「平和なのはいいんだけど、38回目の倒産危機を何とかしないとなあ」
宇宙を見ながら、ヴァルストークファミリーの一員、カズマ・アーディガンはそう呟く。彼の家族が営む家業トレイラーは物資や元々、宇宙開拓時代に生まれた職業で、物資や元々は人の輸送を担っていたが、流通が整備されてきた現代では政府による規制から活躍の場を失い、傭兵やトラブル解決なども行う何でも屋となることで生き残っている状態である。
しかしこういった職業というのは乱世でこそ求められるものである。大規模な戦争が終わり、小競り合い位はあっても基本的には小康状態の現在、彼らに入ってくる仕事はほとんどなかった。
「たまには何か事件でも……。って、縁起でもないか。んっ、って、なんだありゃ!?」
窓の外から見える宇宙、その一部が『歪んで』いたのだ。まるで、ヴァルザカードがディメンジョンブレイカーを使った時のように。
そしてそのまま見ていると、その歪んでいた空間が割れた。ますますディメンジョンブレイカーのようだと感じるカズマだったが、一つ大きく違う点があった。ディメンジョンブレイカーは空間に穴をあけ、そこに敵を叩きこみ、別次元の宇宙に追放する技である。しかし、その現象ではそれとは逆に、空間の割れ目からこの次元に出てきたものがあったのだ。
「あれは、って、やばい!?」
それを見てカズマは駆け出す。彼の見たものが見間違いでなければ、そしてそれがまだ“生きている”のならば一刻も早く助けなければならなかった。故に彼の愛機、ヴァルホークがある格納庫、目指して一直線に走る。途中でミヒロとすれ違うが今は話している暇は無いと、無視して突っ走る。
そして、格納庫に辿りついた彼は早速機体に乗り込もうとするが、そこで彼の慌てた様子を見たミヒロが息を切らしながら、追いかけてきた。
「お、お兄ちゃん、どうしたの?」
「宇宙空間に人が浮いているんだ!! まだ、生きてるかもしれない。早く助けないと!!」
「えーーーーーー!!!?」
カズマの説明に驚くミヒロ。そのまま機体を発進させようとするカズマ。しかし、ミヒロがそこで彼を引きとめる。
「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!!」
「なんだよ!?」
焦りから苛立ちの混じった声を返してしまうカズマ。しかし、次のミヒロの言葉で一気に冷静になるのだった。
「宇宙服着ないで、どうやってその人達助ける気なの!?」
「よし、ミヒロ、俺が外にでるからヴァルホークを頼む」
「うん」
ミヒロに言われ、急いで宇宙服を着こんだカズマ。
そして、ミヒロも一緒に乗せ、ヴァルホークに乗り込むとヴァルストークを飛び出し、宇宙に漂う人間の傍に近づき機体を停止させる。そしてコックピットを開けると外に飛び出した。
「急がないと」
カズマが空間の割れ目を確認してから既に10分近くが経過している。カズマが目撃したその姿は宇宙服等をまとっていなかった。生身で宇宙空間に10分と言うのは生存には絶望的な時間だ。しかし、それでも可能性が0になるまでカズマは諦めるつもりはなかった。
「宇宙の怖さ、一人の人間の弱さ、そして生命の大切さ!! 俺は助けられるかもしれない命を諦めたりしない!!……こいつは!?」
救助のために近づいたカズマは“それ”を見て驚いた。カズマが見た人影の正体は見た目が20代位の女性で生きているか死んでいるか判別できない。ここまでは予想の反中である。驚いたのはその先、女性が抱きかかえているものの中身だった。
「子供?」
女性は液体の満たされたガラスのようなポッドを抱きかかえ、その中にミヒロよりも遥かに幼い裸の少女が浮かんでいるのだった。その奇妙な光景に一瞬呆然とし、しかし直ぐに正気に戻って救助を再開する。
「これが何なのか確かめるのは後だ!」
カズマは二人を抱きかかえると、宇宙空間で移動するための銃を使い、その反動でヴァルストークに戻る。
そして機体に乗り込むとシートを倒し、そこに女性を寝かせ応急手当ての手順を思い出す。
「心臓は……っと、照れてる場合じゃねえ!!」
心音を確認しようとして胸に触れてしまうことに気付き、一瞬、躊躇するが、自分に活を入れると思いきって手を触れる。そして驚愕の声を上げた。
「い、生きてる!?」
「ほんと、お兄ちゃん!?」
心臓の鼓動、それがはっきりと感じられたのだ。希望を捨てていなかったとはいえ、普通に考えればあり得ないことにカズマは何度も胸に触れ直して確認する。
だがそれは間違いではなかった。女性の心臓は確かに動いていた。
「うっ……」
その時、女性の口から呻き声が漏れる。慌てて、女性の胸から手を話すカズマ。 そして女性の目が開く。
「おい、あんた、大丈夫か?」
「あり……しあ」
目を覚ました女性にカズマが話しかけるが、女性はまるで聞こえていなかいようだった。その時、女性の口から洩れる言葉が彼の耳に入る。
「アリシア? もしかして、この子の名前か?」
その言葉を名前と予測し、女性を手当てするため、彼女からひきはがし、脇に置いたポッドとその中で眠る少女を指さす。
「あっ……あああ」
それを見た女性を声にならない嗚咽をあげた。何故ならポッドの中に入っていた少女の顔に“死んでいた筈”の少女の顔には赤みがさしていたのだから。