現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

日中ガス田開発―大局を見つめて交渉を

 日中両国間の大きな懸案である東シナ海のガス田共同開発問題で、早急に条約締結交渉入りすることが合意された。締結までに乗り越えなければならない壁は多かろうが、道筋がひとまずついたことを評価する。

 昨日あった鳩山由紀夫首相と温家宝首相による首脳会談で、温首相の方から「できるだけ早急に交渉を開始したい」と提案があった。事前には予想されなかった動きだった。

 というのも、東シナ海のガス田開発問題は2008年6月に日中間で合意されながら、中国側は日本側の条約締結交渉開始の要求にずっと応じてこなかったからだ。

 国内で噴き出した反対の世論や、日本との協力を警戒する人民解放軍の意向を、指導部が考慮したためと見られている。日本法人が出資する「白樺」(中国名・春暁)で、中国側が構造物の増築と思われる動きを見せたこともあり、日本側は不信感を募らせた。

 4月に鳩山首相がワシントンで胡錦濤国家主席に「自ら関係部局に指示を出してほしい」と要請した際も、具体的な反応は得られなかった。

 それが一転した理由ははっきりしない。いまやがけっぷちに立つ鳩山首相には久しぶりの外交ポイントかもしれないが、中国側がそんなことを考慮したとは思えない。対日外交を重視する胡主席や温首相らによる国内調整にメドがついたのではないか。

 中国側の積極的な動きは歓迎したい。だが、「できるだけ早期の」条約締結交渉をいつ、どこで始めるかについては提案されなかった。

 共同開発や出資をめぐる詰めの議論が容易でないことは十分に予想される。中国で再び反対の声が広がるかもしれない。また、12年の共産党大会に向けた人事調整も対日外交に影響しかねない。鳩山政権にも本格的な外交を進める余裕はなかろう。

 東シナ海の資源問題は、排他的経済水域(EEZ)の線引きがからんで、日中双方のナショナリズムを刺激しやすい。だからこそ、日中関係を長期的かつ安定的に発展させるためには、双方が大局を見つめて譲歩して利益を分け合う共同開発が必要だ。

 海をめぐる問題では、中国海軍ヘリによる自衛隊護衛艦への異常接近について鳩山首相が懸念を表明した。温首相は直接答えなかったが、海上危機管理メカニズムの早期構築には合意した。温首相は緊急時に電話で意見交換できる首相間ホットラインの設置も提案し、これも合意された。

 目下の焦点、韓国哨戒艦沈没事件への対応をめぐっては、中国の慎重な姿勢に変化はなかった模様だ。国連の安全保障理事会での議論に向けて米国、韓国と連携して中国への働きかけを強めるべきだ。

事業仕分け―監視の目を緩めまい

 世論受けを狙った政治的パフォーマンスに終わるのか、それとも、文字通り行政の刷新につながるのか、真価が問われるのはむしろこれからだ。

 鳩山政権が始めた行政刷新会議の事業仕分けが一区切りついた。国の予算を対象にした昨年秋の第1弾に続き、独立行政法人と政府系公益法人を取り上げた第2弾がこのほど終わった。

 独法も公益法人も、高額な給与と退職金で官僚の天下りを受け入れる一方で、国から補助金や事業委託を受け、非効率な事業を行っていると批判されてきた。

 今回の仕分けでは、計117法人の233事業が俎上(そじょう)にのぼり、80事業が廃止と判定されたほか、ため込んだ資産の国庫返納などが求められた。

 しかし、仕分け結果そのものに法的拘束力はない。過去の改革では、名目を変えて事業を存続させたり、看板を掛け替えて組織を維持したり、霞が関と族議員の抵抗で骨抜きになるケースも少なくなかった。

 民主党はマニフェストで、独法は「全廃を含めた抜本的見直し」、天下り公益法人は「原則廃止」とした。仕分け結果を尊重し、事業の廃止・縮減を法人の大胆な統廃合や民営化につなげなければいけない。まさに政治の力量が問われる。

 天下りを必要としない抜本的な公務員制度改革も欠かせない。定年まで安心して働ける一方で、組織の活力を失わない仕組みをどうつくるか、知恵を絞らないといけない。

 これまで仕分けの対象となったのは、全体のごく一部に過ぎない。単発的なイベントに終わらせず、すべての事業に常に目を光らせることができるような「仕分けの制度化」が必要だ。

 その点、鳩山政権が新たに始めた府省版事業仕分け「行政事業レビュー」の果たすべき役割は大きい。お手盛りと言われないよう、厳しく吟味してほしい。官僚の意識改革を促すため、予算を分捕るより、効率的に使うことの方が評価される仕組みもあっていい。

 民間から起用された仕分け人の活躍をみて、「これは本来、国会議員の仕事ではないか」と思った人も多いだろう。予算にしろ、決算にしろ、いまの国会が税金の使い道のチェックという責務を十分に果たしているとはとてもいえない。与野党を超えて、新しい審議のあり方を探ってほしい。

 仕分け会場には連日、多くの人々が直接足を運び、インターネット中継の視聴者も多かった。普通の国民がこれほど税金の使い道に目をこらしたことは、かつてなかったろう。この関心を決して低下させてはいけない。

 行政事業レビューも国会審議もすべて公開で行われる。税金の使い道をただすのは、結局は国民の厳しい視線によるしかないのだ。

PR情報