憲法が「国権の最高機関」と定める国会のルールを変更する場合は、あらかじめ与野党で十分に協議して合意形成を図るのが筋である。できる限り少数意見にも耳を傾け、全会一致を目指すべきであることは言うまでもない。
ところが、そんな議会制民主主義の慣例を揺るがしかねない動きが表面化している。もし、衆院で圧倒的多数を占める与党が、このまま「数の力」を背景に強引に押し通そうとするのであれば、将来に禍根を残すと指摘しておきたい。
民主党など連立与党が、野党の猛反発を押し切って、官僚の答弁禁止や副大臣・政務官の増員を骨格とする国会改革関連法案を衆院に提出した。議員立法の「国会審議の活性化のための国会法改正案」と「衆議院規則の改正案」である。
政府特別補佐人から内閣法制局長官を除外する。内閣府の副大臣を2人、内閣府など5府省の政務官を計10人それぞれ増やす。政府参考人制度を廃止する代わりに、行政機関の職員や学識経験者を対象とする「意見聴取会」を開催する。
そんな国会改革案が盛り込まれた。官僚依存の体質を改め、政治主導で国会審議の活性化を目指すと与党は言う。
民主党の小沢一郎幹事長が、熱心に取り組んできた国会改革案でもある。とりわけ、憲法9条と集団的自衛権の関係など、憲法解釈をめぐる内閣法制局長官の国会答弁を禁じるのは、小沢氏の持論として知られている。
憲法解釈のような高度に政治的な判断こそ政治が担うべきであり、官僚任せにしてきたのは政治の怠慢にほかならない。小沢氏はこう主張するが、一方で野党を中心に「集団的自衛権の行使を認めない歴代政府の憲法解釈が、時の政権の都合や思惑でなし崩し的に変更されるのではないか」という懸念も根強い。
このような問題も含めて、政治主導のあり方と国会運営のルールは、国民的議論も踏まえて熟慮すべきである。
そもそも、国会運営の制度変更は、衆院議長の私的諮問機関である議会制度協議会で政党間協議をするのが、国会の慣例である。
確かに民主党はこの協議会開催を各党に呼び掛けてきたが、野党は「政治とカネ」の問題を抱える小沢氏らの国会招致が先決だとして応じなかった。
だからと言って、議会制度協議会を開催しないまま、野党の反対を無視するかのように法案提出に踏み切ったのは、あまりにも強引なやり方ではないか。
自民党など野党4党は、横路孝弘衆院議長に仲裁を求めたが、その動きを封じるように与党は法案提出へ突き進んだ。与野党対立は激しくなるばかりである。
民主党は「今後、与野党合意に向けて努力していく」とも主張している。そうであるなら、なぜ法案を提出する前の政党間協議をすっ飛ばしたのか。与野党が歩み寄る努力を尽くしたのか。あらためて強い疑問を禁じ得ない。
=2010/05/18付 西日本新聞朝刊=