きょうの社説 2010年6月5日

◎菅直人首相選出 党勢回復の救世主になれるか
 来月の参院選を戦う政権与党の「表紙」が変わった。大方の予想通りの顔であり、新鮮 味に欠けるとはいえ、厳しい選挙を戦う与党候補者にとっては、不人気のツートップが退いたこと自体が何よりの朗報なのだろう。

 だが、7割を超える支持率の貯金をわずか8カ月ですり減らし、政権を投げ出した前任 者の「負の遺産」は大きく、信頼回復の道は険しい。国民の期待感はあらかたしぼみ、普天間移設問題の迷走で日本の国際的な信用も傷付いた。内外に山積する課題を的確にさばき、傾いた党勢を立て直す救世主になれるのか。政権交代時のわき上がるような熱気や高揚感をどこまで取り戻せるか。市民運動の出身ながら、したたかな現実主義者の顔を併せ持つ新首相の指導力が問われよう。

 新首相に選出された菅直人氏は代表選に際し、小沢一郎前幹事長について「しばらく静 かにしていただきたい」と語り、小沢氏が廃止した政策調査会の復活を明言した。新政権の要となる官房長官に反小沢色の強い仙谷由人国家戦略担当相、幹事長には同じく枝野幸男行政刷新担当相が有力との観測も流れている。早々に反小沢グループに囲い込まれて「脱小沢」へカジを切った格好ながら、「政治とカネ」の問題や二重権力批判を封じ込め、クリーンでオープンな姿を国民に印象付ける作戦は、吉と出るのではないか。

 それでも衆参で150人に及ぶ小沢氏の勢力を敵に回すのは大きな賭けである。「挙党 一致」を演出し、党運営を円滑に進めていくためにも水面下で手を結び、「反小沢」と「親小沢」のバランスを取らざるを得ない局面が来るかもしれない。

 連立政権の運営も一筋縄ではいかない。前政権では景気を下支えするための財政出動を めぐって、国民新党の亀井静香代表と激しいバトルを演じた。酸いも甘いもかみ分けたベテラン同士だけに、心配は無用かもしれないが、曲者ぞろいの党と連立政権を手堅くまとめていくのは至難の業である。

 会期を延長する見通しとはいえ、審議時間は限られており、重要法案は廃案や継続審議 の崖っぷちにある。強引にいくのか、無理をせずに仕切り直すのか。政権を離脱した社民党との距離感も難しいところである。党内外から聞こえてくる「選挙管理内閣」の声を打ち消すのは容易ではない。

◎里山・里海保全 活動に持続力を付けたい
 今年12月に金沢市内で開催される「国際生物多様性年」の締めくくりイベントの実行 委員会が初会合を開き、谷本正憲知事を委員長に準備作業を本格化させた。事業として、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の成果報告やシンポジウムなどが予定され、石川県は里山・里海保全活動などをPRする考えという。石川の地を国際的にアピールする格好の機会となるが、今後の取り組みでさらに重要な課題は、この国際イベントで弾みのついた里山・里海保全活動をいかに広げ、持続させるかである。

 生物の多様性を守り、人間の豊かな生活文化を維持する上で、身近な里山・里海の保全 が大事であるという認識は徐々に広がり、県内でも地域の住民団体や企業などが積極的に保全活動に取り組むようになった。こうした民間の動きを拡大するには、マンパワーや資金確保の面で支援を行い、活動に「持続力」を持たせる行政の後押しが欠かせない。

 石川県は6月補正予算案で、里山・里海のモデル地区で自然や伝統文化、食などの地域 資源の活用と保全活動を行う事業や、保全活動を実践する個人や団体を認定・奨励する制度の創設などを計画している。保全活動に取り組む人々を励まし、継続を支援する方策をさらに考えてもらいたい。

 担い手の育成も不可欠である。この点で評価したいのは、能登で里山・里海保全や環境 教育に関する人材(マイスター)を養成する金大の試みである。息の長い取り組みを期待したい。

 政府は10月に愛知県で開かれるCOP10に向けて、「生物多様性保全の活動促進法 」の立法化と、「里山保全・活用行動計画」の策定をめざしている。里山と里海を守り、活用する国民的な運動を展開する目的であり、これに対応して、自治体レベルの行動計画策定を急ぐ必要もある。