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天声人語

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2010年5月31日(月)付

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 戦雲たれる朝鮮半島、政治への幻滅と財政難、再びの株安に畜産危機。歴史の常で、国難はリーダーの力量にお構いなく降りかかる。前向きのまなざしがなおさら恋しい5月の言葉から▼武庫川女子大の藤本勇二講師は、小学校で食育を手がけた経験をもとに宮崎県の口蹄疫(こうていえき)を語る。「私たちは命という食べ物をいただく。畜産農家、流通に携わる人、食べ残しの行方など、せめて食べ物の向こうに関心を持つきっかけにしてほしい」▼がん患者の記を集めた情報誌「メッセンジャー」の編集長、杉浦貴之さん(38)は、自らのがん体験から発行を思い立った。「患者は絶望の中で希望を探している。一人一人の力や希望の光は小さくても、たくさんあれば見つけやすい」▼「奇跡的に、こんな素晴らしい時代の日本に生まれたわけですから、すべて体験してやろうという気持ち」。テレビに演劇、執筆と間口が広い落語家春風亭昇太さん(50)である▼98歳で亡くなった俳優北林谷栄さんを、映画評論家の佐藤忠男氏は神話的と評す。「世の中が浮ついていても、おばあさんの周りは落ち着いている……かつての日本映画には、主役でなくても独自の世界を持つ、そんな人物の居場所がたくさんあった」▼日本通のジョン・ダワー米MIT教授(71)が教職を退く。占領期を描いた著「敗北を抱きしめて」について「戦争直後、多くの日本人が様々なレベルで粘り強さと明るさを発揮し、軍事に頼らない平和をつくろうとした姿を描きたかった」。粘りと明るさ。今求められる二つである。

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