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クローズアップ2010:普天間・閣議決定 「配慮ない」社民猛反発

 ◇福島氏「沖縄裏切れない」

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設方針が28日夜、閣議決定。署名をあくまで拒否した福島瑞穂消費者・少子化担当相に対し、鳩山由紀夫首相が罷免に踏み切った。迷走を続けた普天間問題は、ついに連立与党間に大きな亀裂を走らせ、7月に迫った参院選の行方はさらに不透明感を増している。

 社民党は福島瑞穂党首が閣僚を罷免されたのを受け、連立政権を離脱するかどうかの判断を迫られることになった。連立維持派が大勢だった同党内も、日米合意を優先する形で積極的に「福島切り」に動いた鳩山由紀夫首相への反発が急速に高まっている。福島氏は28日夜、罷免後の記者会見で「ボトムアップの政党なので皆さんの意見を聞きたい」と述べるにとどめたが、維持派だった複数の議員も「罷免されれば政権離脱は仕方ない」と話し始めている。

 福島氏は会見で「社民党と私は沖縄を裏切ることはできない。『辺野古の海の埋め立ては自然への冒〓(ぼうとく)』と言いながら、辺野古に戻ったことに激しく失望している。私の罷免は沖縄を切り捨て、国民を裏切ることだ」と首相を激しく非難した。「社民党は言葉に責任を持つ。そういった政治をやらねば存在意義はない」とも述べ、言葉の軽さが指摘される首相を皮肉ってみせた。

 28日昼の両院議員懇談会では、連立維持派が福島氏に閣議署名拒否の翻意を迫る場面もあった。重野安正幹事長は「離脱すればマスコミも扱わなくなる。選挙前にそういうことも考えねばならん」と説得。福島氏が「(日米共同声明に)『辺野古』が入っており認めるわけにはいかない」と反論すると、「野党になる準備もなく、反対、反対では無責任極まりない」(又市征治副党首)との批判も出た。

 維持派は与党としての実績を強調して参院選に臨もうとし、福島氏ら原則論派は普天間問題での妥協が党への支持を失わせると考えたがゆえの対立だった。党首が罷免されるに至った今、「民主党は小政党への配慮がない。結論を押しつけてくるだけだ」(幹部)など、連立パートナーより米側との信頼維持を選んだ首相への反発が渦巻く。【西田進一郎、小山由宇】

 ◇民主、参院選戦略に揺らぎ

 連立与党間に大きな亀裂の走った28日、民主党の小沢一郎幹事長は社民党の福島瑞穂党首に電話で連立残留を働きかけたものの、表立って「罷免」回避には動かなかった。夏の参院選へ向け社民党との選挙協力を維持したい民主党執行部には鳩山由紀夫首相への不信感も募っており、「小鳩」体制を前提とした民主党の参院選戦略も微妙に揺らぎ始めた。

 小沢氏は28日、国会内の幹事長室で輿石東参院議員会長らと会ったが、国会に姿を見せたのはこの約1時間だけ。福島氏への電話で政府の対応を暗に批判したが、日米合意や閣議決定にブレーキをかけたりはしなかった。党幹部は「普天間は首相がやることだ」と説明する。

 だが、小沢氏らは一方で、首相を今後も支える明確なメッセージも発していない。自らも「政治とカネ」問題を抱える小沢氏にとって、首相の退陣は自身の進退に直結しかねず、「鳩山降ろし」に動くわけにもいかない。副幹事長の1人は「ここで小沢氏が動けば権力闘争とみられる」と、「親小沢」対「非小沢」の党内抗争につながる展開を恐れる。

 当面は社民党を連立に引き留められるかが焦点となる。支持率低落で無党派層の「民主離れ」が進む中、平田健二参院国対委員長も「現状が相当きついということは実感している。(首相の)口から出たものはのみこむことはできない。国民が理解してくれるかどうかは別として説明する必要がある」と言葉を選びつつ、危機感を隠さない。【須藤孝】

 ◇首相の言葉、不信増幅

 普天間問題の迷走の一因は、鳩山由紀夫首相の場当たり的発言が国民の不信感を増幅させたことにある。安全保障政策への認識の甘さも露呈し、「首相の資質」さえ問われた。28日夜の会見で「米海兵隊をひとくくりにして本土に移す選択肢は、現実にはあり得なかった」と反省を口にした首相だが、「この一歩を一つの出発点とし、命がけで取り組む」と語るなど、再び大仰な言葉を繰り出した。

 「最低でも県外」。衆院選を控えた昨年7月19日、沖縄市での発言は県民の期待を高め、その分首相を最後まで苦しめた。

 結局「辺野古回帰」という結末に、28日は「自身の言葉を守れなかった」と謝罪する羽目になった。

 「参院選前に決着しなければ最大の争点になる可能性があった」。28日、鳩山首相は普天間問題の決着期限を「5月末」に設定した理由をそう説明した。しかし、これも目算があったとは言い難い。

 首相は4月15日の段階でも「決着」の定義を「米国、沖縄、連立与党が『この方向でいこう』と理解を示すこと」と語っていた。ところが沖縄、社民党との協議はいっこうに進まない。そして時間切れとなった28日、「沖縄、連立より米国」とばかり、共同声明を発表し、社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相の罷免に踏み切った。

 28日の会見で首相は日米合意を優先した理由について「日米の信頼関係維持が最大の抑止力」と語った。それでも社民党への未練は断ち切れず、記者会見は午後5時スタートのはずが4時間延びた。【坂口裕彦】

 ◇異例の党首罷免

 福島瑞穂消費者・少子化担当相の罷免は戦後5人目の閣僚罷免となる。憲法68条の規定に基づくもので、05年の郵政解散で衆院解散の閣議書への署名を拒否した島村宜伸農相(当時)の罷免以来、約5年ぶり。実質的に更迭された閣僚でも、形式上は自ら辞表を出す形をとるのが通例で、その上今回のように連立与党の党首クラスが罷免されるケースは極めて異例だ。【坂口裕彦】

毎日新聞 2010年5月29日 大阪朝刊

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