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[19278] 【習作】魔王の凱旋(オリキャラ→とらハ)
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/06/04 14:12
 まず始めに……

 この作品は、型月やカンピオーネがクロスしていた作品のキャラが異世界に飛ばされ、さらにその後とらハの世界に飛ばされて……という話です。

 正直、これが始めての投稿になります。

 主人公最強者です

 最低物にはしないよう気を配るつもりですが、どこまでできるか正直解りません。

 構想としては、最終的にリリカルや他の作品とのクロスも考えていますが、そこまでもつかなぁ~。
 



[19278] オープニングフェイズ ~魔王の最期
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/06/04 00:31


 静々と……。
 ただ静々と、曇天の空から雪は降っていた。
 そこは地平まで続く、荒れ果てた荒野だった。
 かつては険しい山脈がそびえ、峰が連なっていたその場所。
 山は砕け崩れおち、逆に地割れのような渓谷が大地を深くえぐっていた。

「…………」

 その荒野の只中。
 崩れて廃墟と化しているその場所に彼は居た。
 かつては荘厳な城だったそこは、今やただ崩れ落ちた瓦礫が転がるだけの場所。
 彼は一際大きな瓦礫に背中を預けて、降り積もる雪を見上げていた。
 鮮やかな極彩色の刺繍が施された着物を羽織り、その下には墨色の着流しを着込んでいる。
 ざんばらの黒髪には雪が降り積もり、黒い双眸は静かに空を眺めていた。

 ―――全身が血と傷に塗れていた。
 鮮やかな着物は血で汚れ、もはや服としての体裁が保てないほどボロボロになっている。
 そしてそれは、その下にある着流しや彼の体も同じだった。
 下ろした腰の下には、いまも流れている血で赤い水溜りが出来ていた。

「……随分とまぁ、派手にやったもんじゃの」

 聞き覚えのある声に、視線を向ける。
 いつの間にか、そこに人影があった。
 銀髪の老人だった。
 品の良いスーツを着込み、手には一本のステッキ。
 腰に宝石細工の剣を下げている。
 彼を見下ろすその双眸は、赤く朱く染まっていた。

「……何の用だ、クソジジイ」
「ふん。いきなりご挨拶じゃな。旧友がわざわざ会いに来てやったというのに」

 老人が笑う。
 彼は不機嫌を隠そうともしないまま、老人に言った。

「テメーがそんなガラか。ったく、力を借りたいときには姿も見せやがらねークセに。……俺ァいま気分が良いんだ。邪魔すんじゃねェ」

 そう言って彼はまた、雪が降り注ぐ空を見上げた。

「―――負けたのか?」

 老人が、男の傍らを見て言う。
 そこには、銀色の鎧を着込んだツンツンとした黒髪の少年が一人。
 やはり彼と同じく、ボロボロに砕け散った鎧の下は血と傷とで塗れて倒れていた。

「ああ、完敗だ。もう再生も回復も追っつかねぇ。……大した小僧だぜ、まったく。闘争(ケンカ)じゃあ、あっちの世界の『南の蜘蛛』にも引き分けたのが自慢だったってのに……」
「アルティメット・ワンを相手に引き分ける貴様も大概じゃな。……しかし、なるほど。英雄―――いや、お前さんが魔王だというなら、さしずめ勇者というヤツか」
「随分と安い呼び方するじゃねーか。テメーの弟子だろう?」
「―――なんじゃ、気付いとったのか」

 驚いたように言う老人に、「よく言うぜ」と鼻を鳴らす。

「力の流れとか、所々のクセが同じなんだ。嫌でも気付くさ」
「…………」
「それに、おおよそ見当はつく。コッチで好き勝手に暴れた俺を、止めたかったんだろう?」

 「けどな」と、ジロリと老人を睨む。

「それならテメーが素直に出てきて、俺を倒すなり帰すなりすりゃー良かったろーが。わざわざ、こんな小僧を使いに出すんじゃねェ」
「それは出来んよ。かつてのワシならともかく、今のワシではお前さんに敵わんじゃろうしな。
 それに、お前さんはあの世界から偶然ここに飛ばされたワケじゃない。追放されたんじゃよ。あっちの世界では、もうお前さんを抱え込みきれんとな」
「……そーかい」

 どこか遠くを眺めるように、力の抜けた声音で彼は呟いた。

「……良いのか? このまま此処で終わってしまって」
「そうだな……こんな終わりなら、悪かぁねぇ」
「……ワシが力を貸せば、助かる見込みはあるぞ?」
「ガラガラガラ……!! ここで助かってどーする。俺ァ負けて、子分たち(ガキども)はみんな散々になっちまった。俺の目的も、お前の言うとおりなら見込みはもうねーんだろう? なら、俺にゃここが潮時ってヤツだ」
「ふん。貴様の言う『ジンギ(仁義)』と言うやつか?」

 愉快気に言う彼とは対照的に、詰まらなそうに老人は言う。

「違げェな、こいつァ『筋』ってんだ。それに、流石にどうしようもねーだろう? どっちにしろ、俺の身から出た錆なんだ。始末くらいはつけるさ」

 自嘲するように、彼は言った。

「「どうしようもない」、か。フン、まさかお前さんからそんな言葉を聞く日が来ようとはな」

 どこか諦めの篭った彼の言葉に、老人が不機嫌気に鼻を鳴らして言う。
 そんな老人に、男は初めて微笑のような物を浮かべた。

「クク、そう言うな。……老いたんだよ、俺もな」
「フン。そんな若々しい姿をしとって、何をほざくか」
「『不老』と『不変』は違う。お前だってわかってる事だろう?」

 老いないという事と、変わらないということは違う。
 たとえ姿形は変わる事がなくとも、過ごした年月と経験は間違いなく蓄積されていく。
 だからこそ、何もかもは移り変わっていく。

「あぁ。一応言っとくが、その小僧をちゃんと手当てして元居た場所に帰してやっとけよ。テメーの事だ、後の事は気にせず、ほっぽり出すようなマネをしかねねーからな」
「言われんでも分かっとるわい。流石にここまでやってくれた弟子に、そんな事はせんよ」
「なら、良いがな……」

 そう言って、彼は疲れたように深く息を吐いた。

「おら、とっとと失せろ。そろそろ抑えが効きそうにねェ」

 そう言う彼の足元では、パキパキと音を立てて大地が乾き、罅割れていっていた。

「……『暴食』か」
「ああ。早くしねぇと、お前ェらまで“喰っちまう”ぞ」

 そういう間にも、大地は罅割れまるで枯渇するように彼の周囲が乾いていく。

「あらゆる物を喰い尽し、無ければ持ち主すら餌とする。……随分と使い勝手の悪い『権能』じゃて」
「ガラガラガラ……! 確かに。だが、コイツもやっぱり俺の“力”だ。最期まで一緒にするさ」

 渇きと罅割れが、彼自身をも蝕んでいく。
 そうでありながら、彼はそれをも愉快そうに笑っていた。

「今まで世話になったなと言っといてやるよ、キシュア・ゼルレッチ=シュバインオーグ。“魔法”に届いた宝石術師」
「最後まで、随分な物言いじゃのぉ。天破 仰よ、“人の身にて天上の意思を超えた者”よ」

 嘆息するように息を吐いた。
 そして腰にぶら下げていた宝石細工の短剣を引き抜く。
 キラキラと、キラキラと。
 宝石の断面が、一面一面違う色の光を放ち始める。
 その光に誘われるように膨大な量の魔力が集い、空間を、世界を歪め穴を開けていく。

「……なんのつもりだ、ゼルレッチ」

 その意味を知る彼は、しかし何のためにそれをするのか分からず老人を見やる。

「幾らワシでも、《世界》に拒絶された貴様をあの世界に帰してやることはできん」

 彼の言葉に答えず、老人は独り言のようにそう言った。
 轟々と音たて、風が渦巻くように魔力が雄叫びを上げる。

「じゃがな、あの世界に限りなく似た世界で、その上で貴様を受け入れきれるところに連れて行ってやることぐらいは出来る」
「なにっ!?」

 驚く彼に構わず、光はその輝きを強めていく。

 キラキラ……。
 キラキラキラ……。
 様々な色の輝きを放つ宝石剣の断面に、様々な風景が浮かび上がる。
 それは無限に存在する、無限の選択肢から成る、無限の平行世界の景色。
 やがてその中の一つが、一際強く輝きを放つ。

「別に礼は良いぞ」

 老人はそう言って、皺だらけの顔に微笑を浮かべて言った。

「友と呼ぶ人間が居なくなるのは、ワシとていささか寂しいからのォ」

 光が、爆発した。






[19278] 出会い ~encount~
Name: キー子◆d13b36af ID:dcf8efe5
Date: 2010/06/05 01:50


 仰が気付くと、そこは見覚えの無い森の中だった。

「ここは……」

 呟きと同時に、抑え切れなくなった“餓え”が辺りの木々と大地を侵蝕する。
 仰の周囲が一瞬で渇ききり砂となり、そしてボロボロと崩壊していった。
 それでも回復には足らず、仰の体すら侵蝕して栄養に変えていく。

「ウゥ……っ! クソッタレが……っ!!」

 蹲まって体を抱える。
 全身の血と肉と骨が、異常なほど熱い。
 まるで全身が溶けていくような激痛に耐える。
 しかしそれも、やがて少しずつ治まっていった。

「はぁ、はぁ、はぁっ……。どうにか、治まりやがったか」

 荒い呼吸を繰り返しながら、自分を確かめる。

「ちっ」

 そして忌々しげに舌打ちを一つ。

(縮んでやがる……)

 全身が縮んでいた。
 手足が短く、丸みを帯びている。
 二メートルはあった身長が、今は半分ほどしかない。
 羽織っていた極彩色の着物も、あつらえた墨色の着流しからも、今は指先すら隠れてしまっている。

(だが、こいつは小康状態だ。……はやいとこ何か喰わぇと、次はねぇな)

 仰の思考に答えるように、獣の唸るような音が彼の腹から響く。

「あァ、分かってるらぁ。少しは黙りやがれ」

 そう言うと仰は、乾ききったその場所から移動する事にした。
“餓え”に耐えながら山林の中を歩いていく。
 と、その時。
 男の声に呼び止められた。

「ん? 君、こんな所で何をしているんだい?」
「あァ?」

 視線を向けると、男が一人そこに居た。
 二十歳前後の容姿をした、黒髪に黒い瞳の成年だった。
 その成年が、仰の様子をを見て言った。

「お、おいおい、大丈夫か?」
「なぁ、あんた。悪いんだが、何か食い物を分けちゃくれねーか?」

 慌てたように近寄ってくる成年に尋ねてみる。
 乞食のようだが、今は致し方ない。
 流石に今の状態で死にたくは無い。
 それに何より、そろそろ何かを腹に入れなと目の前の成年を『喰って』しまいかねない。

「え? あ、ああ。良いよ、付いておいで」
「面目ねェ……」



 男に着いて行くと、そこはどこかの川原だった。
 キャンプでもしていたのか、テントが張られている。

「おーい、恭也、美由紀ー! ちょっと早いが、飯の支度をしてくれ!」
「……分かった」
「あれ? とーさん、その子どうしたの?」

 テントから出てきたのは、15・6歳ほどの少年と、少年より少し年下位の少女だった。

「ああ、さっきそこで拾ったんだ」
「拾ったって……犬や猫じゃあるまいし」
「まぁ仕方ないよ、とーさんだし」

 成年の言葉に、呆れたように呟く少年。
 少女は苦笑して言った。

 やがて用意されたのは、キャンプの定番ともいえるカレーだった。
 焚き火で炊いた飯ごうから、白いご飯が注がれる。
 仰はそれを飲み干すようにガツガツと平らげていった。

「うわぁ……すごい食欲」
「とーさん。山篭り用の食料がほとんど底を付いたんだが……」
「あ、ああ。……少し、早まったかもしれない」

 カレーの入っていた鍋はすでに底を付き、仰はほとんど生のままで野菜を口に放り込んでいる。

「―――ぷはぁ。ああ、腹の足しになったぜ。お前ェら、ありがうとよ」
「い、いや。満足してくれたようで嬉しいよ」

 ガラガラガラ……! と仰が笑って礼を言う。
 成年は穏やかに笑いながら答えるが、心なしその笑みは引きつっていた。

「ところで、教えて欲しいんだけど……君はなぜこんな所に居たんだい?」
「それは俺も分からねぇな。なにせあのヤロー、何も言わずに俺を跳ばしやがったからなぁ」
「跳ばす?」

 横で話を聞いていた少年が、意味が分からないとばかりに首を傾げる。

「あぁ。平行世界の運用を得意にする魔法使いが居てな。俺ァそいつに跳ばされたのよ。大方、ここもどっかの平行世界の一つだろう」
「ま、魔法? いや、それより並行世界って」

 魔法という単語と意味の分からない言葉に、士郎が驚いて言う。
 その横でやはり一緒に話を聞いていた少女の方が、言葉の意味を説明するように言った。

「平行世界ってアレ? いわゆる、パラレルワールドのこと?」
「ほぉ、お嬢ちゃん。中々博識じゃねーか」
「どういう事なんだ、美由紀」
「えっとね、世界って言うのは幾つも選択肢や分岐点があるものなの。それで平行世界って言うのは、その選択肢のとき「『もし』他の選択肢を選んでいたら」……っていう世界のこと」
「ほぉ、良く知ってたな」

 少女の解説に、少年が感心する。

「へへ。最近読んだSFの小説に載ってたんだ~」
「……なるほど。つまり君は、その平行世界からこちらにやってきたと言うわけなんだね?」
「ああ」

 気負いなく頷く仰に、成年は少年を振り返った。

「……どう思う、恭也」
「嘘は……言っていないと思うが……」
「やはりいささか荒唐無稽がすぎる、か」

 二人が会話している間に、少女は仰に近付いて話しかけてきた。

「ねぇねぇ、君はどうして平行世界から跳ばされて来ちゃったの? やっぱりその魔法使いに騙されてとか?」
「いや、あっちの世界で俺のヤンチャが過ぎたせいで、そいつの遣いの小僧にやられちまってな。このままなら死んじまうってトコで野郎ォが来て、俺をここに跳ばしたのさ」
「えっと……何か複雑なんだね。あ、でもヤンチャが過ぎたって……」
「あぁ。嬢ちゃん、俺ァな―――」

 怪訝な表情を浮かべる少女に、仰はやはり気負いなく不敵に笑いながら“あちら”での自らの称号を名乗った。

「アッチの世界で『魔王』をやってたのよ」




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