東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 科学 > 科学一覧 > 記事

ここから本文

【科学】

はやぶさ最後の大仕事 試料カプセル分離へ秒読み

2010年5月31日

写真

 小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還が秒読みに入った。小惑星「イトカワ」の砂が入っている可能性があるカプセルがはやぶさから分離され、六月十三日深夜、オーストラリアの砂漠に着陸する予定だ。小惑星からの試料回収に成功すれば世界初の快挙。太陽系の起源に迫る研究が大きく進む。七年間の旅で幾多の困難を乗り越えてきた「不死鳥」が、最後の大仕事に臨む。 (榊原智康)

 「帰ってくれば、新しい科学的な発見があると確信している」

 二十六日、千葉市の幕張メッセ。はやぶさが届ける試料の「初期分析チーム」のリーダーを務める土山明・大阪大教授は、日本地球惑星科学連合大会で研究計画を説明し、帰還への期待を示した。

 小惑星は、約四十六億年前に太陽系ができたころの姿を残す「化石」のような天体。試料を分析すれば、太陽系のなりたちを解明する手掛かりになる。

 はやぶさは二〇〇三年に打ち上げられ、〇五年にイトカワ付近に到着。エックス線や赤外線で間近からさまざまな観測をした。また、イトカワをかすめるように着陸し、表面の岩石の採取にも挑んだ。装置はうまく働かなかったが、着陸時の砂ぼこりが採取カプセルに入ったのではないかと期待されている。

 観測では、密度は地球の岩石より小さく、内部はスカスカの軽石のような構造とみられる。大きな小惑星が別の小惑星と衝突して割れた破片とされてきたが予想は覆された。衝突でできた小さな破片が集まってできたらしい。表面の組成は「普通コンドライト」と呼ばれるありふれた種類の隕石(いんせき)に近かった。

■裏付け

 「普通コンドライトの中の『LL型』と呼ばれるものとの見方が強いが、別の種類だとする研究者もいる。分析で、まずは型の問題に決着をつける」と土山教授。隕石の古里は小惑星と考えられているが、実際の試料から裏付けることがポイントになるという。

 鉱物や元素の組成のほか、アルゴンなどの希ガスや炭素の同位体などを測り、イトカワの基となった小惑星ができた年代や、宇宙線による風化作用などを明らかにする。

 米航空宇宙局(NASA)の無人探査機「スターダスト」が採取した彗星(すいせい)粒子の分析では、太陽系の初期には、熱い中心部から物質が噴き出し、彗星ができる低温の外縁部まで飛ばされる、ダイナミックな動きがあったことが分かった。「イトカワでも想定外の結果が出てきてほしい」と土山教授は話す。

 はやぶさは二十三日から二十七日までエンジンを連続噴射し、地球の上空約二百五十キロを通過する軌道に入った。順調に行けば六月三日までに地球から約四百万キロの地点に達し、オーストラリアのウーメラ砂漠に向かう軌道への変更に挑む。これに成功すれば、はやぶさが大気圏に突入し、帰還を果たすことが確定する。

■不安

 四基のエンジンのうち三基が故障し、単独では動かない二基を組み合わせて動かす「クロス運転」で飛行中だ。正常に働く一基は、万が一に備えて最後まで温存する。姿勢制御装置も二基が故障し残りは一基。はやぶさプロジェクト責任者の川口淳一郎・宇宙航空研究開発機構教授は「壊れる前兆はなく、何とか持ちこたえてくれそう」とみる。

 心配なのは、トラブルで飛行期間が予定より三年延びた影響だ。地球から約四万キロの地点でカプセルを切り離す予定だが、うまく分離できるかが不安視されている。機体との接合部を焼き切るための火薬は使用期限が過ぎており、カプセルを押し出すばねも劣化しているとみられる。

 分離できず、はやぶさ本体とともに大気圏に突入しても、カプセルは焼け残るという。しかし、鍋のような形のカプセルがひっくり返ると、パラシュートが開かなかったり、断熱効果が下がったりして中の試料に影響が及ぶ恐れがある。「うまくいくか、やってみないと分からない」(宇宙機構)状況だ。

 カプセルが分離できてもできなくても、はやぶさは大気圏で燃え尽きて役目を終える。川口教授は、カプセルをはやぶさが命と引き換えに託す「卵」に例える。「今回の成果をはやぶさの後継機などにつなげるため、何としてでも卵を受け取り、かえさなければならない」

 はやぶさの帰還まで、あと十三日−。

<記者のつぶやき> プラネタリウムで、はやぶさのドキュメンタリーを見た。客席のあちこちから、はなをすする音が聞こえた。自ら判断する機能を持つはやぶさに多くの人が人格を見いだし心を打たれた。そんな探査「ロボット」の長い旅は間もなく終わる。成果を次につなげてほしい。(上映館はホームページ=http://hayabusa-movie.jp/theater.html)

 

この記事を印刷する