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番組バックナンバー
目次 > 2010年1月11日放送の番組バックナンバー


イタセンパラの産卵の瞬間 自然界での撮影に成功
かつて淀川に「イタセンパラ」という珍しい魚がいました。
貝に卵を産み付ける国の天然記念物なんですが、およそ4年前に淀川から姿を消しました。
「イタセンパラ」を川に戻すプロジェクトが進められる中、関西テレビのカメラがその不思議な生態をとらえました。

大阪府水生生物センター・上原一彦主任研究員「バスですわ、こいつが皆食ってまいよるんですわ」

淀川で行われた外来種の駆除作業。網にかかるのは外国の生き物ばかりです。

「シロヒレタビラ」
ようやく日本固有の魚が見つかりました。
「ペアでおった」

この日捕獲された生き物の9割は、元々淀川にはいないものでした。
淀川にはワンドと呼ばれる生き物の宝庫があります。
池のように水の流れが緩やかなため、魚たちの産卵や成長の場となってきました。
しかし、河川の改修でワンドの数は減り、追い討ちをかけるように強い外来種が増えたのです。そして、ある魚が姿を消しました。
”淀川のシンボルフィッシュ”とも言われたイタセンパラです。

去年7月、川の環境を考えるシンポジウムが開かれました。
集まったのは行政の担当者と研究者、それに市民です。

参加者「もはや淀川は川でなくなった!」「排水路にはイタセンパラは棲まない!」

大都市を流れる淀川に、再びイタセンパラを取り戻そうというのです。

上原主任研究員「小学生が魚釣りをしたり…。10年前の姿に戻したい」

イタセンパラは淀川をはじめ、国内のごく限られた場所にしか棲んでいませんでした。
淀川では平成17年を最後にその姿が確認されていません。

淀川に秋が訪れました。川のすぐそばにある石清水八幡宮。夜を徹して行われるこの祭りでは”生きとし生けるもの”の平安と幸福を願います。1140年も昔に始まったとされる人々の祈りです。川は全ての生き物を包んでくれます。

人々に多くの恵みを与えてきた川。その一方で氾濫による水害をもたらしてきました。
治水などを目的とした河川改修が行われ、水害はほとんど起きなくなりました。
そして…川原にさえ水が溢れることは少なくなりました。

去年10月、近畿地方に多くの雨を降らせた台風18号。淀川の上流にある木津川が増水。
「流れ橋」が流されました。実に12年ぶりのことです。氾濫は川の水を入れ替え、川原を潤します。それは生き物にも潤いを与えることになっているのです。

この激しい増水でも淀川の下流では水位の変化がほとんどありませんでした。

淀川水系イタセンパラ研究会・小川力也会長「川が氾濫する事が無くなったことが、この種にとっては非常に良くなかった」

11月。淀川沿いにある水生生物センター。ここでは、天然記念物に指定される以前の昭和46年から大阪府のある池でイタセンパラを飼育しています。
保護を目的とするため、池の場所は非公開ですが、今回特別に撮影を許可されました。

イタセンパラの体長はおよそ10cm。
”板の様に薄く、産卵期のころオスの腹が鮮やかなピンクに色づくこと”からその名がついたといわれています。その一番の特徴は貝に卵を産み込むことです。
イタセンパラのオスは、産卵期を迎えると貝をめぐって激しい縄張り争いを繰り広げます。

他の生き物と同じように、強いオスだけが子孫を残すことができるのです。力が互角である場合、決着が着くまで延々と相譲らない戦いが続くことになります。これはパラレルスイミングとよばれています。

今や、水槽でしか見ることができなくなった淀川のイタセンパラ。
これは、広い池だからこそ撮影できた貴重な姿です。

縄張りを勝ち取ったオスは、追いすがる他のオスを蹴散らしながらメスを連れてきます。
ピンクに色づくオスに対し、メスは産卵期に入っても白いままですが、お腹の産卵管が伸びてきます。この管を貝の中に挿入して卵を産み込むのです。

このオスはなんと2匹のメスを同時に連れてきました。
オスは体を小刻みに震わせ、交互にメスたちのお腹をつついて産卵を促します。

淀川から姿を消して4年。去年秋、飼育されていたイタセンパラが初めて淀川に放流されることになりました。

国土交通省淀川河川事務所・小俣篤所長「川の環境の整った場所も在り、今年(2009年)放流にふみ切る」
上原主任研究員「イタセンパラ見つからなくなって時間経つので忘れられるのが怖い」「戻そう取り戻そうという気持ちがあるうちにやる事は必要」

”忘れられないうちに…”しかし放流されたイタセンパラの姿は皮肉にも公開されませんでした。希少種の魚はマニアによる密漁や密売が後をたたないため日時や場所などは完全に秘密にされたのです。

小川会長「放流する日ですね、決行日は関係者でさえ一部の者にしか伝えられない」
「私も連絡いただいたのは前日で、明日やりますと…」

淀川にイタセンパラが放流されたころ、この池にも産卵の時期が訪れていました。

オスは少しでも他のオスに先んじて自分の子孫を残すため、メスが産卵する前から盛んに精子を振りまきます。やがて、メスがしきりに貝を覗き込み始めます。
貝の口が開くタイミングを見計らって、産卵管を差し込むためです。とはいえ、生きている貝に卵を産み込むのは容易ではありません。貝にしてみれば、何の得も無いからです。

産卵管が入りきらず、卵を外に撒き散らしてしまいました。
そして…。ようやく産卵が成功しました。再びオスが精子を振りまきます。争いに敗れたオスも、何とか自分の子孫を残そうと最後まであきらめません。

上原主任研究員「一連の産卵動作が撮られているというのは初めて」「自然の池で撮影されていますので価値がある」「すごく感動しましたね」

一ヶ月後、再び池を訪れました。貝の中ではイタセンパラの新しい命が静かに息づいていました。今回、淀川に放流されたのも、この池で生まれたイタセンパラでした。淀川での産卵が無事に成功したかどうかは、まだわかりません。

豊かな自然を誇る淀川の象徴と謳われたイタセンパラ。
このほんの10cm足らずの魚が消えてしまったことの意味は、決して小さなものではありません。

2010年1月11日放送

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