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特集ワイド:鳩山首相の心を探る 無表情でも危機感?

 ◇「罵声浴びる覚悟」…支持2割、周囲にぼやき…「今度はクビかも」

 ◇笑顔を見せるのはいつですか

 鳩山由紀夫首相が分からない。「5月末」と明言した米軍普天間飛行場移設問題の決着はいまだ厳しく、内閣支持率も20%近くにまで落ち込んでいるのに、危機感があるのか、ないのか……なんだか表情が読めないのである。首相の心はどこにあるのか。「首相日々」から探ってみた。【江畑佳明、鈴木梢】

 実は8年前の夏、記者(江畑)は山形県米沢市で鳩山首相(当時は民主党代表)と握手した。「なんてきれいなすべすべした肌なんだ」と驚いた。女性の手を握った経験はそう多くはないけれど、「女性でもあんな手をした人はそういない」と思わせる手。いったい、どんな人なんだ。そんな思いがずっとある。

 大抵どこの新聞でも、政治面の片隅に首相が一日に会った人などを記録として掲載している。毎日新聞の場合は「首相日々」。そこに度々登場する人を訪ねてみた。

 「最近の映像をみると、少し疲れてる感じがするなあ」。首相就任後に3回(昨年11月、今年3月、4月)面会した軍事アナリストの小川和久さん(64)。1996年の普天間飛行場返還決定以降、時の政権にアドバイスしてきた関係で、自ら面会を申し出た。鳩山首相は「おせっかいを焼いてくださいよ」と応じたという。

 小川さんは、市街地に基地が存在することに伴う危険の除去、沖縄の経済振興などの重要性を強調した。「ほんとに話をよく聞く人。そして解決するためのロードマップを描ける。理解力は(歴代首相の中でも)抜群」と評する。メモを取るのは英語だったのにも驚いたという。

 「惜しむらくは」と、小川さんは大きくため息をつく。「それを実行できる組織、スタッフがないんだよなあ」

 3回目に面会した4月18日。小川さんが「県内移設の可能性が残ったままだと、罵声(ばせい)を浴びる場面が生じますよ」と進言すると、「罵声を浴びる覚悟はできてます。いつでも浴びます」と口にしたという。基地問題解決への状況の厳しさを認識していたようだ。

 「首相日々」で気になったのは「NPO法人インドセンター」(東京都千代田区)のビバウ・ウパデアーエ代表との面会だ。昨年12月と、今年2月の2回。一部週刊誌では「首相周辺と親しい予言者」と報じられたが、ビバウさんは「全くの誤り」と否定する。鳩山首相との出会いは15年ほど前、日印の友好関係を築くため、与野党の有力政治家に協力を呼び掛けていた時のことという。今回ビバウさんは国家戦略として民間外交を活発にすることを提案し、鳩山首相は賛成してくれた。

 「鳩山さんはとてもいい人。本当に話をよく聞いてくれる」。オールバックのヘアスタイルに、豊かな口ひげ、滑らかな日本語で、先の小川さんと同じことをおっしゃる。

   ◆

 首相の日程は超過密だ。行きつけの美容室なら、癒やされ、リラックスしてつい本音を漏らしているかもしれない--そんな下心を抱いて、東京都世田谷区奥沢にある美容室「peace(ピース)」を訪ねてみた。店名には「幸せで平和な毎日が送れるように」との願いが込められている。美容室も「友愛」精神と通じるものを選んでいるのだろうか。

 店内に足を踏み入れると、小鳥のさえずりが耳に入る。淡い黄色の壁にかけられたモニターには、流れる滝や小魚が泳ぐ映像が。「みなさん、お昼寝感覚でいらっしゃいますよ」とオーナーの池田敢(かん)さん。首相もうたた寝、なんてこともありそうだ。

 「髪が伸びていますね。激務続きで忙しくて、時間がないのでしょう」。首相が最後に訪れたのは、4月17日という。「店ではあまりしゃべらないですよ。『こんにちは』と、『ありがとうございました』ぐらいです」

 ヘアスタイルのポイントは? 「襟足を短くし、さっぱりした印象にすることです」

 幸(みゆき)夫人も同じ美容室に通っており、首相の後ろから「ここをもうちょっと短くして」などと注文を出すこともあるそうだ。「毎朝、幸さんがスタイリスト役で、髪をセットしてあげるんですよね。すてきです。ブラシの使い方をアドバイスしましたが、だんだんうまくなってきている」。大きな支えはやはり幸さんのようだ。

   ◆

 男にとって癒やしといえば、妻のほかに、気の置けない飲み仲間もいる。飲んで愚痴のひとつでも言っているのではないか。

 20年来の友人という作曲家・三枝成彰さん(67)。最近では4月に2回、会食している。先月26日に行ったのは東京都内の日本料理店。冷酒で乾杯、山菜のてんぷらなどを食べながら、約2時間杯を重ねた。

 首相は何を飲むんですか? 「日本酒、焼酎、何でも。赤ワインじゃなきゃだめ、みたいな気取ったところは全くないね」。三枝さんは黒いジャケットの下にマドンナの顔がプリントされたTシャツ。さらに裸足にスニーカー姿で足を組む姿がみょうにキマっている。失礼ながら、70歳に近いとは思えない。鳩山首相の個性的な服装と通じ合うのかもしれない。

 そのおしゃれな三枝さんが「ロシアンパブに行きませんか」と誘うと、本気か、冗談か「いいなあ。行きたいなあ」と笑ったという。確かに気取らない人らしい。

 三枝さんは、鳩山首相が以前、こう漏らしたのが忘れられない。

 「支持者からネクタイをもらったんだけど、妻に『どうしたの』と聞かれるから、家に持って帰れない。捨てるわけにもいかないし、どうしたらいいんだろう」

 この時は真顔で困っていたという。「ほんとに正直な人。今までにいない首相だよねえ」。それから「鳩山さんの考えは、貧しい人のための政治をすること。それは間違いなくずっと変わってないと思う」と何度も繰り返した。

 政治の話はほとんど出なかった。しかも鳩山首相は人の悪口はもともと言わない、という。いつもと変わらない様子だったが、でもポツリと漏らした。「今度は(首相を)クビになってしまうかもなあ」

 「宇宙人」と呼ばれることもある鳩山首相。20年来の付き合いの三枝さんでさえ「つかみどころのない人。表情もあまり変わらないし」と評する。その表情が、沖縄県民の表情とともに晴れる日はくるのだろうか。

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t.yukan@mainichi.co.jpファクス03・3212・0279

毎日新聞 2010年5月20日 東京夕刊

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