古が原作では約10億円くらいだったりします。



[18686] 5話後編
Name: 柿の種◆eec182ce ID:32959b89
Date: 2010/05/15 17:45
「それでは、シホミ・アーディガン様、プレシア・テスタロッサ様、ご案内いたします」

 ネルガルに辿りつき、受付で手続きを済ませた後、待合室で待たされていた2人はやってきた案内に連れられて会長室に向かう。いくら知り合いとはいえ大会社の会長にぞろぞろと大勢で面会する訳にはいかなかったので当事者のプレシア・テスタロッサと推薦人代表としてシホミが彼女に付き添い、他の皆は近くの喫茶店で時間を潰すようにしていた。

「いやあ、久しぶりだね」

「ええ、お忙しい中時間を取っていただきありがとうございました」

「なんのなんの。美人の願い事だからね」

 そしてネルガル会長室に通されたプレシア達を待っていたのはどことなく胡散臭い表情を浮かべたアカツキの姿だった。シホミにすれば慣れたもので軽くやり取りをするが、初対面のプレシアはその表情に若干の不安を覚える。

「大丈夫ですよ。アカツキさんはああ、見えて信頼できる人ですから」

そんな彼女にシホミがフォローする。そして豪華なソファに腰掛けるとアカツキが早速本題を切りだす。

「どうも初めましてアカツキ・ナガレ、ネルガルの会長です。それで聞いた話だと異世界から来て、しかも魔法使いって言うのは本当なのかな?」

「ええ、本当です」

 アカツキの質問にプレシアは平然と答える。行く先々で異世界人であること、魔法使いであることをばらして居る彼女だが実を言えばこの世界でそれらのことをばらすのがまずいという認識を彼女は持っている。魔法の無い管理外世界で魔法のことをばらすことによってさまざまな危険が生じることを常識として理解し、この世界もその例外にならないとわかっているのだ。ただし、この世界の住人全員は例外にならなくてもカズマの嘗ての仲間であるノイ・ヴェルターのメンバーは例外との認識を彼女は持っている。それはカズマ達の言葉を信じ、実際にロウや甲児達と接した上での実感であり、また万一彼女を迫害、または利用する者達が居ればその時はカズマ達や彼らと関連の深い新国連が彼女とアリシアを保護するという保証を実は彼女は受けている。だからこそ、彼女はこれ程に大胆になれるのだ。ちなみに新国連については、彼女の戸籍を作る際にプレシアの了承のもと、その存在を知らせている。

「ふむ、それで、君は技術者で就職先を探しているとのことだけど?」

「はい。アーディガンさんの薦めで色々な所を紹介していただいています」

 相手は一応、就職先候補のお偉いさんであるので敬語になって答えるプレシア。そしてアカツキは更に突っ込んだことを尋ねてくる

「うち以外の企業は候補にあるのかな?」

「この後、オーブのモルゲンレーテ社とアメリカのイシルディン社を訪問させていただく予定ですわ」

 モルゲンレーテ社はオーブ政府と繋がりの深い、準国営企業とも言える会社であり、イシルディン社は量産型ボン太君を製造・販売している会社でミスリルのダミー会社の一つである。ネルガルを含む3社とも兵器を中心としているが、同時に幅広く工業製品を取り扱っている会社であり、ノイ・ヴェルターを通しアーディガンファミリーと関わり合いのある会社でもあった。

「なるほど、それで魔法を使った工業と言うのは具体的にどんなことができるのかな?」

「そうですわね。まずは……」

 プレシアはまず最初に魔法科学で一般に可能とされていることを説明し、その中で実用化されていること、そして更にその中で自分が理論をよく理解し、技術的に再現可能なものをあげていく。その説明にアカツキ内心に強い興奮と焦りを覚えた。プレシアの語った技術は自社で手に入れられれば、測り知れないメリットを得ることができるものである。しかしそれは同時にライバル社であるモルゲンレーテやミスリルに取られた時、自社が受けるダメージの大きさも示していた。

「それは、凄い。是非ともうちに来て欲しいね。それでもしうちに来てくれたら、それらの技術全て公開してもらえるのかな?」

「ええ。私の説明できる範囲でしたら。ただし、一度に全部と言う訳にはいきませんけど」

「まっ、そりゃ当然だね」
 
 一度に全部手札を見せる馬鹿は居ない。そんなことをすれば技術だけ吸い取られて捨てられる危険性もある。信頼どうこうではなく、人と企業との当然の駆け引きである。

「それで、雇用にあたってそちらの希望条件は何かあるのかな?」

「そうですね。賃金などについては具体的な額を提示出来る程この世界に慣れていませんのでそちらにお任せします。それ以外は娘一人母一人の家庭環境ですので、その辺を考慮していただければと思います。あとは、元の世界に一度は戻りたいと思っていますので、その辺のご協力をできればお願いしたいと思うのですが」

「ふむ」

 なかなかしたたかだとアカツキを感じた。賃金を任せるというのは下手な行動に見えるが、プレシアには他に選択肢がある以上、下手な額は提示できない。寧ろ、こちらから釣りあげさせるいい手だ。家庭環境の考慮については問題無い。大企業として福祉関係のルールはそれなりに整っている。そして最後、これが難題だった。異世界への帰還、前例が無い以上如何にネルガルと言えどもそれを見つけるのはかなり難しい。また、こちらの世界の技術が異世界に流出してしまう危険性や元の世界へ戻ったプレシアが二度と戻って来ない危険性などがある。その為、少し考えてから回答する。

「そうだね。賃金についてはこちらでも検討させていただいて、後で具体的な額を提示させていただくよ。労働条件の方は出来る限り優遇しよう。それと最後の希望についてだけど、幾つかの条件をつきなら協力を惜しまないよ。条件は元の世界へ一度返っても必ずまたこちらの世界に戻ってくること、そして手付としてある程度の技術を残していくことだ」

 提示した条件なら危惧した通りの事が起こってもネルガルには利益が残る。この世界全体としてはあるいは不利益になるかもしれないが、会長として彼が優先するのはまず何よりも自社の利益なのである。

「ええ了解しました。っと、言っても、まだこちらに決めさせていただいた訳ではないですけど」

「ま、それは仕方無い。無理に引っ張って、ノイ・ヴェルターの皆に嫌われたくは無いしね。公人としても、それと私人としてもね。けど、口説く努力位はさせてもらってもかまわないだろう?」

「ええ、勿論ですわ」

 アカツキの言葉にプレシアは同意を示し、シホミも頷く。当事者、後見人の両方の意を得られたことに軽く笑い、改めて勧誘に力を入れ直す。

「それじゃあ、まずはうちの企業ついて説明させていただこうかな」

 IFSを操作し、資料をモニターに映し出す。同時に気付かれないように社内にある連絡を送ると、企業説明と入社した場合のメリット・特典などについての説明を始めた。
そして説明を30分程続け、彼が一通りの説明をし終えた頃、部屋にドアにノックする音が響き渡った。

「会長、言われたものを持ってまいりましたが」

「ああ、エリナ君か。入ってきてくれ」

 そして入ってきたのはキャリアウーマン風の女性。そして女性はアカツキに一枚のディスクを渡す。その内容は先程アカツキが連絡を入れて持ってくるよう指示したものだった。

「どうもありがとう。プレシア女子、これお土産です」

 ディスクを受け取ったアカツキはエリナに礼を言うとそれをそのままプレシアに渡す。受け取ったプレシアは何も書いていないディスクを見て疑問を覚える。

「これは?」

「ボソンジャンプの研究データですよ」

「「なっ!?」」

 アカツキの言葉を聞いてエリナとプレシアが同時に驚きの言葉を上げた。そしてエリナが詰め寄る。

「会長、なんてものを部外者に渡しているのですか!?」

「先程も言ったように私はまだこちらに入社を決めた訳ではないのですが」

「まあまあ、エリナ君落ち着いて。ご心配なく、その辺は理解していますよ。言ったように只のおみやげです。渡したデータは気のきいた企業ならどこでも持っている程度の当たり障りの無いものですよ」

 エリナをなだめながら、同時にプレシアに向けてそう説明する。説明を受けたプレシアは迷いながらそれを受け取ることにした。元の世界へ戻る方法を探るプレシアにとってそれは喉から手が出るほど欲しいものなのだ。

「そういうことでしたら」
 
 ディスクを受け取った彼女に対し、ニコニコした表情を浮かべるアカツキ、その隣で不満そうな表情浮かべるエリナ。そんな彼女に対し、アカツキは内心で呟いた。

(やれやれ、こういう所の機微が彼女はわかっていないんだよな)

 人は何の見返りも無い贈り物に対しても、いや見返りを求めない贈り物だからこそ恩義を感じるものである。そしてそれは見えない鎖となる。渡したデータがプレシアにとって元の世界へ帰るのに役に立っても立たなくても、これを恩義と感じるプレシアは彼女はネルガルへの就職を前向きに考えるようになるだろう、そう言う打算が彼にはあった。

(こういう所さえ出来てくれれば彼女に会長を任せちゃってもいいんだけどね)

 上昇志向の強いエリナはネルガルの会長に就任することを目指している。それに対し、元々気楽な次男坊の立場で父と兄の死によって仕方なくネルガルを継いだアカツキは今の立場を重荷に感じており、任せられるものがいれば任せてしまってもいいと考えているのだった。

「それじゃあ、そろそろ時間だね」

「ええ、今日はどうもありがとうございました」

「アカツキさん、どうもありがとうございました」

 そうこうしている間に約束の面会時間の終了時刻が訪れる。アカツキが出迎えを呼び、プレシアとシホミは挨拶をすると会長室を退室し、彼女の地球での就職活動一日目が終わるのだった。



[18686] 6話前半
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/05/21 05:51
『宇宙暦101.4.6
 今日はオーブのモルゲンレーテ社を訪問する予定だったが、アリシアが熱を出したために中止となった。
 病院で見てもらったところ単なる風邪ということだが、何せアリシアには一度死んでいるという過去があるため、心配したプレシアさんが彼女を入院させることとなった』



「ごめんね、ママ」

「いいのよ。あなたはゆっくり休みなさい」

 病室で寝かされたアリシアの脇に座ったプレシアが彼女の髪を優しくなでる。彼女がしばらく撫で続けているとやがて病の疲れもあったのか眠りにつくアリシア。それを確認するとプレシアは立ちあがり、部屋の隅に離れていた人物に頭を下げた。

「すいません。約束をキャンセルしたばかりか色々と面倒見ていただいて」

「気にしないで。私も幼い息子が一人居るから気持ちはわかるわ。それに手をうったのはカガリ様だしね」

 その人物の名前はエリカ・シモンズ。モルゲンレーテの技術主任を務める人物で本日プレシアと面会を行う予定だった人物である。しかし、直前になってアリシアが体調を崩したため、急遽予定を中断し、彼女を病院に運んだ。診断結果は風邪。しかし、プレシアにはそれで安心することができなかった。まず、カズマが考えたようにアリシアは一度死んで原因不明で生き返っている。どんな後遺症があるのかもわからない。さらに異世界人であるアリシアはこの世界の病原体に対して十分な免疫を持っていないなどの危険性もある。そのため、この機会に一度じっくりアリシアの体を検査するため彼女を入院させることにしたのである。勿論、信用できる医者を選出してもらってだ。
しかし、ここで一つ問題があった。費用の問題である。魔法を使った検査は後日、プレシアがするとして、医学的な検査は設備の揃った病院でするしかない。時の庭園はこの世界に無いし、この世界の病原菌に対する知識はプレシアには無いのだ。だが、戸籍は作っても保険にまでは入っていない彼女達にとってその費用は全額負担になる検査とは言え馬鹿にできない額になる。また、病院では相部屋の場合面会時間が決まっており、アリシアが現在入院している病院は19時位までしか付き添いができない。個室の病室をとれば費用は更に跳ね上がる。病気の娘についていてやりたいとは思っても、現在半居候状態である彼女にそこまで求めることはできない。これらの問題に悩むプレシア。しかし、そこで手を差し伸べてくれたのがカガリであった。

『そういうことなら私に全部任せろ』

そう宣言した彼女は費用国庫負担で国営の病院の個室を用意させ、検査費も全額負担させたのである。ちなみにその費用は外交費から捻出し、名目は異世界人に対する歓待の一部ということになっている。

「それじゃあ、約束は1週間後に延長ということで。それと、今回のこれで恩を着せたりするなとカガリ様から厳命されているから、ウチに就職するかどうかは純粋にウチの企業を見て決めて頂戴ね」

「わかったわ。けど、そのカガリって娘は本当にそんなこと言ったの? その子、国家元首の後継者なのでしょう?」

「ええ、真っ直ぐなのが長所で、だからこそ好かれては居るのだけど、立場が立場なのだからとは思わなくはないわね」

 思わず尋ねてしまうプレシアにエリカは苦笑する。政治家としてはカガリは良くも悪くもあまりに真っ直ぐ過ぎる少女だった。最も、今回に限っていえば意識せず、アカツキの戦略と同じことになっているので、それも才能と言えば才能なのかもしれない。






「飽きた。お外行きたい」

「もう、我慢しなさい、アリシア」

 入院3日目、熱がすっかり下がり元気になったことでアリシアは予定していた検査を受けることになった。しかし、いくつも続く検査の連続にすっかり退屈した彼女は駄々をこね、プレシアを困らせる。元々活動的な性格のアリシアにとって検査入院はかなりストレスのたまるものであった。だが、そこでそんな彼女に声をかけるものが居た。

「そうだよ。マユだっていっつも検査、検査の繰り返しなんだから」

 それは隣に座っていた10歳位の少女であった。その少女は右腕にギプスを装着し、左目に眼帯と痛々しいかなり痛々しい姿である。その姿を見て、アリシアは駄々をこねると心配そうな声をだす。

「お姉ちゃん、酷い怪我。大丈夫?」

「うん、この間の戦争でね。けど、最近はあんまり痛くなくなったから大丈夫。アリシアちゃんも検査はちゃんと受けた方がいいよ。私の怪我も病院の先生に診てもらって大分よくなったの」

 心配するアリシアを元気づけるかのように笑顔で答える少女。その姿を見てアリシアは真剣な表情になってプレシアの方を見る。

「ママ、私、ちゃんと検査受けるよ」

「そうね、偉いわよ。ありがとう、ええと……」

「マユです。マユ・アスカ」

「プレシア、プレシアテスタロッサよ。この子の名前は聞いていた見たいだけどアリシアよ」

 アリシアの頭を撫でて褒めた後、視線を少女にやって頭を下げて礼を言う。そして、プレシアの言いたいことを察した少女が自らの名を名乗ったのでプレシアも名乗り返した。その後、何気無い談笑に移りしばらく会話していると、彼女達のもとに一人の少年が近づいてくる。その少年を見てマユが声をあげた。

「あっ、お兄ちゃん」

「マユ、怪我の具合は大丈夫か?」

「うん」
 
 少年の服装を見てプレシアはそれがオーブの軍服である事に気付く。そして少年の方もプレシアの姿に気付き、マユに尋ねた。

「この人達は知り合い?」

「うん、プレシアさんとアリシアちゃん。さっき知り合ったばかりだよ」

「そうですか。妹がお世話になってます」

「いえ、こちらこそ。愚図る娘を宥めてもらって助かっていたのよ」

「私、別に愚図ってなんか無いもん」

 挨拶をかわすプレシアと少年の横で先程の自分の行動を忘れたかのように頬を膨らますアリシア。それを見てプレシアとマユは笑う。そしてそこでマユの順番が回ってきて、診察の呼び出しがかかる。

「あっ、マユの番だ」

「あっ、大丈夫か? 手を貸すよ」

「うん、ありがとう、お兄ちゃん」

右手がギプスのためバランスの悪いマユに少年は手助けをし、立たせる。そして立ちあがった彼女は左手を軽くあげ、三人の方を見て言った。

「それじゃあ、お兄ちゃん、行ってくるね。プレシアさん、アリシアちゃん、またね」

「ああ」

「ええ」

「お姉ちゃん、またお話しようね」

 診察室に向かうマユを見送る3人。そして彼女の姿が見えなくなった後でプレシアが小声でシンに尋ねる。

「不躾なことを聞くようだけどあの子の怪我酷いのかしら?」

「……はい。あいつ、戦争の時の事故で腕をちぎれちゃって。そのあと、手術してもらって何とかくっついたんだけど、それから結構たったのにまだギプスも外せなくて動くようになるかはかなり怪しいって。目も、多分よく見えるようにはならないって」

「そう……」

 少年から聞いたマユの思ったよりも酷い状態にプレシアの声が重くなる。そしてもしかしたら魔法を使えば治せるかもしれないと思うが、自分の能力がばれる危険性を考えると下手に使うことはできないことに葛藤を覚える。しかし、そんな彼女に対し、少年は自らが希望を捨ててはいないことを語る。

「けど、日本の方に凄い医者が居て、その人に見せれば治るかもしれないらしいんだ。かなりお金がかかるらしいけど、何としても用意してマユは治してやるんだ!」

「……もしかして、その年齢で軍に入っているのはそのためかしら?」

 この世界では管理世界と違い、先進国では10代後半、20代前半で就職するのが普通であり、特に軍では特殊な例外を除き、通常10代前半より下のものはいないことを学んでいたプレシアは10代半ばに届くかどうかの少年が軍に入っていることの理由をそう推測する。そして、その推測は当たっており、少年はそれに頷き返す。

「俺はコーディネーターだけど、だからって何の専門技能も持たない俺位の年の奴が高収入を得られる手段はそれ位しかないから。父さんも死んじまったしさ」

「そう。他人だから言える無責任な言葉かもしれないけど、頑張ってね」

「ええ、ありがとうございます」

 妹のために頑張る少年の姿に嘗ての自分をだぶらせ、心からの声援を送る。その気持ちが伝わったのか少年もその言葉に素直に頷く。しかし、そんな必死な努力をするもの達を嘲笑うかのように侵略者の魔の手がオーブに迫っているのだった。


(後書き)
シンについて、原作とかなり違う展開にしました。少なくともオーブが滅びていない以上、プラントへの移住はするとしてもタイミングがずれる筈ですし。後は、もうひとつオーブが滅びていないことで大きく変わっていることがあります。それが何かはまだ秘密で(シンに関係することとだけ言っておきます)

次回は、初の大規模バトルの予定です。



[18686] 6話中編
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/05/30 18:32
『現在、謎の飛行物体が大群でオーブに接近中との情報が入りました。安全のため、正確な状況がつかめるまで病院の外へでることの無いようよろしくお願いします』

 病院内に警報が鳴り響き、院内全域にアナウンスが流れる。そのアナウンスを聞いて、プレシアは怪訝な表情を浮かべるだけだったが、シンは明らかに表情を変えた。謎の飛行物体の大群と言われてもプレシアにはピンとこない話であったが、シンにそしてこの世界の住人にとっては違う。彼らにとってそれは未知の敵勢力の侵略と結びつく自体なのだ。

「くっ」

 歯噛みするシン。危険が迫っているかもしれないことが分っても彼にできることは何も無い。オーブ軍の制服を着てはいるが、実は彼の立場は正確にはまだ軍人ではなかった。士官学校卒業を間近に控えた訓練生、それが今の立場であった。

「何のために、俺は……」

 プレシアには治療費を稼ぐためと説明したが、シンが軍隊に入ったのはそれだけが理由ではなかった。戦争で父を失い、妹が重傷を負い、二度とこんなことが起こらないよう、今度もしオーブが危険にさらされた時には自分が家族を守るのだとそう決意してオーブ軍に入ったのだ。しかし、現実にはまだ彼に与えられた任務も権限もなく、ただ事態の推移を見守ることしかできなかった。故に、攻めて戦闘に発展しないことを彼は祈り、しかしその期待は裏切られることになる。






 紫色の小型円盤が数百隻とその中心に位置するピンク色の大型円盤、それがオーブに近づいている未知の勢力の正体だった。その勢力を前にオーブ政府は再三通信を入れるが、それらに対しての応答はなかった。その事態を前に、オーブ軍部隊が海上、海岸線に展開される。そしてこれ以上の接近してきた場合攻撃を開始すると言ったラインの直前にまで近付いてきたところで初めて未知の勢力からメッセージが送られてきた。オーブ軍や政府だけではなく、外部スピーカーまでも用いられ、国民全てに向けてそのメッセージが送られる。

『私はベガ星連合軍、地球攻撃総司令ガンダル。お前達に命令する。即刻、そのおもちゃ共を引きさがらせ、我らが配下に入るのだ。さもなくば、貴様等の街は火の海と化すだろう』

 駆け引きなどもまるで無い脅し。当然、それにオーブ政府が応じる筈も無く、その要求を退けると攻撃を開始する。しかし、戦艦の砲撃もフライトユニットを装備したM1アストレイのビームライフルも小型円盤“ミニフォー”にはまるで当たらない。

「な、なんて、機動性なんだ!?」

 オーブ軍の兵士の一人が叫びをあがる。ミニフォーはマッハ7の飛行速度と高い旋回性を誇り、地球の平均的な機動兵器の性能を大きく凌駕していた。その性能差になすすべもなく、オーブ軍の兵器は次々と破壊されていく。

「かははは。何と脆い奴らだ!!」

 自分達が一方的に勝利するその光景を見て高笑いを上げるガンダル。しかし、その時だった。

『こちらトレイラーのシホミ・アーディガンです。いまよりオーブ軍を援護します』

『キラ・ヤマト、フリーダム出ます!!』

『アスラン・ザラ、ジャスティスでる!!』

 ヴァルホーク、ヴァルストーク、フリーダムガンダム、ジャスティスガンダム戦場に3機の機動兵器と1隻の戦艦が戦場に現れる。僅か4機の増援、何の意味もないと考えるガンダルであったが、彼には一つ知らないことがあった。その4機が嘗て地球最強の部隊ノイ・ヴェルターに所属していた者達ばかりだと言う事を。






「す、凄い」

 病院の窓から見える戦闘の様子にシンは驚嘆の声を漏らした。先程までオーブ軍が手も足もだせなかったベガ軍の円盤が3機と1隻に次々と落とし、戦況を逆転させてしまっていたのだ。

「ミヒロ補正を頼む!!」

「うん!!」

 ヴァルストークが敵の攻撃を回避し、そのまま戦闘機形態から人型形態へと変形、ビームショットランチャーで3機のミニフォーを撃ち落とし再度戦闘機形態に変形する。

「うおおおお!!!! ヒートエッジエクスプロイダー!!!!!」

 カズマの叫びと共に機体を炎が覆い、その姿を火の鳥へと変える。そしてその機体は戦場を貫き、その直線状にあった全てのミニフォーを破壊する。

「どうして、どうしてこんな……」

 苦悩と怒りの混じった声を漏らすキラ。フリーダムがビームサーベルを振るい、すれ違い様にミニフォーを切り裂いていく。そして空高く飛び上がるとそこで反転し、全ての重火器から一斉に放たれた砲撃が更に数機のミニフォーを落とす。

「カガリ、俺が君を守って見せる!!」

 恋人と彼女が大切にする国を守るために戦場に立ったアスラン。ジャスティスが数機のミニフォーに囲まれる。しかし、回転するかのような動きでビームの刃を振るい、近くの全ての機体を落とし、飛行ユニットファトゥムを飛ばし、遠くの敵を撃ち落とす。

「デュアルプロトンキャノン発射!!」

 アカネの叫びと共にヴァルスト―クから放たれた強力なエネルギーの波が十数機のミニフォーを飲み込む。3機と1隻だけで既に100機を超えるミニフォーが落とされていた。勿論、オーブ軍とてその間何もしていなかった訳ではない。性能で相手が圧倒的に勝るとはいえ、相手が混乱していればチャンスも生まれる。浮足立っている間に撃墜されたり、あるいは同士撃ちにあったりして、既にベガ星の円盤は半数近くまで減っていた。

「これが、ノイ・ヴェルターの力かよ」

 カズマ達の圧倒的な強さを見てシンが声を漏らす。ノイ・ヴェルターの存在は世間に対し、積極的に公開されている訳では無い。しかし、その強大かつ個性的な戦力が世間に知られずに居る訳も無い。そのため、ノイ・ヴェルターが地球最強の戦力であることは多くのものが知る所となっていた。そして連合軍やラダムがオーブに侵略した際に彼らがその防衛の要であったことをシンは知っていた。けれど知っていたからこそ彼は今までノイ・ヴェルターを侮っていた。地球最強と言われながら自分の家族すら守りきれない存在と。しかし実際にその目でその実力の程を見て、認識を改めざるをえなかった。シンは訓練生の中ではトップの実力者だ。そしてその中でもMSの操縦は格闘戦と並び得意としている。それだけの実力がある彼だからこそ素人目にもわかる彼らの実力がより一層に感じとることができた。

「あいつらでも駄目だったのかよ……」

 それほどの力を持った彼らが居ながら、シンの家族の命は失われた。ならば自分はどれだけ強くなればいい、どれだけ強くなれば家族を守れる。シンは一瞬そう苦悩仕掛けるが、直ぐにその気持ちを振り払う。

「俺は今度こそマユを守るんだ。絶対にあいつらよりも絶対に強くなってやる!!」

 そう決意を固める。しかしその直後、彼は絶望に包まれることになる。オーブ軍を抜け、病院に向かって真っすぐに向かってきた4機のミニフォーを目にしたことで。






「アリシア、大人しくしているのよ。絶対にこの病院から外に出ちゃ駄目よ」

「うん」

 戦闘が始まって、直ぐにアリシアの基へ向かったプレシア。そして病室で戦いの様子を見守っていた彼女達はシン同様、4機のミニフォーを目にしていた。カズマ達だけで大丈夫なようだったら、静観するつもりのプレシアであったが、この病院が危険にさらされるとあれば黙って見ている訳にはいかない。他の患者を見捨ててアリシアだけを連れて、避難するというのが一番簡単だったが、今の彼女はそこまで冷徹には慣れない。ならば、彼女がやることは一つである。

「この病院は私が守るわ」

 そう宣言して変身魔法を唱える。自分の力と正体が大勢に知られることになるのは流石にまずいので姿を変える必要があった。そして、変身魔法が完了すると、そこには長い黒髪の10歳位の少女の姿があった。

「ママ、可愛い!!」

「うふ、そうかしら?」

その姿を見てアリシアが黄色い声をあげる。黒髪の少女の正体は変身したプレシアだった。髪の色や人相は変装で返られても体格を大きく変えるのは魔法の無いこの世界では絶対に不可能である。そのため、子供の姿では魔法を知る者以外、絶対に大人の姿のプレシアと今の彼女を結び付けることはできないとして彼女は今の姿を選んだのだった。そして、彼女はフェイトそっくりのバリアジャケットを見に纏うと病院の外へ飛び出すと同時に魔法を発動させた。

[ソニックムーブ(Sonic Move)]

 音速を超えた速度で移動する高速移動魔法、それを使い4機の中でも先行していた一機のミニフォーに対し、瞬時に接近する。

「はあっ!!」

 そしてデバイスを長刀のような形に変化させ、そこから10メートルを超える魔力の刃を生み出すとミニフォーを真っ二つに切り裂く。技術者という戦闘職から離れた魔導師にも関わらず、接近戦に置いても彼女は上位の実力を持っていた。その実力は彼女の知識を受け継いだ使い魔であるリニスによって鍛えられたフェイトが接近戦を得意とする魔導師であるベルカの騎士に認められる程のものであったことからも伺える。そして、彼女はデバイスを杖の形に戻すと今度は別の魔法を発動させる。

[フォトンバースト(Photon Burst)]

圧縮した魔力を解放し、魔法の発動地点を中心に半径数百メートルに広がる爆発を引き起こす。それにより残り3機のミニフォーを消し飛ばす。そしてそれを確認したプレシアは病院を背にし、杖を構え立ちふさがり、そして宣言した。

「こっから先は一歩も通さないわよ」


(後書き)
リクエストがありましたので、プレシアの能力をスパロボユニット風にしたものを考えてみました。おまけでなのはとフェイトも考えてみました。次の更新はSEEDcrossを優先しようと思うのでちょっと遅れるかもしれません。

プレシア・テスタロッサ(ユニット)
HP :150
EN :220
装甲 :1000
運動性:120
移動力:6
サイズ:SS

武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
サンダースマッシャ― 10 P 2800 1~3 +30 ±0%
プラズマランサー 20 3000 1~5 +40 +30%
フォトンバースト 60 M 3200 ±0 ±0%
ソニックムーブアタック 120 20 PC 3300 1~3 ±0 ±30%
サンダーレイジ 120 40 3400 1~4 ±0 ±0% 1ターン移動不可
サンダーレイジODJ 150 150 5000 1~15 +10 10%

*フォトンバーストはプレシアから最大で4マス離れた位置を中心に正方形9マスの範囲を攻撃

特殊:
EN回復S(HPが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)
ラウンドシールドM(2000以下のダメージを無効化する。EN5消費)
フェイクシルエット(攻撃を完全に回避する。気力130以上で発動。発動確率は敵との技量差で決定する)

高町なのは(ユニット)
HP :110
EN :190
装甲 :900
運動性:110
移動力:6
サイズ:SS

武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
ディバインシューター 10 P 2600 1~3 +20 +40%
アクセルシューター 20 2900 1~4 +50 ±30%
ディバインバスター・エクステンション 120 60 P 3400 1~4 ±0 ±0%
ディバインバスター 120 40 3400 1~6 +20 ±10%
ディバインバスターM 140 80 M 3200 1~6 +10 +0%
スターライトブレイカー   140 70 4200 1~8 ±20 ±0%
コンビネーションアタック(+フェイト) 120 30 4400 1~3 +30 +30%
トリプルブレイカー(+フェイト&はやて)140 60 5600 1~6 ±20 ±0%


特殊:
EN回復S(HPが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)
ラウンドシールドM(2000以下のダメージを無効化する。EN5消費)


フェイト・テスタロッサ(ユニット)
HP:120
EN:190
装甲:700
運動性:120
移動力:7
サイズ:SS


武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
サイズスラッシュ 5 PC 2600 1~3 ±0 ±30%
サンダースマッシャ― 10 P 2700 1~3 +30 ±0%
プラズマランサー 20 2900 1~5 +40 +30%
サンダーレイジ 120 40 3300 1~4 ±0 ±0% 1ターン
移動不可
ジェットザンバー 130 30 P 3600 1~2 ±0 ±20%
フォトンランサー・ファランクスシフト    130 50 3900 1~7 ±40 ±0%
フォトンランサー・ファランクスシフト(M) 140 90 M 3300 1~7 ±0 ±0%

特殊:
EN回復S(HPが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)
ラウンドシールドS(1500以下のダメージを無効化する。EN5消費)


<精神コマンド>
プレシア・テスタロッサ
熱血 集中 努力 気迫 不屈 愛

高町なのは
熱血 不屈 気合 必中 狙撃 友情

フェイト・テスタロッサ
熱血 集中 加速 友情 ひらめき 愛



[18686] 6話後編
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/05/31 05:23
「あれって、一体?」

「プレシアさんの知り合いかな?」

 突然現れた空を飛ぶ少女に他の味方、敵共にただ驚く中で、魔法の存在を知るカズマとミヒロはプレシアのことを思い浮かべる。するとそこで二人の頭の中にそのプレシアの声が鳴り響いた。

『カズマ、ミヒロ聞こえるかしら』

「えっ、プレシアさん、一体どこから!?」

 突然聞こえてきた声に思わず周囲を見渡しプレシアの姿を探すカズマ。しかし、無論のこと彼女の姿は見えない。そして更に声が鳴り響く。

『聞こえているみたいね。これは念話。魔法を使った通話手段よ。普通は魔力を持ったもの同士でしか使えないけど、私独自のアレンジが加えてあるから。それより頼みがあるのだけど。私が味方だとオーブの人達に伝えてもらうことはできないかしら?』

「えっ、プレシアさんも戦うんですか?」

『もう戦ってるわよ』

 プレシアの話に疑問の混じった声色で尋ねるミヒロ。それに対し、返って来た答えに二人は3秒程思案する。そして回答に辿りつき、恐る恐るカズマが尋ねる。

「……もしかして、あの黒髪の女の子って」

『ええ、わたしよ。正体が大勢にばれるとまずいから魔法で姿を変えているの』

「「………ええええええええええ!!!!!???」」

 思わず、大声をあげてしまう。ただでさえ、二人は変身魔法の存在を今まで知らず、その状況でコスプレのような奇抜な格好をした少女が実は知り合いの成人女性だと聞かされれば当然の反応だろう。

『そこまで驚くことかしら?』

 それに対し、変身魔法が当たり前で奇抜な格好をした魔導師が大勢いる管理世界出身のプレシアは今一ピンと来ないようだった。まあ、奇抜な格好だけで言えばこの世界にも多いのだが。

(プレシアさん、アキトさんのこと怪しい人扱いできないな)
 
 カズマは思わず内心で呟く。しかし、何時までも驚いてばかりは居られなかった。

『それで話を戻すけれど、私はこの病院を守るわ。だから私を攻撃したりしないよう伝えてもらうことはできないかしら?』

「わかりました。カガリさんにお願いしておきます」

 プレシアの要請にミヒロが答える。当然、カズマの方も反論などある筈も無く、直ぐさま、通信を開いた。

『カズマか!? おい、あの少女は一体何なんだ!?』

 そして通信を開いた途端飛び出してくる大声。その声にカズマは軽く耳に痛みを感じながら説明をする。

「詳しいことは後で話す。ただ、彼女は味方だ。病院を守ってくれる。だから、攻撃しないよう味方に指示をだしてくれ!!」

『よし、わかった!! あっ、けど後でもっとちゃんと説明しろよ!!』

 カズマの要望、説明になっていない説明に即効で承諾の意を返すカガリ。この辺は流石、元ノイ・ヴェルターのメンバー同士と言ったところだろう。戦闘中に未知の戦力がいきなり乱入してくることがしょっちゅうな彼らにとって、重要なのは味方か敵かと言った点だけである。それ以外のことは後回し、戦闘が終わってから、という考え方が染みついているのだ。
そして、カズマからの通信を受けたカガリは直ぐ様全軍に指示を出す。

『オーブ軍に伝達する。あの少女は味方だ。 怪我人や病人の居る病院を守ってくれるから決して攻撃するな!! それと、後ろに味方が居るからと言って、敵を通していいなんて考えるんじゃないぞ!! オーブ軍の誇りにかけて街に一歩も入れるな!!』

 カガリはオーブの人間に不思議と人望がある。その彼女の命令であったため、疑問を持ちながらもオーブ軍の人間はそれに従い、プレシアを味方だと認識する。

「よし、これで、もう大丈夫だぜ、プレシアさん」

『ええ、ありがとう。それじゃあ、お互い頑張りましょうね』

「おう!!」

 そして、彼らの共闘が開始された。オーブ軍はカガリの命令通り、敵を通さないよう尽力し、防衛線から先にほとんど敵を通さない。それでも極、まれに通してしまうが、それは一機や二機の散発的なもの。その数ならプレシアは何の問題もなく、裁くことができる。そうしている内に、敵はどんどんと減って行き、残りはマザーバーンと100機余りのミニフォーを残すのみとなっていた。






「くぅ、何と不甲斐無い!!」

 自軍の圧倒的な敗北の様子に総司令のガンダルが怒声をあげる。そして、彼はここに至って自軍の切り札を投入することを決断した。

「円盤獣ギルギルを出せ!!」

「はっ、わかりました!!」

 ガンダルの命令にベガ兵が応じる。そしてマザーバーンの下部ハッチが開き、そこから3体の円盤獣ギルギルが投下されるのだった。






「何かでてくるぞ、キラ気をつけろ」

「うん」

 マザーバーンのハッチが開くのを見て、警戒するアスランとキラ。そしてそこからでてきたギルギルの姿を目撃する。

「まるで、機械獣のようだな」

「うん」

 巨大な機械の亀、その姿を見て、Dr.ヘルの作った機械獣を連想する二人。そこで、オーブ軍の兵士が乗るM1アストレイの内の一体がギルギル目がけてビームライフルを発射する。

「何!?」

しかし攻撃が頭部に直撃したにも関わらず、その一撃は装甲を僅かに溶かすだけにとどまってしまった。その装甲強度に撃った兵士は思わず驚愕の声をあげる。

「頑丈さも機械獣並、いや、それ以上か」

「普通の機体じゃ無理だ。アスラン、僕達が相手にしよう」

「いや、キラ、お前のフリーダムは大勢の敵を相手にするのに向いている。俺が相手をし
て、時間を稼ぐから、お前はまず先に円盤の方を片づけてくれ」

 それを見て敵の戦力を分析したキラが自分達で戦うことを提案する。しかしアスランがその意見に反論し、別の提案を上げた。

「けど……わかった。でも、気をつけて」

「ああ、任せろ!!」

 その提案にキラが納得し、アスランが飛び出していく。そしてギルギルの一体の頭部をビームサーベルで切りつける。流石に核エンジン搭載の高出力機のジャスティスのビームサーベルだけあり、その一撃はギルギルの装甲を切り裂く。しかし、機体を停止させるには浅かったらしく、ギルギルは再び動き出す。そしてジャスティスが攻撃をしかけたそのタイミングで残り2体のギルギルが機体に向けて襲いかかった。ギルギルは正に亀のように手足や首をひっこめ、代わりに金属の刃を複数だし、回転し体当たりをしかけてくる。

「くっ」

 それを紙一重でかわし、カウンターで切りつける。しかし、甲羅部分は頭部よりも更に頑丈なのか、あるいは回転の遠心力のためか、それはかすり傷程度の傷しか付けられなかった。更に、攻撃をかわされたギルギルの内一体がブーメランのように旋回し、再びジャスティスに向かって迫ってくる。

「しまった!?」

 アスランが叫びをあげる。予想外な機動に回避が間に合わない。直撃を受けてしまうかと思われたその時だった。

「ぶっ飛べ!マキシマム・シュートだ!!」

 ヴァルホークのプラズマ・エクスキュージョンがギルギルに直撃し、そのまま海面にまで叩きつける。そして大爆発を起こし、ギルギルは粉みじんになる。

「大丈夫か、アスラン!!」

「カズマ!? 馬鹿、お前まで抜けたら戦線が!!」

「助けてやったのに馬鹿は無いだろうが馬鹿は!! 心配しなくても、シホミ姉さんやキラが頑張ってくれてる。敵の数も少なくなってるし、あっちは大丈夫だ」

「そ、そうか」

 通信を入れてきたカズマに対し怒鳴りつけるアスラン。それに対し怒鳴り返すカズマ。そしてヴァルホークがジャスティスに近づき、2体の機体が並びあう。

「さてと、残りのデカ物は2体、1体ずつでいいか?」

「ああ、こんどこそ不覚は取らない」

 アスランはそう宣言し、再突撃と仕掛ける。そしてその宣言通りの見事な攻めを見せた。2本のビームサーベルで挟み込むようにして両側から頭部を切り離し、更に砲撃を連発して、手足を吹き飛ばす。そして、全砲撃を一点に集中させることで、胴体を貫通させ破壊し尽くしてみせる。

「おっ、先越されちまったな」

 数分と掛からずでギルギルを破壊してみせたアスランの猛攻を横目で見ながら、カズマの方も最後のギルギルに攻撃し掛ける。そしてアスランに遅れること2分程度、最後のギルギルを撃破するのだった。






「くそっ、撤退だ、撤退!!!」

 ギルギルが全滅したことで歯噛みしながら、撤退を指示するガンダル。だが、そこで、巨大な雷がマザーバーンを直撃する。

「なっ、なんだ!?」

 突然の事態に動揺するガンダル。そして彼の頭の中に声が鳴り響く。

『まさか、これだけ好き勝手やっておいてただで帰れると思ったのかしら?』

「なっ、なんだ、貴様、何者だ!?」

 ガンダルの頭にだけ鳴り響き、他の者には聞こえない声に叫び返す彼の姿に困惑した兵士達の視線が集まる。しかし、彼はそれどころではなかった。喚き散らす彼に冷徹な答えが返ってくる。

『これから死ぬあなたに言う必要は無いわ。私の娘と友人に危害を加えようとした貴方達を私は許さないわ』

[サンダーレイジO.D.J(Thunder Rage Occurs of DimensionJumped)]

 位置さえ分れば次元さえも隔てて攻撃できるプレシアの最強魔法がマザーバーンに直撃する。それはまさに天より放たれた神のイカヅチのようであった。


「ぐわああああああああ!!!」

 激しく揺れる円盤にガンダルが絶叫をあげる。しかし、流石は外宇宙の高度な文明で造られた円盤の母艦と言うべきか損傷は負ったもののその一撃でもマザーバーンは落ちなかった。

「くっ、ワープだ、早くしろ!!」

 ガンダルが叫び、マザーシップが超空間に入る。流石にそれは追えず、逃がしてしまうのだった。



(後書き)
なんで、カズマとアスランがこんな仲いいの?って思う人が居るかもしれませんが、ノイ・ヴェルターのいい所は歴代スパロボチームと比べても結束力が高そうなところだと思っているので、基本的にみんな仲良しです。
しかし、SEEDcrossと書きあがるスピードがまるで違う……。同じ分量であっちは3日間かかったのに、こっちは3時間で書き上げられちゃったよw

PS.10話越え、皆様にもそこそこに評価していただいていると思うので、本板に移動しようかと思うのですがどうでしょうか?
それととらハ板とその他板どちらが適切でしょうか?


(おまけ)
19歳なのはと19歳フェイトも考えてみました。こういうの考えるの結構好きなので評判悪くなかったら、他リリカルキャラのステータスも考えてみたいと思います。もしリクエストがあったら優先的に考えます。調子に乗るなと怒られたら自重します。
それと前回説明し忘れましたが、これはゲームバランスも含めてスパロボに出すならこの位かなと妄想した数値ですので、本編の強さと必ずしも一致しない可能性があります。

高町なのは
HP :200
EN :210
装甲 :1000
運動性 :115
移動力 :6
サイズ :SS

武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
クロスファイヤーシュート 10 P 2700 1~3 +20 +40%
アクセルシューター 20 3000 1~4 +50 +30%
ディバインバスター・エクステンション 120 60 P 3500 1~4 ±0 ±0%
ディバインバスター 110 30 3500 1~6 +20 +10%
ディバインバスターM  125 80 M 3300 1~6 +10 +0%

特殊:
EN回復S(HPが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)
ラウンドシールドM(2000以下のダメージを無効化する。EN5消費)

高町なのは(ブラスターモード)(気力130で変化)
HP :200
EN :210
装甲 :1100
運動性 :120
移動力 :7
サイズ :SS

武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
クロスファイヤーシュート 10 P 2800 1~3 +20 +40%
アクセルシューター 20 3100 1~4 +50 +30%
ディバインバスター・エクステンション 120 60 P 3600 1~4 ±0 0%
ディバインバスター 110 30 3600 1~6 +20 +10%
ディバインバスターM  125 80 M 3400 1~6 +10 +0%
スターライトブレイカー 130 60 4500 1~8 +20 +0%
スターライトブレイカー 140(M) 110 4000 1~7(前方7マス) +10 +0%
ブラスター3スターライトブライカー 140 90 5200 1~8 ±30 +10%
特殊:
EN回復S(HPが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)
ラウンドシールドL(2500以下のダメージを無効化する。EN5消費)

ユニットのついてのコメント:
9歳時に比べ全体的に能力が向上しているが、代わりに合体技が消滅している。ブラスター化するとさらに能力があがり、ラウンドシールドの限界値が2500まで防御になる。


フェイト・テスタロッサ
HP:200
EN:200
装甲:800
運動性:125
移動力:7
サイズ:SS

武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
ハーケンスラッシュ 5 PC 2900 1~3 ±0 +30%
トライデントスマッシャ― 20 3100 1~5 +40 +30%
サンダーレイジ 110 40 3400 1~4 ±0 ±0% 1ターン移動不可
フォトンランサー・ファランクスシフト(M) 140 90 M 3400 1~7 ±0 +0%
ジェットザンバー 120 30 P 3900 1~2 ±0 +20%
サンダーフォール 130 50 4100 1~7 +40 ±0%

特殊:
EN回復S(HPが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)
ラウンドシールドS(1500以下のダメージを無効化する。EN5消費)

フェイト・テスタロッサ(真ソニックフォーム 気力130で自由にフォームチェンジ可能に)
HP:200
EN:200
装甲:200
運動性:135
移動力:8
サイズ:SS

武器名 気力 EN 属性 攻撃 射程 命中 CT補正 特殊効果
ライオネットブレード5 PC 3800 1~3 ±0 +30%
ライオネットザンバー 20 P 4000 1~4 +40 +30%

特殊:
EN回復S(ENが自軍の行動開始前に全体EN10%回復する)

ユニットのついてのコメント:
9歳時に比べ全体的に能力が向上しているが、代わりに合体技が消滅している。真ソニックフォームになると運動性がブラスターテッカマンやオーガンを超えるSSサイズユニット最高になるが、装甲が全ユニット中最低になり、特殊能力からラウンドシールドが消失するため、一撃でも攻撃に当たってしまえば確実に撃墜になる。また、真ソニックフォームでは通常形態と武装が大きく変化し、全てが接近戦用になる。気力130を超えた後は通常形態と自由にフォームチェンジできる。



[18686] 7話前編
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/01 22:06
『宇宙暦101.4.30
 ネルガル、モルゲンレーテ、イシルディン社と予定3社の面接を終えたので、プレシアさんが就職先を決定するまでの間日本で休息をとることになった。
 オーブでの戦闘後にプレシアさんについて事情説明した際に謝礼金をもらったので、珍しく財政に余裕がある。たまにはのんびりと過ごすのも良いだろう。
 トレイラ―心得「助け合いは当たり前、けれども貰えるものは貰っとけ」「働く時はしっかりと休む時もしっかりと」である。
そして本日はGアイランドに遊びに行くことになった。
 このところプレシアさんが忙しくアリシアと遊ぶ機会があまりなかったのでいい思い出になるだろう』
 
 
 
 
 
「うわああ」

 Gアイランドにある遊園地『ふもふもアイランド』を見てアリシアが目を輝かせる。母子家庭でプレシアが忙しかったこともあり、生前というか、一度死亡する前に彼女はこういったところに遊びに来た事が無い。つまり、彼女にとって今日は遊園地初体験だった。

「思う存分アリシアちゃんと遊んできてください」

「ええ。ありがとう」

 シホミの気遣いにプレシアが感謝の言葉を返す。
たまには親子水入らずということで、今日はテスタロッサファミリーとアーディガンファミリーはそれぞれ別行動ということになっていた。金銭についてはフレイの護衛時とオーブ防衛戦時の報酬ということで、一日遊ぶには十分すぎる額が渡されていた。

「さて、それじゃあ、初めはどこに行きましょうか?」

「私、あれに乗りたい!!」

 尋ねるプレシアに対し、アリシアが指差したのはメリーゴーランドだった。勿論、プレシアはそれににこやかに応じる。

「ええ、一緒に乗りましょうね」

「うん!」

 そして列に並ぶと順番は直ぐに回ってくる。しかし、メリーゴーランドを前にアリシアが硬直する。そして左右に何度も首を振る。

「どうしたの?」

「お馬さんと馬車とどっちに乗ろうかと思って……」

 その様子に訝しげな顔をしたプレシアだったが、答えを聞いて直ぐに納得した。首を振っていたのは馬と馬車を見比べていたらしい。大人には微笑ましいが、子供には重要な問題である。そこで彼女は一つアイディアをだした。

「じゃあ、2回乗りましょう」

「うん!!」

 プレシアの提案に満面の笑みを浮かべるアリシア。結局1回目は馬に二人でのり、2回目は馬車に乗った。そして両方乗り比べて見て馬の方が気に行ったアリシアはもう1回馬に乗りたいと希望する。プレシアは頷き、しかし、今度は自分はメリーゴーランドには乗らないと答えた。

「えー、ママも一緒に乗ろうよ」

「ごめんね。その代わりアリシアがお馬さんに乗ってるところ写真に撮ってあげるわ」

 駄々をこねるアリシア。しかしプレシアの言葉を聞くと大きく頷き、馬に向かって走っていく。そして、メリーゴーランドの馬に乗り手を振るアリシアの写真を撮るアリシア。メリーゴーランドが止まると彼女は真っ直ぐにプレシアに向かって駆けてくる。

「ねえママ、可愛く取れた?」

「ええっ、勿論よ」

 その後、観覧車や小さな子供も乗れるような軽い絶叫マシン、ミラーハウスと言った定番のアトラクションを二人で周り、気がつけば2時間程が過ぎていた。

「アリシア、少し休憩しない。ママ、ちょっと疲れたわ」

「えー」

 不満そうな顔を見せるアリシア。こう言った場所での子供のバイタリティと言うのは凄いものがある。アリシアに振り回され、プレシアの表情には言葉通りの疲れが浮かんでいた。

「えー、私、まだ遊びたい」

 アリシアが駄々をこねる。困るプレシア。その時、一枚の看板が彼女の目に入る。そこに書かれていた看板は二人の望みを同時に満たすものだった。

「なら、あれを見に行かない」

「えっ……うん、行く!!」

 プレシアが指差す看板を見て、アリシアが大きく頷く。そこに書かれていたのは『ボン太君ショー』の文字だった。





「ボン太くーん!!」

 子供向けのステージの上でパフォーマンスをするボン太君を応援するアリシア。ボン太君は『ふもふも』としかしゃべらないが、舞台上でのやり取りやスピーカーから流れる解説でストーリーがわかるようになっている。また、その内容はその時々によって大きく変わるのが特色である。ほのぼのとしたハートフルコメディが展開される時もあれば、サングラスをかけ銃を持ったハードボイルド(?)なストーリーが展開されたり、浴衣を着て刀を持って時代劇を演じたりと多種多様である。子供向けのショーにも関わらず、迫真の演技と派手な演出、ボン太君の可愛らしさで子供だけでなく、幅広い世代に人気があるショーであった。どんなストーリーでもボン太君の台詞は常に『ふもふも』だが。今回のストーリーは悪者に攫われた恋人のボン美ちゃんを助けるために悪の組織に立ち向かうアクションヒーローものであった。

「ふも、ふもっふ、ふも!!」

「ふも、ふももっふ!!」

 悪者に腕を突きつけ叫ぶボン太君と、ボン美ちゃんにナイフを突き付ける悪者ボン太君。台詞はどちらも『ふもふも』である。

「ふもっ」

 ボン太君が手を水平に切って石を投げる。その石が悪者ボン太君の持ったナイフを弾き飛ばす。動揺する悪者ボン太君とその隙をついて逃げるボン美ちゃん。
そしてボン太君が空高く飛び上がる。そう文字通り飛び上がった、地上から10メートル位の高さに。驚愕する悪者ボン太君に向かってキックを放つ。

「ふもーーーーーー!!!!」

「やった、ボン太君かっこいい!!」

 吹っ飛ぶ悪者ボン太君。歓声をあげるアリシア。

「凄いわね。魔法も使わず、どうやってあんなことやってるのかしら?」

 疑問と感心が半分ずつ混ざった驚きの声を漏らすプレシア。実はこの時、ボン太君の中には急病で欠場した役者の代わりを頼まれた獅子王凱が入っており、種も証も無いことはスタッフとボン美ちゃんの中に入っていた卯都木命しか知らないことであった。






ボン太君ショーを見た後、レストランで二人は食事を取っていた。ただ、プレシアは自分は注文した料理に手をつけず、お子様ランチをおいしそうに食べるアリシアを眺める。

「おいしい?」

「うん!!」

 アリシアの答え。その答えが本当に嬉しい。彼女は今、幸せをかみしめていた。こんな幸せな時間を与えてくれたことに、彼女は何十年もの間、信じていなかった神様に感謝したい気持だった。

(それとカズマ達にもね)

「ご飯食べたら次はどこへ行きましょうか?」

「んっと、お買いもの!!」

「あら、いいわね」

 意外な答えに驚くが、プレシアも女性である。当然買い物は好きだ。今までよりも更に楽しい顔になる。
アリシアも期待に満ちた顔だ。遊園地にはファンシーなキャラクターグッズや可愛らしいアクセサリーなども、女の子の興味をひくものが多い。遊園地を回っている間にそう言ったものを売っている店や付けている少女を見たのだろう。

「今日は、たっぷり遊びましょうね」

「うん!!」
 
 
 
 
 
 宣言通り、日が暮れるまで一日中、園内を回って遊んだ二人。はしゃぎすぎて疲てしまったのだろう。眠ってしまったアリシアを背負い、ふもふもアイランドを出ると、プレシアはカズマ達との待ち合わせの場所にまで移動する。

「あっ、プレシアさん!!」

 待ち合わせの場所、そこにカズマ達の姿を見つける。しかし、カズマ達はプレシアの姿を見ると何やら慌てたように近づいてきた。

「どうかしたの?」

 その様子に何かあったのかと尋ねるプレシア。そして彼女に衝撃的な話を聞くことになるのだった。

「この世界にプレシアさん以外の魔導師が居るらしいんだ!!」


(後書き)
イシルディン社(ミスリルのダミー会社との設定のオリジナル会社)での面接は特に書くことがなかったのですっ飛ばしました。そこでテレサとかを出しても良かったんですが、あまり書くことが思いつかなかったので、彼女の出番はまた後の展開で。



[18686] 7話後編(加筆しました)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/06 23:38
「それで、この世界に私以外の魔導師が居ると言うのは?」

 落ち着いて話をするために一度ヴァルストークに戻ったプレシア達。そしてアリシアを部屋のベッドで寝かせるとカズマ達と向き合い、そして改めて話を聞く事となった。

「プレシアさんは甲児さん達のこと覚えていますか?」

「ええ、前に食堂であった貴方達の昔の仲間よね」

 ミヒロの問いかけに頷き問い返す。プレシアが彼らに会ってまだ1ヶ月も過ぎていない。ただでさえ特徴的な彼らのことを忘れている筈もなかった。彼女の言葉を聞いてカズマが説明をつなげる。

「ああ。その時、話にでた百鬼帝国、その中に魔導師が居たそうなんだ」

「確か、彼等が戦っているのは“鬼”という名前の人間とは違う異種知的生命体の集団だったわよね。その“鬼”が魔法を使うということかしら?」

「ええ、ですが彼等の中には生まれついての鬼だけではなく、人間が角を埋め込まれることで鬼となった人も居るそうなんです」

 カズマの言葉を聞いて思い浮かべた推論を述べたプレシアに対し、シホミが補足する。それを聞いて彼女は言いたいことを理解したようだった。

「つまり元々は私と同じ人間の魔導師が角を埋め込まれて鬼にされた可能性があるってことね」

「ええ。ただ、彼が使う魔法がプレシアさんの使う魔法と同じものなのか、別物なのか、私達には判別がつきません。ですから、それを確かめるためにプレシアさんに協力をして欲しいと依頼が来ているのですが」

「わかったわ。そういうことなら協力してあげる。それにもしその人が私の世界と同じ所から来たのなら元の世界に変える手掛かりになるかもしれないもの」

 シホミの要請に快く応じるプレシア。こうして彼等はその翌日に依頼元であるGGGへと向かうことになったのだった。
 
 


 
 
「よう、カズマ」

「おう、甲児、元気にしてたか? あれ? そっちのは」

 GGGを訪れ、部屋に通されるとそこには甲児達マジンガーチームやゲッターチーム、凱や命、大河長官の姿があった。そしてそれ以外に見知らぬ人物の姿があることにカズマは気付く。20歳位の背の高い男と15歳位の少女。その二人を甲児と竜馬が紹介する。

「ああ、この二人は大介さんとマリアちゃん。俺達の新しい仲間だ」

「二人はフリード星というベガ星連合に支配されてしまった星の王子と王女で、俺達と一緒に戦ってくれている新しい仲間だ」

「へえ、王子様に王女様か、ファーラ姫みたいだな」

 関心を抱くカズマ。そして紹介を受けた大介が一歩前にでると彼に対し、手を差し出した。

「カズマ君だね。君達のことは甲児君達から聞いているよ。もしかしたら、この先一緒に戦うことがあるかもしれないが、その時はよろしく頼む」

「私がマリアよ。兄さん共々よろしくね」

「ああ、よろしくな、二人とも」

 差し出された大介の手をがっちりと握手する。そしてカズマ達が旧交を温め、新しい友情を結ぼうとしている間に、プレシアと大河が挨拶を交わしていた。

「今日はご足労いただきありがとうございました」

「いえ、私達がこの世界で暮らしていけるのは貴方方のおかげですから」

プレシアとアリシアが戸籍をつくる際に新国連に対し、手続きをおこなったのは大河であった。そのため、彼女にとっては恩人と言える人物で感謝の言葉を述べる。

「凱さん、命さん、お久しぶりです」

「ああ、元気にしてたか?」

「久しぶりね、ミヒロちゃん」

「しかし、大変だねえ。本当はスペースナイツと一緒に今頃木星の方へ行ってる予定だったんだろう?」

 ミヒロとシホミが凱と命と世間話をかわす。戦後、スペースナイツとGGGが共同で木星に探査へ向かう予定になっていたが、ゴライオンチームとファーラ姫、そしてJとルネの旅立ちを見送り、いよいよ出発というその直前、ミケーネの再度の侵攻が起こったのである。そこで地球の防衛戦力を見直す必要が生まれ、計画の変更が行われた。その結果、ザ・パワーに対し最も詳しい炎竜と氷竜をいざという時の戦力とし、火麻長官他数十名のスタッフをGGG代表として、彼等とスペースナイツのみが木星へと旅立って行ったのである。この時、Dボゥイこと相羽タカヤも地球を守るため自分が残ることを主張したが、これ以上激しい戦い続けた場合、命に関わる危険性が高いとして皆が反対した結果、説得に応じ木星へと旅立って行った。

「ああ、けど今は地球を守らなければ行けないからな。あっちの方はタカヤに任せるよ。勿論、地球の問題が片付いたら俺達も追いかける予定だけどな」

 元々、宇宙飛行士を目指していた凱。木星に旅立てなかったことは残念であろうが、それでもまるで気にしていないと言った様子で答える。そして軽い世間話や挨拶を終えると今日の本題、百鬼帝国の魔導師について話し合うため、皆が席へとつく。そしてモニターに戦闘の映像が映し出された。
 
  
  

 
 
 百鬼帝国のマシンである百鬼獣の集団と、それを迎え撃つマジンガーチームとゲッターチーム。
 
「ブレストファイヤー!!!」

 甲児の叫びと共に放たれたマジンガーZのブレストファイヤーが百鬼獣をどろどろに溶かす。

「サンダーブレーク!!」

 鉄矢の操るグレートマジンガーの指先から迸る電撃が百鬼獣に直撃すると全身に電流が迸り、そして機体をオーバーヒートさせ爆発させる。

「ダブルハーケン!!」

 大介の乗るグレンダイザーの振るう鎌状の槍が百鬼獣を真っ二つに切り裂く。

「ゲッタービーム!!」

 ゲッタードラゴンの頭部から放たれるゲッタービームが百鬼獣を貫く。

「行くだわさ!!」

「やっちゃうわよ!!」

 そしてボスボロット、2体のビューナスA、ミリオンα、パイオンβとダイオンγの6機が3機ずつ2組になって百鬼獣を取り囲み、たこ殴りにして叩きつぶす。展開される圧倒的な快進撃、しかし、そこで百鬼帝国に増援が現れる。

「なんだ、人間が空を飛んでるぜ?」

「テッカマンか? それともイバリューダか?」

「いや見た目、普通の人間みたいだぜ」

 現れたのは4体の百鬼獣と杖のようなものを持った空を飛ぶ人間だった。人間サイズで空を飛ぶ存在と言えばテッカマンやイバリューダが思い浮かぶが、目の前の存在は彼等とは違い、生身の人間と同じ姿をしていた。生身で普通の人間以上の力を持つ存在と言えば、エボリューダや素体テッカマンが思い浮かぶ。素体テッカマンとはラダム樹によってフォーマットされたものの戦闘用に調整はされていないため、テックセットはできない人間のことだ。しかし彼等は宇宙空間での活動は可能するが単身で空を飛ぶことはできないし、エボリューダである凱にしても飛行は不可能である。
 そして改めて良く注視することで彼等はその人物の外見に人間との相違点があることに気付く。

「おい、あいつ角が生えているぜ!!」

「っと、言うことは奴は鬼か!?」

 男の額には巨大な一本の角が生えていたのである。しかし、今まで空を飛ぶ鬼など現れたことは無い。未知の存在の登場に否が応にも皆の警戒が高まる。

「油断するなよ!!」

「ああ!」

 改めて戦闘態勢を取る甲児達に対し、男が杖の先端を前にだすとそこに奇妙な紋様、魔法陣が展開された。

[スティンガーブレイド・エクスキューションシフト(Stinger Blade Execution Shift)]

 そして警戒し待ち構える彼等に対し、魔法陣より100を遥かに超える刃が生み出され、射出される。それを見てマジンガーZ、グレートマジンガー、グレンダイザーの3機が仲間を庇うように前に飛び出る。

「ちっ、変な攻撃を仕掛けてきやがって!!」

「超合金Zの装甲に傷をつけるとは。しかし、どうやら素体テッカマンではなく、別物のようだな」

 刃をまともに受け、マジンガーZとグレートマジンガーが損傷を受ける。超合金ニューZα製のマジンカイザーや超合金ニューZ製の真グレートに比べれば防御力に劣るとは言え、それでも超合金Zの硬さは並ではない。その装甲に傷をつける攻撃をビューナスやボロットが受ければただではすまないだろうし、何度も喰らえばマジンガーやゲッターでも危ないだろう。

「甲児君、奴は僕が相手にする!!」

 そう宣言して宇宙合金グレンに身を纏い、唯一無傷だったグレンダイザーが男に挑みかかる。

[ブレイズキャノン(Blaze Cannon) ]

男は再び魔法陣を展開し、炎の弾丸を放つが、グレンダイザーはそれを全く意に介さず、突っ込み、ダブルハーケンを振るう。しかし全長20メートルを超えるグレンダイザーに対し、男は的にするにはあまりに小さい。軽々と攻撃を回避されてしまう。

[スティンガーソード (Stinger Soard)]

 今度は最初と同じ剣の形をした弾丸。しかし数が3本だけに減り、代わりに一本一本が最初に出した剣の10倍位に大きくなったものを発射する。その攻撃はグレンダイザーに直撃し、ほんの僅かだが損傷を受けてしまう。

「反重力ストーム!!」

 反撃とばかりにグレンダイザーの胸から、重力を操る光線が発射される。しかし、またもや回避されてしまう。攻撃を当てられないグレンダイザーと致命傷を与えられない男。戦いは千日手の様相を見せ始めていた。

「リョウ!! ゲッターライガーに代われ、ライガーのスピードなら奴を捕えられる!!」

「わかった!!」

 それを見て援護に向かおうとするゲッターチーム。しかし、そこで百鬼獣の一体が襲いかかってくる。斧を振るい、ビームを放ってくる百鬼獣。

「こいつの武装!?」

「そうだ。俺のこのメカ鉄鋼鬼は貴様等のゲッターに対抗するために同じ武装を備えている!!」

「くっ!!」

 強力な百鬼獣を前にし、援護に向かう事のできないゲッターチーム。そして残りの仲間達にも百鬼獣が襲いかかるのだった。
 
 
 
 その後、戦闘は継続され、マジンガーZとグレートマジンガーが何とか百鬼獣を破壊する。それを見て形勢不利と判断した百鬼帝国は撤退を開始し、最後に捨て台詞を残して行った。

「くっ、ゲッター!! 次の戦いでこそ決着をつけるぞ!!」

「次こそ百鬼帝国のため、私の魔法でお前達を倒す」


 

 
 
 映像が終了し、そこで大河が口を開いた。

「男が最後に言った“魔法”という言葉で君のことを思い出した訳だが、どうだろうプレシアさん、これは君達が使うものと同じものだろうか?」

「ええ、展開された魔法陣。持っていたデバイス。間違いなくミッドチルダ式、私達と同じ世界の魔導師ね」

 大河の問いかけにプレシアは頷き答える。そして更に彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出す。

「けど、それだけじゃない。私はこの人物に心当たりがあるわ」

「本当かね!?」

 彼女に視線が集中する。そして彼女はゆっくりと口を開いた。

「ええ、面識はないけれど10年位前にちょっと話題になったニュースにでてきた顔でたまたま覚えていたの。ある事件で行方不明になった管理局の提督だと思うわ」

「管理局、確か、君の世界の警察と軍隊を合わせたような組織だったな。名前はわかるかね?」

 大河の再度の問いかけにプレシアが考え込む。そして数十秒程考えて彼女は答えた。

「確か……ああっ、思い出したわ。クライド、クライド・ハラオウンよ」

「クライド・ハラオウン、それが彼の名か」

「あの、鬼にされた人を元に戻すことはできないんですか?」

 百鬼帝国に敵として存在する魔導師が元は人間であったことを知り、ミヒロが尋ねる。

「うむ、方法はある。鬼の角は機械と生体組織の中間で、凱ならばそれにアクセスし機能を停止させることが可能だ。実際にその方法で、鬼を人間に戻すことが可能な事は既に実証済みだ」

「ああ、前に奴等が人間達を大勢誘拐して、鬼化させようと企んだことがあったんだ。その時は、鬼化してしまった人達を助けることができた。だが、それは鬼化したばかりだったからで、鬼化してから時間が立つと角と脳が完全に融合し、全身が作りかえられてしまう。そうなってしまえば、元に戻すことは不可能になってしまう。」

 その問いに大河と凱が答える。クライドが誘拐されたのは10年以上前、普通に考えれば、最早助けられる可能性は低い。暗い雰囲気がその場に落ちる。

「だが、やりもせず諦める訳には行かないだろう。彼が自らの意思で鬼になったのでなければ彼は被害者だ。我々も出来る限りの努力はしよう」

「そうだな。だが、最悪の時の覚悟はしておくべきだろう。テッカマン達との戦いの時のようにな」

 その暗い雰囲気を大河が吹き飛ばし、鉄矢が釘を指す。二人の言葉はどちらも間違っていない。ケミカルナノマシンに犯されながらも正気を取り戻した凱のような奇跡を彼等は知っている。同時にタカヤの家族だったテッカマン達のように助けられなかったもの達も居る。

「ああ、だが、それは最後の手段だ。まずは、彼を助けることに全力を注ごう」

 そして最後に凱がそう締めくくる。それを見ていたプレシアは感嘆しポツリと呟いた。

「なんていうか、凄いわね」

 彼等の必死さはアリシアを生き返らそうとしていた時の自分を思い出し、だからこそ彼らが真剣にそれを語っているのがわかる。そして、それを見ず知らずの人間のためにできていることを呆れも感心も通りこし、ただ凄いと彼女は思った。

「うむ、それでだが、シホミ艦長、実は君達に今日来てもらったのには魔導師について聞きたかった以外に他に理由があるのだ」

「理由……ですか?」

 そしてそこで大河が次の話題を切り出した。問い返したシホミに頷き、そして一拍の間を置いて彼は口を開く。

「ああ。最近になってまた増えてきた敵勢力に対し、ノイ・ヴェルターを再結成しようと思っている。そこで君達にもまた加わってもらえないかと思うのだが」

「……申し訳ありません。私としては構わないのですが、今は別の依頼中ですので」

「わかっている。プレシアさんのことだな。それについてなのだが、実はあなたにも加わっていただきたいと思うのだ。我々は魔法についてあまりにも無知だ。戦闘にも参加していただければ心強いが、最悪アドバイザーとしてでも構わない。力を貸してもらえないだろうか?」

 大河が切りだしたのはノイ・ヴェルター再結成という話だった。それに対し、シホミはプレシアのことを理由に断ろうとするが、彼はプレシアにも話を振る。突然、話を振られ、彼女は一瞬困惑するが、直ぐに冷静になって答えた。

「わかりました。私でよければ、ご協力させていただきます」

「いいのですか?」

「ええ、大河さんにはお世話になっているし、異世界で出会った同郷の人間。できれば、私も助けたいと思うもの」

 プレシアは肯定の意を返し、シホミの確認に再度頷く。そして、そうなれば他のメンバーに反対する理由はなかった。こうして、ヴァルストークファミリーが加わりノイ・ヴェルター再結成となるのだった。


(後書き)
素体テッカマンに関する設定が間違っていたのでそのあたりを訂正しました。
それと話の区切るとこが変だったと思ったので追記しました。



[18686] 8話(閑話)
Name: 柿の種◆eec182ce ID:5a731e18
Date: 2010/06/06 23:08
『宇宙暦101.5.8
ノイ・ヴェルターが再結成されてから一週間が過ぎた。
今の所、特に何事も無く平和である。
この1週間、プレシアさんは魔法に関する知識を教授すると共に、この技術の勉強を学んだりして過ごしていたが、今日は久しぶりに休日を取って街に遊びに行っている
前回と違い、今度は二人きりでなく、ミヒロやシホミ姉さん、アカネ姉さんを誘い、女5人で楽しんでくるそうだ。
そうそう、宗介の奴の裁判がようやく終わったらしい。
今まで販売した分の賠償金を支払い、今後、軍事用は販売・製造しないこと、著作権料を支払うことで和解したそうだ。
しかし、それによって発生した損失補填のため、当分の間、宗介には版権料は入ってこないそうである。
ご愁傷様』
 
 
 


  
「いや、これかわいい!!」

「アカネちゃんのセンスは相変わらず独特ね」

「私は、これにしようかしら」

「プレシアさん、大胆……ですね」

 女5人が街に遊びに出てまず最初に入ったのは洒落た感じのするブティックだった。そしてそこでそれぞれが服を選んだり、それに突っ込みを選んだりしながら、何着か選んでいく。

「さて、この位かしら」

「後は、アリシアちゃんだけですね」

「んっと、んっと」

 そして各々自分の分を選び、残るは最年少のアリシアのみとなった。彼女は2着の服を見比べて、どっちにしようかと迷っている。

「アリシアちゃんにはこっちの方が似合うと思うよ」

「えー、私はこっちの方がかわいいと思うわ」

「私はこっちね」

「そうね。どっちもいいと思うけど、どちらかと言うとこっちの方がいいかしら」

 そして残りの4人がどちらがいいか意見を言うが見事に2対2に分かれて余計に迷ってしまう。

「じゃあ、実際に来てみたら?」

「そうね。それが一番ね」

 そこでまずは試着をしてみることになる。試着室に入り、服を着替えるプレシア。そしてカーテンが開く。それは所謂ゴスロリ系統の服で、黒を主体にしたその服はアリシアの白い肌と金髪を際立てていてとても良く似合っていた。

「きゃー、アリシアちゃんかわいい」

「ほんと、こっちの方がよかったかな」

「うん、似合ってるよ。けど、折角だからもう片方の方も来てみたら」

「そうね。そうしましょう」

 再び着替えるアリシア。そしてカーテンが開く。今度の格好は白を基調にした可愛らしいワンピースである。肌の色や髪の色との対比がいい意味でアクセントになっていた先程とは違い、こちらの方は全体的に一体感を感じさせた。

「あっ、こっちもかわいい」

「うーん、こうしてみるとどっちも捨てがたいわねえ」

「うん、どっちもかわいいよ」

「そうね。……アリシアはどっちが気に言った?」

「えーと、えーと」

 実際に来て見て、ますます気に入ってしまったらしく困ってしまうプレシア。それを見てプレシアは言った。

「じゃあ、両方買っちゃいましょう」
 
 
 

 
 
「へえ、変わった食べ物だけどおいしいわね」

「でしょう。って、言っても実は私も食べるの初めてなんだけどね」

 ブティックを出たプレシア達は納豆パフェだとか、お好み焼きクレープだとか変わったスイーツを専門にした喫茶店でその面白い味を楽しんでいた。

「うー、私、納豆嫌い」

「大丈夫だよ、アリシアちゃん。これ、全然納豆の味とか匂いとかしないから」

 この世界に来て初めて納豆を見て、それ以来アリシアはこれを大の苦手にしていた。そんな彼女にミヒロが納豆パフェを薦める。末っ子として育っただけに、自分より年下のアリシアが可愛くてしかたないらしく、ミヒロは色んな意味で彼女を可愛がり、よくこう言ったやり取りをしていた。その光景を楽しそうに見るプレシア。

「そう言わず一口位食べてみたら、私も食べてみたけど結構おいしいわよ」

「うー」

 プレシアにも薦められて覚悟を決めたようにアリシアが口を開く。そこにスプーンを突っ込むミヒロ。そしてアリシアが目を白黒させる。

「あれ、おいしいよ?」

「でしょ?」

 そしてスプーンを奪って、二口目、三口目を食べ始めるアリシア。それを見て皆は笑い声をあげた。
 
 
 

 
 
「ちょっといいか?」

 喫茶店を出て街の散策を再開したプレシア達。そんな彼女達に話しかけてくるものが居た。見た目10代後半位、銀髪が特徴的な少年。

「なに、ナンパならお断りだよ。こう見えても私は既婚者、しかも新婚ホヤホヤなんだから」

「別にアカネちゃんに声をかけてるとは限らないと思うけど」

 いきなり声をかけて来た少年に対し、警戒心を出して軽く睨みつけるアカネとそれにツッコミを入れるシホミ。それに対し、少年は少し困惑したような表情を浮かべる。

「ナンパ?……よく、わからんが、俺はそう言ったものでは無い。俺が用があるのは、そちらの方だ」

「私?……何か用かしら?」

「少しな。……因果の乱れは感じない。どうやら、お前の存在がこの世界の因果を破壊してしまうと言う事はなさそうだな」

「因果? 一体何を言ってるのかしら?」

 自分を注視し、意味不明な言葉を並べる少年に訝しげな表情を浮かべるプレシア。

「いや、何でも無い。邪魔して悪かった」

 そしてそのまま少年は立ち去って行ってしまう。プレシア達は呆然としたままそれを見送った。

「一体なんだったのかしらね?」

「さあ、まあ、春だから変なのも湧くんでしょう。気を取り直して他の所へ行こう」

 街めぐりを再開する5人。
 異世界の大魔導師と平行世界の番人の道がほんの僅かにすれ違った一時であった。


(後書き)
平行世界の番人の彼を出したのはちょっとしたお遊びです。今後、彼が再登場するかどうかはわかりません。


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