―ネルフ本部‐第一発令所
『やめませんか、司令。無茶だと思いますよ?』
「赤木博士、最終的に予備パイロットとのシンクロ率はどの程度だ?」
『18.1%でした。残念ながら突貫の調整ではこの程度が限界です』
「ギリギリではないかね…碇、本当に出すのか」
「当然だ。人類の敵が目の前に迫り、今こちらには対抗する駒はそれしかない。出す以外に何がある」
「…それはそうだが、零号機が損傷したらどうする。修理代もただではないのだぞ」
「所詮は実験機だ。本物の予備が届くまでの時間稼ぎにすぎん。無理はさせん」
「なるほどな、彼が来るための時間稼ぎか」
「…そうだ」
『零号機、目標地点到達。戦闘準備完了です』
第一発令所に零号機の出撃準備完了のアナウンスが流れるとゲンドウは席を立ち命令を下す
「零号機を起動させろ」
『おい!ちょっとまってくれ司令!こんなシンクロ率で本気で戦わせる気かァー!?』
零号機パイロットが見苦しい叫び声をあげるが、特務機関ネルフ司令、碇ゲンドウは全く動じる様子はなかった。
「輸送部隊はただちに撤収しろ。戦闘を開始する」
『了解、ただちに撤収します』
『絶対勝てないって!やめとけって!』
第
壱
話 『シンジ、襲来』
起動が完了し、零号機を乗せて使徒のいる地点まで移動してきた輸送用の車両と仮設の少し離れた場所に電源供給を設置したネルフ職員達が撤退を始めた。
「…あのクソグラサンヒゲはいつかこの零号機の手で握りつぶすべき!いや、今日来る奴の息子と同じ部屋に同居させてやろう。うん、こっちのほうがいい嫌がらせになるね」
『零号機、目標と接触します』
目の前を戦闘機を従えて優雅に歩いていく目標―サキエルが見えた
『予備パイロット、戦闘の準備をしろ』
「ああもう!!時間稼ぎと言わず殲滅してやる!」
『零号機プログレッシブナイフ装備!』
両手でプログナイフを腰だめに構え、コアめがけて突撃じゃ。
「うおーータマとったるー!」
気合いの入った声に反して全速力なのにまるで歩いているような速度…シンクロ率低いせいかなあ。
しかしサキエルさんはぼーっとこっちを見たまま棒立ちしている。
そのまま真っ直ぐナイフをコアに刺させてくれえー!
『目標、零号機の攻撃を回避』
と必殺(?)の念を込めた突進はサキエルはさっと真横に華麗なステップを踏まれ、自分の駆る零号機は使徒の真横をドスンドスンと重い足音をともに間抜けにも通り過ぎる。
「おっと、行き過ぎた。えー…方向転換してっと…とりゃっ」
立ち止り後ろに方向転換。左手だけでプログナイフを持ち、もっさりした動作で零号機がナイフを使徒に切りつける!
ガッシっとサキエルさんに左腕を掴まれましたよ。あ、離れられない、振り払えない。
「うげっ、うわっうわー!し、司令っ、なんとかしてくれえええ」
『国連軍のヘリに援護射撃をさせろ』
オペレーターから国連軍への援護要請がなされ、国連軍のヘリからミサイルが発射されサキエルに殺到する。しかし…
『ダメです。目標にダメージはありません』
援護射撃が全く効いてない!
痛くも痒くもない攻撃は無視され、サキエルさんは零号機の左腕を握ったまま離す気配がない。
あっあっ…サキエルさん、ちょっとそんなに左腕を強く握らないで下さいよ。折れちゃうぅぅうう~
「うわあああああ。イタイタイタイ、痛いってえええ!!!!」
『零号機、左腕に損害発生!』
『予備パイロットは予想以上に使えんな…』
「零号機の動きが鈍いのが悪いんじゃ!こんなんで戦えるかッ!」
今現在、零号機とのシンクロ率は驚きの低さ、18.1%!
もう反応がにぶいのなんの。やろうと思ってからの時間差がひどいというかなんというか…
「あーもう、離せこんにゃろ!」
左腕を掴まれたまま、残っている右腕が亀の歩みの如き速さで使徒のコアめがけてパンチを繰り出す!
すると殴られることを嫌ってか、サキエルは左腕を離して後退したが。
『ふん、やはりネルフの兵器など役に立たん欠陥品ではないか』
ごもっともでございます。
『…もういい、零号機は後退しろ。』
「え?もういいのか?」
『お前では時間稼ぎにもならん、ここは国連軍に任せる』
乗るときそうたほうが良いといっただろうが、このヒゲグラサンめ。無理やり乗せたのはお前だろ!
と怒鳴りつけたいところだがここは堪えておく
「さすが司令、素晴らしい状況判断でございます」
『…早く後退しろ』
ともかく、さっさと逃げよう。左腕も痛いし…
―数時間後ケージ内―
「あー、左腕痛かった」
結局、国連軍に任せてさっさと撤退。
その後の目標―サキエルは通常攻撃を完全防御した後、N2地雷で攻撃を仕掛けたがやつは健在
今は零号機ケージから初号機ケージに向かって移動している。
うーん…まだ左腕がしびれている感じがする。
左腕をブラブラさせながら初号機ケージのほうへ移動する。そろそろ始まるだろう。
「…これが、これが父さんの仕事なんですか?」
「そうだ」
おお、やってるな。
高いところで偉そうにしている司令。
明かりに照らされてその姿を現した紫色の巨人『エヴァンゲリオン初号機』
そしてミサトさんとリツコさんの隣にいる少年!
そう、彼こそは数々の使徒ををブチノメシテくれる新世紀救世主、碇シンジ様だ!
おお!まさにアニメ版第一話のシーンだ。感動した!
興奮のあまり飛び出しそうになる。が、感動(!?)の親子対面シーンを台無しにしたくない。
こっそりのぞかないとね。がまんがまん…
『使徒、市街地に侵入!ネルフ本部直上に向けて移動開始しました!』
放送が入る。あれ?こんな放送、1話のお話し中に途中で入ったっけ?
「…葛城一尉、ここはもういい。零号機を再度出す。ただちに使徒迎撃の作戦指揮に向かえ。」
「はっ、了解しました。ただちに向かいます」
ミサトさんが指揮所へ走っていく…え?なんかアニメと違くね?
シンジ君への脅迫(?)シーンとレイさんとの初接触シーンは?
「シンジ、お前も出撃準備だ」
「何…言っているんだよ、父さん!行き成り連れてきて、訳がわからないよ!」
「そこの初号機のパイロットとして戦えと言っている。拒否は認めん」
「そんなの!見たことも聞いたこともないのに、出来るはずがないじゃないか!」
ふーん、別にミサトさんがいなくても脅迫するのはあまり変わらないんですね。
「…冬月、零号機を出せ」
!?あれ!???まさかまたでなきゃいけないの?
ゲンドーさんよ…あんた初号機の暴走で勝つ気じゃなかったのか?
『零号機か…まともに戦えるないではないか』
「動かないわけではない、時間稼ぎにはなるだろう」
ひでえ!この二人ひっでえ!
まあ実際あの低シンクロ率じゃ戦力にならないし時間稼ぎにしかならんからな。
司令も多分、本当のところは初号機の暴走狙いだろうし。
「あれ?僕は乗らなくてもいいんですか?」
「いいえ、今からでるもう一機のエヴァがやられた場合に出てもらうことになるわ」
『零号機パイロットは出撃準備をしてくだい。繰り返します。零号機パイロットは…』
あ、まだ途中なのに…しょうがないか行くとしよう。
サードインパクトにあって死にたくないしね。
シンジ君に一言掛けておきたかったのだが仕方あるまい。
-------------------
零号機エントリープラグ内
『零号機の準備はいい?』
「いつでもOKですよ、ミサトさん」
第一次直上会戦ってやつだな。なぜか出るのは零号機だけど…
初号機はいったいどうなるんだろう。司令、副司令は時間稼ぎと言ってたけどな。
『よろしい、エヴァンゲリオン零号機、発進!』
上方向に向かって急に加速がかかり、体に結構なGが掛かる。
そしてほんの数秒後には地上に零号機は到達する。やっぱすごいなネルフの科学力は。
カタパルトの拘束を解除し、あたりを見渡すと9時の方向にサキエルさんを発見。
「目標を確認しました。ミサトさん、どうします?」
『プログナイフをもって接近戦を仕掛けて頂戴』
「まあそりゃそうですよね。武装それだけしかないんですし…」
『あと、貴方のシンクロ率と零号機では取っ組み合いになったら敵わないわ。まずはできるだけ遠巻きに切りつけて頂戴』
「りょーかい」
『あと、こちらも兵装ビルから援護射撃を仕掛けて零号機を援護します。兵装ビルの位置と射線に注意して動きなさい』
「分かりました、気をつけます」
さて、あちらもこちらの存在に気付いた様子だ。まっすぐこちらに向かってくる。
のっしのっしとゆったり歩いてくる。さきほど簡単にあしらった相手か。などと油断でもしているのだろうか?
ずいぶん余裕のある様子に見える。
「うーん、なんか舐められている様子ですよ」
『いい事じゃない、本気を出されるよりマシよ』
「ま、そうすね」
とりあえずプログナイフをウェポンラックから取り出し装備。
接近してくる使徒に対して居合をするような構えをとってで切りつける態勢をとる。
『目標、零号機に接近、接触まで100Mを切りました』
体感というかモニター見た感じでは、使徒はもうすぐそこまで歩いてきている。
しかし、短いナイフで遠巻きに切りつけろったってどうしたものか。
ま、考えてもしかたがないか…
「これより目標に攻撃を仕掛けます!」
右腕でナイフを構えたままの零号機を使徒に向かって走らせる。
だがやはり走るというよりはドスンドスンとその足取りは重く、歩みのような前進であった。
とりあえずナイフが届く範囲まで前進、使徒は依然無警戒のままだ。
「うおおおおおおおりゃああああ!」
零号機は腰に構えたナイフを腕を振って一閃!
パキーン
だが、ナイフを一閃したと同時に目の前にオレンジ色の壁が展開!
右手を思いっきり打ちつけてしまった。イタイイタイ…
そんでもってプログナイフも弾かれてどこかへ飛んで行ってしまった。
「おわっ痛たた…ずりーぞこのヤロウッ!」
『目標、ATフィールドを展開!』
『まずはこれを破らないとお話しにならないわね…零号機、フィールド展開!あの壁をぶち破りなさい!』
「了解、やってみます」
とりあえず膜のようなものを展開するイメージを浮かべながら目の前のオレンジ色の壁に手をかけて引き裂こうと足掻いてみる。
「ふぬぬ。うぬぬぬ」
顔を真っ赤にしながら引きちぎろうと力むがまったく変化がない。
それでは、と壁を殴ったり蹴ったりしてみるがやはり効果なし。
その間、サキエルさんはぼーっとこっちを見ているだけ。
…なんとなく馬鹿にされているような気がする。
「うわーん、だめだよう…なんとかして~ミサえも~ん」」
『零号機はATフィールドは展開できていないの?』
『ダメです。零号機からはかなり微弱ながら発生しているようですが、目標のATフィールドを破るほどではありません』
…かなり微弱なのね。ちょっとへこんだ。
『おそらくシンクロ値が問題だと思われますが…』
『だめね…零号機は一旦後退!ミサイル発射!援護射撃して。』
兵装ビルからサキエルに向かってミサイルが殺到。着弾し、爆炎がサキエルを包んだ。
よし、撤退じゃ。
「了解、後退します!」
即差に零号機にバックステップをふませ後退させようとする。
がしかし、低シンクロ率のおかげで足がもつれてずっこける
ゲッやばいっ…と思ったその時、煙の中からサキエルの腕がスっと出てきて零号機の顔を掴んだ!
「おわ!やばい!ぎゃーー助けてー」
あっあっ…もしかしてあれですか?光の槍で頭をガンガン打ちつけて来る気ですか!?
らめえええええええええ!しんじゃうううううううううううう!
「離せこのっ…」
ジタバタあばれるもののまったく離す、離せる様子はない。ガッシリとホールドされてしまっている。
『目標の腕部にエネルギー反応!』
零号機の頭を掴んでいる手のひらから光の槍のようなモノが勢いよく飛び出して来て、頭に激痛が走る。
それは何度も繰り返され、そのたびに頭に激痛が走った。
『まずいわ!援護射撃っ!ミサイルありったけぶち込んで!』
『零号機にも当たってしまいます』
『少しくらいは構わないわ!頭をぶち抜かれるよりはマシよっ!早く撃ちなさい!』
ミサトさんの指示でミサイルがサキエルに向かって再度発射される。
頭をぶちぬかれるよりマシ、かその通り。ナイスな判断だ。
どうやらサキエルは飛んでくるミサイルを煩わしく思ったらしく、最後に一段と勢いよく飛び出してきた槍を零号機の頭にぶち当てて手を離した。
零号機はすごい勢いでブッ飛とばされ、その勢いのままにビルにぶち当たり停止した
っておい、これシンジ君が食らうはずだったろ。なんで自分がくらわなきゃならんのじゃ!
『頭部に損害発生!シンクロ率がさらに低下しています。』
『パイロットの状態は!?』
『危険な状態です。…戦闘の継続は困難かと』
「ハァ…ハァ…うえっ…頭痛いし揺れるしで吐きそう…」
シンクロ率の低さ故だろうか。シンジ君とは違いいきなり気絶することはなかったが…
しかし気を緩めれば気を失いそうだ。とんでもなく痛い。ビルに打ちつけられた衝撃で吐き気がする。もうここで寝ていたい。
だが現在は戦闘中だ。気を失えば命はない、早く立ち上がって構えなければならない。サキエルに追撃を食らって永眠したくはない。
根性で痛みを堪えて意識を保ちつつモニターに目をやり、サキエルの姿を確認すると…
『目標が兵装ビルに攻撃を開始しました』
怪光線で兵装ビルに攻撃を仕掛けているようだ。
こっちは完全に無視されとるな…助かったけどなんかムカつくぞ…
『…幸い、零号機はもはや敵として見られてないようね』
…サキエルさんは完全にもうこっちに興味をなくしたみたいだ。兵装ビルを殴ったり光線撃ったりして破壊している。
あー…超頭が痛い、体も衝撃のせいでそこかしこ痛い、吐き気もする…意識が飛びそう、ぼーっとする…寝ていいですか?
「うー…どうします?ミサ『ミサト、初号機の出撃準備が整ったわ!』」
ミサトさんに指示を仰ごうとすると、リツコさんが横から入ってきた。
『へ、初号機?パイロットは誰なの?』
『あなたが連れてきた碇シンジ君よ』
『彼は訓練もなにも受けていない一般人でしょ?戦えるの?』
『ロクにエヴァを動かせないパイロットよりは戦えるわ。彼のシンクロ率は40%を超えています』
ひ、ひどっ!ひどいや!リツコさん!
く…泣いてなんかないもんね!目から汗がでてるだけだもん!
いつも言われてるから慣れてるんだもん!
『40%!?いきなりでそれはすごいわね。でも彼は…』
『葛城一尉、今は人類存亡の危機だ。初号機も使いたまえ』
『司令…よろしいのですか?』
『かまわん、零号機が戦力にならない以上、素人だろうと出すしかあるまい』
うう、ネルフなんて…ネルフなんてっ…
『分かりました初号機を使います。…初号機と通信繋げて』
『了解、初号機との通信開きます』
発令所のサブ・モニターと零号機のプラグ内にシンジ君が映る。
『シンジ君…ごめんなさいね。いきなりこんなことになるなんて』
『いいんです、今やられた子を助けられるのは、僕だけなんだから…やるしかないでしょう』
お、なにやらアニメ版とは違っていい方向にやる気にあふれている気がするぞ?
うんうん、頼むぞう…シンジ君…
『あら~シンジ君、男らしくてかっこいいわよ。…零号機パイロットの事、頼むわね』
『はい!』
後は頼むよシンジ君…というか暴走初号機の碇ユイか
うぐぐ…頭が痛い…目がかすんできた
『零号機パイロット、意識レベル低下しています!』
『く、初号機の発進、急いで!…シンジ君、気をつけてね』
『はい、なんとかやってみます!』
最後にいい感じの返事をしてくれたシンジ君の声を聞きながら意識を手放す
(もう限界…あとは任せた…)