【空誘い】Flying Fish

<オープニング>


 暗闇の中、マンホールの蓋がコトリと音を立てて開いた。
 外界から遮断された地下道より這い上がる多数の影――異形の物達。先陣を切ったのは猫だろうか。半ば腐りかけた四肢で跳躍し、背を伸ばす。その数、十数体。
 続いて巨大な蛇が姿を現した。
 嘴を持ち、尾に孔雀の羽を持つ妖獣はマンホールの穴からずるりと体を引きずり出すなり、猫の群れと共に移動を始めた。深い霧の中、誰にも知られる事なく夜の街を闊歩する。
 ぐねぐねと続く坂道を抜け、狭い階段を登る。古い住宅が立ち並ぶ一角で彼らはその歩みを止めた。何もない、ただの空き地の目の前で。更に深まった霧の中、妖獣達は何かを待つかようにその空間を仰ぎ見る。
 そのうち、何もないはずの空間が僅かに歪み始めた。
 影、だろうか。
 それはゆらゆらと揺れながら一軒の古民家となる。前触れなく開いた玄関から、空を飛ぶ魚のような妖獣が3体現われた。トンボのような薄い羽で空を掻き、ムカデに似た脚をひくひくと蠢かせている。それらはまるでついて来いと言うかのように、集まったゴースト達の前で向きを変えた。
 再び戻っていく飛魚に連れられて、ゴースト達はゆっくりと古民家の内部へ姿を消してゆく――。

「神奈川県の保土ヶ谷辺りを、下水道から這い上がって来たゴーストが群れで移動してるみたいなのよ」
 甲斐原・むつき(高校生運命予報士・bn0129)は集まった能力者の前でそんな風に説明を始めた。仰木・弥鶴(グリーンスリーヴス・bn0041)が、首を傾げて確認する。
「保土ヶ谷って、あの坂の多い?」
「そうよ。今から向かうと、細くて急な階段の半ばで遭遇する形になるかしら」
 ゴーストの群れが目指すのは、その先にある小さな空き地。だが、何も無いはずの更地に古民家が出現するのだとむつきは言う。
「宮崎や他の地域で頻発した古民家事件との関連は分からないわ。でも、無関係とも思えない。ただし、あちらは古民家の消失であるのに対してこちらは『出現』する古民家なのよ。現われた古民家の中からは空を飛ぶ魚の妖獣が現われて、集まったゴースト達を古民家の中に招き入れようとしているの」
 その仕組みも気になるが、まずはゴーストを退治してからでなければゆっくり調査もできない。下水道の内部から這い出して来たゴーストはそれなりに強い力を持ち、中途半端な戦いを挑めば返り討ちにされてしまうだろう。
「だから、まずは空き地を目指すゴーストの迎撃に全力を尽くしてちょうだい。古民家の調査を行うのはそれからよ」
 そう断ってから、むつきは詳しい説明をするために手元の手帳をめくった。

 ゴースト群の構成は、妖獣が1体にリビングデッドが12体。
 前者は孔雀の羽を持った蛇、後者は鋭い牙と爪を持った猫の集団だ。
「皆には階段の下から、この群れに追いついてもらう形になるわ。蛇妖獣が先頭になって移動してるみたいだから、皆から見ると猫の群れが前、蛇妖獣が最後尾という形になるわね」
 階段は狭く、一列になって戦うより他にない。かなり急な階段なので足元にも気を配る必要があるだろう。
「猫のリビングデッドは近付くものを爪で切り裂き、遠くにいる敵には雷を落として攻撃を与えるわ。蛇妖獣は自己強化を含む回復技と、爆発射程を持つ毒羽攻撃を駆使するわよ。敵も一列になるしかないから、蛇妖獣はかなり遠くに布陣する形になるでしょうね」
 だから、それを踏まえて戦い方を相談して欲しい。猫リビングデッドは大した力を持たないが、蛇妖獣の攻撃は激しいものとなるはずだ。
 むつきは能力者達を見回して今一度、念を押す。

「撃破に成功したら、古民家や飛魚妖獣の調査をお願いするわね。そこから先は皆の判断に全てを任せるわ。古民家事件の真相を暴くためにも、気合を入れて頑張ってちょうだい」
 長丁場になるが、一連の奇怪な事件を解決する糸口になるかもしれない。
 運命予報士は激励の言葉で説明を結び、小さく頭を下げた。いってらっしゃいと、いつもの言葉で彼らを見送るために。

マスターからのコメントを見る

参加者
竜胆・螢(銀夜の守護竜・b02371)
鷹來・遥姫(春色兎姫・b11253)
神凪・円(守護の紅刃・b18168)
梓原・真矢(スタットコール・b23584)
桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)
リヴィ・フランケン(はぐれ花嫁・b31446)
桐真・響(アゲート・b56476)
マチェイ・ノヴァク(血呑み児はネリネを抱く・b62429)
NPC:仰木・弥鶴(グリーンスリーヴス・bn0041)




<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

竜胆・螢(銀夜の守護竜・b02371)
空き地に現れてゴーストを迎え入れる古民家な……特殊空間か何かなのか
いや、考えるのは後だな。まずは奴らを叩く!
追撃戦だが、向こうに上を取られてる。厳しい戦いになりそうだ。

【隊列】
☆竜胆・桐真・☆鷹來・☆桐島・神凪・リヴィ・マチェイ・弥鶴・梓原
☆付きで先頭をローテ

【戦闘】
旋剣の構えで攻撃力を上げつつ接敵
先頭で接敵してるときは紅蓮撃、後ろに回っている間はダークハンドで攻撃
一番近い猫から確実に落としていき、猫を倒して空いたスペースを先頭のローテメンバーで埋めて上っていく
猫掃討後は出来るだけ先頭に立って紅蓮撃で攻撃、体力的に危なく感じたら鷹來か桐嶋と入れ替わって回復を受ける
1列に固まってる以上お互いに範囲攻撃の良い的だな。
蛇の毒羽や猫の雷鳴が来ると判断したら防御態勢を取りつつ後ろへ注意を呼び掛ける

「本命まで先は長いな……けど、一体ずつ倒して進むしかない。道を開けてもらうぞ」

「何とか辿り着いたな。あと一息、行くぞ!」

【飛魚妖獣】
出てこないか一応注意を払っておき、万一出てきてしまったらまともに手は出さずに蛇の打倒に集中
蛇を倒したら即座に撤退する

【撤退条件】戦闘不能者を3名以上出し、かつ戦闘可能人数<敵残存数


【戦闘終了後】
一応空き地に出てくる古民家の様子だけでも確認しに行く
但し、深入りはせずにゴーストが出てきたら戦闘になる前に退却する

鷹來・遥姫(春色兎姫・b11253)
◆心情
何もないところにお家が出てくるなんて変なのー
空飛ぶお魚さんも気になるけど
まずは集まってるゴースト達を倒さなきゃなのねー!
大きなゴーストホイホイは危険です!

◆準備
灯り用意

現場についたら隊列を整えながら急いで階段を登るのね
ハルは前衛交代要員なので前の方にいます!

「あ、猫発見ー!」
ってことは、前のほうにいるのが蛇?
うーん…なんかケバイ
かわいくなーい

◆戦闘
撃破順は猫→蛇
隊列:竜胆・鷹來・桐真・桐島・神凪・リヴィ・マチェイ・弥鶴・梓原

最初は吹雪の竜巻で敵全体を攻撃
「カチンコチンになっちゃえー!」
猫を一気に凍らせちゃいます!

最前衛さんの体力が減ってきたら
黒燐奏甲で回復
「大変!急いで回復しなきゃ…っ!!」

他の回復担当と回復対象が被らないように確認しながら
接してる人の傷を癒すのね
「はいはーい、ハルが回復してあげまーす!」

回復不要時は吹雪、アビが尽きた後は
近くの敵から射撃で攻撃
敵の疲労度を見極め、一体ずつ確実に倒していく
「そっちもう少しで倒せそう…!」

敵を倒してスペースが出来た時は
最前衛と交代
宗司くん・蛍くんと声かけしつつ、誰が前に出るか確認
「了解、ハルが前にでまーす!」
「よろしくなのね」
前に出た時と自分を回復する時は雪だるまアーマーを使用

猫の雷や蛇の毒羽には要注意
攻撃しそうだったら皆に注意をよびかける
「みんな、避けてー!」

ハルたち負けないもーん!

◆魚
「あれがお魚さん?」

出てきた時は動きに注意

神凪・円(守護の紅刃・b18168)
心情
古民家の謎が少しでも解ければ
仲間の今後の戦いが楽になるかも…がんばるぜ!(ぐ)
まずは此処を通してもらわないと、な!

弥鶴は久しぶり!頑張ろうな!
く、蜘蛛童、も!(蜘蛛は苦手でも仲間の使役には頑張って笑顔)

目的
敵(以後表記:猫・蛇)の殲滅
※飛魚妖獣は攻撃してこない場合は基本様子見
※撤退条件:戦闘不能者を3名以上、かつ戦闘可能人数<敵残存数で勝利が不可能と思われる場合・殿を担当

準備
作戦確認(認識を共有)
懐中電灯(アクセ)を肩に結ぶ
動きやすい靴/足元には常に注意

戦闘
敵を追い階段を登る
【隊列】竜胆/鷹來/桐真/桐嶋/神凪/リヴィ/マチェイ/弥鶴/梓原
階段下の者は列を崩し蛇の範囲攻撃を配慮した位置取りをする

攻撃優先目標(基本)
前方(能力者側)猫→後方(古民家側)猫→蛇

攻撃範囲内に
・蛇在り時
呪詛呪言(以後:呪言)→麻痺有>猫攻撃・麻痺無&麻痺回復>蛇攻撃※アビ切れまで繰り返し
「シビれてくれたら…御の字、だな!」(蛇は神秘特化と思うのでアビも奥義仕様)
・蛇不在時
最前方猫を含み敵を多く巻き込む形で森王の槍(以後:槍)→繰り返し※移動により蛇射程距離内で蛇在時作戦に変更

最前衛の体力に注意
:回復>攻撃(他回復役と連携し過剰回復は避ける)
他回復優先:低HP(使役持ち(回復役の梓原優先)・マチェイ)>自己回復無し者>自己回復有者>自分
いずれも体力半分が目安

意識的に声を掛け合い(残体力/足場/応援)励ます
前衛交代時に敵に邪魔されぬよう槍で攻撃

梓原・真矢(スタットコール・b23584)
■心情
空飛ぶ魚妖獣に浮かぶ古民家…
そこだけ見たら幻想的な取り合わせなんだがな
新しい住人が増えないよう頑張ろうな、細雪
(細雪←蜘蛛童)

■事前
動き易いよう懐中電灯をベルトで固定
直前に作戦内容の摺り合わせをしておく

■戦闘
隊列:(←前)竜胆・鷹來・桐真・桐島・神凪・リヴィ・マチェイ・弥鶴・梓原

俺は後衛
回復役として動こう
戦場全体の動きに注意を払い、
常に仲間の体力が3/4以上あるよう祖霊降臨で早めの回復を心がける
また、BSに罹った人が2人以上出たら赦しの舞でキュア
他の他者回復持ちの人と声掛けをして効率良く回復出来るよう気を付けよう

回復の必要がない時は破魔矢で援護攻撃を
狙う優先順は、弱っている敵>一番遠くの猫>猫>蛇

倒れそうになっても、諦めない
…ここで倒れていられないんだ!

移動の際は、俺が最後尾になるようにスペースを詰めていこう
足を踏み外さないよう足元に注意

■蜘蛛童
斜面移動が可能なら、前衛側で猛毒噛みつき
体力が半分以下になったら後衛位置まで下がり、2/3以上まで回復したら前衛へ戻るの繰り返し

不可能なら、後衛側から粘り糸で一番遠い敵の拘束に回って貰う

■戦闘後
細雪にゴーストの振りをして貰い、古民家へ潜入出来ないか試してみる
この時付近に隠れて様子を見よう
通じなければすぐに撤退する

古民家にゴーストが巣くう原因となっているのは何だろう
自然にそうなったのか、誰かが故意にそうなるようにしたのか
気になることばかりだ

桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)
…今度は『現れる』、か。
さっさと調べたいトコだけど、まずは邪魔なのから片づけるか。

配置は前衛寄りで、響と円さんの間に。
初手に旋剣の構えで強化。(以降旋剣は自分の回復のみに使用)
次いで猫妖獣にダークハンド改で攻撃を開始。
響のヴァイパーや他の仲間の範囲攻撃などに巻き込まれた猫の中でも、特に深手を負った個体を中心に狙う。
少しでも打ち漏らさない事を心がける。
『とりあえず消えろ。……邪魔だ、お前ら』

猫を撃破したら、前方のスペースが空く度に移動して敵との距離を詰める。
この時、前後にいる仲間のHPが自己回復や他者回復でも半分程度であれば、移動しつつその仲間へ奏甲を使用。

猫を殲滅し終えたら、蛇妖獣へダークハンド奥義で攻撃開始。
(※この時点でダークハンド改が残っている場合は残しておき、奥義が切れた後に使う)
全ての攻撃アビリティが尽きたら鎖剣の射撃で。
いずれも仲間の攻撃に重ねるように仕掛ける。
『…生憎、お前を向こうに行かすつもりも無くてなぁ…!』

自分のHPが他者回復でも半分程までしか回復しない場合、旋剣を使用。
『…こっちも倒れるわけにはいかねぇからな』

戦闘中は可能なら常に敵の動きを観察。
特に猫の雷鳴と蛇の毒羽の仕草には注意し、発動を察知できたら全体へ声がけをして周知。
『…来るぞ!』
『気をつけろ!』
など、周囲にしっかり聞こえるくらいの声で。
また、更地の方面から魚妖獣が来ないかも警戒。


撤退条件は仲間のそれに従う。

リヴィ・フランケン(はぐれ花嫁・b31446)
◆心情
各地で発生している「消える古民家」との繋がりが分かりませんが、「現れる古民家」を調査してみれば、何か分かるかもしれませんね。
消えたアレキサンドラのことも気になりますし、しっかりと調べたいところです。

まずは滞りなくゴーストを殲滅し、古民家の調査に乗り出したいですね。

◆陣形
一列。
リヴィは後衛。
最前列の者は、交替可能ならローテーションで位置を入れ替え。
無理なら立ち位置は変えずに奮戦。

◆行動
戦闘の邪魔にならないように、ヘッドライトを用意。

桐嶋・宗司さんに。
「一緒に戦うのは2年振りですね。頼りにしてますよ、よろしく」

先ずは茨の領域を使用し、効果を確認。
あまり効果を感じないようならば、穢れの弾丸での攻撃へ切り替える。
茨の領域による拘束に、ある程度の効果を感じたら、穢れの弾丸の攻撃の合間に茨の領域を使用し、ゴーストの動きを封じる。

タイミングを見てヤドリギの祝福を使用し、仲間を回復させつつ神攻をアップ。

回復要員は豊富なので、自分は気持ち攻撃寄り。
短期決戦を狙い、速攻。

◆魚妖獣
現れたら撃破の方向で。
ただし、相手の特徴を可能な限り調査する。

攻撃は、アビリティが残っていたら穢れの弾丸で攻撃。

◆ゴースト殲滅後
「さて、この次は古民家の調査ですね。いつまで現れているか分かりませんので、急いで向かいましょう」
負傷者がいれば状態を確認し、古民家出撃地点の空きへ向かう。

桐真・響(アゲート・b56476)
心情
パンドラの箱となるか、それとも魍魎渦巻くか…さーて拝ませて貰おうかな

準備
手持ちの懐中電灯を腰に括り付けて光源確保

戦闘
初手は前に進みつつラジカルフォーミュラ(以下ラジカル)し前から2、3番目辺りに陣取る
ライトニングヴァイパーぶっ放しつつまず猫を減らす
「こうも真っ直ぐだと撃ち甲斐があるねぇ!」
HP半分以下でラジカル
但しラジカルはなるべく移動時に使う様心がける
味方の移動時、昇降の邪魔にならぬよう同時には動かない様にする
前後の者でHP1/3以下の者が居れば下がるよう促し自分が前に
「だいじょぶ?先はまだ長いんだから無茶しないで」
手摺があればそれを掴み、階段から足を踏み外さないよう注意

戦闘終了後:古民家の妖獣対応
最初は隠れて様子見
梓原君の蜘蛛童に対する妖獣の対応を観察
蜘蛛童を古民家へ招き入れればそのまま観察し、何かの出現、消滅が無いか注視
蜘蛛童と戦闘になったら、妖獣の攻撃力を観察、味方の余力で対応出来そうであれば攻撃を仕掛ける

「さーて鬼が出るか蛇が出るか勝負といこうかね」

仰木さんへの指示
本人:位置は後衛
アビは森王の槍改×8
後方から森王の槍で攻撃
槍範囲に1体しか敵が居ない場合は通常攻撃の射撃

蜘蛛童:斜面移動不可能ならば粘り糸で一番遠い敵へ足止めを狙う
斜面移動可能なら前衛側にて猛毒噛みつき使用
蜘蛛童HP半分以下になったら後衛位置まで下がらせ、一番遠い敵へ粘り糸使用で足止め狙い
HP2/3以上回復で前衛に戻り攻撃

マチェイ・ノヴァク(血呑み児はネリネを抱く・b62429)
ゴーストの撃破を目的とする

※プレイング内に他参加者との齟齬がある場合は、より多数意見に従う

■心情
自身の中に流れる同胞の血を感じながら、
姿の見えない『敵』が何を目論んでいるのかを知りたいと思っている
不安と同時に、守るべき一般人を思い浮かべながら
胸のロザリオを握りしめ、自身を励ます
「……アマネ、まってて、ね」

■戦闘
敵を確認次第、または味方と同時にイグニッション
階段では攻撃を受けた衝撃で落ちないよう十分に足元に注意する
味方全員を半径20m以内に含む後衛側に配置
範囲攻撃と射撃を行う

「…どい、て」
まずは味方に近い方の猫リビングデッドの数を減らすことを重視
バットストームでゴースト全体を攻撃
仲間と連携を取り、倒せそうならブラッドスティールで単体攻撃
アビリティが尽きた場合は射撃攻撃

仲間が前進した場合は隊列を崩さないよう同時行動
敵の攻撃が事前に分からないか確認、分かった時は仲間へ通達
「…あれ、あぶない……!」

■終了後
古民家の出る空き地の前で、震える体をロザリオを握りしめて抑える
「…ここ、に……」

■撤退条件・その他
戦闘不能者が3名以上で、戦闘可能人数が敵より少ない場合撤退
古民家からの妖獣を常に警戒し、出てきた場合は戦闘をせずに退却
「…だめ、にげなきゃ……!」

■口調
単語を途切れつつ発する
通常発言は全て平仮名
他人はナマエ呼び

仰木・弥鶴(グリーンスリーヴス・bn0041)(NPC)
 このキャラクターはNPC(マスターのキャラクター)です。プレイングはありません。




<リプレイ>

●カライザナイ〜1〜
「……お願い。まってて、ね」
 夜の住宅街を駆ける傍ら、マチェイ・ノヴァク(血呑み児はネリネを抱く・b62429)は胸に下げたロザリオを握り締めて恩人の名を囁く。風に乗って伝わる妖獣の匂いは近い――遠くで不気味な羽音が聞こえた。
「あれですね」
 細く、夜空へ届くかと思われるばかりに積み重なる階段の果てに妖獣が列を成している。リヴィ・フランケン(はぐれ花嫁・b31446)の呟きに鷹來・遥姫(春色兎姫・b11253)が頷いた。それぞれ持ち寄った明かりが縦横無尽に夜の道を照らし出す。
「下の方でもこもこ動いてるのが猫なのねー! てことは、1番奥にいる鳥みたいなのが蛇……?」
 目をすがめながら明かりの先を階段の上へ差し向けると、極彩色の羽が威嚇するように広げられた。遥姫が眉をひそめる。
「……なんかケバいのね。かわいくなーい」
「まーねぇ。間違っても趣味はよくないわ」
 腰に括り付けた懐中電灯を揺らして、桐真・響(アゲート・b56476)は急な階段を駆け上がる。
「初っ端は任せたよ」
「了解。危なくなったら替わり頼むぞ」
 響の前を行く竜胆・螢(銀夜の守護竜・b02371)が先陣を請け負った。追撃者の存在に気付いた猫が次々と足を止める。
「まずは此処を通してもらわないと……。頑張ろうな、弥鶴」
「うん」
 神凪・円(守護の紅刃・b18168)と仰木・弥鶴(グリーンスリーヴス・bn0041)は久し振りの共闘を喜び、励まし合う。見上げた蜘蛛童と目が合った円はぐっと堪えて笑顔を浮かべた。
(「蜘蛛は苦手、だけれども」)
 今は共に戦う仲間。蜘蛛童はそれに応えるように牙を打ち鳴らす。もう一匹の蜘蛛童――細雪もまた、主である梓原・真矢(スタットコール・b23584)と無言で視線を交わし合った。それだけで全てが伝わる絆の深さ。
 桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)は身軽に階段を駆け上がる遥姫の後に続く。黒鎖がうなりを上げて旋回するのと時を同じくして、未だ攻撃範囲に敵を含まない蛇妖獣の羽が舞い踊った。
 リヴィに呼ばれた宗司は視線だけを後方に向ける。
「一緒に戦うのは2年振りですね。頼りにしてますよ、よろしく」
「ああ、まずはこの邪魔なヤツらを片付けちまうか」
「ええ」
 こくりと顎を引いたリヴィの手元で奇跡の青薔薇が揺れた。紡がれる茨は次々と雷鳴を呼ぶ猫の四肢をひと思いに縛りあげる。マチェイの唇からかぼそい声がこぼれ落ち、遥姫の呼んだ吹雪が戦場を支配した。
「……どい、て」
「カチンコチンになっちゃえー!」
 それほどの力をもたない猫の群れはいとも簡単に魔氷の洗礼を受ける。一方、後方より放たれた蝙蝠の群れは先頭周辺の猫を巻き込んだのみ。けれど、充分だと言わんばかりにアスファルトを蹴った螢の斬馬刀がそのうちの一体を斬り伏せた。
「本命まで先は長いな……けど、一体ずつ倒して進むしかない。道を開けてもらうぞ」
「竜胆さんに同じく。こうも真っ直ぐだと撃ち甲斐があるねぇ!」
 軽やかに宣言しつつ、振り下ろされる響の電光剣。生み出される電流の迸りは猫の招雷を遥かに凌いだ。一直線に駆け抜ける電流は猫のほとんどを飲み込んだ後、ようやく収まる。
「細雪、いって」
 真矢の指示を受けた細雪は蜘蛛糸で後方の猫を絡めとった。そうして動きを制限する間に、猫を倒して空いたスペースを宗司が繰り上がる形で埋める。
 ――そこへ、蛇妖獣の毒羽が雨のように降り注いだ。来るぞ、という螢の声が羽音にかき消されかける。
「痛……っ!」
 宗司は顔をしかめて、まるで群れのボスよろしく鎮座する蛇妖獣を睨みあげた。前衛同士の距離をもう少し多めに取ってもよかっただろうか。思わないでもないが、そんな事を言っていたら回復もできやしない。遥姫は宗司に代わって前に出る傍ら、黒燐蟲を鎖剣に宿らせた。
「助かるわ」
 宗司は再び、後方よりダークハンドを走らせる。その背中へと降ろされる真矢の祖霊。ひた、と前を見つめ続ける真矢の瞳に雷鳴が映えた。
「ここで苦戦してなんていられないんだ……!」
 ああ、と円が頷く。
 弥鶴とともに紡ぎ上げた森王の槍が、遥姫を引き裂こうとしていた猫の喉元に突き刺さった。更にリヴィの弾丸が眉間を射抜く。 前衛が進むにつれ、真矢も足元を確かめながら階段を上る。どうしても必要な動作だが、その間は回復の手を休めなければならない。
「……こっちも倒れるわけにはいかねぇからな」
 その穴を、宗司は自らの構えで埋めた。無理しないでね、と微笑んだ響が自ら盾となる。手摺を掴み、ひらりと前へ。もう随分蛇妖獣までの距離が縮まった。
 ここからなら――余裕で射程に捉える事ができる。

●カライザナイ〜2〜
 夜の住宅街は即席の戦場と化していた。
「シビれてくれたら……御の字、だな!」
 響の電流が掛け値無しの剛であるならば、円の唇から零れる呪言は奈落の柔。極限までその使用に特化した呪言を受けては、さしもの蛇妖獣もやすやす回避というわけにはいかない。
 開戦と同時に強化を済ませていた事が仇となり、その全身を麻痺に侵された。
「今のうちに!」
「よし、さっさと残りの猫を片付けるぞ」
「はい」
「……うん」
 リヴィとマチェイの頷きは茨の制裁と捧血を伴った。既に半分以下にまで数を減らしていた猫のリビングデッドは、またしても数を減らす羽目になる。蜘蛛糸と茨に拘束された猫はマチェイに血を引き抜かれ、宗司の闇に引き裂かれ――ぼろぼろになりながら消滅。
「気をつけろ!」
 雷鳴を察知した宗司が声を張り上げる。単体では大した事のない攻撃だが、蛇妖獣の毒羽と連続で食らってはたまらない。
「はいはーい、ハルが回復してあげまーす!」
 響と螢の間に収まった遥姫が桜色の結晶輪を振りかざして黒燐奏甲を発動。同様のきらめきを放つ帯留めがライトの光を反射して輝いた。彼女と円が前衛の回復役を担ってくれるおかげで、真矢は舞を踏むことができる。
 赦しの舞は螢と響の体から毒を浄化し、傷を癒す。
 ――そしてついに、螢の剣先が蛇妖獣の鼻先へ届いた。
「何とか辿り着いたな。あと一息、行くぞ!」
「ああ。何としてもこの道、通してもらうぜ!」
 羽を広げかけていた蛇妖獣を、円の呪言が縛る。すかさずマチェイが指を掲げ、その体力を奪い取った。
「……生憎、お前を向こうに行かすつもりも無くてなぁ……!」
 容赦無く打ち出されたダークハンド奥義。地面から姿を現した闇の乱舞が猛威を振るう中、リヴィの祝福を受けて威力を高めた弥鶴の森槍が中空を駆ける。
「前、頼む」
「了解、ハルが代わりにでまーす!」
 残りが蛇妖獣1体になった時点で、それに攻撃を行うマチェイや弥鶴も当然毒羽の危険にさらされる。体力の低い彼らが狙われたら、終わりだ。響は僅かに目を細める。
「とっとと倒れてよ……!」
「んー、もうちょっとなのにー!」
 結晶輪はすかすかと蛇妖獣の首元を掠るばかり。マチェイのブラッドスティールも命中率には難がある。リヴィの弾丸も同様。
 ――となれば、螢の紅蓮撃と宗司のダークハンドが頼り。
 急な角度を駆け抜けた闇の手が孔雀の羽を引き裂き、炎を纏って振り下ろされた斬馬刀が蛇頭を打ち砕く。痙攣するように震えた巨体は、滑るようにして階段の上にずり落ちた。
 その輪郭が灰のように崩れて消えるのを、マチェイはロザリオを握り締めながら見届ける。
「……まずは一勝、かな」
 円は長い髪をかきあげて一息ついた。
 そしてすぐに表情を改める。本当の目的――古民家の調査はここからが本番だ。リヴィがその後を継ぐ。
「この次は古民家の調査ですね。いつまで現れているか分かりませんので、急いで向かいましょう――」

●カライザナイ〜3〜
 妖獣達が上るはずだった階段を、能力者達が代わって駆け抜ける。高らかに響く足音にも夜の街は動じない。そこにはただ闇があるだけだ。朝を待つ静寂の時が漂うだけ。
「急げ。古民家の様子だけでも確認しておきたい」
 螢はそのまま先陣を切って階段を上り終えた。いずれの空き地が『それ』であるのか、迷う必要はなかった。
 ちょうど能力者達が表の通りに差しかかった頃、空き地を覆い隠すように巨大な『影』が揺らめいていたからだ。
「これが…『現れる古民家』……」
 呟く真矢の目の前で、影は一軒の古民家を象る。マチェイはロザリオを手のひらで握り込み、その様子を固唾を飲んで見守った。響が真矢とその傍らに控える蜘蛛童を振り返る。
「それじゃ、頼んだよ」
「はい」
 彼らは物陰に身を隠し、細雪だけを古民家の前に残した。前後して古民家の入り口がぱかりと開き――そして、奇妙な形をした魚の妖獣が姿を現す。
「さーて鬼が出るか蛇が出るか勝負といこうかね」
 トンボに似た薄羽は闇を透かし、ムカデのような節足が空を掻いて前に進む。
 それらは蜘蛛童の前に辿り着くなり、勢いをつけて体当たりを始めた。こちらの気配を察知されてしまったのか、それとも本能的にそれを敵だと悟ったのか分からない。
 いずれにせよ、蜘蛛童をゴーストに見立てる作戦は失敗だ。
「撤退しましょう」
「ああ、深入りは禁物だ」
 真矢と螢、そしてマチェイはここが引き際と見定める。
 だが、響は冷静に蜘蛛童に攻撃を加える妖獣の様子を観察していた。同じく、注視していたリヴィと顔を見合わせて、頷き合う。
「大丈夫、いけるよ」
「私もそう思います」
 マチェイが悲壮な表情を浮かべ、2人の袖を引いた。 
「……だめ、にげなきゃ……!」
「でも、大きなゴーストホイホイはどうにかしなきゃならないのねー」
 遥姫は、ふよふよと泳ぎながら蜘蛛童に体当たりを繰り返す魚の動きに合わせて頭を揺らす。あれだけの攻撃を受けても蜘蛛童はまだ持ちこたえている。どうやら戦闘能力は大した事がなさそうだ。
 円も腰を上げる。
「ここで逃げたら何にもならない。古民家の謎が少しでも解けたらきっと、今後の戦いだって楽になるはず。だろ?」
「ええ……。古民家にゴーストが巣食う原因も目的も、このままでは分からずじまいですが……しかし」
「いいじゃん。駄目だったらまたその時に考えようぜ」
「ええ。取り合えず行ってみましょう」
 迷う真矢。適当な弥鶴に、毅然と言い放つリヴィ。宗司はそれに従い戦闘態勢を整えた。古民家が出現している時間はそれほど長くない。
 今、行かなければ――調査するチャンスは失われてしまうだろう。
「覚悟はいいかい?」
 響の問いに、人数分の頷きが返った。
 それは幕開けの合図。彼らは手にした詠唱兵器を掲げ、その矛先をフライングフィッシュ――奇怪な飛魚妖獣へと差し向けた。


マスター:ツヅキ 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2010/06/03
得票数:楽しい1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。