◎は小泉進次郎衆議院議員(29)、×は谷垣禎一総裁(65)である。
三原氏に先立って演説した小泉氏の演説は、間の取り方や内容も秀逸で、いきなり「江戸っ子の皆さん、観光客の皆さん、そして各国、世界から来た皆さん、自由民主党の小泉進次郎です」と歯切れ良くあいさつ。間髪入れず「雷が落ちてもおかしくなさそうな天気の日に、私が来たのが雷門」「しかし雷は自民党でなく民主党に対して落としていただきたい」と口上のような文句でたたみ込んだ。
私の横にいた中年男性が思わず目尻を下げて「フハハ」と笑い出し、中年女性たちから「ワァー」という歓声と大きな拍手がわき起こった。
「子ども手当はその通りやるのかやらないのか。高速道路も無料化といったのに料金アップ…このままでは民主党に雷が落ちても仕方がない」と民主党批判を繰り広げながらも、「民主党の支持率が下がっているのに、自民党の支持率は一向に上がらない。しかしそれでよかったと思っている」「民主党政権になり、自民党は解党的出直しをすると言った。しかし今の自民党は変わったと思いますか?」「根本的に変わらなねばならないところが、皆さんが自民党に求めているところ」と自己批判も忘れなかった。
「自民党は政権交代にはまだ時期尚早。参院選で勝って、まず民主党をチェックする力を自民党に」などと結ぶと、雷門前は割れんばかりの拍手に包まれた。
小泉氏はイケメンだから、それだけで他の政治家よりもアドバンテージがあるといえるが、話のキレもいいし、市民目線でものを喋るから聴衆にも内容が理解されやすい。現場にいた自民党女性地方議員によると「演説の目的地に着くまで、あれこれ材料をつなぎ合わせて、話の内容を組み立てているみたいですよ」とのことだった。努力もしているのである。
小泉氏に比べてトホホだったのが、谷垣禎一総裁(65)の街頭演説である。
演説冒頭で、この演説会がどういう趣旨なのか説明を始めてしまった。雨の中、傘を差して聞き入る聴衆にとって、そんな説明はどうでもいいことなのだが…。
で、やっと本題に入っていくのだが「私たちはもう1回皆さんの期待に応えなければならない」「そのためには昨年の衆議院選挙で負けた反省が必要」などと言ってしまった。
自民党が政権を奪取されたのは、選挙で言えば昨年8月30日に投開票された第45回衆議院議員選挙。正式に民主党政権が発足したのは、鳩山由紀夫代表が特別国会の首相指名選挙で第93代総理大臣に選出された9月16日。どちらを基準にしても、もう8ヶ月以上経過しているのだ。その間、いったい自民党は何をしてきたのだろうか。いまだに総裁が「反省」を口にしている。「奢りも油断もあった」と谷垣総裁は言うが、そんなことは自民党に票を投じなかった当の国民が一番承知している。
私は街頭演説など経験したことがない。人前で喋った経験といえば、せいぜい結婚式のスピーチくらいのものだが、この日よく分かったのは、演説は“つかみ”で失敗すると、最後まで聴衆に相手にされないということであった。
谷垣総裁の演説が続く中、付近の歩道で通行人の交通整理をしていた自民党男性関係者は「何が言いたいのか、さっぱりわからないんだよなぁ」と辟易した様子。居合わせた他の報道陣も「今の自民党執行部は、内輪の職員からもバカにされている」と指摘していた。
この日、女性議員の演説指南役は小泉氏が務めたとのことだが、執行部のベテラン議員の皆さんもプライドをかなぐり捨てて、小泉氏から演説のイロハを教わってみたらどうだろうか。
学ぶべきものは学ぶ、使えるものは臆せず使う、そんなどん欲な姿勢が今の自民党に一番必要だと思うのだが。
(佐藤修)