……昨日は何時に眠ったのだろうか…?
いつも通りの日常。
朝起きて、学校へ行き、退屈な授業を受け、そして帰る。
何も変わらない日常。
学校で出されたレポートを片付けるためにパソコンを開き、途中で行き詰まり、“息抜き”の名目でオルタをプレイした。
覚えている限りではそれが最後の記憶。
頭を支えるのは固い感触。
(……昨日はあのまま落ちちまったのか…)
眠い目をこすり起き上がる。
最初に目に入ったのはつけっぱなしのパソコンではなく、見慣れた自分の部屋でもなかった。
一面の荒野。そして廃墟。さらには壊れたロボット。
さっき…と言っていいのかどうかは分からないが見ていた機体。
帝国軍カラーの撃震。
「…ッ!」
どうやら俺はオルタの世界に入り込んでしまったようだった。
「今は何時だ?オルタ4失敗済みとかだったらシャレになんねーぞ…」
とにかく俺は人を探して歩き回った。
幸いなことに俺はすぐに街にたどり着くことができた。
いや、街というよりは難民キャンプといったほうが正しいのかもしれない。
「とりあえず、横浜基地までの行き方を誰かに教えてもらわないとな……その前に今日の日付を聞くのが先か…」
このとき俺はとりあえず夕呼さんに保護を求めるつもりだった。
そもそも“別の世界からきました”なんていう荒唐無稽な話を信じてくれるのは夕呼さんぐらいしかいないだろう。
他の人に話してみたところで頭がおかしくなった人だと思われて終わりだ。
「さて、誰か横浜基地の場所を教えてくれそうな人は……」
歩き出してすぐに人だかりができているのが見えた。
「?…何の人だかりだ…?」
気になった俺はそちらへと歩みを進める。
人混みを縫うようにして前に出るとそこにあったのは古ぼけたラジオ。
どうやらこれを聞くためにこの人たちは集まっていたらしい。
何か情報が得られるかもしれない。
俺はそこでラジオ放送が入るのを待った。
暫くして、ザザッというラジオ特有の雑音に混じり聞き取りにくいナレーターの声が入る。
《…ザ…1998年、10が…22…ち、ザザッ……朝…ニュース…お知ら…します。…ザザ…》
幸運だったのは本編終了後の世界ではなかった事。
不運だったのは本編開始まで時間があった事。
今確かに1998年と言った。
白銀が現れるのが2001年。横浜基地でのオルタ4稼働はその一年前だったはずだ。
(…これじゃ夕呼さんに助けを求めるのは難しいな……)
今、夕呼さんがどこにいるのかは俺には分からない。誰かに聞いて教えてくれるとも思えない。
仮にもオルタ4の責任者だ。俺みたいな怪しいのが近づけるわけがない。
せめて横浜基地にいてくれるのなら可能性はあったのだが。
「…やべぇな…これからどうするよ……」
途方に暮れる。
開始から一日も立たずに“夕呼さんに助けてもらう”という目論見は破綻した。
金はなく、戸籍もなく、住む場所もない。
(…難民キャンプって戸籍なくても入れるのか?……)
そんな事を考える。このままじゃ野垂れ死にだ。
《ザザ…次のニュースをお知らせ…ザ…す…ザザザ…》
ラジオはまだニュースを伝えている。
《…ザザ…夏の大疎開で戸籍データ…混乱が…ザザ…生しております。中には戸籍データが抹消されているといった場合もあり、政府では戸籍データの整理と再登録を急いで…ザ…ます……帝国臣民の皆様に…自己の戸籍データを確……このような場合…ザ…最寄りの役所で再登録申請を……》
「!!!」
役所に行って戸籍が抹消されていたと言い張ればあるいはこの世界での戸籍を手に入れられるかもしれない。
俺は手近な人に役所の位置を聞くとすぐにその方向へと急いだ。