ひと

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

ひと:橋本一弘さん=第1回奈良人権文化選奨を受けた三味線皮の製作者

 ◇橋本一弘(はしもと・かずひろ)さん(76)

 差別撤廃に向けた情報を発信する水平社博物館(奈良県御所市)が今年新設した選奨の個人部門第1号に選ばれた。60年以上、猫皮を使って優れた三味線皮を作り続けてきた実績が評価されてのこと。「三味線は、演奏者が人間国宝(重要無形文化財保持者)になる伝統楽器ですが、皮には偏見がつきまとっている。今回の受賞が、そのまなざしをいくらかでも変えるきっかけになればうれしい」と控えめに語る。

 歌舞伎の伴奏から生まれた長唄や浄瑠璃音楽の清元(きよもと)、常磐津などで演奏される三味線。犬の皮は練習用で、プロが本番で使うのは特有の濁った音色を生み出す猫の皮だ。海外から輸入した冷凍原皮(げんぴ)を洗浄し、丁寧に毛を取り除いた後は樅(もみ)材に釘(くぎ)を打って浮かし張りし、戸外に干して乾燥させる。強く張れば破れ、雨にぬれると染みになる。最終的に製品として出せるのは3割もないという。

 丹精込めた「奈良の皮」を使った三味線を愛用している演奏家は多く、東京芸術大の学生も30年以上前から毎年、見学に来る。後継者に不安を抱いたこともあったが、今は長男康弘さん(45)がともに作業に取り組む。

 「三味線が出すのは、ただの『音』やのうて『音色』です。けれど、この大事な日本の伝統楽器でも、皮だけやなく、棹(さお)に使う紅木(こうき)や胴にする花梨(かりん)など素材のほとんどを海外から輸入している。現状はこんなんやということを、一人でも多くの人に知っていただきたい」。磨き上げたように整った作業場で静かに語った。<文と写真・山成孝治>

==============

 ■人物略歴

 奈良県御所市出身。47年、父末吉さんの下で修業を始め、95年に同県選定保存技術者に認定された。

毎日新聞 2010年5月30日 東京朝刊

PR情報

ひと アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド