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国政レベルでベーシック・インカムが議論される日
2010年06月06日14時26分 / 提供:投資十八番
ここ1、2年で「ベーシック・インカム(B・I)」という言葉が急にあふれ出てきたように感じます。ベーシック・インカムの理念は、毎月最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で支給すること。実現可能性は(いまのところ)乏しいうえに、実際に導入している国も存在しません。ただし、思考実験としては面白い。
田中康夫氏が書いた「ベーシック・インカム」は東京集中を解消する(BLOGS)という記事を読みました。同氏は、ベーシック・インカム導入をマニフェストに盛り込んだ唯一の政党の党首です。一弱小政党発ではありますが、政党がB・Iについて語るようになってきたことに意義があります。
ポイントは、世帯単位でなく個人単位で支給するということ。支給額は月額5万円としていますが、最低限所得保証というB・Iの基本理念を考慮すれば、最低でも月額7万円は必要でしょうね。議論のたたき台として5万円なのかもしれませんが、中途半端な金額です。
問題となるのは財源です。その際に、所得税とか消費税についての言及はよくなされますが、資産課税について触れる人が少ないのはなぜでしょう。国税庁の資料(PDF)によれば、H19年の日本全体の相続税課税価格は10.6兆円で、そのうち相続税として納付されたのは1.3兆円です。申告の対象となった被相続人は4万7千人ですが、同年に死亡した約106万人に対する割合はわずか4.4%。残る95%の相続分については全く税金がかかっていません。
日本全体で1年にどれくらいの資産が相続されているかは統計データが存在しないため推測するしかないですが、相続税として申告された課税価格10.6兆円の数倍にはなると思います。少子高齢化が急速に進んでいる日本において、フローだけでフロー原資を賄おうとするのは愚策です。これまであまり考慮されてこなかったストックたる資産課税について真剣に考える時期にきています。
仮に日本全体で年間50兆円の資産が相続されるとして、各種控除を廃止して一律50%の税率を掛ければ25兆円の財源は捻出できる。これは強力な財源となるうえに、贈与税優遇策とセットで実施することで高齢層から若年層への資産移転を一気に進めるという効果もあります。まあ、多くの票を持つ高齢者は賛成しないので提案自体ができないというのが実情なんでしょうが。
B・Iを本格的に導入するのであれば、現行の社会保障制度は原則全て廃止するのが筋です。例えば、公的年金、失業給付、生活保護、子ども手当(児童給付)などは原則廃止すべきでしょう。そうすることでこれらの財源をB・Iに流用することができます。加えて、社会保障の枠組み自体を原則的にB・Iに一本化することで行政のスリム化にも資することになります。そうなると月額5万円では足りませんが。
また、B・Iによって、従来の「家族観」や「労働観」は変わるでしょうね。まず、結婚観が変わるでしょう。B・Iによって結婚数自体が減るか増えるかは分かりませんが、子どもが独立した中高年の離婚は増えるのではないでしょうか。それに、子どもの独立が早まるかもしれません。B・Iは個人に支給されるものなので、親や配偶者に頼る必要はありませんから。
労働については、労働賃金の最低保証性を無視していいわけですから、国の政策としての「最低賃金制度」は廃止されるでしょうし、解雇も自由になるはずです。これによって日本的経営なるものは本当の意味で消滅します。賃金体系は二極化し、余人を持って代え難いスキルを持つ人に対しては高報酬で報いる一方で、そうでない人は首になるか著しく低い賃金に甘んじなければならないので、その仕事が好きでなければ辞めるしかないでしょう。とはいえ、辞めざるを得なかったとしても、最低限度の保障があるので失敗を恐れることなく新しいチャレンジができます。起業家も増えるでしょうし、NPO活動に精を出す人も出てくるでしょう。しかしその結果、ある種の業種では雇用が確保できなくなると思います。具体的には、介護、福祉、医療、小売、飲食、サービスなどは人手が足りなくなるでしょうね。そういう業種では移民で対応していくことを真剣に議論していかなければならないでしょう。
まあ、実際に導入してみないと、社会に与える本当の影響はわからないです。B・Iを導入した国がないので参考にすることもできません。家族観、労働観、そして机上の空論に過ぎない財源問題だって、気がついていない大きな落とし穴があるかもしれません。
現在では単なる思考実験としてのベーシック・インカムですが、国政レベルで真剣に議論される日はくるでしょうか。私は、B・Iに対して何かはっきりとは言えない漠然とした不安があるので、諸手を上げて賛成できません。ただし、議論されるだけの価値はあると思っています。
・記事をブログで読む
田中康夫氏が書いた「ベーシック・インカム」は東京集中を解消する(BLOGS)という記事を読みました。同氏は、ベーシック・インカム導入をマニフェストに盛り込んだ唯一の政党の党首です。一弱小政党発ではありますが、政党がB・Iについて語るようになってきたことに意義があります。
世帯単位でなく個人単位で、全ての国民一人ひとりに月額5万円、年間60万円の基礎所得を生涯に亘(わた)って支給するベーシック・インカム=B・I。
ポイントは、世帯単位でなく個人単位で支給するということ。支給額は月額5万円としていますが、最低限所得保証というB・Iの基本理念を考慮すれば、最低でも月額7万円は必要でしょうね。議論のたたき台として5万円なのかもしれませんが、中途半端な金額です。
1.27億人の国民に配当した場合、要する金額は77兆円。他方、個人事業者を除いた日本の雇用者報酬は260兆円。所得税率を一律30%としたなら78兆円
問題となるのは財源です。その際に、所得税とか消費税についての言及はよくなされますが、資産課税について触れる人が少ないのはなぜでしょう。国税庁の資料(PDF)によれば、H19年の日本全体の相続税課税価格は10.6兆円で、そのうち相続税として納付されたのは1.3兆円です。申告の対象となった被相続人は4万7千人ですが、同年に死亡した約106万人に対する割合はわずか4.4%。残る95%の相続分については全く税金がかかっていません。
日本全体で1年にどれくらいの資産が相続されているかは統計データが存在しないため推測するしかないですが、相続税として申告された課税価格10.6兆円の数倍にはなると思います。少子高齢化が急速に進んでいる日本において、フローだけでフロー原資を賄おうとするのは愚策です。これまであまり考慮されてこなかったストックたる資産課税について真剣に考える時期にきています。
仮に日本全体で年間50兆円の資産が相続されるとして、各種控除を廃止して一律50%の税率を掛ければ25兆円の財源は捻出できる。これは強力な財源となるうえに、贈与税優遇策とセットで実施することで高齢層から若年層への資産移転を一気に進めるという効果もあります。まあ、多くの票を持つ高齢者は賛成しないので提案自体ができないというのが実情なんでしょうが。
逆富士山型の人口構造が進行する中、国民年金の保険料納付率は昨年度、59.4%と6割を切りました。加えて、男性が稼ぎ手の専業主婦型夫婦や家族が「標準」とは規定し得ぬ社会状況なのに、従来の「家族」「労働」を依然として前提にする日本の社会保障制度は既に崩壊状態なのです。
B・Iを本格的に導入するのであれば、現行の社会保障制度は原則全て廃止するのが筋です。例えば、公的年金、失業給付、生活保護、子ども手当(児童給付)などは原則廃止すべきでしょう。そうすることでこれらの財源をB・Iに流用することができます。加えて、社会保障の枠組み自体を原則的にB・Iに一本化することで行政のスリム化にも資することになります。そうなると月額5万円では足りませんが。
また、B・Iによって、従来の「家族観」や「労働観」は変わるでしょうね。まず、結婚観が変わるでしょう。B・Iによって結婚数自体が減るか増えるかは分かりませんが、子どもが独立した中高年の離婚は増えるのではないでしょうか。それに、子どもの独立が早まるかもしれません。B・Iは個人に支給されるものなので、親や配偶者に頼る必要はありませんから。
労働については、労働賃金の最低保証性を無視していいわけですから、国の政策としての「最低賃金制度」は廃止されるでしょうし、解雇も自由になるはずです。これによって日本的経営なるものは本当の意味で消滅します。賃金体系は二極化し、余人を持って代え難いスキルを持つ人に対しては高報酬で報いる一方で、そうでない人は首になるか著しく低い賃金に甘んじなければならないので、その仕事が好きでなければ辞めるしかないでしょう。とはいえ、辞めざるを得なかったとしても、最低限度の保障があるので失敗を恐れることなく新しいチャレンジができます。起業家も増えるでしょうし、NPO活動に精を出す人も出てくるでしょう。しかしその結果、ある種の業種では雇用が確保できなくなると思います。具体的には、介護、福祉、医療、小売、飲食、サービスなどは人手が足りなくなるでしょうね。そういう業種では移民で対応していくことを真剣に議論していかなければならないでしょう。
まあ、実際に導入してみないと、社会に与える本当の影響はわからないです。B・Iを導入した国がないので参考にすることもできません。家族観、労働観、そして机上の空論に過ぎない財源問題だって、気がついていない大きな落とし穴があるかもしれません。
現在では単なる思考実験としてのベーシック・インカムですが、国政レベルで真剣に議論される日はくるでしょうか。私は、B・Iに対して何かはっきりとは言えない漠然とした不安があるので、諸手を上げて賛成できません。ただし、議論されるだけの価値はあると思っています。
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