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クローズアップ2010:鳩山首相退陣 小沢氏権力に固執 水面下で火花

 ◇首相「政治とカネ」で対抗

 鳩山由紀夫首相は辞意を表明した2日午前の両院議員総会で「とことんクリーンな民主党に戻そう」と述べ、政治資金規正法の問題を抱える小沢一郎前幹事長の影響力を封じる意向を強く示した。だが、小沢氏は総会の直後に開いた党常任幹事会で、わずか2日後の4日に代表選日程を電撃的に設定。組閣日程にまで言及し、今後の政治日程を含め主導権を離さない構えだ。党内各グループの代表選に向けた動きも、「小沢か非小沢か」が焦点。首相は小沢氏を巻き込み辞任したが、小沢氏は党への支配力を今後も維持する意向と見られ、後任の幹事長ら幹部人事に注目が集まっている。【須藤孝】

 「民主党が変わった、クリーンになったとの印象を与えるのが大事だ。新代表の選出の仕方、新代表がどのような人選をするかにかかっている」

 首相は2日夕、首相官邸で記者団が「(小沢氏が)隠然たる影響力を発揮するのでは、国民はクリーンな政党と認識しない」と質問したのにそう答えた。

 一方の小沢氏。「これからも一兵卒として目標に向かって一緒に頑張っていきたい」と、首相の辞意表明後に開かれた党常任幹事会で「一兵卒」を強調。幹事長職を辞してもなお影響力を行使するのではないかという党内の疑心暗鬼を否定した。

 表向き、両者の発言は矛盾しない。だが、2回にわたる首相と小沢氏の会談や、水面下の交渉では、進退を巡り激しい権力闘争が繰り広げられていた。

 先に仕掛けたのは小沢氏。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題をきっかけにした社民党の連立離脱を巡り、参院の改選議員や参院執行部から首相退陣論が噴き出すのを放置した。「今夏の参院選は鳩山首相では戦えない」との党内世論を広げる狙いがあったほか、政権批判が首相に集中すれば、小沢氏自身が抱える政治資金規正法の問題の影が薄れるとの思惑ものぞく。

 首相が責任を一身に背負い辞任し、自らは幹事長職にとどまるのが小沢氏にとってのベストシナリオ。だが、首相は「政治とカネ」の問題をあえて取りあげた。小沢氏の幹事長辞任が「自動的」な辞任ではなく、あくまでも首相が求めて「政治とカネ」の責任をとらせたものであることを強調し、小沢氏の影響力をそぐ狙いがあったと見られる。民主党議員は首相の一手を「ハトの一けり」と語り、ロッキード事件で、田中角栄元首相の秘書官だった榎本敏夫氏の前夫人三恵子氏が、榎本氏に不利な法廷証言をした際「ハチの一刺し」と言ったのをもじった。

 首相の手法に小沢氏サイドは強く反発している。小沢氏に近い党幹部は「首相は辞意は言ったが、その後で辞意表明のタイミングなどいろんな条件を付けてきた」と語り、首相が小沢氏に事実上の辞任要求をしたことに不快感を示した。

 小沢氏自身も「ポスト鳩山」に向けて素早く動いた。代表選をわずか2日後の4日に設定。昨年5月11日に小沢氏が民主党代表を辞任した際、5日後の16日に代表選期日を設定し「反小沢」の動きを封じたのと同じ手法だ。小沢氏に近い山岡賢次前国対委員長は2日夜、首相指名選挙と組閣を4日中に一気に行うとした。小沢氏の影響下で短期間で組閣を行い次期首相の組閣の選択肢を狭めようとする思惑が垣間見える。

 小沢氏は2日昼、国会内で記者団に「自分自身として補佐の役割を十分に果たし得なかったと反省している」と強調し、首相辞任に伴う幹事長辞任という認識を強調。辞任の決断時期については「お互いに期するところが一致したということだ」と明言を避けた。

 民主党の小沢支配からの脱却を目指した首相の意図は実現するのか。小沢氏の巻き返しで早くも揺らぎ始めたが、答えは代表選と党役員人事に表れる。

 ◇不透明感増す「普天間」

 鳩山首相は、米軍普天間飛行場移設問題を退陣理由の筆頭に挙げた。外交・安全保障問題が首相退陣を直接的に招いたのは、1960年に日米安全保障条約改定を巡る混乱の責任を取って辞任した岸信介首相以来。普天間問題をてこにし、在日米軍基地縮小と自衛力増強をセットにした持論の「常時駐留なき安全保障」構想を、首相の座と引き換えに世論に問いかけた形だ。

 「普天間が失敗に終わったみたいに思われているかもしれないが、必ず『選択として間違ってなかった』と言ってくださる時が来る」。鳩山首相は2日夕、首相官邸で記者団に語った。これに先立つ辞任表明では「米国に依存し続ける安全保障を50年、100年続けていいとは思わない」と、5月28日の記者会見で語ったフレーズを繰り返し強調した。

 首相は、普天間問題が迷走し始めた昨年末以降、「常駐なき安保」を封印して問題解決に取り組んできたが、最後になって封印を解いたかのようだ。普天間問題で米国を説得できず、ほぼ現行案に回帰せざるを得なかったことへの悔しさがにじんだ。

 一方、普天間移設に関する日米共同声明の実現は首相退陣でいっそう不透明感を増している。共同声明で、代替施設は沖縄県名護市の「キャンプ・シュワブ辺野古崎地区及び隣接する水域」に設置し、8月末までに施設の位置、配置、工法について専門家による検討を完了、9月にも開かれる次回の日米安全保障協議委員会までに計画を決定するとしているが、沖縄など地元の合意はとれていない。

 鳩山首相は新政権に対し「できる限り県外に米軍基地を移すことができるよう努力を重ねることは何より大切だ」と注文を付け、「社民党にはこれからもできる限り協力をお願いしたい」と強調した。しかし同党の福島瑞穂党首は2日、国会内で記者団に「日米共同声明の見直しが必要だ」と改めて指摘した。普天間問題が参院選の最大の争点となることは必至だ。【上野央絵】

毎日新聞 2010年6月3日 大阪朝刊

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