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2010年5月28日 (金)

第228回:内閣府・ 児童ポルノ排除総合対策案パブコメ募集(6月7日正午〆切)

 6月7日正午〆切で、内閣府から児童ポルノ排除総合対策案(pdf)に対するパブコメがかかった(内閣府の該当ページ参照)。既に「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」、「チラシの裏(3周目)」、「北へ。の国から」、「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」等でも取り上げられているので、リンク先をご覧頂ければ十分と思うが、このパブコメは非常に重要なものと思うので、ここでも取り上げる。

 この対策案(pdf)は、内閣府の「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」という検討会で検討されたものだが、この検討会は、リンク先をご覧頂ければすぐに分かるように実質数回しか開かれていない上、有識者としてヒアリングしたと知れるのは児童ポルノ規制問題ではとにかく根拠なく規制強化をがなり立てるので悪名高い日本ユニセフ協会のアグネス・チャン氏のみ、その下のワーキンググループに至ってはどのような資料に基づいてどのような議論がされたかも一切不明であり、このようなたかが数回の検討でネット検閲にしかなりようのないサイトブロッキングをほとんど何の根拠も示さずに対策として打ち出すという出来レースにもほどがあるひどいものである。(このパブコメ自体実質期間が10日程度しかないと、人の意見を聞く気があるとは到底思えない取り方をされている。)

 この対策案(pdf)にはそれでも情報モラル教育などの地道な話も入っているが、このワーキングチームは超出来レースのため問題のある記載も山ほど入っており、特に問題のある部分を、以下に指摘して行きたいと思う。(例によって何故か、総務省で主に検討されているフィルタリングの話やメール検閲の話まで入っている。パブコメではこれらの問題についても指摘するつもりだが、ここでは省略する。)

 まず、「1 児童ポルノの排除に向けた国民運動の推進」で、第1ページに

① 協議会の設置
 児童ポルノの排除に向けた国民運動を官民一体となって推進するため、関係府省庁、教育関係団体、医療関係団体、事業者団体、NPO等で構成する協議会を設置し、国民運動の推進方策について協議するとともに、その周知を図る。(内閣府)

と書かれているが、この協議会からして、いつもの警察庁御用達の規制派団体メンバーが並ぶ可能性が高く、気を付ける必要があるだろう。また、次の、

② 国民運動の効果的な推進(第1ページ)
 児童ポルノを排除するため、キャッチコピー、シンボルマーク等を公募し、広報・啓発活動に活用するとともに、シンポジウムを開催するなどして国民運動の効果的な推進を図る。(内閣府、警察等)

についても、どうせどこかに丸投げで外注されるキャッチコピーやシンボルマークの公募が本当に必要なのかという点も疑問だが、それ以上に、ここで書かれているシンポジウムについても、例によって登壇者を警察が規制派団体から恣意的に選出して規制強化プロパガンダに使って来る可能性が高く、注意が必要ではないかと私は考えている。(地道な広報・啓発活動を否定するつもりはないが、個人的には今の警察はこの点で全く信用できない。次の「③ ホームページによる広報・啓発活動」で「内閣府のホームページにおいて、児童ポルノ排除対策ワーキングチームの活動状況について掲載する」と書かれているが、今のワーキングチームのあまりにデタラメな出来レースぶりと今のお粗末なホームページの有様だけを見ても、今後警察庁が広報・啓発活動と称してやって来るだろうことは大体想像がつく。今のようなやり方で「増進を図れる」のは今の「児童ポルノ排除対策」に対する国民の不信だけだろう。)

 さらに、同じ第1ページで、

⑥ 「女性に対する暴力をなくす運動」における取組
 毎年11月に実施している「女性に対する暴力をなくす運動」において、児童の性的搾取を含む女性に対する暴力を根絶するため、国、地方公共団体、女性団体その他の関係団体と連携・協力し、広報・啓発活動を推進する。 (内閣府等)

と書かれている部分も、男女共同参画会議(第225回の提出パブコメ参照)と同じく児童の問題と女性の問題を混同している点で注意が必要だろう。

 第2ページの、

⑧ 国際的取組への参画
 我が国が2005年に締結した「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」の規定に基づき、児童の権利委員会に提出した政府報告に対し、今後、同委員会の最終見解が示されることに留意しつつ、引き続き、同選択議定書の実施の確保に努める。また、2008年11月、リオデジャネイロで開催された「第3回児童の性的搾取に反対する世界会議」において取りまとめられた「児童の性的搾取を防止・根絶するためのリオデジャネイロ宣言及び行動への呼びかけ」について国内での周知に努める。(外務、警察、法務)

で周知する言及されているのは、児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「児童の性的搾取に反対する世界会議」(外務省HP警察庁の広報資料(pdf)参照)の狂った宣言だが、何度も書いているように、このような根拠のない宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならないことである。

 そして、何と言ってもこの対策案の一番の問題は、「3 インターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策の推進」であり、この中で、最初の

① 違法情報の排除に向けた取組の推進
 サイバーパトロールやインターネット・ホットラインセンターに寄せられた通報を通じ、児童ポルノに係る違法情報の把握に努め、取締りを推進するとともに、サイト管理者等に対し、警察及びインターネット・ホットラインセンターから削除依頼等を実施する。また、インターネットを利用した児童ポルノ事犯の被疑者を検挙した場合等に、当該違法情報が掲載された掲示板のサイト管理者等に対し、当該違法情報の削除の要請及び同種事案の再発防止に努めるよう申し入れ又は指導を行うほか、非行防止教室や情報セキュリティに関する講習等の場において、インターネット・ホットラインセンターの取組を紹介するなどして、インターネット上からの児童ポルノの削除の更なる促進を図る (警察)。

では、いつも通り半官検閲センターであるインターネット・ホットラインセンターの問題点を指摘する必要があると思っているが、それ以上に問題があるのは、以下の第4ページから第5ページのブロッキングに関する記載である。

④ 児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体との連携等を通じた児童ポルノ流通防止対策の推進
インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)、検索エンジンサービス事業者及びフィルタリング事業者に対して児童ポルノが掲載されているウェブサイトに係るアドレスリストの作成、維持・管理、提供等を民間のイニシアティブにて行うための児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体の設置に向けた作業を進め、同団体との官民連携した児童ポルノ流通防止対策を推進する。(警察、内閣官房、内閣府、総務、経産)

⑤ ブロッキングの導入に向けた諸対策の推進
 インターネット上の児童ポルノについては、児童の権利を著しく侵害するものであり、インターネット・ホットラインセンターが把握した画像について、サイト管理者等への削除要請や警察の捜査・被疑者検挙が行われた場合等でも、実際に画像が削除されるまでの間は画像が放置されるところであり、児童の権利を保護するためには、サーバーの国内外を問わず、画像発見後、速やかに児童ポルノ掲載アドレスリストを作成し、ISPによる閲覧防止措置(ブロッキング)を講ずる必要がある。そこで、このようなブロッキングについて、インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさない運用に配慮しつつ、平成22年度中を目途にISP等の関連事業者が自主的に実施することが可能となるよう、下記の対策を講ずる。(警察、総務、内閣官房、内閣府、経産)

ⅰ アドレスリストの迅速な作成・提供等実効性のあるブロッキングの自主的な導入に向けた環境整備
 警察庁及びインターネット・ホットライン・センターからの情報提供により、児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体がプロバイダー等に対し迅速にアドレスリストを提供できるよう、実効性のあるブロッキング導入に向けた環境整備を実施する。

ⅱ ISPによる実効性のあるブロッキングの自主的導入の促進
 ISPに対し、インターネット上の児童ポルノの流通を防止するためのブロッキングの重要性、有効性等について理解を求め、実効性のあるブロッキングの自主的導入を促進する。

ⅲ 一般ユーザーに対する広報・啓発
 インターネットの一般ユーザーに対し、ブロッキングの重要性等について幅広く広報・啓発し、理解を求めるとともに、インターネット上の流通防止対策に対する国民意識の醸成を図る。

 ここで、「民間のイニシアティブ」、「インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさない運用に配慮」、「関連事業者が自主的に実施」といった記載に多少の努力の跡が見られるものの、ブロッキングについて完全に導入前提の記載がされているのは全く受け入れることができない。警察庁又は半官検閲センターであるインターネット・ホットライン・センターの圧力でブロッキングがなされるのであれば、民間と称しようがしまいが全く同じことである。また、何度も繰り返し書いている通り、現状、インターネット利用者の通信の秘密や表現の自由に不当な影響を及ぼさないようにブロッキングを透明性・公平性・中立性を確保した形で運用することは不可能であり、ブロッキングはどこをどうやっても検閲にしかなりようがない。

 また、「5 児童ポルノ事犯の取締りの強化」で、第8ページに、

② 悪質な関連事業者に対する責任追及の強化
 児童ポルノの提供等に加担しているサイト管理者、サーバー管理者といった悪質な関連事業者について、当該関連事業者に対する指導・警告を徹底し、風営適正化法に基づく当該サーバー管理者等に対して勧告を行うほか、刑事責任の追及を図るなど、悪質な関連事業者に対する責任追及を強化する。(警察)

と書かれており、ここでもネットにおける幇助罪については特別な注意が必要であり、その適用範囲が不用意に広がりすぎないように気を付けるべきであるとやはり指摘する必要があるとも思っている。

 最後に、「6 諸外国における児童ポルノ対策の調査等」で、第9ページに、

② 諸外国の児童ポルノ対策の調査
 G8を中心とした諸外国における児童ポルノ関連法規制について、在外公館を通じて調査を行ってきているところ、法規制に関する動向及びインターネット上のブロッキング等の新たな規制を始めとする諸動向に関する調査を継続し、定期的に結果を取りまとめる。(外務、警察、法務)

と書かれているが、ここでも特にG8を取り上げようとしている点は全く頂けない。これも国際調査自体を否定するつもりはないが、例によってG8のみを取り上げて恣意的に国際動向を作り上げ、単純所持規制プロパガンダに使って来る可能性が高く、この部分の記載も要注意である。

 全体としてみれば、従前の報告書と比べこの対策案には、教育・啓発・被害児童のケア・取り締まりに関する地道な施策の項目もかなり入っているが、特にブロッキングに関する部分の問題を中心に決して見過ごすことのできない問題のある項目も数多く含まれており、6月7日正午〆切と非常にタイトなスケジュールではあるが、児童ポルノ規制問題ど真ん中の重要パブコメとして、普段情報規制問題に疑問や懸念を抱いている方には、是非提出を検討頂きたいと私も思っているものである。私自身もこのパブコメは出さなければならないと考えており、パブコメは提出し次第またここに載せたいと思っている。

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コメント

えーと、リオデジャネイロ宣言って、マンガアニメ規制を言ってましたよね? ここでも非実在青少年規制ですか…。

投稿: taffy | 2010年5月28日 (金) 16時44分

リオデジャネイロ宣言では「漫画、アニメ、ゲーム等ではしばしば児童を対象とした性描写が見られます。これは現実には存在しない、コンピューター等で作られた児童が対象ではありますが、児童を性の対象とする風潮を助長するという深刻な問題を生じさせるものであります。」となってますが、その根拠はまったく示されてないんですよね…。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/20/sei_1126.html
本当に助長するなら幼女レイプ被害者統計は増加するはずなのに減っています。
http://maruko.to/2010/03/post-82.html
なお、児童ポルノの数値が増加しているように見えるのは、2004年の児童買春・児童ポルノ禁止法の改正で処罰範囲が拡大されたためであり、社会状況が悪化したわけではありません。
http://toriaezumitekitayo.blog88.fc2.com/blog-entry-35.html

投稿: 通りマス | 2010年6月 1日 (火) 02時05分

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