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日本の有人宇宙開発:ロシア頼みで影薄く アジア台頭に戦略見えず

 <分析>

 野口聡一宇宙飛行士(45)が2日、163日間の宇宙滞在を終え、国際宇宙ステーション(ISS)からロシアのソユーズ宇宙船で帰還した。米スペースシャトルが引退した後、日本の有人宇宙開発はロシア頼み。中国やインドなどアジアの新興国が独自の有人飛行を目指してロシアを追う一方、自前の有人輸送技術を持たず戦略も定まらない日本は影が薄い。【山田大輔、西川拓、モスクワ大前仁】

 ロシア宇宙庁は今年4月、米航空宇宙局(NASA)との間で、13、14両年の飛行士1人当たりの打ち上げ料を、約500万ドル値上げとなる5580万ドル(約51億円)で契約した。ロシア側は値上げの理由を「物価上昇分」と説明するが、在モスクワの日本外交筋は「打ち上げでロシアに頼りすぎると足元を見られると思っていた」という。

 ISS建設の主力を担ったシャトルは残り2回の飛行を年内に終え、引退する。代替機開発は遅れ、その間の「ISSへの足」を独占するロシアが攻勢に出た形だ。

 日本へも触手を伸ばす。極東アムール州に建設予定の「ボストーチヌイ宇宙基地」への投資を求め始めたのだ。イシャエフ大統領全権代表(極東連邦管区)は4月に来日し、鳩山由紀夫首相らと面談。ロシア宇宙庁は5月下旬、日本企業団体が開いた説明会で投資を呼びかけた。基地を拠点に新たにつくる最大9万人の街。日本に対して(1)新型ロケットの燃料となる液体水素工場建設(2)基地支援と空港建設(3)その他のインフラ整備--を持ちかけている。

 火星有人探査も構想中だ。火星に派遣する飛行士の健康管理を研究するため、男性6人が閉鎖空間で520日以上生活する「実験」を3日から始める。この実験は欧州宇宙機関と共同で、中国の宇宙飛行士も参加。宇宙技術を切り札に各国と連携を強める構えだ。

 中国は、ISSには参加していないものの、米露に続いて03年に有人飛行を成功させるなど、宇宙開発に熱心だ。独自の宇宙ステーション計画を公表し、その第1弾となる無人実験室「天宮1号」を来年打ち上げる。

 こうした情勢の中、日本の存在感は薄い。「アジア唯一のISS参加国」として産学官の協調団体「アジア太平洋地域宇宙機関会議」を主宰してきたが、08年、中国が「アジア太平洋宇宙協力機構」を設立。イランやパキスタンなど9カ国が参加し、欧州同様の国際宇宙機関を目指すと見られる。

 ◇ISS延長巡り混乱、アジア台頭に戦略見えず

 「申し訳ないが、外から見ると中国の方が目立っている」。5月26日、東京大で開かれた将来の有人宇宙計画を話し合う国際シンポジウム。パネリストを務めた欧州の専門家の発言に、日本の宇宙関係者は苦笑するしかなかった。日本では、ISSへの参加をめぐり混乱が続く。昨年秋の事業仕分けを機に注目された「年間約400億円」という日本の負担金の費用対効果を問う声はなお強い。

 ISSは今年完成するが、参加各国の宇宙機関は当初の利用期限である「15年」を延長するよう要望している。日本政府としての態度を決めるため4月に始動した文部科学省の特別部会の議論では、ISSに否定的な意見が相次いだ。最終的には池上徹彦部会長が「魅力ある代替策がなければISS撤退は国益にとって得ではない」と引き取った。

 ISS延長をめぐっては、米国のオバマ大統領がいち早く「20年以降まで」と表明。カナダも年内に同意を表明する。もたついている日本の現状に宇宙航空研究開発機構(JAXA)関係者は「今ごろ一から議論している国は日本くらいだ」といら立ちを隠さない。

 5月25日、鳩山政権発足後初めて開かれた政府の宇宙開発戦略本部会合。本部長の鳩山首相は「宇宙には大きな未来があり、日本も遅れるわけにいかない」と語気を強めた。28日には同本部の有識者懇談会が「月探査戦略案」を公表し、有人往還技術の開発に着手する構想を盛り込んだ。ISS問題が未解決な一方で、コストもリスクもはるかに大きい独自の有人飛行構想をぶち上げる不可解さは、鳩山首相の退陣で不透明さを増している。

 宇宙政策に詳しい鈴木一人・北海道大准教授(国際政治経済学)は「野党時代から宇宙政策に取り組んでいた民主党議員が政権内で宇宙分野を担当せず、適切な人材配置ができていない。宇宙開発の当事者はあれもこれもやりたいと言うのが当然で、それ以外の人たちを政策決定過程に取り込む仕組みが必要だ」と指摘する。

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 ◇主要国の有人宇宙計画◇

 ★米国

 ISSを少なくとも20年まで延長、緊急帰還機を開発。25年までに小惑星、30年代半ばに火星探査

 ★ロシア

 11年末にISSに実験棟増設。ソユーズ後継機開発。火星往復を想定し、閉鎖空間で520日間生活する地上実験開始

 ★中国

 11年に「天宮1号」打ち上げで宇宙ステーション建設に着手。30年に月着陸、40年に月滞在、50年に火星探査

 ★欧州

 30年ごろの火星探査を目指しロシアと共同実験。月探査や宇宙船開発も検討中

 ★インド

 ロシアと共同で改良型ソユーズを開発。15~16年に宇宙往還機で低軌道周回

 ★日本

 将来の宇宙船開発を念頭に、15年に無人補給機「HTV」を改良した無人往還機打ち上げ(JAXA構想)

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 ■ことば

 ◇国際宇宙ステーション(ISS)

 レーガン米大統領(当時)が84年、西側諸国結束の象徴として提唱。日米露欧カナダの15カ国で98年に建設を始め、今年末に完成予定。大きさは縦73メートル、横109メートルでサッカー場程度の大きさ。船内はジャンボ機の1・5倍の935立方メートルあり、6人が滞在できる。居住棟など基本部分はロシア製。旧西側諸国の利用権は米77%、日13%、欧8%、カナダ2%。ロシアは自国提供分を100%利用できる。

毎日新聞 2010年6月3日 東京朝刊

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