【都条例「考える会」シンポジウム】5,000人が注目した「非実在青少年」の行方 東京都は何を隠したか?
2010年05月30日08時20分 / 提供:日刊サイゾー
性描写のある作品のゾーニングは青少年の健全育成のためなのか、それとも表現規制なのか。
今年2月から始まった都議会に、東京都青少年問題協議会の答申案に基づき、石原都知事が提出した東京都青少年健全育成条例の改正案は当初より出版関係者のみならず、一般市民からもその正当性が疑われていた。
問題視されているのは、かいつまむと以下の点だ。
・インターネット、携帯コンテンツ事業者に対するフィルタリングの強化
・非実在青少年を相手方とする性交、および性交類似行為を描写したコミック、アニメ、ゲームを含む不健全図書販売についての自主規制の要請
・児童ポルノの単純所持規制
結局、3月の都議会では審議継続となり、可決は今のところ見送られている形となっているが、6月から始まる都議会において、再び論議されることなる。
規制反対派にとっては、いまだ予断を許さない状況である。
そんな中、5月17日、東京都青少年健全育成条例改正を考える会(以下・考える会)は、豊島公会堂で緊急シンポジウム「どうする!? どうなる? 都条例――非実在青少年とケータイ規制を考える」と題したシンポジウムを開催。代表者である藤本由香里(明治大学准教授)、山口貴士弁護士をはじめ、宮台真司(社会学者・首都大学東京教授)、竹宮恵子(漫画家)、山本直樹(漫画家)、出版業界関係者、モバイル・コンテンツ審査運用監視機構(EMA)、規制反対派の民主党議員など、各方面の識者が集い、多角的に今回の改正案の問題点を論じ合った。
その中でも、「考える会」代表の山口氏による講演は、改正案の問題点、誤解されている点、そして可決した際に考えられうる状況を簡潔にまとめたものとなっており、今後当問題について考える上で参考となる部分の多い有意義な内容となっていた。
■東京都が隠す都条例改正案の問題点
「マスコミ側も情報が錯綜している。正しい情報を共有してもらいたい」と前置きをした上で山口氏は講演を開始。まず、4月26日に東京都が作成した「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集」について、
「担当者は誠意を持って回答しているかもしれません。が、この回答集に法的な拘束力はありません。担当者が交代したらあっさり内容が変わるかも知れない。重要なのは条文なのです」
と、都の回答をバッサリ一刀両断。また、今回の条例改正の真の目的は、都が直接規制をするのではなく、市民運動による表現狩りを可能とするというものだとの見解を述べた。
「今回の質問回答集では、改正条例では、現在の条例よりも、成人指定のマークを貼り、ゾーニングしなくてはならない対象が著しく拡大されることを東京都は意図的に隠しています。『非実在青少年』の性的な描写を含む作品はゾーニング、つまり成人指定マークを付けて成人向けコーナーに置くことになる可能性が高いです。とはいえ、形式的には、自主規制を促す条例なので、このルールを守らなくても、直ちに、不健全指定図書扱いされることはありません。が、事実上の拘束力はあります。ルールを作った瞬間から、『ルールを守らない相手をどうするのか』という議論が当然始まるからです。強制力がないとはいえ、青少年に見えるキャラクターによる性表現を含む作品について、成年指定をしてゾーニングをしない限りは、次の条例改正が議論されるときに、やっぱり自主規制が働かないから不健全図書(指定)の対象にしようという流れが目にみえています。また、『非実在青少年』の性的な表現の『まん延の防止』を目的とする官製悪書追放運動による圧力にも晒されます。法的強制力がなくとも、表現者、出版社を萎縮させることに変わりはありません。東京都は、表現の自由という建前がある以上、正面から『発禁』、『作者逮捕』とは言えないことを分かっています。そこで、条例を通じて非実在青少年の性描写が悪いものだという世論誘導を行い、じわじわと表現の場、流通の場を奪おうとしているのです」
つまり、今回の都条例の改正案は形を変えた表現の自由の規制ということが言える。この点について山口氏も
「今回の条例改正は、従来の青少年健全育成条例の範疇を逸脱していると言わざるを得ません」
「青少年健全育成条例というのは、青少年の未成熟さに注目して、国親的な観点から公権力が介入する制度であり、18歳以上の者が特定の表現を受容することについて、阻害したり負の評価をすることは合憲性の前提を逸脱します」
と述べ、条例に潜む根本的な問題点を簡潔かつ的確に指摘した。
■累計5,000人が注目したシンポジウム
その他、各方面の識者による都条例改正案についての問題点が述べられた。特に盛り上がったのは、社会学者・宮台真司による鋭いツッコミ......もとい条例改正案への指摘だ。
「条例改正案は、構成要件が不明確なうえに罰則規定がない。これは市民の悪書狩りを奨励しているのと同じである」
「メディアが子どもの健全な成長を妨げるという学術的な根拠はない。(中略)メディアの受容環境の整備が最善策で、それができない場合に表現規制をすべきである。そうした努力を怠るのは、行政の怠慢だと言わざるを得ない」
と、安易な表現規制、ゾーニングを推進する都の方針に異を唱えた。シンポジウムは、公会堂の使用可能時間ギリギリまで行われ、全ての参加者が当事者意識を新たにした有意義なイベントだったといえる。
なお、同シンポジウム終了後、記者に対して山口貴士弁護士は
「東京都は、パブリックコメントなどの情報を開示して、市民と正面から向き合った議論をして欲しい。規制の根拠の一つとされている内閣府の恣意的なアンケートには、何の意味もありません」
と、都の不誠実な対応に苦言を呈した。
その一方で主催者の発表によると、会場の収容人数800人に対し、来場者は1,000人以上。また、Ustreamによる中継の視聴者は常時1,000人、延べ4,000人以上とのこと。この人数に主催者の藤本由香里氏は「大変心強い」とコメント。、
今回の問題が、多くの人から非常に高い注目を浴びていることが浮き彫りとなった。我々が憲法の下に保障されているの表現の自由が、今後どのように扱われていくのか。全ての国民にとって重要な問題に、これからも注視していくべきであろう。
なお、今後も「考える会」は、廃案を目指して情報の周知と議論を続けていくという。注目の東京都議会、平成22年第2回定例会は6月1日より開始される。
(文=有田シュン)
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・インターネット、携帯コンテンツ事業者に対するフィルタリングの強化
・非実在青少年を相手方とする性交、および性交類似行為を描写したコミック、アニメ、ゲームを含む不健全図書販売についての自主規制の要請
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結局、3月の都議会では審議継続となり、可決は今のところ見送られている形となっているが、6月から始まる都議会において、再び論議されることなる。
規制反対派にとっては、いまだ予断を許さない状況である。
そんな中、5月17日、東京都青少年健全育成条例改正を考える会(以下・考える会)は、豊島公会堂で緊急シンポジウム「どうする!? どうなる? 都条例――非実在青少年とケータイ規制を考える」と題したシンポジウムを開催。代表者である藤本由香里(明治大学准教授)、山口貴士弁護士をはじめ、宮台真司(社会学者・首都大学東京教授)、竹宮恵子(漫画家)、山本直樹(漫画家)、出版業界関係者、モバイル・コンテンツ審査運用監視機構(EMA)、規制反対派の民主党議員など、各方面の識者が集い、多角的に今回の改正案の問題点を論じ合った。
その中でも、「考える会」代表の山口氏による講演は、改正案の問題点、誤解されている点、そして可決した際に考えられうる状況を簡潔にまとめたものとなっており、今後当問題について考える上で参考となる部分の多い有意義な内容となっていた。
■東京都が隠す都条例改正案の問題点
「マスコミ側も情報が錯綜している。正しい情報を共有してもらいたい」と前置きをした上で山口氏は講演を開始。まず、4月26日に東京都が作成した「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集」について、
「担当者は誠意を持って回答しているかもしれません。が、この回答集に法的な拘束力はありません。担当者が交代したらあっさり内容が変わるかも知れない。重要なのは条文なのです」
と、都の回答をバッサリ一刀両断。また、今回の条例改正の真の目的は、都が直接規制をするのではなく、市民運動による表現狩りを可能とするというものだとの見解を述べた。
「今回の質問回答集では、改正条例では、現在の条例よりも、成人指定のマークを貼り、ゾーニングしなくてはならない対象が著しく拡大されることを東京都は意図的に隠しています。『非実在青少年』の性的な描写を含む作品はゾーニング、つまり成人指定マークを付けて成人向けコーナーに置くことになる可能性が高いです。とはいえ、形式的には、自主規制を促す条例なので、このルールを守らなくても、直ちに、不健全指定図書扱いされることはありません。が、事実上の拘束力はあります。ルールを作った瞬間から、『ルールを守らない相手をどうするのか』という議論が当然始まるからです。強制力がないとはいえ、青少年に見えるキャラクターによる性表現を含む作品について、成年指定をしてゾーニングをしない限りは、次の条例改正が議論されるときに、やっぱり自主規制が働かないから不健全図書(指定)の対象にしようという流れが目にみえています。また、『非実在青少年』の性的な表現の『まん延の防止』を目的とする官製悪書追放運動による圧力にも晒されます。法的強制力がなくとも、表現者、出版社を萎縮させることに変わりはありません。東京都は、表現の自由という建前がある以上、正面から『発禁』、『作者逮捕』とは言えないことを分かっています。そこで、条例を通じて非実在青少年の性描写が悪いものだという世論誘導を行い、じわじわと表現の場、流通の場を奪おうとしているのです」
つまり、今回の都条例の改正案は形を変えた表現の自由の規制ということが言える。この点について山口氏も
「今回の条例改正は、従来の青少年健全育成条例の範疇を逸脱していると言わざるを得ません」
「青少年健全育成条例というのは、青少年の未成熟さに注目して、国親的な観点から公権力が介入する制度であり、18歳以上の者が特定の表現を受容することについて、阻害したり負の評価をすることは合憲性の前提を逸脱します」
と述べ、条例に潜む根本的な問題点を簡潔かつ的確に指摘した。
■累計5,000人が注目したシンポジウム
その他、各方面の識者による都条例改正案についての問題点が述べられた。特に盛り上がったのは、社会学者・宮台真司による鋭いツッコミ......もとい条例改正案への指摘だ。
「条例改正案は、構成要件が不明確なうえに罰則規定がない。これは市民の悪書狩りを奨励しているのと同じである」
「メディアが子どもの健全な成長を妨げるという学術的な根拠はない。(中略)メディアの受容環境の整備が最善策で、それができない場合に表現規制をすべきである。そうした努力を怠るのは、行政の怠慢だと言わざるを得ない」
と、安易な表現規制、ゾーニングを推進する都の方針に異を唱えた。シンポジウムは、公会堂の使用可能時間ギリギリまで行われ、全ての参加者が当事者意識を新たにした有意義なイベントだったといえる。
なお、同シンポジウム終了後、記者に対して山口貴士弁護士は
「東京都は、パブリックコメントなどの情報を開示して、市民と正面から向き合った議論をして欲しい。規制の根拠の一つとされている内閣府の恣意的なアンケートには、何の意味もありません」
と、都の不誠実な対応に苦言を呈した。
その一方で主催者の発表によると、会場の収容人数800人に対し、来場者は1,000人以上。また、Ustreamによる中継の視聴者は常時1,000人、延べ4,000人以上とのこと。この人数に主催者の藤本由香里氏は「大変心強い」とコメント。、
今回の問題が、多くの人から非常に高い注目を浴びていることが浮き彫りとなった。我々が憲法の下に保障されているの表現の自由が、今後どのように扱われていくのか。全ての国民にとって重要な問題に、これからも注視していくべきであろう。
なお、今後も「考える会」は、廃案を目指して情報の周知と議論を続けていくという。注目の東京都議会、平成22年第2回定例会は6月1日より開始される。
(文=有田シュン)
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