菅直人首相が5日、小沢一郎前幹事長を批判してきた枝野幸男前行政刷新担当相を党幹事長に充てる人事を発表したのは、「小沢離れ」と首相のリーダーシップを印象づけ、間近にせまった参院選を前に世論の支持を受ける狙いがあるからだ。毎日新聞が4、5日行った世論調査で、民主党支持率は5月末の17%から28%に。小沢グループも世論の動向を踏まえ、菅首相への反発を沈静化させつつある。だが、小沢氏は9月代表選に候補者を擁立する構えを見せており、火種は残り続けそうだ。
民主党幹事長に決まった枝野氏は5日夜、首相官邸で菅首相と協議後、記者団に「民主党が何を目指し、どう考え、どう行動していくかをいかにわかりやすく伝えていくかが、私の一番の役割だ」と抱負を語った。不透明な党運営や説明不足が批判されてきた小沢前幹事長との違いを強調する意味があった。
枝野氏は「選挙の小沢」に代わり参院選対策を仕切ることになる。選挙対策委員長にも非小沢系の安住淳衆院安全保障委員長が内定。小沢氏は改選数2以上の選挙区に複数候補を擁立し、共倒れを懸念する地元県連とのあつれきも生じているが、枝野氏は「現状を把握したうえで選挙関連の役員と話したい」と述べるにとどめた。
枝野氏は、官房長官への起用が決まった仙谷由人前国家戦略担当相とともに非小沢系の代表格。小沢系との対立激化を懸念し、幹事長起用に反対する声が菅首相のグループ内からも出ていた。しかし、起用を見送れば小沢氏の圧力に屈したと映る。5日午前、党本部に入った菅首相は側近の荒井聡前首相補佐官(国家戦略担当相に内定)らに「任せてくれ」と起用を明言した。
毎日新聞など報道各社の世論調査で民主党の支持率が上昇したことも首相の決断を後押しした。改選を迎える参院議員は「仙谷官房長官、枝野幹事長が正式に決まれば支持率はもっと上がる。小沢グループにはこれ以上文句をつけてほしくない」と語った。小沢氏に近い党幹部も「選挙のことだけを考えたらいい人事だ」と認める。
菅首相は、民主党代表選で小沢グループが支援した樽床伸二氏を党国対委員長に、枝野氏らと同じグループながら小沢氏に近い細野豪志氏を幹事長代理に起用することを決め、小沢氏への配慮も示した。輿石東参院議員会長は「『親小沢』『反小沢』と言っている場合ではない。党としてまとまらなければならない」と党内対立の沈静化を図っている。
小沢氏はどう動くのか。4日夜、9月の党代表選での独自候補擁立に意欲を示した小沢氏は周囲に「9月まで隠居して何もやらない」と漏らし、党運営に協力しない考えを示唆した。事業仕分けを取り仕切り、政策通として知名度も高い枝野氏だが、選挙など党務の手腕は未知数。小沢系のベテラン議員は「幹事長登用で党の人気が上がっても党内をきちんとまとめられるか心配だ」と語った。【須藤孝】
参院選直前の首相交代に踏み切った民主党の「窮余の一策」はとりあえず吉と出た。毎日新聞が4、5日実施した緊急世論調査で参院選比例代表の投票先の回答が34%に回復し、「大敗」予想が広がるまでに落ち込んでいた党勢が息を吹き返した。ようやく攻勢に転じつつあった自民党は落胆を隠せず、執行部刷新論が再燃する可能性も出てきた。
「地元の空気ががらっと変わった」。夏の参院選で改選を迎える民主党の中堅・若手議員は鳩山由紀夫前首相と小沢前幹事長の辞任を一様に歓迎。特に「政治とカネ」問題を抱える小沢氏の辞任が「プラスに作用した」との見方が広がり、「早く国会を閉じて選挙してほしい」という現金な声まで上がる。
自民党は政党支持率でも比例代表の投票先でも再び民主党に水をあけられた。大島理森幹事長は5日、党福井県連大会で「選挙に勝てる態勢を作るために事業仕分けならぬ『小沢仕分け』をしようとしている」と菅首相の「脱小沢」路線を皮肉った。谷垣禎一総裁も「『小沢離れ』を演出しているが、(小沢氏を)きちんと証人喚問するのか。馬脚を現すだろう」と述べ、終盤国会での菅首相追及に望みをつなぐ。
自民党にとって救いは国会の会期延長。予算委員会などの論戦で失点を誘いたい考えだが、「論客」で知られる菅首相を追い込めなければ、執行部批判が逆に強まりかねない。
みんなの党は5月15、16日の世論調査の比例投票先で15%まで伸ばしていたが、今回は10%に下がり、党勢に頭打ち感が出てきた。【中田卓二、高山祐】
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<本社世論調査 質問と回答>
◆菅首相に期待しますか。
全体 前回 男性 女性
期待する 63 69 59
期待しない 37 30 41
◆鳩山前首相は、米軍普天間飛行場移設問題で社民党が連立政権を離脱したことと、自らの資金管理団体による偽装献金問題を理由に辞任しました。鳩山氏の辞任を評価しますか。
評価する 58 62 56
評価しない 40 38 42
◆この夏に参院選が行われますが、この時期に鳩山氏が辞任したことをどう思いますか。
妥当な時期だと思う 27 25 28
辞めるのが遅すぎた 49 53 47
辞める必要はなかった 23 21 24
◆民主党の小沢前幹事長の資金管理団体による政治資金規正法違反事件を理由に、鳩山前首相は小沢氏に幹事長辞任を求め、小沢氏は辞任しました。小沢氏の辞任を評価しますか。
評価する 81 78 84
評価しない 18 22 15
◆小沢氏がこの時期に辞任したことをどう思いますか。
妥当な時期だと思う 11 12 10
辞めるのが遅すぎた 82 78 84
辞める必要はなかった 7 9 5
◆首相の交代を受け、国民が新たに政権を選べるよう、衆院の解散・総選挙を求める意見もあります。衆院を解散すべきだと思いますか。
解散すべきだ 45 42 47
解散すべきでない 52 56 49
◆社民党は、日米両政府が、普天間飛行場の移設先を沖縄県名護市辺野古に決めたことを受けて連立政権を離脱しました。社民党の連立離脱を評価しますか。
評価する 60 56 63
評価しない 37 42 34
◆どの政党を支持していますか。
民主党 28(17)35 23
自民党 14(17)14 13
公明党 4 (4) 1 6
共産党 2 (2) 2 3
社民党 2 (2) 3 2
国民新党 0 (0) 1 -
みんなの党 8 (9) 9 7
新党改革 1 (1) 1 1
たちあがれ日本 - (1) - -
新党日本 0 (0) 1 0
その他の政党 1 (1) 1 1
支持政党はない 39(44)32 43
◆参院選が今行われるとして、あなたは比例代表でどの政党、あるいはどの政党の候補者に投票しますか。
民主党 34(22)39 31
自民党 17(21)17 16
公明党 4 (4) 1 6
共産党 3 (4) 3 4
社民党 3 (3) 4 3
国民新党 0 (1) 1 -
みんなの党 10(14)11 10
新党改革 1 (1) 1 1
たちあがれ日本 1 (2) 1 1
新党日本 0 (0) 0 -
その他の政党 18(18)17 19
◆民主党は衆院で半数を大きく超える議席を持っていますが、参院選の結果次第で連立政権の枠組みが変わる可能性があります。参院選後、民主党がどの政党と連立を組むのが望ましいと思いますか。
民主党の単独政権 33(32)40 29
社民党、国民新党との連立 13 (7)13 13
自民党との大連立 11(14)10 11
公明党との連立 3 (2) 4 3
みんなの党との連立 12(10)12 12
その他 23(29)19 27
(注)数字は%、小数点以下を四捨五入。0は0.5%未満、-は回答なし。無回答は省略。カッコ内の数字は前回5月29、30日の調査結果。
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4、5日の2日間、コンピューターで無作為に選んだ電話番号を使うRDS法で調査。有権者のいる1594世帯から、981人の回答を得た。回答率は62%。
毎日新聞 2010年6月6日 東京朝刊