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きょうの社説 2010年6月1日
◎子ども手当支給 たくましく育てる一助に
今月から子ども手当の支給を受ける子育て世帯に、ぜひお願いしたいことがある。中学
生以下1人当たり月額1万3千円支給される手当を、できる限り貯蓄に回さずに、子ども自身のために使ってほしいのだ。子どもは社会全体の宝であり、出産・育児はいわば社会活動の側面もある。子ども手当 は、そうした社会的貢献への「対価」と言ってよく、税金で支える理由がそこにある。子ども手当が、心身ともにたくましい子どもを育てる一助になれば、税を負担する側の理解も得られやすい。 たとえば、ひ弱で飽きっぽい現代っ子に、スポーツや美術、音楽などを習わせたり、本 や新聞を読ませる。コンサートに足を運んで生の音楽を聴かせたり、演劇や映画を鑑賞させるのもいい。体を鍛え、知性を磨き、心を耕すことに重点的に子ども手当を使ってほしいのである。子どもの将来への「投資」は本人のためだけでなく、社会全体のためになり、地域経済の活性化にも役立つだろう。 少子化の現状と対策をまとめた政府の「子ども・子育て白書」によれば、2008年の 合計特殊出生率(女性1人が生涯に産む子供の数の推計値)は1・37と3年連続で上昇したが、欧米諸国に比べれば、まだまだ低い。子ども手当の満額支給については、議論が分かれるところでも、社会全体で出産・育児を支える制度は必要だ。 子どもを産める年代の女性はこれから急速に減っていく。このペースで子どもが減り続 けると、健全な社会を維持していくのが困難になりかねない。国民全体で次世代の育成に積極的に取り組む必要がある。 子ども手当は6、10、2月の年3回支給され、対象者は1735万人、給付費総額は 2兆2554億円に及ぶ。1日支給の富山県朝日町など1道2県の7町村を皮切りに、石川、富山県では今月15日までに全市町村で支給される見通しである。バラマキとの批判があるとはいえ、冷え込んだ個人消費を喚起する期待も大きい。子育てをテーマにした多彩な商品やサービスのなかから、子どもの将来に役立つものを選びたい。
◎日伊共同壁画修復 金沢にふさわしい国際貢献
金大が西洋壁画修復の拠点となる「フレスコ壁画研究センター」を開設し、イタリアの
国立研究所と4年間にわたる調査研究の実施で合意した。フィレンツェにある教会のフレスコ壁画修復に取り組んできた金大の実績を生かし、南イタリアの中世壁画群に対象を広げるスケールの大きな事業である。金大が手掛けた壁画修復は、美術愛好家からの巨額の寄付を受けたプロジェクトでもあ る。独立法人となった国立大学にとって寄付者の善意を具体的な成果に結びつけることは、外部資金を幅広く集めるうえでも重要な意味をもつ。 金大が文化財修復の国際拠点を目指すことは、ユネスコの「クラフト創造都市」、国の 「歴史都市」認定を受けた金沢にとっても、その看板にふさわしい取り組みといえる。大学というより、金沢発の国際貢献として積極的に応援したい。大学側も調査の成果を定期的に発信し、金沢とフィレンツェの交流促進につなげてほしい。 フレスコ画は壁面に漆喰を塗り、乾かないうちに絵を描く技法である。金大で宮下孝晴 教授が研究していることから、都内の美術愛好家が2億円を寄付し、それを元手にフィレンツェの三大教会の一つ、サンタ・クローチェ教会の壁画修復事業が2004年から始まった。壁面の状態や顔料などを科学的に分析し、洗浄を進めた結果、14世紀後半に制作された壁画は当時の姿をほぼ取り戻し、9月に完成する見通しになった。 金大が国立フィレンツェ修復研究所と実施する共同事業は、これらの技術をさらに発展 させ、南イタリアの壁画群を対象にデジタルアーカイブ(電子書庫)を作成する。拠点となる研究センターは壁画の診断機器開発なども進める。 ルネサンス文化の中心地となったフィレンツェは今も工芸が盛んで、金沢が前田家の文 化政策で発展したように、メディチ家によって栄えた歴史をもつ。金沢市が1995年に世界工芸都市宣言をした当時は、フィレンツェも参考事例の一つだった。金大のプロジェクトは、都市交流を深める絶好の機会でもある。
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