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「そんな子はうちの子じゃありません」と怒る母親

 知り合いと会う事になった、彼女は五歳の子どもを連れてきていた。その日は少し落ちつかない様子だった彼女の息子。レストランの中でもぞもぞと動き回っていた。

 やがて話を中断した彼女は息子に向かって言った。

 「そんな子はうちの子じゃありません!」
 「いつまでもそんな事をしてたらここへ捨ててくよ」

 わたしはびっくりして彼女を見てしまった、え?だってこの子、どうしたらいいの?一瞬さまざまな想像をしてしまったが、彼女はため息をついて言った。
 
 「言う事聞かない時はこれしかないのよ」
 
 わたしはその男の子を見た、男の子はじっといすに座って耳だけピンと立てて大人の様子を伺っているように感じられた。顔は前を向いてるんだけれど、目は明らかにきょろきょろと大人を見ようとしている。実子でもこういう事をえんえんと言われたらたまらないだろうなと思った。

 「そんな事言って平気なの?」と思わずきいた。

 知り合いは笑った
 
 「大丈夫だよ、ほんとに捨てるわけじゃないんだし、少し経ったら又遊び出すわよ」と。

 複雑な心境だった。年端がいかなくても「うちの子じゃありません」の意味が分かるんだろうなと思った。その男の子にとってはどこか別の場所へやられてしまう予感が常にあるのかもしれないが、母親は軽い気持ち?で言うのだろうと思った。

 ただ、家庭の子なら不安そうな顔をして、すっかりおとなしくなるこの言葉、施設の子はどんな反応をするだろうか、(いや、そもそも多動のような行動を施設から来た子はしないと思うが)五歳くらいの、施設から委託されてきた子がもし言われたら・・・。

 もし施設から来た子なら、「わかった」と返事するだろう。そして引越しの支度をめまぐるしく考え始める。この家には何かの理由で居られなくなったから、次の場所に気持ちを向けるだろう。態度もいたって平静で、捨てられる事は未知の世界ではないので不安もない。旅慣れたバックパッカーのような雰囲気の子どもだろう。

 施設の子の場合は「お前など施設へ入れてしまうぞ」と言われて本当に入ってきた子も多いし、それこそ有無を言わさず乳児院から措置変更になり施設へ入ってきている子もいる。実親に捨てられ、乳児院の保育士さんとも別れを体験してきている。だから里親の言葉は単なる脅しじゃなくて現実のものになる可能性がある。施設の子が何でも額面通りに受け取るのも、本当に捨てられてきている過去があるからと思う。

 「もうお前の事は知りません」というような言葉の次には施設入所が待っていたのだ。たとえ里親家庭へ迎えられても施設に戻されるキーワードには敏感になるかもしれない。言われた瞬間には心の準備をしている気分。

 たぶん、里親家庭の実子と施設の子の心構えは小さなうちから全く別の形をしているのだろう。かといって実子だから何を言っても判ってくれると思うのは親の押し付けと思う。実子を大事にする事はとても必要な事と思う。

 里子はいつも絆を更新して先へ進まなくてはならない。よそへやられるという印象の言葉に敏感なので、心が次の場所へ行く支度をしている。あとはそのキーワードをきき、大人しくいう事を聞けばいいだけだ。

 そういえば、数年前、ある里親さんが不調で施設へ子どもを戻した話を書いていたけれど、その子は小学生になって委託されてきたらしいが、登校前に「行って来ます・・・・ええと、学校終わったらここに戻って来ていいんですか?」のような事を言ったらしい。

 彼女(里子)のスタンダードはいつも流転だったらしい。朝学校へ行って、戻る場所を常に聞いておかないと行動できないと思っているようだった。その里親さんもかなり衝撃を受けていたらしい。
 絆づくりってとても時間が掛かる。

 普通の家庭で育てられた概念を当てはめてるだけでは、およそたどり着けない程の変な概念を施設育ちの里子や機能不全家庭の里子は持っている、その中でも施設から来た子はあっけらかんと虚無をはく。家庭の子はどこか悲しいものが漂っているのに、がさつな印象の施設の子はどうしても周囲の理解を得られにくいと感じる。
 
 ちなみに施設に中学や高校くらいまでいた子は「こんな自分だから誰も引き取り手がなかった」と笑い話にしてしまう子が多い。その冷め方を覚えると、あたたかい家庭を作る事がより困難になってしまう。「こんな子だから誰も引き取り手がなかった」という言葉を聞いて、周囲も一緒に笑って肯定する環境では、間違ったメッセージを正しいと思い込んでしまう。施設にはそれを叱る人がいないのだ。 

|  整理中の課題&記事 | 07時15分 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑














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