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[18607] 【習作】Muv-Luv オルタ オリ主物
Name: bLob◆3e551d6f ID:a1dbe87d
Date: 2010/05/30 10:46
始めまして。

皆さんのSSを拝見しておりましたところ自分でもssを書いてみたいと思いまして投稿させていただきました。

とりあえず諸注意を。

・主人公はオリキャラです。後、主人公以外にもオリキャラを出します。

・文章が稚拙です。さらに文章量も少ないです。

・設定甘めのご都合主義です。

・設定等、指摘があれば文章を大幅に変更するかもしれません。

・不定期更新です。

・原作キャラの性格とか変わっているかもしれません。

とりあえずは以上で。

それでも読んでいただける方はぜひ。

少しでも良いものが書けるように努力したいと思っています。



[18607] プロローグ
Name: bLob◆3e551d6f ID:a1dbe87d
Date: 2010/05/30 10:47
……昨日は何時に眠ったのだろうか…?

いつも通りの日常。

朝起きて、学校へ行き、退屈な授業を受け、そして帰る。

何も変わらない日常。

学校で出されたレポートを片付けるためにパソコンを開き、途中で行き詰まり、“息抜き”の名目でオルタをプレイした。

覚えている限りではそれが最後の記憶。

頭を支えるのは固い感触。

(……昨日はあのまま落ちちまったのか…)

眠い目をこすり起き上がる。

最初に目に入ったのはつけっぱなしのパソコンではなく、見慣れた自分の部屋でもなかった。

一面の荒野。そして廃墟。さらには壊れたロボット。

さっき…と言っていいのかどうかは分からないが見ていた機体。

帝国軍カラーの撃震。

「…ッ!」

どうやら俺はオルタの世界に入り込んでしまったようだった。

「今は何時だ?オルタ4失敗済みとかだったらシャレになんねーぞ…」

とにかく俺は人を探して歩き回った。

幸いなことに俺はすぐに街にたどり着くことができた。

いや、街というよりは難民キャンプといったほうが正しいのかもしれない。

「とりあえず、横浜基地までの行き方を誰かに教えてもらわないとな……その前に今日の日付を聞くのが先か…」

このとき俺はとりあえず夕呼さんに保護を求めるつもりだった。

そもそも“別の世界からきました”なんていう荒唐無稽な話を信じてくれるのは夕呼さんぐらいしかいないだろう。

他の人に話してみたところで頭がおかしくなった人だと思われて終わりだ。

「さて、誰か横浜基地の場所を教えてくれそうな人は……」

歩き出してすぐに人だかりができているのが見えた。

「?…何の人だかりだ…?」

気になった俺はそちらへと歩みを進める。

人混みを縫うようにして前に出るとそこにあったのは古ぼけたラジオ。

どうやらこれを聞くためにこの人たちは集まっていたらしい。

何か情報が得られるかもしれない。

俺はそこでラジオ放送が入るのを待った。

暫くして、ザザッというラジオ特有の雑音に混じり聞き取りにくいナレーターの声が入る。

《…ザ…1998年、10が…22…ち、ザザッ……朝…ニュース…お知ら…します。…ザザ…》

幸運だったのは本編終了後の世界ではなかった事。

不運だったのは本編開始まで時間があった事。

今確かに1998年と言った。

白銀が現れるのが2001年。横浜基地でのオルタ4稼働はその一年前だったはずだ。

(…これじゃ夕呼さんに助けを求めるのは難しいな……)

今、夕呼さんがどこにいるのかは俺には分からない。誰かに聞いて教えてくれるとも思えない。

仮にもオルタ4の責任者だ。俺みたいな怪しいのが近づけるわけがない。

せめて横浜基地にいてくれるのなら可能性はあったのだが。

「…やべぇな…これからどうするよ……」

途方に暮れる。

開始から一日も立たずに“夕呼さんに助けてもらう”という目論見は破綻した。

金はなく、戸籍もなく、住む場所もない。

(…難民キャンプって戸籍なくても入れるのか?……)

そんな事を考える。このままじゃ野垂れ死にだ。

《ザザ…次のニュースをお知らせ…ザ…す…ザザザ…》

ラジオはまだニュースを伝えている。

《…ザザ…夏の大疎開で戸籍データ…混乱が…ザザ…生しております。中には戸籍データが抹消されているといった場合もあり、政府では戸籍データの整理と再登録を急いで…ザ…ます……帝国臣民の皆様に…自己の戸籍データを確……このような場合…ザ…最寄りの役所で再登録申請を……》

「!!!」

役所に行って戸籍が抹消されていたと言い張ればあるいはこの世界での戸籍を手に入れられるかもしれない。

俺は手近な人に役所の位置を聞くとすぐにその方向へと急いだ。



[18607] 第一話
Name: bLob◆3e551d6f ID:a1dbe87d
Date: 2010/06/05 22:21
「ハァハァハァ……やっと…終わった……」

俺は大の字になって寝そべり荒い息をする。

照りつける太陽が恨めしい。

恒例となっている午前の訓練の10kmのマラソン。やり直して今のが3回目だ。

首を動かす。水色の短い髪が目に映る。同じように寝そべっている眼鏡をかけた女の子。

木更津 悠 (きさらづゆう)訓練兵。身長体重ともに平均的。胸は小さい。

さきほどのマラソンでは3度とも1位をキープしていた。

(…すごいよな…俺とは大違いだ…)

そんなことを考える俺の顔に不意に影がかかった。

「ほらほら、さっさとご飯にしましょ。」

目を向ければ、英田 和実(あいだかずみ)訓練兵。

体格はやや小さめ。胸はふつう。赤い髪を肩より少し下まで伸ばしている。この小隊の小隊長だ。

「そうだね。そうしよっか。」

木更津が立ち上がる。

「え…ちょ…待って……」

俺は寝そべったまま引きとめる。

正直きつい。もう少し休みたいというのが本音だ。

「あの……もう少し待ってあげた方がいいのではないでしょうか…」

遠慮がちに声をかけたのは柳沢 薫(やぎさわかおる)訓練兵。

身長は高めで、胸もある。背中まで伸ばした桜色の髪が印象的だ。

「薫、こんなやつ甘やかしちゃだめよ。」

「あぅ…すみません……」

ようやく体が落ち着き、動けそうになってきたので立ち上がる。

「おいおい、ひでーな。俺たち仲間だろ?」

背中の土を払いながら問いかける。

「でも足を引っ張られるのはね~」

「木更津、お前もそっちの味方か! 俺だって一応努力はしているつもりなんだけどな…」

「結果が伴わなきゃ意味ないわ。それよりさっさと行きましょ。食べる時間がなくなっちゃうわ。」

「そうですね。いきましょう。」

結局俺たちはいつも通りに4人で昼飯に向かった。



ここは、帝国軍土浦駐屯地に設けられた訓練場。そして今は1998年11月22日。

こちらの世界に来てからちょうど1か月が経過したことになる。

俺の名前は黒鉄 士(くろがねつかさ)もとの世界では、ただの学生だった。

この世界にやってきたのは1998年の10月22日。白銀がこちらに現れるちょうど3年前である。

そして、日本帝国がBETAの侵攻によって国土の約半分を失ったのがこの年の夏のことだ。

皮肉なことに、BETA侵攻による混乱は俺にとって幸いした。国土の喪失とそれに伴う首都の移動。

人々の大移動。それに伴う戸籍データの混乱。

その混乱に乗じた俺は、簡単にこの世界での戸籍を手に入れることができたのだった。

そして、戸籍を手に入れた俺は帝国軍に入隊せざるを得なくなった。

仕方がないので訓練兵からできることをやっていこうと思っている。




「ねぇ、この後の訓練ってなんだったっけ?」

みんなで昼食を食べている途中で英田が口を開いた。

「実習室で銃の分解組立だったとおもいます。」

「あ~、あれかよ…」

「「はぁ…」」

盛大なため息。

「おいおい、二人してため息つくことはねぇだろ。」

「だって…」

「ねぇ…」

柳沢も苦笑い。

「くっそ~!今日こそは時間内に組み立ててやる。」

「それが当り前なのよ。バ~カ。」

厳しい一言。確かにその通りなのだろう。

「まぁまぁ、ボクらだって慣れるまでに一月くらいはかかってたじゃん。」

「そうですよ。むしろ黒鉄さんは頑張っているほうですよ。」

二人がフォローしてくれる。俺も悪いとは思っているので一応謝っておく。

「俺だって、毎回毎回悪いとは思ってるんだって。連帯責任で全員に迷惑かけちまうし。」

「なら、行動で示しなさい。さ、みんな食べ終わったみたいだし行きましょうか。」

俺たちはそろって実習室へと向かった。




実習室は学校の教室のようなつくりになっており、座学や細かな作業を行う訓練は基本的にここで行うことになっている。

そして、午後の訓練が開始される。内容は小銃の分解と組立で制限時間はそれぞれ1分だ。

「ここがこう…これをこうして…」

丁寧に確実に、かつ素早く小銃を分解する。分解を終えた者が動きを止める。

(…早いな、もう終わったのか……いや、焦るな……確実にやるんだ……)

ようやく最後のパーツをバラし終える。転がらないように机の上に置き俺も動きを止めた。

やはり、順番では俺が最後。俺は教官の方を向いた。

「黒鉄訓練兵!タイムは58秒だ。ギリギリだが合格だ。よくやった。」

心の中でガッツポーズ。周りからは安堵の息が漏れた。

「ありがとうございます!」

「次は組み立てだ。気を抜くなよ。」

「はい!」

そのあと俺たちは1時間ほど分解組立を繰り返した。俺は初めて全て分解と組立を制限時間内に終えることができた。

それどころか最後の方にはほかのみんなと変わらないくらいのタイムで終えることもたまにあった。

「よし! 分解組立はここまで、残りの時間は訓練場にて射撃訓練とする。総員、小銃を持って訓練場に集合! かかれ!」

「「「「了解!」」」」

小銃を持って駆け足で訓練場へと向かう。その途中で隊のみんなから声をかけられた。

「やったね。」

「やりましたね。」

「…少しくらいは認めてあげるわ。」

「素直じゃないなぁ~和実は。」

「う、うるさいわね!」

「みんな、ありがとう。」

「ッ…これからも続けないと意味ないんだからね!」

「わかってるよ。がんばるさ。」





「柳沢訓練兵!91点!」

その得点に唖然とする。

距離50m、小銃の単射10発で中心が10点の的を狙った得点だ。

ちなみに俺は55点。英田が63点、木更津は68点という記録。

「今日の訓練はここまでとする。使用した小銃はきちんと片づけておくように。では総員、別れ!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

全員で敬礼をして訓練を終える。小銃を片付け終えると英田が話しかけてきた。

「どう、驚いた? 薫は私たちの中で一番射撃が得意なのよ。」

何故か自分のことのように誇らしげに語る英田。木更津も話に加わる。

「確かに、正規兵よりも腕は上かもね。」

木更津も心なしか嬉しそうだ。

「いや、ほんとに驚いたよ。すごいよな~。」

俺がそう答えると、不意に後ろから声がした。

「そんなことはありませんよ。私はこのくらいしか取り柄はありませんし…」

振り返ってみると、照れた表情でそんなことをいう柳沢。

「そんなことないって。そんじゃ俺なんてどうなるんだよ。」

俺は苦笑いしながら言った。

「足手まといね。」

「たしかにね~。」

「おい! もうちょい言葉を選べよ!」

「「あはははッ…」」

「笑い事じゃねえ!」

「…くすくす…」

「柳沢さんまで!?」

「すみません、やり取りを聞いているとついおかしくって…」

「はぁ~…」

ここにきてから一か月。どうやら俺はいじられキャラとして定着しつつあるらしい。

ちなみに、英田はみんなを引っ張る小隊長で、訓練もそつなくこなす。特に座学が得意らしい。

木更津は部隊のムードメーカー。竹を割ったような性格で、体を動かすのが好きらしい。

そして、柳沢はおっとりとした性格で部隊内の緩衝材となっている。射撃の腕は先ほどの通りだ。

(おれも、頑張らないとな…)

なんでもいいから取り柄がほしい。

俺は密かにそんな事を思うのだった…




[18607] 第二話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/06/05 22:25
実習室に教官の声が響く。

「……以上で衛士転科前総合試験についての説明を終了する。何か質問はあるか?」

「「「「ありません!」」」」

「では今日はここまで。総員、別れ!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

皆、一斉に席から立ち上がり敬礼をする。

衛士転科前総合試験。分かりやすくいえば、オルタで武たちが経験した総戦技評価演習のようなものらしい。

俺がこの世界に来てから早2ヶ月。今日は1998年12月22日。こちらの世界で初めて年を越した。

さすがに訓練にも慣れ、みんなの足を引っ張ることもなくなった。

そんな矢先に告げられたのがこの衛士転科前総合試験の実施についてだった。

試験開始日は1週間後の12月29日。

この試験は3日間に分けて行われ、座学や実技等の様々な試験が実施される。

場所は普段と同じくこの訓練施設。評価は小隊単位で行われる。

(まあ、207が南の島だったのは夕呼さんの趣味も兼ねてたみたいだからなぁ)

南の島に少しも期待していなかったといえば嘘になる。

試験内容としては、各科目ごとに小隊全員が最高100点の試験を行い、隊の総合得点が300点を超えれば合格となる。

これに受かることが衛士への第一歩となるということもあってみんなの士気は高い。

「やっとここまできたね。」

「みなさんの足を引っ張ってしまわないか心配です…」

「大丈夫よ。一番危ないのは黒鉄だから。」

「おい! 最近はちゃんとやってるだろうが。」

「でも士って本番に弱そうだからな~」

「おいおい、大丈夫だって。俺だって衛士目指してやってきたんだ。こんなところで躓いていられるかよ。」

「まぁ少しくらいは期待してあげるわ。」

「任せとけって!」

「それでは、みんなで頑張って合格しましょう!」

「「「おー!」」」

俺たちは試験への不安と衛士への希望を胸に試験開始日までの1週間を過ごした。




1998年 12月 29日。衛士転科前総合試験当日。

ついに試験の日がやってきた。今回試験を受けるのは俺たちの隊だけ。

というより、この基地にいる訓練兵は俺たちだけだ。

現在の帝国軍衛士の訓練は相馬原基地と土浦駐屯地の2か所で行われているらしい。

人数が少ないのは時世がらとでもいうべきか。

今年の夏には西日本の陥落によって日本の人口の3割が失われた。

絶対的に人が少なく、衛士としての適性をもつものはさらに限られる。

もっともそれを考慮してもなお俺たちと同期の衛士は少ないらしい。



俺たちがいる実習室はピリピリとした空気に包まれている。

部屋にいるのは俺たちだけ。教壇に向かって右から英田、木更津、柳沢、そして俺の順に座っている。

「あぅぅ…緊張してきたよ…」

「私もです。さっきから手が震えて…」

「だ…大丈夫よ…自分たちを信じましょう…」

そう言った英田の顔も少し青ざめている。俺は心配だったので声をかけてみた。

「そういう英田もずいぶん緊張しているように見えるぞ?」

「ッ…そういうあんたは何で平気そうなのよ!」

「ホントだ、確かにだいじょぶそうだね。なんで?」

「いや、自分でも分かんないけど何故か大丈夫なんだよな。」

「うぅ~黒鉄さん、ズルいです…」

「そうよ、不公平よ!」

「知るかよそんなもん。」

みんなの手前ではああ言ったが、俺はこの試験に受かるという確証があった。

試験の内容は今までの訓練でやってきたものばかり。

その上、評価基準の小隊の合計で300点というのも訓練では何度も達成している。

様々な訓練を終えるたびに教官から点数として評価を告げられていた。

万が一ということも考えられなくはないが俺はこの小隊の仲間を信頼している。

(尤も、そんなことを言ったらからかわれるのがオチだからな…)

しかし、このままみんなの緊張が続くようならからかわれてでも緊張をほぐした方がいいのかもしれない。

俺がそんなことを考えていると、

「でも、士が平気そうにしているのを見てたらなんとなく大丈夫な気がしてきたかも…」

「黒鉄さん、頼もしいです。」

「一番ダメなやつが堂々としてて、私たちだけが緊張しているってのも癪だしね…」

「素直じゃないな~和実は。」

にやにやとした顔で木更津が言う。



ガラガラという音をたて扉が開かれる。

皆、反射的に立ち上がり入室してきた教官に対し敬礼をする。

手に封筒を持った教官が教壇へと歩いていく。そして、教壇の上に立つと返礼する。

教官の手が下ろされるのを確認し、俺たちも手をおろす。

(…いまさらだけど、この世界って帽子かぶってなくても敬礼するんだよな……)

ふと、どうでもいいことが頭をよぎった。

「掛けたまえ。」

教官の声で現実に引き戻される。

(…おっと、集中しないと……)

「「「「失礼します!」」」」

そういって全員が着席する。

「最初の科目は座学だ。お前たちがこれまで学んできたことを十分に生かし、この試験に合格できることを期待する。」

「「「「はい!」」」」

教官は黙って頷くと、問題用紙と筆記用具を配り始めた。

「制限時間は3時間、9時ちょうどに始め、12時ちょうどに終了する。何か質問はあるか?」

せっかくなので手を挙げる。

「黒鉄訓練兵!」

名前を呼ばれた俺は立ち上がり質問する。

「はい! もしも試験が早く終わった場合はどうすればよいのですか?」

「最初の1時間を過ぎれば退室を認める。その際には解答を提出し出来るだけ静かに退室すること。尤も今までに途中退室なんてできたやつはいなかったがな。」

「わかりました。ありがとうございます。」

そう言って着席すると教官の声が響く。

「他に質問はあるか?」

「「「「ありません!」」」」

「では開始まであと5分。静かに待つように。」

……時間が過ぎてゆく。5分がとても長く感じる。

自分の持つ時計を見つめていた教官が口を開く。

「それでは……座学試験…はじめ!」

その言葉とともみんなが一斉にに問題用紙を表に向ける。

(…よし、これなら何とかなりそうだ…)

問題をさっと確認した俺は、そんなことを考える。

あとは問題を解くだけだ。難しすぎるということはないが数が多い。時間切れには注意が必要だろう。

カリカリと文字を書く音が響く。

座学が嫌いな木更津を除いてはおおむね順調のようだ。

この間、木更津に眼鏡のくせに勉強できないのかよ。みたいなことを言ったら本人からすごく怒られた。

軽い冗談のつもっりだったのであれは焦った。

(ッと…そんなこと考えてる場合じゃないぞ…)

この部屋には時計がない。そのため今の正確な時間は分からないがもう時間はほとんど残っていないはずだ。

「それまで! 筆記用具を置くように!」

教官の指示に従い問題を解くのをやめ筆記用具を置く。

教官が解答と筆記用具を回収して回った。

「採点が終わり次第結果を発表する。また、今から午後の試験までは休憩とし、午後の試験はは1時から訓練場で行う。遅れるんじゃないぞ。では総員、別れ!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

全員が立ち上がり敬礼。これで一つ目の科目は終了したことになる。

「どうしましょう…時間がなくって9割くらいしか解けませんでした…」

「あ~、俺もそのくらいだったよ…」

「ふふ~ん、私はちゃんと全部解いたわよ。」

「うぅ~ボクなんて半分ちょっとしか解けなかったのに…」

「そんなに気にすることはないわよ。全員の合計点が300点を超えればいいんでしょ?」

「そうそう、なんとかなるだろ。それより飯に行こうぜ。腹が減った。」

「そうですね、気にしていても仕方ありませんし…」

「そうときまったらさっさと行くわよ。ほら、悠も。」

「うん…」

とりあえず俺たちは昼飯を食べにPXへと向かった。

昼飯を食べている途中で放送が入る。

試験の結果が出たらしい。俺たちは昼飯を食べ終わってから教官のもとへと向かうことにした。

顔面蒼白の木更津も引き連れて4人で結果を聞きに行く。

「ああ、お前たちか。座学試験の結果は合格だ。よくやった。」

あまりにあっさりと告げられた“合格”に遅れて喜びがこみ上げる。

「「「「ありがとうございます!」」」」

みんなで敬礼。木更津に至っては泣きそうな顔をしている。

ちなみに結果は、英田96点、俺85点、柳沢79点、木更津58点で合計318点。

木更津は解いた部分に関しては全部当たっていたらしい。

「この調子で残りの科目も頑張るように!」

「「「「はい!」」」」

こうして俺たちは最初の関門を突破したのだった。



[18607] 第三話
Name: bLob◆3e551d6f ID:a1dbe87d
Date: 2010/05/31 22:12
1999年 元日。

しかし、俺たちに正月を楽しんでいる余裕などない。

変わることと言えばPXでのメニューくらいだ。

昨日の夕食には蕎麦が、今日の朝食には雑煮が付いていた。

そんなことよりも重要なのは衛士転科前総合試験最終日であるということ。

そして、そのすべての科目を終えた俺たちは教官のもとへと集まった。

最後の科目は射撃試験。結果はすぐに出る。

「…発表する。お前たちの射撃試験の結果は……合格だ! これでお前たちは晴れて衛士転科前総合試験に合格した。おめでとう!」

「「「「ッ!…ありがとうございます!」」」」

今まででもひときわ大きい声。俺たちはこれで衛士への一歩を踏み出したことになる。

「それに伴い、本日午後1時ちょうどから戦術機適性検査を行う。昼食を食べたのち実習室へと集合するように。」

「教官、シミュレーター室ではないのですか?」

柳沢が質問する。

「そのまえに強化装備を渡す必要があるからな。シュミレーター室ではなく実習室だ。間違えるんじゃないぞ。」

「「「「はい!」」」」

「他に質問は?」

「「「「ありません!」」」」

「ではこれで解散とする。総員、別れ!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

敬礼をして教官と別れる。俺たちはいつも通りにPXへ向かうことにした。







「ふぅ、これで私たちも衛士の第一歩を踏み出したのね。」

食事をしつつ切り出したのは英田だ。顔には嬉しそうな笑みを浮かべている。

「ボクなんて、途中で何度も諦めかけたよ。」

「私もです。でもやっとここまで来たと思うと感慨深いものがありますね。」

「確かに。でもここがゴールってわけじゃない。気を緩めずにいこう。」

「そうですね。これからも頑張りましょう。」

「そういえば黒鉄、あんた射撃訓練の順位って何番だったの?」

「…2番だよ…柳沢に俺が勝てるわけないだろ。」

「これで士は万年2位になったわけだね。」

「中途半端ね~」

柳沢まで苦笑いしている。

そう、今回、俺は試験内のすべての科目で2位という微妙な成績を残した。

座学では英田に負け、体力では木更津に負け、射撃系では柳沢に負けた。

結果こうして中途半端だの万年2位だのとからかわれているわけだ。

「そんな万年2位の士にはボクのおかずを分けてあげよう。」

そう言って木更津は自分のおかずを俺の皿へと移す。

(…ヤバい、この雰囲気は先手を打たれた!?…)

国連軍の基地じゃないからって油断していた。どうやら“これ”はどこの基地でも恒例のようだ。

「…仕方ないわね。私のも分けてあげるわ。」

英田もそれに便乗する。

「おい!おまえら、んなこと頼んででないだろうが!」

「いやだな~。ボクたちの優しさだよ。優しさ。」

「そうよ。仲間としてのの思いやりの心よ。」

そう言いながらも二人の顔は思いっきりにやけている。

「嘘つけ! おまえら絶対に……ん?」

そこまで言って俺のおかずが更に増えていることに気付く。

視線を移すと柳沢が必死に“すみません”といった感じのジェスチャーをしていた。

さらには、

「おう、訓練兵ども、合格したんだってな。」

背後からの声に振り返ると見覚えのない人が数人。どうやらこの基地の先輩らしい。

「これは俺たちからの餞別だ。」

そう言って俺の皿におかずを増やしていく先輩たち。

みんな顔がにやけている。明らかに何かを期待した様子。

「まぁこれも伝統だからな。頑張れよ。」

そういって俺の肩を叩いて去っていく先輩方。

今日の昼はこんな調子で、俺は普段の数倍の飯を平らげる羽目になったのだった。





昼の休憩が終わって午後。

「うぅ~食いすぎた。くるしい…」

実習室でおれは呻いていた。

「あんなに食べるのが悪いんじゃない。」

「シミュレーターの中よごさないでね~」

全く悪びれた様子のない二人。

「誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!」

「あぅ~すみません。すみません。」

柳沢だけが申し訳なさそうにしている。

「もちろん自己責任でしょ。」

「だね。」

「おまえらなぁ!」

ガラガラガラ…

音を立てて扉が開く。

反射的にいつもの動作をおこなう。

「ふむ、今回の犠牲者は黒鉄か。まぁ頑張れ。さて、それでは強化装備を配布する。名前を呼ばれたものから取りに来るように。」

次々と名前が呼ばれ俺の番になる。

「次、黒鉄 士!」

「はい!」

返事をして強化装備を受け取った。思っていたよりも重い。

「これで全員にいきわたったな。お前たち衛士用の更衣室の場所は分かるな? そこで着替えてもう一度ここに集合するように。」

「「「「了解!」」」」




「絶対こっち見ないでよね!」

恥ずかしそうに英田が言う。

「分かってるよ。いっつも気をつけてるだろうが。」

ここでのいつもとは自分たちの部屋でのことである。

訓練兵なので当然個室などもらえず4人で1つの部屋を使っているのだ。

「ボクなら見られてもいいよ~」

「あぅぅ~悠さん。さすがにそれは…」

木更津はたまにこの類の冗談を言うから困る。柳沢はきっと真っ赤になっているだろう。

「アホなこと言ってないでさっさと着換えろ。遅れたらまた怒られるぞ。」

俺は着替えを続けながら言う。

この手の冗談には最初は戸惑ったが今ではすっかり慣れた。いつも通り適当にあしらう。

「ちぇ~」

ちなみに、この基地に在庫がなかったらしく、俺たちに配布された強化装備は男女ともに正規の衛士が使うものと変わらなかった。

(…残念なような助かったような……)

流石にあのすけすけの強化装備を前にして冷静でいられる気がしない。

(…大体、普通の強化装備でも十分エロいからな……まぁもとはエロゲだからしゃーないか…)

そんなことを思いながらも着替え終わる。

「俺は着替え終わったからさきにいくぜ~!」

3人に呼びかける。

「!…ぇ…わ、分かったわ…先に戻ってて!……」

英田の声。ずいぶん慌てていたようだ。

とりあえず俺は言われたとおりに一人で実習室へと戻ることにした。






「どうした?お前一人か?」

実習室に戻ると教官から質問される。

「はい、自分の方が先に着替え終わったもんで…」

「そうか。まあ分からんでもないがな…」

おそらくこの格好のことを言っているのだろう。訓練兵用のアレではないとはいえ体の線はモロに出る。

きっと恥ずかしがって戻ってくるのを躊躇っているのだろう。

「黒鉄、サイズに問題はないか?」

「大丈夫です。強いて挙げれば腹が苦しいくらいです。」

「ははは、そうか。それでは残りの者が戻ってきたら強化装備の説明と初期設定を行う。それまでは楽にしていていいぞ。」

「分かりました。」

俺はそう言うといつもの自分の席へと座って待つことにした。

そうして待つこと十数分。

「す、すみません遅れました。」

「「すみません…」」

ようやく3人が現れる。3人とも自分の体を抱えて恥ずかしそうにしている。

(…やっぱりエロいよな~。訓練兵用じゃなくて良かったぜ。あれはヤバすぎる…)

3人の姿に見入っていると英田から睨まれた。俺は慌てて視線を逸らす。

「遅い!……と言いたいところだが、私も君たちの気持ちはよく分かる。今回は大目に見るからさっさと席につけ。」

「「「了解しました!」」」

3人は敬礼をするとほっとした様子でそれぞれの席へと着いた。

「オホン! それでは、これより衛士用強化装備についての説明を始める。」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

…こうして俺たちは約1時間ほど強化装備の使いたについて教わった。

その後、各自で初期設定を行い、強化装備の各部に異常がないかをチェックした。

「…さて、これで強化装備についての講義は終わった。次はお待ちかねの戦術機適性検査だ。」

ついにきてしまった。食い終わった直後より幾分かマシとはいえまだ腹は苦しい。

「10分後にシミュレーター室に集合!駆け足!」

「「「「了解しました!」」」」

そう言って敬礼すると俺たちはシミュレーター室へと急いだ。

「流石に緊張するわね…」

「どんな感じなんだろうね?」

「これではじかれたりはしませんよね?」

「まぁ、ここまできたらやってみるしかないんじゃないのか?」

「それもそうね…」

3人は今の格好にある程度は慣れてきたようだ。俺が混じっても普通に会話が続く。

「それでは検査を始める。呼ばれたものから匿体に乗り込め!」

(…いよいよか…さっさと終わらせてしまいたいな…)

「一番目は、英田 和実訓練兵だ。」

「はい!…(うぅ~なんでよりにもよってわたしからなのよ~…)」

一回の検査時間は最大でおよそ30分ほど。戦術機がどのような機動を行っているのかはモニターに映し出され俺たちも確認できる。

(……なんだこんなものか…)

あえて口には出さなかったが、最初に俺が抱いた感想はそんなものだった。

機体が撃震であるということもあってか大して激しい機動ではない。

尤も、もとの世界でACやらガンダムやらついでにエースコンバットやらをやってきた人間から見た感想だが。

機体が撃震なのは、この基地に吹雪がなく他の基地にも余っていないためだ。今から発注したとしてもだいぶ時間がかかるらしい。

そのため俺達はこれからはこの基地の予備機である撃震を使って訓練をすることになる。

(…主脚歩行か…ゲームじゃ間違いなく使わない挙動だな…)

他の人間から見た場合は違って見えるらしい。

「ボク、こんなのに乗って大丈夫なのかな~…」

「うぅ~見てるだけで気持ち悪くなりそうです…」

そんなことをしているうちに匿体が止まる。

英田は開始から16分でリバースして脱落。

続く木更津は開始から18分でリバース。

柳沢はがんばって21分まで粘ったがそこでギブアップした。

「うぅ~気持ち悪い…」

「あの機動は反則よ…」

「シミュレーター怖いです…」

死屍累々。そんな中いよいよ俺の出番となった。

《気持ち悪くなったら遠慮せずに言うように。》

《了解です。》

匿体の中で無線を使ってやり取りをする。

《では健闘を祈る。戦術機適性検査プログラムスタート。》

いきなり視界に景色が広がる。

「こいつはすごいな。自分の目で見ているみたいだ。」

網膜に投影された荒野を撃震が歩く、走る、跳ぶ、撃つ、斬る。

「匿体の揺れもリアルだしシミュレーターとは思えないな。」

しかし、モニターを見て感じたとおり機動自体はそんなに大したものではない。

俺は遊園地のアトラクション気分で適性検査を楽しんだ。

《…以上で検査プログラムを終了する。黒鉄訓練兵は外に出てくるように。》

《了解しました。》

外に出るなり、ジト目×2、尊敬のまなざし×1、感心した視線×1に出迎えられた。

言うまでもないだろうが、ジト目は英田、木更津コンビ、尊敬のまなざしが柳沢、感心した視線は教官だ。

「なんであんただけ平気そうな顔してるのよ!」

「お昼もあんなにいっぱい食べてたくせに~!」

「食べてたじゃなく食わされてたんだよ! お前らは人を陥れようとした罰があたったんだ。少しは反省しろ!」

「黒鉄さん、すごいです。後、お昼は本当にすみませんでした。」

柳沢に頭を下げられる。

「私もゴメンなさい。検査がこんなにきついものだとは思ってなかったから…」

「ボクも…ゴメン…」

それを見た英田と木更津も素直に謝ってくれた。

「いや、まぁ結局こうして何ともなかったわけだし、謝ってもらえたからそれでいいよ。」

3人がほっとしたのが分かる。すると、タイミングを計ったように教官に話しかけられた。

「それにしても黒鉄、このプログラムで全部を平気な顔押して乗り切ったのはお前くらいだぞ。」

「光栄です。」

その言葉を聞いて全員がこれが検査であったことを思い出す。

皆に緊張が走る。それを察した教官が口を開く。

「そんなに緊張しなくても良い。全員“衛士としての資質あり”だ。この検査プログラムの基準値は10分以上耐えられることだ。」

「「「よかった~」」」

全員に安堵の表情が戻る。

「むしろ全員良くやった方だな。これからも気を抜かずに訓練に励めばお前たちはきっといい衛士となれるだろう。」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「それでは今日はここまでにしよう。明日からはシミュレーターを使った訓練に移る。着替えてここに集合だ。では総員、別れ!」

「「「「ありがとうございました!」」」」

言葉に合わせ敬礼するみんなの顔は一様に嬉しそうだった。



[18607] 第四話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/05/31 22:14
「うぉッ…またかよ…はぁ…」

俺達はシミュレーター室の匿体の中で思い思いに機体を動かす。

1999年 1月 3日。正月だろうと三箇日だろうとやることは変わらない。

戦術機の適性を認められた俺達は、シミュレーターでの訓練に移ることとなった。 
本日の訓練内容は“とにかく機体を動かしてみろ”というただそれだけだ。

実際に動かしてみて分かったことだが、戦術機の機動は思っていたよりもはるかに鈍い。

「なんだこの操作感覚…ゲームだったらありえねー…」

予備動作が入るせいか旧OSの機体は反応がワンテンポ遅い。

その上、先行入力もないため複雑な機動をしようとするとかなりシビアな操作が必要になっている。

「ここでこうして…これで……クソッ!…またミスった…」

イライラしながら頭をかきむしる。

「これ、ゲームだったらソッコーやめて売り飛ばしてるだろうな…」

そんな事を言ってみてもこれは現実なのだ。

実戦で機体が動かせなければ自分が死ぬことになる。

それを考えると背筋に悪寒が走る。

「本編と関わる前にお陀仏なんてシャレにならねーな…」

不意に視界端でウィンドウが開き、強化装備の英田の姿が映し出された。

《黒鉄、みんなで一度休憩をとることにしたんだけどあんたはどうする?》

《う~ん、そうだな俺もいったん休憩するよ。》

《分かったわ。じゃあPXで合流しましょ。》

《ん、了解。》

平静を装って通信を切る。

「ふぅ…こっちに慣れるのもまだ時間がかかりそうだな……」

俺は先ほどまで視界に映し出されていた強化装備姿の英田を思い出して呟いた。

さっきの英田の顔も心なしかいつもよりも赤かった気がする。

匿体を降りてPXに急ぐ。

PXにはすでに3人が集まっていた。

「ぉ、お疲れ様。」

「お疲れ様です…」

「ぉ、おつかれ~」

「お、おう3人ともお疲れさん。」

4にんでぎこちない挨拶を交わしあう。

3人とも頬が朱に染まっている。多分俺もなのだろう。

「「「「……」」」」

気まずい沈黙。

「と、ところでみんな調子はどう?」

耐えかねたのか英田が話を切り出した。

「う~ん、あんまりうまくいかないね~」

「そうですね、確かに難しいと思います。」

「私も似たようなものね…黒鉄は割と調子良かったみたいだけど?」

「いや、全然。戦術機の反応がこんなに鈍いとは思わなかったよ…」

「?…そうかしら?…あんなものじゃない?」

「ボクもそう思うけど?」

「私も特に不満は感じませんでしたが?」

不思議そうにこちらを見る6つの目。

(…あ~…なるほど、比較対象がないから感じ方も変わるのか……)

俺は元の世界のゲームの反応が普通であると感じているのに対して、彼女たちにとってはさっきまで操縦していた戦術機の反応こそが普通なのだ。

先ほどの発言をどうやってフォローしようか悩んでいると木更津が口を開いた。

「いくら最新技術の固まりでも自分の手足とおんなじようにとはいかないよ。」

「そうですね、黒鉄さんも早く慣れたほうがいいですよ。」

「ああ、そうだな。がんばるよ。」

「さて、それじゃ訓練を再開しましょうか。」

その一言をきっかけに俺たちは解散しシミュレーター室へと戻った。



「ここで…こうッ!……よし!」

匿体の中で俺は大声を上げる。

延々と訓練に取り組んだ結果ようやく操縦に慣れてきたのだ。

射撃の練習もしておこうと思い、俺は教官へと通信をつなぐ。

《教官、練習用の的を出してもらっていいですか?》

《分かった。少し待て。》

暫くすると何もなかった荒野にBETAを模した的が現れる。

レーダーにもポツポツと光点が現れた。

《黒鉄、兵装はどうする?》

《突撃砲4丁でお願いします。》

確かそんな装備があったはずだ。

《強襲掃討装備だな。了解した。》

自分の機体に4丁の突撃砲が装備される。

俺は順調に機体を走らせる。滑るように移動し、弾丸をばらまく。

36mmのHVAP弾。そして120mmのAPCBCHE弾、APFSDS弾、キャニスター弾、粘着榴弾、HEAT弾。

様々な種類の弾を撃ち、効果範囲や威力を確かめてみた。

「実戦じゃこんなに豪勢に弾を撃つわけにはいかないだろうしな。今のうちに確認しとかないと。」

標的は動きこそしないがその防御力は本来のBETAとそう変わらないらしい。

先ほど要塞級に36mmを撃ち込んだら弾かれた。

「最初こそ苦戦したけど、慣れればゲームと変わらんな…むしろ映像と匿体の動きがリアルな分こちらのほうが上か。」

両手に装備した突撃砲で標的を打ち抜く。

両手の突撃砲の取り回しが間に合わなければ担架の突撃砲で排除。

背後に現れた的は振り向いて撃ち抜いた。

「あー、確か担架の突撃砲って後ろにも撃てたんだよな…」

機体を動かしてからそのことを思い出す。

そこであえて機体ごと振り向いて撃ったのはゲームに慣れてしまっているが故のクセだった。

俺はこの訓練中、そのクセを直すべきかを考えた。

しかし、真後ろに攻撃するという動きにはどうしても違和感が残るため、担架の背後への射撃は極力使わないことにした。

「やっぱり、固定兵装が欲しいよな…あとXM3。」

これが訓練を続けた俺の感想だ。

担架に装備した突撃砲の展開には若干のラグがある。

今回はただの射撃訓練だったから大して問題はなかったが、実戦に近くなれば展開までの数瞬が生死を分けることもあるだろう。

また、この装備だと長刀が持てないというのも痛い。

XM3については言わずもがな。機体の反応速度の向上とコンボの使用解禁に期待している。

「ダメ元で提案してみるか…?」

固定兵装と新OSにはそれだけの魅力がある。

そんな事を考えて一人でうなずいていると教官からの通信が入った。

視界の隅に開くウィンドウとそこに映し出される教官。

《少し早いが今日の訓練はここまでだ。自主訓練をしたければ認めるがほどほどにな。》

《英田機了解!》

《木更津機了解です!》

《柳沢機了解しました!》

それぞれの返事に合わせて視界に次々にウィンドウが開く。

《黒鉄機了解!》

俺も返事をして教官との通信を終えた。

教官を映し出していたウィンドウが閉じる。

残ったウィンドウから柳沢が問いかけてきた。

《私たちは夕食の時間までやろうと思ってるけど黒鉄さんはどうしますか?》

《んじゃ俺も残るよ。やっと面白くなってきたところだし。》

最初こそ反応の鈍さにいらつきこそしたが、慣れてしまえば下手なゲームなんかよりもよっぽど面白い。

結局この日はほとんどの時間をシミュレーター訓練に費やしたのだった。



[18607] 第五話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/05/31 22:17
1999年 1月 6日。

俺達は初日と同様のシミュレーター室での戦術機の操縦の訓練を続けてきた。

そして昨日の午後からは実習室でBETAについての講義と戦術機同士の連携についての講義を受けた。

今日からはまたシミュレーターで小隊単位での戦闘訓練を行うらしい。

今、俺達は着替え終わりシミュレータ室へと向かっている。

「このメンバーで一緒にBETAを相手するのって初めてだよね。上手くできるかな~」

「できるできないじゃなくてやるしかないのよ。」

「皆さんの足を引っ張ってしまわないか心配です…」

やはりみんな不安を抱いているようだ。

「そんなに心配しなくても、みんなでフォローし合えば何とかなるだろ。」

俺はみんなを元気づけようとそんなことを言ってみる。

「ふ~ん。たまにはいいこと言うじゃない。」

「そ~だね。一人で戦うわけじゃないもんね。」

「少し…勇気が出てきました。」

「よっし! みんなでBETAをぶっ潰すぞ!」

「「「おー!」」」



シミュレーター室につき、匿体内で待機する俺たちに教官からの通信が届く。

《それでは訓練を始める。横浜ハイヴからのBETA侵攻を想定した状況、支援はなし、敵の数は約3000だ。》

《CPは私が務める。コールサインは覚えているな。何か質問は?》

《《《《ありません!》》》》

《では、準備しろ。完了次第状況を開始する。》

コールサインは小隊長である英田がクラウド01、木更津がクラウド02、柳沢がクラウド03、俺がクラウド04となっている。

《みんな、いつも通りにやれば大丈夫よ。落ち着いていきましょう。》

《クラウド02了解だよ~。》

《クラウド03了解しました!》

《クラウド04了解!》

《準備はいいな? では状況を開始する!》

俺たちの視界に景色が広がる。俺達は廃墟となった街にいた。

《前方にBETA群を確認。距離2000。数は突撃級が約200。戦域外に光線級を確認。注意せよ。》

CPからの情報が届く。レーダー表示の光点もその情報が正しいことを証明している。

《クラウド02先行します!》

《こちらクラウド04、同じく。》

《クラウド01とクラウド03は援護に回るわ。》

《クラウド03了解です。》

俺は木更津とエレメントを組み主脚移動で先行する。

そして俺たちの後ろには英田と柳沢のエレメントが続く。

装備は俺が強襲掃討、木更津は突撃前衛。

英田は迎撃後衛で、柳沢は打撃支援だ。

《BETA群までの距離のこり1000。数、変わらず。》

情報が更新される。

《よし、全兵装使用自由!!いくわよみんな!》

《《《了解!》》》

俺たち4機は主脚移動から跳躍移動へと切り替える。

《BETA群まであと500。》


一人でならBETA相手の戦闘を何度か練習したことがある。

しかし、小隊単位での戦闘はこれが初めてだ。不謹慎かもしれないが敵が近付くにつれ俺は胸が高鳴った。

俺の機体は長刀を装備していない。だからこそ弾は有効に使いたい。そう思った俺は通信をつなぐ。

《木更津、敵の第一陣を飛び越えるぞ。あまり高度は上げるなよ。レーザーが飛んできてゲームオーバーだ。》

実際に俺はそれで何度か撃墜された覚えがある。

《へ?…ちょっ…ちょっと待って!》

《BETA群までの距離残り100》

《覚悟を決めろ!行くぞ、1、2の…今だ!跳べ!》

《えぇぇいッ!》

俺達は駆け抜けてゆく突撃級の上を飛び越える。

《今だ!突撃砲をたたきこめ!》

《クラウド03了解!くらいなよッ!》

俺もすぐさま反転し一斉射撃を行う。

英田機と柳沢機の支援もありBETAの数は見る見るうちに減っていく。

《CPよりクラウド小隊各期、BETA群の第二陣が接近中。距離1200。数は突撃級100、要撃級300…》

《クラウド01了解!》

《クラウド02了解です!》

《クラウド03了解しました!》

《クソッ…次から次へと…クラウド04了解!》

《こちらクラウド04、クラウド02、今度は飛び越えた後、お前が突撃級の数を減らしてくれ。俺は要撃級を削る。クラウド01とクラウド03は俺たちの援護を頼む。》

《えぇ~!また飛び越えるの!?》

《どうせ訓練だ。失敗しても死にはしないさ。》

《うぅ~。クラウド02了解…》

《クラウド01了解。》

《あの…黒鉄さんの支援はしなくてもよろしいんでしょうか?》

《あれば嬉しいけど、無理して支援を回す必要はないよ。》

《クラウド04了解しました。》

《BETA群まであと500。》

《木更津、さっきとおんなじ要領だ。タイミングはまた教えてやるから。》

《信じてるよ?》

《分かった分かった。》

《BETA群までのこり100。》

《行くぞ、1、2の…今!》

再びBETAの上を跳び越える。

俺はそのまま突撃級を無視して要撃級の群れへと踊り込んだ。

腕を振り上げる要撃級の左横をすり抜け、同時に右手に構えた突撃砲で頭を撃ち抜く。

目の前に現れた個体には展開している兵装担架の突撃砲で対処。

左から距離を詰めようとしていた個体は左手の突撃砲で撃ち殺す。

前に新手が現れる。反転しながら跳躍。要撃級の群れをギリギリの高度で飛び越え4丁の突撃砲で殲滅。

機体の勢いは殺さずに円のような軌跡を描き次の個体へと狙いを定める。

動きは止めずに片っ端から殺してゆく。時折機体を反転させ背後にいた要撃級も撃ち殺す。

構えた4丁の突撃砲が自分の近くにいるBETAから順に減らしてゆく。

木更津たちが突撃級の掃討を終える頃には俺が担当した要撃級の群れもその数を大きく減らしていた。

「よし、これならいける!」

ほんの少しの油断。それがまずかった。

次の瞬間には俺の機体の目の前まで要撃級が迫っていた。

振り上げられる腕。突撃砲はとり回しが間に合わない。

俺は瞬間的に目をつむった。

しかし、しばらくしても衝撃はこない。

目を開けると俺の目の前にいた要撃級は頭をきれいに撃ち抜かれ絶命していた。

《だ、大丈夫ですか?》

《ありがとな、柳沢。おかげで助かった。》

《黒鉄、ボーっとしてないで!次が来るわよ!》

《ああ、悪い!》

すぐに俺は戦闘に復帰する。

《士、動けるんなら手伝ってよ!》

通信を聞き確認すると木更津が孤立しかけていた。

《クラウド04了解!》

「今度は俺が助ける番だよな…」

俺はそうつぶやくと敵のど真ん中で悪戦苦闘している木更津のフォローに向かった。



《BETAの全滅を確認。プログラムを終了する。》

俺達は何とか勝つことができた。4人中3人が撃墜されてしまったが。

木更津はあれから何度目かの突撃級の群れを飛び越える際に、高度が高すぎたためレーザーの餌食になった。

俺は突撃砲の弾が切れ、慣れない短刀で戦闘を続けたが結局、要撃級の一撃を受け大破、戦死。

英田はBETAが全滅したと思っていたところで、生き残っていた光線級のレーザーを受け撃墜。

そして、その光線級を柳沢が倒して訓練終了となった。

強化装備姿で整列した俺達の前で教官の声が響く。

「非常に良い成績で驚いている。特に黒鉄の戦績には目を見張るものがあった。皆も黒鉄を見習い精進するように。以上だ。」

「「「「ありがとうございました!」」」」

俺達は教官に対して敬礼をする。

「ああそれから、黒鉄、あとで私の部屋にこい。話したいことがある。」

みんなが不思議そうにこちらを見る。

俺は先に行っててくれというジェスチャーを送った。

英田が頷き残りの2人を連れて更衣室へと向かう。

「それは今すぐにでしょうか?」

「いや、そういう訳ではない。時間のあるときで結構だ。」

「では夜でも構いませんか? 俺達これから反省会をする予定なもんで…」

「ああ、それでも構わん。」

「分かりました。あとで伺います。では失礼します。」

俺は敬礼をして教官と別れる。

俺は更衣室で着替えてPXへと急いだ。








PXで反省会をした俺たちはそのまま夕食をとり、部屋へと戻った。

その後、俺は約束通りに教官の部屋へと向かう。

3人ともなぜ俺が呼ばれたのか興味があった様子だが俺は“話がある”としか言われていない。

そのことを教えてやると後で何を話したか教えるようにと迫られた。

コンコン。

教官の部屋の扉をノックする。

「どうぞ。」

ガチャリと音を立てて扉を開き、部屋の中へと入る。

「失礼します!」

俺は敬礼をしながら言う。

「ああ、黒鉄か。訓練後に呼んだ件か?」

「はい。」

「そう緊張しなくていい。まぁ座れ。」

教官はそう言って俺に椅子をすすめてくる。

「失礼します。」

俺は素直に椅子に腰かける。

「今日お前を呼んだ理由だが、お前、撃震が扱いにくいとか言っていたそうだな。」

「申し訳ありません!」

俺は頭を下げて謝った。何となく叱られそうな雰囲気だったからだ。

「ああ、いやそうではない。具体的にどのような点が扱いにくいのか聞いてみたいと思ってな。」

(…これはチャンスかもな……)

せっかくなので俺は固定兵装とXM3の概念について熱弁をふるった。

「ふむ、戦術機のシミュレーターに乗ってまだ数日だがもうそこまでのことを考えているのか。」

「いえ、そこまでのことでは…」

勢い任せの説明だったのだがかなり効果があったみたいだ。

「どうだ、お前さえよければ“要望書”として上に提出してみてもよいかと思っているんだが?」

「ぜひお願いします!」

その話に俺は飛びついた。

うまくやれば今の不満が解消されるかもしれないのだ。

「そうか、では早めに書類を作成するように。」

「えッ!?俺が書くんですか?」

教官は眉間に皺を寄せる。

「当り前だろう。手伝いは整備班の連中に頼むといい。私から話は通しておく。」

「…り、りょうかい、です。ではこれで失礼します……」

俺は話を切り上げ教官の部屋から退室した。

「はぁ…」

廊下を歩きながらため息をつく。

「どうすっかな…要望書なんて書いたことないぞ俺…整備の人に聞きゃ分かるかなぁ…?」

面倒なことがふえてしまった。少し前の軽率な行動が悔やまれる。

「…今更断れる雰囲気でもないしなぁ……」

引き受けてしまったものはしょうがない。

俺はもう一度ため息をつき自分の部屋を目指したのだった。



[18607] 第六話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/05/31 22:17
1999年 1月 7日。

朝食を終えた俺はみんなと別れ一人で整備ハンガーを目指していた。

整備班の人たちに要望書の作成の手伝いをお願いするためだ。

ハンガーについた俺を出迎えたのは油のにおいと工具の音そして一人の男の人だった。

歳は50前後。身長は185cmくらい。

体格はがっちりとしていていかにも“職人”といった雰囲気をまとっている。

どうやらこの人が、ここの整備班長らしい。

俺は整備班長に事情をかいつまんで話す。

「ほぉ~う。それじゃあオレたちはその新OSと機体改造の計画書を作る手伝いをすりゃいいんだな。」

「はい、お手数ですがよろしくお願いします。」

教官が話を通しておいてくれたおかげかスムーズに話がまとまる。

「しかし、お前らシミュレーター訓練を始めたところだろうに、よくもまぁ次から次へと案が浮かぶもんだな。」

「ははは…まぁ、いろいろとありまして。」

俺は言葉を濁してごまかした。

実際には俺が案を出したわけではなく、俺は元の世界にあったアイディアをこちらの世界に流用できないかと思っただけだ。

「とはいえ、このままじゃあまりに曖昧すぎるな。もうちょっと形にしたほうが上の食いつきもいいだろう。」

「やっぱりそうですか…」

困ったことになった。

俺はOSの構築ができるわけでも戦術機の設計ができるわけでもない。

形にするといわれてもどこから手をつければいいのか皆目見当もつかない。

「そんなに難しい顔をするな、坊主。そのために俺たちに声がかかったんだろう。」

(…なるほど。整備班に頼むといいと言っていたのはこういう理由か……)

俺は昨日の教官の言葉を思い出して納得した。

「はい。よろしくお願いします。」

俺はもう一度班長に頭を下げた。

「それで、どっちを先に作るかだが、オレはOSの方を先に作った方がいいと思ってる。」

「何故ですか?」

「仮に戦術機の設計を終わらせたとして、その試作機をこの基地で作れるわけじゃない。しかしOSなら話は別だ。」

「コンピューターがあればこの基地でも作れると?」

「そういうことだ。今あるOSをもとに改造していけば試作品ぐらいなら作れるだろう。うちにそういうのが得意なのがいた筈だ。後で話を聞いてみるといい。」

「わかりました。」

「あと、戦術機のほうはとりあえず暇そうなやつに設計させてみよう。OSが片付いてから最終調整すればいいだろう。後で担当のやつを紹介するからそっちで話を詰めてくれ。」

「はい、ありがとうございます。」

次々と段取りが決まっていく中、俺は相槌を打つくらいしかすることがない。

「よし、それじゃあ先に戦術機の担当から紹介しようか。」

そういうと班長は俺の前を歩き始める。俺も遅れないように後に続いた。

整備中の陽炎の前で班長は足を止めた。

「浅井、いたらちょっとこっち来い!」

班長の呼び掛けに応じて浅井と呼ばれた整備兵が戦術機の陰から現れた。

ひょろりとした男。身長は俺と同じくらい。整備班長の横に立つと余計に細く見える。

「なんすか、おやっさん?」

「坊主、こいつが浅井。戦術機の方をやらせるつもりだ。」

「よろしくお願いします。」

浅井さんは何のことかわからないといった風にこちらを見ていた。

「んで浅井、そこの坊主が戦術機の改造案を出したからちょっと設計を手伝ってやれ。」

「手伝ってやれって……そんなこと言って結局おれにほとんどやらせる気でしょ?」

「わかってるじゃないか。どうせお前にとっては仕事半分、遊び半分だろう。」

整備班長は笑みを浮かべながら言った。

「よくご存じで。」

そう言って浅井さんはにやりと笑う。

「普段の仕事を優先しろ。こっちは空いた時間でやってくれればいい。」

「りょーかいです。」

「んで、坊主、どんな風に改造したいんだ?」

「え、あ、ええ、そうですね。とりあえず撃震をベースにして頭に機関砲を、あと胸に120mm位の砲をつけられないかと。」

唐突に話を振られた俺は戸惑いながらも要望を伝えた。

「えらく大雑把だな。まぁいいや。どうせ設計していくと問題が出てくるだろうからそしたらまた訊きにいくわ。」

「あ、はいお願いします。」

俺は頭を深々と下げる。

「あいよ。いいもん作ってやるから楽しみにまってな。」

浅井さんはそう言い残すとまたもとの場所へと戻っていった。

「次はOSの方だな。坊主、行くぞ。」

そう言ってまた歩き出す班長。俺もまたそのあとへと続く。

次に班長に連れられてやってきたのはハンガーの片隅にあるコンソール。

ハンガーのほかの場所と比べるとここは幾分か静かだった。

ちょうど作業中なのかキーボードを打つカタカタという音が響いている。

「おい、熊谷ちょっとこっちにこい!」

班長がそういうとコンソールに向かっていた整備兵が立ち上がってこちらへと歩いてくる。

今度の整備兵は大きい。整備班長と比べてもまだ一回りは大きい。

普段からソフト関連の調整を担当しているのか作業服は他の人のものよりも綺麗だった。

「おい、熊谷!しゃんとしねーか!」

「す、すみません……」

班長に怒鳴られ熊谷と呼ばれた整備兵はあわてて背筋を伸ばした。

背が丸まっていたのはいつもコンソールに向かう仕事をしているからかそれとも気が弱いからか。

おそらくはその両方なのだろう。

「坊主、こいつが熊谷だ。腕のほうは確かだから安心していいぞ。」

「よろしくお願いします。」

今日の俺はこの台詞ばかり言っている気がする。

俺は、熊谷さんにも先ほどと同じように要望を伝える。

予備動作のキャンセル、先行入力、コンボ。

XM3に搭載されていた機能を思い出しながら言葉にしていく。

熊谷さんは“頑張ってみる”という一言を残して仕事へと戻って行った。

「戦術機はともかく、OSはあまり期待できないだろうな…」

自分の要望を伝えて回った俺はふとそんなことを呟く。

熊谷さんの腕を疑っているわけではない。

少なくともここの整備班のリーダーが推す人物なのだから腕は確かなのだろう。

しかし比べる相手が悪い。

確かXM3は夕呼さんが開発していたはずだ。

白銀の案をあそこまでの形にできたのは夕呼さんだからこそだ。

一介の整備士が同じものを作れるとは到底思えない。

俺の前を歩いていた整備班長が振り向く。

「さて、これで用事は終わったな。坊主、あとは好きにしていいぞ。なんかあったら呼びに行くからな。」

「何か俺に手伝えることは…」

「ないな。」

即答される。ちょっとへこむ。

整備班長は言葉を続ける。

「素人が簡単にできるようならオレ達玄人は商売あがったりだろうが。お前が案を出す。俺達はそれを形にする。それでいいんだよ。」

「じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。」

無理に手伝おうとしても足を引っ張るだけだろう。

「おう任せとけ。っと、もうこんな時間か。オレもちょっと用事があるんでな、今日はここまでだ。」

「はい、ありがとうございました。」

「んじゃ、訓練頑張れよ。」

そう言うと整備班長は俺に背を向け歩いて行った。

時計を見ると昼を少し過ぎたくらいだ。

今から昼食をとれば午後の訓練には間に合うだろう。

そう思い俺はPXへの道を急いだ。




[18607] 第七話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/05/31 22:18
「うおッ! 危ねぇッ!」

俺が様子をうかがおうとした瞬間、間髪入れずにペイント弾が飛んでくる。

正確に俺の乗る機体の頭部を狙った射撃。

もし当たれば大破の判定が下されるだろう。

1999年 1月 10日。

ようやく俺達に戦術機が配備され、今は実機訓練の真っ最中だ。

チーム編成は英田&柳沢の第一分隊 VS 俺&木更津の第二分隊。

《木更津! 動けるか!?》

《むり! ムリ! 無理! 頭出したら狙い撃ちにされちゃうよ!》

俺たちに配備された機体は予想通りに撃震だ。

「この機体だと向こうのほうに分があるんだよな……」

撃震の運動性では近づく前に狙い撃ちにされる。

今のように機体の足が止まっている状態からでは尚更だ。

「せめて陽炎か吹雪あたりだったら……」

そんなことを呟いてみるが、それで状況が変わる訳もない。

《木更津機、左腕部に被弾。小破。》

教官の声が無線越しに響く。

「このままじゃジリ貧だな…さて、どうしたもんか……」

俺は頭の中で今の状況を整理することにした。



―― 現時刻より遡ること少し前 ――

《説明は以上だ。何か質問は?》

《《《《ありません!》》》》

教官からの説明を受けた俺達は声を揃えて返答する。

《では今から五分後、1010をもって状況を開始する。実機での演習はこれが初めてだ。各員十分に注意し訓練にあたれ。これより先、相手チームの無線を聞くことはできない。留意するように。》

《クラウド02了解です!》

《クラウド04了解!》

おそらく英田と柳沢も同じように返答しているのだろう。

演習の開始までまだ少しの時間がある。

俺は念のために機体の状態を確認しておくことにした。

各種センサー類、異状なし。

レーダーレンジ、レーダーゲイン、ともに適当。

各装甲、異常なし。

各関節部、異常なし。

通信機器類、異常なし。

跳躍ユニット、異常なし。

推進剤、満載。

兵装担架、異常なし。

36mm突撃砲、異常なし。

弾薬、36mm、120mmともにペイント弾、異常なし。

安全装置、解除。

長刀、短刀、ともに模擬刀、異常なし。

全てが機体に乗り込んですぐに一度確認した項目だ。

そうそう異常など見つかりはしない。

そう思いつつもウインドウに表示されるログを目で追い確認していく。

言ってみればただの暇つぶし。

ただ、なにもせずにじっと待つというのは苦手だ。

作戦は訓練前に打ち合わせてある。

最も2機編成では作戦も何もないと思うが…

《1010だ。これより状況を開始する。》

教官の声。訓練開始だ。

今まで確認していたログを閉じ、臨戦態勢へ。

《木更津、索敵に移るぞ。》

《了解!》

2機揃って、主脚で移動しつつ敵を探す。英田も柳沢も射撃の方が得意だ。

今頃はどこかに隠れて機会を窺っているのだろう。

「探し出すのは面倒くさそうだな…」

しかしそんな俺の予想は外れた。

レーダーに映る光点が一つ。

そう、一つ。

明らかに怪しい。

というより十中八九、罠だろう。

通信が入る。嫌な予感しかしない。

《敵機確認! 戦闘に入ります!》

木更津が敵機を追い始める。

《なッ! ちょっと待て! 明らかに怪しいだろうが!》

《そんなこと言ってたら勝てないよ~! ほら、言うじゃん。虎穴に入らずんば虎子を得ずって。》

木更津は機体を止めるつもりはないようだ。

「クソッ!」

俺も木更津の後を追う形で機体を走らせた。

さすがに開始早々2対1の状況になることは避けたい。

木更津が止まる気がない以上俺が支援せざるを得ない。

「あの機動は…英田だな。」

敵機の動きからして操っているのは英田で間違いない。

「ということは、英田が誘いだして柳沢が狙撃ってことか…」

2機編成で取れる作戦などせいぜいその位だ。

「柳沢の腕を考えりゃそれだけでも十分脅威だけどな…」

俺はレーダーの索敵範囲を広げる。

「柳原の位置が分かれば儲けもんなんだが…」

しかし、こうも障害物が多いと期待できないだろう。

英田は俺たちを障害物の多い方へと誘い込んでいる。

判ってはいるのだが、機体の性能差が存在しないため、なかなか距離は縮まらない。

俺も木更津も追いかけながら発砲を繰り返しているが決定打はおろか命中させることすら儘ならない。

「そろそろヤバいか?」

レーダーに目をやると光点が一つ増えている。

俺たちを狙撃するために、隠れていた柳沢機が姿を現したのだ。

《木更津、隠れろ!》

《へ、うわっ!》

俺はとっさに木更津に呼びかけた。

同時に俺も手近な障害物に機体を隠す。

ほぼ同時に一発の砲声。

柳沢はどうやら俺を狙ったらしい。

俺が隠れた障害物のすぐ近くにペイントが付着していた。

気づくのがあと数瞬遅れていればアウトだっただろう。

木更津が隠れた障害物との距離はおよそ200m。

俺が隠れた障害物からみて10時の方向に木更津がいる。

今まで木更津が追いかけていた英田機も反転して木更津に対して牽制を加えている。

完全に分断された形になった。


―― そして現在に至る ――

「向こうの作戦通り…とまではいかなくともかなり厳しいよな、これは…」

向こうの作戦通りであれば俺は今頃落とされているだろう。

そういう意味では不幸中の幸いとでもいうべきか。

「さて、どうしたものか…」

装備は俺が強襲前衛、木更津は突撃前衛。

英田は打撃支援で柳沢はおそらく砲撃支援。

相手との距離はおよそ800m。

支援突撃砲でもないと撃ち合いは厳しい。

「何とか接近するしかないよな…」

先ほどから何とかここから動けないか試しているがうまくいかない。

少し動こうとしただけで正確に頭部めがけてペイント弾が飛んでくる。

「待てよ…正確に頭を狙ってきているということは…」

俺の中で一つの案が浮かぶ。

《木更津! 合図したらそこから飛び出して柳沢をを狙え。俺は英田を何とかする。》

《ここから、何とかできるの!?》

《分からん! でもこのままだと何もしなくても負けるぜ?》

《…分かった。ボクは薫を狙えばいいんだね?》

《そうだ。そっちは任せた。》

俺は両手の突撃砲を破棄し、長刀を右肩に担ぐように構える。

「さて、行くか!」

俺はその体勢のまま隠れていた障害物から飛び出す。

予想通りに頭部への正確な狙撃が飛んできたが、構えた長刀に阻まれ決定打にはならなかった。

攻撃が失敗に終わったことによる一瞬の隙。

被弾した長刀は即座に破棄し、英田機への距離を詰める。

もともと木更津の動きに意識を向けていた英田は俺への反応が遅れる。

《今だ!》

木更津へ合図を送る。

打ち合わせ通りにもう一機の撃震が障害物の陰から飛び出す。

英田は接近する俺に気を取られ、柳沢はどちらを狙うべきか逡巡する。

俺は英田機にさらに接近、もう一本の長刀を振り下ろす。

《英田機、管制ユニットに被弾、大破。戦闘続行不能。》

教官の声で英田機の大破判定が告げられる。

「よっしゃッ!」

そう思ったのも束の間。

《黒鉄機、頭部及び大腿部に被弾、大破。戦闘続行不能。》

柳沢機からの狙撃。

そして、俺への狙撃を終えた柳沢機のすぐそばには木更津機。

《くらえッ!》

連続する砲声と砲炎。

《柳沢機、管制ユニット他多数に被弾、大破。戦闘続行不能。第一分隊の全滅につき第二分隊の勝利とする。》

《よっしゃー!》

《やったね、士!》

《途中までは上手く行ってたのに…》

《とっても悔しいです…》

《ご苦労だった。午後からは整備訓練だ。昼食を取った後整備ハンガーに集合するように。》

結果に一喜一憂する俺たちに教官からの通信が入る。

俺たちは機体をハンガーに戻し、着替えるために更衣室へと向かったのだった。




[18607] 第八話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/06/01 22:29

―― 同日 午後 整備ハンガー ――

俺たちは整備ハンガー集まっていた。

あちこちから工具の音が響き、油のにおいが漂う。

しかし、どこに行き、何をすればいいのか分らない。

ほったらかしにされているという感じだ。

そんな俺たちの前を通りがかったのは“おやっさん”こと整備班長だった。

「ん? 坊主こんなところで何してんだ?」

「ああ、曹長。俺達、次整備実習なんですけど、ここに集まれとしかいわれてなくて…」

ちなみに曹長は整備班長の階級だ。

他の三人は俺の後ろで俺と班長のやり取りを眺めている。

「……あ~、スマン。そういやそうだったな。見てのとおり忙しくてな、すっかり忘れてた。」

そういうと班長はバツが悪そうな顔をする。

「お前らの整備訓練を引き受けると言った後で、整備計画の変更案を出すように上からお達しがあってな…」

「そういえば、昨日の訓練の後ぐらいに戦術機が運び込まれてましたね。」

計画書の作成を手伝ってもらうことになった日以降、俺はちょくちょく整備ハンガーに足を運んでいた。

尤も、俺にできることなど皆無で、作業を横で見ているくらいしかできなかったが、それでも任せっぱなしというのは気がひけた。

「ああ、お前らが訓練している間にも4機が運ばれてきた。」

そう言って班長はハンガー内の一角を指さす。

そこに立つのは97式戦術歩行高等練習機“吹雪”。

一昨年、1997年に正式配備となった機体であり、練習機でありながらその性能は撃震よりも高い。

カラーリングはグレーを基調としており、右肩の装甲には日の丸がペイントされている。

「ボクたちのですか!?」

木更津が訊ねる。その眼には期待の色が見て取れた。

「残念ながらハズレ、だ。」

「私達以外にだれが使うんです? 正規の衛士を乗せて戦力として運用するんですか?」

英田も口を開く。

「それも違う。あれは相馬原基地の訓練隊所属の機体だよ。」

「私たちは合同訓練の予定など聞いていませんが?」

柳沢は少し遠慮がちに訊ねた。

「いや、なんでも戦力の再編だそうだ。」

「再編? 何かあったんですか?」

ここ最近、帝国軍が大きな損害を受けたという情報は聞いていない。

「ああ、少し前から横浜ハイヴのBETA群が活発化してるらしくてな。」

「活発化…ですか?」

その言葉に不安を覚える。

「ああ、しばらく様子を見ても収まる気配がないもんで、少しでも戦力をこちらに集めておくことにしたらしい。」

「訓練部隊まで…ですか?」

「本当にぎりぎりの状況になったらそんなことも言ってられないんだろうよ。」

その言葉をきっかけに空気が沈む。

「そう暗くなるな。今すぐ実戦って訳じゃないんだからよ。」

「そ、そうだよね!」

木更津が努めて明るく同意する。

場の空気が少し軽くなった気がする。

「そういや、再編で思い出したんだが、最近、国連軍の基地にアメリカ軍の機体が次々と駐留しているらしい。」

「!」

米軍と聞いて思い出すのはG弾の存在。

(…使用されるのは確か1999年の明星作戦……って今年じゃねえかよ!)

訓練兵生活になじみ過ぎて危うく忘れかけていた。

「? 坊主どうかしたのか?」

「い、いえ、日米安保を一方的に破棄しておいて今更なにを、と思っただけっすよ。」

「確かにな。まあ国連軍に対する戦力支援の名目らしいから俺たちにはどうすることもできねえよ。」

「そうですね。」

「それに、今の内閣には親米派の連中も多いしな。何にもする気なんかないだろうぜ。」

人により温度差はあるがやはり米国を快く思わない人は多いらしい。

不穏な空気を振り払うかのように柳沢が聞いた。

「えっと…それで、相馬原の訓練隊の方は…?」

「ん、ああ、近いうちに着任すると思うぜ。一応予定では明日になってたはずだ。」

「楽しみだね~。どんな子が来るのかな?」

「人数が増えれば訓練にも幅が出そうね。」

「うまくやっていけるのか心配です…」

感じ方は三者三様。

ちなみに俺の心境としては木更津に同意だ。

「…それで班長、整備訓練はどうするんですか?」

俺は話題を戻すべく班長へと話を振る。

「そうだな…お前らの機体にそれぞれ担当の整備員が付いているだろうから…」

話の途中で言葉を止める班長。

そして少し考えた後再び口を開く。

「いや、その前にペイント落としだな。」

悪戯っぽい笑みを浮かべながらの提案。

「少し整備班の苦労を味わってこい。それが終ってからその整備員にいろいろと教えてもらえ。」

嬉しそうな英田と今にも泣きそうな柳沢が対照的だ。

俺の被弾数はは2発。木更津は1発だけ。

英田は長刀で撃墜されたためペイントの付着はほぼ皆無。

対して柳沢は36mmの斉射によって機体にペイントの斑模様が描かれている。

「…悠ちゃん、酷いです……」

柳沢にジト目で睨まれ、しどろもどろになる木更津。

「いや、ほら、こんなことになるとは思ってなかったし、やれって言ったのは士だし!」

見事なキラーパス。

「…士さん……」

「いや、俺は作戦考えただけで、36mm使ったのは木更津の判断だ!てか、仲間を見捨てた英田が悪い!」

柳沢にジト目で睨まれると怖い。

本気で刺されるかと思ったほどだ。

という訳で耐えきれなくなった俺は英田に振る。

「そ、そうだよ!一人だけほとんど機体汚れてないし!」

木更津の援護射撃!

「…和美ちゃん……」

ジト目。

「……」

目をそらしつつ沈黙を貫く英田。

「…か~ず~み~ちゃ~ん?……」

もっとジト目。

「…分かったわよ! 自分“達”の分を終わらせたら薫の分も手伝うから!」

英田、陥落。

「はい。ありがとうございます。」

一転して笑顔。すごくいい笑顔。

女って怖いね。

「ん、てか英田さっき自分“達”って言ったよな?」

「そ、もちろんあんたと木更津も含んでるわよ。」

「くッ!謀ったな英田!」

「和美ひど~い!」

「お二人とも、ありがとうございます。」

笑顔。

「それともまた薫に睨まれたいの?」

英田が耳打ちしてくる。

「はぁ~仕方ないか…」

「だね。」

結局おれたちは柳沢の分も手伝うことになり、ペイント落としのために多くの時間を費やしたのだった。




[18607] 第九話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/06/05 22:03

―― 1999年 1月 11日 ――

教官からの連絡を受けた俺たちは実習室へと集まっている。

昨日の整備班長とのやり取りを考える限りでは、おそらく相馬原基地から来るという訓練兵たちの紹介だろう。

どんな人が来るのかという好奇心とうまくやっていけるかという少しの不安。

他の3人も似たような気持なのだろう。

先ほどからそわそわとして落ち着かない。

「昨日、曹長殿から話は聞いたそうなので、細かい話は省くが、訓練隊に新しい訓練兵が配属されることになった。」

何度も言うが、曹長とは整備班長のことである。

教官の階級は軍曹であるため班長の方が階級は上だ。

「早速だが新しい訓練兵の紹介を行う。お前たち、入ってこい!」

教官の声に従い俺たちと同じ制服を着た人たちが室内へと入ってくる。

「1、2、3、……5人か…って、おいおい…」

俺は入ってきた人数を数える。

男1人、女4人の計5人。

それはいい。

問題は俺が全員の顔に見覚えがあること。

全員が“終わりなき夏 永遠なる旋律”のキャラクターだ。

「…これは想定外だな……」

まさか本編やTE以外のキャラクターと出会うとは思わなかった。

「お前たち、自己紹介をしろ。」

教官が促す。

「はい、オレは冬馬 巧 (とうま たくみ)と言います。訓練部隊に配属される前には中央の音楽隊にいました。よろしくお願いします。」

そう言って頭を下げる冬馬。

「冬馬は兵長だ。訓練課程を卒業するまではお前たちの上官に当たるので粗相のないように。」

教官が冬馬兵長の自己紹介を補足する。

「い、いえ、上官としてよりは、同じ隊の仲間として接してもらった方がやりやすいですし、向こうでもそうでしたから…」

「ふむ、お前自身がそういうのであれば別にかまわん。ただしけじめだけはつけるように。」

「「「「分りました!」」」」

「つぎは…」

「はい。雨宮歌音(あまみや かのん)です。みなさんとも仲良くやっていければと思います…よろしく。」

淡々とした自己紹介。

「うむ、では次。」

「はい! 折原藍(おりはら あい)です。軍に入る前は大阪、その前は九州にいました。皆さんよろしくお願いします。」

緊張した声でそういうとペコリとお辞儀する。

「折原は向こうでの訓練でも非常に良い成績を残している。お前たちも彼女から学ぶことは多いだろう。」

「いえ、私はやるべきことをやってるだけですから。」

教官の言葉に対してそう答えた折原からは自信のほどを見てとれる。

「頼もしいな。では、次。」

「はい!越野可憐です!部隊では主に前の方を担当してます!よろしくお願いします!」

元気な声が響く。

「元気があってよろしい。では次で最後だな。」

「は、はい!澪は小鳥遊澪(たかなし みお)といいます。皆さんよろしくお願いしましゅっ!」

噛んだ。

「はうぅ~……」

頭から湯気でも出てくるんじゃないかと思うほど顔がすごく赤くなっている。

小鳥遊には悪いけど見てて和む。

いかにもマスコットといった感じだ。

「これで、相馬原基地の連中の自己紹介は終わったな。では次はお前たちの番だ。」

教官に促され、俺たちも順に自己紹介を済ませる。

俺の自己紹介が終わったところで教官が口を開いた。

「以降、冬馬の小隊を第1、英田の小隊を第2訓練小隊とし全体を訓練中隊とする。中隊の指揮は冬馬、おまえが執れ。」

「分りました。」

「では、互いに自己紹介も終わったところで、早速訓練に入るとしよう。」

「訓練とは、実機で行うのでしょうか?」

切り出したのは折原。

初めての場所で、この物怖じしない態度は流石というべきか。

「いや、今日はシミュレーターで訓練を行う。」

「「えぇ~!」」

声を上げたのは木更津と越野だ。

この二人はお互いに気が合いそうな気がした。

「二人とも落ち着け。」

「なんでですか!? ボクたち昨日やっと実機訓練ができるようになったばかりなんですよ!」

俺も木更津の気持ちは分らなくもない。

やはりシミュレーターと実機では操作感覚が少し違う気がするのだ。

できることなら少しでも実機に乗って慣れておきたい。

尤も木更津がそこまで考えているのかははなはだ疑問ではあるが…

「そうです! あたしたちだってこの間、実機訓練の許可が下りたばかりなんですよ!」

「落ち着けと言っている!」

一喝。

教官に詰め寄っていた2人はすぐに大人しくなった。

「私もお前たちには少しでも実機に乗って早く慣れてほしいと思っている。だが残念なことに今は人数分の機体がない。」

「?…私たちの機体は既に搬入されていると聞きましたが?」

雨宮が不思議そうな顔をして訊ねる。

「搬入はされているが、まだ起動できる状態ではないらしい。」

「あれ? もう組みあがってたみたいでしたけど?」

俺も疑問をもったのできいてみる。

「点検がまだ済んでいないということだ。」

「それじゃ仕方ないわね。では着替えてシミュレーター室に集合ですか?」

話をまとめる英田。

この辺は小隊長っぽいと思う。

「ああ、そうだ。1100までに集合するように。」

「「「「「「「「「了解しました!」」」」」」」」」






俺たちは歩きながら更衣室へと向かう。

今が1030を少し過ぎたところなので集合時間にはまだ余裕がある。

集合時間を遅めにしたのはおそらく冬馬達に基地を案内しながら移動できるようにだろう。

一番先頭では英田が基地を案内しながら歩き、折原と雨宮がその案内を聞いている。

その後ろには柳沢と小鳥遊が並んで歩いている。

自己紹介の時には何も思わなかったけどあの二人も相性がよさそうだ。

その後ろで騒いでいるのが木更津と越野。

どうやら基地内の噂話を教えているようだ。

その後ろにいるのが手持無沙汰の男二人。

「兵長殿はあの中の誰と付き合っておられるのですか?」

自己紹介の時から気になっていたこと。

せっかくなので冗談めかして尋ねてみた。

「兵長殿はやめてくれ。こっちが恥ずかしい。」

「んじゃ、なんて呼べばいい? 冬馬兵長、冬馬殿、冬馬さん、冬馬……」

思いついた名称を適当に挙げていく。

「巧でいい。そう呼ばれるのに慣れてるからな。」

「敬語は?」

「いらない。その代わり俺も士って呼び捨てにさせてもらう。」

「どうぞご自由に。んで、本題だけど誰と付き合ってんだ?」

もう一度尋ねる。

「なッ!馬鹿、誰とも付き合ってねーよ!」

巧のかおがみるみるうちに赤くなった。

ということは大神部長かリーゼのルートなのだろうか。

「ってことは、部隊外の女の子と…」

「だから誰とも付き合ってなんかねーし、付き合ったこともねーって!」

「本気で?」

「ホントだよ。なぁいい加減この話題から離れようぜ…」

おそらく嘘はついていない。

本当にまだ誰とも結ばれてはいないのだろう。

「いや、悪かった。ちょっと悪ふざけが過ぎた。」

俺は素直に謝っておくことにした。

こんなことで今後の人間関係に支障をきたしたら堪ったもんじゃない。

話しているうちに更衣室へとたどり着く。

どうやら知らず知らずのうちに置いていかれていたらしい。

周りに女子たちの姿はなかった。

「っと着いたぞ。ここだ。」

「おう、ありがと。」

ガチャリと音をたてて巧が扉を開ける。

「「「「キャーーーーーーーー!!!」」」」

「うわッ! す、スマン!」

黄色い悲鳴が響き、巧があわてて扉を閉める。

「士、おまえなぁ……!」

「?……どうしたんだ? 悲鳴が聞こえたみたいだが?」

「どうした? じゃねえ!ここは女子更衣室じゃねえか!」

「?…相馬原は男女で更衣室が分かれてたのか?」

「当り前だろうが!」

後で知ったことだが、相馬原の訓練部隊の施設は、元々あった学校を接収し改修して訓練施設としている。

そして、一部の設備は学校時代のものをそのまま転用しており、男女で更衣室が分かれていたらしい。

そのため、男女の更衣室は分かれていて当然だと思い込んでいたということだった。

「…まぁ更衣室のことは慣れてもらうしかないな……今日は女子が着替え終わるのを待つか。」

「…ああ、そうしてくれ……」

巧は真っ赤な顔をして、疲れた声でそういった。



[18607] 第十話
Name: bLob◆3e551d6f ID:258374a3
Date: 2010/06/05 23:32
「黒鉄! 遅いわよ!」

シミュレーター室に着くなり英田から叱られる。

俺だけが名指しなのは、階級を持っている巧に注意するというのは失礼だと思ったのだろう。

あの後、俺達は女子が更衣室から出るのと入れ替わりに更衣室を使い、大急ぎで着替えた。

そして、基地に不慣れな巧を連れて大急ぎでここまでやってきたのだ。

「まだ57分。ギリギリセーフだ。」

視界の端に時計を表示しそれを見て答える。

「まあいいわ。私もあの悲鳴には驚いたしね。」

悲鳴を上げた4人はまだ顔を赤くしており口数も少ない。

ちなみに強化装備の色は黒。

俺がこちらに来てから訓練へいようの強化装備は見たことがない。

「整列!」

教官が近付いてきていることに気づいた英田が号令をかける。

前が第1小隊で後ろが第2小隊の2列横隊。

「敬礼!」

英田の声に合わせて敬礼し、返礼を待って手を降ろす。

「ではこれより訓練を行う。筐体は第1小隊から順に1番から9番までを使用するように。では、総員、かかれ!」

俺たちは教官の言葉に従いそれぞれの筐体へと向かった。






《では、状況を開始する。諸君らの健闘を祈る。》

筐体の中でしばらくブリーフィングを行い、いよいよ状況開始となった。

盆地での対BETA戦。

敵は連隊規模、約2500だ。

また、今回の訓練では回数に制限はあるものの、要請によって支援砲撃が受けられるらしい。

編成は次のように決まった。

左翼突撃前衛が折原と越野。

強襲前衛に俺と木更津。

強襲掃討に小鳥遊と巧。

迎撃後衛に雨宮。

打撃支援に英田と柳沢という編成だ。

エレメントは崩しておらず、雨宮は巧と小鳥遊との3機編成を組むことになる。

また、コールサインは各小隊が使っていたものをそのまま使うことにした。

《前方にBETA群。数はおよそ800、距離2000。光線級の存在は不明、注意されたし。》

レーダーに敵を示す光点が現れる。

《ストリング01了解。全機、菱型壱陣。いくぞ!》

《《《《《《《《了解!》》》》》》》》

《藍さん、よろしくお願いします!》

《ええ可憐、こちらこそよろしく。それと、後ろの二人、足を引っ張らないようにね。》

後ろの二人とは俺たちのことなのだろう。

《ちょっ、藍さん……》

越野が折原をたしなめようとするが折原はそのまま話を続ける。

《良いのよ、私たちはもうチームなんだから。不安な部分はちゃんと言っておかないと。》

その言葉に腹を立てた木更津が反論する。

《ムッ…そっちこそ突っ込み過ぎて落とされないようにね!》

《お前もだぞ、木更津。》

《うわ、士が裏切った!》

《馬鹿言ってないで集中しろ! もうそろそろ接敵するぞ!》

メインカメラが山の間を抜け接近するBETA群をとらえる。

最前衛を構成するのは例によって突撃級の群れ。

《来たわね!ストリング03、先行します!》

《ストリング04、続きます!》

《こちらストリング02。藍、可憐、無理しちゃダメ。黒鉄さん、木更津さん、二人をよろしく。》

《クラウド04、了解。任せてください。》

《……クラウド02、了解……》

不承不承といった感じに木更津も了解する。

《こちらストリング03、可憐と一緒に突撃級の上を飛び越えるわ。支援をお願い。》

《クラウド04、了解。》

《ストリング01、了解だ。》

《クラウド01、わかったわ。》

「さて、こいつらを正面から相手するのはきついんだよな…」

視界に表示される照準の形が変わり、BETAが36mmの有効射程に入ったことを教えてくれる。

各々が無線で攻撃を開始することを伝え合う。

俺もその旨を無線で伝えると36mm砲を構えた。

狙うは脚部。

的としてはかなり小さいが甲殻に覆われておらず、36mmでも十分有効だ。

狙いを定め、引き金を引く。

劣化ウラン弾が地面を抉り、その一部は突撃級の足を抉る。

6本の脚のうち片側の3本を潰された突撃級はバランスを崩し地面へと転がる。

ほぼ同時に他のいくつかの個体も他のやつらの攻撃によって動きを止めた。

俺はすぐさま別の個体へと狙いを変え再び引き金を引く。

接敵からほんの10秒ほど。

倒した個体は決して多いわけではない。

しかし、戦闘不能となったBETAの残骸は障害物となり、他の突撃級の隊列を乱す。

《可憐、行くわよ!》

《はい! 了解です!》

その隙を突き、折原と越野が突撃級の上をギリギリで飛び越える。

そしてすぐさま反転。

《このぉぉぉッ!!!》

《倒れちゃえ!!!》

掛声とともに無防備な突撃級の背中に劣化ウラン弾の雨を降らせた。

最初は300ほどいた突撃級は次第にその数を減らす。

元の6割ほどを倒したあと、折原と越野は攻撃を中止し、後続のBETAに対応するために再度反転する。

それと入れ替わるように俺たちも突撃級の背後に回り込み追い打ちをかける。

ある程度まで数を減らしたところで、残りを中衛に任せ俺たちも反転。

メインカメラがとらえたものは赤と白と緑。

要撃級と戦車級のお出ましだ。

《ストリングス01より各機、陣形変更。菱壱型から楔弐型へ!》

巧が指示を出し、陣形が組み換わる。

《木更津、行くぞ!》

《了解!》

前衛4機と無数のBETAの格闘戦が開始される。

要撃級には36mmで対応し、時折、戦車級の群れに120mmキャニスター弾を撃ち込み足場を作る。

《きゃッ!》

越野が発した短い悲鳴。

俺は、反射的にそちらを確認しようとした。

一瞬の隙。

目の前の要撃級が俺の機体の管制ユニットを狙い腕を振り上げる。

だが、次の瞬間、振り上げた腕は力を失い垂れさがった。

《だ、大丈夫、ですか…?》

無線越しの小鳥遊の声。

すぐに俺は小鳥遊に助けられたのだと理解した。

《ああ、おかげで助かった。ありがとう。》

《澪は、やればできる子。》

雨宮が通信に加わる。

《い、いえいえ私なんて……》

当然、会話中も戦闘は続いているため手を休めるわけにはいかない。

《す、すみません…お騒がせしました。》

越野からの通信。

先ほどの悲鳴は大したものではなかったらしい。

………

……



その後も俺たちは順調に訓練をこなしていった。

途中、光線属種や要塞級の出現など、何度も危ない場面に見舞われた。

終了時の損害は中破が5機、小破が2機。

損害の主な原因は折原と木更津のチームワークだ。

あの二人はどうにもそりが合わないらしい。

今後、問題が起きる前になんとかしたほうが良いだろう。

他にもいくつか問題はあったが、連隊規模のBETAを相手に、被撃墜機なしというのは十分な戦果だ。

その点については教官からも褒められた。

午前の訓練を終え解散した俺たちは遅めの昼食と反省会を行うためにPXへと向かったのだった。



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