忘れかけていた勝ち名乗りだった。「勝ち投手・平井」。このアナウンスが響くのは実に628日ぶり。08年9月14日の横浜戦(横浜)で勝って以来2年ぶりの白星の味を、35歳のベテランは勝利のハイタッチとともにかみしめていた。
延長10回に登板すると、熟練の技で強打のロッテを抑え込んだ。「延長戦ならではのプレッシャーはありました」と平井。1点もやれない緊張感の中で変化球をコーナーに散らし、2イニングをノーヒット。サヨナラへのおぜん立てを整えた。
「チームが勝ててよかった。ここ3回の登板は全部延長戦で、前の2回は負けた。今度は何とか勝ちたかった」
5月30日のソフトバンク戦(ヤフードーム)では延長11回に川崎にサヨナラ打を食った。2日のオリックス戦(スカイマーク)では延長の2イニングを無失点に抑えたものの、チームはサヨナラで敗れた。狙い通りの“三度目の正直”となった。
最近2年は不本意なシーズンが続いた。08年は防御率5・14に低迷し、09年は中日に移籍後ワーストの25試合登板にとどまった。その間、中継ぎには浅尾、高橋ら若手が台頭。「もう17年間もやってきた。『いつ辞めてもいい』というくらいの覚悟はある」。強い危機感で今季は復活。防御率2点台の安定感でブルペンを支えている。
平井の熱投で“執念のリレー”も生きた。7回には1点ビハインドでセットアッパーの浅尾を、9回には同点で抑えの岩瀬をベンチは投入した。岩瀬は「同点になったら投げるつもりで準備していた」と1イニングをピシャリと抑えた。
浅尾や岩瀬が着実にバトンをつなぎ、普段は“黒子役”の平井が復活の白星を飾った。竜投の底力が、劇的な逆転勝ちをもたらした。 (木村尚公)
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