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2009年11月22日(日曜日)

落選して、浪人時代の懐かしい思い出

農業ジャーナリストの土門 剛君という面白い男がいる。
「山田正彦農林水産副大臣の人物像」と言う一文を雑誌「農業経営」11月号に書いている。
我ながら噴き出してしまったが、そういう昔もあった。
紹介したい。


もう10年も前のことだろうか、実に奇妙な体験をしたことがある。今度、農水副大臣に就任された山田正彦先生と、当時、通産省(現経産省)の事務次官だった広瀬勝貞氏夫妻を誘って、真夏に和歌山・熊野の山中の山荘に遊びに行ったことがある。
実に不思議に思ったのは、出発前に山田先生には「通産次官の広瀬さん夫妻にも声をかけておきましたよ」と言い、広瀬氏にも「新進党の山田正彦先生もご一緒ですよ」と話していたのに、同じ屋根の下で過ごした3日間、ご両人は最初に挨拶しただけで、一切と言っていいほど会話を交わさなかった。
今振り返ってみても、朝起きても、2人が朝の挨拶を交わすこともなく、夜に天然鰻のバーベキューをした時も、双方、距離を置いて陣取り、お互いに知らんぷりという実に奇妙な状況しか思い出さないのである。
その旅から戻ってきて山田先生が、「広瀬は、一言も話しかけてこなかったな」とポツッと話してこられたことがあった。
山田先生は、政界に入られて以降、小沢一郎氏と行動を共にしてこられた。一方の広瀬氏は、大分・日田市の出身で、通産時代には、宮澤喜一首相の総理秘書官も務められたことがある。ある意味で、霞が関官僚としても保守本流中の本流に位置しておられ、自民党をぶっ壊す、霞が関をぶっ壊すと公言して憚らない小沢一郎氏の子分格でいる山田正彦先生は、広瀬氏には「敵」と映って、あえてシカトしたのかもしれない。
その山田先生が、農水副大臣に就任された。そのニュースを耳にして、思わず奇妙な熊野山中の出来事をふっと思い出したのである。まずは、副大臣就任のお祝いを申し上げたい。

すごく風変わりな人だなと思ったのは、熊野の山中に初めて訪れた時のことだった。確か5月の連休のことであったが、山中を歩いていると、突然、真っ裸になり渓流にドブンと飛び込まれた。水ぬるむ春といっても、たいていの人なら躊躇するぐらいの水温で、それでも30分ほど泳いでおられた。我々凡人とは皮膚感覚が違うのか、それとも鍛え方が違うのか、とにかく常人ではないと思った。
川から上がってこられた山田先生は、「俺は、自然という名前に改名したいのだ。山田自然、どうだ」と話しかけられてこられたが、どう返答してよいか分からなかった。ご本人が言うまでもなく、自然児の風があり、男らしい野生のにおいが漂ってくる。
2人でよく旅行に出かけた。山田先生が、96年10月の選挙で落選した時には、イタリアへセンチメンタル・ジャーニー(感傷旅行)に出掛けたこともあった。出発当日のハプニングは、今はもう楽しい思い出になってしまった。前日、わが家(船橋)に泊まられた先生に、出発日の朝、何気なく「パスポートはお持ちですか」と尋ねたら、「事務所(永田町)に忘れてきた」との返事。
朝7時前のことで、飛行機の出発は10時、わずか3時間しかない。ほとんどアクロバットのような動きで、永田町の事務所にパスポートを取りに行き、8時半初の成田エクスプレスに飛び乗り、出発30分前に空港に滑り込んでこられた。
旅行中で驚いたことがあった。大きなスーツケースに、ぶ厚い本を何冊も持ってこられ、飛行機や汽車を待つ、ちょっとした時間でも寸暇を惜しんでページをめくっておられた。塩野七生さんの大作、「ローマ人の物語」シリーズで、2週間近い旅行で4冊ほど読了されたようだ。その集中力たるや、さすが立派な方は違うものだなと感心した。
この時の旅行で極めつきエピソードを一つ。明日からシチリア島へという前日のこと、旅行分の現金を用立てるべく、手持ちのトラベラーズチェックを現金に換えようと、ローマ市内スペイン広場前のローマ銀行支店に飛び込んだところ、1人2万円までしか換金しないと通告されてしまった。2万円ぽっちじゃ1日分の費用にしかならないので、カウンターでクレームをつけてやった。30分ほどすったもんだしていると、突如、山田先生がカウンターをドンと叩いて「国際法違反だ!」と怒鳴られたのである。
その剣幕に恐れをなした銀行員が、「隣の紳士は、今、何を言ったのか」と聞いてきた。「彼は、日本の国会議員をしていた方で、弁護士でもあられる方である。その方が、ローマ銀行東京支店でトラベラーズチェックを発行してもらった時には、2万円しか両替できないというような案内はなかったので、告知義務違反とか仰っておられるようだよ」。こう説明してやると、相手の銀行員はそれまでの態度をがらりと変え、「申し訳ないことをした」と謝罪した上で、希望額を換金すると申し出てきたのである。
カウンターを「ドン!」と叩いた時の迫力は、側でみていても男がほれぼれする迫力があった。
副大臣になられて一つアドバイスを差し上げたい。この「ドン!」を、ひ弱な農水官僚や、国際交渉でカウンターパート(交渉相手)には、あまり使わない方がよいと思うのである。最近の霞が関官僚は、先生のような自然児ではない。もやしのような虚弱児が多い。目の前で一発「ドン!」をやれば、ノイローゼに陥り1週間ほど「出社拒否」を起こすかもしれない。はたまた国際交渉でやれば、即座に交渉決裂に至るか、あるいは国交断絶(そんなことはないか)に発展してしまうこともあり得ることを頭の片隅に置いていただいて、「ドン!」だけはつとに自重していただきたいものである。


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