第99回 「会社拝⑫」 ~株式会社 宮地鉄工所~ その3
「7.業界随一を誇る設計陣
『橋梁というものは公共事業で、予算をしばられるものですから、
たとえば、今つくっている橋梁は、三年前に設計したものです』
『とおっしゃると、今設計しているものは、
三年後の予算にくみいれられるものだということになりますね。
それなら三年後に橋梁への投資がどのくらいの規模になるか
見当がつくのではありませんか』
『細かく拾えば大体の見当はつきます。
ま、ざっとですが、今年は重量にして六万トン、金額にして百億円程度、
これは上部鉄骨だけで、下部も全部あわせると四、五百億円、
来年度は十万トン、百五十億円くらいになると思います』
『そのうちお宅が占める比率はどの程度ですか?』
『従来の実績から行けば、大体十五%です』
『すると、相当に生産設備をひろげなければ間に合わなくなりますね。
新しい工場を建てる構想がおありですか?』
『まあ、さしあたりは工場敷地内にある水路を埋め立てたり、
橋梁の大型化に伴う設備の合理化を行います。
先立つものがたいへんで、いくら資金があっても足りない状態です』
『私もお宅の営業報告書をじっと睨んで、
もうそろそろ増資の時間だと思ったのですが……』
『ええ、そう遠くはありません。
今日明日にも取締役会をひらいてということではありませんが、
今朝も重役が集まって、もうそろそろだねと言ったところですよ』
『兜町の噂では、宮地の資本金が一番小さいから、
倍半の六億円も考えられるということですが、
やはり倍額というところですか?』
『増資しても配当を減らすようなことはしたくありませんから、
慎重にやりたいですね』
増資の幅に対する明確な回答は得られなかったが、
借金関係から睨んで近く倍額増資にふみきるものと考えられる。
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8.造船会社との競争は
『しかし、最近は造船会社が陸上部門へ進出してきて、
相当競争が激しくなっていますが、その点はどうお考えですか?』
『橋梁工事はいずれも入札によって行いますから、
競争が相当激しいことは事実です。
しかし、橋梁は鉄骨と違って、相当、技術も必要ですし、
何よりも入札前の設計が大切ですから、相当の自信を持っています』
『お宅の技術者は何人いますか?』
『全体で百人ほどですが、そのうち、設計関係は三〇人ばかりです。
業界で一番だという自信は持っています』
となかなかの自信である。
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9.自由化と関係ない成長産業
宮地鉄工の売上は前期約十億円で利益は八千六百万円、
売上げの中で占める橋梁の比率は約七〇%、今三月期の売上は約十三億円、
利益が一億円あまりと、相当伸びる見込みである。
橋梁の売上単価はトン当り約十五万円、鉄骨の方は八~十万円だから、
どうしても橋梁の方が採算がよい。
そこで宮地鉄工では今後、橋梁部門に重点をおきその比率を
八〇%程度まであげて行きたい方針だという。
ご承知のように宮地鉄工は総発行株数、
四八〇万株のうち約35%が一般株主になっているが、
品薄の傾向が強く、材料が出はじめると、かなり派手な動きをする。
昨年の増資の時も五百四十円をつけて、三百円にわれたが、
八月には四百五十五円をつけた。
その後、しばらく保合いを続けたが、ここへきて新値をきり、
一月十日には五百五円をつけている。
ここで、増資発表とくれば第一に建設ブームに乗るものとして、
第二に自由化と何ら関係のない成長産業として脚光を浴び、
人気の焦点となることはまず間違いない。
なにしろ、橋というものは従来、『これが橋です』という形をしていた。
真の芸術品は作者を意識させないものだそうであるが、
橋を通る人はあっても橋の作者をきく者はない。
たとえば兜町へ出かけて行く人は何度となく鎧橋を通っているであろうが、
あれが宮地鉄工の施行したものであることを知っている人が
はたして何人いるであろうか。
その点では橋梁メーカーは芸術家と一脈通ずるものを持っている。
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10.道路としての橋
ところが最近では橋の形も次第にかわってきて、
『これが橋です』という意識をあたえない橋、
すなわち川の上につくられた道という具合にかわってきている。
京葉道路に宮地のつくった江戸川大橋などはその一例であろう。
それにしては、ずいぶん値段の高い橋であるが、
橋の形がかわってきたように、橋梁株の株価も変わるべき時期に
立ち至っているのではなかろうか。
従来の考え方からすれば、高値は一応利食いのチャンスであるが、
十年間の業績安泰を保証された橋梁株をここで売るべきではないだろう。
宮地鉄工だけについて言えば、権利落ちの三百五十円は常識的な線だから、
相当の上値が残されていると考えてよい。
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宮地鉄工も鉄骨部門から橋梁部門に経営資源を重点配分することで、
波に乗ったようです。
当時の橋梁の売上単価が150円/KG、
鉄骨は約100円/KGだそうですから
付加価値の高い橋梁部門にシフトするのは理にかなうことです。
付加価値の高い業種ほど利益も大きくなるのは当然なことです。
例えば、自動車ですが、鉄鉱石の輸入価格を仮に30円/KG位とします。
トヨタのレクサス「LS460」で、売価を仮に約800万円としますと、
車両重量が1,940KGだそうですから、
売上単価は約4,100円/KGになります。
単なる鉄鉱石という石ころの輸入価格の約140倍で売れることになります。
ここに付加価値という富が生まれるわけで、原料から完成品になるまでに
製鉄会社や加工部門、板金部門などの中間工程にも富をもたらします。
一方、高付加価値の製品ほど、原材料の値上げに対し、
免疫が強くなることも自然の成り行きです。
原材料の価格が上昇した場合の生産者価格に及ぼす影響度を、
インターネットで見ていましたら、興味深い数字が出てきました。
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輸入鉄鉱石価格が10%上昇した場合の国産品の生産者価格が
上昇する上位10業種(部門)
1)鉄鋼 0.386%
2)金属製品 0.070%
3)その他の輸送機械 0.044%
4)再生資源回収・加工処理 0.040%
5)一般機械 0.037%
6)その他の自動車 0.032%
7)重電機器 0.025%
8)乗用車 0.023%
9)その他の土木機械 0.017%
10)建築及び補修 0.015%
これから見ても、世界のトヨタは儲かるようになっています。
因みに輸入原油価格の影響度は次のようになっています。
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輸入原油価格が10%上昇した場合の国産品の生産者価格が
上昇する上位10業種(部門)
1)石油製品・石炭製品 4.376%
2)ガス・熱供給 1.990%
3)再生資源回収・加工処理 1.401%
4)電力 0.965%
5)化学基礎製品 0.764%
6)鉱業 0.443%
7)合成樹脂 0.431%
8)鉄鋼 0.298%
9)運輸 0.224%
10)化学最終製品 0.214%
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原油についても、付加価値の高い製品ほど影響度が少なくなっています。
ここで、投資家の立場で目を海の向こうの中国に向けた時に、
上の文章に出てくる宮地鉄工のような、十年間の業績安泰を保証された業種は
どこなのでしょうか。
どの業種に旨味があって、かつ将来性があるのでしょうか。
もうすでに目をつけられていると思います。
次回は樫山株式会社です。