きょうの社説 2010年6月4日

◎企業の受注開拓 「オール石川」の態勢構築を
 新幹線や原発、上下水道など日本が誇る技術を官民の総力戦で海外に売り込む動きが活 発化してきた。経済産業省が公表した「産業構造ビジョン」でも、四つの転換の一つとして政府が担う役割の転換を掲げ、輸出受注に積極的に関与する「オールジャパン」態勢を打ち出した。中国、韓国などのインフラ輸出に危機感を強め、劣勢を巻き返すための転換とはいえ、官民の一体的な協力は輸出を増やし、日本経済を強くするうえで欠かせぬ戦略である。

 こうした国の動きを地方に当てはめれば、地場の優れた技術を国内メーカー、あるいは 海外に売り込むうえで、重要な役割を担うのは自治体である。技術のすそ野が広い自動車、航空機産業などでは地域ぐるみの官民連携が各地で進み、受注獲得は企業間から地域間競争の様相を呈している。技術を売り込むための「オール石川」のスクラム構築は、産業政策としても極めて大事である。

 県の6月補正予算案には、メーカーの下請け企業を対象に、共同受注の仕組みづくりを 支援する施策が盛り込まれた。業種を機械、繊維、食品、情報技術とし、工程の異なる複数の連携を促す。企業のコスト削減などが狙いだが、石川の技術の集積を示すうえでも受注の共同化は有効である。

 県はこれまでトヨタ、日産、三菱重工などとの間で商談会を開いてきた。企業にビジネ スチャンスの場を提供するだけでなく、そこには実利を確実に呼び込む戦略がいる。地域間の受注競争を勝ち抜くうえで知事の出番も増えるだろう。

 国の「産業構造ビジョン」が指摘する「技術に勝って事業に負ける」という日本企業の 最近のパターンは、原発などのインフラ輸出に限らず、県内の中小企業でもあるのではないか。受注開拓は個々の企業の努力にかかっているのは言うまでもないが、横断的な連携が有効なら、自治体が積極的に環境整備を進めてほしい。

 繊維や医薬・健康分野では県境を越えた官民連携の「産業クラスター」も動いている。 協力できる分野があれば「オール北陸」の枠組みも構築し、ビジネスが生まれやすい土壌を広げていきたい。

◎「貧困ビジネス」横行 急ぎたい法規則の強化
 長引く景気低迷と雇用情勢の悪化により生活保護の受給世帯が過去最多となる裏で、保 護費の不正受給も増加の一途をたどっている。大阪府警は先ごろ、転居費用名目で生活保護費をだまし取った疑いでNPO法人の幹部を名乗る容疑者らを逮捕したが、従来型の不正だけでなく、ホームレスら生活困窮者に住居、食事を提供して生活保護費から高額料金を徴収する「貧困ビジネス」の横行が目に余る。

 特に、社会福祉法に定められた「無料低額宿泊所」の一部が、生活保護費を“ピンハネ ”する貧困ビジネスの温床になっているのは由々しい事態であり、法規制の強化を急ぐ必要がある。

 無料低額宿泊所は「生活困難者に無料または低額で住居を提供し、生活を助ける施設」 と規定され、NPO法人などが運営するケースが多い。所在する自治体への届け出が必要であり、厚生労働省の昨年6月時点の調査で、全国の施設数は約440に上り、約1万4千人の入所者のほとんどは生活保護費受給者である。

 本来は善意の施設であるが、中には無届けで必要以上の料金を請求して生活保護費を吸 い上げる悪質業者もいるという。自治体関係者の間では「施設の定義があいまいで、強制力のある指導がしにくい」という声も聞かれる。

 このため、民主党議員らは無料低額宿泊所の規制を強化する法案づくりを進めている。 施設サービスの内容を明示して契約書面を残すなど、入所者が不利益を強いられないようにする法案をまとめ、議員立法をめざしているが、今国会での成立が困難な情勢になっているのは残念である。

 生活保護をめぐる問題は根が深く、受給世帯が多くて財政負担に窮している大阪市など は、貧困ビジネスの対策強化だけでなく、例えば、働ける人には保護費の支給に先立って求職活動や職業訓練を義務付けるなどの制度改正を国に要望している。ケースワーカーの不足も全国的な課題であり、生活保護費受給者の就労と自立を促す仕組みを抜本的に考え直す必要性が一段と高まっている。