<リプレイ>
●カライザナイ〜1〜 「……お願い。まってて、ね」 夜の住宅街を駆ける傍ら、マチェイ・ノヴァク(血呑み児はネリネを抱く・b62429)は胸に下げたロザリオを握り締めて恩人の名を囁く。風に乗って伝わる妖獣の匂いは近い――遠くで不気味な羽音が聞こえた。 「あれですね」 細く、夜空へ届くかと思われるばかりに積み重なる階段の果てに妖獣が列を成している。リヴィ・フランケン(はぐれ花嫁・b31446)の呟きに鷹來・遥姫(春色兎姫・b11253)が頷いた。それぞれ持ち寄った明かりが縦横無尽に夜の道を照らし出す。 「下の方でもこもこ動いてるのが猫なのねー! てことは、1番奥にいる鳥みたいなのが蛇……?」 目をすがめながら明かりの先を階段の上へ差し向けると、極彩色の羽が威嚇するように広げられた。遥姫が眉をひそめる。 「……なんかケバいのね。かわいくなーい」 「まーねぇ。間違っても趣味はよくないわ」 腰に括り付けた懐中電灯を揺らして、桐真・響(アゲート・b56476)は急な階段を駆け上がる。 「初っ端は任せたよ」 「了解。危なくなったら替わり頼むぞ」 響の前を行く竜胆・螢(銀夜の守護竜・b02371)が先陣を請け負った。追撃者の存在に気付いた猫が次々と足を止める。 「まずは此処を通してもらわないと……。頑張ろうな、弥鶴」 「うん」 神凪・円(守護の紅刃・b18168)と仰木・弥鶴(グリーンスリーヴス・bn0041)は久し振りの共闘を喜び、励まし合う。見上げた蜘蛛童と目が合った円はぐっと堪えて笑顔を浮かべた。 (「蜘蛛は苦手、だけれども」) 今は共に戦う仲間。蜘蛛童はそれに応えるように牙を打ち鳴らす。もう一匹の蜘蛛童――細雪もまた、主である梓原・真矢(スタットコール・b23584)と無言で視線を交わし合った。それだけで全てが伝わる絆の深さ。 桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)は身軽に階段を駆け上がる遥姫の後に続く。黒鎖がうなりを上げて旋回するのと時を同じくして、未だ攻撃範囲に敵を含まない蛇妖獣の羽が舞い踊った。 リヴィに呼ばれた宗司は視線だけを後方に向ける。 「一緒に戦うのは2年振りですね。頼りにしてますよ、よろしく」 「ああ、まずはこの邪魔なヤツらを片付けちまうか」 「ええ」 こくりと顎を引いたリヴィの手元で奇跡の青薔薇が揺れた。紡がれる茨は次々と雷鳴を呼ぶ猫の四肢をひと思いに縛りあげる。マチェイの唇からかぼそい声がこぼれ落ち、遥姫の呼んだ吹雪が戦場を支配した。 「……どい、て」 「カチンコチンになっちゃえー!」 それほどの力をもたない猫の群れはいとも簡単に魔氷の洗礼を受ける。一方、後方より放たれた蝙蝠の群れは先頭周辺の猫を巻き込んだのみ。けれど、充分だと言わんばかりにアスファルトを蹴った螢の斬馬刀がそのうちの一体を斬り伏せた。 「本命まで先は長いな……けど、一体ずつ倒して進むしかない。道を開けてもらうぞ」 「竜胆さんに同じく。こうも真っ直ぐだと撃ち甲斐があるねぇ!」 軽やかに宣言しつつ、振り下ろされる響の電光剣。生み出される電流の迸りは猫の招雷を遥かに凌いだ。一直線に駆け抜ける電流は猫のほとんどを飲み込んだ後、ようやく収まる。 「細雪、いって」 真矢の指示を受けた細雪は蜘蛛糸で後方の猫を絡めとった。そうして動きを制限する間に、猫を倒して空いたスペースを宗司が繰り上がる形で埋める。 ――そこへ、蛇妖獣の毒羽が雨のように降り注いだ。来るぞ、という螢の声が羽音にかき消されかける。 「痛……っ!」 宗司は顔をしかめて、まるで群れのボスよろしく鎮座する蛇妖獣を睨みあげた。前衛同士の距離をもう少し多めに取ってもよかっただろうか。思わないでもないが、そんな事を言っていたら回復もできやしない。遥姫は宗司に代わって前に出る傍ら、黒燐蟲を鎖剣に宿らせた。 「助かるわ」 宗司は再び、後方よりダークハンドを走らせる。その背中へと降ろされる真矢の祖霊。ひた、と前を見つめ続ける真矢の瞳に雷鳴が映えた。 「ここで苦戦してなんていられないんだ……!」 ああ、と円が頷く。 弥鶴とともに紡ぎ上げた森王の槍が、遥姫を引き裂こうとしていた猫の喉元に突き刺さった。更にリヴィの弾丸が眉間を射抜く。 前衛が進むにつれ、真矢も足元を確かめながら階段を上る。どうしても必要な動作だが、その間は回復の手を休めなければならない。 「……こっちも倒れるわけにはいかねぇからな」 その穴を、宗司は自らの構えで埋めた。無理しないでね、と微笑んだ響が自ら盾となる。手摺を掴み、ひらりと前へ。もう随分蛇妖獣までの距離が縮まった。 ここからなら――余裕で射程に捉える事ができる。
●カライザナイ〜2〜 夜の住宅街は即席の戦場と化していた。 「シビれてくれたら……御の字、だな!」 響の電流が掛け値無しの剛であるならば、円の唇から零れる呪言は奈落の柔。極限までその使用に特化した呪言を受けては、さしもの蛇妖獣もやすやす回避というわけにはいかない。 開戦と同時に強化を済ませていた事が仇となり、その全身を麻痺に侵された。 「今のうちに!」 「よし、さっさと残りの猫を片付けるぞ」 「はい」 「……うん」 リヴィとマチェイの頷きは茨の制裁と捧血を伴った。既に半分以下にまで数を減らしていた猫のリビングデッドは、またしても数を減らす羽目になる。蜘蛛糸と茨に拘束された猫はマチェイに血を引き抜かれ、宗司の闇に引き裂かれ――ぼろぼろになりながら消滅。 「気をつけろ!」 雷鳴を察知した宗司が声を張り上げる。単体では大した事のない攻撃だが、蛇妖獣の毒羽と連続で食らってはたまらない。 「はいはーい、ハルが回復してあげまーす!」 響と螢の間に収まった遥姫が桜色の結晶輪を振りかざして黒燐奏甲を発動。同様のきらめきを放つ帯留めがライトの光を反射して輝いた。彼女と円が前衛の回復役を担ってくれるおかげで、真矢は舞を踏むことができる。 赦しの舞は螢と響の体から毒を浄化し、傷を癒す。 ――そしてついに、螢の剣先が蛇妖獣の鼻先へ届いた。 「何とか辿り着いたな。あと一息、行くぞ!」 「ああ。何としてもこの道、通してもらうぜ!」 羽を広げかけていた蛇妖獣を、円の呪言が縛る。すかさずマチェイが指を掲げ、その体力を奪い取った。 「……生憎、お前を向こうに行かすつもりも無くてなぁ……!」 容赦無く打ち出されたダークハンド奥義。地面から姿を現した闇の乱舞が猛威を振るう中、リヴィの祝福を受けて威力を高めた弥鶴の森槍が中空を駆ける。 「前、頼む」 「了解、ハルが代わりにでまーす!」 残りが蛇妖獣1体になった時点で、それに攻撃を行うマチェイや弥鶴も当然毒羽の危険にさらされる。体力の低い彼らが狙われたら、終わりだ。響は僅かに目を細める。 「とっとと倒れてよ……!」 「んー、もうちょっとなのにー!」 結晶輪はすかすかと蛇妖獣の首元を掠るばかり。マチェイのブラッドスティールも命中率には難がある。リヴィの弾丸も同様。 ――となれば、螢の紅蓮撃と宗司のダークハンドが頼り。 急な角度を駆け抜けた闇の手が孔雀の羽を引き裂き、炎を纏って振り下ろされた斬馬刀が蛇頭を打ち砕く。痙攣するように震えた巨体は、滑るようにして階段の上にずり落ちた。 その輪郭が灰のように崩れて消えるのを、マチェイはロザリオを握り締めながら見届ける。 「……まずは一勝、かな」 円は長い髪をかきあげて一息ついた。 そしてすぐに表情を改める。本当の目的――古民家の調査はここからが本番だ。リヴィがその後を継ぐ。 「この次は古民家の調査ですね。いつまで現れているか分かりませんので、急いで向かいましょう――」
●カライザナイ〜3〜 妖獣達が上るはずだった階段を、能力者達が代わって駆け抜ける。高らかに響く足音にも夜の街は動じない。そこにはただ闇があるだけだ。朝を待つ静寂の時が漂うだけ。 「急げ。古民家の様子だけでも確認しておきたい」 螢はそのまま先陣を切って階段を上り終えた。いずれの空き地が『それ』であるのか、迷う必要はなかった。 ちょうど能力者達が表の通りに差しかかった頃、空き地を覆い隠すように巨大な『影』が揺らめいていたからだ。 「これが…『現れる古民家』……」 呟く真矢の目の前で、影は一軒の古民家を象る。マチェイはロザリオを手のひらで握り込み、その様子を固唾を飲んで見守った。響が真矢とその傍らに控える蜘蛛童を振り返る。 「それじゃ、頼んだよ」 「はい」 彼らは物陰に身を隠し、細雪だけを古民家の前に残した。前後して古民家の入り口がぱかりと開き――そして、奇妙な形をした魚の妖獣が姿を現す。 「さーて鬼が出るか蛇が出るか勝負といこうかね」 トンボに似た薄羽は闇を透かし、ムカデのような節足が空を掻いて前に進む。 それらは蜘蛛童の前に辿り着くなり、勢いをつけて体当たりを始めた。こちらの気配を察知されてしまったのか、それとも本能的にそれを敵だと悟ったのか分からない。 いずれにせよ、蜘蛛童をゴーストに見立てる作戦は失敗だ。 「撤退しましょう」 「ああ、深入りは禁物だ」 真矢と螢、そしてマチェイはここが引き際と見定める。 だが、響は冷静に蜘蛛童に攻撃を加える妖獣の様子を観察していた。同じく、注視していたリヴィと顔を見合わせて、頷き合う。 「大丈夫、いけるよ」 「私もそう思います」 マチェイが悲壮な表情を浮かべ、2人の袖を引いた。 「……だめ、にげなきゃ……!」 「でも、大きなゴーストホイホイはどうにかしなきゃならないのねー」 遥姫は、ふよふよと泳ぎながら蜘蛛童に体当たりを繰り返す魚の動きに合わせて頭を揺らす。あれだけの攻撃を受けても蜘蛛童はまだ持ちこたえている。どうやら戦闘能力は大した事がなさそうだ。 円も腰を上げる。 「ここで逃げたら何にもならない。古民家の謎が少しでも解けたらきっと、今後の戦いだって楽になるはず。だろ?」 「ええ……。古民家にゴーストが巣食う原因も目的も、このままでは分からずじまいですが……しかし」 「いいじゃん。駄目だったらまたその時に考えようぜ」 「ええ。取り合えず行ってみましょう」 迷う真矢。適当な弥鶴に、毅然と言い放つリヴィ。宗司はそれに従い戦闘態勢を整えた。古民家が出現している時間はそれほど長くない。 今、行かなければ――調査するチャンスは失われてしまうだろう。 「覚悟はいいかい?」 響の問いに、人数分の頷きが返った。 それは幕開けの合図。彼らは手にした詠唱兵器を掲げ、その矛先をフライングフィッシュ――奇怪な飛魚妖獣へと差し向けた。
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参加者:8人
作成日:2010/06/03
得票数:楽しい1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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