この問題については、先週の月曜日水曜日に二回に分けてアゴラのコラムで長々と論じましたが、それに対し多くのコメントを頂きました。また、現時点で9700人を超える方々にフォローして頂いている私のTwitterでも、この件に対するやり取りが継続的にあります。その中で、「私の考え」や「ソフトバンクの孫社長が今回打ち出した具体的な提言」に対する異論・反論は、おおむね体系的に把握出来たと思います。
考えてみれば、これは驚くべきことです。新聞や雑誌にしか頼れなかった時代には、このように自分の考えをどんどん世の中に問うことも出来なかったし、ましていわんや、それに対する異論・反論をほぼリアルタイムで聞かせてもらえる等ということはあり得ませんでした。官庁筋や有力なジャーナリストの方々も、「もはやブログやTwitterを無視している訳には行かない」と言って頂いていますし、「言論のあり方の革命」が今や着々と進行していることが実感出来ます。

そういうわけで、今回は、こうして収集できた異論・反論をベースとして、これまでの議論を総括してみたいと思います。(本当はチャートの形にして示せるともっとよいのですが、まあ、それは今後の課題としておきましょう。)

本論に入る前に、もう一度、現在私が勤務しているソフトバンクの立場を整理しておきます。ソフトバンクが望んでいる将来の姿は下記の通り単純明快です。

(1)出来るだけ早い時期に、あらゆる種類のクラウド型のサービスを可能とする「高速通信網」が日本中にいきわたること。

(2)あらゆるレイヤで完全な「公正競争環境」が保証されていること。

以上の2点に尽きます。

上記の(1)については、当然自らも貢献したいのですが、その為には2)が先決であり、且つ、仮に(2)が保証されていても、新たに自らが直接参入するのは「実質的に不可能」、或いは「極めて不効率」な分野もあることを認識しています。

次に、国の見地から考えるなら、上記の2点に加え、「あらゆるサービスを、全国で格差なく提供できること」が目標になるでしょう。

これが実現出来るなら、どのような技術が使われようと、NTTの組織にメスが入れられようと入れられまいと、そんなことはどうでもよいのです。「光の道」ということがスローガンとして掲げられているのは、「目的達成の為には、どうもそれが近道のようだ」と考えられているからであり、「NTTの構造問題」が併せて議論されているのは、「突き詰めていくと、この問題は避けて通れない」と思われているからに過ぎません。議論の結果、「もっとよい方法がある」という事になれば、それに固執する必要は全くないと思います。

それでは、前置きはここまでとし、以下に「異論・反論」を順不同で羅列し、そのそれぞれに対する回答、反論、或いはコメントを記します。順不同で羅列されている異論・反論には、当然、重いものと軽いものが交じり合っておりますが、ここでは特にそれを意識はしない事にします。

1)インフラは諸外国より進んでおり、大きな問題はない。それよりも重要なのは「利活用」の問題なのだから、先ずはそのことに議論を集中すべきなのに、何故インフラのことばかりを論じたてるのか?

「インフラ」の問題は「必要条件」ではあるが、勿論「十分条件」ではありません。それなのに、何故先ず「インフラ」の問題のみを声高に論じるかと言えば、それが「政治的にしか解決できない問題」だからです。逆に「利活用」の問題は、環境さえ整えば自然に進むものであり、あまり政治的に論じる必要のない問題だからです。

いつも例に挙げることですが、多くの発展途上国では、電力線を国の政策として各戸まで引き込むかどうかは、国家レベルでの大きな議論となります。しかし、それが電灯等の最小限の用途でしか使われない(つまり「利活用が不十分で、無理して電力線を引き込んだ意味が少なかった」と判断される状態にとどまる)か、テレビや、洗濯機、冷蔵庫などを含む数多くの家電製品の為に使われる(つまり「十分に利活用が進む」)かは、各利用者のニーズと経済力によって決まることであり、別に大きな政治的な議論を必要としません。

家電製品の製造会社や流通・輸入業者は、それぞれの思惑で投資をして、売込みをはかりますが、それがうまく回るかどうか、どのように進捗するかは成り行き次第ですし、国が関与すること等はあまりありません。「高速通信網」の「利活用」も同じことで、インフラが広くいきわたっていれば、多くのサービス業者の意欲が刺激され、多くのサービスが格安に提供されるようになり、それによって利活用が進むのが普通です。

現在の携帯電話サービスを支える3Gネットワークのことを考えてみてください。今や、多くの人達にとって「3Gがない」等という状況は考えられず、3Gでも不十分と感じる人達が日増しに多くなっている状況ですが、導入時は、多くの人達の想像力は「テレビ電話」等というものにしか及ばず、これは当然のことながら全くの空振りだったので、先行したドコモは2年間投資の回収に苦労しました。(欧州などでも、「一体何が3Gのキラーアプリになりうるのか」という議論が長い間続いていました。)

学者や評論家の先生方が「高速通信網の利活用」の問題を論じている姿は、失礼ながら私にはやや滑稽な(場違いな)ものに見えてなりません。そういう方々の誰が、YouTubeやFace book、モバゲーやグリーのことを予測できたでしょうか? インフラは巨大企業にしか整備できず、巨大企業ですら政治の後押しがなければどうにもならない事が多いのに対し、「利活用」の市場は、放っておいても、名もない人達が滑ったり転んだりしながら作り上げていくものです。

現時点でも既に相当数の人達が「光でなくちゃあ、トロくさくてやってられないよ」と感じ、実際にFTTHを契約しているのですから、すでに「利活用」は始まっているのであり、後はこれが拡大していくのが自然の流れのように思われます。

成程、初期においては、ある程度のリテラシーを持った人達や、オタクっぽい人達が主な利用者になるので、「一般人がそんなものを使うのかなあ」という考えを持つ人達も多いでしょうが、市場がある程度まで広がってくると、サービスの提供者がもっと利用者層を広げようと考えて、関連機器やサービスの手順を簡素化していくので、実際に利用者層が広がっていくのが常です。

「インフラ」と「利活用」を、その「重要性」や、現時点での「不十分度」から静的に比較してみれば、成程、後者の方が前者より数倍「重要」であり、且つ「不十分」であるのも事実です。しかし、これを動的に見ると、「インフラ」がなければ何も始まらないので、これだけは政治的に引っ張っていかねばなりませんが、「インフラ」さえ整備されれば、後はほぼレセ・フェールで動くでしょう。

「インフラ」は鶏、「利活用」は卵です。つまり、「インフラ」は「とりあえず確保しなければならない数羽の鶏」であり、「利活用」は「毎日生み出されて食卓に供せられる大量の卵」なのです。従って、今、とりあえず論議を鶏(インフラ)に集中することは、意味のなることであって、全然おかしいことではありません。

(尤も、「利活用」の面でも、一つだけ政治的なプッシュが必要なことはあります。それは既得権者の抵抗で一向に進まない「コンテンツの二次利用、三次利用」の問題です。これは「通信と放送の融合」の問題とも絡み合った問題であり、今すぐにでも「政治主導」が必要とされている事柄です。)

2)現時点で既に日本全体の90%に対して光回線敷設が可能な状態になっているのに、実際の利用者は30%程度にとどまっている。一部の地方都市等では、地方自治体が金を出して全戸に光回線引き込みを可能にしたのに、やはり加入率は30%程度にとどまっている。これは、「インフラを整備しても利用は進まない」ということの何よりの証左だ。

先ず、NTTが言っている90%という表現は、非常に誤解を生む表現であることを指摘したいと思います。実際には、局舎設備と地下埋設の「とう道」部分で約90%、架空部分で約80%、引込み線で約30%です。

利用者の声を集めてみると、架空部分が完成している地域で、実際に引込み線を注文しても、「すぐに応えてくれる保証は全くない」との事です。「道路の同じ側で6件の加入者が集まらないとやってくれない」という例もあったようです。ですから、NTTは「全国の90%は既にカバーされている」等という抽象的なことは言わずに、正確に現状を説明すべきですし、この事を引き合いに出す人達は、実態を正確に把握した上で参照すべきです。

次に、現状で利用者が30%もあるということは、考えてみれば相当な利用率と言えます。現状では、光回線のスピードを必要とするアプリケーションがそんなに多く存在しているわけでもなく、また、その存在が周知されているとも言い難いにもかかわらず、この数字であることは、「将来については相当楽観的な見通しが可能だ」とも言えます。

今後下記のようなことが起ると、この数字が70−80%まで増えるのにはそんなに時間はかからないでしょう。

1.UStreamのような、魅力ある新しい映像系インターネットアプリの増加
2.メールやブログ、ツイッターなどへの画像、映像の添付率の増加
3.VOD(Video on Demand)サービスの充実と低価格化
4.「見落としTV放送番組の再送サービス」の充実
5.WiFi装備の携帯端末の増加(携帯電話機並の小さなスクリーンサイズのものから、パソコン並の大きなスクリーンサイズのものまで)
6.家庭におけるWiFi環境(Home LAN)の普及
7.テレビ受像機への「インターネットアクセス機能」の追加と「簡単操作」の開発
8.FTTHサービスの低価格化と手続きなどの簡素化
9.サービスの周知徹底

なお、この事に関連して、「FTTHの普及を進めた地方都市におけるサービス利用率の低さ」がしばしば引き合いに出されますが、これはいわば当然のことです。人口の多くない地方都市だけの為に、新しくサービスやコンテンツを開発してくれる奇特な会社はありませんから、アプリの数は自ずと限られ、従って、「インフラが整備されたからといって、利用者にとっての魅力はすぐには生まれてこない」ということになるからです。

ところが、「光の道」構想などによって、全国規模の巨大マーケットが生まれると、既存のサービス業者や多くのベンチャービジネスが、「都会向け」「地方向け」「若者向け」「年配者向け」を問わず、我先きに新しいアプリを開発しますから、これらの先進的な地方都市のユーザーも、その時点でやっと報われることになると思います。

3)都市部では、NTTと電力系の事業者、CATV事業者間の競争が既に存在しているのだから、このような競争に任せておけばよいではないか。せっかく民間でまわっているものを、何故今更時計の針を逆回しにするように、公営化せねばならないのか?

この問題に関する議論には、二つの側面があります。

先ず、国(民主党政権)の立場からいくと、「全国民に分け隔てなく」サービスを提供出来ないのなら、「電子政府」「遠隔医療」「電子教科書(ネット授業)」等を政治目標にすることは出来ません。従って、最初からこれを前提条件にせざるを得ないのです。つまり、「先ず目標がある」という議論です。

NTTに任せておけば、当然彼等が考える範囲内での「経営合理性」の枠内でしか新規回線の敷設は出来ませんから、現状の如く、当初の3000万回線の目標が先ず2000万回線に減り、その後も時間が経つ度に目標が下方修正されているわけです。従って、「全国民に分け隔てなく」という理想などはとても実現出来そうになく、当然、「何らかの政治主導が必要」という結論になります。(後は、「関係者が知恵を絞って、それを可能にする方法を考えろ」というわけです。)

ソフトバンクは、いわばこの要請にこたえて知恵を絞ったともいえます。その意味で、ソフトバンクの議論は、「問題解の為の議論」です。

先のブログでも述べたとおり、ソフトバンクの孫社長は、「税金は一切使わない」「高度サービスを必要としないユーザーの負担は一切増えない」ということを初めから至上命令としました。そこから、「計画的に全てのメタル回線を例外なく光に変え、短期間内に光とメタルの二重保守構造を全廃すれば、この目標は達成できる。そうでなければ不可能」という結論が導き出されたのです。

そして、ここから、「現状では、国の目標は達成できないから、大胆な施策を行う必要がある。NTTが自主的にやってくれるならそれが一番よいが、そうでなければ、国の方針に従ってもらうしかない。NTTの現在の株主構成や従業員は何も変えず、単純に二つのオペレーションを切り離して、新しい経営理念でそれぞれを運営するだけでよいのだから、全ての関係者の利益がそれぞれに増える形で、国の目標も達成できる」という提案が生まれました。

(もし、「アクセス回線会社の方は、『国営に近いような特殊法人』にした方がよい」ということになるのなら、それはそれでもよいかもしれませんが、「コストを下げ、公正競争環境を担保する」だけの為なら、「経営を徹底的にガラス張りにする」だけでよいわけですから、恐らくその必要はないだろうというのが現在の考えです。)

電力系の会社やCATV事業者の立場は、勿論考えなければなりません。これについては、更なる詳細な議論が必要ですが、基本的には、これらの会社に下記の「三つの選択肢」を与えることで、公正な共存共栄がはかれるものと考えています。

1.NTT系のアクセス回線会社と競合する。(都市部?)
2.必要に応じNTT系のアクセス回線会社から回線を借りることも出来る。(地方?)
3.必要があれば、自らの既存施設をNTT系のアクセス回線会社に買ってもらうことも出来る。

4)ソフトバンクの提案は話がうますぎる。そんなにうまく行く筈がない。どこかに「誤り」や「見落し」がある筈だ。

これは「単なる感想」に過ぎず、議論とは言えません。一応の計算根拠はソフトバンクから既に提出されているのですから、単純にこれを検証すればよいだけのことです。もし、検証の結果、「誤り」や「見落し」が発見されれば、ソフトバンクは陳謝して訂正すればよいだけであり、こうして修正された「最終案」のフィージビリティーをあらためて検証すればよいだけのことです。

(ソフトバンクは、NTTの内部の状況について色々想像しながら、かなり無理して「計画書」を作っているのですから、当事者のNTTが精査すれば、修正すべきところが多数出てくるのはむしろ当然でしょう。)

5)何故「全国一律」でなければならないのか? 何故「当面使う当てもなさそうな人」にまで100Mbpsもの能力を供給せねばならないのか?

この答は、既に上記1)と2)の答として出されています。例外をつくると、却って高いものにつくのが普通です。途中で必要になった場合に追加するのも、長期的な観点から見ると大きなコストアップ要因となります。

6)何故「光」と決め付けるのか? 選択肢の幅を狭める必要はない。

伝送能力としては、少なくとも数十年は「光」を超えるものはありません。また、100Mbpsは、30年ぐらいまで先を見越せば、当然必要と考えるべきです。(将来はそれ以上が必要となるでしょうが、その時には回線を張り替えずともアップグレードが可能になるようにしておくべきです。)

モバイルの技術を固定環境で使うのは無駄(コスト的に高くつく)ですし、能力的にも100Mbpsは当分の間はとても無理です。(「ユーザーが一人だけで、たまたま基地局の近くにいる」ことを前提とした「ピークデータレート(仮想的な最高瞬間風速)」と、実際の「一人当たりの平均スピード」がよく混同されており、これが多くの人達の誤解の源となっていますので、先ずはこのあたりの啓蒙が必要です。)

DSLの将来技術でも、距離による減衰を考えればとても無理です。WiFiは、そもそも独立したものではなく、「有線回線の最後の10−20メートルを無線化するのに最適の技術」なのですから、光回線などでサポートされていなければ意味がありません。(アクセスポイントが光回線でつながれていて、初めて100Mbpsが出せるのです。)

そもそも、技術の問題を、素人が聞きかじりの知識をベースにして議論しても何の意味もありません。「最も効率的な国の通信システムのグランドデザインはどういうものであるべきか」は、NTTの人達を交えた技術者の間で大いに議論させて、報告させればよいと思います。(ずっと以前から「光通信の最も熱心な信奉者」であり、その為に長い間「中間技術としてのADSLの可能性」を否定してきたNTTが、この問題について沈黙を守っているのは、極めて奇異です。)

7)ソフトバンクがそんなに熱心なのなら、自分達でやって、競争を仕掛けていけばよいではないか。何故自分達は汗をかこうとせず、NTTにさせようとするのか?

「競争」でユーザーの求めるコストレベルを実現出来るのなら、誰でも「競争」を仕掛けるでしょう。しかし、そんなところで競争をしていたら、とてもコストの壁は破れず、「日本中に分け隔てなく高速通信網を張り巡らせる」などという理想は実現出来ないのです。この仕事はNTTしか出来ず、また、NTTでさえ、今の体制や経営理念では実現出来ません。だからこそ、こういう分野では「国家政策」が必要なのです。

(ソフトバンクの場合は、ADSLでは蛮勇を奮って価格革命を引き起こしました。光時代においても、当然同じことをしようと試みましたが、どうしても競争出来る状態ではなかったので、涙を呑んで断念したのです。)

8)メタル回線はいざ知らず、光回線は「民営化後のNTT」が自分の力で先行投資し、営々と構築してきたもの。それを今になって国が取り上げるのは理不尽。憲法で保証された「財産権」の侵害である。

率直に言って、このような話を聞くと、私は本当に怒りを感じます。国が何時何かをNTTから「取り上げる」と言いましたか? 国は、単に、「国策に合致するように、組織構造を変えたり、経営のやり方を変えたらどうか」と言っているのです。それに反対なら、「こういう組織、こういうやり方の方が、国策により合致すると思いますよ」ということを、筋道を通して「逆提案」すべきであって、間違っても「我々は民営化された私企業なのだから、国は口を出すな」等と言えた筋ではないのです。

そもそも、「NTTの分離分割論」は、その必要があったからこそ、1990年の初めから議論されているのです。この過程において、「先送り」こそ何度もされては来たものの、一度として否定されたことはありません。ましてや「財産権の侵害」等という事が、何故今更言い出せるのでしょうか? それなら、これまでの議論の中で、法律家を総動員してでもそのことを徹底的に議論して、白黒をつけてしまっておけばよったではないですか。

話は簡単です。これまで延々と「先送り」をしてきた「NTTの分離分割論」を、今度こそ徹底的に議論して、はっきりと決着を付ければよいだけのことです。国からとやかく注文を付けられるのが嫌な部門があるのなら、その部門は「国が大株主である持ち株会社」から自ら離脱し、自主独立の道を歩めばよいのです。

それから、NTTは、事あるごとに「光回線は民営後に自力でつくりあげてきたもの」と言いますが、NTTがやってきたことは、「先送り」によって「持ち株体制」「寡占体制」を温存した上でやってきたことであり、多くの「普通の会社」がやってきたこととはとても同列には語れないことを、自覚しておいて頂かなければ困ります。

「自力で光回線を敷設してきた」と言われますが、それは、明治以来の「規模のメリット」、「顧客ベース」、「局舎」や「とう道」、「架空線施設の権益」などがあって、はじめて出来たことであり、一から始めたものではない事を、よく噛み締められるべきです。

NTTが現状では「普通の会社」ではないことは明らかです。ですから、そういうことを何時までも言われない為にも、この辺で、「公益的な特殊会社」と「普通の会社」の二つに、きっちりと自らを分離してはどうなのでしょうか?

9)NTTしか出来ないという事で、この仕事はNTTが引き受けるとしても、どうしてNTTの嫌がる「構造分離」までしなければならないのか? どのようなやり方でやるかは、NTTに任せればよいではないか?

そもそも、何故NTTは「構造分離」をそんなにまで嫌がるのでしょうか?「構造分離」を行った場合に、具体的にどのようなデメリットが、ユーザーやNTTの各ステークホルダーに生じるというのでしょうか?

一方、NTTと競合関係にある通信事業者の立場からすれば、現在の状況は、「彼等に回線を卸売りしているNTTの『卸売り部門』が、彼等の競争相手であるNTTの『小売部門』と同じ経営の傘下にある」という事なのですから、公正競争の保証は全くないと考えざるを得ません。現実に不公正競争の例証はこれまでにいくつも出ていますが、暖簾に腕押しで、何時までたっても埒があいていないのが実情です。

10)NTTを分割すれば、株主に不利益を生じる。株主代表訴訟も防ぎ得ない。

「具体的にどのような不利益が生じるのか」を明示して頂かなければ、そもそも議論になりません。

株主構成はそのままで、とりあえず現在の組織を二分するだけなら、分離したその時点では、株主の資産は増えも減りもしません。その後の二つの会社の市場価値がどのような変遷をたどるかについては、私は「コングロマリットディスカウントの解消」等でプラス面の方が相当に大きくなるだろうと踏んでいますが、意見を異にされる方がいるなら、具体的にその見通しを語って頂くべきです。しかし、何れにせよ、少なくとも「アクセス回線会社の分離」が株主代表訴訟の対象になるとは、私にはとても思えません。

これで、「反論に対する反論」は終わりです。なおも「上記に含まれていない異論・反論」がある方は、どんどん出していただければと思います。その一つ一つに対してあらためてお答えします。

最後に、少し感傷的な話になりますが、今回の一連の議論を通じて私が感じたことを、一言述べさせて下さい。

私が強く感じたのは、多くの日本人から「未来に夢を託す」少年のような気持が消え去りつつあることです。今の日本では、多くの人達が、自分達の今の立場を守ることばかりに汲々としており、リスクを取ってまで「破壊的な前進」を試みようとはしていません。

止むを得ないことなのかもしれませんが、孫さんや私が何か一言言うと、多くの人達が、ほぼ自動的に「その裏には何かソフトバンクの思惑があるのでは」と疑ったり、「自分達の組織が壊されたり、既得権が失われるのではないか」と恐れたりするのです。何とも淋しい限りです。

この人達の頭は、もはや自分達の小さな常識の中でしか物事が考えられないようになっており、その枠外にある「国の将来への思い」とか「志」等というものは、何か「現実離れしたもの」のように見えてしまうのでしょう。この人達が言う事の中からは、「想像力」や「創造力」といったものが殆ど感じられないのです。

私はもう年寄りですから、もはや何が出来るわけでもないかもしれませんが、現在40-50歳代の日本を動かしている人達は、本当に今のままの「考え方」や「生き方」を続けていてよいのでしょうか? 発展途上の国々のリーダーには、善きにつけ悪しきにつけ、少年のようなところがあり、「自分の国を大きく変えていこう」という野心があります。日本のリーダーがそれをなくしたら、これからの日本が「緩やかな衰退」から逃れることは、段々と難しくなるように思えてなりません。