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2代、3代と続けて施設に入る子供の増加



毎日新聞 2006年12月29日 東京朝刊 (新聞記事は掲載期間を終えているようです)
参照元: http://iitaizou.at.webry.info/200612/article_62.html

ついに「貧困の世襲化」
2006/12/29 18:23

06年に一言 弱者切り捨ての果て…急増する自死遺児=萩尾信也(社会部)

 ◇ついに「貧困の世襲化」−−底からの視点薄い行政

 師走の東京で幾度も「貧困」という言葉を耳にした。「格差」にあらず、人の生命や尊厳までもが脅かされている状況をいう。戦後の経済復興の過程で一度は日本社会の表層から消えたかに見えた言葉が、06年冬の街に戻っていた。

 「日本で『貧困の世襲化』の時代が始まった。腹を据えてかからなあかん」

 事故や災害、病気で親を亡くした高校生や大学生を奨学金や学生寮で支える「あしなが育英会」。会長の玉井義臣さん(71)はこんな言葉で時代を語る。

 会の運営は「あしながさん」と呼ばれる有志の寄付と、奨学生が行う街頭募金を中心にまかなってきた。

 しかし、98年に912人だった高校奨学生の出願数は今年1796人に倍増。高校生遺児の母子家庭の平均勤労年収も98年の200万円が145万円に落ち込んだ。政府が打ち出した生活保護の母子加算の廃止の方針は、彼らの窮状に拍車をかける。

 時代は遺児が生まれた原因にも影を落としている。97年に高校奨学生の3・5%を占めた自死遺児は今年16・7%まで上昇。自死の背景には、「倒産」や「リストラ」の言葉が浮かぶ。

 「世の中を金持ちやエリートに任せていてはえらいことになる。これからは君たちが切り開く番や。それには一人一人が力をつけなあかん。人の痛みに思いをはせる想像力や」

 玉井さんが奨学生の若者らに託すメッセージは、我々一人一人にも突きつけられたものだ。

 「問題の本質は、経済的な貧困に心の困窮が加わったことだ」。クリスマスツリーが飾られた都内の児童養護施設で、理事長はこう言って、頭(かぶり)を振った。

 2代、3代と続けて施設に入る子供の増加は、貧困の連鎖を止める社会機能の喪失を物語る。入園した子供の8、9割が親による虐待経験を持つという現実の根っこには、虐待する側の心の痛みも浮上する。

 「子供の心には大人の心が映っている。今年、世間をにぎわせた、いじめ問題がいい例だ。露呈したのは大人のインチキ。社会の蘇生は、大人たちが未来をしっかり見据えて、子供の傍らに寄り添うことから始めるべきだ」。施設の子供たちの背中に視線を向けて理事長はそう繰り返した。


 「言葉のごまかしはもうやめよう。『格差』は『貧困』の現場まで持ち込む言葉ではないし、『成果主義』や『自立支援』の看板の下で進んでいるのは弱い者の『切り捨て』だから」

 非営利組織(NPO)「もやい」の湯浅誠さん(37)は視点の転換を訴える。

 貧困を表す指標に「年収が国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合」を示す「貧困率」がある。経済協力開発機構\(OECD)によると、02年の日本の貧困率は15・3%。調査国中5番目に高い数字で、バブル経済崩壊後、貧富の差が急激に拡大している。

 湯浅さんは01年に「自立しようにも保証人のあてがない路上生活者のために」と保証人を提供する制度を設立。1000人近くの保証人を引き受けてきたが、昨今、駆け込む人に変化が起きた。配偶者の暴力を受けた被害者や、ワーキングプアと呼ばれる若者の相談件数が増えたのだ。

 「路上生活者の中で起きていた問題が、さまざまな層に広がって起きている。来年はそんな声をつなぐ場所づくりから始めたい」。湯浅さんの言葉は、ひとつの指針を投げかける。

 クリスマスの夜。新宿駅の地下道で、60歳の路上生活者の男性が青ざめた顔でうめいていた。「救急車で病院に運ばれたが、点滴1本で帰された。3日間食べていない」。声から生気が消えていた。

 都は2年前から、都内の主な公園や河川敷でテント生活をする人々を対象にアパートを提供する「地域生活移行支援事業」を始めた。その結果、1200人近くが入居を果たしたが、地下道や路上で眠る人々はその対象の外にいる。

 そして同夜、新宿区内の「自殺防止センター」の相談電話は鳴り続けていた。

 「『福祉を打ち切られて生きていけない』。そんな電話が増えています」と設立者の西原由記子さん(73)。「電話で自殺を止められるのかって、よく聞かれます。確かに、私たちは非力な存在だけど、自殺を一人でも踏みとどまってほしい。電話がかからなくなる日まで続けます」。その言葉には頭が下がる。

 今秋、全国知事会と全国市長会の「新たなセーフティーネット検討会」がまとめた提案書のサブタイトルにはこんな文字がある。

 <「保護する制度」から「再チャレンジする人に手を差し伸べる制度」へ>。そこには、「貧困」の底からの視点は薄い。

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 「記者の目」へのご意見は〒100−8051 毎日新聞「記者の目」係へ。メールアドレスkishanome@mbx.mainichi.co.jp

毎日新聞 2006年12月29日 東京朝刊


Peony Root





 少し古い(昨年末)の新聞記事から、コラムの内容を紹介しているブログがありましたのでUPしました。

ただ、施設育ちの貧困世襲問題と家庭の人のワーキング・プアの問題とを一緒くたにしないでほしいと思った。施設入所二世、三世という事の、児童養護施設へ子どもを入れざるを得ない絆なき者の問題は、もっと以前からあったこと。

 二世、三世なのですよ、一体何年くらい前からでしょうか。

 親から遺棄された者が里親家庭も知らず、児童養護施設だけしか、かかわりがないという現実は、はるか前からあった事だ。今に始まった事じゃない。施設育ちだけが貧困であった時はずっと続いていた。

 こうして世の中が格差社会を意識するようになった事で、児童養護施設の問題も一緒くたに語られてはたまらない。児童福祉制度の根幹から考えてほしい問題だ。

|  気になる記事のCLIP2007 | 03時45分 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑














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