刑務所を仮釈放された人の社会復帰を助ける「福島自立更生促進センター」(福島市狐塚)が、6月にも入所者の受け入れを開始する。施設完成から2年。法務省は治安悪化を懸念する住民の説得を続けてきたが溝は埋まらず、4~5月だけで3万9617人分の反対署名が集まった。仮出所者の更生には地域住民の理解が不可欠で、センターは苦しい運営を余儀なくされそうだ。【蓬田正志】
センターには身元の引き受け手がない仮出所者が入り原則3カ月間、個室と食事、就職支援を受ける。仮出所後に行方をくらました末の再犯が相次ぎ、国の有識者会議が06年に対策を取るよう提言、法務省が先行事例として福島と京都、福岡の3市をセンター建設地に選定した。京都と福岡は住民の反対が強く建設を断念。その後、北九州市が建設地に選ばれ、港湾地区に09年6月、国内初のセンターが開所している。
一方、福島はハローワークに近く保護観察所の敷地内などから現在の場所が選ばれ、目立った反対がない中、08年1月に着工し、同年7月に完成した。ところが相前後して、同省が周辺の学校に施設の性格を説明すると、急激に反対の声が高まった。犯罪白書(09年版)によると、再犯や順守事項を破るなどして、仮出所後5年以内に約3割が刑務所に戻っている。センターの半径500メートル内には中学・高校などが6校あり、住民は計画撤回を強く求めた。
「御山町住民の会」の伏見貞俊代表(76)は「建設前に説明したのが町内会長だけでは個々の住民に伝わらない。すぐ近くの2町内会には法務省が概要を説明した文書を回覧させたが、難解で理解できない人が多く、反対の声は起こりにくかった」と憤る。
このため同省は▽子供への犯罪歴がある▽覚せい剤への依存性が高い▽性的犯罪性向がある--仮出所者を除外し、開所後1年間は入所を定員20人の半数未満に抑えるなど譲歩した。だが反対運動は収まらず、同省は「一定数の理解者もいる」として4月9日、備品購入など開所準備を始めると公表。今月24日、住民団体から公開討論会への参加を求められた井坂巧・同省福島保護観察所長が「これ以上やっても平行線。議論の余地はない」と回答した。
県立福島高校保護者会の鈴木清治代表(52)は「法務省のやり方は強引で納得できない。一定数の理解者の根拠もない」と反発。一方、県保護司会連合会の鈴木光二会長(68)は「反対する気持ちも分かるが、満期で釈放されても家庭や仕事がないのでは一層再犯が心配。地域の理解と協力が必要だ」と話している。
毎日新聞 2010年5月31日 11時28分(最終更新 5月31日 11時39分)