関西テレビKTV NEWS/スーパーニュース アンカー スーパーニュースアンカー
関西テレビKTV NEWS/スーパーニュース アンカー
番組バックナンバー
目次 > 2010年3月11日放送の番組バックナンバー


「映画」と「水銀」で揺れるクジラの町 
400年の歴史を誇るクジラの町に、今週、激震が走りました。
イルカ漁を隠し撮りした映画がアカデミー賞を受賞し、世界から注目を浴びることになった和歌山県太地町。捕鯨の伝統が映画で一方的に非難されたほか、クジラやイルカの肉に含まれる水銀もクローズアップされています。戸惑いを隠せないクジラの町の今を取材しました。

和歌山県、太地町。
古式捕鯨発祥の地と言われるこの町で、漁師たちは400年前からクジラやイルカを捕って生活してきました。
小学校では今でも、月に1度、給食にクジラが出ます。
クジラの食文化を、若い世代に伝えるためです。
人々は、クジラとともに生きてきたのです。

しかし・・「受賞は、ザ・コーヴ!」


アメリカの自然保護団体が制作した映画「ザ・コーヴ」。
音生かし太地町のイルカ追い込み漁をテーマにしたこの映画は、隠し撮り映像を中心に構成され、イルカ漁は残酷で、すぐにやめるべきだと主張します。
この映画が、今週発表されたアカデミー賞の、長編ドキュメンタリー賞を受賞したのです。

監督のルイ・シホヨス氏は、映画は日本人への情報提供だと話します。
「メディアはこの映画をジャパンバッシングだと言うが、私はこの映画をラブレターだと思っている。これは種の大虐殺です。これは伝統ではありません。
伝統だったとしても、なくしたほうがいい伝統もある」

太地町の住民「エゴのテロリストだね。クジラを捕ってきて生活をしている。
そういうことを我々は守っていかなくてはならない。これは生活のためでもある。」
「クジラが殺すのが残酷だったら、彼らが食べてる牛や豚、もちろんカンガルーはどのくらい殺されてるか。何かやることは矛盾してるっていうのは私らから見ればそういう風に思いますけどね」

先月16日。映画にも登場し、批判の矛先を向けられた太地町長は、苦悩の気持ちを語りました。
「事実誤認があるね、映画に。大きな事実誤認がある。そのことによって風評被害を心配してるっていうことですよ。ここ20年前だったらゴンドウクジラってのが上がったら、太地の肉屋さんで牛肉が売れないっていう状態だったんですよ。そういう町なんですよ。」

追い討ちをかけるように国内では、大学教授が町民に行った水銀量調査の結果、日本人平均の10倍以上の水銀が検出されたと報道されました。

記者「クジラの町太地町は、水銀問題と、反捕鯨団体が作ったドキュメンタリー映画の影響で、大きく揺れています。」

水産加工品を販売する塩崎伸一商店。
従業員8人の小さな店は、売り上げの6割をクジラに頼っています。
しかし、水銀についての報道が出た途端、出荷されたクジラ肉が全て返品されてしまったのです。

「赤肉は全部返品ということで。全部冷凍したんですけどね。
冷凍したらもうおそらく売り物にはならんと思います。価値が違いますからね、生と」

今頃は店頭に並んでいるはずだったクジラ肉は、冷凍庫で行き場を失っています。

「もう手間とか資材とか考えると相当な損害ですよね。
売れてくれればいいんですけど、果たしてどこまで売れるか心配ですよね。ハリハリ鍋とかね、今ちょうど時期だから、関西のほうへ出荷する予定だったんですけどね。」

ひと月で200万円の損害だということですが、出荷のメドは、今もたっていません。

町での毛髪検査健康被害を心配する声が上がる中、太地町では去年の夏から環境省と協力して、住民の体の水銀調査を行っています。
環境省の研究者が、住民の髪の毛を3〜4本ずつ採取し、クジラやイルカ肉を食べる頻度などを聞き取り調査します。
これまでに全町民のおよそ3分の1から髪の毛を集めました。

検査した住民「特別数値でも高ければ考えるでしょうけどねえ。心配ない程度だったらみんないただくんじゃないですかねえ。やっぱりクジラの町ですからねえ」
「何ら問題ないと思いますんで。現に健康体なんで。何ら問題ないです。はい。」
「体の方は75やけどちっと頭が悪いだけでどこも悪いとこないんです。80ぐらいまで生きられたらええやん。」

集められた髪の毛は、熊本の国立水俣病総合研究センターで詳しく調べられます。
取材した記者の髪の毛でも検査を行ってもらいました。
アルカリ性の溶液に溶かした髪の毛を機械にかけて蒸発させ気化したメチル水銀の量を量ります。
安武室長「そうですね、だいたい数ppmだったらこれぐらいかな。3ないし4ppmぐらいじゃないかと思いますよ。日本人男性の平均が2,5ppmですから、心持ち魚の好きな方では普通でしょうね。」

記者の検査結果は3.01ppm。
この方法はほとんど誤差のない、信頼性の高いものとされ、太地町民の調査結果は今月末にもまとめられるということです。

安武室長「確かに体の中に水銀はないに越したことはないんでしょうが、普通に生活している限り、水銀と無縁の生活は不可能です。
増える一方というのも間違いで、私たちの体の中に入ってきたメチル水銀は確実にある一定のスピードで排泄されます。絶妙のバランスのもとに成立ってますね」

安武室長によるとメチル水銀は自然界でもバクテリアなどから発生し、どんな魚にも含まれているものだということです。
さらに、クジラなどの水銀を水俣病と同一視することには疑問が残るといいます。

安武室長「今まで200名弱の太地町の町民を国水研の臨床医が診察してますが、、メチル水銀中毒を疑わせるような症状は一切見られていない。 自然界の食物連鎖の果てに摂取するメチル水銀と、事故として人為的な汚染の結果として摂取するメチル水銀とでは毒性の現れ方というか生態への影響の仕方も違う可能性もあるのかなと考えますけど」

「今日の映画すごいめずらしいです。めずらしいな映画です」

日本の食文化に切り込んだ映画「ザ・コーヴ」。
大阪の高校で先週、上映会が開かれました。
ここで11年間英語の講師をしているスティーブンさん。
日本で起きているこの問題を生徒たちに考えてもらおうと、映画を見せることにしたのです。
今までこの問題を授業で学んだこともあるという生徒たちですが、次々と映し出されるショッキングな映像に、衝撃を受けたようです。
上映後、生徒たちは率直な感想をぶつけ合いました。

女子生徒「食べるものならなんぼでもあるし、クジラ食べんでも牛とか食べたらええやん。」女の子2「それ言ってもイルカにはひどいって言ってるやん。」
男子生徒「そう、牛とかはどうなん?」
女子生徒「食べるために飼育されてる牛たちがおるやん。」
男子生徒「じゃあ俺がもし牛だったら、飼育せんといてって感じやねんけど」


賛成、反対の意見が次々と出されました。 議論は尽きません。生徒たちも、真剣です。

スティーブンインタ「すごい日本の将来なトピックですね。大学でこのトピック出てくるから高校で勉強したほうがいいと思います。ダメだけじゃなくて、考えさせたい。それみんないいと思う」

太地町長「この町は何百年もクジラばっかり食べてるわけですよ。そこで何の健康被害も受けてないことが一番のことなんで。それを現在の科学的根拠に基づいてそうだっていう証明をする必要があるんじゃないかなってそう思ってる」

伝統として受け継いできたものが、一本の映画によって突如否定され、戸惑う太地町。 「ザ・コーヴ」は日本で初夏の公開が決まっています。 クジラの町に、元の平穏が訪れる日は来るのでしょうか。

2010年3月11日放送

戻る



Copyright(c)2006 Kansai Telecasting Corporation All Rights Reserved.関西テレビ