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東名高速事故から10年 断酒の誓い

幼い姉妹2人が犠牲となった東名高速飲酒トラック事故から10年が経ちました。娘の死を無駄にしないために、井上保孝さん、郁美さん夫婦は今も声を上げ続けています。一方で、服役を終えて刑務所を出た元トラック運転手(事故当時56)は両親に断酒を誓いました。被害者と加害者それぞれの10年です。

6年前。井上さん宅に加害者の元トラック運転手が訪れました。彼は飲酒運転の常習者で、懲役4年の刑に服し、社会に戻りました。

「(加害者は)元来子どもが大好きな私が可愛い2人のお嬢さんを殺してしまって。本当に申し訳ありません。二度と酒は飲みませんと。その言葉を守り続けておられたら償いの気持ちを感じられるかもしれません」(井上保孝さん)

この10年で、飲酒運転に関する法律は大きく変わりました。全国の遺族たちの署名活動が実り「危険運転致死傷罪」が成立。最高刑は懲役5年から20年に引き上げられました。さらに飲酒運転の取り締まり基準値や罰則も厳しくなりました。

「みんなが飲酒運転に厳しい目を持つようになった。悪質さが認められ、皆に伝わった10年だった」(井上保孝さん)

罰せられるのは酒を飲んだドライバーだけではありません。2年前、埼玉県熊谷市で飲酒運転の車が暴走し9人が死傷した事故。加害者と酒を飲んだ後、一緒に車に乗った友人(危険運転致死傷罪のほう助)、さらに酒を出した飲食店の経営者(道交法 酒類提供罪)も改正法に基づき、罪に問われました。飲酒運転による死亡事故はこの10年で4分の1以下に減りました。厳罰化は大きな効果をもたらしたといえますが、それでも、悲惨な事故は後を絶ちません。

「厳罰化はかなりの人に効き目があるけど、最後まで効き目がないのは『依存症』という人たち」(井上郁美さん)

「厳罰化」以外の手立てを求めて井上さんはアメリカにまで足を運びました。ほとんどの州で導入されている「DUIプログラム」は飲酒検問などで検挙されたドライバーを再教育するものです。初犯の場合で通常3ヶ月間、スクールに通うことを裁判所に命じられます。授業は週1回3時間程度で、受講しなければ運転免許は再交付されません。

「アメリカの裁判官や弁護士、検察官と話をしたら『なんだ日本には罰しかないのか、半日の講習で飲酒運転が治るわけがないと」(井上郁美さん)

井上さん夫婦に「一生酒は飲まない」と誓った加害者の男性。彼は故郷の高知県に帰った後、周囲の勧めで「断酒会」に入りました。

「入会した日、開口一番、本当のことを言いました。自分は東名事故の加害者だと。みんな『彼は酒を止められる』と思いました」(高知県断酒新生会 小林哲夫理事)

酒を断つ上で求められるのは「正直さ」です。活動の柱である「例会」ではアルコール依存症の会員や家族が少人数で集まり、それぞれの体験を赤裸々に語り合います。

会員(断酒歴2年)「家のあちこちにパック酒を隠しておく。妻がトイレに入った隙に隠れて一口うがいで臭いを消して知らんぷり…」
会員(断酒歴17年)の妻「最初は夫がいっそ死んでくれと。その後、そんな生活から自分が逃げたくなって蒸発したいと…」

断酒会では週に数回、例会を開いています。一度も挫折せずに酒を断てる人は少なく、失敗を重ねながらゆっくりと前に進みます。
「入会即断酒できる人はせいぜい30%。失敗しても誰も責めない、責められないことで申し訳ないと思う。例会で作り上げた信頼関係を損ないたくない、と思い断酒する」(小林理事)

当初は会員の前で自分をさらけだした東名高速事故の加害者。しかし例会には月に1度しか参加しませんでした。そして半年後、ある言葉を残してぷつりと来なくなりました。

「加害者は『皆さん、断酒、断酒と言っているけど本当に酒をやめていますか。家に帰れば飲んでるんじゃないですか』と。一生車に乗らないからと、そんなに深刻に断酒を考えていなかった。もし飲んでも飲酒運転することはないと。」(小林理事)

「約束したことを守り続けてくれれば、償ってくれるという気持ちを持つことができる。そういう話を聞いて穏やかでない気持ちになった」(井上保孝さん)
「日常生活のために車に乗るのはいい。 職業運転手になられたら嫌だけど、お酒さえ断っていれば運転しても構わない。年一回でも命日でも手紙を下さらないかな。今年も一滴も酒を飲まずに過ごせましたと」(井上郁美さん)

 

加害者の男性は毎月欠かさず、月命日にお供えを送ってきます。しかし、手紙が添えられていることはありません。今年初めての月命日。届いたのはぽんかんでした。

2010年3月30日放送

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