大阪市住吉区の介護事業所「なごみ」。
デイサービスセンターや特別養護老人ホームを備え、地域のお年寄りやその家族にとってなくてはならない施設です。
経営をやりくりする施設長の村田さんは、毎年届くある「請求書」に我慢がならないと話します。
その「請求書」とは…。
<介護事業所「なごみ」 村田進施設長>
「これがうちにくる。手数料の納付についての通知。調査料は2万5,000円。公表手数料は8,000円。合計3万3,000円をコンビニかどっかから払えと書いてある」
「調査手数料」と「公表手数料」でしめて3万3,000円。
しかも、請求書は5通あるので合計は16万5,000円です。
(Q、16万5,000円を払わないといけない?)
<施設長 村田進さん>
「払わないといけないです。これは振り込まんといかんのです」
(Q。それは拒否できないのですか?)
<施設長 村田進さん>
「できないですね」
介護事業所が拒否できないというこの支払い。
その裏には、いわゆる「天下り利権」が隠されていました。
インターネットの「介護サービス情報公表システム」。
各都道府県ごとに私たちが、介護事業所を検索できるサイトです。
実はさきほどの「請求書」は、このシステムの運営費に関するものだったのです。
仕組みはこうです。
介護事業所は毎年、サービス内容を「介護サービス情報システム」で公表するよう法律で義務付けられています。
その際、各事業所が公表した内容が正しいかどうか、都道府県は指定機関に依頼して訪問調査させています。
その費用を調査を受ける側の事業所が支払わなければならないのです。
調査費は1事業ごとに3万3,000円。
「なごみ」のように特別養護老人ホームやデイサービスなど、5つの事業を行っているところは、毎年16万5,000円が必要です。
しかし、その費用対効果はというと…
(Q.この「情報システム」見てきましたっていう利用者は?)
<施設長 村田進さん>
「ゼロですね。今までまったくない」
(Q.一人もいない?)
<施設長 村田進さん>
「ひとりもいないです。多分ケアマネージャーの事業所ですら見てないと思います。一刻も早くなくすべき、全くの無駄です」
サイトのアクセス数は一事業所あたり、月に2回。
ほとんど役に立っていないのが実情です。
では一体、どんな調査が行われているのでしょうか。
大阪・東成区のとある訪問介護ステーション。
先月のある日、調査員が訪れていました。
私たちはその実態を目の当たりにしました。
【調査の様子】
<調査員>
「1か月に1回以上、利用者の居宅を訪問し面接した記録がある?」
<職員>
「はい、本人のハンコもあります」
調査は、必要な書類がそろっているかどうかのチェックだけ。
サービスの中身については一切調べません。
<調査員>
「項目31番まで確認さしていただきましたんで」
2つの事業が調査対象になっていましたが、わずか1時間半で終了。
調査と公表の手数料はあわせて6万6,000円です。
本来はこの調査、午前と午後にわけて1日がかりで行われるはずだったのですが…。
(Q.1時間半ぐらいで終了?)
<ケアマネージャー 服部朋子さん>
「それで2事業所分ですね」
(Q.本来は、午前・午後とやる予定だったんですか?)
「そうです」
同じ金を払うなら、利用者や職員のために使いたいというのが介護事業所の本音。
形だけの調査には納得がいきません。
<ヘルパーステーション部 好川清美代表>
「トータル1時間半で2事業終わった。時給に換算すると、1日の売り上げで結構、高利益な商売になるのでは」
(Q.「情報公表システム」見て来ましたっていう利用者は?)
<好川清美代表>
「一切いらっしゃらないです。見て電話くださった方とかもまったくない」
<記者>
「午前9時30分です。調査員が介護事業所に入っていきます」
大阪市内の別の事業所の調査でも…
<記者>
「午前11時40分です。調査員が調査を終えて介護事業所から出てきました」
こちらも2種類の事業の調査が2時間10分で終わったようです。
果たして調査は十分なのでしょうか?
大阪府から調査などを請け負っている法人を取材しました。
「大阪府地域福祉推進財団」(大阪市中央区)。
府の元幹部が理事長として再就職している天下り法人です。
(Q.1事業所を調査するのにどれくらい時間かかると?)
<大阪府地域福祉推進財団 木原卓常務理事>
「1事業あたり、報告も入れますと約7時間ぐらいはかかる」
(Q.実際は1事業1時間くらいでおわってしまうんですよ。おっしゃってることとは違うんでは?)
<木原卓常務理事>
「そういう事業所さんもあるということでは…」
<財団幹部>
「(調査員が)朝出て、そこまで行く時間も積算されてるんかなと」
移動時間も入れれば、調査には1事業あたり5、6時間はかかっていると言い張る財団。
大阪府下ではこうした天下り法人3社が、この事業で年間2億8.000万円の収入を得ています。
さらには、国の天下り法人の存在も浮かび上がってきました。
<記者リポート>
「『介護サービス情報公表システム』の開発などを行っているのが厚生省の外郭団体『シルバーサービス振興会』です」
社団法人・シルバーサービス振興会(東京・千代田区)。
厚生労働省OBが理事長と常務理事を務める天下り法人で、「情報公表システム」の開発のためなどとして、国から年に2億5,000万円の補助金が投入されています。
形だけのものと言わざるを得ない介護の「情報公表システム」。
この現状をどう考えているのか。
私たちは振興会にインタビュー取材を申し入れたものの拒否されたため常務理事に直接、話を聞きました。
(Q.アクセスが少なくてほとんど利用されていないのでは?見解を聞かせてください)
<シルバーサービス振興会 吉田静慈常務理事>
「特にお答えすることはございません」
(Q.介護事業所はものすごく負担は大きいが?)
<吉田静慈常務理事>
「…」
(Q,一体誰のための事業か?)
<吉田静慈常務理事>
「…」
常務理事は、質問に答えることなく立ち去りました。
振興会は「システムの周知が不十分との指摘を受け、利用・活用の促進に取り組んで参りたい」と文書で回答しています。
老人介護の現場から巨額の金を吸い上げる天下り・集金システム。
形だけの「情報公表」は、今後も続くのでしょうか。
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