アグネスチャン・欺瞞の博愛

| | trackback(0)

来日中の温家宝中国首相の歓迎宴に話題のアグネスチャンが招待され、歌まで歌ったという。創価学会の池田大作名誉会長といい、この温といい、彼女は権力者の前で歌うのが大好きなようである。
だが、そうかといって、こんなチャンを、ネット上で、一方的な思い込みだけで批判してもそれは適切なものなのかどうか。

アグネスチャンについてまず最初に整理しておく。
(1)彼女と中国政府の関係は極めて良好である。
(2)理由は共産党や政府を批判しないからである
(3)この点で彼女は89年の6月の天安門事件に抗議して香港のビクトリアパークで
開催された100万人市民集会に「民主万歳」の鉢巻をしめて登場、虐殺に抗議し、民主化運動に連帯したテレサ・テンとは180度そのスタンスが異なる。
アグネスは徹頭徹尾中国を刺激するような発言はしない。民主化運動を正面から支援したことも、評価したこともない。
(4)近年、アグネスは日本のポップス系シンガーとして、初めて北京の人民大会堂でコンサートを行っている。こんなケースはこれまでにない。共産党トップの許可がない限りこんなことは実現しない。
彼女は胡錦濤国家主席ら政府首脳からことのほか、信頼が厚いのである。

いうまでもなく、中国は共産党の一党独裁の国家である。アグネスの住む日本のように、三権分立もなければ、公平な裁判制度も存在していない。判決はカネ次第というのが現実だ。メディアの自由な報道も当然、許されていない。それどころか、拝金主義の風潮はジャーナリストの世界でも蔓延しており、記事とマネーの交換が通常である。
まだある。中国人、というか漢民族は「中国4000年」といかに自国の歴史が古いものであるかを散々に誇る。だがこの4000年の間にただの一度も全国的な総選挙が実施されたことはない。2010年の今現在においても、である。
つまり、共産党は選挙で公平に選ばれた政党ではないのだ。
アグネスファミリーのルーツは中国の貴州省である。貴州省の住民が共産党を非難することはなかなかできない。刑務所が待っているからだ。
だが日本に居住するアグネスは「外国」である日本国内において、自由な発言を保障され、そればかりか国会で児童ポルノ禁止までもアピールできるほどの著名人となっている。その豪華な自宅は週刊文春がグラビアでも取り上げてくれるほどだ。

アグネスは日本ユニセフと関わりをもち、世界の恵まれない子供たちのために「ボランティア」に励んでいるという。そんなチャンだが、なぜか祖国の人権問題や児童虐待には言及しない。そもそも彼女は祖国の自由にも民主化にも口をつぐむだけなのだ。
その一方で、共産党や幹部たちと、ことのほかアグネスは親しい。今回もアグネスはオリジナル曲を中国共産党NO2の最高指導者温家宝首相に「捧げた」。
なぜアグネスが招待されたのか。中国の「古い友人」と認定されているからだ。中国政府と長い「友好的な」付き合いがあり、同時に一切中国批判をしない。こういう面々だけが歓迎宴に参加することができるのである。
招待者リストは中国大使館が作成し、本国外務省が最終的にゴーサインを出す仕組みとなっている。NHKなどニュースが映す映像の裏にはこうしたからくりが隠されている。

仮に中国を激怒させればどれほど日本で著名であっても、以後、招待されることはない。そればかりか団体のメンバーからも追われることは必至である。
実は今回の来日歓迎宴の関係団体の中に日中文化交流協会という団体がある。かつてこの親中団体の幹部でありながら、中国政府の逆鱗に触れて、そのポストを追放された著名人がいる。作家の司馬遼太郎である。司馬は「週刊朝日」の「街道をゆく」のなかで、台湾の李登輝総統と対談、李はこのなかで、「台湾に生まれた悲劇」を語った。
北京は激怒した。李に対して、そして司馬遼太郎に対して。文化交流協会の理事たちも中国の顔色を見ながら、司馬氏追放に抗議ひとつしなかった。アグネスが出席した歓迎宴にはこんな媚中団体ばかりが加わっている。その席で、チャンは温首相のためにマイクを握った。国民作家司馬遼太郎は追放されたが、アグネスチャンは温の拍手を浴びた。

アグネスのルーツは貴州省である。中国でも最貧困の省である。ここでは貧困と一人っ子政策のため、農村部を中心に、間引きが蔓延している。殺されるのは女児たちばかりである。
生まれたばかりの女の子は女であるというそれだけの理由でひそかに殺害されてゆくのである。背景にあるのは、農村に伝統的な男系思想である。
日本における児童ポルノどころの話ではない。アグネス家の出身地ではそれ以前の段階で、女児が大量に今も闇に葬られている。
だが人権主義者アグネスチャンの口から中国農村の残酷さが語られ、虐殺への抗議が呼びかけられたことはただの一度もなかった。これは日本ユニセフも同様である。
私は思う。アグネスよ、あなたには温首相に捧げる歌はあっても、不条理に殺されてゆく幼児たちに捧げるべき歌はないのか、と。
そして、また私はアグネスにこう聞きたい。
女性としての喜びも幸せも味わうことなく、天国に旅立っていったこの子達のいる世界にはあなたの大好きなひなげしの花は咲いているのだろうか、と。

■ニューズレター・チャイナの詳細・お申し込みは、http://aoki.trycomp.com/NL/ から。







« 温家宝来日の政治学 | HOME | 後出しじゃんけんのワイドショー»


トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: アグネスチャン・欺瞞の博愛

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://aoki.trycomp.com/mt/mt-tb-aoki.cgi/417





・ニューズレター詳細・お申込
・配信が届かない場合
・登録アドレスの変更
・Paypal対応しました




Voice 発刊のお知らせ

Voice 金正日の動静報道



Blog内検索


米中同盟に使い捨てにされる日本

アーカイブ

BOOK

米中同盟に使い捨てにされる日本

敵国になり得る国・米国

中国の黒いワナ (別冊宝島Real 73)