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【社説】

漫画性描写規制 仕切り直して論議を

2010年6月4日

 どぎつい子どもの性描写がある漫画などの販売を規制する東京都青少年健全育成条例改正案をめぐり、都議会での賛否が割れている。「表現の自由」を守りつつ規制できるよう知恵を絞り直せ。

 子ども相手の強姦(ごうかん)や近親相姦といった性的な暴力や虐待が、社会的に許されるかのように描いた漫画やアニメ、ゲームソフトは子どもの目に触れないよう遠ざけておきたい。そんな親心をくんだのが都側の改正案だ。

 過激な性描写の悪影響から子どもを守りたいのは市民共通の思いだが、最大限尊重されるべき表現の自由が侵されかねない方法では理解は得られまい。「創作活動を萎縮(いしゅく)させる」と漫画家や出版業界が反発するのもうなずける。

 改正案の趣旨はこうだ。服装や所持品、学年、背景などから十八歳未満と分かるキャラクターの性行為を「みだりに性的対象として肯定的に描写し、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害する」作品は、成人コーナーに並べて子どもに販売しないよう事業者に自主規制を求める。

 さらに「強姦など著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写した」作品が一般の書棚に並んでいれば、都は「不健全図書」に指定して成人コーナーに移動させ、子どもへの販売を禁じるという。

 異論が噴出したのは、読み手の主観に左右されがちな性描写そのものをベースに販売規制の網を掛けようとする仕組みだからだ。

 登場人物の年齢をどう見分けるのか。容姿やせりふ、場面はどのようにでも描くことができる。作品を読んだ未熟な子どもが行為をまねたり、性意識がゆがめられたりする恐れがあると都側は強調するが、その科学的根拠はない。

 「みだりに」「肯定的に」「健全な判断能力」「著しく社会規範に反する」など条文にはあいまいな文言が目立ち、恣意(しい)的な運用も懸念される。

 都側はそんな表現規制を安易に持ち出す前に、既に定着している不健全図書指定制度で対応すれば足りよう。子どもの性的感情を刺激したり、残虐性を助長したり、自殺や犯罪を誘発する作品はとうに規制対象なのだから。

 ただ、漫画家や出版業界も表現の自由を享受するためにこそ、商業主義を排して都側と議論を深めてほしい。身の回りにあふれる性描写について、大人が学校や家庭、地域で子どもとコミュニケーションを図り、耐性を養う環境づくりも大切だろう。

 

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