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[17850] 新世紀サバイバル戦記【TV版エヴァ+αvs新劇使徒(新劇使徒ネタバレ注意)】
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:9d97b460
Date: 2010/06/03 19:25
目標からおくれてほんとすんませんでした

大変いまさらですが新劇ネタバレを防ぐため?ちょっとタイトル変更しました
TV版のエヴァ世界がベースなのになぜか一部新劇使徒がでます。いまさらですがネタバレ注意です

基本的にオリ主視点で使徒戦を見ていくというお話になります。

一話ごとタイトルを割り当てたいために本ページには本文はございません。
ご注意ください。

あと最後まで話が続かないとオリ主の持ってる属性は多分説明が付きません。
それが理由で早々に切ったという方が居られるようであれば完結の際にもう一度見てくださると嬉しいです。



[17850] 第壱話 『シンジ、襲来』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:9a2dbb20
Date: 2010/04/19 22:31
―ネルフ本部‐第一発令所 
 
『やめませんか、司令。無茶だと思いますよ?』

「赤木博士、最終的に予備パイロットとのシンクロ率はどの程度だ?」

『18.1%でした。残念ながら突貫の調整ではこの程度が限界です』

「ギリギリではないかね…碇、本当に出すのか」

「当然だ。人類の敵が目の前に迫り、今こちらには対抗する駒はそれしかない。出す以外に何がある」

「…それはそうだが、零号機が損傷したらどうする。修理代もただではないのだぞ」

「所詮は実験機だ。本物の予備が届くまでの時間稼ぎにすぎん。無理はさせん」

「なるほどな、彼が来るための時間稼ぎか」

「…そうだ」

『零号機、目標地点到達。戦闘準備完了です』

第一発令所に零号機の出撃準備完了のアナウンスが流れるとゲンドウは席を立ち命令を下す


「零号機を起動させろ」

『おい!ちょっとまってくれ司令!こんなシンクロ率で本気で戦わせる気かァー!?』

零号機パイロットが見苦しい叫び声をあげるが、特務機関ネルフ司令、碇ゲンドウは全く動じる様子はなかった。

「輸送部隊はただちに撤収しろ。戦闘を開始する」

『了解、ただちに撤収します』

『絶対勝てないって!やめとけって!』


 





話 『シンジ、襲来』




 



起動が完了し、零号機を乗せて使徒のいる地点まで移動してきた輸送用の車両と仮設の少し離れた場所に電源供給を設置したネルフ職員達が撤退を始めた。

「…あのクソグラサンヒゲはいつかこの零号機の手で握りつぶすべき!いや、今日来る奴の息子と同じ部屋に同居させてやろう。うん、こっちのほうがいい嫌がらせになるね」

『零号機、目標と接触します』

目の前を戦闘機を従えて優雅に歩いていく目標―サキエルが見えた

『予備パイロット、戦闘の準備をしろ』

「ああもう!!時間稼ぎと言わず殲滅してやる!」

『零号機プログレッシブナイフ装備!』

両手でプログナイフを腰だめに構え、コアめがけて突撃じゃ。

「うおーータマとったるー!」

気合いの入った声に反して全速力なのにまるで歩いているような速度…シンクロ率低いせいかなあ。
しかしサキエルさんはぼーっとこっちを見たまま棒立ちしている。
そのまま真っ直ぐナイフをコアに刺させてくれえー!

『目標、零号機の攻撃を回避』

と必殺(?)の念を込めた突進はサキエルはさっと真横に華麗なステップを踏まれ、自分の駆る零号機は使徒の真横をドスンドスンと重い足音をともに間抜けにも通り過ぎる。

「おっと、行き過ぎた。えー…方向転換してっと…とりゃっ」

立ち止り後ろに方向転換。左手だけでプログナイフを持ち、もっさりした動作で零号機がナイフを使徒に切りつける!
ガッシっとサキエルさんに左腕を掴まれましたよ。あ、離れられない、振り払えない。

「うげっ、うわっうわー!し、司令っ、なんとかしてくれえええ」

『国連軍のヘリに援護射撃をさせろ』

オペレーターから国連軍への援護要請がなされ、国連軍のヘリからミサイルが発射されサキエルに殺到する。しかし…

『ダメです。目標にダメージはありません』

援護射撃が全く効いてない!
痛くも痒くもない攻撃は無視され、サキエルさんは零号機の左腕を握ったまま離す気配がない。
あっあっ…サキエルさん、ちょっとそんなに左腕を強く握らないで下さいよ。折れちゃうぅぅうう~

「うわあああああ。イタイタイタイ、痛いってえええ!!!!」

『零号機、左腕に損害発生!』

『予備パイロットは予想以上に使えんな…』

「零号機の動きが鈍いのが悪いんじゃ!こんなんで戦えるかッ!」

今現在、零号機とのシンクロ率は驚きの低さ、18.1%!
もう反応がにぶいのなんの。やろうと思ってからの時間差がひどいというかなんというか…

「あーもう、離せこんにゃろ!」

左腕を掴まれたまま、残っている右腕が亀の歩みの如き速さで使徒のコアめがけてパンチを繰り出す!
すると殴られることを嫌ってか、サキエルは左腕を離して後退したが。

『ふん、やはりネルフの兵器など役に立たん欠陥品ではないか』

ごもっともでございます。

『…もういい、零号機は後退しろ。』

「え?もういいのか?」

『お前では時間稼ぎにもならん、ここは国連軍に任せる』

乗るときそうたほうが良いといっただろうが、このヒゲグラサンめ。無理やり乗せたのはお前だろ!
と怒鳴りつけたいところだがここは堪えておく

「さすが司令、素晴らしい状況判断でございます」

『…早く後退しろ』

ともかく、さっさと逃げよう。左腕も痛いし…

 



―数時間後ケージ内―




「あー、左腕痛かった」

結局、国連軍に任せてさっさと撤退。
その後の目標―サキエルは通常攻撃を完全防御した後、N2地雷で攻撃を仕掛けたがやつは健在
今は零号機ケージから初号機ケージに向かって移動している。
うーん…まだ左腕がしびれている感じがする。
左腕をブラブラさせながら初号機ケージのほうへ移動する。そろそろ始まるだろう。

「…これが、これが父さんの仕事なんですか?」

「そうだ」

おお、やってるな。
高いところで偉そうにしている司令。
明かりに照らされてその姿を現した紫色の巨人『エヴァンゲリオン初号機』
そしてミサトさんとリツコさんの隣にいる少年!
そう、彼こそは数々の使徒ををブチノメシテくれる新世紀救世主、碇シンジ様だ!

おお!まさにアニメ版第一話のシーンだ。感動した!
興奮のあまり飛び出しそうになる。が、感動(!?)の親子対面シーンを台無しにしたくない。
こっそりのぞかないとね。がまんがまん…

『使徒、市街地に侵入!ネルフ本部直上に向けて移動開始しました!』

放送が入る。あれ?こんな放送、1話のお話し中に途中で入ったっけ?

「…葛城一尉、ここはもういい。零号機を再度出す。ただちに使徒迎撃の作戦指揮に向かえ。」

「はっ、了解しました。ただちに向かいます」

ミサトさんが指揮所へ走っていく…え?なんかアニメと違くね?
シンジ君への脅迫(?)シーンとレイさんとの初接触シーンは?

「シンジ、お前も出撃準備だ」

「何…言っているんだよ、父さん!行き成り連れてきて、訳がわからないよ!」

「そこの初号機のパイロットとして戦えと言っている。拒否は認めん」

「そんなの!見たことも聞いたこともないのに、出来るはずがないじゃないか!」

ふーん、別にミサトさんがいなくても脅迫するのはあまり変わらないんですね。

「…冬月、零号機を出せ」

!?あれ!???まさかまたでなきゃいけないの?
ゲンドーさんよ…あんた初号機の暴走で勝つ気じゃなかったのか?

『零号機か…まともに戦えるないではないか』

「動かないわけではない、時間稼ぎにはなるだろう」

ひでえ!この二人ひっでえ!
まあ実際あの低シンクロ率じゃ戦力にならないし時間稼ぎにしかならんからな。
司令も多分、本当のところは初号機の暴走狙いだろうし。

「あれ?僕は乗らなくてもいいんですか?」

「いいえ、今からでるもう一機のエヴァがやられた場合に出てもらうことになるわ」

『零号機パイロットは出撃準備をしてくだい。繰り返します。零号機パイロットは…』

あ、まだ途中なのに…しょうがないか行くとしよう。
サードインパクトにあって死にたくないしね。
シンジ君に一言掛けておきたかったのだが仕方あるまい。



-------------------



零号機エントリープラグ内


『零号機の準備はいい?』

「いつでもOKですよ、ミサトさん」

第一次直上会戦ってやつだな。なぜか出るのは零号機だけど…
初号機はいったいどうなるんだろう。司令、副司令は時間稼ぎと言ってたけどな。

『よろしい、エヴァンゲリオン零号機、発進!』

上方向に向かって急に加速がかかり、体に結構なGが掛かる。
そしてほんの数秒後には地上に零号機は到達する。やっぱすごいなネルフの科学力は。
カタパルトの拘束を解除し、あたりを見渡すと9時の方向にサキエルさんを発見。

「目標を確認しました。ミサトさん、どうします?」

『プログナイフをもって接近戦を仕掛けて頂戴』

「まあそりゃそうですよね。武装それだけしかないんですし…」

『あと、貴方のシンクロ率と零号機では取っ組み合いになったら敵わないわ。まずはできるだけ遠巻きに切りつけて頂戴』

「りょーかい」

『あと、こちらも兵装ビルから援護射撃を仕掛けて零号機を援護します。兵装ビルの位置と射線に注意して動きなさい』

「分かりました、気をつけます」

さて、あちらもこちらの存在に気付いた様子だ。まっすぐこちらに向かってくる。
のっしのっしとゆったり歩いてくる。さきほど簡単にあしらった相手か。などと油断でもしているのだろうか?
ずいぶん余裕のある様子に見える。

「うーん、なんか舐められている様子ですよ」

『いい事じゃない、本気を出されるよりマシよ』

「ま、そうすね」

とりあえずプログナイフをウェポンラックから取り出し装備。
接近してくる使徒に対して居合をするような構えをとってで切りつける態勢をとる。

『目標、零号機に接近、接触まで100Mを切りました』

体感というかモニター見た感じでは、使徒はもうすぐそこまで歩いてきている。
しかし、短いナイフで遠巻きに切りつけろったってどうしたものか。
ま、考えてもしかたがないか…

「これより目標に攻撃を仕掛けます!」

右腕でナイフを構えたままの零号機を使徒に向かって走らせる。
だがやはり走るというよりはドスンドスンとその足取りは重く、歩みのような前進であった。
とりあえずナイフが届く範囲まで前進、使徒は依然無警戒のままだ。

「うおおおおおおおりゃああああ!」

零号機は腰に構えたナイフを腕を振って一閃!


パキーン


だが、ナイフを一閃したと同時に目の前にオレンジ色の壁が展開!
右手を思いっきり打ちつけてしまった。イタイイタイ…
そんでもってプログナイフも弾かれてどこかへ飛んで行ってしまった。

「おわっ痛たた…ずりーぞこのヤロウッ!」

『目標、ATフィールドを展開!』

『まずはこれを破らないとお話しにならないわね…零号機、フィールド展開!あの壁をぶち破りなさい!』

「了解、やってみます」

とりあえず膜のようなものを展開するイメージを浮かべながら目の前のオレンジ色の壁に手をかけて引き裂こうと足掻いてみる。

「ふぬぬ。うぬぬぬ」

顔を真っ赤にしながら引きちぎろうと力むがまったく変化がない。
それでは、と壁を殴ったり蹴ったりしてみるがやはり効果なし。
その間、サキエルさんはぼーっとこっちを見ているだけ。
…なんとなく馬鹿にされているような気がする。

「うわーん、だめだよう…なんとかして~ミサえも~ん」」

『零号機はATフィールドは展開できていないの?』

『ダメです。零号機からはかなり微弱ながら発生しているようですが、目標のATフィールドを破るほどではありません』

…かなり微弱なのね。ちょっとへこんだ。

『おそらくシンクロ値が問題だと思われますが…』

『だめね…零号機は一旦後退!ミサイル発射!援護射撃して。』

兵装ビルからサキエルに向かってミサイルが殺到。着弾し、爆炎がサキエルを包んだ。
よし、撤退じゃ。

「了解、後退します!」

即差に零号機にバックステップをふませ後退させようとする。
がしかし、低シンクロ率のおかげで足がもつれてずっこける
ゲッやばいっ…と思ったその時、煙の中からサキエルの腕がスっと出てきて零号機の顔を掴んだ!

「おわ!やばい!ぎゃーー助けてー」

あっあっ…もしかしてあれですか?光の槍で頭をガンガン打ちつけて来る気ですか!?
らめえええええええええ!しんじゃうううううううううううう!

「離せこのっ…」

ジタバタあばれるもののまったく離す、離せる様子はない。ガッシリとホールドされてしまっている。

『目標の腕部にエネルギー反応!』

零号機の頭を掴んでいる手のひらから光の槍のようなモノが勢いよく飛び出して来て、頭に激痛が走る。
それは何度も繰り返され、そのたびに頭に激痛が走った。

『まずいわ!援護射撃っ!ミサイルありったけぶち込んで!』

『零号機にも当たってしまいます』

『少しくらいは構わないわ!頭をぶち抜かれるよりはマシよっ!早く撃ちなさい!』

ミサトさんの指示でミサイルがサキエルに向かって再度発射される。
頭をぶちぬかれるよりマシ、かその通り。ナイスな判断だ。
どうやらサキエルは飛んでくるミサイルを煩わしく思ったらしく、最後に一段と勢いよく飛び出してきた槍を零号機の頭にぶち当てて手を離した。
零号機はすごい勢いでブッ飛とばされ、その勢いのままにビルにぶち当たり停止した
っておい、これシンジ君が食らうはずだったろ。なんで自分がくらわなきゃならんのじゃ!

『頭部に損害発生!シンクロ率がさらに低下しています。』

『パイロットの状態は!?』

『危険な状態です。…戦闘の継続は困難かと』

「ハァ…ハァ…うえっ…頭痛いし揺れるしで吐きそう…」

シンクロ率の低さ故だろうか。シンジ君とは違いいきなり気絶することはなかったが…
しかし気を緩めれば気を失いそうだ。とんでもなく痛い。ビルに打ちつけられた衝撃で吐き気がする。もうここで寝ていたい。
だが現在は戦闘中だ。気を失えば命はない、早く立ち上がって構えなければならない。サキエルに追撃を食らって永眠したくはない。

根性で痛みを堪えて意識を保ちつつモニターに目をやり、サキエルの姿を確認すると…

『目標が兵装ビルに攻撃を開始しました』

怪光線で兵装ビルに攻撃を仕掛けているようだ。
こっちは完全に無視されとるな…助かったけどなんかムカつくぞ…

『…幸い、零号機はもはや敵として見られてないようね』

…サキエルさんは完全にもうこっちに興味をなくしたみたいだ。兵装ビルを殴ったり光線撃ったりして破壊している。
あー…超頭が痛い、体も衝撃のせいでそこかしこ痛い、吐き気もする…意識が飛びそう、ぼーっとする…寝ていいですか?

「うー…どうします?ミサ『ミサト、初号機の出撃準備が整ったわ!』」

ミサトさんに指示を仰ごうとすると、リツコさんが横から入ってきた。

『へ、初号機?パイロットは誰なの?』

『あなたが連れてきた碇シンジ君よ』

『彼は訓練もなにも受けていない一般人でしょ?戦えるの?』

『ロクにエヴァを動かせないパイロットよりは戦えるわ。彼のシンクロ率は40%を超えています』

ひ、ひどっ!ひどいや!リツコさん!
く…泣いてなんかないもんね!目から汗がでてるだけだもん!
いつも言われてるから慣れてるんだもん!

『40%!?いきなりでそれはすごいわね。でも彼は…』

『葛城一尉、今は人類存亡の危機だ。初号機も使いたまえ』

『司令…よろしいのですか?』

『かまわん、零号機が戦力にならない以上、素人だろうと出すしかあるまい』

うう、ネルフなんて…ネルフなんてっ…

『分かりました初号機を使います。…初号機と通信繋げて』

『了解、初号機との通信開きます』

発令所のサブ・モニターと零号機のプラグ内にシンジ君が映る。

『シンジ君…ごめんなさいね。いきなりこんなことになるなんて』

『いいんです、今やられた子を助けられるのは、僕だけなんだから…やるしかないでしょう』

お、なにやらアニメ版とは違っていい方向にやる気にあふれている気がするぞ?
うんうん、頼むぞう…シンジ君…

『あら~シンジ君、男らしくてかっこいいわよ。…零号機パイロットの事、頼むわね』

『はい!』

後は頼むよシンジ君…というか暴走初号機の碇ユイか
うぐぐ…頭が痛い…目がかすんできた

『零号機パイロット、意識レベル低下しています!』

『く、初号機の発進、急いで!…シンジ君、気をつけてね』

『はい、なんとかやってみます!』

最後にいい感じの返事をしてくれたシンジ君の声を聞きながら意識を手放す

(もう限界…あとは任せた…)


 



[17850] 第弐話 『知らない展開』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:9a2dbb20
Date: 2010/04/16 02:04
―セントラルドグマ


そこには少女が裸で厳重に拘束されていた。

「…赤木博士、これが謎の魂が入ったという素体か」

「はい、一応波形パターンなどは使徒のものではないようですが、念のため拘束してあります」

「思わぬ予備が手に入ったな…赤木博士、コレの存在は秘匿とする」

「秘匿ですか?レイと一緒に実験を進めればEVAの研究は加速すると思われますが…」

「もちろん研究に利用はする。これは切り札だ、委員会に知られていない間に研究が進めば交渉材料が増える」


全ては彼女が何か言う前にいろいろなことが勝手に決定されてしまっていた。
それから彼女が気がつくと毎日テストテスト…時間帯は夕方から深夜、朝までフル稼働だ。
ちなみに私自身は昼にレイの実験もあって合間合間に休む程度。
…まったく酷い労働環境だここと。

ちなみに、突然現れた(魂の入った)正体不明の少女は本部の地下に造られた簡素な住宅で軟禁状態で実験漬けである。
最初こそなにやら未知(既知?)のロボット―エヴァに興味津津といった様子であったが…
しばらくすれば、いきなり訳も分からずモルモットにされた現状にうんざりた様子であった。

「リツコさん、この待遇ってもーちょっとなんとかならないんですかね…」

そうのたまうのは拒否すると消されるような気がするのでとりあえず協力しますよ。
と、公言してくれた見た目で10歳前後と思われる例の少女だ。

「貴方は公式にはネルフには存在しないことになっているのよ。どうしてもこういう風になってしまうわ」

「だからなんで秘密にするんですか、公開すればいいじゃないですか」

「司令の指示なのよ、上にばれないように研究を進めたいみたいの」

「…まったく、真っ黒ですね。うちのあのヒゲは…」

「とにかく、こっちも昼にレイ、夜に貴方のテストで寝る時間もロクにないの、さっさと協力しないと怒るわよ」

「はいはい、分かりましたよ…こっちも消されたりしたくないですしね」

おおよそこんな感じで私とこの正体不明の少女との日常は3年余りずっと繰り返されてきた。











話『知らない展開』









「…知らない天井だ」







「いや初見といえば初見だが、ネルフの病室だな。アニメで見たぞ」

テンプレ(?)通りのセリフを吐いてみたかった。何も反省はしない。

「ネルフの病室ってことは秘匿命令はなくなったのか…まあ、出撃で存在はバレたしな」

通常、極秘扱いの自分は地下の仮設の住居から出されることはなかった
今ここにいるということはおそらく出撃で顔が知れたのでもう命令は解除されたのだろう


『…ここが零号機に乗っていた彼女の病室よ』

『あのやられてた子ですか…ミサトさん、そういえば彼女の名前は何なんです?』

ドアの方から声がする。作戦部長と新世紀救世主様のらしい。

『あの子ねぇ…実は名前知らないのよ。名字の方は綾波レイって子がいてね、その子そっくりで多分双子だから綾波だと思うわ。でも実際のところは極秘扱いになっていて私でも知らないのよね、リツコは知ってるみたいだけど』

『…彼女の秘匿命令は解除されたわ、本人に聞いてみなさい。』

どうやらネルフの誇る科学部長もいらっしゃっているようだ
ミサトさんとシンジ君はお見舞いで、リツコさんは一応監視に来たんだろう今まで極秘扱いだったし。

『そーなの、じゃ、そういうことらしいわシンジ君』

『そういうことってどういうことですか』

『ピンチを助けたお姫様に王子様が名前を尋ねる…そしてそこから始まる恋の物語…どうよ?』

『ちょ…ちょっともう何言ってんですか!ミサトさんは!』

ほんとだよ、なにいってんだ!あのみそじババーは
おらは男の子を愛でる気はないのだよ。
いやでもシンジ君ならナ●ィアを色白にして髪が短くなっただけだよな…
いけるか…?いやいやっ!だめだろ!

『ま、とにかく入りましょ』

コンコン、とノックされる。

「どうぞ、入っていいですよ」

ドアが開くとミサトさん、シンジ君、リツコさんという順番で入ってくる。

「思ったより元気そうで良かったわ、体の調子はどう?」

「大丈夫です。シンクロ率が低いおかげで大した影響はなかったみたいいで…なんか複雑ですけどね」

「アハハ…そうね…」

ミサトさんも思わず苦笑い

「そうそう、使徒を倒して、あなた助けた王子様を紹介するわね」

隣に立っていたシンジ君を強引に自分のいるベッドのほうに押し出すミサトさん

「ミ、ミサトさん…やめてくださいよ。恥ずかしい」

「ジャーン!この少年がその王子様よ、このたびサードチルドレンとして着任したわ。多分あなたの同僚ってことになるわね」

大げさな手ぶりでシンジ君を紹介してくれるミサトさん
悪乗りしてますね。なちゅーかオヤジというかなんというか…
そんでなにやらシンジ君に耳打ちを始めた

「ほら、シンジ君、自己紹介。あと名前も聞いちゃいなさい」

「え、えーと……その、無事なようで本当に良かったよ。僕は碇シンジっていいます。これからは同僚ってことになるみたいだからよろしくね。…それで良かったら君の名前も聞かせてくれないかな?これから一緒に戦うことになるみたいだし」

…なんかフラグが立ちそうな雰囲気がっ!しかし俺はノンケである。
残念だったな碇シンジ君!
が、しかし。ちょっとここらであおっておけばやる気がUPするかもしれん

「こちらこそよろしくね、碇シンジ君。えっと私の名前は…」

あれ?名前?司令には予備やらイレギュラーやら言われただけだし。
リツコさんはテストの時は一人でマギとか動かすから延々と作業にかかりっきりであまり話せないし。
3年4年住んでいて名前決まってなかった!うわあ…どんな生活なんだそれ!

「…どうしたの?」

「?」

ミサトさんが怪訝そうな顔でこちらを見、シンジ君が止まった俺を不思議そうに見ている。
やば、どうしよ。

とりあえず助けを求めてリツコさんの方を見る

「あなたの秘匿命令は解除されたわ、名乗っても問題ないわよ綾波さん」

綾波さんってことはレイさんと姉妹って扱いでOKってことか。まあクリソツだしそうじゃいほうがおかしいよね。
名前はそういえばドアの前でミサトさんに聞かれた時にごまかしてたよなこの人。
自分で考えろってことかいっ。

素体に入るまでの記憶は以前の個人的な人生に関する事はなぜかほぼ覚えてない
前の名前からという策はとれない…この体になってからの出来事でも名前にしてみよう
えーっと……よし決まった

「ヒトミ、綾波ヒトミっていうの」

「ヒトミ…さんですか」

「私もこれからはよろしく頼むわね。ヒトミちゃん」

「さて、シンジ君、ミサト、自己紹介と挨拶が済んだならちょっと出てってもらえるかしら?検査しなきゃいけないことがあるの」

「あ、はい。それじゃあヒトミさん、今日はこれで失礼しますね」

「わざわざお見舞いに来てくれてありがとうね、碇君」

ニッコリといい笑顔でごあいさつしておく。

「それじゃね、ヒトミちゃんゆっくり体を休めて頂戴ね」

そういってミサトさんはシンジ君と一緒に病室を出て行った。






…そうしてリツコさんと二人きりになった病室は微妙な空気に包まれた
なんかリツコさんが可哀そうなものを見る目で見つめてくるのだ

「…ずいぶんかわいらしい態度じゃない、まさか惚れたとでも言う気?」

「はっはっは!まっさかあ(笑)あのくらいの男の子はこうしておけば頑張ってくれますからね!」

「あら、酷いわね」

なにか厭らしい笑顔を作ったリツコさん、おぬしも悪よのう…ってか?

「ところで、使徒戦の結果について何も聞かないのね?」

「聞くまでもないでしょう。サードインパクトが起こってないんですから。勝ってればそれでいいです」

「それもそうね。…そういえばとっさに出た名前にしてはヒトミっていいセンスじゃない?一体何からとったの?」

「私のこれまで人生からとりました」

「人生?それでどうしてヒトミ?」

「敵となる使徒、人類の対抗手段たるEVA。神に関連することでしょう?」

「そうね」

「それで、その神々の戦いのための研究に我が身をささげる私がいる」

「それは私も同じよ。それで?」

「まるで生贄ってことで人身御供(ひとみごくう)からヒトミってとりました」

「…そう」

なんかリツコさんに憐れみの視線を向けられた。
が、その視線は私というよりここ数年昼夜問わずの労働を強いられたリツコさん自身にも向けられている気がする…

「ところでリツコさん、なんで病室に残ったんです?」

「貴方の身体の検査よ。その体にはいろいろあるから」

「ああ、そうですね。じゃあお願いします」

「さっき勝ったならそれでいいとは言ったけど、身体検査中は暇でしょう。戦闘記録持ってきているからついでに見て参考なさい」

「暴走して飛んだり跳ねたりするのなんて参考にならないでしょう」

「何を言っているの?暴走やら飛んだり跳ねたりやらなんてしてないわよ」

「へ…?」

え?暴走して飛んだり跳ねたり、使徒ボコボコにしたりするんだよな?
一体何があったっていうんだ!?

「シンジ君は良くやってくれたと思うわ」

「ちょっ…一体何があったんですか!?」

「?えらい驚きようね。勝ったならそれでいいとか言っていたわりに」

「え、いや。まあそうですけど…とにかく今すぐ再生してください!」

「はいはい、分かったわよ」

そういって赤木博士は病室のモニターをつけると、持ってきた端末を差し込み戦闘記録を呼び出した

「それじゃ、再生するわよ」


―病室モニター・戦闘記録再生―


倒壊しかけているビルにもたれかかって停止している零号機の横に初号機が出てくる

『リツコ、シンジ君には操縦方法を教えてあるの?』

『零号機が時間を稼いだ間に教えてあるわ、基本動作に問題はないはずよ』

『そう…シンジ君、今からロボットの肩からナイフを出すわ。それを手にとって接近戦を挑んでもらいます』

『わかりました』

初号機がでてきたナイフを手に取る。
その間、サキエルは出てきた初号機を一瞥だけすると兵装ビルの破壊にいすぐ戻っていた。
零号機と同じようなものだとでも踏んでいるのだろうか?

『ふーん、もう勝ったと思って油断しているようね、シンジ君、今のうちに接近して!』

『はい』

兵装ビルを破壊して回っているサキエルに向かって初号機が駆け出す。

『目標、ATフィールドを展開!』

邪魔をするな、とでも言いたげな表情のサキエルは鬱陶しそうに初号機に向き直りATフィールドを展開。
零号機の時と同じく、初号機の突進が阻まれてしまった。

『く、ミサトさん!これは一体どうすればいいんですか!?』

『貴方も同じものを出すイメージをすれば同じものを展開できるわ。そうすれば理論上ではそののバリアを突破できるはずなの』

『シンジ君、零号機は突破できるほどの出力がなかったけど、貴方なら突破できるはずよ』

『理論上っていきなりそんな…』

『ごめんなさい。でも、やるしかないのよ』

『…やるしかないのか』

シンジ君がビルに寄りかかっている零号機を一瞥してつぶやく。
やばい、ちょっとかっこいいわ…!
再び使徒に向き直りオレンジ色の壁と向き合ったシンジ君は…

『いっけえぇぇーー!』

絶対の壁にナイフを押し当てて強引に突破しようとする姿勢を見せる。

『初号機、ATフィールドを展開!零号機より遥かに強力なものです。これなら…!』

うお!ナイフを当てた部分から除々に裂け目ができてきた!?

『いける!?すごいわシンジ君、その調子よ!』

『こっんのおっーーーー!』

シンジ君の気合いとともにその裂け目はドンドン広がっていく!
そしてついに

『初号機、目標のATフィールドを突破しました!』

サキエルがものすごい驚いた表情をしている。
なんと、サキエルのATフィールドを突破してしまった!
なんだこのシンジは!?あれ?スパシン様ですかこの世界?

『これでもくらえ!』

驚きで固まっているサキエルに対し、ATフィールドを突破した初号機はその勢いのまま構えたナイフを赤い玉―コアに突き立てんと突進する。
だが、突進の勢いが強すぎ、簡単な操縦方法を教わったとはいえなれてないEVAの体である。
プログナイフはコアのわずかに右に刺さってしまった。おしい…!
しかし、その勢いのまま初号機はサキエルを押し倒してマウントボジションをとった。

初号機は間違った部分に刺さったナイフを抜こうと手を伸ばすが

『シンジ君!ナイフはもういいわ!赤い玉を直接ぶん殴って!それでも破壊できるわ!』

ミサトさんがそれを止める。良く見るとナイフは勢いのまま柄の部分まで深く刺さり。
容易に抜けそうにはない。ちゃんと見てるねえ。

『はいっ!』

ミサトさんの指示でマウントポジションの初号機の両腕から交互にパンチが繰り出される。
1回、2回、3回目のパンチでついにひびが入る…と同時にサキエルの胴にある仮面のようなものの目が光る。

『シンジ君、危ないっ』

ミサトさんがサキエルの攻撃に気付く。しかし、殴るのに夢中でシンジ君は気付いた様子がない。
怪光線が初号機の右肩にむけて発射された。

『うわあああああああああああああ』

初号機の腕が右肩がごと吹き飛ぶ、あまりの痛みにシンジ君は絶叫する。
だが、彼は片腕になっても殴るのをやめなかった。
半ばパニックになっていてその動作をやめるということに考えがいっていないようにも見える。
コアの皹がさらに拡大する。あと少しで砕け散りそうだ。
しかし、サキエルも抵抗を諦めない、腕を初号機の胴体に近づけ光の槍を発射した。

『ぐうぅぅう…』

シンジ君はうめき声をあげた。
光の槍が初号機の腹の部分を貫いたのだ。しかし、彼はまだ殴るのをやめない。
目の前にもう砕け散りそうな赤い玉、痛みに耐えながら彼は最後に大きく左腕を振り上げ…

『うわあああああああああ』

その目標に向かって勢いよく振り下ろした
そして、ついにコアは砕け散り。サキエルはピクリとも動かなくなった。

『ハァ…ハァ…』

初号機と使徒との死闘、あまりの戦いに司令所のオペレーターは沈黙して茫然としている様子だ。

『ちょっと!何ぼさっとしてるの?目標はどうなったの?』

ミサトさんがその沈黙を破る。

『も、目標は完全に沈黙。パターン青の消滅を確認しました』

『…勝った…のね、…っと救護班!すぐに零号機と初号機のパイロットの救出に向かって!』

あばばばばばばばばばばば。勝った!?


―戦闘記録・再生終了―



なんというびっくり展開!?零号機が稼いだ時間と私がやられたことがこのような事態を招くとは。


「ちょっ………リツコさん!なんすかこれ!」

「なにって、人類が使徒に勝利した記念すべき第一戦。その戦闘記録よ」

「いや、その初号機が…」

「本当にどうしたというの?」

勝ったならばそれでいい。
といったものの一応暴走初号機見たいなーなんて思って見ていたんだけど
すっごいことになってますねこれ!?

「信じられん、暴走してねえ。そのまま勝ちやがった!?」

「ちょっと!私が年中不眠不休で。貴方はレイのいない時間は常に実験をしまくった成果よ。そうそう暴走なんてしてたまるものですか!」

「あ、いや、リツコさん。そういうわけじゃないですけど…」

まあ、この前レイさんはきっちり原作通り零号機で暴走しちゃってたけどな~

「ナニ?何か言いたい事でもあるの?」

なんか睨んできた!まあ数年間ロクに寝ないでで頑張ったのに『なんで暴走しないの?』とか言われたらそりゃあ怒るよね!
何も言わないでおこう!

「いえ、ナニモ」

「…そう、それならいいわ」

しかしシンジ君すごいな。こりゃあ思ったより簡単に生き残れそうだな?

「でもシンジ君はすごいですね。初めて乗ってあれってすごい頼りになりそうだ。」

「そうね、でも乗れる機体―初号機が使えないんじゃしょうがないわ」

「へ?どういうことです?」

「映像見たでしょ?あれだけの損傷を受けたのだから暫くは修復で動かせないわ」

え…しばらく?えーとシャムシエルはいつくるっけ?
んーっと…こっちの都合はお構いなしの女性に嫌われるタイプで(?)
…三週間とかだれかが言ってたよーな。

「修復はどれくらいかかるんですか?」

「零号機は頭の換装は予備があるからすぐ終わるけど、初号機は一か月は掛かるわ」

「マジすか?」

「マジよ」

…非常にまずい気がするぞ、これは!



[17850] 第参話 『慣れない電話』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:9a2dbb20
Date: 2010/04/28 19:09
 
 



綾波ヒトミの綾波レイとの初接触はこちらで生まれて?発生?してから1日たってからという早い時期からであった。
自分の顔の目隠しをとられたと思うと目の前にはびみょーに幼い、小六相当の綾波レイさんである。結構衝撃的であった。

「ロリ波!?」

とついつい叫んでしまったのだが。

「赤木博士、拘束具の除去が完了しました」

華麗にするーされた

なにをやっていたかというと、とりあえず突然使徒に近い存在である綾波レイの肉体に突然謎の魂が入ったと言えば使徒の類だと思われても仕方がないわけで…
基本的に目隠しされたうえで拘束されてひたすら使徒じゃないかとか検査していたわけだ。
厳重な封鎖と万が一の備え(あとから聞いたが自爆装置が設置されてたそうな)で缶詰状態で赤木博士が検査、調査を実行していた。

「御苦労さま、レイ。今日はもう上がっていいわよ」


そして、まず地下の機密中の機密である事柄に触れる為にそれをサポートすることができる人物は司令、副司令、そして綾波レイの三名のみに限られる。
さらにその中でも司令、副司令はネルフ組織の構築に忙しいのか。リツコさんのサポートとしてつくのはレイさんだった。
そういった理由があって、当時は名無しの状態であった綾波ヒトミの身の回りの人間は赤木リツコと綾波レイが主であった。
とはいうものの、綾波レイは昼の実験をしたあと夕方にサポートにくるだけであり、基本的に彼女とはわずかしか接触していなかった。


「よろしいんですか?」

「私がそう言っているのよ。何か問題でもあるというの?」

「いえ、しかし、赤木博士は今日も帰られないのでは?私にできることがあれば…」

「…あなたが気にすることじゃないわ。さっさといきなさい」

そう言われた綾波レイは去って行った。表情を見せないその顔がが若干悲しそうに見えるのは気のせいだろうか?これが彼女との初接触であった。



「さて、貴方が使徒でないことは判明したけど、その身柄はネルフに拘束させてもらうわ。拒否は認められません。」

人権はどうした!と言いたいが、自分の存在が世界に存在することを証明するものはなかったからなあ…
そうして赤木リツコ博士との研究実験漬けの日々が始まるのだがそれはまた別の機会に。
ともかく綾波レイとの初接触は以上である。そしてその後はせいぜい食料や日用品を赤木博士と一緒に届けてくれる程度であった。
そう、自分と彼女との接点はたったそれだけであったはずなのだが…?






第 
三 
話 『慣れない電話』






 


そうして衝撃の初号機vsサキエルの戦闘記録を見てから一週間後。
素体の検査と脳の検査を入念にしたため、怪我の割に長い入院となってしまったがやっと退院できた。

…ところでこれからどこに住めばいいんだ?どう生活すればいいんだ?

「金がない、住むところがない、ちゅーか戸籍もねーよな?」

綾波ヒトミの現在の資産は今着ている白衣が全てであった.
なんじゃそりゃ!

「…とりあえずリツコさんのところにでも行きますか」

まさか、このまま放りだすようなことはすまい。
最悪ミサトさんに泣きつけばなんとかなるだろう。



…というわけで、とりあえず赤木リツコ研究室まで来た

「赤木博士、いますか?」

『どうぞ』

ドアが開く。
研究室には書類が散乱、山積していた。すごいことになっている。

「…忙しそうですね」

声をかけるとリツコさんがこちらに顔を向けた。

「ヒトミじゃない、退院したのね」

「はい、それでこれからどうするのか聞きに来たんですよ」

「ごめんなさい。修復指揮やら使徒の残骸の調査やらでゴタゴタしていて伝えるのを忘れていたわ」

なるほど、サキエルは自爆しなかったのだから残骸が残っていて、それの解析の仕事をしているのね。
さらにはエヴァの修復作業の指揮か…忙しそうだなあ。

「もう決まってるんですか」

「ええ、そうよ。綾波ヒトミはフォースチルドレンとして准尉待遇で本日付けでネルフ本部に着任することになっているわ」

「准尉!?太っ腹ですね?」

「いえ、それは過去三年間の賃金なしの労働の対価なのよ。一応、司令が手当としてポケットマネーから半年分ほど出してくれたけど」

「…まあ無賃とはいえ衣食住は保障されてたんだから、ポケットマネーから半年分出してくれるだけでも有難いです」

命の保障はなかったけどな!
秘密ってことはいつでもに消せるっちゅーことだから!

「はい、これが半年分の給与、こっちがネルフのカード。あとこれが仮の住居の部屋のカギ」

そういってリツコさんが預金通帳とそのカード、ネルフのカードと仮の住居のカギを渡してきた。

「おお、結構はいってますね」

預金通帳を見ると結構入ってる。まあ准尉待遇で六カ月分だしな~

「ああ、それとね。あなたにはシンジ君とレイの通う中学校に通ってもらうわ」

「は?いやですよ。会った頃に学力テストで大学卒業程度の知識があるって結果、前にでてませんでした?いまさら行く意味なんて…」

「あるわ、貴方の存在を公表した以上。義務教育を受けさせないと各方面からのバッシングを受けることになるわ。拒否は認めません」

「うわ、メンドクサ~イ。なんとかしてくださいよ」

「…黙りなさい。私はずーっと不眠不休で働いてるのよ。学校行くくらいなんだというの!我慢しなさい!」

駄々をこねたら怒った!怖っ!まあ、使徒が来る前からも秘密研究もあって働きづめだ。
ストレスとかたまってるんだろうね。ここは素直に従っておこう、拒否しきれるような事情とも思えないし。

「はいはい、わかりました。通いますよ」

「よろしい、制服は用意した本部の部屋に置いてあるわ確認しておいて頂戴」

「りょーかい」

「あと学校でもレイの姉妹ってことにして頂戴」

「ああ、それじゃあレイさんと相談したほうがいいですよね?」

なぜか口元をにやりと歪ませるリツコさん

「いえ…レイにはもう話をしてあるわ。口裏合わせは必要ないわよ」

何故かニヤニヤしながら言われた。なんかあやしいな…
まぁ仕事が忙しすぎてテンションがおかしくなってるんだろう。
またなんか怒鳴られないうちにさっさと行くとしよう。

「んじゃ、お忙しいところすんませんでした。もう行きますね」

「ええ、せいぜい中学生生活を楽しみなさい」

やっぱりニヤニヤしながら言われた。










―数時間後、赤木リツコ研究室







「やっとひと段落ついたわ」

赤木リツコ博士は山積していた部下の分析レポートに目を通し、報告すべき使徒の情報を司令に提出し終え。自室に戻ってひと段落つけて一服していた。
もうすでに日は落ちており。時計は午後九時を指していた

「随分と遅くなっちゃったわね。さて、早く連絡しとかないと」

そういって部屋にある電話の受話器を取り、番号を打ち込む。
そして待つこと数秒、相手が電話に出た。

『もしもし』

「レイ?リツコよ。夜遅くにごめんなさいね」

『いえ、構いません』

「あなたの素体に入った子―ヒトミっていう名前で貴方の双子の妹としてフォース・チルドレンに着任したわ」

『彼女が私の妹…』

「ええ、それでなんだけど。姉妹ということで学校での生活に注意点があります」

ニヤリと口元を歪ませて彼女は続ける

「まず、あなたは姉として彼女に『お姉ちゃん』と呼ばせなさい。そして貴方は彼女を『ヒトミ』と呼び捨てで呼ぶこといいわね?」

『はい』

「そして、そのことに異議と唱えても決して認めないこと。彼女は准尉として着任してるけど。もし命令を持ちだしても無効よ。それを認めないのは私の命令と考えていいわ」

『はい』

「最後に、あなたは姉として妹を気遣うこと。これは姉妹という絆を持ったもの同士は当然するべきことよ。いいわね?」

『はい、要件は以上ですか?』

「ええ、それだけよ。それじゃ。おやすみなさい、レイ」

『………赤木博士』

「どうしたの、レイ?もう切ってもいいわよ。なにかあるなら言って頂戴?」

『…こういう時、最後になんて言って切ればいいんでしょうか?』

「…ふふ、そうね。おやすみなさいって返せばいいのよ」

『ですが、赤木博士はまだお仕事が残っているのでは?』

「…それもそうね。ならまた明日か私に会うでしょう?それじゃまたね。でどうかしら」

『はい、それではまた』

「ええ、またね」

最後の挨拶を交わして電話が切れる。

「レイ…とヒトミか…」

赤木リツコ博士は一人で呟いた。

「彼女らにあの女《ヒト》を見てしまうのはやっぱり間違ってるわね。ヒトミの言うとおり。彼女らは神々の戦いに捧げられた生贄みたいなものなのだから…」





二週間後―零号機シンクロテスト・エントリープラグ内


仮の住居として与えられたのは本部にある宿泊施設の一室であった。
ひとまず身の回りのものをそろえたり地下施設から数少ない荷物を持ってきたりして一日、その後は零号機とのシンクロ調整が始まった。

リツコさんは学校通えとはいいつつも、実際にはそこまで熱心に通わせるつもりもないのだろうか?
戦力となるべきEVAが零号機のみだということもあり、退院時にほぼ修復が完了していた零号機である。
正規パイロットたる綾波レイは怪我をしており。存在を公表された私に合わせてネルフ技術部総出で調整がなされた。
実は第一次直上会戦はレイ仕様の調整を赤木博士が突貫で自分用に調整したものであったために、シンクロ率が起動数値ギリギリだったのだ。
調整された零号機はなんとか退院から一週間と5日ほどで30%前半と二倍近くまでシンクロ値は伸び、一応戦えるレベルに調整できたところでやっと技術部のデスマが終了。
ついにその時が訪れる。

『ひと段落ついたことだし、そろそろ中学校に通いなさい。明日転入するということで手続きは済ませたわ」

「明日?随分急ですね」

『本当は退院後すぐにでも通わせたかったのだけどね。この通り戦力はあなただけだもの、せめて少しでも早く通えるようにさせてもらったわ』

「…こちらとしては通わないでもいいんだけど」

「自由に動けるようになった貴方のためにがんばったわ」

笑顔でそういってくれた。善意ではなく楽しんでいるような…
というかわざですよねこの人、忙しいのにそんな微妙な嫌がらせ(?)にリソース割かなくていいのに!



翌早朝―赤木リツコ研究室






『は~い、もしもしぃ~』

「おはよう、ミサト。どう?若いツバメとの生活は、もう手は出したの?」

『なあんだ、リツコかぁ~?あんた、徹夜で分析と修復作業じゃなかったの?』

「ええ、そうよ。もうクタクタ。だからこうして家で惰眠をむさぼる同僚に、ちょっと愚痴をこぼそうと電話したのよ」

ひたすら昼夜問わずの実験の日々が終わったと思えば
次はEVAの修復、管理と使徒の残骸をこれまた昼夜問わず解析する日々だ。
正直やっていられないのだが、きっと今頃愉快なことになっているあの少女のことを思うと少し楽しい気分になる。

『その割にはにはミョーに楽しそうな口調ね?』

「ええ、とーっても楽しいことがこれから。いえ、今頃起っているのわ」

『なによそれ、一体なにがあるっていうのよ?』

「レイとヒトミにちょっとね」

『あの姉妹?そういえばヒトミちゃんてシンジ君と同い年なんだって?見た感じじゃシンジ君と同じに見えないからびっくりしたわよ』

「彼女は生活が不規則なのよ。そのせいで同年代の子に比べて成長が遅いわ」

『そーなの、ま、とにかく彼女が転入でシンジ君の交友関係も、なんとかなると良いんだけどね』

「シンジ君?学校で何かあったの?」

『彼、まだ友達居ないみたいなのよ』

「そう、確かに彼、あまり友達作るのが得意な感じではないわね」

『ま、その辺のところ。ヒトミちゃんにも頼んでおきますか』

「そうね、パイロットの精神状態が良いほうがシンクロにも都合がいいわ。シンジ君のフォローができそうならした方がいいわね」

『あと、レイのこともね。なんだかアンタとレイ最近お互いに気にしているようだし?』

「そうかしら?」

『前までは互いに少し距離をおいているよに見えたわよ』

「それはあなたも同じでは無くて?」

『そうね…でもリツコ。貴方の方が距離が近いはずよ。彼女『最近、赤木博士は睡眠をとれているのですか?』なんて、この前聞いてきたわよ。』

「そうなの、それで最近よくレイが私のところによく来ているのね」

例の少女が魂を持ってから3年間とちょっと。レイには助手として秘密研究のサポート役として手伝ってもらっていた。
サポート役といってもマヤのような役割ではなく、例の少女に生活用品を届けたりする程度であるのだけども。
昼にレイ自身の実験をしたあと一人でヒトミの秘密実験を開始する私を見て、彼女になにか思うところあったようで。
その時からちょくちょく用事も特にないのに私の所を訪れるようになった。

『そりゃ、朝昼夜と働いていればいつ寝てるかとか気になるわよ。あまり心配をかけないことね』

「心配…ね…」

レイはあの男と同じくあの女を見てしまうこんな私を心配してくれているらしい。
変な話ね。こちらはまるで彼女に関係ない事柄で敵のように思っていたというのに…

『あ、もちろん私も心配してんだからね~。親友がいつ寝てるのかもしれない生活をしているのに心を痛めているのよ~』

「あら、どうもありがとう。それならこれから親友の私のお手伝いに来てもいいわよ。まだまだ処理すべき案件が山盛りなんだからミサトの手伝いでも大歓迎よ」

『えっ…いやぁ~それはちょっち…私夜勤だったし…ね?』

「前日が夜勤だろうと駆けつけてくれる親友を持てて、私は幸せだわ」

『う、ちょっと~勘弁してよ。私もお仕事して疲れてるんだから寝かせて~』

「はいはい、冗談よ。とくに大事な話もないし、気のすむまで寝ていなさい」

『そうさせてもらうわ、でもあんたもちゃんと寝なさいよ?零号機の最終調整は終わったなら今日はそこまでやることがないでしょう?』

「ええ、一昨日の最終テストでなんとか戦力になるラインには到達したから技術部の状態にも余裕ができたわ。私も今日が上がったら明日休みにあてるわ」

『そ、ならいいわ。ネルフの誇る技術部長が倒れちゃったりしたら人類の危機なんだから。ほんと、気をつけなさいよ』

「お気づかいありがとう。作戦部長さん。でも大丈夫よ。マギとEVAの管理ができるのだから自分の体調管理くらいはできるわ」

『ま、それもそうね。んでわ、私はまた寝るとしますよ』

「それじゃ、寝てるところ悪かったわね。それじゃあおやすみなさい」

『アンタもほんと休みなさいよ。それじゃね』

電話が切れる

「さて、残りの仕事は零号機とヒトミのシンクロに関する報告書を上げるくらいね。親友からの忠告と私を気遣う不器用な子もいることだし、さっさと終わらせるとしましょうか」

そう言って気合いを入れなおした彼女はここ三週間働きづめとは思えない明るい表情をみせ、上司に上げる報告書の作成に取り掛かったのであっった。



―同時刻、2-A教室





まぁそんなこんなで、しぶしぶ中学校に通う羽目になってしまったわけで…

「それでは綾波さん、挨拶をお願いします」

今、担任の先生に転入時の挨拶を促されているわけだ。
とりあえず可愛らしく挨拶しておくかね、なんでかって?教室にシンジ君がいるからさ!
ヒロインっぽくしてれば助けてくれる可能性が上がるであろうという素晴らしき私の頭脳を働かせた策だ。
しかしフラグは立たせないけどね。鉄の女!綾波ヒトミとは余のことよ!

「え~、私は綾波ヒトミとです。これまで、健康上の理由で学校に通うことができなかったのですが。このたびこうして学校に通うことができるようになりました。双子の妹のレイともども、よろしくお願いします!」

しかし、さわやかーな挨拶をするが、なんともまばらな拍手と何やら生徒同士の『え、綾波さんの?』『えーうっそー』とか聞こえて微妙な雰囲気。
レイさんの普段の行いのせいですね。わかります。
教室にはシンジ君もいるわけだが…この教室の空気に困惑している様子だ。
シーンと静まり返った教室内の空気をどうにかしようと言葉を探していると

「ヒトミ」

突然がガタンと椅子の動く音がして青髪で赤い目をした少女が立ち上がって私に声をかけた。
その少女はもちろん我が妹(という設定)のレイさんだった。
え?なに?呼び捨て?いきなりどうしたの?

「あなたの自己紹介には誤りがあるわ。私の方が姉で、貴方の方が妹と赤木博士から聞いているわ」

げ!リツコさんめ!精神年齢というか魂の年齢というかそういうものはこっちのが長いというの知ってるのになんでこんな設定にするんだ。

「あー、いや。聞き間違いじゃないの?私の方が姉と聞いているわ」

とぼけて押しきろうとしたが。

「そんなことはないわ。そうでなくても私のほうがヒトミ、貴方より早く存在していたわ」

アヤナミさん!『存在していたわ』って結構重大な機密に触れる表現じゃないですか!?ダイジョウブなの!?
まぁでも確かにそーだけどさ。こっちもほうが記憶はほぼないけど…最低でも精神年齢は20はいっているはずなんだ。
14歳の女の子に年下扱いされたくはないぞ!
というかレイは碇ユイの消失後に生まれたはずだよな?実際には10前後?…いやまあそれはいいか。
とにかく(多分)精神的には遥かに年下の中学生に妹扱いされるなどごめんこうむる!

「いいえ!私の方が姉と聞いているわ!レイ、私のことはお姉ちゃんと呼びなさい」

「いいえ、私の方が姉よ。それに身体的特徴も貴方の方が身長低いから、客観的事実としてそう見えるわ。」

確かにこの体は深夜労働と地下に引きこもり生活のおかげでレイさんに比べて成長が遅い。だが精神的には私の方が上だ!
にしても、思ったよりに頑固だなレイさんよ…だがこれを譲る気はないっ!くらえ必殺!

「ふっ、これは綾波ヒトミ准尉としての上官命令だ!私のことをお姉ちゃんと呼ぶこと!いい!?」

レイが沈黙する。フッ…『命令があればそうするわ』この言葉。
賢いこの私はきっちりと覚えているのだ。完全勝利!

「…そう、ヒトミはそんなにお姉ちゃんになりたいのね」

と思ったらそんなセリフと共に優しい目線をレイさんに向けられた。
なんだ、その我がまま言ちゃってしょうがないわね…みたいな視線は!

「…転入生の負けやな」

ジャージが呟いた。なんだと!このヤロー!

「だね。階級を盾にするなんて、大人げないし」

ミリオタメガネが同意した。こいつ、今度の豪華クルージングの旅に連れて行かせないようにしよう。

「そうね、レイさんのほうがお姉さんだわ」

いいんちょーさんが優しげな笑顔で同意した。そんな!いいんちょーさんまで!?

「そうだね、ヒトミさんの負けだよ」

そして新世紀救世主、シンジ君が止めを刺した!

「そう、私がお姉ちゃんなのよ」

最後に、おね…じゃなあいっ!レイさんが勝手に勝利宣言をした。
『だよねーちっちゃい綾波さんのほうが姉なんて言うからビックリしたわよ』とか教室からぼそぼそ聞こえる
教室の空気が微妙だったのはそういう理由だったのか。

「むぐぐ…私は認めませんからね!」

その言葉で教室中からイヤに温かい視線を注がれてしまう。
ぐ…どうやらクラスメイト達の評価は決まってしまったようだ。




―約6時間後―

 



…その後、朝礼から現在の五時間目の授業まで受けたわけだけども…休み時間、昼休みにになるとおおよそこんな調子であった。

「すごーい、本当に瓜二つね。背以外は」
「あれ、でも同じ学年ってことは双子よね?」
「でも、双子でこんなに成長に差があるものなの?もしかして学年間違えたとか?」

「違います!貴方達と同級生です(てめーらより遥かに年上ですよ!)」

どうにもレイさんに絡みにくい分こっちに反動が来ているような気がします。
ちなみにレイさんも同じ教室に居るけど基本私以外はスルーのご様子。
で、シンジ君は女の子ばっかり固まってるので絡んできませんでした。
私もそういう方針で行きたいんですがね…
テンション高いですね。若いっていいよね。中学生のみなさん。

そして現在五時限目の授業中、これが終われば転入初日終了である。んー、何か忘れているというか見過ごしているような気がするんだけど…

キョロキョロと教室を見渡すとコックリコックリと舟を漕いでいるジャージ君の姿が見に入った。
  
……?あれ?そういえばジャージのトウジ君がいるじゃないか!

確かトウジ君がサキエル戦後初登校の日がシャムシエル襲来だったよな!?
サキエル戦からちょうど3週間くらいたった時期だし今日来るんじゃないのか?
オウ!転校初日とかいってる場合じゃねーぞ!

あとあれだね、シンちゃんが殴られますよね。シャムシエル時報のジャージ君に。
あれは回避したほうがいいのかね?あれ、でもこの世界じゃどうなんだろ?怪我してんのかな?
てか何かの下敷きになってるようなら吹っ飛ばされた零号機が当たったビルが原因だよね多分。
初号機は出撃後にすぐ組みついて殴りあって決着着けたし。

…万一に私が原因だろうとそりゃお見舞いなんかはするがあまり気にはしないけどね。
なぜかといえば、どう考えても使徒が悪いし、次に警報が出ているのに逃げ遅れたのも、妹さんを連れ出さなかった、探し出だして保護しなかった教師あたりに責任があるだろ。どう考えても。
まあ、妹思いの中学生のお兄ちゃんに殴られてやるくらいはしてやってもいいけどね。

とまあ、そんなことを考えながら過ごしていると放課後となったわけだけど…
本来の歴史(?)はチャットでパイロットばれ→放課後、連れ出され殴られる→使徒戦という流れだったよな?
どうも双子の話題でパイロットに関する質問がされなかったらしく、平和に放課後を迎えてしまったせいで三馬鹿友情フラグを潰してしまったようだな…

どうしたものかな…幸い、教室にはトウジ、ケンスケの二人はまだいた。
休み時間、授業中などに聞き耳立てていたら、やはり昨日まで休んでいたらしいので多分妹さんは怪我をしているのだろう。

…やっておこうか、確認の意味でも。彼らの間に生まれる友情のためにも。

「シンジ君、これから何か用事ある?」

「え?いや家に帰るだけだけどどうしたの」

「それじゃ、これからネルフ本部にいくだけど一緒に行かない?パイロット同士、情報の交換をしたいのだけど」

「うん、かまわないよ」

「じゃ、レイと一緒に行きましょう」

さて、どうでるジャージ君。

ちらりと様子を窺うと…こっちにきた。
サキエル君はシンジ君が素早く倒したが、一体どうなることやら。

「お前、さっきも准尉とかいっとったが、やっぱあのロボットのパイロットなんか?」

「ええ、あの怪獣を倒すのが私達の役目。そこの碇シンジ君、そして綾波レイもそうよ。そうがどうかした?

「そうか、お前らがそうなんか。お前らに言いたい事があるんじゃ」

とりあえず警戒して身構えた。
いざとなればシンジ君の代わりに殴られることも考えていたが。

「ありがとう。碇、綾波姉妹。お前らのおかげでワシの妹はなんとか助かった。なにか礼をさせてくれ」

おお、なにやら殴られ鬱ルートは回避できてたようだ。めでたい!
惨劇回避に一歩前進した気がする!

「そんな、いいよ。助けようとして助けたんじゃないんだし」

「謙遜すんなや碇、ワシの妹はな黄色の一体目のロボットがやられたあと、カイブツに妹の隠れてる近くのビルを破壊されて破片が飛んできて怪我したそうや。それでもうだめだ。次は自分のいるビルやと覚悟したと言っておった」

なるほど、ビル破壊に走ったサキエルさんのとばっちりですか。

「だが、次の瞬間。二体目の紫色のロボットがそのバケモンをふっとばしてやっつけたそうや。そのおかげで助かった言うとったわ」

一体目では倒せなくてスンマセンでしたっ!まあシンクロ調整もロクになしじゃあんなもんだろうけど…と自分に言い訳をしてみる。
しかし、これはシンジ君のお手柄だなあ。そういう背景があるなら原作通りの友情は成立するだろう、とりあえず一安心。

「そんなわけでワシはお前らになにか礼をせんといかん。そうしないと気が済まん。なにかあれば言うてくれ出来る限りやらせてもらうで」

きた、ともだちフラグ。いまだっ!

「だってさ、どうする?ジャージ君の妹を助けた紫色のロボットのパイロット、碇シンジ君」

俺はこのフラグを拾うぞー!シンジッー!

「え?僕?」

「ええ、お礼をしてもらう権利は貴方が持ってると思うわ」

「何、碇!お前が紫色のロボットのパイロットなんか!」

「う、うん、そうだけど別にお礼なんていいよ、僕はその時はやられた腕が痛くて訳も分からず夢中になって敵を殴ってただけなんだ。だから全然助けるとか、そういう気でやったわけじゃないんだし…」

「ダメや、ワシの大切な妹を助けてくれた。その時、碇がどう考えとったかとかは関係ない。お前が倒してくれた結果、妹の命は助かったんや、これが事実なんや。だから礼をさせてくれ。このとーりや」

目の前で頭を下げるジャージさん。

「う~ん、分かった。君の気持は分かったよ。でも、特にこれといってやってほしいことなんてないし…」

「いやいや、別にほしいもんでもかまわんで」

いや…クラスメイトからお礼に何かモノをもらうのもね。

「本当にいいって。ありがとうって言葉だけで十分だよ」

「いやいや、それじゃあ気が済まんのじゃ、ここはワシを助ける思てこのとーり頼むわ」

「う、う~ん…」

うーむ、シンジ君が困っているようだしちょっと口を挟みますか。

「ちょっと、二人とも」

「なに?」「なんや?」

そう声をかけて私は二人の手をとり。

「はい、これがお礼ね」

握手させた。

「君がシンジ君の友達になるのがお礼ということでいいんじゃない?どう、シンジ君?」

シンジ君を見る。ちょっと驚いていた様子だが、すぐに笑顔で乗ってきた。

「ええと…そういうことでお願いできないかな?」

そういってジャージ君に視線を向けたシンジ君。

「よし!分かった!それはこっちも望むところや。これでワシは碇の友達や」

「えっと、名前は…」

「ああ、すまん。まだやったな。ワシは鈴原トウジ。トウジと呼んでくれてかまわんで」

「よろしく、トウジ。僕は碇シンジ。僕のこともシンジでいいよ」

「おう、よろしく頼むでシンジ!」

そういって握手に込める力を強めるジャージ君。
応じてシンジ君も力を強め、二人で友情の堅い握手を結んだ。いい話だなあ~
うんうん、よかったよかった!

「よし、ケンスケ。お前もこっち来んかい」

後ろの方で見ていたミリオタ君を呼ぶジャージ君。
うむ、三馬鹿結成か大変めでたい。

「こいつはワシのダチで相田ケンスケや。こいつもよろしく頼むで」

「よろしくな碇、俺は相田ケンスケだ。ケンスケって呼び捨てにしてくれて構わない。トウジ共々よろしく頼むよ」

「うん、よろしくケンスケ。僕のこともシンジでいいよ」

「分かったよシンジ」

よし、概ね歴史通りだな!殴られて鬱ってない分だけシンジ君がパワーUPして使徒をブチノメシテくれる可能性が上がるに違いない!
フハハハハ!

『ピピピピピピ』

と男の友情と自身の安全が確保されつつある?ことに感動していると急に携帯電話が鳴りだした。
…ああ。トウジさんが登校した日がそうでしたよね。うっかり忘れかけてましたよ!
とにかく急いで携帯電話を取り出しで出る

「はい」

『ヒトミ、非常召集よ。使徒が来たわ!あなたは直ぐにケージ来て頂戴!』

やっぱり

「了解、シンジ君と«妹»のレイはどうしますか」

『すぐに迎えの車が来るわ。一緒にシンジ君とレイ«お姉さん»も乗りなさい校門前に来るわ』

「私が姉です!」

『命令よ、レイがお姉ちゃんよ』

「拒否します!」

『司令も認めてるわ、拒否は認めません』

「ちょっとリツコさん、仕事が忙しいとか言っていながらなにやってくれるんですか!?」

『とにかく早く出頭しなさい。非常事態なんだから」

「え、ええ、すぐに行きます」

携帯を切ってシンジ君を見ると彼のほうにも連絡が入ったようだ。
真剣な顔で端末を見つめていた。

「じゃ、行きましょう」

「うん」

シンジ君を見ると力強く頷いた。

「レイもいきましょ」

振り向いてレイを探すとすでに廊下にでていた。

「ってちょっとまってよ。おねえ…じゃない。我が妹のレイ、一緒にいこう」

「私が姉よ」

「私のほうが姉だってば!」

「…二人とも、非常召集っていうんだからそんなことしてる場合じゃないんじゃないのか?」

口論になりかかったところでミリオタ君に指摘された。おっしゃる通り!
…とにかくレイに続いてシンジ君と教室を飛び出す

そのまま廊下を走って下駄箱で素早く靴を履き替えて校庭に出たところで

「おーーーい!三人ともがんばれやー!無事に帰ってこいよーー!」

教室の窓を開けたジャージ君がこんなことを叫んだ。
おお、嬉しいこといってくれるじゃないの!
後ろにいるシンジ君を見ると決意を固めた良い顔になった。
GJ!よくやった!鈴原トウジ!騎士十字勲章ものだ!

「…ってなんか忘れている気が…えーっと」

走りながら思案を巡らす。確かあの二人がなにかやらかしたよな?
えーっと…ああ!?あいつらがシェルター出ないように注意しなきゃ!
くるっとまわって教室の方を向く。

「鈴原くーん!相田くーん!」

「なんや?」「ん、なに?」

「避難先のシェルターから出たら殺すからー!ネルフの司令に直接訴えて銃殺させるんだからー!」

出来やしないだろうが…いや、意外とほんとにできるかもしれない?ともかく脅しておこう。

「?何いっとんのじゃ?ちっこい方の綾波は」

トウジさんが怪訝そうにこちらを見る。っておい、ちっこい方とか言うな!くそジャージ!

「うえぇ!?」

ケンスケさんは驚いてますね。そりゃあ驚くでしょうね。ハッハッハ。

「とにかく!鈴原君はそのミリオタ見張ってて!それじゃ!」

うむ、これで安心?あとはシャムシエル自体をどうするかだな…



[17850] 第四話 『レイ、戦いの後』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:9a2dbb20
Date: 2010/04/28 19:10
ネルフ本部―第一発令所

「10年のブランクがあったと思えば、今度は三週間ですか」

「こっちの都合はお構いなし、女性に嫌われるタイプね…とりあえずあの使徒、リツコには嫌われたわ」

「赤木博士にですか?それまたどうしてです?」

「我等が技術部長殿は、明日久しぶりの休みを取る予定だったのよ。でも、アレを殲滅したら明日の休みなんてなくなるでしょ?ねえ、リツコ」

「そうね。まったく…せめて後一日くらい来るのを待ってほしかったわ」

「委員会から、出動要請が出ています」

「全く、言われなくても出すわよ。それでリツコ、零号機はともかく初号機は状態は?出撃可能なの?」

「左腕のシンクロに支障が出るけど十分よ。ただパレットライフルなんかを持たせるのはお勧めしないわ。安定した射撃は難しいわ」

「そう、でも確か修復には一カ月とか言ってなかった?よくそこまでやれたわね」

「一ヶ月といっても完ぺきに治るまでの期間のことなの。それに司令が掛け合って生体部品を引っ張ってきたのよ。あと問題は神経系統でつまりはシンクロ調整だったのだけど。それも思ったより順調に進んだのよ」

零号機のみしかしばらく戦力にならないということが不安なのか司令はどこかの支部あたりから生体部品を取り寄せ、修復を早めた。
そして秘密研究による成果でシンクロ調整も順調に進んだ。もちろん、司令の命令もあり対外的には1ヶ月の完全修復ということにしておいたけども。
数年間の秘密研究はなかなかの成果を上げたと言ってもよいわね。

「ふーん、とにかく戦力になるようでなによりね。二機も出せるなんて随分楽だわ」

「そうね、戦力は多いに越したことはないわ」

「さて、それじゃあ零号機にパレットライフル持たせて、初号機はその援護射撃の下で接近戦ってとこね。日向君、そういうことで準備しておいて頂戴」

「はい、了解しました」

ミサトが作戦準備を始めると同時に『カンカンカン』と床を踏む音が複数聞こえてきた。
あの3人が来たようね。

「マヤ、零号機と初号機のエントリーはいつでも行けるわね?」
 
「はい、零号機、初号機いつでも行ける状態です」

無事…勝てるといいわね。

 



話 『レイ、戦いの後』
 
 




車を降りた私たちは3人で発令所に駆け込むとリツコさんとミサトさんらがオペレーターに指示を出し。準備をしていた。

「リツコさーん!状況はどうなってるんですか?」

「来たわね。現在使徒は第三新東京市に進行中よ。出撃可能なEVAは零号機と初号機よ。ヒトミ、すぐ出撃準備に入って頂戴」

「え、初号機も動くんですか!?前、一ヶ月とか言ってませんでした?」

「ええ、司令が生体部品を取り寄せたのと《あの》研究の成果を使って予定より早く調整が進んだのよ。まだ左腕のシンクロに多少問題はあるけれど出撃に十分耐えるわ」

《あの》?ああ、秘密実験のことね。まさかこんな形で役に立つなんて!
士気の高いシンジ君に自分の零号機がついて戦えば。史実(?)では初号機単機でシンクロ的な意味でも足手まといだった―ジャージ君、ミリオタ君の二人を抱えて勝ったんだラクショーだろ!
ここに来るまでに零号機単機で出撃すると思っていたのに嬉しいサプライズだ!

「うっひょう!!リっちゃんさすがだ!大好きっ!」

感動した!ついついリツコさんにガバっと抱きついてしまった。

「…っちょっと、暑苦しいわ、やめなさい!」

強引に振り払われた。ハッハッハ、もうリッちゃんたらいけずなんだから~
ふと、シンジ君を見ると同僚のテンションの高さと奇声に若干引いたようだ。
…やばいシンジ君の前ではせっかく可愛らしいな感じに振舞っていたのに台無しになってまったか?

「よし、それじゃあシンジ君!さっさとEVAのところに行きましょう!あんな使徒なんて瞬殺してやりましょう!」

「う、うん」

まあいいや!とにかくさっさとシャムシエルちゃんを叩きのめしてやろうじゃないか!フハハハ!

「それじゃあね、レイ。お姉ちゃんの活躍をそこで見てなさいよ!」

「気をつけてヒトミ、碇君も」

レイに手を振ってケージを目指して走る。ふっ、初号機がいるなら戦闘なんぞ怖いどころか楽しみだ!

 







 
そうして発令所には二人が駆けていった通路を見つめ続ける少女が残った
 
「…レイ」

「何でしょう赤木博士」

「ヒトミの事、心配なの?」

「はい。以前、博士からは妹を思いやるものだと教わりました…ですから」

「そうね、でも信じることも大切よ。大丈夫、シンジ君もいるし安心しなさい」

「…はい」

「心配するよりも彼女達を応援してあげなさい。そうすればきっとやってくれるわ」

「はい」


 
 


―零号機エントリープラグ内

よっしゃあ!気合十分、戦力十分!必勝のシャムシエル戦!

「フフフ…今宵のプログナイフは良く切れる…」

『…なにかアブナイ感じがするわよ、ヒトミちゃん。それと二人が掛かりだろうと油断は良くないわ』

「え、ああ、もちろんですよ。手抜いたら危ないですから。そりゃあ油断せず全力でやりますって」

当然、浮かれても手を抜く気なんぞない。エントリープラグ貫かれたりしたらそりゃあ危ないし。

『ま、それならいいわ。それで作戦なんだけど貴方はATフィールドを中和しつつパレットライフルで攻撃して頂戴。今回ナイフは使わないでいいわ』

「了解」

『ミサトさん、僕はどうすればいいんですか?』

『聞いてたと思うけど初号機は左腕の調整がまだ完全に終わってないわ。そのため射撃は無理よ。だから零号機の援護の下で近接戦闘を仕掛けてもらいます。二人ともいいわね?』

「了解」『了解!』

二人同時に返事をする。シンジ君は気合十分といった感じだし頼りにしてますよ!

『目標、市街地侵入しました!』

『きたわね、二人とも行くわよ!エヴァンゲリオン、発進!』

Gが掛かり零号機が射出された。地上には数秒で到達さすがネルフの技術力は世界イチィー!って感じだ。もう二回目だな。

『ヒトミちゃん、パレットライフルを出すわ。受け取ったらATフィールドを中和して射撃開始して頂戴』

近くにパレットライフルが出てくる。あー確か爆炎で敵が見えないと言われる兵器だったよな。うん。
とりあえず手にとってATフィールドを展開。

『零号機、ATフィールドの中和に成功』

よし、中和できたようだな。それじゃあ…
カチッと指に何かが当たった感じがすると大量の弾丸がバリバリバリといった感じで持っているライフルから発射された。

「おお、当たってる当たってる」

とりあえず20発くらいで発射停止。目標のシャムシエルを見るが多少煙が上がっているだけで被害は特になし。史実(?)通りか。

『パレットライフルの効果は薄そうね』

「そうですね、これからどうします?」

『避けながら目標を打ち続けて頂戴。目標を零号機に注目させて』

「了解」

などと話ているとシャムシエルが前進しながら手の鞭を飛ばしてきたっ!反射的にバックステップを踏んでかわし切る。
あっぶねー!やっぱ油断ならねーな使徒は。
そうしてまた20発ほど連射する。すこしだけシャムシエル前進と攻撃が止まるからその隙に後退する。そしてまたシャムシエルが前進しながら鞭を振るう。
それをなんどもそれを繰り返していいたのだが、ついにその機会が訪れた。
シャムシエルが鞭をこちらに繰り出した瞬間、近くまでこっそりと接近していた初号機がその姿を現したのだ。

『いまよっ!シンジ君!』

『はいっ!』

よし、初号機がプログナイフを持って奇襲敢行!ナイフはコア直撃ルート!これは勝った!
さすが我らが新世紀救世主・碇シンジ様だァー!
と思って心の中で叫んだのだけども

『うわっ』

『初号機、アンビルカルケーブル断線!内部電源に切り替わります。活動限界まであと5分』

シャムシエルは慌てて鞭を戻したが、その速度がこちらの思った以上の速度に早く。
そして、そのまま初号機に振って牽制、初号機は飛びのいたが、その場に伸びていたアンビルカルケーブルを切断されてしまった!あらら…!
あーおしい、零号機が鞭を手で取って押さえておけば良かったかもしれないな…

『シンジ君、一旦後退!ケーブルを繋げ直して!ヒトミちゃん、なんとか持たせられる?」

「まあ、大丈夫かと」

うーん…持久戦の予感だな。
初号機の撤退を援護すべくバリバリとパレットライフルを打ち込む。
するとシャムシエルはこちらに向き直り、その隙に初号機は大きく後退。電源ケーブルの確保に向かった。
さて、また同じ作業に戻りますかっと…

前進しながら鞭を振るうシャムシエルにライフル発射。撃って動きを止めてバックステップを踏む。そして次にはやはり同じように前進しながら鞭が飛ばす。
あーあ、シンジ君が戻るまでこの作業かあ…と思っていたら

カチッカチッカチッ

と音がする…え?まさか!
一度離してもう一度押す…

カチッカチッカチッ

た ま が で な い

「弾切れしたあああああ!」

弾切れという概念を理解してるのかしてないのか知らないが、牽制の射撃が無くなったためにシャムシエルは前進速度を上げ接近してきた!

『すぐライフルを出すわ受け取りなさい!』

「無理無理ッ!」

急速前進してひたすら鞭を振ってくるシャムシエル。とりあえず弾切れしたパレットライフルを投げつけるが、当然、牽制なんかにはならなかった。


『零号機、アンビリカルケーブルの限界距離に達します…限界距離です。パージされました!』

『零号機、内部電源に切り替わりました。活動限界まであと5分です』

「うっげえ!まじかよおお」

うわ…逃げ続けた結果ケーブルの距離が無くなったあ!
シャムシエルはしつこく接近、攻撃してきて。やばい、このままじゃ五分後には…!

「ミ、ミサトさーん!どうすれば?」

『初号機の電源接続は!?』

『終わりました!ミサトさん、すぐに向かいます!』

『シンジ君、頼むわ。なんとかして零号機から目標を引き離して頂戴!』

『はい!』

逃げまくる我が零号機に接近、鞭を振ってくるシャムシエル

『ヒトミさん、今行きます!』

何をするかと思えば、シンジ君はシャムシエル目がけて初号機がすごい勢いで走らせて

『どおおおおりゃああああああああ!』

シンジ君は初号機は気合いとともにシャムシエルに体当たりをかまして吹っ飛ばした!
よっしゃ!さすが我らが新世紀救世主様ッ!助かったぜ!愛してるっ(非性的な意味で)!

「シンジ君ありがと。助かったわ!」

よし、この隙に…っと。

『今よ!ライフルを出すわ、受け取ってから外部電源を!』

というわけでとっととライフルを受け取ってシャムシエルに向き直ると初号機は取っ組みあっている最中であった。
ともかく早くこの間に近場の外部電源に接続して援護に戻らねば。そう考えたのだが…

『うわっ』

シンジ君の短い叫び声が聞こえたと思うと鞭に足を取られて初号機はずっこけていた。
そしてそのままシャムシエルは初号機の足をつかんだ掴んでいる鞭を振い

『うわああああああああ』

初号機を上空に投げ出だした。
そして初号機は下の市街地に落ちてビルにぶち当たって破壊しつつ、すこし跳ねた。ウワッ痛そう

『―ぐ…』

さらに地面に頭の方から落ちた。うわ…まじ痛そう。初号機が地面に激しいキッスをしてますね。
って、あれ…なんか初号機起き上がらないんだけど…

「シンジ君!?」

『………』

おう、なんかいやーな予感が…

『シンジ君、大丈夫!?』

『まずいわ頭への衝撃のフィードバックで気を失っている!』

「うぇ!?うそっ!」

非常にまずい!初号機は上方向に飛ばされたために比較的にシャムシエルの近くで初号機は停止してんだぞ!?

『パイロットを覚醒させなさい!あらゆる手段で!早くッ!』

『もうやっているわ!』

発令所は必死の様子、そりゃあそうだよね…こっちも電源接続なんていってる場合じゃねえ!

「射撃で引きつけます!」

頼む、こっち向いてくれ…!

『だめです!目標!初号機に向かっています!』

ノオ!ええいもうこうなったら!

「くそったれ!ミサトさん!目標に接近します!」

『頼むわ!』

やるしかあるまいッ!パレットライフルを右手で持ち、左手を添えて三点射くらいで胴を狙って打ち込みつつ全速力で駆けつける。
と、鞭の射程圏に入ったところでシャムシエルがこちらに向き直り、素早く鞭を放てライフルを持つ右腕に鞭を巻きつけてきた。

「ぐッ…」

右腕の根本に鞭が巻きつき焼けるように痛い…いや鞭の圧力が強まってくる?

『目標、零号機の右腕を切断!』

ぐあ!零号機の右腕が根本からスパっと切れたー。
痛い、痛いぞ、くそ痛いなんてレベルじゃないぞこれは!

「いたい、いたい、いたーい!このヤロー!よくもお」

こうなれば…残った左腕でパレットライフルを拾い再度突撃を敢行。
するとシャムシエルはまた鞭を放ち、その鞭は私の零号機の顔と左肩をに向かい。私のの右目と左胸に激痛が走った。

「ぐあ…!?」

『目標の攻撃、零号機眼部の右側、左胸を貫通!』

『ヒトミちゃん!?』『ヒトミ!』

おいい!頭を貫通ってマジか…スーパー痛い。マジ死ぬっ!
だが前進はやめない。撤退しきる前に意識が持たないと思うし、そしてなにより、まだ倒れてる初号機がいる。

「ぐうぅう…こんにゃろ…!」

シャムシエルは光の鞭をウネウネと貫通させたまま動かす。ついに右目が見えなくなり、さらなる激痛が走る、もちろん左胸を貫く痛い、それでもなんとかシャムシエルにたどり着き。左腕を伸ばす。
ぼーっとしてきた。見える左目には零号機の左腕からのビルライフルの銃口がコアにピッタリつけているのが見えている。
だが右目と胸にに走る激痛で頭の中が段々と白くなり。身体に力入らなくなってきた…やばい…

『ヒトミ、あと少しだけ頑張って…トリガーを引いて!』

ミサトさんでもリツコさんでもない。誰かの声が聞こえた。
そうだ…このライフルを奴のコアにぶち込めばそれで終わりだっ!

「く・た・ば・れ」

最後にギリギリ踏みとどまった意識で思いっきりトリガーを引く。左腕に銃を連射している反動の感覚を感じる。
直接コアにフルバーストで全力射撃を食らわせてやったんだ。さすがに勝っただろ…?
だが最後まで見ることはできなそうだった。トリガーを引いた指をそのままに、ライフルの反動をなぜか心地よく感じながら私の意識は遠ざかった。















目の前にオレンジ色の天井が広がっている

「…んむ、ネルフの病室の夕方バージョンだな」

「目覚めたようね」

突然、声がしてびっくりしてそちらを向くとリツコさんがいた。

「おうわ!リツコさん!?あっ、使徒戦はどうなったの!?」

「貴方が撃ったパレットライフルは目標のコアだけを綺麗に破壊したわ。おかげでまた使徒のサンプルが手に入ったわ…」

「なんか、サンプルが増えたというのに嬉しくなさそうな顔ですね科学者的には嬉しいのでは?」

「明日久しぶりに休みを取れそうだったのよ。修復もだいたい済んで、シンクロ調整も上手くいっていて仕事がひさしぶりに少なかったというのに」

「木端微塵にしたほうが良かったですか…」

「…冗談よ、ただ使徒には一日くらい遅れてくれたってよかったとは思うわね」 
 
うーん、そりゃ俺に責任なぞないが、さすがに可哀そうだなあ…

「さて、貴方は思ったより元気そうだったし。私はそろそろ使徒の残骸の調査に行くわね」

「はあ、まあ体には気を付けてくださいよ。ネルフの誇る技術部長さんが倒れたら人類の危機ですよ」

「あら、どこぞの作戦部長さんと同じこと言うのね。でも平気よ、マギとEVAの管理ができるのだから自分の体調管理なんてラクなもんよ」

クスクスと笑うリツコさん。うーん…まあストレスはたまってないみたいだし大丈夫かね

「ミサトさんとですか…なんか微妙に嫌ですね。まあでも、なんとか休み取った方がいいですよ」

「私だって休みたいわよ。まあこの使徒の調査が終われば多分余裕ができるから大丈夫よ。それじゃあ、もう行くわ」

「行ってらっしゃ~い」

病室のドアを開けて出ていくリツコさんを左腕を振って見送ってると突然振り向いた。

「あ、そうそう、お姉ちゃんにはお礼を言いなさい」

「私が姉ですって。てかレイさんですか。それまたどうして?」

「あら、気付いてなかったの?そっちを見なさい」

リツコさんがいた側とは逆の方向を示されて見てみる
…すると、なんとそこには夕日に照らされたレイが椅子に座って自分のベットに寄りかかって眠っていた。
え?どういうことなの!フラグ建てた覚えはないぞ!?

「貴方が気を失う前にトリガーを引くように言ったのはその子よ。貴方の戦いを心配そうに見守って、そして戦いが終わった後の貴方をずっと看ていたわ。レイは」

「…なんでですか」

「意外に思う?まあ、私がちょっと小細工はしたんだけどね」

「リツコさんの小細工だけでこうなるんですか?」

「レイ生まれ、普通の子とは違うわ。そしてその点では貴方も同じなのよヒトミ」

「…ああ…なるほどね」

「多分、それだけではないけどもね。でも、そういう点で貴方は安心できることは大きいわ。というわけでこれは私からの上官命令、レイと仲良くしなさい。」

上官の命令にしては私的な感情がこもっているように見受けられますがね。
…でもリツコさんて原作でレイさんのことはあまり良く思っていなかったような気がするんだけど、どういうことなんだろなこの態度は。
まあ、良い傾向だと思うからいいんだけどさ。

「了解しました。赤木博士」

「よろしい。それじゃあ、もう行くわ。あと、そこのあなたの横の棚に碇司令からの許可も下りた貴方の立場に関する命令が出てるわ。あとで読んでおいて」

そうしてリツコさんが出て行った。
病室には…自分を救ってくれた少女、眠っているレイさんと自分だけが残り、私はレイの方に向き直った。

「今回は救われたな…今だけ姉として認めてやろう」

本人は寝ているけどな~。ヘッヘッヘ。

「…お姉ちゃん、ありがとう」

恥ずかしいなこれ、おい。もうやらんことにしよう。まあレイさんには後日改めて礼をしますか。
少し自分のベットに寄りかかっているレイさんの夕日に照らされた寝顔を覗いてみる

「うむ、かわいいらしいのう。だが所詮は小娘。余の魂のアレは反応せんな。ハッハッハ」

まあ中学生だしなあ、それに今、自分も同じかっこしてんだし。

「さて、そういえばリツコさん《貴方の立場に関する命令書》とか言ってたな。なんだろ。もしかして機密も知ってるし、使徒を撃破したからことを理由になにかの役職に任命とか昇進、昇給かな!?」

ちょっとウキウキしながらその命令書の入った封筒を取り中身を取り出す。
…見るとなんか適当な紙に手書きで書いたっぽい、なんだこれ。

「えー…どれどれ」

命令書 
綾波ヒトミ准尉殿
機密保持の観点から綾波レイと同居、もしくは隣の住居に転居を命じます。
ネルフおよび学校生活においては綾波レイを監督者とし、綾波レイを姉とすること。
この命令書は特務機関ネルフ司令、碇ゲンドウの権限に元づき発行されています。
拒否は認められません。拒否した場合は相応の処分がなされます。
命令者 赤木リツコ

上記内容をネルフ司令として正式な命令とする。
署名 碇ゲンドウ

「…はい!?」

役職でも昇進でも昇給でも無かった!
司令の権限という証拠にご丁寧に司令のサインまでつけてる。
…リツコさんめ、実は案外暇なんじゃないのか!






[17850] 第伍話 『リツコ、心の向こうへ』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:8842dabe
Date: 2010/04/25 22:19

 
ネルフ本部・司令執務室
 

先日の使徒戦の日の早朝、呼んでもいないのに突然レイが執務室に来たのだよ。

「司令、失礼します」

「どうしたレイ、何の用だ」

「お願いがあってきました。欲しいものがあるのです」

開口一番、レイはそんなことを言ってきた。いままでそんなこともなかったし、性格的にもそんなことを言うとは思っていなかったからとても意外だったよ。

「…一体何が欲しい」

「妹です」

「………………もう一度言え」

「妹が欲しいのです」

あの時は私も訳が分らず混乱していた。どうやら碇もその様子だったが…

「…私にどうしろというのだ。私にできることはない」

奴はなんとか動揺を納めて、何とか言葉を返した。

「そう、ですか」

その時のレイ君は随分悲しそうな表情をみせてね。彼女は普段からあまり感情を出すことは少ないからな。
碇の奴はたまに彼女と話をしているがそのような顔は見たことなかったのだろうな。
彼女の悲しそうな表情を見た碇はとてつもなく動揺していた様子だった。

「…分かりました。無駄なお時間をとってしまって、すみません。私はこれで失礼します」

そしてそのまま動揺して固まっている碇に背を向けてそのまま行ってしまった。
それでレイ君が行ったかと思えばその直後。

「司令、失礼します」

「…今度は赤木君か、なんの用かね」

入れ替わるように赤木君が入ってきたのだ。

「司令は本日、出張とのことで。フォースチルドレンと零号機のシンクロテスト結果を口頭でご報告に参りました」

「分かった。聞こう」

「零号機とフォースチルドレンの調整は良好です。現在の最高シンクロ率は33.5%。多少低いものの戦闘には耐えるでしょう」

「修復と使徒の解析もある中よくやってくれた。赤木博士」

「ありがとうございます」

「詳細は後日、書面で報告書をまとめて上げてくれ。帰ったら確認する」

「分かりました。ところで先程、すれ違ったレイが悲しそうにしていましたが何かあったのですか?」

「……」

碇は何も答えなかった。思い返して動揺してる様子だった。だから私が答えた。

「ああ、レイが妹が欲しいと言ってきたのだがね…そのようなことはできんから無理だと断ったのだよ」

碇の奴は落ち込んでいるのか、サングラスの下で目を伏せていて気付かなかったようだが私は見た。
…赤木君の口元が少し歪んだのを。

「なるほど、しかし、司令のお力があれば。その問題を解決する良い案があります」

「何?どういうことだ」

その言葉に碇は間髪いれずに反応していたよ。やはり何も力になれなかったことが悔しかったようだ。

「例のフォースチルドレンをレイの妹としましょう。背格好にしても問題ありません」

赤木君は手元にあるファイルから白紙の紙を取り出すと、さらさらと何かを書き始めたのだ。

「ここの署名欄にサインを」

碇はその紙を受け取りその書面を確認していた。

「あのイレギュラーをか…」

「彼女はこれまで私たちに従順にしていましたが、どういう事で情報が漏れるかわかりません。監視の意味でもレイを姉として。まとめて保護しておくべきです」

「しかしな…」

「この命令は司令の力があってこそです。私の命令だけではレイの求めるものを与えられませんわ。さあ、そこに署名を」

「…分かった、署名しよう」

碇は結局そのままその手書きの命令書にサインをした。
私には碇が上手くはめられたようにしか思えん。だが奴の顔は何となく…いや、明らかに満足げに見えたよ。
ユイ君は碇のこんなところをかわいいと感じたのかもしれん。
全く、国連やゼーレといった面々を普段から相手にしてる割にこんな搦め手には弱いのだな…











「そんなところだよ。その命令書ができた経緯は」

「ありがとうございました。副司令」

例の命令書を持って副司令に話を聞いてみたのだ。
恐らくその場に立ち会ってるだろうなと思ったがビンゴだった。

「しかし、何と言いましょうか」

司令…なにやってんだ。

「まあ、碇も人の子ということだな」

「はあ…まあ確かに無給の代わりと言ってポケットマネーから半年分の給料くれたりしてますからね。意外に優しいかもしれませんね」

「ああ見えて身内には甘い男なのかもしれんな」

「その割にはシンジ君への態度はあれですよね…何年も放っておいた息子に接するのが怖いだけとか?」

副司令が苦笑する

「かもしれん…そうするとシンジ君のあの性格も父親譲りなのかもしれんな」

「その意見、すごい説得力がありますね。互いに互いを避けようとするあの父子の中身はまるで双子のようにそっくりに思えてきました」

そう思うとすごく可笑しく感じる。副司令も同じのようで笑いを堪えていた。


 




話『リツコ、心の向こうへ」

 


―第二次直上会戦(シャムシエル戦)日、早朝・赤木リツコ研究室

今日の碇司令の出張に間に合わせる形でヒトミの零号機シンクロテストを終了。
司令にひとまず状況を口頭で説明しにいくために資料をまとめてファイルにして持ち。これから移動しようとしたその時。
研究室にレイが姿を現した。

「おはようございます。赤木博士、少しよろしいですか」

「あら、おはよう。こんな時間にどうしたの、レイ」

「今日、彼女が…私の妹、ヒトミが中学校に来ると聞きました」

「そうよ、シンクロの調整が終わったから今日、中学校に転入させるつもりよ」

彼女は第一次直上会戦から後、たびたびここを訪れるようになった。
それ以前からヒトミの秘密研究のために度々夕方に来てはいたが。ここ最近はさらに頻度が上がり、手伝いを申し出てくれるようになった。
今の私は以前、この子とよく似たある女《ヒト》を見ていたのだけども…
最近ではどちらかというとこの子と同じ格好したもう一人の方が頭によぎるようになり、段々とその間違った思いを改めることができるようになってきていた。

「彼女は…私は赤木博士ほど彼女と会ってはいません。彼女は私のことを姉として認めてくれるのでしょうか」

「自分がヒトミに姉として認められるかが不安なのね?」

「はい、そうです」

それに以前にヒトミを双子の妹として扱うと言って以来。ここ一週間、夕方に私の元を訪れては例の彼女とどう接すればいいのか相談されており。
そのように悩む様は、この子がただの14歳の思春期の子供であるということを感じさせないわけがなかった。
私はもはや彼女を完全に一人の個人として見るようになっていた。

「大丈夫よ。もし、今認められなくても貴方が行動で示せばそれは確かな信頼となって貴方達の絆となるわ。段々と作っていけばいいのよ」

「はい」

…とはいえ、ヒトミはお姉ちゃんなんて言う性格じゃないわ。少し素直にさせるためには何かが必要ね

「…レイ、これから碇司令の所に行くわ。ついてらっしゃい」

レイを手を取りこれから報告にいく司令執務室へ向かう。さて、面白いことになるわよ。

 








―ネルフ本部―司令執務室前


「レイ、これから貴方は司令に妹が欲しいと言ってきなさい」

「はい」

「司令は…多分無理だというわ。そうしたらすぐ司令室を出ること。いいわね?」

「はい」

「でも安心しなさい。その後に私が司令に貴方が立派な姉になるために応援するよう頼むから」

「わかりました。行ってきます」

レイが入って行った…

そして悲しそうな表情をしているレイがすぐに出て来た。

「どうだった?」

「『私にどうしろというのだ』と言われたので退出しました」

「そう、でもそれでいいわ。次は私が行くから待っていなさい、きっと司令は貴方を応援してくれるわ」

「はい」
 


さて、私の番ね。

「司令、失礼します」

「今度は赤木君か、何の用かね?」

副司令が対応してきたわね。肝心のあの人は…すこしボーっとしているように見えるわね。
とりあえずは零号機シンクロテストの報告からしておこうかしら。

「司令は本日、出張とのことで。フォースチルドレンと零号機のシンクロテスト結果を口頭でご報告に参りました」

「分かった。聞こう」

「零号機とフォースチルドレンの調整は良好です。現在の最高シンクロ率は33.5%。多少低いものの戦闘には耐えるでしょう」

「修復と使徒の解析もある中よくやってくれた。赤木博士」

「ありがとうございます」

「詳細は後日、書面で報告書をまとめて上げてくれ。帰ったら確認する」

いつもの仕事の報告ということで司令の調子は戻ったようね。サングラス越しだけど目を見ればわかるわ。

「分かりました。ところで先程、すれ違ったレイが悲しそうにしていましたが何かあったのですか?」

「……」

若干様子が変になった。やはりレイのことを気にしていたらしい、司令は目を伏せてしまった。
見事動揺しているようね、思わず口元がにやける。


「ああ、レイが妹が欲しいと言ってきたのだがね…そのようなことはできんから無理だと断ったのだよ」

司令は答えず、代わりに副司令が答えてきた。チャンスね。

「なるほど、しかし、司令のお力があれば。その問題を解決する良い案があります」

「何?どういうことだ」

即座に食いついてくる司令。フフ…普段のあんな態度が嘘のよう。

「例のフォースチルドレンをレイの妹としましょう。背格好にしても問題ありません」

私は手元にあるファイルから予め研究室から持ってきておいた白紙の紙を取り出すと、予め考えていた命令書と司令の署名欄を書いた。

「ここの署名欄にサインを」

司令は急造の命令書に目を通し始めた

「あのイレギュラーをか…」

「彼女はこれまで私たちに従順にしていましたが、どういう事で情報が漏れるかわかりません。監視の意味でもレイを姉として。まとめて保護しておくべきです」

もっともらしい理由を述べてみる。

「しかしな…」

「この命令は司令の力があってこそです。私の命令だけではレイの求めるものを与えられませんわ。さあ、そこに署名を」

ダメ押しで司令の力でレイの欲しいものを与えるなどという甘い言葉を放つ。

「…分かった、署名しよう」

司令が署名欄に署名をする。勝ったわ。
しかも何だか司令は満足げであった。レイのために何かできたというのが嬉しかったのだろうか。本人は隠してるつもりみたいだけど。
…なんだか司令に感じていた畏怖というか母の影が少し弱まって心が軽くなった気がするわ。

「それでは司令、失礼いたします。レイも喜ぶでしょう」

「ああ、赤木君。…よく良い方法教えてくれたな。礼を言う」

礼を言われた…まずいわ、笑ってしまいそうだわ。
笑いだす前に退出すべく私は司令に背を向けて足早に司令室を後にした。

 

そして笑いを堪えて司令室をでるとレイが待っていた。

「レイ、司令はあなたを応援してくれているわ。がんばりなさい」

そういって手書きの命令書の司令のサインを見せる。

「命令…なのですか?姉妹の絆というのは命令によって作られるものではない気がします」

「違うわよレイ、司令は不器用な人だからそんな形でしか貴方を応援できないの、本当は命令じゃないわ。司令の思いだけ受け取りなさい」

「赤木博士、ありがとうございました」

「いいのよ、それじゃあ。そろそろ学校行かないと間に合わない時間でしょ?早くいってらっしゃい。ヒトミの転入に間に合わないわよ」

「はい、行ってきます。赤木博士」

研究室に来た時の不安な表情は消えていた。
レイを元気付けることに成功したようね。
私も何故か徹夜続きというのに晴れ晴れとした気分だわ。
今日やることは零号機シンクロテストの報告書作成くらいだし、休憩がてら作戦部長殿に電話でもしようかしら。


・ 

―ある関係者のコメント

「リツコさん…徹夜続きでテンションおかしくなってるんじゃないですか」

「かもしれんな、碇の奴は君が来てから彼女を働かせすぎだ」
 








第二次直上会戦の翌日―本部直上

 

「シンジ君、足元には気をつけてね」

僕は今、ミサトさんに連れられて倒された使徒の残骸を見に来ている。…足元には瓦礫がたくさん広がりとても歩きにくい。
転ばないように注意しながら歩いて行くと、やがて仮設の事務所みたいな場所に到着した。

「休日返上でお疲れ様ね、リツコ」

そこにはパソコンを叩くリツコさんが居て、そして少し離れたところでなにかをやっている綾波が居た。

「あら、いらっしゃい。シンジ君も一緒なのね」

「ええ、シンジ君にも敵がどんなものか実際見せておきたくてね。この前は検査に時間とられてできなかったから。それで、何かわかったの?」

「現段階ではあまりわかっていないわよ。でも、二体目の使徒のサンプル。一体目の使徒との対比することによって何かが分かると思うわ」

近くにコアの部分が破壊され、背中まで孔があいている使徒の姿がある。

「へえ、じゃあこの前と違って少しは迎撃の助けになりそうね。…でも、今は研究よりもこっちのほうをなんとかしてほしいわ」

「何をよ?」

「みりゃ分かるでしょうが!迎撃施設の状態よ!」

ミサトさんがで右方向を指して言う。
そこにはみじん切りにされ倒壊した電源ビルが見え。それに向かって崩れたやはりみじん切りにされたビルの瓦礫で道ができていた。

「…派手に鬼ごっこしていたものね」

「それだけじゃあないわよ、あっちも!」

さらに左方向を指差すと建造中のビル群。
あれらは僕が倒した使徒が破壊したビルだ。再建されている途中であるが資金資材が全く足りず。まだ復旧に至っていない…らしい。

「資金が足りないのよ。第一次直上会戦の使徒の残骸の撤去、EVAの修復…とても迎撃施設に回す予算はないわ」

「さらにあっちも、こっちも、ここも!全滅といってもいい状況じゃない!!」

ミサトさんはさらに別の方向と今いる場所を指して言う。
『あっち』にはスライスされたビル群が倒壊したまま放置されていた。よく見るとバラバラになったパレットライフルらしきものがある。
『こっち』は開けた道になっていたがエヴァがぶつかったあとと思われる倒壊しかけのビルが放置されている。多分、最初の使徒のとき零号機がぶつかったビルだと思う。
『ここ』には初号機がぶつかって倒壊させたビルの破片がばら撒かれていた…。

「…ごめんなさい」

「ちょっと、なんでシンジ君が謝るのよ」

「僕が、もっと上手くやれてれば…」

ミサトさんは真剣な、怒ったような表情をしてこちらを見た。

「シンジ君、あなたは最善を尽くしたわ。私は貴方が無事ならビルなんていくら壊してもかまやしないわ。だから謝る必要なんてないわ」

「…はい、すみません」

ミサトさんは僕のことを本当に思ってくれているんだろう。僕はその事に、ミサトさんの思いに感謝した。
でも、今の僕にはそんなことはあまり慰めにはならなかった。
だって僕が本当に謝りたい事、気にしている事は全然、別のことだから…

「赤木博士、コーヒーが入りました」

「ありがとう、レイ」

綾波がリツコさんにコーヒーを渡した。
言葉数は少ない綾波だけど心なしかリツコさんといる時は表情が和らいでいる気がする。
やっぱりEVAの実験とかで付き合いが長い分仲が良いんだろうか?

「…葛城一尉と碇君の分もお持ちしますか?」

「あ、私たちはいいわよ。ちょっと見に来ただけだから」

綾波レイ、先の戦いの事、彼女はどう思っているんだろうか。
戦いであまり役にたてないまま気絶してしまった僕を…
役立たずとでも思っているんじゃないだろうか?

「?ちょっと、どうしたのシンジ君、急に黙っちゃって」

でも多分、そんなことはない。あれは別に僕が手を抜いたわけでもミスをしたわけでもない。
それは分かってる。ミサトさんが言ってくれた通りなんだ。そんなことはないと信じたい。
それでも、どうしても、僕は戦闘記録を見てEVAに乗ることが怖いと感じてしまった。
確かに僕は全力で戦ったと思う。でもその後の零号機のピンチはやっぱり僕のせいだ。
少なくとも僕があそこで気絶してなければ、あんなに苦戦することはなかったはず。
だから僕はもうエヴァに乗る気持ちはすっかり無くなってしまった。

「…ミサトさん、ちょっと気分が悪いんで先に戻ってます」

「…そう、足元に気をつけて戻るのよ」

…いや、それは言い訳になるんだろうと思う。
僕が怖いのは、今後、僕自身のミスせいで誰かが傷ついてしまうかもしれないという事だ。
今回のことは不可抗力だったと納得できたとしても…僕はエヴァに乗ろうとする気持ちは起こらなかった。

僕はここに来た時、いきなり搭乗して使徒に勝った。その時とその時から今まで負傷していた綾波、零号機に乗っていたその妹。
そしてトウジの妹を助けることになって。それで感謝されて…そのことを僕は嬉しいと感じた。
けど、それは本当に幸運が重なってそうなったんじゃないだろうか?
逆に『もし、助けることができなかったら』それはどういう感情となって向かってくるのか?
それを考えると怖くて仕方がない。

「はい」

僕はミサトさんに…いや綾波に背を向け、その場から逃げだした。
僕は彼女と顔を合わせるのが嫌だった。
勝手に、急に怖くなって、逃げ出したいと考える…それは彼女達に全てを任せてしまうということを分かっているから。
僕は、僕が綾波に顔を合わせる資格がないんだと、そう考えながら僕は瓦礫の上を歩いていった。





[17850] 第六話 『迎撃、第三新東京市』【新劇注意】
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:65bd18cc
Date: 2010/05/26 21:31

私がシャワーから上がると、いつのまにか碇君が部屋にあがっていた。
…彼の手にはあの人の眼鏡があった。

「う、うわあああああ!?」

碇君は眼鏡を床に放り出してくれた…なんてことしてくれるの。
私は眼鏡を拾うために床に手をついて回収しようとする

「ご、ごめん、その…僕、なんにも見ていないから!」

そういって碇君は目をつぶって立ち去ろうとし…私の足に引っかかって転倒。

「うわっ」

私を押し倒した。
数秒のはずだが長く時間がとまったように感じられ、彼はのどをゴクリと鳴らしている。

「…どいてくれる?」

彼は私の胸に当てていた手をすぐ引っ込めて私の上から退いた。

「あの、その、ごめん!わざとじゃないんだ!」

彼は後ろを向いて弁解を始めた。

「その、なぜかヒトミさんにネルフのカードを届けるように言われて…」

ヒトミの指示なのね。隣に住んでいるのになぜ?

「それで、その…ここまできてチャイムを鳴らしたんだけど出なくて。それで、ドアに手をかけると鍵が開いていて…」

「じゃ、カードをそこに置いといてくれる?」

「その…本当にごめん」

碇君が謝って出ていく。
その時丁度、端末が鳴った、…非常招集。使徒が来てしまった。

今日は零号機の再起動実験の日、私がやっとエヴァに乗って戦えるようになるはずだった。
そのことは私の存在価値だと言うのに…
私は下着をつけて、制服に手を通し、素早く制服に着替え家を出る。
そこには碇君が外で待っていた。

「綾波、非常招集だって…急ごう」

「ええ、急ぎましょう碇君」

さっきまで動揺していた碇君はどこか不安そうな表情をしていた
私は彼と一緒に本部へ駆け足で急いだ


 



話『迎撃、第三新東京市』
 



ネルフ本部―第一発令所 
 

使徒襲来を報を聞いた私は本部に駆け付けたが再起動実験は今日、私はまだ乗ることができない。
私は結局、碇君を見送るだけで私はまた発令所にいるだけだった。

見送ってしばらく、目の前のメイン・モニターには初号機、零号機両パイロットが映し出されてた。
 
「それでは、本部から直通のリニアレーンによって上陸予想地点までエヴァを輸送するわ。二人ともいいわね?」

『…了解』『了解』

「両機とも発進させて、装備はパレットライフルを用意。迎撃地点の電源供給の準備は!?」

『電源供給施設の設置、完了しています』

「では、速やかに撤退して頂戴。国連軍戦車部隊には迎撃地点の周囲に展開させて。航空隊には使徒への攻撃を開始させて!」

『国連軍が攻撃を開始しました』

航空隊が攻撃を開始するが、ATフィールドに全て阻まれ効果はなし。目標は静かに前進を続ける。

「使徒のATフィールドは強力です。国連軍の攻撃は全て遮断されています」

「目標、尚も国連軍を無視して前進しています」

サブモニターには国連軍の航空部隊がミサイル攻撃をしかけ。その全てがATフィールドで完全に防御されている映像が映し出されている。

「やはり、エヴァでないとダメなのね…」

『エヴァ両機、目標地点に到達、リフトオフしました』

リニアレーンのリフトに横たわって固定されている二機のエヴァが初号機、零号機の順に立ち上がり。パレットライフルを手にる。
目の前のメインモニターには初号機と零号機が海に向かってパレットライフルを構えて前進を始めた。
それから少し離れたところには国連軍の戦車部隊が展開していた。

「目標の進行が停止しました」

『シンジ君達も止まって』

目標が停止。敵の攻撃が始まるのだろうかと警戒した葛城一尉は二機のエヴァに停止命令をだす。
遠くに正八面体の物体が浮いていて、その周りには国連軍の航空機が展開していたがやはり何の反応も示していない。
あれが今回の敵…

「エヴァを認識したのかしら?」

『…来るか?』

零号機パイロットはそう発言すると、ライフルを構えたままなぜか一歩前進。
その瞬間、停止した敵が突然コアを露出し、周囲に覆っていた外殻というようなものを円状に展開させた。
…悪い予感がするわ。

「し、使徒の形状が変化!コアの周囲に展開するように周辺部が変化しました!」

「目標に、高エネルギー反応です!」

「なんですって!」『うえぇ!?嘘だろ!反則だぁ!』

使徒から周りの航空機をなぎ払うようにビームみたいなものが発射され。一瞬で国連軍の航空機は全滅。
碇君は茫然とそれを見ていたけど、零号機のパイロット、ヒトミはすぐに反応した。

『葛城一尉殿、撤退を提案します! 絶対勝てませんよ。あんなの!』

そして彼女は何か『なんでアレだけリアル新世紀やねん…』とか意味が分からない言葉をぼそぼそ呟いていた。
どういう意味なのだろう…

「分かってるわよ! ありゃあ無理だわ。シンジ君、ヒトミちゃん。すぐに撤退して! 国連軍の戦車隊も撤退を通達! 急いで!」

『…了解』『了解!』

「シンジ君から順番に撤退して頂戴」

急いでリニアレーンに向かう碇君の初号機とヒトミの零号機。
本部へ直通で向かうリニアレーンでまず初号機は外部電源を外し、来た時に乗ったリフトに初号機の体を寝かせた。
体の動きを止めるボルトが回転。ガチッリとボルトが固定される音がした。

「初号機、リフトに固定完了。回収開始します」

「次、ヒトミちゃん急いで」 

『はいはい』

「目標のコアが分裂、四方向に展開し形状を変化させました!」

「…目標に再び高エネルギー反応! 今度はこちらに来ます!」

「ヒトミちゃん!リフトにしがみ付いて絶対離さないで! 日向君、発進の用意して!」

「ダメです! 間に合いません!」

…私はまた出撃できずに見ているだけだった。

『掴まりました。って…うわあああああああああああああ』

「絶対に離さないで! 回収急いで! 早く!」

エヴァに乗ることだけが私の価値なのに、私はまた、それができずに見守ることしかできなかった。

 






―水際迎撃作戦の撤退より十日前、第二次直上会戦から数日後
 
 

シャムシエル戦から数日、意外にも身体へのダメージはあまりなかったらしい。強い衝撃を受けたわけでもないしね。
そういうわけですぐに退院できたて本部の仮の住居に荷物をまとめに行き。命令書通りに新居に移動した。

「おはよう、ヒトミ」

「おはよう、レイ姉さん」

お隣に住んでいるレイさんが朝のご挨拶にきた。それでに一緒に登校する。
ちなみに入院している間に引越しされていたらしい。全てレイさんの隣の部屋に移された後だった。まあ荷物なんて殆どないんだけど。

「じゃあ行きましょう、ヒトミ」

一応、リツコさんに命令されたし、一応従っておきましょう。恥ずかしいから嫌なんだけどなあ。
うーん、でもなんだってこんなことさせるんだろ。リツコさんは…学校だけならまだしもなあ?
はっきり言ってレイさんをなんとかできる気なんて全くしないんだが。
うん、なぜか関係が改善しているリツコさんに丸投げしよう。それがいい。
実際、ここまで実験、使徒戦、調整、また使徒戦と忙しいばかりで自分自身は必死で戦った以外に何もできなかったし。
まあ仲良くしておけば司令に消される可能性も低くなるだろうから。ちっとは仲良くするよう心がけるけど。

そんなことを考えながら学校までの道をレイさんと歩く。お互い無言で…

「今日も熱くてかなわないですね。レイ姉さん」

「そうね」

「………」

自分的には気まずい雰囲気だがこれといって話すこともないしなあ。
いいや、気にしないでも。隣のレイさんの方は気にしてる様子もないし、気にし過ぎだろ。

自分に言い聞かせながら無言のまま歩く、何度めかの横断歩道を渡るとシンジ君が歩いているのが見えた。
よし、この沈黙を破るには都合がいい。話しかけよう。

「おはよーシンジ君」

手を振って挨拶。となりのレイさんに促し、一緒にシンジ君の元へ駆けつける。

「…おはよう、綾波、ヒトミさん」

「おはよう、碇君」

3人で挨拶をするがシンジ君は一言だけ挨拶を返しただけで、一人で行ってしまった。
アレ…なんか避けられているみたいだけど…なんでじゃ。

「ちょっとレイお姉さま、シンジ君に何かされたのですか?」

「何もしていないわ」

沈黙を破るどころか本気で気まずい感じに。ともかく今はシンジ君にあまり絡めそうにもないし諦めよう。

「私たちも行きましょう。遅刻するわ」

…最後にレイさんが発言し、それ以降に会話らしい会話もなく教室に到着。
時刻はぎりぎりで、教室に入るとすぐに朝礼が始まり一時限目の授業が開始された。

「まずい、シンジ君の様子がおかしい」

なんでだろ? でも、原作だって度々鬱ってたしほっといてもいっか!
友達のジャージ君とミリオタ君と絡んでいる時は明るくふるまっているから大丈夫かな?
あと、どうせ彼にはレイさんやまだ来てないけどアスカさんというヒロインがいるんだし。
自分が接触して煽らなくてもいいだろ。ほっとこう、なんか家出もしてないみたいだし原作よりマシだろ。
そうだよ、レイさん覗きイベントでも発動すれば勝手に元気になるべ。あっはっは。

「とにかく、次の使徒はどうしてくれよう」

そんなことと言うとアレだがひとまずおいておく。私は椅子に座り、思案を巡らす。
記憶が正しければ次は零号機再起動実験のタイミングでラミエルさんだ。
…恐らくだが、再起動実験成功しようとまだレイさんは出させないだろう。
となると、多分司令は自分を零号機で出すわけだ。

「アレに勝てるのかなあ」

まあ最終的にはポジトロンライフルで狙撃という鉄板の勝ちがあるだろうけど。
できれば一回目の出撃でダメージ受けずに仕留めたいよね。自分の命的に考えて。
…あれ? 鉄板なのか? 成功率は8%とかいってたよね。確か。

「まずいなあ、なんか新兵器でも提案してみようか」

考えられうる限りでは…ポジトロンライフルしか勝てる気がしないな。ウン。
荷粒子砲くらうしかないんですね。わかりたくないです。
どういう計算で出た確率かしらないけど、純粋に勝率8%を引いて勝ったのが原作ならやばいぞ。

「やばい、ほんとどうしよう…」

だけど今回は時間がある。拘束されていたサキエル戦までの数年。零号機調整に掛かりきりだったシャムシエル戦までの期間とは違う。
今回はやっと自由に動けるようになったんだ提案次第でいくらか戦いの内容を変えられる…といいんだけど。
いっそのこと知ってることネタバレする?…いや無理だよなあ。まず司令に消される気がする。そうでなくても危ない立場だろうし。

とにかく学校が終わったらさっさと帰り支度をして本部に行こう。




・ 


…というわけで、学校の授業を聞き流しつつ、とりあえず対策を幾らか考えた私はネルフ本部に向かうことに決めた。
学校の終了と同時に私は超特急でネルフ本部に向かった。勝率を8%から最低でも50%にはしたい。そのためには一分一秒も無駄にできない。
とりあえずミサトさんのところだ。なんといっても作戦建てるのミサトさんだしー
というわけで。

「葛城一尉!いらっしゃいますか!?」

『どうぞ』

執務室のドアが開く。

「失礼します」

「あら、ヒトミちゃん?一体どうしたのよ」

「今後の使徒戦の戦略について提案があります!」

「提案?まあ言ってみなさい」

「一発が強い銃…いや大砲が欲しいです」

「なんで?」

「えーっとですね。この間のパレットライフルじゃあまり牽制になりませんでしたよね?ほら、初号機がやられたとき撃ったけど無視されたじゃないですか」

パレットライフルは戦車の主砲級の弾を連射するような凶悪な兵器ではあるが…如何せん相手は使徒だからなあ。

「そうね、確かにもうちょっと威力は欲しいわ」

「というわけで、反動、弾数なんかは無視してでもいいから急造でも構わないので威力の高い砲をお願いできませんか?」

そう、とにかく威力だ。ラミちゃんの体はなんか外側に加速器とやらがついててそこでホラ…エネルギーいろいろやって撃ってきた。
てことは出撃と同時の砲撃をかわし切って、ダメージを与えれば勝機はあるはずだ?だから一撃でいい。パレットライフルでも十分なのかもしれないけど一応。

「うーん、とは言ってもねえ。現状では実弾系の兵器はパレットライフル程度が限界よ。せいぜい弾の種類を換えるくらいね」

「えー…」

「それを超えるためには陽電子砲なんかの実弾でない兵器である必要があるけど…まだ完成にはいたってないわ」

まあそうか、さすがに幾らネルフの技術が進んでるといっても。戦自や国連軍の主力戦車…あれたしか90式戦車だったよな。あれの主砲級の弾を連射できるパレットライフルくらいが限界だよなあ。
しかし、これは所詮期待していなかった、ただの願望レベルの案、ここからが本番だ!

「じゃあ、ナイフ投擲とかはどうですか。エヴァの力で投げつければ結構凄いことになると思いますよ?」

うん、むしろ間接攻撃としては銃などよりよっぽど優れているはず。
EVAで殴ればコアも砕ける、最強使徒と聞くゼルエルにもパワー負けせずに引きちぎったりもしてたんだし。その筋力ならかなり凄い威力になるはず!

「確かにパレットライフルよりは威力はありそうね。でもあまり意味ないわよ。それ」

「なんでですか?」

「ナイフあたりを投げつけてみるとしても…質量が足りないから貫通しないで表面に刺さるだけで終わっちゃうわ。連続じゃ放てないのだし、銃撃った方がましよ」

…ぬう、確かに。
でもラミエルさんの加速器破壊案としては及第点か?
だがまだ諦めないぞ。他にも考えた策はある!

「じゃあ、槍です。槍を投げつけましょうよ」

ロンギヌスとは言わないがただの投げ槍でも結構いけるんではないだろうか?
アレはロンギヌスだからこそ届いたのかもしれないけど大気圏外までぶん投げたんだしな。

「質量は十分だと思うけど。牽制にとっさに相手に投げてもコア直撃は難しいわ。マギを使って弾道計算きっちりすればまた違うと思うけど」

うーん、やっぱり所詮は素人考えだったか。所詮こんなもんなのかな…

「いや、コアじゃなくても貫通して刺さっている状態ならかなり動きを阻害できていいんじゃ?」

「確かに、相手の動きを阻害する狙いなら刺さるだけでもいいわね…うーん、でもATフィールドを中和できるような距離からの投擲だと隙ができるから接近されたら危ないわ」

「ATフィールドごと突き破りましょう。遠くから投げれば関係ないです?」

「…ATフィールドを突き破れるような強度の槍なんて作れないわ。槍が折れちゃうわよ」

ぬあ…そうだ、あれはロンギヌスだからこそ突き破れるんだよな…

「ま、そもそも悪いんだけどさ、開発が無理なのよ」
 
「へ?なんでですか?」

「…お金がないの」

「一体なんで?」

「迎撃施設修復さえ予算不足で間に合ってないのよ。現在進行中のもの以外に新規の武器開発は望めないと思うわ…」

「げ、そうなんですか」

うわ、そんなことになってたなんて!
確かに派手に壊したもんなあ。ちょっとまずいんじゃあ。

「ちなみに今の迎撃施設の稼働はどんなもんなんです?」

「健在なのは防御壁なんかの施設くらい。直上付近の電源ビルの数はが半減して兵装ビルに至っては全滅状態、外縁にはかろうじていくらか残っている程度よ」

まあ、あまり兵装ビルなんかは役に立たないからいっか…?

「…そんなにやばかったんですか」

「ええ、ここにはもうエヴァしかないわ。だから国連軍を派遣してもらう予定なのよ。合わせてEVAによる迎撃計画も水際か郊外ということで、使徒の出現に対する警戒体制が強化されているわ」

ふーん、国連軍を呼ぶのね。…ラミエルさん、国連軍に反応して撃ってくれないだろうか?
まあ撃たないだろうなあ。シャムシエルも無視してたし、多分ATフィールド中和出来るEVAが出ない限りは問題にしないだろ…多分だけど。
…って水際?撃たれた時、隠れるところなくて死ぬんじゃないのか?

「ちょ~っと待ってくださいよ。水際って使徒上陸時に叩くために海岸までEVA輸送して戦うんですよね?」

「そうよ、それがどうかした?」

「そ、そうですか…」

やばい、野戦になったらどうしよう。一体どうなるのか想像もつかない…
いや、むしろ遠くに居る段階で荷粒子砲撃ってきたら、よけやすくて都合がいいかな? でも隠れるところがないからなあ。
まだ自由意思で物語に介入しているわけでもないのにどうしてこうなったんだ!

「まあ、そんなところよ。ぶっちゃけ今の段階で何かやることなんてないわ」

「うーん、訓練でもしてます。」

今から訓練しようマジで。とくに反射神経だ。初撃をよけようとにかく!

「随分熱心じゃない? 結構なことだけどほどほどにね」

「いえ、命の危険が目の前に迫っているのに、ノホホンとなんてしてられませんよ。」

レイさんどうにかするとかちょっと変な様子のシンジ君なんてとりあえずは対応しないでよし。
前者はどうしていいかわからない。後者は家出してないだけマシだろ多分。
優先すべきは次のラミエルだ。死んだらどうにもならん!

「それもそうだけどね。でも、急にどうしたってのよ」

「今回にしろ前回にしろ、シンジ君に助けられっぱなしというのも悪いですからね」

本当は荷粒子砲が怖いからですけどね。こういうことにしとこう。

「…貴方が助けられっぱなしってことはないと思うわよ?」

「シンジ君、シンクロ率も高いし操縦も上手いし強いんですよね。彼ほどとは言いませんが、私ももっと訓練して戦力になりたいんです」

「ま、そういうことなら良いわよ」

「じゃあ許可ください」

「なんの許可?訓練なんて申し出てくれればいつでも受け付けるわよ?」

「明日から学校休んで訓練したいんです」

「ダメよ。学校の勉強もちゃんとできない人間は訓練だってロクにできないわ。放課後だったら私が付き合ってあげるからちゃんと通いなさい」

うーん、やっぱりダメか。でもまあ良いか。

「…分かりましたちゃんと通います。それじゃ、今からお願いできませんか。葛城一尉殿」

「お願いされるわ、綾波准尉殿」

その後はミサトさんのレクチャーを受けつつシュミレーション訓練を実施。
とにかく回避の練習ということでお願いして敵の攻撃を避け続ける設定で20時までぶっ通しでやり続けた。
ついでに放課後は毎日、休日も問わずに練習に付き合ってくれるとミサトさんに約束させた。

ふはは、ラミ公の荷粒子砲など華麗にかわしきってくれよう!
自由に活動できるようになった綾波ヒトミ。その真の実力を思い知らせてくれるわ!
 



[17850] 第七話 『血戦、第三新東京市』【新劇注意】
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:c563d851
Date: 2010/05/26 21:31
メインモニターにはリニアレーンに掴まって移動を開始した零号機を追いかけるように、使徒の光線は零号機の胸を捉え続けている。
その光線は零号機がトンネル内に入るとトンネルのある山を抉りながら照射が続いたが。しばらくするとやっと射程圏外に出たのか停止した。

どうにか射程外まで退避できたようだ。…と一先ず安心したところで回収中の零号機がリフトから振り落とされて輸送通路内で激しく転倒した。

「零号機とパイロットの状態は!?」

「パイロットの意識不明です。高速輸送中にリフトから振り落とされたために通路内で衝撃を受け、パイロットは骨折しています」

「一応、射程外に出たようだしすぐに人員を送って!急いで回収して頂戴」

「了解、すぐに向かわせます」

「リツコ、零号機が戻ったら装甲の換装して、すぐにレイでの起動実験に掛かって頂戴」

「準備して置くわ」

そう言ってリツコは回収されつつある零号機のケージに向かった。

…さて、足どめしなくちゃね。
形を最初の八方体に戻して浮遊したまま前進を続けるモニターの目標を睨みつける。

「上陸と同時に”アレ”いくわ。効果範囲内に味方はいないわね?」

「いません。国連軍戦車部隊はは効果範囲外に移動完了しました」

目標が陸地と海の境を越えてなおも前進してくる。

「目標、上陸しました!」

「カウント行くわ。3…2…1…やって!」

「N2地雷、起動!」

号令とともに上陸した使徒のすぐ下の地面から大爆発が起き、そのエネルギーは上空へ向かって大きな力となって襲いかかった。
拡散した膨大なエネルギーによる衝撃によって通信が切れ、モニターに使徒が表示されなくなる。
…時間稼ぎになると良いのだけれど。

「…モニター回復します」

「目標の状況は?」

「ダメです。ダメージはありません。すべて遮断されたようです」

「足止めにもならないか。…今のところもう打つ手はないわね」

まずいわね…まさか足どめも出来ないなんて



話 『血戦、第三新東京市』

 

数時間後シンクロ試験場―零号機再起動実験



フォースチルドレンのヒトミが負傷しているため、本来予定されていた日時ではあるが緊急でレイのシンクロテストが行われた。
正規パイロットとはいえ、戦いに出た零号機はさきほど多少ではあるが損傷を受け状態は良くない。
エヴァ自体がなんらかの戦闘の影響を受けた可能性は否定しきれないのだ。
それでも、前回暴走して負傷したという過去があったとしても、やらなければならない。

「レイ、準備はいいわね? 予定より遅れたけど、これよりシンクロテストを開始するわ」

『…これで私も戦えるようになるのですね』

彼女は自分が戦えなかったことに不満を不安を持っていたことは分かっていた。
それでも、このような緊急の形で危険を含む実験をしたくはなかった。

「本当にいいのね? はっきり言って、これはリスクが高い実験よ」

『かまいません、エヴァに乗ることが私の存在価値ですから』

「レイ、それは違うわよ」

『…では私の価値はどこにあるのですか?』

「少なくとも私は貴方が私の所に来て手伝ってくれたりしたことに感謝してるわ。私は貴方の好意に、思いに、その価値を認めているのよ」

『でも私は…赤木博士や姉として彼女を、そして碇司令のために戦いたいのです』

「…そう、そういうことならかまわないわ、レイ。でもエヴァだけに価値を求めることはやめて頂戴」

『ありがとう、ございます」

「それではレイ、実験開始するわよ。私のことを信じて頂戴、再起動実験。必ず成功させるわ」

『はい』

「マヤ、第一次接続を開始するわ…主電源コンタクト」

「了解、稼働電圧臨界点を突破」

「フォーマットをフェイズ2に移行」

必ず、無事に成功させてみせるわ。








夕刻―双子山仮設基地


沢山の機械が用意され、所狭しと山の裏側に並べられていく。
これから一体なにが行われるのだろうか?僕が今いる仮設の休憩所の近くには指揮車両が待機してリツコさんを中心になにか話をしているようだ。
その様子を休憩所から見つめていると、地面が揺れる感じがした。揺れる方向を振り向くと零号機がこちらに向かってきていた。
歩いてくる零号機は盾らしきものを所持していた。零号機はそのまま近くまでくると前進をやめ、屈む。
しばらくするとその屈んでいる零号機からプラグがせり上がり、ハッチが空き。パイロットがでてきた。
それは綾波だった。

「綾波、こっちだよ」

綾波に向けて手を振る。すると彼女は屈ませた零号機から降り、こちらに来た。

「再起動実験、上手くいってよかったね」

「ええ、赤木博士の指揮だもの。上手くいくに決まっているわ」

そう言い切った彼女の顔に不安はないようだった。僕はそんな彼女を羨ましいと思う。

「ところで、綾波ってことは、ヒトミさんはまだ起きていないんだね?」

「ええ、まだ寝ていると思うわ。私もすぐに再起動実験だったから確認してはいないんだけど…」

「貴方達、こちらに来て頂戴。本部のミサトから作戦の説明があるわ」

近くの車両にいたリツコさんに呼ばれ、僕と綾波は会話を中断してそちらに向かう。
指揮車両の中に入ると、いつもの発令所に居るミサトさん、後ろの方に司令…父と副司令が見える。

『シンジ君、本来なら私もそちらで指揮と取りたいのだけどそういうわけにはいかないの、ごめんなさいね』

こちらに来て直接指揮をとれないことを申し訳なさそうに説明するミサトさん。

『…それでは、ブリーフィングを開始するわ。これから説明することをよく聞いてちょうだい』

「はい」

『外にある大きな銃がポジトロンライフルという本作戦で使用する武器となります。本作戦は、日本中から電力を徴収、全てを収束させ超遠距離からの狙撃によって使徒をATフィールドごとが目的です』

それであんなにたくさんの機械があるんだ…僕は少しその規模の大きさに興奮を覚えた。
しかし、日本中の電力で持ってしてもあの使徒に勝てるのだろうか?

『零号機が持ってきた大きな盾は元はスペースシャトルの底部で超電磁コーティングがされている急造の盾で敵の砲撃に対して17秒持つわ』

「どっちがどっちを使うんですか?」

『砲手はシンジ君が担当、レイが盾を担当。本作戦は00:00を持って開始されます。なにか質問は?』

「狙撃するのになにか条件はあります?」

『できれば…第一射で仕留めることが望ましいわ。最充填には20秒かかるため一度外せば敵の攻撃を受けることになります』

「第二射は考えないでいけってことですか」

『ええ…でも無事に第一射を撃てる可能性は正直低いわ』

「勝てるんですか…それ」

『マギによる計算では勝率0.8%、それでも一番高い可能性よ』

「そんな…!勝てないのと一緒じゃないですか!」

『…ええ、その作戦のままではね。でも、こちらにはまだ、その賭けに負けた時にどうにかする作戦があるわ、私はそれを実行するために本部に残っています』

「それは何なんですか?教えてください!」

『それはだめ。シンジ君、あなたは狙撃に集中して頂戴。そうすれば貴方は必ず生き残れるわ』

「ミサトさん…一体なにをするつもり何ですか」

『ごめんなさい、私を信じて頂戴。何も話さないで虫がいいと思われるかもしれない。でも、お願い』

ミサトさんは勝手だよ。可能性の低い作戦を立てて、なんとかするという手段を隠し。信じろという。
でも、ミサトさんの目は真剣だった。二体目の使徒が倒された後に、僕を励ますために怒った時と同じ目をしていた

「…分かりました」

それでも納得はできない。

『あとは赤木博士からライフルについて細かい説明があります。良く聞いておいてね。私はこちらの作戦準備の仕上げにかかります』

「作戦時にミサトさんは指揮を取らないんですか?」

『作戦開始時には本部からエヴァに通信を開きます。…またあとでね、シンジ君』

「はい…」

通信が途切れる。

それから、リツコさんからポジトロンライフルについて詳しい説明を受けた。
ポジトロンライフルは地球の自転などに影響されず、直進するなどといった難しい説明をされたが。
要はカーソルがそろった際に発射すれば命中するらしい。…難しくなくてほっとした。

 


そしてその後、僕は作戦開始時まで綾波と一緒にエヴァの仮設ゲージで待機することになり。
数メートルの暗闇を挟んだ向こう側に体育座りで綾波が都市の方向を見ていた。

「ねえ綾波、僕たち、これで死んじゃうのかな」

「どうして?」

「勝率0.8%だって言うじゃないか…ほとんど負けみたいなものだよ」

「…そんなこと言ってもしょうがないわ」

「うん…まあね…」

「碇君は、葛城一尉の説明が納得いかなかったのね」

いきなり確信を突かれた僕は何かを言おうとして、何も言うことができなかった。
それで、ただ首を振ってうなずいておいた。

「そう、でも貴方と葛城一尉との間には絆を感じるわ。貴方は葛城一尉のことを信じていないの?」

絆とは綾波とリツコさんみたいな関係のことだろうか?ミサトさんとの間にそれほどと言えるものはできてたのだろうか?

「絆…ってほどじゃないんじゃないかな。まだ、一緒に暮らし始めてもそんな経ってないし」

「そうなの、でも葛城一尉は貴方の事をちゃんと考えていると感じたわ。貴方はそう感じないの?」

「確かに…そうだね」

ミサトさんの思いは本物だと思う。僕もそう感じる。
まだ絆と言えるほどの関係ではないと思うけど、それだけ分かっていればいいものかもしれない。
綾波のリツコさんを信じていると言った時の強い信頼を感じる顔を思い出して、そう思った。


「…碇君は、なんでエヴァに乗るの?」

思いもよらない、あまり喋らない綾波から僕に質問を投げかけてきた。

「えっと、僕はここにきて突然だけどエヴァに乗って、人を助ける事ができた。それが嬉しくて戦ったのかな」

でも、それは偶々上手くいってヒーロー扱いされて調子に乗っていただけだ。この前の戦いでそう思った。
そして上手くいかなかった時が怖くて、今はどうしたいか迷っている最中だ。

「そう、私と同じなのね」

「え、綾波も?」

「私は前まではエヴァに乗ることだけが私の存在価値だと考えていたわ」

「…そうなんだ」

「でも、私の価値をそれ以外に認めてくれる人がいた。私はその人のために戦おうと思うわ」

やっぱりリツコさんのことなんだろうか。

「…綾波とはやっぱり違うと思うよ。僕はもっとダメな考え方をしているから」

「ダメなんてことはないわ、私は碇君の考え、良いと思っているわ」

どうやら綾波は、僕を励ましてくれているみたいだ。
ちょっとだけ分かりにくかったけど、普段無口な彼女の思いが伝わった気がした。

「ありがとう、綾波」

「…お礼を言われるようなことじゃないわ」

「いいんだ…それじゃあそろそろ作戦の時刻だね。いこうか」

「ええ」

互いに立ち上がり近くに座らせてある。それぞれのエヴァンゲリオンのプラグへ移動する。
そしてプラグに入る前に最後に声をかける。

「綾波、きっと勝とうね」

「ええ、きっと勝つわ」

彼女となら、やれるかもしれない。そう思えた。
 


―作戦開始時刻00:00―初号機エントリープラグ内

 
 

『…間に合ったわね。現時刻より作戦を開始します。なお、本作戦は私が指揮をとれなくなった場合、赤木リツコ博士が代理で指揮をとります。シンジ君、レイ覚えておいてね』

「はい」『了解』

『それじゃ、シンジ君。日本中の電気を貴方に預けるわ』

《第一次接続開始》
《第一区から第八百三区まで送電開始》

背後の大量の機械群がと音を発し始めた。

『ヤシマ作戦、スタート!』

ミサトさんの号令がかかる。

《電圧上昇中、加圧域へ》
《全冷却システム出力最大へ》
《陽電子流入順調》
《第二次接続》
《全加速器運転開始》
《強制収束機作動》
《全電力、二子山造設変電所へ》
《第三次接続、問題なし》

『最終安全装置、解除!』

『撃鉄起こせ!』

ポジトロンライフルの撃鉄を引き、発射態勢が整う。

《第7次の最終接続まで完了しました》
《全エネルギーポジトロンライフルへ》

『残存している全施設、部隊の一斉攻撃を開始!』

『了解、兵装ビル、自走砲、国連軍戦車部隊による攻撃を開始します!』


《発射まで、あと10秒。9、8、7…》

目標の周りに僅かな閃光が走る。僕にはその数は少なく、とても頼りなげに見える。

『目標、形状を変化!周囲に砲撃を開始…兵装ビル、自走砲、国連軍戦車部隊を攻撃中』

使徒から光線がその火線にそって照射され…使徒へ向かって放たれた周辺からの攻撃は一瞬で沈黙した。

《6、5、4》

『攻撃部隊、攻撃施設は全滅!』

周辺からの攻撃は全て沈黙というオペレーターからの状況説明がされた。

《3、2、1、0》

『目標に高エネルギー反応!』

『く、シンジ君、撃って!』

ミサトさんの合図に合わせてトリガーを引くとライフルの先から光の束が発射される。
光の束が目標に向かって直進するが…

『目標も砲撃を開始!』

少し遅れて敵からも光線が発射された。

「はずれた!?」

先手を取れたと思った僕が放った攻撃と敵の砲撃は互いに干渉し合い、こちらの攻撃も使徒の攻撃もそれてしまった。
第一射は失敗。

『気にしないでシンジ君、このくらい予想通りよ。それより第二射を当てることを考えなさい』

ミサトさんが僕を励ますように声をかける。そうだ、第二射さえ当てれば…

『第二射、再充填まであと20秒!』

『目標に再び高エネルギー反応です!』

『まずいわ、シンジ君。場所を変えて時間を稼いで!』

ミサトさんの指示に従い、繋がっている電源車をケーブルごと引っ張り。移動を開始する。
しかし、その甲斐なく、使徒の光線は僕にむかって確実に放たれた。

『目標、エヴァ初号機に対し加粒子砲で砲撃を開始!』

急いで場所を変えるが使徒はもはやこちらを認識しているらしい、自分目がけて放たれた。
もうだめなのか…そう思ったところで

「貴方は私が守る」

零号機がその射線を盾を持って遮る。

「綾波!」

「碇君、私たちは必ず勝たねばならないわ、今は狙撃をすることに集中して」

出撃前に勝とうと約束した時の綾波を思い出す。
僕は綾波の言うとおり狙撃のスコープに集中する。

まだか…ライフルの照準がなかなか合わないことにもどかしさを感じる。
早く、早く、早く…

『まだなの!?』

『あと10秒です。カウント開始!』

《9、8、7》

なかなか再装填が終わらない。その間にも目の前の零号機の盾はみるみるうちに溶けていく。

「くそ!まだなのか!」

《6、5、4》

ついに零号機の盾が無くなる。しかし綾波は零号機そのものを初号機の盾としてまだ立ち続けていた。

《3、2、1》

カーソルが合い、ピーという電子音が聞こえる

《0》

『シンジ君、撃って!』

と同時に、ミサトさんからの号令がかかる。
僕は待ち望んだその号令に、瞬間も遅れずにトリガーを引いた。

僕が放った光線は、敵が放っていた光線を押し返して敵のATフィールドを貫き、貫通した
すると使徒は貫かれた部分を中心に変形し、人間の悲鳴のような声をあげ、赤い血のようなものをまきちらした。
勝ったのかな?

『も、目標、いまだ健在です!」

まだ終わっていなかった。もうだめなのかもしれない。
…綾波、守ってもらったのに。ごめん」

『第三射、充填急げ!』

もはや初号機を守る盾はない…僕を守ってくれた綾波は、目の前の零号機は地面に倒れているし。
ポジトロンライフルによる第三射による狙撃なんてありえるのだろうか? その前にやられてしまう。

『シンジ君、私が第三射のチャンスを作るわ、だから何があっても、貴方はアレを打ち抜いて、勝ちなさい。いいわね?』

ミサトさんが強い口調でチャンスを作ると宣言した。でも盾もなく一体どうやって。

「そんな方法があるって言うんですか!?」

『…私を信じて、貴方は勝てるわ』

言外にもう勝てないのではないか?僕に対し、サブモニターに写るミサトさんの顔は自信に満ちているようだった。
今度は静かに僕を安心あせるようにミサトさんは信じてと言った。

「分かりました…」

『目標が形状を変化させました!』

使徒がこちらにはなびらのような形を見せるように変形する。

『リツコ!』

『分かってるわ! シンジ君、一時的に私が作戦指揮を担当します。以後は私の号令に従って!』

『充填完了まで、後10秒です!』

『目標に高エネルギー反応!三射目、来ます!』


 
 

続く◆――>



[17850] 第八話 『決着、第三新東京市』【新劇注意】
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:abd67249
Date: 2010/06/03 17:57
水際迎撃戦撤退後―第一発令所

目標はあの後、なにごともなかったかのごとく本部直上まで進行。
ネルフには成すすべがなく、目標は自身の一部を変化、地下を掘り進めている最中だ。

…幸いなことに、本部到達までは余裕があり、その間にかの目標対する作戦がたてられるが。
その猶予は人類に対して与えられた時間としては少なかったと言わざるを得ないわ。

これでは、死ぬ前に懺悔の時間を与えられたようなものね…

「現状、一番高い勝率を誇るのはポジトロンライフルによる超長距離からATフィールドごと使徒を打ち破る作戦です」

「そのもっとも高い勝率というのが…コレかね?」

副司令が厳しい顔で私に言葉を返す。それも仕方がない。

「確かに、現状で0.8%。人類の存亡をかけた決戦に、この確率はないでしょう、しかしこれが現状で一番高い可能性なのです」

人類の存亡をかけた決戦の勝率が1%にも満たない。まったくろくでもない事態ね。
副司令が苦い顔をする。…ま、当然でしょうね。

「…しかし、お許しがあれば一手、敵から奪うことが可能な秘策があります」

「秘策?近接戦闘はできず、ここには二機のエヴァしか存在しない。他に手があるというのかね?」

「諸刃の刃となる策です。我々が高いリスクを払えば可能になります」

「葛城君、人類存亡の危機に際して遠慮は無用だ。概要を説明したまえ」

いよいよの危機とあって司令も覚悟を決めたようだった。鋭い眼光を私に向けてくる。

「それでは説明致します。…本作戦はN2爆弾を使徒の直下に使用する作戦です」

「待ちたまえ、上陸時に目標に対して使用した時、効果は認められなかったはずだが」

「その通りですが、今回の使用はN2のエネルギー放出の方向を限定させます。これなら使徒にダメージを与えられると予想されます」

前回の使用はエネルギーの向かう方向が拡散していたが今回は違う、収束させて向かわせるのだ。
これなら恐らく、撃破とはいかずとも時間は稼げるはず。

「しかし、どのようにして収束させるというのだね?」

「使徒直下の区画の地下道を完全封鎖、そして目標の区画の装甲の上部を爆破してからN2を起動します」

「確かに、その方法なら上部へ大半のエネルギーが放出されるが…都市の被害はどうなると思っておるのだね」

「冬月副司令の懸念は最もです。しかし、人類の敗北と施設修復を天秤にかけた場合にこれは妥当な判断かと」

「…葛城一尉、現在、N2爆弾はもう国内には存在しない。上陸時のあれが最後のN2だ」

碇司令はそう言うが、本当のところは司令にも、冬月副司令にも私のやろうとすることが分かっているのだろう。

「…ええ、ですから、本部自爆用のN2をお借りしたいのです」

サード・インパクトを阻止するための最終手段でもあるその武器を、使徒撃滅のための囮に使用するということを。

「…許可しよう」

「本当にいいのか? 碇」

「構わん、ここで止められねば他国の支部が出てこようと使徒は止められん。ならば本部の壊滅も人類の滅亡と同義だ」

「ありがとうございます。司令、それでは本部職員の避難させてください。それと工作部隊の都合を」

碇司令に緊急避難の対象者、そして必要な兵器、作戦に必要な人員を書いた書類を手渡す。

「よかろう、避難の指揮は…冬月、頼む」

「…分かった、しかたあるまい」

必要とはいえ、この作戦による被害の大きさに頭を悩まさずには居られないのだろう。副司令はやれやれといった様子である。

「では、私は戦自研へポジトロンライフルの徴発に行ってまいりますので、人員確保は私が戻るまでにお願いいたします」





 
 



話 『決着、第三新東京市』 


 

『シンジ君、必ず勝ちなさい』

ミサトさんはそう言った瞬間。今にも光線を放とうとする使徒の下にある区画が小規模な爆発を起こしたと思うと。
次の瞬間、そこから火柱が大きな立ち上がり、使徒を包んだ。使徒はそのエネルギーに翻弄され、攻撃を停止した。

《9、8、7》

「ミサトさん!?」

それと同時に本部との通信が途絶えた。
あれだけの爆発、都市も、ジオフロントのネルフ本部も、ただでは済まないはずだ。

《6,5,4》

『シンジ君、今は狙撃に集中して。ミサトの作ったチャンスを無駄する気?』

《3、2、1》

リツコさんからの通信が入る。そうだ、僕は宣言通りに狙撃のチャンスを作ったミサトさんに応えなきゃならない!

《0》

『今よ!』

ポジトロンライフルのカーソルが合い。発射の号令がリツコさんから下された。
僕は、その指示に従い、引き金を引く。

下からの突然の衝撃に翻弄されていた目標に対して、ライフルの先から放たれた光にそのまま貫かれ…
大量の血のような液体をまき散らし、その液体は使徒の直下にできた大きな穴に流れ込んでいった。

『パターン青の消滅を確認、我々の勝利です!』

倒したらしい使徒を見つめていると通信が入った。今度こそ倒したらしい。
使徒は浮遊する力も消滅したのか、その直下に出来た穴へと落ちて行った。
僕は、なんとか勝てたことに安心した。そして、そのチャンスを作った綾波とミサトさんに感謝した。




 

二子山仮設基地―戦闘指揮車両内
 
 
 



「本部は健在なの?」

「N2の影響で今しばらく通信はできませんが、健在です。回復したカメラが映像をとらえています」

本部から離れた場所に設置してあるカメラから真っ赤に染まり、使徒の残骸が落下しているネルフ本部が見える
建物自体は健在だから、司令、副司令とミサトは無事ね。良かった…

「シンジ君、本部の建物は無事だから、司令やミサトの事は安心して頂戴。それですぐにレイのプラグの強制排出をお願い、早く彼女を助けて頂戴」

『はい! すぐに取り掛かります!』

「救護班、パイロット保護にすぐ向かって頂戴!私もすぐに向かうわ」

待機させていた救護班にパイロット保護の指示を出す。レイが無事だと良いけど…

「本部との連絡はまだ回復しないの?」

「はい、N2の影響が無くなりました。本部との通信、回復します」

モニターにミサトとその後ろに司令、副司令の並ぶ姿が映し出された。なんとか無事だったようね。

「あの子たちはやってくれたわよ、ミサト。そちらも無事でなによりだわ」

『無事…とも言いがたいわ、本部の上に使徒の残骸が落下して、その本部周辺は使徒の血の海よ』

「それはまた…撤去が大変そうね」

『それ以上に、天井都市の再建のほうが大変よ。地下の通路や輸送網がどれだけ被害受けたかなんて想像もつかないわ』

「頭が痛いわね…」

装甲の再構築から輸送網などの復旧、ここまでとなるとあの人の首は大丈夫なのかしら…いままでの状況でも十分に危なかったと思うけど。

『まあ、人的被害がないだけマシよ』

「寧ろもうそれしか本部にはないんじゃなくって?」

『…………冗談になってないわそれ』

「…そうね、それじゃミサト、私はパイロットのところに行くわ。貴方が無事だということ、早くシンジ君に伝えないといけないし」

『頼むわ』
 
迅速にミサトとの通信を終えた私はエヴァのある。レイとシンジ君、二人のパイロットがいる場所へと急いだ。 


 
 

初号機エントリープラグ内
 
 
 


「シンジ君、本部の建物は無事だから、司令やミサトの事は安心して頂戴。それですぐにレイのプラグの強制排出をお願い、早く彼女を助けて頂戴」

『はい! すぐに取り掛かります!』

そうだ、早く綾波を助けなきゃ!

僕は急いで零号機のエントリープラグを初号機を使って強制排除。そっと地面に置き。
その後自身のエントリープラグも排出、急いで初号機から降り、綾波のエントリープラグに駆けよる。

ハッチを開けようとするがかなりの熱を持っている。熱さに一瞬手を離す、が早く開けないと中に居る綾波が危険だ。
僕を守って、綾波なこんな目にあったんだ。少し熱いくらいで…!

「ぐうぅぅぅ…」

熱いと感じる手の感覚を無視して無理やり開閉のハッチを回す。少し回すと一気に バコン! となにか外れる音がしてハッチが外れる。

「綾波!」

外れたハッチから中を覗くと、そこにはぐったりと座席に寄りかかっているしている綾波が居た。
僕は彼女の肩を持って揺する。

「…碇君?」

綾波は気付いたようだ、無事みたい…本当に良かった。

「良かった…無事で」

「碇君、使徒は…倒せたのね?」

「うん、綾波が守ってくれたおかげだよ」

「そう、よかった…」

「綾波が僕を守ってくれたから…使徒を倒して、勝てたんだ」

彼女は守りたい人が居て、その人のために戦いたいと言い。実際、その身を犠牲にすることも厭わず戦った。
盾が消失してなお、彼女は零号機を盾にして僕のことを守り、それで僕は…ネルフは使徒に勝つことができた。

綾波はすごいや

同い年の女の子が守りたい人のために戦おうと覚悟を決めていた。それなのに僕は少しの失敗くらいで逃げ出そうとしていた。
僕は綾波の戦いを見て、そのことが今更ながら恥ずかしくなった。

「その、綾波。ごめん」

「…いきなり、何を謝っているの?」

唐突に謝罪をした僕に、綾波は意味が良く理解できなかったみたいだ。不思議そうにしている。
変な奴とでも思われちゃったかな? …ま、いいや。

「いや、何でもないよ。それよりここからでよう。立てる?」

僕が綾波に手を差し出すと、彼女は僕の手を取った。
僕は彼女の腕を自分の肩に回し、ふらつく彼女を支えながらプラグの外に出た。

月の明かりが隣の綾波の顔を照らす。彼女は相変わらずの無表情だが、どことなくやり遂げたというか…そんな感じに見える。
僕は彼女を支えながら、仮設基地からエヴァが狙撃位置を変えるために移動した際にできた道沿いに歩き始めた。


 

「ねえ、綾波。いまさらだけどさ」

「何?碇君」

綾波に肩を貸し、仮設基地の方向へ歩いている途中に、僕は彼女に話しかけた。

「僕、エヴァのパイロットとして戦う理由を見つけたよ」

「そう…」

「それで頼みがあるんだ。聞いてもらってもいいかな?」

綾波は黙って頷いた。

僕の戦う理由、それは僕を守ってくれた綾波に借りを返すこと。
…僕だって男だ。同い年の女の子に守られてばっかりでいいはずがない。
彼女と一緒に戦って、今度は僕が彼女を守って借りを返すんだ。

「僕を綾波を守るために戦わせてほしい。それを僕のエヴァに乗る理由にする」

肩を貸している綾波が驚いた顔で僕の方を向いた。…どうしたんだろう? そんなに変な理由だったかな? 
綾波に否定されたらどうしようもないんだけど。

「あれ、何かおかしいかな?」

驚いている様子の綾波に問いかける。

「…碇君がいいなら」
 
様子がおかしい綾波はそう答えてくれた。否定されなかったので、心底ほっとした。

「良かった…」

その後、しばらく無言で歩いていくと。



「レイ、シンジ君!」
 
そう遠くないと思わる距離、前方に広がる森からリツコさんの声が聞こえた。
そして遠くからは綾波を搬送するためだろうか?ヘリがこちらに向かっている音がする。

「リツコさん! こっちです!」

リツコさんが懐中電灯の光をこちらに向けて駆けてくる。

「レイ、無事で良かった…」

「赤木博士も…」
 
僕と綾波の前に立ったリツコさんは綾波が歩いている姿を見て安心した様子だ。

「シンジ君、レイを助けてくれて、ありがとう」

「いえ、お礼なんてとんでもないです。僕こそ綾波に助けられたんです。僕は綾波に感謝しています」

なぜか、肩を貸している綾波が顔を少し赤くした。

「あら、なんかさっきの通信の時と雰囲気が変わったわね。シンジ君、何かあったの? それにレイもどうしたの?」

「碇君、肩、もういいわ」

僕の寄りかかっていた綾波が離れて、山頂からエヴァが移動する際に倒したと思われる木の幹に座る。
 
そして綾波が僕の方を一瞬見て、リツコさんに声をかける。

「…赤木博士、少しこちらに来てください」

リツコさんを呼んで綾波がなにかボソボソと話している。

「ふーん、そうなの…」

なんだろう…リツコさんがこちらにニヤニヤした目線を向けながら綾波と話している
時折『それで?その時なんて言ったの?』とか『それで…どう答えたの?』とか聞こえてくる。一体何なんだろう?

そして、そのまま二人で僕に聞こえないようにコソコソとしたやり取りが終わったと思ったら。リツコさんが話かけてきた。

「…シンジ君、やるわね」

「へ?」

「『君を守るために戦いたい』だなんて今時なかなか無い口説き文句だわ…見直したわよシンジ君」

えええええええ!?
…って確かに冷静に考えると結構すごい事言ってたかも…いや、言ってた…
は、恥ずかしい…

「えぇ!? いや、そういう意味じゃあないですよ!?」

「あら、照れなくてもいいのよ」

「ただ単に、助けられたままじゃ納得いかないからですよ!」

「まあ、がんばりなさい」

「だ、だからっ!」

何を言ってもリツコさんはニヤニヤしたままからかってくるばかり。

「しかし、面白い事になったわね。ミサトにも教えておこうかしら」

「ちょ、ちょっとリツコさん! やめてくださいよ!」

必死に反論するがリツコさんは取り合ってくれない。

「綾波、君からも何か言ってやってよ!」

僕はこの状況を打開すべく、綾波に助けを求めた。
そして僕はそこで、いままで父さんにしか向けられていなかった彼女の表情を見た。 

「フフ…。碇君、可笑しい」

綾波が僕とリツコさんのやり取りを見て笑っていた。
僕をからかっていたリツコさんも、綾波の方を向いて驚いている。

「そうね。全く、シンジ君たら必死になっちゃって」

そういうとリツコさんも一緒に笑い始めた。酷いなあ…

でも、月に照らされた綾波が笑っている―僕が普段見ていた、無表情な彼女を思い出して。

 
それに比べて笑っている綾波は、すごく綺麗だな。と思った。





[17850] 第九話 『大人の戦い』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:19c6f877
Date: 2010/05/08 22:27


ポジトロンライフルの徴収を戦自で済ませた私は急いで本部に向かい。副司令から本部職員の退避完了の報告を聞いていた。

「それでは葛城君、保安部以外の本部職員の避難は終わった。あとはフォースチルドレンの護送を頼む」

護送をするのは現在、国連軍の工作部隊がジオフロント内で活動しており。かつ、ネルフ職員の退避が始まっている為だ。
使徒戦の最中だからないとは思うけども、万が一国連内部の反ネルフ派の息の掛かった人間が派遣されているようならば、容易にチルドレンの誘拐などは可能な状況である。
一応、私と保安部で直接護衛して送り届けなければならない。

「了解しました。それでは護送に行ってまいります」

というわけで、私は彼女を護送すべく病室に行ったのだが…彼女は残りたいと主張。
…真剣に頼む彼女。護衛の困難さなども考えると、やはり彼女はまず安全な本部地下にでも閉じ込めた方が良いだろうと考え直す。
工作を完了させるための指揮の時間も足りるかわからないことだし、彼女も連れて行くことにした。

「あ~、ミサトさんついていくのはいいですけど着替えさせてくれません? 多分パイロットの更衣室にそのままあるんで」

病室に着替えがなかったらしい彼女は、シーツを纏っただけの姿で私の後を付いて来ていた。
ほぼ無人の本部内とはいえ、年頃の少女がその格好は気になるわよね…

「あ、ごめんなさい、ヒトミちゃん。今日着てきた服は? 制服?」

「そうですね、制服です」

「う~ん…制服はだめね。まあ、こっちで貸すからちょっと更衣室で待ってて」

私は急いで整備班の更衣室に行き、ツナギと『安全✚第一』と書かれたヘルメット拝借。
次にパイロットの更衣室に向かいヒトミちゃんに手渡す。

「んじゃ、悪いけどこれに着替えて頂戴。いろいろ危ないからね」

「はい」

「それじゃあ、私は司令と副司令に話があるから発令所に行っているわ。着替え終わったらすぐ来て頂戴ね」

「分かりました、すぐいきます」

さあ、勝率を0.8%からどこまで上げられるか。これからが踏ん張りどころよ!





ネルフ本部―第一発令所 作戦開始より6時間前


普段発令所を固めるオペレーター達は、現在、双子山仮設基地に移動しており。現在、発令所には私一人だ。

まずはポジトロンライフル設営の状況を聞くため、双子山基地の設営に向かわせた日向君を呼び出す。

「もしもし、日向君? ポジトロンライフルと攻撃部隊の準備はどう?」

『先程到着したポジトロンライフルの改造は間に合いそうです。しかし、狙撃作戦時の囮攻撃にはマギの予測通り問題があります。全く戦力が足りません」

修復に予算を取られて攻撃施設に金が回せなかったことが仇となったわね。
確かにお金は大事といっても人類が滅んじゃしょうがないわよ…言っても仕方がないし、NERVばかりに金回すわけにもいかないのはそうだけども。

「まったく、こんな事態になるなら迎撃システムにもっと予算を回して欲しかったわ…」

『そうはいっても、EVA関連の施設から優先してやらないと肝心のEVAが動けなくなりますからねぇ』

「ホント、人類存亡の危機だってのにお金が無くて困った困ったとはなんと言ってよいやら…」

苦笑する日向君。お金、お金、お金。なにをするにもお金。ホント、やんなっちゃうわね。

「ま、言ってもしょうがないんだけどねえ…とにかく、戦力不足は例の作戦で補うわ。そのために迎撃都市は壊滅することになるけどね」

『…作戦によって天井都市が完全に崩落する可能性もあります。やはり無茶ではないですか?』

「大丈夫よ、そのために国連軍をジオフロント内に入れてまで補強工事するのだから」

『しかし…これから使徒の直下に行くのでしょう?危険すぎます』

「恐らく、光線ではそう簡単にはあの装甲板は抜けないわ。実際わざわざ掘り進めてるのだし」

『それはそうですが…』

「私自身も使徒と戦いたいの。それに、私は子供達だけに、あの攻撃の危険に晒して指揮を取るだけなんて、そんなのは嫌よ」

『そう…ですね…それでは基地設営の指揮に戻ります」

「日向君。そっちの指揮もだけどシンジ君達の事も頼むわよ」

『ええ、任せてください』

日向君の力強い言葉を最後に聞き、仮設基地との通信を終了。
うーん、予想の範囲ではあるけど、やはり国連軍と迎撃システムによる囮攻撃は上手くいきそうにないわね…


とにかく、次は零号機再起動実験の状況を聞かないとね。
端末を操作して…えーっとこれでよかったかしら?

「もしもし、リツコ?」

『あ、伊吹です』

「マヤちゃんでもいいわ。零号機再起動はどうなってるの?」

『終了しました。再起動実験は成功しています」

「そう、良くやってくれたわね。シンクロ率はどれくらいなの?」

『シンクロ率もヒトミちゃんより高い数値を出しています。十分実戦に耐えるかと』

零号機の方は問題なしか、シンクロ率も高い数値か、こっちは良い感じね。

「分かったわ、ありがと。ところでリツコは何やってるの?」

『レイちゃんのところに行って何か話してるみたいです。呼びますか?』

「いえ、いいわ。…それで、レイの雰囲気というか…様子はどう?」

『レイちゃんですか? 実験前に赤木博士から励まされたというか、少しお話してまして。それから良い感じですよ」

へえ、リツコがねえ。何だかしらないけど、仲が良くなったのはいいことだわ。

やっぱり、シンクロ率も高いことだし正規パイロットたるレイに乗ってもらったほうが良いわね。ヒトミちゃんが元気そうだったからどうしようかと思ったけど。
あーでも、一戦しているうえに一番使徒戦の経験をしているのはヒトミちゃんだったりするわね。どうしようかしら。
いや、だめね。ここ最近訓練に付き合ったけど戦闘技術は大したことないのよね、ヒトミちゃん。回避だけならちょっとはできるけど…

…やっぱ正規パイロットのレイね。

「それじゃあマヤちゃん、赤木博士にはそのままレイに出てもらうってことで伝えてもらえる?」

『はい、分かりました。伝えておきます』

「んじゃ、よろしくね。私は装甲板工事の指揮に向かうから、あとは頼むわよ」

「はい、葛城さんも使徒の直下になんて行くんですから気を付けてください」

「ありがと、マヤちゃん」









話 『大人の戦い』

 


その数十分前

 

「へっくしょい!」

くしゃみと共に目が覚める。目の前にはいつもの病室の天井がある。
…いつも、ね。そういえば使徒戦の度に毎回運ばれているような…

「うー寒い…って裸かい」

布団の下には何も来てないっぽい。多分プラグスーツ脱がせてそのままなんだろう。史実の(?)シンジ君と同じ状況か
きょろきょろと病室を見まわす。服がないぞ…困った。

…そして周りに誰も居ない。一体状況はどうなってんだ?
確か、チートいラミエルさんが出てきてやられたんだよな…

そうだ! とにかく状況を確かめなきゃ!

「とりあえず人を呼ぶか」

病室の端末を手に取る。お医者さんでも看護師さんでもなんでもいい、とにかく人を呼ぶことにした。

受話器を手に取る…トゥルルルル…と呼び出し音がする。
暫く待つが、出る気配はない、世界で数人しか居ないエヴァに乗れる数少ない人材だってのに一体どうしたことか? 
ま、そう考えたところで相手が出るわけもない。ともかく待つことにした。
 




結局そのまま受話器を耳に当てておくこと3分経過…待てども待てども誰も出ない。

おいおい、戦闘でやられた人を収容する施設としてどうなんですか。
ともかく、出ないとなれば多分人自体が居ないんじゃないかと思われる。

「全く、一体どうなってるんだ?」

状況がつかめない、全くもって訳がわからない。しかし、こうして寝ていてもしょうがない。
とりあえず、ベッドに敷いてあるシーツでも体に巻いて。とにかく病室から出るとしよう。

そう決心して。シーツを適当にぐるぐると巻いてベッドから降り、廊下で出ようとドアの方へ向かうと。

突然、ドアが開いた。

「おわ!?」

そこには厳しい表情のミサトさんと黒服を着た強面のオジサン達がズラリとならんでいた。

「な、な、なんですか!?」

「あら、ヒトミちゃん起きてたの?」

「『あら』じゃないですよ。何なんですかこの状況、端末で呼んでも医者も看護士も来ませんよ?」

「ああ、ごめんなさいね。今、司令と副司令、そして私と零号機再起動実験に必要なリツコと技術部の人員とここにいる保安部の数名を除く全職員は本部から退避してるのよ」

本部職員退避!? 変形ラミエルさんに成すすべないから退却ですか?

「えぇ!? 今のその…じょ、状況はどうなっているんですか!?」

「現在、使徒は本部直上より本部に対して装甲板を掘り進んで侵攻中よ」

「ネルフの対応は…作戦はどうなっているんです?」

「00:00に目標に対する超長距離射撃によって殲滅する作戦の準備中です」

なんだ、まだヤシマ作戦の準備中か…良かった。

「それで、最後に貴方を退避させるために私がここにきたのよ」

なるほど最後ね、それで誰も呼び出しに応じなかったのか。

「はあ、でもなんで本部の全職員が退避なんです?」

「正確にはジオフロントから退避なんだけどね。N2を使徒の直下で使うから、天井都市の崩落の可能性があるの」

「本部直上でN2って本気ですか!? 一体どういう理由何です!?」

「現状の作戦だけでは勝率0.8%。その確率を少しでも上げるために目標の直下でN2を爆発させて狙撃のチャンスを作る為よ」

すごく…成功率が下がっています。なんという理不尽。
ああ、そうか迎撃施設の攻撃施設が予算不足で足りないから囮の攻撃ができないせいなんですね。
あれ? もしかして本来なら存在しない自分が戦った結果がこの事態を招いた? うわ、どうしよう。
とにかく生き残りたいとしか願っていないのにこの仕打ち。一体どういった事なのでしょう…

「…次に使徒が来た時、N2で迎撃都市が壊滅した状態でどうにかなるんですか?」

「そんなことは副司令にとっくに指摘されてるわ。確かに、この次の使徒との戦いは厳しくなると思うわ。でもここで人類が敗北して、次の使徒と戦えないよりマシよ」

確かにそりゃあそうだけどさぁ…それにしたって随分思い切ったことをするなあ。
ま、今更自分が異議を唱えても対案があるわけでもないし決定は覆らないだろうからどうしようもないか。

「まあ、そうですね。…それで私はどうすれば? 零号機で出ます?」

「いえ、零号機はもうレイで再起動実験をしているわ、貴方は職員と一緒に退避して」

そうは言ってもこの事態、もしかしたら自分の存在がもたらした結果かもしれない。逃げるというのはしにくい。
というか、ラミエルさんがインパクト起こしたらちょっと離れるくらいじゃ助からないだろう。戦うしかないでしょ。

「シンジ君とレイ姉さんに戦わせておいて何もしないではないでしょう? 私も何か手伝えることがあれば手伝いますよ。葛城一尉」

「手伝うと言ってもね…私はこれからN2のエネルギーが逃げないように地下輸送網の封鎖工事の指揮にいくのよ。貴方が手伝えることはないわ。だから避難して頂戴」

ミサトさんが鋭い眼をこちらに向けてくる。
まあ常識的に考えて、14歳相当の小娘ができそうなことなんて特にないだろうし。避難させるのが当たり前だし…ダメかな?


「そうは言ってもここで負けたらサードインパクトが起こるでしょう? 逃げても助かる思えません。そんな事になるならネルフとは一蓮托生、土木作業だろうとやらせて頂きますよ」

というか、ネルフ壊滅後。自分の身元保証をしてくれる人がいなくなるし。
それに、一応これまでただ働きさせられたけど、半年分個人の金から給料だしてくれた司令、戦闘訓練に付き合ってもらったミサトさんも残るというのだ。
世話になった人に任せて逃げても良いやと思うほど、私は薄情な人間であるつもりはない。

「お願いします」

目を見て訴えかける。やはりミサトさんは無理にでも避難させるつもりか?
厳しい視線をこちらに向け、沈黙している。

「…分かったわ。ここに居ていいわ」

ここで引きたくないという私の思いを汲んでくれたか。よかった。

「ありがとうございます。ミサトさん」

仕方がないといった表情のミサトさん。迷惑かけてごめんなさい。

「貴方達、ここはもういいわ、早く避難して頂戴」 

ミサトさんは後ろを向いて黒服達に指示を出した。
黒服のボディーガードさんたちはそれに従ってどこかへ去って行った。

「それじゃヒトミちゃん、私についてらっしゃい。今ジオフロント内には誰の息が掛かってるかしれない軍人さん達がウロウロしてるから、本部から出たら離れないでね」

…え? 国連軍がジオフロント内をウロウロしてんの? 機密とか大丈夫なのか? …使徒とは違う意味で危なそうだ。


その後ミサトさんに連れられて発令所に移動していると、途中でシーツを纏っただけの姿について突っ込まれた。
というかこのままどっか行くとかダメでしょ色々と。すっかり忘れていた。


どうやら工作部隊の指揮にいくらしいミサトさん、要護衛対象の私もお供するということで整備班のものだろう、ツナギとヘルメットを渡されて着替える。


ともかく、作戦の準備ということで早くしないとまずい。ミサトさんに言われた通りに素早く着替える。

「なんだろう、何というか…」

目の前の鏡には青い髪、赤い瞳、白い肌という容姿の美少女が映っているはずのだが。
…ダボダボで少し汚れているツナギを身につけ、と安全第一と書かれた頭の大きさに対して大きすぎるヘルメットが何かを台無しにしていた。

「…いいや、とにかく急ごう」

発令所へ、ミサトさんのところへ急ぐ。できることがあれば全力でやらないと…EVAで出れなくても。




 
「……ありがとね、マヤちゃん」

走って発令所に到着するとミサトさんが何かの通信を丁度終えたところみたいだった。

「ミサトさ~ん、着替えてきましたよ」

受話器みたいなものを置いたミサトさんに声をかける。

「来たわね。それじゃ、行きましょうか」


 

天井都市地下―使徒直下区画
 

その後、ジオフロントに集結していた後発の国連軍の工作部隊だろうか?
兵隊さんが乗っている貯水タンクのようなものがついた車両が何台もあり。それの一つに同乗に使徒直下の区画を通る大きな通路に移動した。

現在は封鎖作戦を実施中らしい、そこには先発していた司令、副司令がヘルメットをかぶって工事の指揮をしていた。
話によれば細かい区画やN2の設置は先に司令と副司令の指揮の元で完了させる予定だったらしい。


リニアレーンかな? とても大きな穴を封鎖作業中だ。兵隊さん達が穴掘って杭を打ち込み、そこに装甲板を設置していっている

「来たか、葛城君」

「お待たせいたしました。現在の進捗状況はどうなっていますか?」

司令の手には紙があった、恐らくだが地下交通網を書いた地図だろうか? それを広げて見せた。
現在位置は…使徒から
いくらかの通路らしき細かい線があり、その線のうちいくらかに×印が書かれていた。

「この地図の通りだ。既に細かい通路にはそれぞれ少人数を派遣して既に作業を開始させている」

司令が地図内の×印をつけている個所を指して言う

「作業の進捗状況はどこまで?」

「N2の設置と直下区画の装甲板を爆破する爆薬の設置は完了している、残りはこのリニアレーンの封鎖作業のみだ。それでは葛城一尉、後は頼む」

「了解しました。代理の指揮を取っていただき感謝します」

「あれ? 司令達はどこへ行くんです?」

「私たちは本部に戻るよ。いつまでも空にしているわけにはいかんからな」 

副司令が答えてくれた。どうやら本部に戻るらしいけど。
ああ、今本部はほぼ空だったよな。…それってかなりまずいんじゃ?

「あのー…司令、今本部は大丈夫なんですか? スパイとか」

「…問題ない」

なぜかニヤリを笑ってサングラスを指で持ち上げる司令、なぜか得意げな顔をしているように見える。
それで問題ないわけあるか! 国連軍に混じってスパイとか入ったらどうするんだ!

本部の情報駄々漏れするとかしたら、色々真っ黒な司令的にもやばいんじゃないか? 今の段階で司令の首が飛ぶとかなったらどうなるか想像もつかないぞ。
あーもう、どうしよう。やはり本来に居ない自分がここにいるせいなんだろうなあ。なんとかしないと…

「ヒトミ君、私たちはもう行くよ。本部でやることがあるのでね」

そんな自分ではどうしようもない事を考えているうちに、司令と副司令は行ってしまった。

「行っちゃった…本当に大丈夫なのかなあ…」

二人は数名の護衛を連れて本部に戻っていく。
絶対大丈夫じゃないからね、一番困るのは貴方ですよ。真っ黒な司令さんよ。
 

まあ、自分で出来る手はないからどうしようもないか…とりあえず今は使徒戦だな。
…国連の工兵さん達へ視線を移す。…N2の爆発を直上に集中させるための策ということだがなんだかそうは思えない工事をしている…?

「ミサトさん、工事っていってもあれだけなんですか?」

作業を見てる限り杭みたいなものを打ち込んで装甲板張るだけみたい。N2の爆発に耐えられるとは思えないんだけど…

「違うわ、まだあるわよ。通路上部の装甲を爆破して瓦礫の山に硬化ベークライトかけるのよ」

「…ず、ずいぶん派手な工事ですね。それでも防ぎきれないんじゃ?」

「これを時間ギリギリまで何個も設置するわ」

な、なるほど、強度が足りないから何個も作るのね…大胆にやってくれるな、ミサトさん。

「それでもN2のエネルギーは防ぎきれると思えませんよ…」

…多分防ぎきれないだろうなこれ。まあ全く効果ないことはないだろうけど。
表層の迎撃施設はもちろん、この通路沿いに地下交通網まで被害は及ぶだろうな。
ただでさえ酷い状態の迎撃都市の機能低下はすごいことになるだろうなあ…

「…時間がないの、無いよりマシよ。このくらいが限界だわ」

まあ無いよりはマシ…か、緊急で国連軍から集めた人員で突貫工事なんだからしょうがないか。
ネルフ職員は、ポジトロンライフルの準備と再起動実験に手いっぱいだし。

「とにかく、考えられる限りではこれしかできないわ。急いで何個も設置することね」

そうだな、言ってもしょうがないか。とにかく行動だね。

「よし! じゃあ私も手伝いますか! ミサトさん、何すればいいですか?」

「使徒にやられてさっきまで寝ていたんだからやめなさい。危ないわよ?」

ミサトさんが止めてくる。だが体調が悪いなんてこともないしこのままなにもしないのも嫌だ。

「いーえ、爆薬設置とかはだめでも、物を運ぶくらいはできます、止めても勝手にやります」

あの二人にだけ活躍してもらうのも何か悲しいからね。少しでもいいから作戦に貢献しないとな!

「やれやれ…しょうがないんわね。付き合ってあげるわ」

口では仕方ないというミサトさん。だが、その本人は腕をまくり、やる気十分といった様子だ。

「しょうがないのはどっちですか。指揮官は指揮を取るのが仕事ですよ。前にでないでください、葛城一尉」

「堅いこと言わないの、もうこの通路を塞ぐだけなんだからここでの指揮なんていらないわ。現場に行ったほうが都合が良いわ」

「はあ…そうですか」

「それになんといっても現場が私を求めてるのよ」

「国連軍兵士の彼らがミサトさんの何を求めているんです?」

国連軍の工作部隊が現場でミサトさんに求めるものって何だ? せいぜい通路の構造について知っているとかそんなところだろ?
そんなもの図面でも見せればプロである彼らが勝手にやってくれるはずだ。一体なんだろ?

「私のような美女が現場に居れば士気は大幅アップ! 作業効率が上がるはずよん」

笑顔でこちらに向かってせくしーぽーずをとるミサトさん。真剣に考えたのが馬鹿みたいだ!

「…いえいえ、ミサトさんのその美しさに目を奪われて下がるかもしれませんよ?」

「なるほど、それも一理あるわね。でもだめよ、お姉さんには貴方を護衛する義務があるから貴方から離れられないの」

ああ、そうだった。そういうことか…

「すみません、葛城一尉、私の自己満足でしかない我がままのためにわざわざ」

「いいのよ気にしないで、私も私自身が体を動かして何かやりたいと思っていたのよ。丁度よかったわ。」

まあ、あの二人だけを前線に送って見てるだけは嫌だと思っているのは自分だけじゃないってことか。ミサトさんの方こそ、その思いは強いんだろう。
その気持ちがわかるからこそ、自分の我がままにも付き合ってくれるんだろうな。
 




 

作戦開始直前―ネルフ本部 第一発令所
 

そうしてミサトさんと一緒に国連軍の兵隊さん達の作業にまざって働くこと数時間。最終的に3層まで設置することができた。
国連軍の方は作戦開始の30分ほど前に急いで撤退、わずかに居た残り本部職員も既に避難が完了しているとのことだ。

設置した装甲板の効果だが、ミサトさんの話によればこれなら結構地下通路網、迎撃都市の地盤への被害は相当抑えられるとの計算結果がでたらしいが。

「だめね、迎撃都市が大規模に崩落する可能性はまだあるわ」

どうやらまだ危険が残るらしい。てか迎撃都市丸々崩落って修復できるできないの問題じゃないな。
そうなれば本部移転とかしなきゃまずいレベルだろう…

「ヒトミちゃん、もう作戦開始時刻が近いけど…やっぱり避難しない? 負ければ使徒の一部が本部に突入するし、勝っても生き埋めになる可能性が高いわよ」

「負けた場合はインパクト起きたらどこに居てもだめでしょう。それにこうなれば一蓮托生というやつです。ご一緒しますよ」

「ま、そうだけどね」

そんなやり取りをしていると司令と副司令が発令所に入ってきた。
あれ? だいぶ前に戻ったと思ったのに何やってたんだろ?

「司令、副司令。いままで何されていたんですか?」

疑問に思ったので聞いてみると司令はニヤリと笑い。副司令も少し笑みを浮かべた。
ぶ、不気味だ…一体なんなんだ?

「君が『本部を空けて、スパイとかは大丈夫ですか?』と聞いただろう? その予想通り反ネルフからのスパイが紛れ込んでな。それをを捕まえてきたのだよ」

「へ? スパイを捕まえた?」

「碇の奴がな、保安部を伏せておいたんだ。君にも、他の避難した職員達にも再起動実験の人員と少数の護衛以外は避難させたと言っておったが…あれは嘘でな、実際は保安部の大半を本部内での警戒に当たらせていたのだよ」

「おお、それはすごいですね」

なるほど、やるなあ司令。ちょっとその辺の知略というか謀略には今まで怖かったけど今回は感心しちゃったよ。

「…フッ、単に捕まえただけで終わりではないぞ」

なんか尊敬のまなざしで見てたら司令が調子に乗った? 

「おい、碇話していいのか?」

「かまわん、ここには葛城一尉とフォースしか居ないからな」

「まあよいか…それでだな、そのスパイを国連との交渉材料の一つにするのだよ」

「ああ、これで予算不足も少しは解消されるだろう」

うわ、真っ黒だ! やっぱり司令は怖いな! うん、やっぱり逆らわないで正解だったようだな。
ほんと、上に秘密で研究すすめたり、スパイを罠にはめて交渉材料にしたり…腹の中真っ黒だなおい。
人類を救うために戦うはずの特務機関ネルフの司令としてどうなんだ…?

ミサトさんはというと予算不足が多少は解消されると聞いて少し上機嫌なようにも見える。ネルフは怖いところだなあ…


「…さて、ヒトミちゃん、そろそろブリーフィングを開始するわ。貴方は向こうのモニターに映らないところに居て頂戴」

え? 応援するくらいしかできないけどここに居ちゃだめなの?

「なぜです?」

「あの二人にはこの作戦のこと話していないのよ。N2を本部直上で爆発させた時、貴方がここに居るとわかってればレイやシンジ君が動揺するわ」

「ミサトさんが居ることでも同じです。なら作戦内容について話せばいいじゃないですか? そもそも話さないと余計に心配かけると思いますよ」

ここ最近、様子がおかしかったシンジ君とかイジケそうだし。

「…これはあくまでも最後の手段。シンジ君には悪いけど、狙撃の一発一発を必中の思いで撃ってもらうために、この一手についてはあの二人には伏せさせてもらっているわ」

「でも…」

「シンジ君は不審に思うかもしれない。でも、伝えない方が作戦の成功率は上がるわ。これは彼らのためでもあるの」

断固として譲らないという意思を持った目をミサトさんが私に向ける。確かに、彼らが生き残ることを考えたらそれがいいか…

「…分かりました。それならいいです。余計なこと言ってすみません」

「いえ、いいのよ。シンジ君達に知らせた方が良いかもしれないのは事実なんだから」

少し黙って離れた場所の椅子に座って二人のパイロットがEVAで戦う姿。そしてミサトさんの指揮を見守る。

ただ見守ることしかできないのか…その思いはミサトさんが爆破を決行、本部にN2の爆発の衝撃が伝わり通信が途絶。

その後通信が回復、N2爆弾はラミエルの砲撃を停止させて、無事シンジ君の狙撃で撃破。勝利したという一報が入った後でも変わることはない。

これまでの戦い…サキエル戦、シャムシエル戦、そして今回の『第六の使徒』の変化。
自分はその戦いの中で果たせた役割は、都市の迎撃機能にしろ、自分の行動は本来の物語とそう変わらないか悪化させている…?
そして、この世界がなにか違う。使徒が現れた理由は…?
どれだけ考えようと纏まるはずがない。しかし、それでも考えずには居られなかった。



[17850] 第十話 『アスカ、寄港』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:890501b3
Date: 2010/05/11 18:50
西ハワイ沖―国連軍太平洋艦隊

「はあ、今日も暇ねぇ。アンタと会ってからこうして青空を眺めるか海を眺めるしてないわね…」

「そーですね…」

特務輸送艦オセローの甲板、自分の隣では鮮やかな黄色のワンピースを着た少女が椅子にもたれかかって顔を空へ向けて青空を見上げていた。

「あーあ、つまらない。刺激がないと退屈でしょうがないわ、使徒でも来ないかしら」

「ちょっとアスカさん、そんな命がけの暇つぶしはゴメンですよ?」

てか次の使徒は本当どうしよう… 新劇だったりしないよね!?

「いいじゃない、私がいるんだからぱぱっと片付けてやるわよ。あ、でもぱぱっと片付けたら暇つぶしにならないわね」

おいおい、本気じゃないだろうな?
冗談ですまないんだけどねそれ。あーでも次の使徒か…どうすればいいんだろうな。まだハワイの近くを航行中らしいということで日本到着にはまだ掛かる。
たしか日本近海での戦いだったはず。なんといっても唯一の戦力である初号機パイロットのシンジ君が本部から出てくるくらいだから日本に近い場所のはずだろう。
まあ、今は考えてもしょうがないけどね。海の中の敵なんてどうしようもないし…なんといっても原作の状態とは大きく違うし。

使徒の襲来について考えることを放棄した私は隣に居る少女と同じく、椅子にもたれに見ると綺麗な青空が広がっていた
その青空は第三次直上決戦の翌日のあの日を思い出させる。本部前から見上げた空もまた雲のない快晴の空だった…ジオフロント内なのに。





ヤシマ作戦終了後の朝―本部前
 

「…いや、本当にすごいですね。ミサトさん」

「ええ…ここまで来ると、逆に清々しいわね」

ラミエル…いや『第六の使徒』との決戦の翌日、使徒の残骸や血液らしきものが危険かどうかの判断のために、一晩本部で過ごすことになったが、結局問題はなかったらしい。
しかしな…本部の外に出たわけだが…本部の上に巨大な穴が開いており、そこから青空が見える…ここはジオフロントだったよね? 地下だよね?
ともかくこの戦いの後は弐号機の参戦で手数が増えるから少しは状況は良くなるかな…よくなるといいな。
…あ、そういえば一つ聞いておかないといけないことがあったっけな。

「ミサトさん、唐突なんですけど質問いいですか?」

「なに?」

「ドイツに居るっていう弐号機パイロットのセカンドチルドレンの名前教えてくれません?」

なぜか真・新世紀版のラミエルさん、この世界がどっちなのか不明だから確かめないとね。

「本当に唐突ね…別に良いけど。セカンドチルドレンの名字は『惣流・アスカ・ラングレー』よ」

惣流なのか…なにがどうなっているのか推測さえできん。ダメだこりゃ。
結局自分にできることは使徒戦でがんばって戦うことだけだし謎ときなんてしてもしょうがないのかな。
司令と副司令あたりに色々聞けばすこし分かるといいけどなあ…教えてくれるか知らないけどさ。

「…ありがとうございます。でも唐突でもないかもしれないですよ? この状態だと弐号機呼ばないとまずいと思いますよ」

というか次の使徒が来る時には来るんだからもうこっちに向かってるのかな?

「そ、そうね…」

赤黒く染まった本部と本部の上に引っかかる使徒の残骸…もはや迎撃都市といっていいのか疑問な状態だ。
というかなんか血のにおいが酷い早くなんとかしないと悪い菌みたいなものが繁殖したりして大変なことになりそう…

「使徒の迎撃、これからどうするつもりです?」

「そうねえ、指揮すべき兵装ビルどころか支援施設までボロボロだし…私の仕事はもう戦術立案じゃなくてエヴァの専属セコンドになっちゃったわね」

若干凹んでいる様子。まあ本部がノーガードとか本当にやばいよね…

「あっはっは…それ中々洒落になっていない冗談ですね」

「はぁ…それにどれだけの抗議文やらが来るのやら、考えただけでうんざりだわ」

ミサトさんが大きなため息をつく。この被害をもたらした作戦の責任者だ。これから大変だろうなあ。
目線を上に移す、いやー綺麗な空だね。…使徒の迎撃的に大丈夫なのかここはホント。
しばし、彼女と一緒に空を見上げていると後ろから突然声がかかった。

「いやはや、こうして本部から青空を見上げられるとはな」

後ろを振り向くと冬月副司令がこちらの方に歩いてきていた。

「…申し訳ございません」

「ああ、すまない葛城君。そういう意味で言ったのではないよ。あれは最善の手だった。ただ、こうして実際空を見上げるとな…」

「そうですよ、ミサトさん…あれが無ければみんなやられていましたよ」

微妙に嫌みともとれる言葉を言ってしまったことを、冬月副司令は謝罪した。
…それにしても修復とかどれくらいかかるんだろう。

「碇司令も副司令も、予算の確保は大変そうですねえ。ところで副司令はなぜこちらに?」

「ああ、君にアメリカ出張してもらうことになってね。すぐに飛行機で飛んでくれたまえ」

本当、あの時はなにがどうしてそうなったのか全くわからなかった 
 





話 『アスカ、寄港』
 


三日前―アメリカ合衆国のどこかの港で

全くは恐ろしい一週間だった。
司令はアメリカ支部で調整中のエヴァをあの使徒の強さを盛大に宣伝して『補完計画が遂行できません』とゼーレの面々を脅して供出させる約束をさせたとのこと。
さらに、その支部に私を直接送り込んで弐号機を輸送する太平洋艦隊がアメリカに寄るまでに調整をさせる。という恐ろしいことをさせる約束まで取り付けたという。
それに派遣されるのは当然のごとく機体がない自分であった…誘拐、暗殺とかの危険は大丈夫なのか? と司令に聞いてみると『問題ない』の一言。大丈夫なわけあるかい!

そうしてアメリカ支部に強制的に派遣されると…遠くで『碇のクソ野郎め!』『合衆国が作ったものをこんな小娘に…』とか偉い人が英語で喋っていた。
そして実験動物をみるような冷たい目をアメリカの支部の技術者達。旅先でそんな素敵な歓迎がなされた。

…それから一週間、本部から送られたデータを元に、そんな態度を取り続ける支部の偉い人と技術者達に囲まれてアメリカ支部でシンクロ実験を繰り返す。
一応、世界でも数少ないチルドレンということで良い部屋を与えられ、しっかりと食事は与えられるものの、常に暗殺誘拐監禁といった危険を感る毎日で夜もまともに眠れなかった。

それでもなんとか無事で一週間を過ごした後、ついにドイツから太平洋艦隊が参号機輸送のために到着した。ついにアメリカの地からおさらばだ。
背後では英語でコソコソと恐らく本部の悪口を言っているアメリカ支部の職員達がEVAを輸送艦に積むための作業をしていた。
アメリカ支部の高官か何かしらないが、お偉いさんらしきオジサマ方がこちらをジーっと睨んでいる。ものすごく怖い…こちらに来てから一週間ずーっとこれだ。いい加減あきないものか。

しかし、それももう、太平洋艦隊が来た事で終わりを告げた。目の前にタンカーを改造した輸送艦オセローが停泊している。
後はこの船に参号機を積んでアメリカ支部とはおさらばだ!
輸送艦からふたりの人間が降りてくる。私をこの恐ろしい国から連れ出してくれる二人が。

「アンタがフォースチルドレンね?」

目の前に金髪蒼眼の少女が姿が姿を現し、その後ろには無精ひげを生やした護衛役の男が居た…もう安心だ!

「そうです! 貴方がセカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレーさんですね。うぅ…お会いできて本当に嬉しいです!」

目からは涙が溢れてくる…ここには命の危険が一杯だった。その危険から逃れられること目の前の少女と男に感謝した。

「な、なによアンタ、いきなり泣きだして気持ち悪いわね…どうしたってのよ」

「いや、だって…アメリカ支部の人たちが超怖かったんだよ!? 『本部の泥棒野郎め…』とか『俺達のエヴァを…』とか聞こえるように職員同士で話してるんですよ。もう怖くて怖くて…」

本当にあのアメリカ支部の連中といったら…まあ、そりゃあ怒るのも無理ないだろうけどね。自分達の製造したものをいきなり奪われたわけだし…
でも、悪いのはあのヒゲグラサンじゃん! チルドレンにあたるのは違うと思うよ!

「…それは大変だったね。俺はアスカの護衛の加持リョウジだ。まあもう安心してくれ。これから俺は君の護衛もすることになる。よろしくな、綾波ヒトミちゃん」

優しい笑顔を見せる護衛の男、加持さんが手を差し出して来た。

「ええもう、ホント来てくれてありがとうございます。よろしくお願いします!」

彼の手を取り、強く握ってブンブンと上下に振る。いやあ、命の危険が去って本当嬉しい。

「はは…随分怖い思いをしたようだね」

「……」

なんかアスカさん黙ってがこちらを睨んでくる…なんだろ? まぁこちらはいかつい顔のアメリカ支部の高官の方々に睨まれ続けたのだ。14才の女の子に睨まれてても何も怖くないね!
奴らと違って別に彼女には自分を消す権限、権力なんて持っちゃいないし、かわいいもんだ。
ああ、ホント一週間無事に過ごせてよかった。これでもう命の危険に晒されることは…いや、まだ使徒戦があるっけ

「ともかく、アメリカでの実験ご苦労さま。なかなか休めそうな環境じゃなかったようだし疲れてるんじゃないか?」

「疲れましたね…シンクロ調整のスケジュールもかなり詰めてたし。なにより彼らの敵意に精神的に参りましたよ」

「…そうか、それじゃあ部屋でゆっくり休んでくると良い。アスカ、彼女を部屋に案内して休ませてやってくれ」

「はーい、わかりました加持さん」

いい人だなあ加持さんは…急なアメリカ出張させる本部の偉いさんや凄い勢いで睨みつけてくる恐ろしいアメリカ支部連中とは大違いだ。
そういったアスカさんは加持さんの手を握っている腕を掴んできた。

「フォースチルドレン! こっちよ」

「おわっ」

なにやらご機嫌斜めな様子のアスカさんに加持さんの手を取っている腕を引っ張られ、そのまま強い力で引きはがされる。

「ちょっと、痛いって惣流さん」

「…」

無視された。なんなの?

「それじゃ、俺はちょっとアメリカ支部の司令さんに用があるんでな。あとはよろしくな、アスカ」

「は~い、いってらっしゃい。加持さん」

加持さんに手を振って笑顔で見送るアスカさん。可愛らしくて癒されますね。
なんて思っていたら加持さんの姿が見えなくなったと思うと、突然こちらを睨みつけてきた。

「な、なに?」

「ちょっとあんた。何馴れ馴れしく手なんか握ってんのよ」

「…ああ、はいはい」

そうか、加持さんに馴れ馴れしくすんなってことね。別にそんな気はまったくないですけど。

「何が『はいはい』なのよ!」

「…いや、あの…加持さんとか別にどうでもいいし」

「待ちなさい、どうでもいいとは聞き捨てならないわ」

さらに睨まれる。
えー…どう答えればいいの!? まあとりあえずは加持さんを褒めてみようか。

「ごめんごめん、支部での扱いの後に加持さんみたいなかっこよくて頼れる大人な男の人が護衛に付いてくれたからつい、ね」

「ふーん…なかなか見る目があるじゃないの」

こちらを睨んでいる顔が笑顔に変わった。上手くいったようだ。
しかし、日本語で人と話すなんて久しぶりだよ。人間と普通に会話できることが、ただそれだけでこんなに嬉しいなんて今まで思いもしなかった。

「加持さんについてはもういいかな? とにかくチルドレン同士これからよろしくね。惣流さん」

「ま、そういうことならよろしくしてあげるわ」

良かった。優秀なアスカさんと一緒に戦えるなら使徒戦も楽になりそうだ。頼りにしてますよ? 戦死の可能性はグッと下がるだろうなめでたいなあ…
そう思うと涙が溢れて止まらないくなってしまった。アスカさんは心配そうというか怪訝そうというか、微妙な変な顔をしてこちらを見ている。

「いきなり泣き出した…やっぱ変なやつねアンタ、疲れてんじゃないの? 部屋に案内してあげるからそこで休みなさい。ほらいくわよ」

アスカさんから優しい言葉をかけられた。もっと刺々しい性格かなと思っていたけどそうでもないのかな?
とにかく案内するからと移動を促されたので。私はそれに付いて二人で乗船するために階段を昇り始める。

「そういやアンタ、全ての使徒と交戦したって聞いてるけど本当?」

「うん、一応そうなるね」

「うーん…とてもそうは見えないわね」

失礼なことを言ってくれますね、まあどの戦いもたいして役に立ってないけどさ。

「まあ三体の使徒全部と交戦したとはいえ、基本的にやられてばっかりでしたからね」

「情けないわねえ…」

「私はあくまで予備だからしょうがないじゃん、零号機はファーストチルドレンのレイさんに合わせて調整されてたんだから」

「言い訳するなんて見苦しいわよ」

むぐ、なにも言い返せない。だが言われっ放しも癪だ。

「…惣流さんは実戦経験ないくせに」

そう言うとアスカさんは昇っている途中の階段上で立ち止まり、手を腰にあ自分の方をバッと振り向き宣言した。

「フフン! 私が参戦からにはアンタがやられる暇もないくらいぱぱっと倒して見せるわよ。見てなさい」

おお…すごい頼りになりそう。なんかもう言われてムカっとくるというよりカッコイイぜ、アスカさん。





というわけで現在に至る。苦難の一週間、暇な船旅を乗り越えた私はアスカさんと共に現在だらーっと過ごしている。いや、平和っていいね!
すくなくともミサトさんとシンジ君が飛んでくるまではこうやってまったりとバカンスを楽しめるはず。

「あーもう退屈だわ。ちょっとヒトミ。なんかないわけぇ?」

何その無茶振り…ちなみにアスカさんには『フォースって言いにくいから名前で呼ぶわ』ということで呼び捨てにされている。
まあ、いいんだけどさ。

「いいじゃないですか、まったりと青空を眺めながらボーッとできるなんて。本部のミサトさんが聞いたら羨ましがると思うよ」

彼女はいまだに書類の山に埋もれて苦しんでいることだろうなあ。迎撃都市の被害は本当、とんでもないからなあれ…
一方、多分、リツコさんは私が居なくなった分と零号機は修復中ってことで実験の量は減ってるからマッタリ過ごしてるだろうね。

「あーもう! ほんと使徒でもこないかしら、退屈すぎるわ!」

本日二度目の発言。飽きないなあアスカさんも…と思っていると

『ドーン』

と物凄い大きな音…何か大きなものが破壊されたような音が聞こえた…まさか?

『海面下に巨大な潜航物体が出現!』

不吉なアナウンスが入る。そして、音の方向を見ると遠くの駆逐艦が真っ二つに折れて沈んでいくのが見えた。うそ!?

「うわー! 来ないかしらとかいうから。使徒がきちゃったじゃないですか!」

シンジ君とミサトさんがいないのに早くない!? 太平洋艦隊が史実(?)より行動が遅いのか?
…あーーーーーー!そうだ! この太平洋艦隊は原作の航路と違うかもしれないんだ! アメリカ寄らなきゃ行けないんだしそういう可能性もあるじゃないか!
てか、ダブルエントリーがないとガキエル開口できないんじゃ!? うわあ…えらいこっちゃえらいこっちゃ!

「ちょ、ちょっと私のせいだっていうの!?」

と、いい具合に二人揃って慌てているうちに再び轟音が聞こえてくる。使徒は二つ目の駆逐艦を撃沈していた。
…まずい急がないと。

「とにかく、私は弐号機の所に行くわ! あんたもすぐ参号機に搭乗しなさい!」

そう言ってアスカさんは弐号機の所へ走っていく。どうしよ…本来の物語とは大分違うけど弐号機だけじゃなくて参号機もあることだしなんとかなるのかな。
いや、というか絶対になんとかしないと…此処で弐号機がやらせるわけにはいかないだろう! というか弐号機がやられるくらいなら自分の参号機じゃ勝てないだろう。

「ああもう!!」

パン! と自分の頬を叩いて気合いを入れる。
弱気になっていても勝てやしない。とにかく弐号機と協力して使徒を倒すことだけに集中だ!
そうして自らも参号機の元へ全力で駆けはじめる。来るなら来い!


 

あ、詳しくは言いませんがシンジ君はちゃんと活躍しますのでご安心を
あと予告から遅れまくってスミマセン・・・



[17850] 第十一話 『西ハワイ沖海戦1』(仮)
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:e39d7d8f
Date: 2010/05/26 22:10
『参号機の起動終わった!?』

巨大タンカーを改造した特務輸送艦オセローにて、参号機を起動をすると同時にアスカさんから通信が入る。
見ると彼女の弐号機は既に起動を完了し立ちあがっていた。早い、さすが言うだけあるなあ。

「おまたせしました。んじゃ、宣言通りぱぱっと片付けてね。惣流さん!」

『ええ、この私に任せときなさい!』

さて、太平洋艦隊は三つのオーバー・ザ・レインボウと同じ艦型のユナイテッド・ステーツ級の空母が他に二隻ある。
旗艦を含めたユナイテッド・ステーツ級空母3隻なのだが恐らくアメリカに寄港した際だろう、旗艦ではない他の二隻にも新たに仮設の電源供給ケーブルを設置したと加持さんから聞いている。
おそらく支部の電源設備から持ってきたんだろう。

ともかく、弐号機と参号機はそれぞれの空母を目指してまず電源ケーブルを確保しなければならない。

『じゃあ先いくわよ!』

先いくわよと言ったアスカさんが駆逐艦や巡洋艦を踏み台にをしながら旗艦の空母、オーバーザレインボーを目指し飛んでいった。
乗った上部の装甲が足の形に凹んでいた。船の修復ってどれくらい掛かるんだろうね…というか後に続いて真似をしろと? 

「惣流さん、私はどうやってそちらに行けば?」

『同じように飛べばいいじゃない?』

旗艦までさっと移動した弐号機の電源を付けながら、彼女は当然のように答えた。
いいえ、私にはそんなことできないというか怖くて無理です! ミスって落ちたら海の底じゃん!

『ほら、さっさとする! 使徒がそっち行ってるわよ!』

太平洋艦隊による反撃の砲火の他に、なにかがぶつかるような音が聞こえ、巡洋艦が真っ二つになった。
あわわ…早く飛び移らないと結局同じだ!

「いやでも、私のシンクロ率は30代前半がせいぜいでして…あんまりそういう動きは…」

『いいから、飛びなさい!』

「いやいや! 落ちたら海の底ですよ!?」

電源ケーブルついてて、落ちてもそれで引きあげられるならまだしも、なんもなしに落ちたら戦う前に試合終了ですよ!?

『ええい、何をやっている! 空母を接近させるから飛び移りたまえ!』

旗艦のオーバー・ザ・レインボーの艦長からの通信が入ってきた。

「助かります。艦長さん」

『ふん! そのおもちゃを送り届けることが我々の任務。礼など不要だ』

なんというツンデレ艦長…ともかく、輸送艦と弐号機のいる旗艦ではない、もう一機のユナイテッド・ステーツ級の距離が近づいていく。
ふう…助かったかな…

『ちょっとヒトミ、そっちに使徒が向かってるわよ!」

警告がはいったのできょろきょろと周りを見る…確かにこちらに迫っていた! というかもう目の前だ!
空母はまた結構距離がある…ええい! 近くの船を踏み台にするしかないのか!

「うおおおおー! 参号機、飛びます!」

全力全開で輸送艦を蹴り、仮設電源ケーブルのある空母に行くためのステップに丁度良さそうな大きな船を発見、それ目がけて飛ぶ!
EVAを動かすということは思いの力! 私は鳥! 自由に空を飛べるはず! 
決心して飛ぶと同時に輸送艦が使徒の突撃を食らって真っ二つに。間一髪だったな。

『まて! そこは踏むな!』

「え?」

艦長から踏むなと言われるが時すでに遅し、何か固いものを踏んづけた感触が伝わってくる。

『ああ…砲身が!』

我が参号機が踏み台に選んだのは巡洋艦の砲身部分だった。副長だろうか、艦長じゃない人の声が入る。
…足元を見るとへしおれたになった砲身が見える。その砲はどうみても使用不能だった。

「す、すんません…ほんと」

『本当、へたくそねえ』

「う…酷いや惣流さん! 口に出していいことと悪い事があるよ!?」

『へたくそなのは否定はしないのね』

「私は事実は否定しません!」

『威張っていうことじゃないでしょ…』

もういいですぅ~。どうせいつも戦力的に微妙ですよ~だ。

『いいから早く空母に飛び移って電源接続したまえ! 時間がなくなる!』

艦長さんが突っ込みをいれてきた。そうそう、こんなことしてるい場合じゃないっけ。
見ると内部電源が切れるまであと少しだ。急いで巡洋艦を蹴って大部近くまで接近していた空母に着艦。
甲板で電源を接続、これで制限時間はなくなった。

「さて、これからどうすればいいんだろ?」

電源の接続を完了し、海から攻撃を仕掛けてくる使徒に対してどのように攻撃しようかと思案していると男性の声が割り込んだ。

『まずはATフィールドの中和だ。アスカ、ヒトミちゃん』

「加持さん?」『加持さん!』

アスカさんが嬉しそうに反応する。それはいいけど例の物はどうした!?
逃げないん? 二機あるから勝てると踏んだ? もしくは日本まで航続距離足りない?

『何だね君は! どこから入ってきた!』

「艦長さん、EVAの乗っている空母を使徒の近くに展開してください。そうすれば砲撃も効くようになります」

『彼女の言う通りです艦長、EVAが目標の近くに展開すれば艦隊による殲滅も可能になります』

『……よかろう。各艦、攻撃停止! 合図があるまで回避行動を優先せよ』

空母の周辺に展開しつつ爆雷などを投下していた各艦が攻撃を停止する。
それと共に使徒の動きもなくなり、急に辺りは静かになる。どこいったんだろ?

『ヒトミ! そっちにいってるわよ!』

『参号機パイロット! 9時方向だ!』

アスカさんと艦長さんから同時に警告がくる。言われた方向を見ると水飛沫を上げながらこちらに突進する使徒の姿。

「ATフィールド全開! 艦長、今です!」

『砲撃開始!』

こちらに迫る目標に対して周囲の艦から砲撃が加えられる…しかし急な接近ということもあってか散発的でどうも目立った効果はない。
やはり空母の甲板で捕まえて、戦艦の主砲を直接ぶち込むくらいしないとだめなのかな?
そんなことを考えていると空母に近づいたところで使徒が大きく跳ね、大きな口を開けてこちらに飛びかかってきた!

「甲板で捕えます! そこを仕留めてください!」

こちらの意図を通信で伝え、参号機で使徒を受け止める体勢を取る。

『戦艦二隻は目標の至近まで移動しつつ、砲撃準備!』

艦長の指示と同時に大きく口を開けた使徒の先端部分を押さえつけて空母上で捕えようと試みる。
ものすごい衝撃に参号機が弾き飛ばされそうになり空母も激しく揺れるが、なんとか踏み留まれた。

「やった! 止まった!」

『そのまま捕まえときなさい!!』

赤い影が捕えた使徒の上に着地…というより飛び蹴りをかました。

『よーし、しっかり押さえてなさいよ!』

アスカさんはプログレッシブナイフを装備し弐号機で動きの止まった使徒を切りつける。
弐号機は鮮やかに使徒の解体作業をており。まるで魚料理でも作っているかのようだ。
使徒は逃れようとして懸命に体を動かすが、根性で押さえ続ける。

『三枚におろしてやるわ!』

…聞こえているわけではないだろうが、アスカさんの言葉に反応するかのように使徒が悲鳴を上げる。
弐号機が切り刻むにつれて使徒の抵抗は弱まり押さえるのが楽になっていく。

『エヴァ両機! 砲撃を開始するから離れろ!』

戦艦二隻が今いる空母のすぐ隣に展開、その砲門を使徒に向ける。
弐号機は最後にナイフを突き刺し、ついでに使徒の体を蹴ってその場を離れたのを確認、こちらも使徒から離れる。
容赦ないなアスカさん…なんだか使徒が可哀そうに思てきた。

『離れたわ!』「離れました」

『砲撃開始! 日ごろの訓練の成果を見せろ! 目標だけに当てるんだ!』

まさに零距離といった至近距離での砲撃が開始され、その砲弾は的確に使徒だけに向かって的確に発射された。
砲弾の発射と共に物凄い音が辺りに轟き、使徒の体へ砲撃が叩きこまれ、その身を削られてボロボロになっていく使徒。
これでもかと砲弾を叩きこみ、もう勝利かと思ったその時、使徒も最後の気力を振り絞って抵抗する。

戦艦の砲撃のタイミングに合わせて甲板上で跳ねると、その砲弾の衝撃を利用して海に落ちたのだ。

『しまった!』

艦長の焦ったような声が聞こえる。しかし、あれだけやったのだからもう倒せたんじゃなかろうか?

「あれだけのダメージです。もう死んでるってことはないですか?」

『すぐ確認します』

副長さんからすぐに返事が来て数秒待つ。

『…確認させたがそれらしき影が爆雷の届かない深度に潜り並走しているようだ』

『ち、中々しぶといわね』

仕留め切れてなかったか…まずい。

『どうやら深くに潜ったまま動きがありませんな』

『過去の使徒の例から言えば、恐らく自己修復中でしょうね』

『ともかく、これでは手の出しようがないな、一先ずEVA両機は旗艦に来て待機してくれたまえ、艦隊を編成しなおす』





話 『西ハワイ沖海戦1』


使徒の撃退より一時間後―旗艦 オーバー・ザ・レインボウ甲板上

使徒を撃退した太平洋艦隊はエヴァ二機を乗せた旗艦を中心にユナイテッド・ステーツ級空母を3隻横に並べて日本への航行を続けていた。
さらにその周囲に戦艦、巡洋艦、駆逐艦といったように展開しており。かなり壮観な眺めだ。

『もう一時間たつけど来ないわね』

「びびってるんじゃないのかな? あれだけ切り刻んだり、砲弾ブチ込んだのだし」

結局撃退後は修復しているのか、それともビビっているのかしらないが海中に深くに潜ったまま姿を現さない使徒。
まあビビってるなら気持ちはわからなくもないかも。嬉々として使徒を解体しとうとする弐号機は正直怖かったです。

『待機するのもいい加減疲れたわ』

確かにいい加減に気を張っているのは疲れた。近くで待機していれば使徒が浮上してからでも間に合うだろう。
艦長に掛け合ってみよう。

「うーん…艦長、参号機と弐号機で交代で警戒に当たるのではダメですか?」

『そうだな…』

『いえ、待ってください! 目標が浮上してきます』

ちょうど休もうかという話しを始めると修復が終わったのだろうか? 使徒が浮上してきたらしい。

『丁度いいわ、ここで仕留めてゆっくり休ませてもらいましょう』

弐号機のアスカさんから心強い言葉が飛び出る。やだ、かっこいい! 姉御って呼んでいいですか。

『そうだな! 全艦、いつでも砲撃可能な状態にしておけ!』

艦長さんも同意する。

「そうですね、今度こそ仕留めましょう!」

『目標、艦隊正面に浮上! 本艦目がけて突進を開始しています!』

EVAのいる空母を狙うつもりか? 使徒がこちらに向かって真正面から突進してくる。
急いで空母の前部に駆ける、一緒に弐号機も付いてきた。

『二人で行くわよ!』

「了解!」

「ATフィールド全開!」『ATフィールド全開!』

同じタイミングでATフィールドを

『砲撃開始! この艦に近づかせるな!』

艦隊前方に展開する駆逐艦や巡洋艦から一斉に砲撃やミサイル、魚雷が使徒に殺到、さらに三隻の空母の左右に展開する戦艦がの主砲が火を吹く。

『だめです! 効果ありません!』

接近する使徒に対して砲撃を加えるものの、前より頑丈になっているのか? あまり効果はないようだ。
そのまま砲撃は続けられると多少はダメージがあるのか、明らかに突進の速度が鈍ってくる。
しかし、使徒はもう砲撃が旗艦に当たってしまいかねない距離まで使徒は迫ってきていた。

『くそ! 砲撃中止、EVA両機は退避しろ!』

退避しろって言われてもこの船、加持さん乗ってんでしょ! やられたら多分やばいでしょ、インパクト的に!
うわーっ! どうしよ!?

『エヴァ弐号機、行きます!』

打つ手なしかと思われたその時、弐号機がプログレッシブナイフを取り出して空母から踏み出し、使徒に向かって飛んだ!
何するつもりだ!?

「惣流さん!?」

さすがというところか、高速で接近する使徒に見事にタイミングを合わせ、弐号機は真正面から使徒に取り付き。
そのまま弐号機は使徒にナイフで切りつけた。すると使徒は弐号機を連れたままたまらず海中に潜った。

『だめだわ、水中じゃ思ったように動けない。…ヒトミ! 回収して!』

弐号機に伸びているケーブルをグッと引っ張ると弐号機が海中から姿を現し、空母の先端に掴まって甲板に上ってきた。
…いやすごいね。さすが天才パイロットだよ本当。

「本当、すごい操縦技術だなあ…」

『このくらい当然よ』

「当然と言いますか! じゃあ私は何なの!?」

『いやまあ、アンタも空母まで飛び移れたじゃない? 頑張ればできるわよ…多分』

多分かい!

『…目標はどうなった?』

『本艦から離れていきます』

弐号機を恐れたのか? 使徒はまた離れていった。
なかなか決着がつかない戦いだ。

「まったく、面倒くさい使徒だなあ」

『もう疲れてきたわ。ここが海じゃなければパパっと倒してやるのに』

確かにそろそろ2時間くらいは搭乗を続けている。さすがに疲れてきたな。
使徒がビビって襲ってこないなら都合がいい。交代で休みに入ろう。

「艦長、交代で休みに入『目標が艦隊の12時の方向に展開する艦に攻撃しています!』

休憩を提案しようとすると副長さんからの報告と共に離れた位置にある駆逐艦、巡洋艦真っ二つに割れ、が立て続けに撃沈された。

『ヤツめ、周囲の艦から沈めていく気か? 全艦砲撃準備!』

『セコイことしてくれるわね! 弐号機、行きます!』

弐号機が八艘飛びを開始、船を足場にして使徒の方へ移動。使徒が迫る艦艇から飛びかかろうとすると。

『目標、再び海中に潜りました』

『ええい、全艦。空母を中心に密集陣形を取れ!』

周辺に展開している護衛艦群が空母を中心として集まってくる。

『目標が再び姿を現し、攻撃を開始! 弐号機とは反対側です!』

見ると逆方向でまた使徒が護衛の艦艇を沈めている。使徒はエヴァを狙うわけでもなしに何をやっているんだ?

『クソ! 参号機はそちらに展開してくれ! 各艦は砲撃準備!』

「分かりました、行きます!」

各艦の距離が縮まっているため比較的簡単にジャンプしていくことができた。
それにケーブルっていう命綱もあるし安心してできる。
弐号機と同じように使徒の迫る船まで移動した。

「ATフィールド全開!」

『砲撃を開始しろ!』

駆逐艦に迫る使徒に対して周辺の艦から集中砲火が浴びせられる。
しかし、一旦は弐号機の方角に砲撃を集中させるために艦隊は展開したためにこちら側への砲撃は小規模なものだった。

『くそ、だめか!』

使徒の突進が止まらない。ええいくそ! やるしかないのか!
こちらに突進をする使徒を止めるには、弐号機と同じく飛びかかって切るしかあるまい!

「参号機、突撃します!」

ためらう気持ちを振り切るように宣言し、飛びかかる体勢を作る。

『…目標が再び海中に潜りました』

しかし突撃は実行されることはなく、その前に使徒は潜ってしまった。
エヴァが目標じゃないのか? 一体何なんだ?

『目標が3時の方向に出現!』

…分かった、エヴァを避けているってことは使徒は太平洋艦隊から撃破する気なんだ。
突撃の勢いを削ぐ砲艦を撃沈してから最後に空母を撃沈、足場を無くして海に落ちたエヴァを仕留める気なのだろう。

『ち、船を全部沈めてからやろうってのね。でも、そうはさせないわよ!』

アスカさんも気付いたようだ。弐号機が素早く使徒の方向へ向かうが近づくまでにまた1隻撃沈される。
そして弐号機がくるとやはりすぐに海中に逃げてしまう。

『だーっ! なによこいつ! 腹立つわねぇ~!』

セコイ攻撃を続ける使徒に対して怒るアスカさん。しばらくするとまた使徒が反対方向に出現し1隻撃沈される。
出現の報告を聞くと弐号機はすごい速さで駆けつけるのだがそれでも間に合わず、出現の度に1隻ずつ撃沈されていく…

『…まずいな、このままでは全滅してしまうぞ』

『大丈夫ですよ。もう決着がつきます』

突然、最初に発言してからそれ以来ずっと出てこなかった加持さんの声が入った。
というか逃げてよ。ここでサードインパクトになりかねないじゃない…


『む、君か、前に急に入ってきたと思えば、今までどこに行ってたんだね?』

『援軍を呼びに行っていましてね』

『どんな船が援軍で来たところで時間稼ぎにしかならんぞ』

『船が来るわけではありませんよ。ほら、来ましたよ』

『…? あれは!』

軍艦以外に海上に何が援軍に来るって言うんだろ?
やはり周囲を見回しても太平洋艦隊以外の艦艇は見当たらない。

「どこに援軍なんて来てるんです?」

『ヒトミちゃん、上を見るんだ』

上? 空か! …見ると大型の飛行機がこちらに飛んできている…なにかを搭載しているようだけどN2爆雷でも積んでるのかね?
ああ! 違う! あれは…

『お待たせ! 二人共! 援軍の到着よん!』

『ミサト!?』「ミサトさん!」

飛行機に搭乗しているのだろう、ミサトの声が聞こえてくる。
そしてもちろん、大型の飛行機に搭載されているのは…

『シンジ君、準備はいいわね?』

『はい、いつでも行けます!』

現在、ネルフ本部で唯一の対使徒の戦力であるエヴァンゲリオン初号機だった。



援軍到着!
加持さんがエアー化してたのは本部への連絡とミサトさんへ戦況報告をしてたからです。
次回冒頭でふれます。えあー化させる気はないのでご安心(?)を。



[17850] 第十二話 『西ハワイ沖海戦2』(仮) *コピペミスで抜けてたところ追加
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:8a8d7cca
Date: 2010/05/26 22:09
援軍が…初号機を乗せた大型の飛行機が旗艦に向けて飛んでいく。

『降下開始するわ。シンジ君は衝撃に備えて!』

『了解!』

え…? まさか空母にそのまま突っ込むつもり?

『まてやめろ! そんなバカでかい航空機が空母に着艦できるか!』

艦長が止めるも、輸送用の大型飛行機が空母目がけて高度を下げてくる。
どうみても空母に着艦しようと高度を下げている。しかし明らかに着艦できるような大きさの飛行機ではない。
一体どうするつもりなんだ!?

『アスカ、初号機を切り離すわ。受け止めて!』

呼ばれて弐号機が素早くオーバー・ザ・レインボウに飛び移る。

『OK! いいわよ!』

飛行機で艦橋を破壊しながらでも着艦でもする気かと思ったが、そうではなかった。
空母に向かって高度を下げてくる飛行機から初号機が切り離され、初号機のみが空母甲板に突入。
弐号機が受け止めるため構えたところへ初号機が突っ込んだ。

『ぐっ!』

空母は大きく揺れるが弐号機の足が甲板を踏みぬいた以外は被害なし、速度はかなりあったと思うがよくその程度ですんだものだ。
アスカさんは絶妙な操縦でその速度を殺しきり、初号機を受け止めている。

『ああ…空母の甲板が…』

『あれだけの質量の物が落ちてあの程度で済んだのだ。むしろ僥倖だろう…』

艦長さんと副長さんがすこし愚痴っているが…まあうん…ご愁傷様です。

『どうもありがとう。大丈夫だった?』

『どってことないわよ。これくらい』

弐号機が抱きとめた初号機を降ろす。初接触で熱い抱擁とはやるじゃないお二人さん! ま…エヴァでだけど。

『シンジ君、弐号機と参号機が使ってない電源のある空母があるわ。それに一旦飛び移って、電源接続して頂戴』

『はい』

現在、3隻あるユナイテッド・ステーツ級にぞれぞれ電源供給システムが設置されているがその全てが使用されている状態。
そのうちの弐号機、参号機が使っていない、残り一つのある空母に初号機は移動、電源接続完了する。
これでユナイテッド・ステーツ級空母3隻全てにエヴァが割り当てられた形だ。
うーん、壮観な眺めだね。

『次は武装の入ったコンテナを落下させるわ。ヒトミちゃんも空母に戻って受け取って頂戴』

指示通りに参号機を駆って空母へ向かって移動を開始する。八艘飛びも慣れてきたな。
向かっている途中で高度を上げていく飛行機から旗艦のオーバー・ザ・レインボウに向けてコンテナが落とされる。

『ソニック・グレイブ3本とパレットライフル3丁が入っています。それぞれ1つずつ持って行って』

旗艦に到着すると初号機、弐号機がコンテナから武器を取りだしていた。
よし、ライフルがあれば突進してくる使徒を止めれるぞ! 多分…

「ミサトさん、これからどうします?」

『シンジ君とヒトミちゃんは、ケーブルを繋げてる空母へ移動して』

『了解』「了解」

初号機が装備を持って先程電源接続した空母へと飛び移る。
私もソニック・グレイブとパレットライフルを1つずつ持ち、空母に移動する。
3機になって対応しやすくなったとは思うけども、ミサトさんは海の中の使徒をどうするつもりなんだろう?

『艦長、太平洋艦隊の協力をお願いします』

『…何をしろというのだね?』

『エヴァが電源接続している各空母を3方向に分散配置してください。全方向からの攻撃に対応させます』

『戦艦はどうする?』

『使徒を補足した際に備え、温存してください』

『…分かった。その通りにしよう』

『各機は使徒が出現するまでそれぞれの空母で待機していて出現後はすぐにその船に飛び移って応戦』

艦隊中央で固まっているエヴァを乗せた空母3隻が動き始める。

初号機を乗せた空母は艦隊の速度を落として艦隊の左翼の後ろ側に展開。
自分の乗っている艦は速度を落とし右翼の後ろ側へと展開。
そして、弐号機への電源供給を行っているオーバー・ザ・レインボウは速度を上げ艦隊前方へ展開。

3方向にエヴァを配置、堂々たる布陣で使徒を待構える太平洋艦隊に対して使徒が動き始めた。

『目標が動きました! 左方向から来ます!』

艦隊の左方向…初号機のカバーしている艦艇へと使徒が突進していく。

『シンジ君! フィールド全開で射撃開始!』

『はい!』

遠くで護衛の艦艇から砲弾やミサイルが放たれるのが見える。
それと遠くて良くは見えないが初号機のライフルも火を噴き使徒に対して命中しているようだ。

『ミサト、私たちは?』

『艦隊の護衛を優先するわ。弐号機、参号機はその場で待機していて』

待機を命じられ、やることがとりあえずないので初号機の様子を眺めていると急に射撃が止まった。
どうしたんだろ?

『目標、再び海中に潜りました』

『うーん…これじゃあ手の出しようがないわね』

その後何度か使徒の襲撃を受けるも、分散配置されたエヴァを見るとすぐに海中へ逃げ込むといった様子。
こちらも艦隊をこれ以上減らされることはされなかったが、あちらに対してもエヴァが攻撃すればすぐ逃げるためダメージを与えられない。
つまり互いに決定打を与えることができずにいた。
使徒側も諦めたのか? 本格的な攻撃は初号機の方に出現しただけで以降は目立った動きはない。

『これじゃあいつまでたっても終わらないじゃない…ねえ、なんか手はないの?』

『艦隊を護って日本まで耐えるしかないわ、悪いけどがんばって頂戴』








話 『西ハワイ沖海戦』



その後度々出現する使徒であったが艦隊の配置を確かめるように出現してはすぐ水中に逃げるだけ。
しかしその逃げ方にはエヴァによって差がある。
どうにも初号機の方向に出現しては実力を探っているようである。

「なかなか慎重な使徒ですねえ…」

『これは初号機がどんなもんかって偵察してるわね』

たまに弐号機に対しても接近するがすぐ逃げてしまう。
やはり切り刻まれたのがトラウマなんだろうね。

「惣流さんは明らかに恐れられてますね。使徒に」

『そういうアンタは舐められてるわね』

その通りでなぜだか参号機に対しては妙に接近してくる。
たまに空母の目の前まで来ては挑発するように跳ねたり潜ったりしていくのだ。
ほんと腹立つなこの使徒…

『艦隊右方向、離れた位置に目標出現!』

『む…これまでとは様子が違うぞ。参号機パイロット、注意しろ』

突如、比較的遠くから加速しながら接近してくる使徒。
それに反応した周囲の艦から即座に砲撃が開始されるが…

『ええい! 水兵としての意地をみせろ! しっかり当てんか!』

さっきまで回避行動なんか取らないで突進→エヴァが来たらすぐ逃るを繰り返していた使徒だが今度は様子が違う。
使徒はジグザグに回避行動を取りながら砲弾をかわしている。

『ヒトミちゃん、撃って!』

「はい!」

反動の影響を抑えるべく姿勢を低くし、しっかりとパレットライフルを両手で持ち使徒に向けトリガーを引く。
ライフルが火を噴き大量の弾丸が発射されるが回避行動を取る使徒にはなかなか当たらない。

「くそー…生意気な」

右に左にと動く使徒に合わせてパレットライフルを振るが、弾丸は使徒の居なくなったところを通過していくばかり。
その間にも回避行動を取りつつも高速でこちらに向かってくる使徒。

「ぬあーあたらん!」

発射される弾丸の弾道が使徒の回避行動に合わせて左右に揺れる。
とにかく目標をライフルの照準で追いつつ撃ちまくるがなかなか当たらない。

『来るわ! ソニックグレイブで迎撃して!』

周囲の艦からの砲撃が止む、使徒が空母に接近しすぎたためだ。
使徒は左右に回避行動を取るのをやめ、まっすぐにこちらに向かってくる。

「はい」

ライフルを置き、甲板に置いてあったソニック・グレイブを手に持ち構える。
そこに使徒は空母の前で一旦潜り、勢いをつけて水中からこちら目がけて飛びかかってきた。
そうか、参号機の前だけで跳ねたりしてたのはこのためだったのか!

「うわっ!」

全開と違い、今度は口を開けずに体ごと突っ込んでくる。
突っ込んでくる使徒に対して思いっきりソニックグレイブを突き刺すがその勢いは止まらない。
使徒は突き刺さったソニックグレイブを無視してそのまま体当たりを仕掛けてくる。

「ヤ、ヤバ!」

突進の衝撃にフワリと体が浮かぶ感覚、参号機は大分吹き飛ばされてしまった。
そして飛ばされた先に足場などなく、参号機は海にダイブしてしまった。

「落ちちゃいました! 回収お願いします!」

『ええい、回収急げ!』

背中につけているケーブルが回収されていき、機体が引っ張られる感覚がする。
まずいぞ、本当に水中だと動きにくい。これじゃあ戦闘なんて無理だ…

『参号機パイロット! 目標が接近中だ!』

言われて周囲を確認…すると参号機を突き落とした使徒が口を大きく開けて目の前に迫っている! 

「ぎゃー! 食われるー!」

『まずいわ! 初号機、弐号機は参号機回収まで目標を牽制して!』

『了解!』

『まったく、手間がかかるわね!』

うう…手間をおかけして申し訳ありません。
目の前に迫る使徒に対して二方向ライフルが放たれるが使徒のその行動を阻止することはできず…
足の方から頭までがパックリと使徒に食われてしまった。

「参号機、目標体内への侵入に成功しました!」

うん、物は考えようです。
接近させてくれない使徒に対して直接接触できた…そう考えるんだ。

『…素直に食われたって言いなさいよ』

はい、すみません…食われました。

『ええい、どうするつもりだ! 中に参号機が居ては砲撃もできんぞ」

ほんとどうしよ。
私のシンクロ率じゃあどんなに踏ん張っても口なんか開きゃしないだろうし…

『それに旗艦の電源ケーブルはともかくあちらは仮設のモノです。使徒ごと引き上げる力はないですぞ』

「えええ!?」

副長さんから明かされる衝撃の事実。
もしかしてこのままお陀仏!?

『…いえ、むしろ逆にチャンスです。初号機、弐号機の両機はは参号機のケーブルを引っ張りに向かって頂戴』

『分かりました』『了解』

おお! よかった…そうだよね。エヴァで引っ張れば引き上げられるよね。

『ヒトミちゃんは使徒が離そうとしても口内から出ないように頑張って頂戴。いいわね?』

「ミサトさん、ちょっと待ってください」

周囲が何も見えないけどとりあえず手探りで掴まりやすそうなところを探す。
すると比較的やわらかくて丁度いい具合に掴まれそうなモノを発見、狭くて動きずらいがなんとか方向転換をしてそのモノを腕と抱く。
さらに使徒の歯の部分に足をあてて吐きだされないための固定完了。

「よし、なんとかなりそうです。どうぞ!」

『それじゃ二人とも。引き上げを開始して!』

『それじゃ! 行くわよサード!』

『うん、いくよ…せーのっ!』

『『どりゃあああああああああー』

シンジ君とアスカさんのの気合いのこもった声と共に背中が凄い力で引っ張られる感覚がする。

『使徒が開口したわ! ヒトミちゃん、頑張って耐えて!』

急に機体の足や腕に負担がかかった。それでエヴァの腕と足に力を入れ踏ん張ると使徒の叫び声みたいなものが聞こえてきた。
痛がってるようだけど…一体何掴んでんだろ!?
全く状況がつかめないがともかく耐えろというので気合いを入れてさらに全力全開で腕に力を込める。

「ぐぐぐ…」

『目標が海面から姿を現しました!』

水上に出たためか明るくなった使徒の口の中、一体なにを掴んでいたのか確認する。
どうやら舌を思いっ切り掴んでいた様子…そりゃあ痛いわ。

『シンジ君、アスカ! 甲板上まで引き上げて!』

『引き上げたわ!』

…勝ったな。もう終わりだろう。

『ヒトミさん。使徒は手で捕えているからもう脱出しても大丈夫ですよ』

「あ、どーも、シンジ君」

掴んでいた使徒の舌を話して開いている口から脱出する。

『よーし、今度こそ逃がさないわよ!』

そういうとアスカさんの弐号機ははソニックグレイブを手にしてジャンプした。

『とおおおりゃああ!』

弐号機は使徒の上に落下、ソニックグレイブを深くまで突き刺した。
なるほど、アスカさんは使徒を逃がさないために空母ごと使徒を突き刺したのか…

『『ああああ! 甲板があ!』』

艦長さんと副長さんの悲痛な叫び声が聞こえる。

「す、すみません艦長さん…太平洋艦隊には損害ばかり与えちゃって」

『な、なによ、逃がしてこれ以上の損害がでてもいいっていうの!?』

『………いやいい、このような敵が相手だ。しかたあるまい…』

アスカさんの言い分ももっともだが商売道具がボロボロとあっては海軍の人たちにちょっとね…

『それにあんたも最初に巡洋艦の砲をぶっ壊してたじゃない!』

まあ、確かに自分が下手に踏みつけて壊したりした船も結構多いからアスカさんのこと言えないんだけどね。

『…二人とも、それはいいから早く止めを刺そうよ』

ソニックグレイブを持って準備しているシンジ君に突っ込まれる。
そうだね、こんな言いあいをしてる場合じゃなかった。

『そうね、じゃあやるわよ』

弐号機がプログレッシブナイフを肩から取り出す。

「ま、この話しはまた後でゆっくりしますか」

参号機を動かして先程使徒に突き刺したままのソニックグレイブを回収する。

『よし、やりなさい』

ミサトさんからの号令と共に各自が思い思いに使徒を切り刻む。
数分間にわたって三機で切り刻んだ結果。使徒自身はもはやピクリとも動かない…というか死んでる?
それと空母の甲板が真っ赤にそまって高価なまな板と化している…これは掃除とかが大変そうだ。

『…………』

もう艦長さん達は無言である。色々諦めたらしい…いや、ほんとすんません。

『よーし、もういいでしょう。三機とも離れて頂戴』

離れろという指示がでたので3機とも離れる。止めに砲撃して終わりかな。

『あとは戦艦で止めをお願いします』

『…砲撃を開始しろ』

元気のない艦長の指示で砲撃が開始される。
すると使徒はソニックグレイブで固定されてるために使徒の肉片が砲撃の度に吹き飛んで行く。

「グロいね…」

『…そうね』

『ちょっと使徒も可哀そうな気がするね…』

砲撃はそのまま使徒の肉体が甲板上から全て吹き飛ぶまで行われた。
使徒、殲滅完了…

『それじゃ、私は帰るわね』

「え、ミサトさんがそのまま帰るんですか?」

『この飛行機じゃ空母に降りれないわよ』

それもそうか。

『あ、私は帰るけどシンジ君は日本に到着するまで船の上で女の子二人と一緒に遊んでていいわよん』

『ちょ、ちょっとミサトさん!』

『それでは艦長、太平洋艦隊のご協力、感謝致します』

『…こちらこそ、ネルフの救援感謝する』

そういってミサトさんの乗せた飛行機は去って行った。
さて、シンジ君とアスカさんの本格的接触か…いろいろ考えないとね…




[17850] 第十三話 『アスカ、来日』
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:5ae97237
Date: 2010/05/28 01:08

旗艦オーバー・ザ・レインボウ―加持リョウジ私室

「初号機の救援、予定通り届きましたよ。いやはや一時はどうなることかと」

『全ては予定通りだ…ところでアメリカ支部での首尾はどうだった?』

「上々です、あちらの司令さんも随分喜んでいましたよ」

『そうか、よくやってくれた』

「…しかし、よろしかったのですか? あれだけのデータを渡してしまって」

『やむを得えまい、今は本部の戦力拡充が最優先だ。…ところでアダムはどうした?』

「その点についてはご安心を…肌身離さず持っていますよ」

『分かっているだろうがそれの取り扱いは慎重にしてくれたまえ』

部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえた。

《加持さん?…一応着替え終わりましたよ》

おっと、シンジ君の着替が終わったか。

「シンジ君、すぐに向かうから階段の前で待っていてくれ」

通信機の話口を押さえてシンジ君への返事をする。

「…承知しております。それでは司令、ご子息を案内しなければならないので…」

『…ああ、チルドレンの護衛方もよろしく頼むぞ』

「もちろんです…それでは失礼致します」

急いで通信を終えて準備をする。

しかし、データ供出もやむを得ない…か。
あの本部の研究のデータを渡すことは委員会に対する交渉材料の一つだったはず。
さすがに本部壊滅状態となると委員会を利用するだけでなく、共同で当たるしかないということか…
碇司令自身にも別の思惑があるはず…それを今後どうしていくつもりなんだろうか?

 




話 『アスカ、来日』



「あ、来たわね」

甲板に上がってエヴァの方へ歩いていくとアスカさんに声を掛けられた。

「あれ、加持さんとシンジ君はまだ来てないんですか?」

「加持さんもサードも、まだ来てないわよ」

戦闘終了後。各自が着替えてから甲板に再集結して改めて顔合わせをしよう。と加持さんからの提案される。
加持さんはシンジ君には着替えがないだろうから借りてくる。といってエヴァから降りたシンジ君を連れて行った。
それで私もアスカさんも各自に割り当てられていた自室に向かい着替えを済ませたというわけだ。

「しっかし…なんというか不気味ですね」

輸送艦オセローは沈んでしまったのでエヴァは三機ともオーバー・ザ・レインボウの甲板の上で並んで座らせた状態で置いてある。
返り血を浴びてところどころ赤黒い巨人が3人(?)体育座りで並んでいる姿はなんとも言い難い光景だ。

「私の弐号機に使徒の返り血がついているのはなんとかしたいわ。早く日本に着かないかしら」

「あと数時間で到着ですよ。いやー無事に日本に帰れるようでよかった」

昼に使徒との交戦が始まったのはお昼頃、それからもう数時間経過し、日は傾き始めていた。
蒼一色だった空はオレンジ色に染まりつつある。うーん、日本到着は夜になっちゃうかな?

「…ところでさ、ヒトミ」

「はい? なんです?」

「サードチルドレンってどんなヤツなの?」

「えーっと、ちょっと暗めのごく普通の中学生男子…かな?」

「つまんなそうなヤツね」

おおふ…もっとよく考えろバカ! 綾波ヒトミのアホー!
とにかくアスカさんとシンジ君を好印象に思えるような紹介をしなきゃ。

「ごめん今のなし! 優しくていい子だと思うよ」

う、うーん…なんだかロクな紹介ができてない感じが…

「フーン…優しいねえ…それで?」

それで? と言われても…実は学校とネルフ関係以外じゃ全然接触してないからなあ。
ぶっちゃけ実験やら出張やらでずーっとネルフに拘束されてそんな余裕がないんだけど。

「まあ戦闘ではちゃんとやってくれるから結構度胸はあるじゃない? そのくらいかなあ」

「確かに、さっきの戦いでも空母へ降下なんてやったし、見た目より度胸はありそうね」

そういえばそうだ。下手すれば海の底だよね。

「んーごめん…正直仕事が忙しくて個人的な付き合いとかはあまりないから良く分からないかな」

リツコさんについていって零号機の調整したり、ミサトさんに頼んで戦闘訓練してもらったり。
その後はいきなりアメリカ出張でシンジ君どころかお隣に居るレイさんともロクに接触してないっけな。

「なーんか特徴がなくて面白みがないヤツみたいね」

「そんなことないよ!」 

…んーとりあえず否定したけどシンジ君てなんか面白い特徴ってあったっけ?

「ふーん、じゃあ教えてよ」

面白い特徴ねえ…
そうだ、アメリカ出張前にレイさんに聞いたこの話はいいかもしれん。

「そうだなあ、特徴ってほどじゃないけど面白いエピソードはあるよ」

「どんな話? もったいぶらずに話しなさい」

「こないだ、全くの偶然に私の姉の裸を見た挙句、これまた全くの偶然で押し倒して胸まで揉んでったんだ。これって結構すごくない?」

個人的にはすごいと思うね、偶然でそこまでやれちゃうなんてどんだけ奇跡なんだろうって。
あれ? これって面白いエピソードなのか? 衝撃的というかビックリな話ではあるけど。

「なにそれ、サイテーな男ね…」

まずい、良いように紹介するつもりがいらん事喋ったかもしれん。

…そんなこんなでちょうどシンジ君の紹介? が済んだあたりでカツカツと二人分の足音が聞こえてくる。
音のする方向を振り向くと加持さんとシンジ君が居た。

「加持さん!」

「すまない待たせたな二人とも。なかなかシンジ君に合う服が無くてな」

大きすぎるシャツを着て大きすぎるズボンをベルトで無理やり固定しているシンジ君の姿があった。
…ちょっとかっこ悪いなそのカッコ。

「それじゃあ、まずシンジ君もアスカも互いに自己紹介でもしたらどうだ」

「えーっと…碇シンジです。分かってると思うけど初号機のパイロットをやってるんだ。これから一緒に使徒と戦うんだよね? よろしく」

「…エヴァ弐号機専属パイロットのセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ」

うーん…アスカさんの反応が微妙だ。というか睨みつけているように見える。
やっぱり初号機が活躍していたシンジ君が気に食わないのだろうか?

「んー…それじゃ二人とも、シンジ君の案内よろしくな。あとはチルドレン同士、三人で話しててくれ」

「えー? 加持さんも一緒じゃないんですか?」

「そのつもりだったんだが、艦長と事後処理について話さないといけない事ができてな」

「そんなぁ…」

となりの少女は不満な様子。でも加持さんの用事てなんだろ?
ミサトさんは飛行機に乗って帰っちゃったからその代わりに艦隊の被害額算出でもしにいくのかな?

「すまんなアスカ。だがチルドレン同士で友好を深めるのも良いと思うぞ…それじゃあな三人とも」

そう言って加持さんは背を向けてさっさと行ってしまった。
後にはちょっと不機嫌な少女とブカブカの服を着た少年。そして自分のチルドレン三人が残された。
さて、シンジ君とアスカさんは仲良くできるのかしら。

「サードチルドレン、ヒトミからアンタのことは聞いているわ」

「え? ヒトミさん一体何を話したんです?」

「ヒトミのお姉さんを襲ったサイテーな男だってね!」

あっちゃあ…やっちまった…

「ええーーーーーーー!? な、なんで知ってるんですか!?」

シンジ君が超驚いてこちらを見て言う。

「アメリカ出張前にレイさんに聞きました」

「…ねえ、まさか綾波はネルフ中に広めてたりするの?」

そんなことがネルフ中に広まってたら色々大変だろうな。
すごい不安そうに質問してくるシンジ君。

「大丈夫、私が聞いただけ。レイさん自身が話したりはしないと思う」

「ちょっとサード。まさか隠し通すつもりだったの? サイテーね!」

ああ…仲良くさせるどころかすごい方向に…

「いや…その…」

「私はそんな男とよろしくするつもりはないわ。ヒトミ、こんなやつと一緒に居ちゃだめよ!」」

アスカさんはそう言って私の手を取りシンジ君から離れようと促す。

「ご、誤解だよ惣流さん! ちょっとまって!」

シンジ君はそれを止めようとしてアスカさんを追いかけようと慌てて足を踏み出して…

「うわっ!」「キャア!」

大きすぎるズボンに足を取られて転倒。
その結果、見事にシンジ君は惣流さんを後ろから押し倒してしまった。
良く見るとシンジ君の顔は丁度お尻のあたりに突っ込んでモフモフしている。

「うわあああ! ご、ご、ごめん!」

シンジ君が直ぐに飛びのく。

「痛たた…もうサイッテー! 信じらんない!」

上に重りが無くなったアスカさんは素早く立ち上がる。

「本当にごめん!」

「誤解もなにもないわよ! もう一生、私に話しかけないで頂戴! あと半径100M以内にも近寄らないで!」

アスカさんは最後にそう言い放つとまだ座り込んでいたシンジ君に追撃の蹴りを入れて走り去っていった。

「うぐぐ…」

…そうして後には鋭い蹴りを一撃くらったシンジ君と自分の二人だけが残された。
まずいなあ、初対面からトンでもないことになっちゃった。

「あ、シンジ君大丈夫?」

倒れてるシンジ君の手を取って立ち上がらせる。

「大丈夫じゃありませんよ…というかヒトミさん…あの時のことですけどね…」

「え?」

「綾波の家に行くあの日、綾波がシャワーを浴びている時間とか把握しててわざとやったんじゃないですか?
 『これをレイ姉さんに届けるととても良い事が起きますよ』 とか言ってネルフの更新カード渡してきましたよね!?」

シャワーの時間とか把握なんてしちゃいないけど多分そういうことが起きるんじゃないかとは知ってたね。

「うん、そんなこと言ったね」

「『うん、そんなこと言ったね』じゃないですよ! 元はといえばヒトミさんのせいじゃないですか! それを何で惣流さんに教えるんですか!?」

あれえ? なんでそんなこと話したのだっけか?
えーっと…そうだ!

「シンジ君の事を聞かれた時に面白エピソードの一つでも出して好印象を持ってもらおうとと思ってつい…ね?」

「好印象なわけないじゃないですか!? つい…ね? とか可愛らしくいっても許しませんよ!」

「アハハ…でも、そんなこと言っても良い目に遭ったのは事実でしょ?」

「うっ…確かにそれは否定できないけど…」

「ならイイジャン!」

「良くありませんっ! 責任とって惣流さんの誤解…誤解でもないかもしれないけど事情を説明してきてください!」

「はい! 直ちに!」

まずい、あの線が細くて気弱そうなシンジ君が怒ってる…!
まあどちらにせよ仲良くしてもらわないと今後困るし…確かに原因はこちらにあるからな、誤解を解きに行かねば。



オーバー・ザ・レインボウ―士官室前

 


「んー部屋に居るみたいですね」

探し回って30分ほど空母内を歩きまわったがどこにも見当たらない…
それで『部屋に戻ってるのでは?』とシンジ君に言われて彼女が割り当てられている部屋の前へ来た。
なんか中から物音がするので多分彼女は部屋の中だろう。

「…じゃあヒトミさん、くれぐれも頼みますよ」

小声でシンジ君が誤解を解くようにと念を押してくる。
それじゃあ行きますか…士官室ドアをノックする。

「惣流さーん、入りまーす」

返事も聞かずに部屋に入り込む。

「なによいきなり入ってきて…まさかあのスケベ男の事で来たんじゃないでしょうね」

「まあ、そうですけど。あれは誤解と偶然が重なりあって起きた出来事なんですよ。彼の話を聞いてからでも遅くは…」

「嫌よ。あんなスケベなヤツの話なんて聞きたくないわ」

取り付く島もないとはこのことか。
ちょっと怖いけど使徒戦について話してみるか。

「いやいや、ああ見えてシンジ君は頼りになるんですよ? 彼は使徒戦では一番活躍しています」

「…そうなの? あんなのが?」

やっぱり使徒との戦いとなると興味があるみたいだな。
シンジ君の活躍を褒めるのは諸刃の刃な面がある気がするけどまあいいか…

「えーっと…最初の使徒戦では私が零号機でやられたのを見て初めて乗ったにも関わらず
 『さっきの子を助けるには僕がやるしかないんだ!』
 って言って使徒に飛びかかって殲滅したんですよ。すごいと思いません?」

「ふーん、スケベなだけじゃないのね」

やっぱこれだけじゃまだ何かイマイチな反応だな…もうちょっとプッシュしてみようか。

「その次の使徒戦では私が追い詰められてるところに使徒に身を呈して助けに入ってくれましたし」

「…へえ」

「この前きた使徒との戦いでは、使徒の攻撃で熱くなったプラグを手でこじ開けて姉さんを救出しています」

「…なかなかやるじゃない」

お、いい感じだ。これなら…?

「そうでしょう? それでですね姉さんの事件については私の悪戯が原因でして…その…」

「それがそうだとしても私を押し倒したのよ。サードがエロガッパだということには違いないわ」

うーん、説得は難しそうだ…





数時間後―横須賀港

そうして数時間後、ついに太平洋艦隊が新横須賀港に到着。
3人ともが空母から降りた頃には完全に日も落ち、すっかり暗くなっていた。

「ちょっとサード、近寄らないでくれる?」

暗い中、私の手を引きシンジ君から離れるアスカさん…
ちなみに結局アスカさんを説得することはできず。シンジ君への警戒態勢が引かれていた。
哀れ、シンジ君は完全に女の敵と認定されてしまっていた。

「ん? アスカ、どうしたんだ? シンジ君からそんなに離れて」

険悪な雰囲気が漂う中、無精ひげの男―加持さんが姿を現した。
私を引っ張っていた手を離してアスカさんは加持さんの方へと駆けよる。

「あ、加持さん聞いてくださいよ! サードったらいきなり私の事押し倒したんですよ!」

「シンジ君がかい? まさか!」

「本当なんですよ! 彼には他にも押し倒した女の子がいるって話があります!」

「…ほう、シンジ君もああ見えて中々やるんだな」

「だからそれは誤解だってば!」

「ちょっと、私に話しかけないでよ!」

うん、アスカさんの心の壁は肉眼で確認できそうだね。

「まあまあ、アスカ。彼も悪気があってやったわけじゃないんだろう。許してやったらどうだ?」

「絶対嫌です。…もう行きましょう、加持さん」

加持さんが宥めてくれているがそれでもダメな様子。
アスカさんはそのまま加持さんの腕を引っ張って行ってしまった。

そうして暗い港に残っているのはシンジ君と自分の二人だけとなった。

「…ヒトミさん、一体どうしてくれるんですかこの状態」

「まあ、レイさんにもお願いして誤解を解いてもらえばなんとかなるんじゃないかな?」





というわけで次回、レイさんアスカさんの接触編
話が強引すぎる…感じが得に口を滑らすところが問題です。どうやっても上手くいかない…
というわけでご相談をしたいことが…次話ネタバレになるけど。
実はシンジアスカがスケベでちょっと対立→同じく被害者のレイさんとアスカが仲良くなる。
というフラグのために利用するという理由で口を滑らすという場面をを入れたかったんです。

え? シンジ君がアスカさんと仲悪くなるのは可哀そう?
大丈夫、彼はアスカさんのお尻に顔を埋めたので幸せなはず。だからその分だけちょっと不幸になるだけです。



[17850] 第十四話 『不協和音』 【新劇注意】
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:8842dabe
Date: 2010/06/03 19:26


ネルフ本部―葛城ミサト執務室

「あーもう、せっかくの休日だというのにやってらんないわね」

天井都市を大崩壊させたあの戦いは使徒迎撃の機能が低下したのはもちろん、私の休みの日にも重大な影響を与えている。
使徒を撃破したまではよかったが、その後はもうさんざん…ヤシマ作戦での被害請求書、迎撃施設再建計画といった諸々の書類の決裁を迫られて…。
おかげでロクに家に帰れずシンちゃんとも顔はロクに合わせられないし、ビールだって睡眠だってもはやここ数週間縁遠いものとなってしまっている。
しかーし!

「よっしゃ! これが最後の一枚ね」

あとはこの『むちゃくちゃな作戦しちゃってごめんなさーい(要約)』と書いた始末書にサインをして終わり。
あれが無ければ負けてたじゃない!? と少し腹が立ったりしなくもないけれども…まあそういうものだから仕方がない。
さらさらと始末書にサインをしてハンコ押して…やったわ、遂にあの執務室を埋め尽くさんとしていた書類群を殲滅したわ!

「終わったあー」

伸びをして体の緊張を解すと体中がバキバキと音を立てる…うーん…連日の机仕事で随分疲れがたまっているわね。
さて、腕時計で時間を確認すると17時ちょっと…定時までまだ時間がある。ま、ここで少し休んでいましょう。
ここ一週間ほどの連続勤務の疲れと仕事が終わった解放感からか、腕を組んで机に突っ伏して目を閉じると良い感じに眠たくなってきた。

「家に帰ったら風呂入ってエビチュを飲みながらゆ~っくり休む…うーんいいわねえ…」

ウトウトと目を閉じたまま、このまま定時で家に帰った時の事を想像する。
…疲れた体をお風呂で癒して、風呂上がりにエビチュを飲む。う~ん、楽しみだわぁ。

「おーい、邪魔するぞ。葛城」

楽しい妄想に浸っているところに、私の名前を呼びながら許可してもいないのに入ってくる侵入者が…
不本意ながら顔が見えなくても声で分かった。まあでも、今の私は気分が良いからアイツでも歓迎してやろう。

「おー加持君、良く来たわね」

「おや? 随分上機嫌だな葛城。しかし、机に突っ伏して寝ててもいいのか?」

「フッフッフ…仕事はもう終わったのよ。やーっと片ついたわ。崩壊した迎撃都市関連のもろもろの書類が」

「ほう、それは大変だったろうな」

「そう、大変だったのよ! でも仕事が片ついた私は今日こそ定時に帰るのよ」

ほとんど寝るために帰ってた家でゆっくりとお風呂に浸かってで疲れを取って、エビチュを飲んで家で休む…ああ、なんて素晴らしいことなんだろう。
でもちょうど加持君も居ることだし、お仕事完了の祝杯をあげるのもなかなか良いわね。

「ねえ加持、この後リツコも誘って飲みにいかない? 私が奢ってやってもいいわよ?」

「それはちょっと無理かもな」

「なんでよ?」

どうせアンタは暇でしょうに…。理由を問いただしてやろうと思い、私は突っ伏していた顔をあげる。

「……なによそれ」

目の前の男はかなりの量の書類をその腕に抱えていた。い、嫌な予感がするわ…

「太平洋艦隊の被害報告と船の修理代の請求書だ」

「まさか、私の所に来たのはそれ持ってくるために?」

「その通りだ、お疲れの所悪いな」

そう言ってドサリと机に上に書類を置く加持…せっかく仕事が終わったと思ったと喜んでいたのに空気の読めないやつね…

「ハァ…もう嫌になってきたわ」

「おっと、あとこいつもあったな」

それらとは別に加持君が紙を手渡してくる。

「なによこれ? 清掃費用って…」

「空母の甲板が使徒の肉片と血で凄い事になってたからな」

「だぁ~…国連軍もせこいわね…」

「碇司令が国連から相当な追加予算を要求したからな。その分だけ国連軍も余裕が無くなっているんだ」

全く、人類が生き残るかどうかの瀬戸際で金、金、金…必要なのは当然だけどもやりきれないわ。

「まあいいわ、このくらいならすぐ終わらせてやるわ! 」

そうよ。部屋を埋め尽くさんとしてたあの書類群に比べればこの程度は朝飯前なんだから!

『使徒らしき未確認物体が第三新東京市に接近中。作戦担当者は速やかに発令所まで来てください。繰り返します―』

唐突にアナウンスが入る。昨日の今日でよりにもよってこんな時に来るとは…

「もう完全に飲みに行くどころかの話ではなくなったな」

「…言われなくても分かってるわよ」





ネルフ本部―第一発令所

使徒らしき物体が出現との報を受けてすぐさま発令所に向かう。
そこでは既にリツコが何かの指示を飛ばしていた。

「来たわね。ミサト」

「リツコ、状況は?」

「未確認物体はこちらにむけて進行中、全機がパイロット搭乗済みで待機中よ」

「あら? シンジ君とレイ達それにアスカまで全員本部に居たの?」

「今日は顔合わせのために4人とも本部に呼んであったのよ」

「進行中の未確認物体の現在位置は?」

「現在、上陸したところです…映像が送られてきました。主モニターに回します」

モニターには細長い先の尖った棒を足として前進を続ける未確認物体。

「…分析パターン出ました。パターン青、使徒です」

「総員第一種戦闘配置よ。それと第三新東京市に避難警報を発令、民間人の避難を開始させて!」

モニターに移った使徒を見つめる。
顔と思われる部分は第三使徒にあった顔のようなものと赤い棘状のものを回転させており、そのすぐ下にはコアらしき赤い球体。
さらにその下には大きな振り子のようなものがついている。

「しかし、なによこれ? 時計のつもりかしら?」

「知らないわ、使徒に聞いて頂戴」

まあ、使徒の意味不明な形状なんてどうでもいいわね。
それよりもエヴァパイロット達の状態を確かめないと。

「4人とも、目標が第三新東京市に到達する前に迎撃に出てもらうわよ。いいわね?」

『『はい』』

準備は良い? と言うとレイとヒトミちゃんからは良い返事が来た。

『『……』』

その一方、なぜかシンジ君とアスカは黙りこくったまま互いにそっぽを向いてご機嫌斜め。

「…ちょっとリツコ。あの二人、何かあったの?」

「シンクロテストに来た時からずっとあんな感じよあの二人。喧嘩でもしたんじゃないの?」

だ、大丈夫かしらこんな状態で…

 




話 『不協和音』

 

使徒襲来より数時間前―ネルフ本部前

『ヒトミ? 顔合わせの意味も兼ねて4人シンクロテストを実施するから。使徒戦の次の日で悪いけど、明日本部に来て頂戴』

と使徒戦が終わって家につくと電話で連絡が入った。
使徒戦したあとだって言うのだから休ませてくれてもいいのになあ。
まあでも、丁度良い機会なので昨日の別れ際にシンジ君と約束したことを果たすこととしよう。

「…レイ姉さん、準備は良いですか? セカンドチルドレンの惣流さんが来ます。
 まず、セカンドチルドレンの惣流さんとと友好的に接しってください。まずこれが重要です。
 それで次にシンジ君がレイ姉さんにした事を詳しく詳細に、レイ姉さんの気持を交えながら説明してください…頼みますよ?」

「分かってるわ」

頷く少女はファーストチルドレン、綾波レイ。
ネルフ本部前でベンチ座ってアスカさんを待ち伏せしつつ、レイさんと『シンジ君フォロー大作戦』の作戦計画を練っていたのだ。

「ハロー! ヒトミ…でそっちがアンタの姉のファーストチルドレン・綾波レイね?」

なぜか胸を張って手を腰にあてて朝の挨拶をしてくるアスカさん。
朝から元気だ。昨日港に着いたのは遅かったはずなのにそんな様子は一切見えない。やっぱり鍛え方が違うのだろうか?
まあともかく目標が防衛ラインに到達したようだし、作戦を開始しようか!

(…じゃ、レイさん。打ち合わせ通りに)

(…分かってるわ)

頼みますよレイさん、シンジ君の名誉は貴方の説得に掛かっているのです。

「ちょっと? 何無視してんのよ」

「あ、ゴメンゴメン。おはよーございます」

「…で、そっちのアンタよりちょっと背が高い方がアンタのお姉さんでいいのね?」

…ぬう、髪でも伸ばして背以外での差別化でも図ろうか。いちいち背で比較されるのはちょっとイヤだし。

「…そうですよー」

「ま、チルドレン同士仲良くしましょ?」

「ええ、よろしく」

レイさんがベンチから立ち上がりスッと手を差し出す。

「な、何よ?」

打ち合わせでやってみてと言ったのだけど、ちょっと手の出し方が…
一見して握手を求めているようには見えない。現にアスカさんはそれを見て困惑している。

「握手」

それを見てとったレイさんが一言。
ああ、といった風にアスカさんはその手を取る。

「貴方の手、暖かいのね」

握った手を見つめながら彼女は言った。

「ふ、不思議な子ね…私は惣流・アスカ・ラングレーよ。アスカでいいわ」

自分の手をそう評された少女は少し顔を赤くして動揺していた。
あれ? なにこの空気?

「私は綾波レイ、好きに呼んで構わないわ」

「それじゃ、レイって呼ばせてもらうわ」
 
二人の手はガッチリとしっかり握手している。レイさんにちゃんとよろしくしてくれるように頼んで良かった。

「聞けばアンタもあの男の被害者だって言うじゃない? あのエロガッパから身を守るため、に私達は団結しなければならないわ!」

シンジ君のおかげで思った以上にアスカさんの方も態度もやわらかい。うん、いい感じだ。
この際、彼のフォローよりアスカさんとレイさんの仲を良くする方が優先しよう。

(あ! レイ姉さん! ちょっと…)

(…何、ヒトミ? セリフは覚えてるわ)

(ごめんレイ姉さん、やっぱシンジ君はエロい人ってことでアスカさんに同意してください。
 その代わりにこの前のヤシマ作戦の時の事を話してください『碇君はエロい人だけど私を助けてくれた人』 みたいな感じで)

(…わかったわ)

よし…あのエピソードが本人から語られれば第三者である私から話した時より効果があるだろうし、これで十分のはず。

「アンタなんて胸まで触られたとか聞いているわ。これは重大な問題よ…ってちょっと! 何さっきから二人でコソコソ話してんのよ」

「あ、ごめんごめん…さあレイ姉さん」

うん、助けられた本人からの気持をぶつければ、きっとアスカさんのシンジ君への印象も改まることだろう。

「別にそれくらい平気だったわ」

「ハァ!? それくらい平気ィ!? アンタ本気なの!?」 

「碇君は…エロい人だけど私を助けてくれた人、碇君は火傷も厭わずに熱したプラグから私を助けてくれたの」

「ダメよ! 助けられたからといってそんな痴漢行為を許す理由にはならないわ!」

助けてもらったからその位平気よ…ってなんのフォローにもなってない!
もうだめかも…でもシンジ君になんとかするって約束したしなあ。
他にレイ姉さんがシンジ君に何かしてもらった事とかってあるかな? 聞いてみよう。
とにかくこのままではまったくフォローにならない。一旦止めよう

(…ちょっと待ったレイ姉さん、何か他にシンジ君がしてくれたとか言ってくれた事とかないですか?)

(あるわ)

(じゃあそれを紹介してみてください)

ダメ元で聞いてみたらあった。よしよし。

「僕を綾波を守るために戦わせてほしい」

「え?」「へ?」

「戦いの後、碇君は私の体を支えながらそう言ってくれたわ」

そう言ったレイ姉さんの顔は相変わらず普段の無表情ままにだったが、少しだけ頬か赤く染まっていた。
…油断ならんなシンジ君。いつのまにか口説いていたとは。

「…ヒトミ! ちょーっとこっちきなさい!」

突然、アスカさんにこっちこいと言われて手を引かれる。な、何?

(アンタの姉さん、あのエロガッパに騙されてんじゃないの? なーんかズレてるっていうか世間知らずな子みたいだし)

おお、彼女の中ではシンジ君は恩につけ込んでエロイことをさせようとするどうしようもない下種となってしまった…!

(シンジ君はそんなことする人じゃないですよ)

(付き合ってもいない女の子の裸見て襲いかかったり。初対面の人間のお、お尻に顔を擦りつけてくるようなスケベな奴よ! どうしてそんなこと言えるのよ!)

(それは違うよ、アスカさん! シンジ君がスケベなんじゃない。スケベがシンジ君なんだ!)

彼がスケベを起こすのではないと思う。スケベが彼を呼んでいるんだ。
そう、きっと碇シンジは意図せずスケベなハプニングを呼んでしまうそういう運命なのだ…
たから彼は悪くないんだ…多分。

(なにそれ、訳が分からないわよ!?)

そんな風に小声でアスカさんの説得(?)をしていると通学路に放っておかれているレイさんに近づく人間が一人。

「おはよう、綾波」

「おはよう、碇君」

笑顔で彼女に近づき、挨拶しているのはエロガッパと評判の人だった。
二人は見つめ合い互いに若干顔を赤くしている。おとなしい顔して恐しい男だ…碇シンジ!

「こら! そこのエロガッパ!」 

挨拶を交わす二人の間に割って入るアスカさん。
なんか傍から見たらシンジの取り合いのようにも見えるけど面白いので放っておこう。

「うわっ!? そ、惣流さん!?」

「純真無垢な少女を騙して手篭めにしようなんて、この私が許さないわよ!」

間に割って入ったアスカさんはシンジ君に向かってそう宣言した。

「え?」

「え? じゃないでしょう? レイを襲ったあげくに『君を守るために戦いたい』だなんて気障なセリフで関係を迫っておいて良く言うわ!」

「あ、あれはそんな意味で言ったんじゃないよ」

「じゃあ何なのよ! 口説いてるとしか思えないセリフじゃない!」

まずい…なんか険悪な雰囲気になってきたぞ。

「あ~やだやだ。天然で女ったらしなのね。こんなのと一緒に使徒と戦うだなんてやってられないわ」

「…なんだよ、僕と綾波のことだろ! 惣流にとやかく言われる筋合いはないよ!」

ダメだ。やっぱり下手にアプローチしたのは間違いだった
もはや完全に、決定的に喧嘩になったシンジ君とアスカさん…
わーい、これはもうだめかもわからんね。



[17850] 更新目標と改訂計画、最新あとがき 
Name: 生贄の祭壇◆67f8ff57 ID:65bd18cc
Date: 2010/06/04 19:23
ほんとすんません。
次回更新目標は6月7日21時です

改訂計画
実はいまいち展開がマンネリというかスピード感が問題になってきたかなと思うところです。
感想欄でののじさんには新劇使徒や原作からすこし離れた人間関係の構築で展開が読めない!との言葉を頂いてハンパなく嬉しいのですが。
確かに一応、感想で頂いた通り、新劇使徒や新たな人間関係の構築という小規模な意味ではまあ新しい展開を生み出せてはいるかもしれません。
ですが現在作者は終わりに向けた『物語全体』としての展開が遅いのでマンネリではと感じています。
基本方針である新展開の戦闘はいいとして使徒の撃破→謎の拡大といった次を見させる展開。
私はそれこそこそが原作エヴァの魅力を高める大きな力であると考えています。
だから本作が今の段階で物語全体の進み具合において世界全体の謎を解決する話が進んでいないことが気に掛かっております。
そこで第五話と第九話を追加、改訂して謎を提示するパートに。
さらに第十四話を第十五話にずらして十四話に謎提示&進行パートの話として物語全体としての話を進めるようにしたいと考えているところです。

だいじゅうよんわあとがき
あ、感想で言われたので一つ
本作はあくまでTV版ベースです
新劇では時計(?)使徒がでてガキエル&イスラフェルは登場しませんでしたが。
別に新劇で代わりに出現した使徒が出たからといってそれら使徒が出現しないわけじゃないです。
ガキエルさんはでましたしね。というわけでご安心(?)ください。


難しすぎる…日常パートはすげー難しいです
ミサトさんに加持さんをどう呼ばせるかがわからない。
アスカ―レイ間でいきなりこの呼ばせ方でいいのかわからない。
作品全体がオリ主視点で戦闘をする(観戦する)というのがコンセプトというか当作品の在り方です。
だから一人称ばっかりで話が展開してきたのだけれども・・・
でもやってみて気づいたけど周りの人も描かないとなんでそういう戦闘に至ったかて理解できないんですよね
難しいんですねえSSを書くということは

ところでシンジ―アスカ間が険悪になるのは意外に思われるかもしれませんが…
衝突する方が原作らしいと私は感じます。
シンジ君がへこへこしすぎたり、アスカさんが異常にとげとげしすぎたり。
っていうのはアニメ、漫画をねっとり見た限りでは多分ないんじゃというのが作者見解です。
だから今のところアスカさんが過剰反応かなーという不安がありますね
ご意見の方ありましたら感想ついでにお願いいたします

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未来予告

何重にもATフィールドを発生させる最強の使徒。
最初に迎撃に向かった黒のエヴァは諸刃の刃となる切り札を持って戦いを挑もうとする。

「今こそエヴァの力を解放させる時ッ! モード反転! ザ・ビーストォ!」

「エヴァにそんな機能が!?」

「はい、エヴァが人を捨て、獣と化して戦う奥の手です(キリッ)」

「そんな機能は無いわ」

「そんな馬鹿な! シンクロ率30台で普通にアレと戦えと!?」

ヱヴァンゲリオン新劇場版:破好評発売中!



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