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番組バックナンバー
目次 > 2010年3月22日放送の番組バックナンバー


再犯を防ぐ…出所者の就職支援 

日本では、罪を犯して服役し、出所したにも関わらず、5年以内に再び罪を犯してしまう割合が4割を超えています。そんな中、仮出所し、お好み焼き店に就職した男性が、過去と向き合うために、ふるさとの地を踏みました。

「いらっしゃいませ〜」。調理場で食材の準備をするAさん(28)。
去年12月に刑務所を仮出所し、大阪のお好み焼きチェーン「千房」に就職しました。1ヶ月ほどが経ったこの日、Aさんは初めての給料日を迎えていました。

「ありがたいっていうのもあるし、実感がわくっていうか、ちゃんと社会でや
っていけてるんやなって」(Aさん)

地道に働き、社会に根ざして生きていく。
刑務所に入ってから、ずっと目指していたことでした。

Aさんは愛媛県で電化製品の窃盗を繰り返し、2年半前、懲役2年10カ月の判決を受けて刑務所に入りました。もっと早く自分の愚かさに気づいていれば…。後悔を抱きながら受刑生活を送っていたAさんの人生を変えたのは、ある就職試験でした。
去年7月、全国展開をしている「千房」が、刑務所から出所した人を採用する取り組みを全国で初めて実施したのです。Aさんは面接を受けた結果、千房の中井政嗣社長に採用されました。

 
「最初に比べるとちょっとずつできるようになってるんじゃないかなって思います。まわりの従業員の方も、自分がどういう状況でっていうのをわかってて、すごくよく接してくれてるんでありがたいですね」(Aさん)

生まれて初めて暮らす大阪で、慌しく過ぎていく日々。一歩ずつ更生の道を歩んでいますが、Aさんには気がかりなことがありました。

「迷惑をかけた人にちゃんと謝罪っていうか。(父と祖母は)死んでるけどわかってると思うんですよね、僕が何をしてっていうのを。後はこれから大阪でがんばるっていうのを伝えられたらいいかなって」(Aさん)

Aさんは、故郷を訪れることを決めました。刑務所に入るまで、Aさんはこの街で育ちました。幼い頃両親が離婚し、引き取った父親も9歳のときに交通事故で亡くなりました。育ててくれた祖母も、もうこの世にはいません。 

父親が亡くなるまで過ごした家。

「小学校1年生とかでしょうね。僕が1番楽しかったこととか。いろんな作文がありますね」。
楽しい思い出が詰まった家は、20年の時が過ぎ、朽ち果てていました。

「懐かしいなって」「だけど帰れないですからね」(Aさん)

父の死後、残された兄弟を女手1つで育ててくれたのは祖母でした。しかし、そんな祖母を思いやることはできず、高校卒業後から生活が荒れ始めました。祖母が亡くなってからは、ついに犯罪に手を染めるようになりました。

「(当時の自分を振り返ると?)くずですね。ええ年こいてアホなことしよったんだなって情けなく、恥ずかしいです。あの時に捕まっててよかったなって。今は思います」(Aさん)

今となっては、家族はたった1人、兄だけです。
「たかがお前3年4年まじめにしただけじゃあ信用なんか取り戻せんで?まじ
めにしてくれよんやったらええけどよ…」(Aさんの兄)「すんませんでした。 ほんまに」(Aさん)
「やっぱり親父もいないしお袋もいないから、怒ってもらう人がいなかったっ
ていう…。どちらかいてくれたらまだ、結構違ったんじゃないかなとは思った
んですけど。いろいろ止められたんじゃないかなというのはあるんですけど…」 (Aさんの兄)

 
両親のいないAさん。帰る家がないため、千房に採用されていなければ、厳しい現実に直面していたかもしれません。

身寄りがなく、就職先もない人を受け入れる施設があります。大阪にある更生保護施設「和衷会」。再犯防止のために、行くあてのない出所者などに一定期間、住まいと食事を提供しています。出所者などはここを拠点に就職先を探したり短期の仕事などで資金を貯めたりしながら、自立を目指します。しかし最近の不況から、仕事を得ることはいっそう難しくなっているのです。


この男性(59)は、刑務所を仮出所した後この施設に入りましたが、来月には保護観察が解かれるため出ていかなければなりません。未だ就職先は見つかっておらず、ハローワークを訪ねましたが…。

「前歴うんぬんがあるでしょうが、そんなん関係無しにみなさんかなり厳しい。
年齢の若い人も年齢高い人もみなさんかなり応募されてるんで、応募していく過程で、あかんかったっていうことで『もういいわ』ってなってくると決まりませんので、そのへんはしっかり考えてやっていただけたら」(ハローワークの職員)

 
「普通の人でも就職できないのにね、前科者が就職できるわけ俺はないと思うんですわ…」(男性)

さらに、更生保護施設に協力雇用主から提供される日雇いの仕事も減少。
就職先が決まるどころか自立資金も貯まらず、結果として、全国の更生保護施設の平均入所期間は、2004年度以降の5年間で10日以上伸びているのです。出所してからの生活が見通せない状況では、再犯の可能性も拭えません。

和衷会の加藤吉宏施設長は、「生きていく上でのベースというのはやっぱり仕事。それはなぜかというと、当然生活の糧を得る手段でもありますし、それから仕事をすることによる規則正しい生活、健全な生活が維持できる。もう1つは、対人関係の持ち方が自然と身につくはずなんです。こういう3つの大きなメリットを考えると、(再犯防止のためには)これはもう仕事をするしかない」と指摘します。

なかなか掴むことのできないチャンスを得て就職したAさん。社会に足場を見つけたことで、ようやく父と祖母の墓参りに来ることができました。祖母が亡くなってから、9年の時が経とうとしていました。

「ほんと申し訳なかったし、もっと早く目を覚ましておけばよかったかなって。(祖母は)怒るより、悲しんでるでしょうね。僕の親父より僕を育てた年月は長いんで。言うたら母親ですからねえ。悲しい方が大きいんじゃないですかね。自分の育て方が間違ったとか思われたくないですけど。そこだけは。思ってほしくないんで、がんばるしかないです」(Aさん)

故郷から大阪に帰ってきた翌日、千房に新しい仲間が加わりました。Aさんと同じ刑務所で千房に採用された男性です。

「2人とも親代わりの私がバックにおるから大丈夫やな」(中井社長)

そしてAさんは、新しく接客の仕事を覚え始めました。

「お客さんの笑顔とか見るのができたらうれしいっていうか。拾ってくれたのも社長やし、助けてくれたのも社長なんで、それは、恩返しができるように」(Aさん)

多くの人の手を借りて踏み出すことができた社会復帰への道のり。
同じことを繰り返さないことが償いの第一歩だと信じて、歩んでいます。

2010年3月22日放送

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