アリスさんがどうにもならない血縁へ向かおうとするのを、過去において誰も止めた事はなかったらしい。世の中の風潮だ、施設を出てから周囲のバッシングが強く、親を否定する言葉を少しでも言おうものなら険悪な反応が返ってくるので、

　「親から捨てられた」

　という一言がどうしても言えない。一度も育てられず、施設へ入れっぱなしで影だけちらつかせ、必要な時に利用する甘ったれ毒親にこの世界はあまりに寛大すぎる。だから養護施設で里親と出会っても、里親へ向かう事ができないのだと思う。

　この世界はとにかく心温まる話を聞きたいらしい。
心が温まるためには、幸せな家庭の幸せな話ではダメらしい。

　気温差が感じられないとダメらしい。
寒いところから温かいところへ行って温もりを感じたい。

　だから逆境の主人公（子どもなら尚良い）がどんな困難も乗り越えて、最後には（何故かいつも同じ展開）自分を置いて出ていった親の元へたどりつくのを見たいらしい。そこで感動秘話＝心温まる話として完結するらしい。

　そんな世間様の風潮につき合わされてたまるものか。人の趣味の為にこっちは親から捨てられたんじゃない。人の感動好きな求めに応じて、常に親を求めなさいとプレッシャーを掛けられる。

「どんな親でも親をきらいな子どもはいない」

　と言われても、捨てられきったらどこで、その「どんな親」かどうかを確認できる？親に対する基礎データなしに親を求めさせようとしているにも関わらず、世間の風潮をかさに周囲の人々からは随分嫌味を事を言われてきた。

　リアル世界の自分もネットで書いている自分もほとんど変わらない主張をしているから、世間の心温かい話を求める人々は怒りが止まらないと思う。何度も言うけど、少なくともわたしが施設で親から捨てられても図太く雑草根性で生きるのは、ボランティア精神に溢れる人々の自己満足の為じゃなく、感動屋の求める感動秘話の為でもない。

　「子ども達の笑顔に励まされました」

　親のない子が怒ったり泣いたり不満を言うと、不平不満を言うな、感謝の気持ちが足らないと言うくせに、笑顔を見せると勝手に心温まっていく人々。

　そういうわけで、とくに「フ○ンダースの犬」などの名作といわれるものも嫌いだった。親がいないために散々村人から蔑みを受けて、最後は飢えと寒さと泥棒の嫌疑を掛けられて教会で死んでいく。そんな子どもの話の何が感動名作だと思った。

　この少年、何もリベンジできていない。泥棒の汚名は晴らせたっけ？親のない子は死ななきゃ名誉市民になれないのか。

　虐待された家庭育ちの子は口癖のようにわたしに言った。

　「でも私、レイちゃんよりはマシよね」
　「施設へ入れるぞって言われて、色んな事を我慢したけど、捨てられたくなかった」

　と。これは紙袋いっぱいの着れない古着の子とは別の子だけど。

　つまり、機能不全家庭の彼女は捨てられたくないから、虐待に耐えてkきた。その評価を誰もしてくれないから施設育ちのわたしに語る。そうすれば自分が捨てられたくない為にどれだけ耐え抜いたか伝わるのでは？と勘違いしている。しかし、捨てられない為に耐えた事がないから理解できない。

　それより、この耐乏生活自体、まったくめちゃくちゃな話で、彼女のように家庭で虐待を受けている子は別の専門里親家庭へ委託されてほしい、一時期施設へプールされても別の虐待されない家庭を知ってほしい。・・・ともかく、虐待されている機能不全家庭の子どもたちは捨てられまいと耐えてしまうようだ。それは反抗期の頃には、怒りに変わるのだろうが・・・。

　しかし、わたしは施設を脱走した。捨てられようがどうしようが１人で生き抜いていた。捨てられるとか捨てられないなどは関係なかった。

　そういう施設育ちもいるという事だ。

　自分の意見は自分の過去の影響から語っているから、当然自分仕様な発信でもある。全ての施設育ちに当てはまるとは思っていない。捨てられきってないと感じてる施設育ちもいるだろう、家庭で虐待された子で施設が家庭よりマシならば、多少マラソン大会があっても耐えられるだろう。

　そんな風に施設っ子にはそれぞれ固有の感じ方がある。

　でも、親を求めない事で怒りを向けられても困る。里親家庭という道を選べなかった私怨は自分にはあるが、だからといって、血縁親がうろちょろ影を見せる事を理由に、愛着がないのはおかしいと言うのは、子どもはどんな親でも求めるという幻想の話のなせる業だと思う。