ディスカバリー・モーメント discovery moment
苫米地英人博士
Q1.ひらめいた瞬間について
20年近く脳の研究をしてきたんだけど、数年前にハタとひらめいたことがある。それは「今この瞬間のわれわれの認識も、過去の記憶で成り立っている」っていうこと。
「過去のことを思い出す」という脳の働きは、過去の事実を頭の中から取り出すのではなくて、過去に見たもの、経験したことを脳が「再構成」することだ、ということは15年前にはわかってた。催眠の研究をしていたからね。催眠で人工的に作ったニセ記憶でも、人間は本当の記憶と同じようにリアルな記憶に感じる。つまりそれは、「記憶」というものはそもそも、脳で合成したものだから。
でも、これは過去を思い出しているときに限ったことじゃない。今、目に入ったものだって、脳で像を結ぶまでには200ミリから300ミリセカンドかかる。ということは、ほんのわずかの遅延だとはいえ、「過去」は「過去」だ。脳は現在をそのまま認識するのではなくて、200ミリセカンド遅れた世界を再構築してわれわれに「現在」だと認識させているんだ、ということに、ある日、はっと気づいた。そうして考えると、現在の目の前の現実も、記憶を再合成して認識しているのだと。つまり今日の世界は昨日までの記憶でなりたっているということを。
催眠や脳機能の研究をずっと続けてきたけど、おそらく、こういう研究をしていてこれを言い出したのは僕が最初だろうと思う。ここ数年の、一番大きな「ひらめき」の瞬間だね。
人間がひらめくのは「コンフォート・ゾーン」にいるとき。アウェイで緊張しているときには、目の前にある物理的な状況にはすばやく対応できるけど、抽象的な思考はできない。つまり、IQは下がってる。
近代スポーツは頭を使わないと勝てないでしょう? たとえばサッカーなら、時間・空間を超えた認識力や観察力が必要とされるけど、アウェイで緊張しているとそういう抽象思考はできない。だから、近代スポーツはアウェイは必ず不利になる。
科学者は3年に1度ひらめけば食えるって言われててね(笑)。まだ、自分の研究所を持っているわけでもなくて今ほど忙しくなかったころは、よく上司に「そんなわけで、温泉に行ってきまーす」なんて言って出かけてたよ。リラックスしているときが、一番、高度な抽象思考に適した環境だからね。
Q2.過去に戻れたら会いたい人は?
イエス・キリストと仏陀(釈迦)だね。モハメッドにも。
彼らが悟りのすえに得たものというのは、弟子やら後世の人間がずいぶんゆがめて伝えちゃってるから、いまの世の中には全然正確に継承されてない。
たとえば、イエスは「人間」と「神」が契約するという旧約聖書の考え方を否定した。「旧約」の”約”は”契約”の約。契約をするというのは「人間」と「神」を「甲」と「乙」のように権利と義務がお互いに発生する対等な立場として見るということになるから。それはおこがましいとイエスは言った。ところがそのイエスの教えに「新約聖書」と名前をつけた。つまり新しい契約、これはキリストの言っていることに根本的に矛盾している。
でも、キリストが主張したことや、仏陀が伝えようとしたもの、つまり「空」や「縁起」を、僕はかなり正しく理解してきているという自信がある。だから、直接会って話してみて、それを確かめたいんだよね。
Q3.100年後の世界に行けたら?
僕が予想したような世界になっているかどうか、確かめたいね。
人間の脳の寿命は200年はあるだろうと言われている。でも脳以外は人体の寿命はせいぜい120年。となると、脳の寿命にあわせるとしたら、首から下を人工の部品で置き換えていくことになるよね? 100年後、人間は、首から下は人工の体で生きている。それが僕の予想してる世界です。