ニュース 千葉県立中央博物館

長生高校より貴重な標本を頂きました

<お知らせ・追加>
平成18年1月7日〜22日 標本を紹介するトピックス展を開催します。
    
展示紹介は、こちら
 茂原市の県立長生高等学校で、植物標本約1,500点、200種以上がみつかり、同校の遠藤眞澄校長先生の御厚意で、県立中央博物館に収蔵させて頂くことになりました。
 その模様を各新聞やNHKのテレビ放送で御覧になった方も多いと思います。
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遠藤校長先生より標本を頂く、天野上席研究員
 長生高校を卒業した中央博物館職員が、「在学中に古い植物標本を整理した。もしかするとまだ残っているかも」と学校に問い合わせたことが発見のきっかけです。
 現在、生物を教えておられる河野安勝先生は、標本については御存知ありませんでしたが、こころよく捜索を引き受けてくださいました。
 数日にわたって河野先生に探していただいた結果、生物講義室の書棚から保存の良い状態で標本がみつかったのです。
 標本のラベルをみてみると、1929年(昭和4年)から1960年代までの県立長生中学・高校の生徒が宿題やクラブ活動で採集したもののようです。当時の先生が、生徒が書き上げたラベルを訂正したり、学名を書き加えたりした様子もわかります。
 実は遠藤校長先生ご自身も長生高校の卒業生。「校舎は何度も建て直されており、こんなに古いものが良い状態で残っていたことに驚いています。貴重な標本を中央博物館で役立ててくれれば嬉しい。宿題はやったかなぁ」と話されていました。
  以下、関連情報を、紹介いたします。
注) 新聞等では、「寄贈」ということで報じられていました。ただ、長生高校と中央博物館は、同じ県の機関なので、形式上は、資料の「移管」ということになります。
 1 標本の価値 ・・・・よくぞ残ってくれたということ
 2 一見して、凄い標本の紹介 ・・・・
トキソウとコアジサイの標本
 3 今後の展示紹介 ・・・・・
1月7日からです
 4 情報提供のお願い ・・・・
長生高校卒業生の皆さんへお願い

 1 標本の価値: コレクションとしての意味
<標本の内容>
 今回長生高校で発見された標本群は、1929年(昭和4年)から1960年代(昭和40年代)までの標本、200種以上、約1500点あまりが含まれています。
 長生、夷隅、山武郡市の植物が中心ですが、遠くは山形県で採集されたものもあります。
 標本には、クラブ活動で集められたものと、学校の宿題として提出されたものがあるようです。クラブ活動で集められたものは、活動の記録と照らし合わせることにより、当時の茂原・八積地区の湿地帯の植物相を把握することができるかもしれません。 宿題として提出されたものからは、当時この地域にどのような植物が普通に生えていたかをうかがい知ることができます。
<標本の価値:過去の姿の動かぬ証拠>
 近年のように経済が急速に発展し、人々の暮らしの変化や土地の改変が盛んになると、植物相は、数十年で劇的に変化します。しかしながら、そのことを示す資料はあまりに少なく、各地域の昔の植物相を知ることは困難です。
 古い標本は、かつて、その土地にどんな植物が生えていたかを知るための大事な資料です。
 本や雑誌に書かれた内容でも、昔の植物相を知ることができますが、内容があいまいな場合も多いのです。それに対して標本は、その時代、その場所にその植物が生えてことの確実な証拠になります。
 この標本群は、湿地が埋められていく前、帰化植物が進入する以前の植物相を知る上で貴重なものです。
<標本はなかなか残らない> 
 昭和初期は、植物相の調査がようやく地方で盛んになり始めた時期です。
 千葉県の最初の植物誌である「千葉県の植物」は昭和7年に発刊されています。しかしながら、この本で扱われている地域は千葉県のごく一部です。
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長生高校旧校舎

昭和40年ごろ、
建て直し直前の姿。

画像提供 長生高校
昭和の初期から中期にはアマチュア採集家や学校の教員・生徒により、たくさんの植物標本が作られました。しかし、残念ながら集められた標本の多くは、もう残されてはいません。虫に食われてしまうこともありますし、集めた人が転勤、退職したり、死亡したりすると捨てられてしまうこともあります。
 そのような危機を乗り越えて、残った標本は大変貴重なものです
 
 今回発見された標本も、アンバランスな種構成です。おそらく、当初にあったこれに数倍する標本が、長い間に失われてしまったものと思われます。
2 一見して、凄い標本の紹介
<現在、長生郡市では絶滅している植物>
 特に着目すべき点は、湿生植物の標本が多数含まれていることです。かって、長生郡市に点在していた、八積湿原などの湿原が消滅するとともに、姿を消してしまった湿生植物の記録が残されていたのです。
 これには、トキソウ、サギソウ、ミミカキグサ、ヤチカワズスゲが含まれます。
 さらにカザグルマ、キキョウ、マツムシソウなど、現在では生育環境の消滅により失われた草原性の植物の標本もあります。

● トキソウ(ラン科)の標本
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湿地性植物で、絶滅危惧種です。
現在、千葉県内では、トキソウは、国指定天然記念物「成東東金湿原」でしか見られません。

この標本は、ラベルに
昭和4年6月□日
採集者 1年C組 □□□□
採集地 土睦村(現睦沢町)小滝

となっています。
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 昭和30年代の八積湿原(小滝一夫氏撮影)
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 トキソウ 成東東金湿原にて

← トキソウ標本拡大画像
 コアジサイ(アジサイ科) 
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 当館の約11万点の千葉県産植物の標本群で、たった1枚しか所蔵されていないコアジサイの標本もありました。
 こちらも、標本が1点しかないので分かる通り、絶滅危惧種です。

ラベルには
昭和40年7月25日採集
採取地 長生村八積
採集者名 (空欄)

となっています。
ラベルには、名称が、ミヤマガマズミ となっていましたが、天野研究員が訂正。
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 ← コアジサイ標本拡大画像


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  ↑ コアジサイ 
3 今後の展示紹介 
期日:平成18年1月7日から1月22日
場所:千葉県立中央博物館

「眠りからさめた標本たち ?長生高校旧蔵の植物標本?」

 千葉県立長生高校の理科室から、昭和初期から半ばにかけての植物標本約1500点が発見されました。
 この標本群は、長生郡市の当時の自然を知る上で貴重な資料です。
 この度、標本群が長生高校から千葉中央博物館に移管されたのを記念して、標本群の意義と標本採集当時の長生郡市の植物相を紹介するトピックス展示を中央博物館で開催致します。
 開催期間中の土日・祝日には午後2時から約20分、学芸員が展示の解説を行います。(このページで、開始時刻を「午後1時30分から」と記述していましたが、正しくは「午後2時から」です。お詫びして訂正します。)
 特に貴重な標本、約20点ほどと、関連図表、写真等で、ケース4つ分ぐらいの展示を計画しています。・・・・担当職員は、急遽、年末返上で頑張っています。

 長生高校で標本に携わった方、横で見ていた方、全然知らなかった方、皆様、見にきていただければと思います。 

 展示の詳細については、後日、掲載いたします。
 トピックス展速報 ⇒こちら
4 情報提供のお願い
 この貴重な標本群は、たまたま博物館に勤務していた長生高校の卒業生が在学当時に見た古い標本のことを思い出したことから発見されました。
 もしかすると標本が残っているかもしれないということで、長生高校の河野先生に探していただいたところ、理科室の戸棚から、すっかり忘れられてはいたものの、保存のよい状態で、標本が見つかりました。

 hakkenn.JPG 発見時の状況
きれいに保存されていました。

 syuzai.JPG 発見後の新聞社、TV局の取材風景。
貴重ながら、地味なものに、関心をもって頂いてうれしいです

長生高校の標本がどのように蓄積されたのかについては、まだわからないことが多く残されています。
 この標本について、何かご存知の方は、ぜひ千葉県立中央博物館 植物学研究科の天野・斎木までご一報ください。

  問い合わせ先 TEL 043-265-3921 中央博物館植物学研究室
  9:00-17:00にお願いします。

 様子がわかり次第、順次紹介させていただきます。


また、千葉県内の高校には、この他にも貴重な標本が眠っているかもしれません。情報をお持ちの方は是非博物館までお知らせください。

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