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[19048] 一発ネタ そーいやこの話もそーゆー話だったっけなぁ?【P3×P4×???】
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:eff99f86
Date: 2010/05/23 14:09
 この世には、悪魔と呼ばれる異形の存在が人知れず跳梁跋扈している。
 都会に戻ってきて始めたアルバイトで、まさかそんな世界に引きずり込まれるとは思っても見なかった。

(マヨナカテレビでの実戦経験がまさかバイトで役に立つなんてな……)

 灰色の髪の少年、瀬多総司はそんな事をよく考えるようになっていた。


「総司さん、そろそろ異界の中心と思われるポイントです。」

 機械仕掛けの身体を持つ少女が瀬田に話しかける。
 彼女が異界というように、周囲の住宅街は異様な雰囲気を放ち、およそ人が住むには不便すぎるほど入り組んでいる。
 おまけにグロテスクなゾンビや低級の悪魔が普通に歩いているという有様だ。

「了解した。」

 と、そこで二人に通信が入る。

『よう、ポイントについたようだな。
 んじゃあ、いつもの頼むぜ。』

 職場で唯一戦闘能力を持たない為、後方支援を担当している迫真悟という青年からの通信だった。
 かつての仲間の一人、りせのようなペルソナ能力ではなく、特殊な発信機を使ってのナビゲートだ。
 瀬田や少女が持っている悪魔召喚プログラム付属のオートマッピングと連動して、現地の地形状況を把握する事が出来るらしい。

「了解であります。
 総司さん、合わせてください。」
「了解。」

 と、二人は指と指とを絡ませ

「「ペルソナ!!」」

 ペルソナ能力を発動させる。

 ペルソナ、神・悪魔の姿を模したもう一人の自分自身の力を借りて超常的な力を発揮する能力。
 通常は一人一種で、進化する事はあっても複数のペルソナを使い分ける事は出来ない。
 しかし、この二人は複数のペルソナを使い分けられる特異なペルソナ使いだった。

 そして二人が今回使用したのは……

「イザナギ!!」「オルフェウス!!」

 共に「妻を連れ戻しに冥界に赴き、失敗した夫」であるオルフェウスとイザナギだった。
 この二人が協力して放つ力。それは

「「ミックスレイド・黄泉路の道連れ!!」」

 非常に広範囲にわたる呪殺攻撃。
 呪殺攻撃だというのに、呪殺攻撃に対して絶対的な耐性を持つ筈のアンデッドを問答無用で冥府に送り返す、かなり理不尽な対アンデッド用殲滅攻撃だった。

 単純に呪殺攻撃として強力だった事もあり、範囲内=異界内にいた悪魔はバタバタと倒れ、屍鬼や幽鬼といったアンデッドは問答無用で浄化されていく。

『うお、いつもながら凄いな。
 周り中の敵悪魔が一気に壊滅したぞ。』

 二人とは別行動で異界を探っていた、もう一人のメンバーから通信が入った。

「そちらに応援に行きますか?」
『ん? ああ、そうしてくれ……と言いたいがちょっと離れてるな。
 こっちはこっちでボス悪魔と戦ってるから、お前ら外に出てくれ。
 もし逃げられても、中にいるよりかは追いやすいだろうしな。』
「わかりました。」

 彼こそが掃除のアルバイト先「スプーキーズ・マンサーチ」の主戦力、峰岸啓自。
 ペルソナ使いでないながら上級レベルの悪魔を従える事が出来る強力なデビルサマナーで、その戦闘力は下手なペルソナ使いなど足元にも及ばないほどだ。

「それにしても……、最初は普通に人探しをやるのかと思ってたんだがな。」

 スプーキーズ・マンサーチ所有の改造トレーラーに戻った総司は、そうこぼした。
 中には大量のコンピュータが備え付けられ、そこかしこにケーブルが延びている一方冷蔵庫などもあり、中央には椅子や机がおかれていて、ちょっとした生活空間としても使用できるようになっている。

「全くであります。
 マンサーチという看板に偽りアリであります。」

 機械仕掛けの少女も同意した。
 彼女、アイギスも総司と同じく、アルバイトとしてスプーキーズ・マンサーチに入ったクチである。

「まあそういうなって、二人とも。
 っと、あいつの方はもう終わったみたいだ。
 車で行けるとこみたいだから迎えに行こうぜ。」

 真悟はそういうと、トレーラーを発進させた。
 住宅街の様子はすっかり変わって、異様な雰囲気も過度に入り組んだ路地もなくなり、至って普通の雰囲気とシンプルな路地の住宅街に変貌していた。
 異界化が解消されたのだ。




「さて、と。任務完了だ。」
「シックスさんもアイギスさんも総司くんもお疲れ様。」

 トレーラーに戻った峰岸啓自が、鎧姿の女性と共に仲間の労をねぎらう。
 女性の名前はジャンヌダルク。
 造魔と呼ばれる心を持たない人造の悪魔に英雄の魂を憑依させる英雄合体で生まれる『英雄』種の悪魔だ。
 英雄は元々人間だった為か、素体となる造魔がそうである為か、悪魔のエネルギー源『生体マグネタイト』を必要としない。
 それでいて強力なのだから、サマナーとしては助かる存在だ。

「んでだな……明日はウチの定休日だから、今日の疲れをしっかり癒してくれ。」
「いえ、学校がありますので。」
「私も大学の授業があります。」

 アルバイト二人はそう流す。
 ちなみに瀬多は高校3年、アイギスは大学2年だ。

「おーおー、青春だねえ……」
「全くだ。
 俺らなんて気付いてみりゃ、スプーキーよか年上になっちまったもんなぁ……」

 正規職員二人はため息をつく。
 ちなみに真悟が所長で、その下に啓自。
 更に下にアルバイト二人の計4人。
 そこに啓自や総司、アイギスが悪魔召喚プログラムで使役する悪魔たちが加わって、スプーキーズ・マンサーチのフルメンバーとなる。
 事務方などはコンピュータの扱いに明るい真悟や啓自が難無くこなしてしまう為、問題は無いそうだ。
 猫の手も借りたいほどの事態が発生した場合、事務仕事を妖精シルキーや堕天使メルコムなどといった悪魔さえ動員するらしいが、その事態をアルバイト二人は見た事が無い。

「スプーキー、ですか?」
「そう言えば入る時に気になったのですが、何故明日だけ日付指定で休日になっていたのですか?」

 アイギスの質問に二人の、そしてジャンヌの表情が若干曇る。

「二人とも、その話は……」
「まった、ジャンヌ。特に隠す必要なんてねー話だ。
 変に隠して色々こじれてえらい事になった事もあったからな。
 ……なあ、シックス?」
「……ああ。
 明日ってな、命日なんだよ。」
「命日、ですか?」
「ああ。俺達スプーキーズのリーダー、スプーキーこと桜井雅宏の、な。」
「わざわざ定休日にするくらいなら……とても大切な人だったんですね。」

 恐る恐る、といった口調でアイギスがたずねる。

「……ああ。」
「あ……すみません。詮索なんかして。」

 見ればアイギスは少し震えていた。目には涙も浮かんでいる。
 そしてその場にいる全員がその事に気付く。


 ああ、彼女も大切な誰かを失った経験があるのか、と。


「いや、ちょっとおちついてってアイギスちゃん。」
「で、でも、私……」

 迂闊につつくとアイギスは更に泣いてしまいそうで、真悟は彼女をどう宥めようかと思案する。
 そこへ、総司が意外な形で助け舟を出した。

「……そのスプーキーという人物は、一体どのような形で命を落としたのですか?」
「!! 総司さん、無神経であります!!」

 アイギスの怒りが総司に向けられる。
 これで彼女が泣き出すことは一先ずなくなったようだ。

「そうだな……あー、もうアレから10年も経っちまったのかぁ。」
「啓自さん!?」
「まーアイギスちゃんも落ち着けよ。
 年食っちまったみたいでなんかアレだが、ちょっと昔話をしたい気分なんだ。」
「……はい。」

「3年前の影人間がどうのっての、覚えてるか?」
「俺はニュースで少し。」
「私は当時、巌戸台に住んでいましたから、総司さんよりは詳細に知っているであります。」

 アイギスは影人間の原因も、それと関わるもっと大きな事件も知っている。
 その事件の渦中にいた一人が、他ならぬ彼女自身なのだから。
 しかし、それはおいそれと口にして良い事ではなく、彼女は誤魔化しの説明をした。

「10年前、俺達が住んでいた天海市でな、世界中の人間をあんな風にしちまおうってろくでもない事を考え、実験していた連中がいたんだ。」
「ッ!!!!」

 アイギスにとってそれは衝撃以外の何者でもなかった。
 10年前の天海市?
 そこにもタルタロスがあって、デスとそのパーツたる大型シャドウがいたとでも言うのだろうか?
 衝撃の中、とりとめもなく彼女の思考は暴走する。

「……具体的な方法は?」

 その一方で、総司は冷静さを失っておらず、震えるアイギスを支えつつ詳しい話を聞こうとする。

「まずマニトゥという存在にソウル、人間の魂を与えてエネルギー源にする。
 充分な量のソウルが集まった時点で、それを呼び水にマニトゥが全人類からソウルを搾り取る。
 ソウルを抜かれた奴はめでたく影人間モドキになるって寸法だ。」
「んでだな、最初に必要な『充分な量のソウル』を確保する為に、天海市民全員に配布されたコンピュータに仕込まれた特殊なチップが使われた。
 このチップを使って、そのコンピュータを使った奴の魂をネット回線を通してマニトゥに送るんだ。
 ……実を言うと俺自身、魂を取られて影人間もどきになっちまった事がある。
 コイツが助けてくれたけどな。」

 真悟は啓自を親指で指差した。

「で、その計画の中心人物だった門倉とスプーキーの間にゃ因縁があってさ。
 俺が奴等の計画の要、マニトゥを死なせる為の鍵『ネミッサ』を拾ったせいもあって、俺達は奴等との交戦状態に陥ったんだ。」
「今にして思えば無茶もいいところだ。
 戦える奴はコイツだけってー俺達が、世界を滅ぼそうっていう奴等と事を構えるんだからな。
 オマケに……俺達は、啓自とひとみちゃんを除いたスプーキーズのメンバーがリーダーを信じ切れなかったばっかりに……」
「「…………」」
「あん時は立ち直って前を向くのに結構苦労したぜ。
 でも、ま、事件が解決して、皆して天海市を離れてバラバラになる頃にゃ、全員立ち直ってたよ。」
「そうですか……辛い話を、すみません。」

 総司は頭を垂れた。

「俺に頭を下げるなよ。
 一番辛かったのはコイツだったんだからな。」

 真悟は首を横に振って啓自を見やる。

「啓自さん?」
「……実はな、リーダーに直接手を下したのは俺なんだ。」
「っ!!」
「人間に憑依するタイプの悪魔がリーダーにとりついて、俺は分離させる事が……出来なかったんだ。」
「……すみません。」

 総司は啓自に頭を下げた。
 ぶしつけに他人の傷口をえぐるような事を行ってしまったと、総司は激しく後悔した。

「いいさ。今更沈んでちゃ、リーダーにもネミッサにも笑われちまうよ。」
「? ネミッサとは鍵なのでは?」

 先ほど、ネミッサとは鍵と聞いていたアイギスが顔を上げてたずねる。

「……電霊って種族の悪魔だったんだよ。
 そして、死ぬ事を知らないマニトゥを死なせる為の死の歌、だったんだっけな。」
「死の……歌……」

 まるでニュクスのようだと、アイギスは思った。

「リーダーの身体を乗っ取った奴みたいに、俺達の紅一点だったひとみにとりついてさ、でも俺達の味方になってくれた。
 ひとみの奴も、自分の体が他人に使われているって言うのに、そのネミッサの事を気遣ったりするほど、アイツは明るく元気で素直な、ホント『死』なんて連想させるような奴じゃなかったのにな。」

 啓自はしみじみと言った。

「…………」
「でもマニトゥを仕留めて計画を止める為には、アイツ自身がマニトゥの『死』そのものにならなきゃいけなかった。」
「それって……」
「ああ、悪魔としてのネミッサの消滅で、全ての決着が着いた。
 全人類影人間モドキ化計画は阻止されたんだ。」

 ああ、まるであの人のようだ。
 あの人は今でも人の悪意を『死』から阻んでいるのだろうか。
 たった一人、孤独な鍵として人類を守り続けているのだろうか。

 アイギスの目から涙が溢れた。
 表情は無表情そのもの。
 しかし、そこにはどんな号泣よりも深い悲しみが込められていた。











 一方その頃。
「やりましたね姉上。」
「ええ、念願のドリーカドモンを手に入れましたわ。」

 ベルボーイの格好をした男性と、エレベーターガールの格好をした女性が異様な人形を抱えて業魔殿にやってきた。
 なにやら「殺してでも奪い取る」と言われそうなセリフを言っているが、この二人の戦闘力は尋常ではないので、現実的には不可能に近いだろう。

 さて、この二人はどうやらドリーカドモンで造魔を作る為にやってきたらしい。

「これで湊さまを英雄として復活させる事が」
「これで公子さまを英雄として復活させる事が」

 その様子を見ていた業魔殿のメイド、メアリは後にこう証言した。
 その時、時は止まったと。

 なお、業魔殿の主ヴィクトルのとりなしにより、彼所有のドリーカドモンを一つ彼ら姉弟に与える事で、兄弟喧嘩は回避されたのだった。




 影時間云々を抜かすと、結構ソウルハッカーズと話が似てるような気がするんですよね、P3って。
 P4の主人公はもしかしたら要らなかったかもしれませんが、奴だけが「大切な者を失った事の無い人間」という事で、話を進めるのに使わせてもらいました。



[19048] いのちのこたえ
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:eff99f86
Date: 2010/05/29 10:01
 もう十年も前に受け取った2通のメール。

「誰だって自分の将来に期待と不安を持っている。
だから、生き方を見いだすというのは、とても難しいことだ。
けど、それがなければ、歩き出す事もできない。
君が自分の生き方を見つけたなら、もう、スプーキーズは必要ないのかもしれないな。
たとえ別の道を歩んでも、思い出が消えなければ、僕たちはいつも一緒だ。
君は一人じゃない。」


「大地がその形を変えても、
そこが人の住む地であることに
変わりはなく

人々が交わりの形を変えても、
そこに絆が生まれることに
変わりはなく

絶えることなく流れる日々の中で
あたしたちは出会い、別れて、
新たになっていく。

それでも誰もが、
自分の中の誰かを感じている
それが魂の真実

たとえ形をなくしても、
あたしはあなたの中にいて、
明日という日を待っている

いっしょに生きてくれた、あなたへ
あたしからの歌です」

 この2通のメールがきっと、俺が得た「命のこたえ」。
 目の前の長い鼻の男の話を聞いて、俺はそう直感した。



第二話「いのちのこたえ」



「ベルベットルームにようこそおいでくださいました。」

 ある日、二人してベルベットルームにやってきた総司とアイギスを、エレベーターガール風のいでたちの女性が出迎えた。
 総司は彼女を見た事が無かったが、

「あなたは!!」

 アイギスにとっては見覚えのある相手だったようだ。
 総司はそのアイギスの反応を見て、ふと、これまで彼女と同様にベルベットルームで自分の事を出迎えていた女性と、彼女の話を思い出す。

「あなたは……ベルベットルームから立ち去ったというマーガレットの妹……ですか?」
「はい。マーガレットお姉様の妹で、エリザベスと申します。」

 その返事を聞いた総司は、彼女の声の中に混じる喜色を見逃さなかった。

「マーガレットからあなたの事は聞いています。
 彼女の前任者だったのが、この部屋の客人だった人物を救出する為に行方をくらましてしまった、と。
 そのあなたがここにいるという事は、」

 そこまで総司が言った所で、アイギスが反応する。

「……公子さんを、助け出したのでありますか?」
「察しの通りでございます。」

 エリザベスは最高の笑顔で応え、それがアイギスに伝染する。
 それは総司がこれまでに見た事が無いほど嬉しそうな笑顔だった。

「彼女は今、弟や湊様と共に席を外されております。」
「みなとさま? 誰であります?」
「公子様を男性に変えた方と思っていただければよろしいかと。
 湊様と公子様は余りにも近すぎて、それゆえに本来ならば決して出会う事の無かった方々なのです。」
「イゴールか。」

 エリザベスとの会話に、彼女達姉弟の主である長い鼻の人物、イゴールが割って入ってきた。

「すまないな。俺達にとってのベルベッドルームの役目は終わったと言うのに、こうもちょくちょく顔を出して。」
「いえいえ。
 『用が済みましたので、もう二度とお会いする事は無いでしょう』などと言うのは簡単です。
 しかしそれでは余りに世の中寂しすぎる。
 そう引き止めてくださったのはあなただった筈ですよ。」
「そうだったか?」

 総司は肩をすくめて応じた。

「それはそうと、今日は珍しい客人がお見えのようだ。
 ペルソナ使いでも、ペルソナ使いになる予定の者でもない方をここに迎えるのは初めてやも知れませんな。
 ペルソナ能力を持たずに『命のこたえ』に辿りつき、湊様や公子様と同じようにこの世界を救った方。
 とても強い心の力をお持ちのようだ。」
「「!?」」

 総司とアイギスがイゴールの台詞に反応して彼の視線を追うと、そこには青い髪の少年と赤毛の少女、ベルボーイ風のいでたちの男性、そして……

「公子さん!!」
「啓自さん!?」

 啓自の姿があった。

「よう。お前達はココでペルソナを弄ってんだな。
 業魔殿でやってる悪魔合体みたいなもんか?」
「公子さん! 会いたかった……!!」
「ちょっ、アイギスったら。」

 そう言いながら片手を上げる啓自を華麗にスルーして、赤毛の少女に飛びつくアイギス。
 啓自は引きつった笑みを浮かべ、その彼の隣で青い髪の少年が寂しそうに微笑んでいた。

「おいおい、俺はスルーかよ。」
「!? 啓自さん?」

 しばらく少女を抱きしめていたアイギスだったが、啓自の言葉に我に返ったように反応する。

「啓自さんはペルソナ使いではない筈であります。
 何故ココには入れているのでありますか?」

 アイギスは心底驚いた表情で啓自にたずねた。

「いや、この連中についてってみたら入れた。コイツの肩を掴んでたからかもな。」
「そうですか……」

 啓自は親指でベルボーイ風の男を指差して応えた。
 人員構成から見て、どうやら彼がエリザベスの弟のようだ。

「所でイゴール、『私達と同じように世界を救った』って、どういう事なの?」

 赤毛の少女、有里公子はイゴールにたずねた。

「言ったとおりの意味です。
 10年前にもあなた方の時と同じように人類は滅亡の危機を向かえ、それを救ったのが彼なのです。」
「買いかぶりだぜ、おっさん。
 『命のこたえ』とかいうのに辿りついたのは、たぶん俺じゃなくてネミッサだ。
 世界を救ったのもな。」
「だが、彼女を守り導いたのはあなた方だ。
 違いますかな?」
「……」

 イゴールの反論に、啓自は口をつぐんだ。

「一体、10年前に何があったんですか?」

 青い髪の少年がイゴールに聞く。

「ふむ、どこからお話しましょうか……
 所で峰岸様、どこまでならお話しても良いですかな?」
「その前に、あんたどこまで知ってんだよ……」
「大体あなた様が把握している範囲の事は全て知っている、と思っていただければよろしいかと。
 あの事件は我々ベルベッドルームの住人にとって、ニュクス到来とほぼ等価の危機なのです。
 ですから、本当ならば彼らのようなワイルドのペルソナ使いが現れ、ファントムソサエティの計画を潰えさせる筈だった。
 その為、大体の所は把握しております。
 だがその役目が、どのような因果かペルソナ使いでないあなたが背負ってしまった。
 ……私どもにとっては大きなイレギュラーでしたな。」
「ニュクスってーのが何の事が良く分からないが……ペルソナ使いでないただの人間の俺は、あんた達やペルソナ使い達から見て脆弱過ぎると言いたそうだな?
 ……まあ、自覚はあるけどよ。」

 啓自は最近の総司やアイギスの活躍を思い出して、自嘲気味に応じる。

「だが、あなたはあなたの力を得た筈だ。
 異形の者を友とし、その力を借りる悪魔召喚プログラム。
 そして、ペルソナ能力などなくとも、あなたと共に戦った友人達。」
「絆の……力……」

 青い髪の少年がそう呟くと、総司と赤毛の少女、公子もそれに反応する。

「そう。強い絆の力だ。
 あなた達のようにペルソナを強化するコミュとしては機能せずとも、本来絆の力はそのようなものではない。
 互いに惹かれあい喜び合い、その中で助け合う。
 時に苦言を呈して衝突する事もあるでしょう。誤解が元で離れてしまう事もあるでしょう。
 しかし強い絆で結びつき、互いを大切に思っているなら、またすぐに力を合わせられるようになる筈だ。
 それこそが本来の絆の力。あなた方のようなワイルドの使い手でなくとも当たり前に手に入れる事が出来る、しかしとても強い力だ。」

 イゴールが少年の言葉に応えた。

「で、10年前の話だったっけな。
 いいぜ、洗いざらい話してもらおうか。」
「よろしいのですか?」
「……ああ。」
「ふむ、分かりました。
 では、どこから話したものか……」

 それからイゴールの長い長い話が始まった。
 総司とアイギスも断片的には聞かされていたものの、その全貌はこれまで知る事が無かった物語。

 アルゴンソフト社の陰謀を掴む為に集結したハッカー集団・スプーキーズ。
 そのリーダー、スプーキーが入手した特殊なコンピュータGUNPとそこに入っていたネミッサによって、彼等は陰謀の渦中に巻き込まれていく。

 啓自を導く謎めいた存在、レッドマン。
 彼によってもたらされる、戦士達の死の追体験、ビジョンクエスト。

 戦いの中で、ネミッサは啓自、そしてスプーキーズの面々との間に強い絆を築いていく。
 その絆は時を追うごとに強くなっていき、スプーキーズがアルゴンソフトの偽メールでスプーキーへの信頼を失い、バラバラになりかけた時に、最もスプーキーを信頼し続けたのがネミッサだったほどにもなった。

 そして、スプーキーの死。
 信じ続ける事が出来なかった少年達の深い慟哭。
 大切な人の死を体験したネミッサは、深い悲しみの中で死の意味を知り、自分が何者であるのかを悟る。

 決して死ぬ事の無い存在、マニトゥを死なせる為の、マニトゥ自身が歌った死の歌。それこそが彼女の正体。
 アルゴンソフト社長・門倉の妄執に囚われ世界を滅ぼす存在となったマニトゥを倒し、世界を救う為には彼女がマニトゥの元に戻り、マニトゥを死なせなければならない。
 それは、マニトゥにとっても救いであった。

 最後の戦い。
 少年だった啓自は、ネミッサを、最愛の女性を死なせる他無かった。
 そうしなければ、世界は滅び去ってしまっていた。
 彼女は言った。可能であれば皆と一緒に生きたかった、と。
 それでも彼女は、躊躇う事無く逝った。

 全てが終わった後、ネミッサとスプーキーの遺言と思しきメールが啓自の元に送られていたのだった。

「……って、そんなとこまで把握してんのかよ。」
「先ほども申し上げたように、我々にとっても一大事でしたので。
 正直、手助けすべきペルソナ使いもおらず、やきもきした気持ちで事の成り行きを見守る他無かったあの時は、それはそれはもどかしかったものでしたよ。」
「意外だな。あんたにも、もどかしいなんて感情があるなんてな。」
「それは偏見と言うものだ。」

 そんな総司・啓自・イゴールの会話を余所に、アイギスは、公子は、青い髪の少年は、そしてエリザベスら姉弟は黙って俯いていた。

「やっぱり公子さんとよく似ているであります。」
「確かに。」

 アイギスの弁に、エリザベスの弟が同意する。

「どう似てるんだ? 良かったら詳しく教えて欲しいな。」
「それは……」

 啓自の問いかけに、アイギスは口をつぐんでしまう。

「良いですよ。僕の知っている範囲でよければ。」
「へ?」

 青い髪の少年は語り始めた。
 公子がいるはずの立場に、彼が立っている物語を。

 10年間「死」の因子を抱き続け、それがもたらす滅びから世界を守る為に犠牲になった彼と公子。
 「死」という性質を、大切な人達を守る為に使う事ができたネミッサ。
 この違いに、彼は、公子は、ネミッサの事をとても羨ましく思った。
 自分達の中に眠っていた死の因子を友とした事も、その思いをより強くする。

「な、んで……」
「平たく言えば、あたしと湊君は同一人物、って事になるみたいなの。
 男に生まれたあたしが湊君で、女に生まれた湊君があたし。
 そういう関係みたい。」

 衝撃の余り鈍い反応しか出来ないアイギスに、公子がそう言った。

「……その割にえらくかけ離れているような気がするのは、俺の気のせいか?」
「奇遇ですね啓自さん。俺もですよ。」

 超絶ダウナー系の少年、有里湊と、レッツポジティブシンキーーングとでも叫びそうな有里公子。
 同列に扱えと言うほうが無理がある。

「にしても、影時間にニュクスね。
 つーことはあれか、俺は12時が来るたびにノホホンと棺桶に収まってたってーのか?」

 その時点で既に戦える力を手に入れていた啓自は苦笑いを浮かべた。
 戦える筈なのに何も出来ず、それを認識する事すらできなかったと言うのが心情的に苦しいらしい。

「いくら強くても、その時の状況・場所によって何かしら出来ない事が生まれる。
 それを良く知るあなたがそういう台詞を言いますか?」
「いつもながら冷静な奴だな。」

 とはいうものの、啓自は総司の拳が固く握られているのを見逃さなかった。
 不甲斐なさを感じているのは総司も同様という事らしい。




「さて、と。湊っつったか?
 お前、これからどうするんだ? 戸籍無いだろう?」

 総司とアイギスがイゴールにペルソナを合体してもらっているのを眺めながら、啓自は湊に話しかけた。

「そうですね……」

 湊が何かを答えようとした所で、公子が会話に割って入ってきた。

「そうだ!! 湊君、桐条先輩を篭絡しちゃえば良いんだよ!
 そーすれば戸籍だって作ってくれるって!!
 大丈夫、湊君がいた世界の桐条先輩のはじめ」

 そこまで公子が口走った所で、湊は彼女の口を塞いだ。

「いきなり何を口走ってるのかな、公子さんは?
 荒垣さんと真田さんはともかく、天田にも手を出すような人に」
「それを言ったら湊君だって桐条先輩どころか、ゆかりちゃんにも風花ちゃんにも手を出してるじゃない!!
 他にも……」

 その会話を聞きながら啓自は思った。
 (ペルソナを強くするコミュっつーシステムって、なんか問題あるんじゃねーのか?)
 と。



=====

 コミュコンプリートしようとすると異性関係が偉い事になりますからね、この二人w



[19048] 隣の芝は青い
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:eff99f86
Date: 2010/06/01 13:09
「なあシックス。
 これ見てどう思うよ?」

アイギス=対シャドウ用戦闘兵器・ワイルドのペルソナ使い・デビルサマナー
総司=ワイルドのペルソナ使い・デビルサマナー・火力においてアイギスを圧倒
公子=ワイルドのペルソナ使い・世界を救った救世主
湊=同上・火力において5人中最強
俺=常人・デビルサマナー・単体では最弱

「戦える力を持ってねえ俺に、そーゆー愚痴言うか普通?」



第三話 隣の芝は青い


 ベルベッドルームを後にした啓自、総司、アイギスは、公子と湊を伴ってスプーキーズ・マンサーチのオフィスに戻ってきていた。
 とりあえず、最初から戸籍を持っているはずも無い湊と、故人扱いで戸籍が使用不能になっている公子の為に、偽造の戸籍を用意する為だ。
 この作業の為、真悟には湊や公子の素性や、二人が死ななければならなかった事件の顛末などを話してある。

 啓自と真悟は探偵業に精を出しているとはいえ、元はハッカーグループの一員である。
 この程度の違法行為には抵抗が無い。
 もっともデビルサマナーをしている以上、どうしても銃刀法違反をする事になるので、彼らに遵法意識を期待する方が間違いなのかもしれないが。

「啓自さん、それを言うなら俺はどうなります。」
「総司?」
「俺以外の4人は世界が滅びるような大事に巻き込まれ、滅亡を防いでいます。
 まるでゲームでよくあるような伝説の勇者だ。
 それに引き換え、俺が解決したのは手口が特殊なだけの殺人事件ですよ。
 まあ、人類滅亡の危機なんて無ければそれに越した事はありませんけどね。」

 自分の関わった事件は、他の事件に比べてあまりにも規模がみみっちい。
 言外にそう言う総司。
 普段の冷静な彼からすると意外なほどの、だが彼の持つ力の大きさと彼の年齢からすれば当然の英雄願望の吐露だった。

「い、意外だな。お前にも英雄願望があるだなんて。」
「俺にだってそれくらい、人並み程度にはありますよ。
 そもそもあの事件に関わった理由自体が英雄願望の延長線上ですからね。
 『被害者をテレビに入れるなんて手口じゃ警察では犯人特定は難しい。なら、同じようにテレビに入れる俺達が解決しよう』。
 ……英雄願望以外の何に見えます?」
「……つーかなんで殺人事件の解決に、お前みたいな無茶な奴を動員する必要があったんだろうな?」
「それは俺にペルソナ能力とテレビに入る力を植え付けたイザナミに言ってください。
 イザナミも人類の行く末を見極めるなら、あんな小さな事件を引き起こしてサンプルにするんじゃなくて、啓自さん達の事件やアイギス達の事件なんかを参考にすれば良いようなものを……」
「まあ、神様ってー連中は、その手の無茶振りをする事が多いからな。
 それに丸く収められたんだろ? だったら、その辺は諦めろ。
 そーゆー無茶振りに振り回されるのも、デビルサマナーの宿命みたいなもんだ。」
「……当時の俺は悪魔召喚プログラムなんて持ってませんでしたが。」

 そんな啓自と総司の会話を聞きながら、真悟とアイギスが笑い出す。

「? どうしたんだ二人とも。」
「いやなに、常に冷静沈着、判断も的確って、高校生のくせに頼りがいがありすぎる総司にも、人並みな部分があるんだっておかしくてな。」
「ええ、でも私は同じ理由でなんだかホッとしたであります。」
「買いかぶりも良い所ですよ。
 俺は、ただの高校生、まだまだただの子供に過ぎません。」
「「「……」」」
「どうしたんですか?」

 総司の返事に、啓自、真悟、アイギスは口を閉ざしてジト目の視線を返す。

「「お前がただの高校生なわけねーだろ!!」」「総司さんを普通の高校生というのは無理があります!」
「そうですか?」

 今ひとつ、自分の特殊性を理解していない総司。
 啓自や真悟、アイギスにしてみれば、彼は余りに冷静で、かつ頼りがいがありすぎて、普通の高校生にカテゴライズするにははなはだ無理があるように感じている。
 啓自や真悟にとってのリーダーだったスプーキーはともかくとして、アイギスにとっての実質的なリーダーだった桐条美鶴はこの2点において総司に大きく劣っていた。流石に桐条グループ総帥となった現在の彼女ならばそんな事も無いのだが、高校時代の彼女だとどうしても見劣りするように思えてならないのだ。
 名目上及び戦闘時におけるリーダーだった公子にしても、彼のような落ち着きと統率力は期待できない。
 そしてもう一つ。
 アイギスには、彼を普通と認めたくないファクターがあった。

「それに、それぞれの事件への関わり方については、私の方こそ総司さんの事が羨ましいくらいですよ。」
「? というと?」

 アイギスの言葉に、疑問符を投げかける総司。
 それに、対するアイギスの答えはこのようなものだった。

「総司さん達は、事件解決に向けて足で情報を稼いだり、被害者から犯人についての情報を聞きだそうとしたり、自分達で考え、能動的に動いていたであります。
 それにひきかえ、私達の方は受身で、しかも情報を精査・検証する事もほとんどありませんでしたから、良いように誘導されて悲しい結末を迎えました。」

 アイギスはそう言いながら、公子の方に視線を投げかける。

「えっと、もしかして『アイギス達のせいであたしが死んじゃった』とか言わない、よね?」
「いえ、その通りですが。」
「ちょ、なんで」

 アイギスは公子の言葉を遮って言う。

「そもそも、満月に現れる大型シャドウは、公子さんが巌戸台にやって来てから出てくるようになったであります。
 そして屋久島。
 それまで公子さんがシャドウと戦っていた巌戸台から遠く離れたあそこに、まるでSEESを追ってくるように大型シャドウが現れました。
 ……総司さん達なら、公子さんと大型シャドウに何らかの繋がりがあると考え、公子さんを呼び寄せた理事長を怪しんでいる筈であります。
 何の疑問も持たずに、ただただ現れてきたのを倒すだけだった、SEESとは根本的に違いすぎであります。」
「あー、そーいやさっき、殺人事件を解決したような事を言ってたわね。」
「ええ、俺のいた特別捜査隊は自発的に集まったグループで、幾月氏主導で集められたあなた方SEESとは、成り立ちからして異質ですからね。」
「それでアイギス。
 それと、あたしの生死と何の関係があるの?」

 公子の質問に、アイギスが答える。
 彼女は自分と湊の死は半ば運命付けられたものだと感じているので、どうにもアイギスの話が腑に落ちない。

「それは、大型シャドウがデスの欠片である事、そしてデス本体は公子さんの中にある事を突き止める事が出来れば、公子さんの中のデスが完全な形になる事を防げるからであります。
 デスが不完全なままであれば、ニュクスは目覚めず、公子さんは封印になる必要がなくなります。」
「……その場合、大型シャドウはどう始末するのよ?」
「あ……」

 どうもそこまでは考えが及んでいなかったらしい。
 そこに、総司が助け舟を出す。

「いや待てアイギス。
 そっちの事件の話を聞く限り、桐条グループの暗部にはシャドウを生け捕りにするための技術があるはずだと推測できる。
 シャドウを生け捕りにできなければ、シャドウについての研究など進められる筈が無いからな。
 それに、そもそも彼女の中にデスを封印したのはお前自身だった筈だぞ。」
「つまり大型シャドウの生け捕りは不可能ではない、という事ですか?」
「確実とは言わない。が、可能性は大きい筈だ。」

 そこまで言われると、公子は唸ってしまう。
 そこで、湊が何かに気付いたように声を上げた。

「あっ、そうか。あの時のファルロスの契約書って、そういう意味だったのか。」

 突然声を上げた湊に、公子は戸惑いながら問う。

「え? 契約書って、あの寮にやってきた時に書かされたアレ?
 あの時はてっきり寮に入る為の書類だと思ってたけど、後になって考えると全然別物よね。」
「そうそう、それそれ。
 公子さん、憶えてる? あの時、ファルロスが言った事。」
「えっと、『自分のやる事について責任を持つ』だっけ?」
「うん。でも僕は大型シャドウと戦っていた頃、あまりに受動的だった。
 言い方を変えれば『何もしないという事をした』。
 公子さんはどう?」
「あー、事件解決に向けてっていう意味なら、あたしもあんまり自分から動いてないかも。」
「そのツケが『命のこたえ』に辿りついた上での死、だったのかもね。
 僕もあの時死んでしまうのは運命か何かと思ってたけど、こうして考えてみると僕達が生きて新学期を迎える道は確かにあったみたいだ。
 なんかこう、死にたくなかったら自分で考えろっていうか。」
「そーゆー話だったら、最初の時点で話してくれりゃいいのに。」
「それは確かに僕も思うけど、ファルロスだった頃のアイツって、ずっとイゴールに似たはぐらかした感じの話し方だったじゃない。」
「まあ確かにそうだったけど。」
「……本当の意味でどうしようもなかったネミッサっていう人に比べると、僕達は単純に迂闊だっただけなのかもしれないね。」
「……」

 公子は黙りこくってしまった。

「まあ、僕はアイギスと同じ理由で公子さんの事が羨ましいけどね。
 僕は、荒垣さんに対して殆ど何もしなくて、死なせてしまっているから、荒垣さんを助けられた公子さんが羨ましいよ。」
「あー、あんな偶然に対してそんな事言われても。
 荒垣先輩が撃たれた時、時計に命中してなかったら結局そっちの先輩と同じように死んじゃってたと思うわよ?」
「だとしても、先輩が生き延びる可能性が大きくなってたのは確かでしょ?」
「そりゃそうだけど……あたしの方でだって、長い事意識不明の重態だったし……
 あれ見た時は、先輩が死んでしまうって思って、思いっきり泣いたし。」

 そこに真悟と啓自が話に割って入ってくる。

「そーはいうけどな、自分達で考えて行動できたって、最良の結果になるとは限らないぜ? なあ?」
「ああ。
 俺達なんか、スプーキーとネミッサって、仲間内から二人も犠牲を出しちまってるからな。」
「そこまで行くと、事件の中身と状況にもよる話ですね。」

 彼らの言葉に総司が応える。

「つか、戦力が偉く充実してたお前等が羨ましいな。」
「スプーキーズの場合、戦える奴が俺とネミッサしかいなかったからな。
 あん時は何度、『お前等こんなやばい所をうろつくな』ってみんなにツッコんだ事か……」
「悪魔召喚プログラムでカバー可能な範囲なのではないのですか?」
「非戦闘員の割合がでかすぎたんだよ、俺達は。」

 アイギスの疑問に、真悟が答える。

「カバーし切れなかった綻びを衝かれてユーイチの奴を掻っ攫われたりもしたからな。
 あの状況だと、アイツにお前等並みのペルソナ能力があったとしても捕まっちまってたと思うけど、もうちっとはマシに立ち回れたかも知れないな。」
「つか、俺にしてみりゃペルソナ使ってコイツと肩を並べて戦える、って時点でスゲー羨ましいんだぞ。」

 その言葉に、アイギスと公子と湊がうつむく。
 そして公子が搾り出すように呟いた。

「その戦力があって拙い結末になっちゃったあたし達って一体……」
「高い戦闘力とスプーキー並みのリーダーシップを併せ持つ総司は反則だ。
 コイツの事はこの際忘れろ。つか、参考にするな。
 こんな奴はフツーいない。」
「……買いかぶりすぎですよ。」

 俺だって奈々子を死なせかけてしまい、その時の事を未だに後悔しているというのに。


 実際に大切な者を失った啓自・真悟・アイギス、そして自身の命を落としてしまった公子や湊の手前、その台詞を言うに言えない総司だった。



[19048] この二人が並んで歩いてりゃ、目立たん方がおかしかろうと
Name: 平成ウルトラマン隊員軍団(仮)◆ae4f8ebe ID:eff99f86
Date: 2010/06/06 16:15
 唐突だが。
 アイギスや公子/湊と共にSEESの一員だった岳羽ゆかりという少女がいる。
 既に大学生なので、もうそろそろ女性と呼んだ方が良いのかも知れないが。

 そんな彼女はアイギスや公子と違って、至って普通の女の子。
 したがって、講読している雑誌も年頃の女性が好むような物になる。
 ゆかりは、そんな雑誌のうちの一つを自室で寝転がって読んでいた。

「あ、『街で見かけたイケてる二人』か。
 確かこのコーナーって、本人たちの承諾なしに写真取ってるのよね?
 あんましこういうの好きじゃないかな?
 ……この雑誌、買うの辞めようかなぁ。」

 大学での知り合いに勧められて読み始めてみたものの、他人のプライバシーにズカズカとあがり込むスタイルの紙面に馴染めず、そんな事を考えるゆかり。
 しかし、惰性で次のページをめくった途端、弛緩しきった彼女の頭が混乱で一気に緊張した。

「ちょっ、これってアイギス!?
 てか、一緒に写ってるの、誰?」

 雑誌の写真には、彼女の良く知る機械の少女が、見知らぬ灰色の髪の男性と歩いている様子が写されていた。
 男性は顔形からゆかりと大差ない年齢のように思える。年上だとしても二十代だろう。
 隣にいるアイギスの可憐な美しさと見比べても遜色の無い整った容姿を備えている。

 二人の写った写真は非常に大きく、見出しには『今週のベストカップル』『これほどの美男美女、絵になりすぎてコメントできない』などなど、無責任な事が書かれている。

「え、ええと、これってみんなに連絡したほうが良い、かな?」

 ゆかりはとりあえず相談できる相手として美鶴を選び、彼女に電話をかけた。


 ちなみに。
 八十神高は今日も平和だった。
 ゆかりが読んでいた雑誌を読んでいる生徒・職員に総司と親しい者がおらず、親しい者達はこのような記事の存在をさっぱり知らなかった為である。

 そう、アイギスと一緒に写っていたのは、総司だったのだ。









 第四話「この二人が並んで歩いてりゃ、目立たん方がおかしかろうと」







 翌日。

「? 今日は妙な視線を感じるな。気のせいか?」

 通学中、総司は四方八方から注がれる好奇の視線を感じ、幾度か周囲を見渡す。
 その度にばつが悪そうに視線を逸らせる人物を見る事ができた。
 どうも若い女性を中心とした不特定多数のようだ。
 当然だが、総司にはそのような視線を集める事をした覚えはない。

 と、そこへクラスメイトの少女が総司に話しかけてきた。

「あの……瀬多くん?」
「? どうした?」
「この金髪の人って、瀬多くんの彼女……なのかな?」

 少女がおずおずと差し出した雑誌には、総司とアイギスが並んで歩いている写真が載っていた。












「と、いう事がありましてね。」

 総司はため息混じりに真悟に言った。
 啓自は、湊と公子を連れて異界攻略に行っている。
 今回はアンデッドでない呪殺無効の悪魔が多く『黄泉路の道連れ』が効果的でない事と、湊や公子の実力を生で見たいという啓自の動機から、彼と悪魔退治に出かけるのは総司+アイギスではなく、湊+公子という事になったからだ。

 その為、今回総司とアイギスは真悟と共にトレーラーで待機している。

「私もであります。」

 アイギスがげんなりした表情で応じる。

「そりゃお前ら目立つからなぁ。」

 真悟は呆れた口調で総司とアイギスに応じた。

「何がどう目立つのでありますか?」
「まず髪の毛だな。
 ランチも大概だったけど、アイギスは金髪、総司にいたっては灰色。
 金髪なんてこの日本じゃそんなにお目にかかれる代物じゃねーし、灰色の髪なんて俺は総司しか知らねえ。」
「むう。ではカツラでも被れば」

 真悟はアイギスの反論をさえぎった。

「いや、髪の毛云々の前に、お前等顔良すぎだろ?
 二人とも黒い髪だったとしても、相当目立つと思うぜ?」
「アイギスはともかく、俺も、ですか?
 並みだと思いますが。」
「そ、総司さん、流石にそれは……」

 アイギスは呆れ顔で言った。

「んで、そんな美男美女が連れ立って歩いてりゃ、そりゃこんな邪推をかます奴の一人や二人、いて当然だな。」
「「はぁ。」」

 総司もアイギスも生返事しか出来ない。

「どうした?」
「いえ、総司さんをそんな風に意識した事がありませんでしたので、そんな事を言われても困るであります。」
「俺の方もそうですね。」

 そんな事を話していると、啓自から目標殲滅の報告が入ってきたので、この話はそこで終わった。

 後日、この雑誌はかねてよりプライバシー保護の観点からこの雑誌を問題視していた人々を美鶴がまとめ、桐条グループの力も利用してかけた圧力により廃刊に追い込まれる事になるのだが、この記事が残した波紋は、事あるごとに総司やアイギスに襲い掛かってくるようになった。

例えば……

『先輩!! この間、先輩が金髪の女の人と歩いている写真を見ました。
 誰なんですか、その人。』
「りせ、落ち着け。」
『落ち着いてられません!!
 今、みんな集まってるんですよ。
 花村先輩も千枝先輩も雪子先輩も完二も直斗くんも!!』
「そうか。」
『ちょっと待てりせ、俺に変われ。
 あー、先輩、マジでヤバイっすよ。
 りせだけじゃなくて、天城先輩や直斗も似たような感じでテンパってますし。』

「……って話をしているみたいであります。」
「ベルベッドルームでの湊と公子ちゃんの話を聞いてそうじゃないかと思ってたけど、やっぱワイルドのペルソナ使いって異性関係が偉い事になるのな。
 っていう事はアイギスも」
「私の顔に何かついているでありますか?」ジャキッ
「イエ、ナンデモアリマセン。」

「はあ。それにしてもこの誤解、早く解けると良いんですが……」
「もう既に日本中に見られたからな、あの写真。
 人の噂も七十五日って言うけど、完全に忘れてくれるまで75日じゃ足りないかもな……」


=すんげー短いけどおわり=

千枝は陽介がいるので除外してみました。
一応、彼女もコミュレベルをMAXにしていますが。

6月6日
(りせが女の先輩を名字で呼んでるのを名前に修正。
最後の会話を一部修正・追加しました。)


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