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きょうの社説 2010年6月3日
◎首相・幹事長辞任 選挙にらみ「抱き合い心中」
「小鳩体制」がついに崩壊した。続投に意欲を見せていた鳩山由紀夫首相は、改選を迎
える参院議員らからの「鳩山おろし」の声に抗しきれなかった。すべての問題を選挙最優先で考える小沢一郎幹事長は、一緒に辞任した方が支持率回復の効果が高いと冷静にソロバンを弾いたのかもしれない。鳩山首相は、緊急両院議員総会で自ら身を引く決意をし、小沢幹事長に辞任を求めたと 述べた。果たして事実はどうだったのか。「政治とカネ」の根深い問題を抱え、民主党のアキレス腱にもなっていたトップ2人は、あくまで参院選を乗り切る手段として、「抱き合い心中」をして見せるぐらいしか起死回生の手段がないところまで追い詰められたとも言える。 小沢幹事長の脳裏には、昨年5月に西松建設の違法献金事件の責任を取って代表を辞任 し、衆院選の地滑り的勝利につなげた成功体験がある。衆参両院で約150人を率いる小沢幹事長は、自分が辞めても一定の影響力を保持し、選挙の仕切りはできるという計算とともに、「小鳩」が同時に身を引く演出で、「政治とカネ」の問題を沈静化させる効果を期待しているのだろう。 だが、鳩山首相は母親から提供された巨額資金の使途について、秘書の裁判終了後に説 明すると言いながら、約束を守らなかった。小沢幹事長も政治倫理審査会での説明を果たしていない。北海道教職員組合から陣営幹部が違法な資金を受け取っていたとされる小林千代美衆院議員の辞職もひっくるめて臭いものにふたをし、「とことんクリーンな民主党に戻そう」(鳩山首相)と言われても、国民は白けるだけである。 民主党は野党時代、自公政権の安倍、福田、麻生内閣について、国民の審判を受けずに 政権をたらい回しにしたと批判していた。鳩山首相を交代させるなら衆院を解散して信を問うのが筋であり、後継選びに際して国民に何と説明するつもりなのか。 鳩山首相は、普天間基地の移設問題で、「最低でも県外」「5月末決着」の公約に反し て厳しい批判にさらされた。重要な節目で決断を先送りにしてきた鳩山首相の責任は重い。ここまで来たら首相が代わったからといって、名護市辺野古を明記した日米共同声明を見直すことも、地元の合意を得ることも難しいだろう。 鳩山首相は、社民党党首が閣僚としての署名を拒否して連立を離脱した責任を取らされ たが、辺野古回帰の結論が変わらないまま、民主党と社民党の関係修復が進むとしたら選挙目当てとの批判は免れまい。普天間移設問題は、これからも鳩山政権の「負の遺産」であり続けるに違いない。 政局の焦点はこれから、後継首相の人選に移る。鳩山首相は言葉が軽く、著しく指導力 を欠いていた。期待が高かった分だけ、現実との落差が激しく、国民は裏切られた思いだろう。新しい「選挙の顔」選びはもとより、小沢幹事長に近い人物の名が取りざたされている次期幹事長の人選も注目点である。 ただ、看板を付け替えたからといって、国民の信頼が大きく回復する保証はまったくな い。鳩山政権の支持率急落は、首相の資質もさることながら、民主党の政権担当能力への疑問が日増しに膨らんできた結果でもある。 普天間移設に限らず、高速道路の無料化を先送りし、ガソリンの暫定税率を据え置いた のは重大な公約違反である。野党時代、予算の組み替えや無駄の削減で、増税をせずに、財源を生み出せるとあれだけ大見えを切っていたのに、結局は根拠のない「空手形」だった。普天間基地問題で、鳩山首相が言った「腹案」の無責任さとどこか似ていないか。 社民党の離脱は、連立政権の限界も浮き彫りにした。国の根幹をなす外交・安全保障政 策で、考え方の一致しない党同士が手を組むのはやはり無理があった。さまざまな政策で、少数党の国民新党や社民党に振り回されたことも国民の失望を招いた。これは首相の力量不足というより、政権を取るための「数合わせ」を優先させたツケだろう。この構造的な欠陥を抱えたままでは、次期政権も短命に終わる気がしてならない。
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