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[19146] チートになって異世界に入ったからって(略 【習作】【オリジナル】
Name: 犬◆ef72b19c ID:b5d3994c
Date: 2010/05/29 21:03
 《人生は果てしなく面倒くさいことの繰り返しだ》


 佐藤幸太はそう思いながら、目の前に並んでいる書類の整理を続ける。
異世界――ファルネリアに、突然、普通の世界から飛ばされてから三年。
 家族や友達と一生会えないことに、涙を流し、夜に枕を濡らしたことも何度もあった。
 それでも人は――生きていかなくてはならない。
 そう思い、必死の思いでついた職業が、この――王都の端っこにある貧乏宿屋の事務の仕事だった。
 王都は綺麗で豪華であり、地方の人たちには憧れで、一生に一度は来てみたいと思う人が殆どだ。
 しかし、王都の普通の宿屋は高い。最高級の装飾品や学の高い従業員達による完璧な対応によって値段は、地方の宿屋の数十倍はする。
 だからこそ、こんな王都の端っこのボロ宿屋に、客入りが減らないわけでもある。

 「いらっしゃいませ」

 帳簿をついている途中、宿屋のドアが開き、2人連れのお客さんが入ってくる。
つばの深い帽子に全身を隠すような大きなローブ。
明らかに胡散臭いお客だが、こんな宿屋にはこういう胡散臭い客が来るのも珍しくない。
 ハァ、と溜息を一度ついて幸太は2人のお客さんに声をかける。

「お客さん、お2人連れですか?」
 「ああ、……今晩だけ借りたい。二つ部屋は空いているか?」
「二つですか?」

 こんな貧乏なボロ宿屋を二つ借りたいなんていう客は珍しい。大抵は同室だったりするからだ。
(珍しい客だな…って、ゲッ!)
 ふと視線を小柄な客の一人へと移した瞬間、そのローブの端から、少し覗く金属製の先端を見て、幸太は、うめき声を漏らそうとした。

 金属製の杖は、老人達が使う歩行用の杖とは意味合いが違う。ドワーフの金属加工技術とエルフ達の紋章刻印技術によって作られた《偉大なる杖》――すわなち《魔法使いの杖》だ。

 魔法使いは《気》を扱う戦士や剣士とは違い、特別な勉強やら学習を経てなるエリートであり、王都でも魔法使い育成にはかなりの高額の学習金やら、学院に入学が必要だった。
 それがなんでボロ宿屋に?
 いやな予感がビンビンとしてきた。
そんな幸太の心情を察したのか、大きな方の人柄が懐から、5枚の金貨をテーブルの上に置く。

「何も詮索はするな。これは、その口止め料だ」

 金貨は町で流行しているソルトア(本来は塩と両替する紙切れが徐々に価値を持ち、今では基本通貨となっている)の約100000倍近い価値を持つ。
王都の普通の人の一年間の年収が約金貨一枚になるかならないかという金額だ。
 この宿屋代が1000ソルトアと考えると破格も良い所……だが、俺は口元に微笑みながら頷く。

「わかりました。私は検索も貴方がたが何者かも何も聞きません。貴方たちはこの宿屋のお客様、それでよろしいですか?」
「うむ、それでいい」

 若干、長身のお客の方が俺に対して愚物か、とも言いそうな顔付きになったが、俺は笑ってスルーする。
この2人の宿屋代は自分が出して、この金貨は全部俺が貰う、という悪巧みに内心ホクホクになっていたからだ。

「では宿屋の奥の一番目、二番目をお使いください。一応大したものはありませんが朝食が出ますけど、どうしますか?」
「………もらう。飯は直接、お前が部屋にもってこい」
「わかりました。ではごゆっくり」


 俺は深々と頭を下げて、笑い声を必死に抑えようとした。




[19146] どうしてこうなった(´・ω・`)
Name: 犬◆ef72b19c ID:b5d3994c
Date: 2010/05/29 12:38
 「どうしてこうなった」

 佐藤幸太は今、お城の地下にある牢獄の端っこ――、一番汚れが少ない場所で溜息をついた。

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


  それは昨日の晩のことである。
 ホクホク顔の俺に、オーナーであるおばさん――どう見ても御伽噺に出てくる性悪おばさん似ている風貌――が訝しげな顔をしているのがわかっていたが、それでもにやけ顔は止まらない。

 「お前がそんな、にやけ顔をしていると何か嫌な予感がしてくるね」
「まさか、オーナー。そんなことはありませんって」
 
 俺はオーナーの話を無視しつつ、書類の書き込みの仕事を終わらせ、ふと一息をつきながら、そういや、とテーブルの中に置いていた、幾つかの酒とお菓子を取り出す。
 昼間の休み時間に、近くの店屋で買ってきた、いつものやつより少し格上の酒とお菓子だ。
 あれだけ貰ったんだから、せめて少しは返さないといけないな、と思っていると、オーナーが目ざとくそれを見つける。

 「それはなんだい?」
「あ、これですか。いやー、ちょっとばかりお客さんに頼まれてたんですよ」
「……ふーん」

 胡散臭そうな顔つきだが、オーナーは何も言わず、俺はカウンターから離れると二階へと向かう。
最初は大きな方に酒を渡そうかと思ったが、何やら堅物そうにも見えてきたので、まず小柄な方へと向かう。
 一番奥の扉をノックすると、可愛らしい小さな声が返事してくる。

「……は、はい……どなたですか?」
「カウンターです。夜食を持ってきました。ドアを開けてもらえませんか?」
 
 俺はそう言いつつ、その隣の部屋の様子を見る。おんぼろのボロ宿屋だから隣の部屋の音は、そう聞き耳を立てなくても静かにしていれば聞こえているはず。
 ガチャ、と音を立てて扉が開けられるまで隣の部屋からは物音がしなかった。
 どっかに出て行っているのか、しかし、カウンターにいたが、出て行く様子は見なかった。
 寝ているのか?
 色々な思惑をいいつつ、扉があけたお客に、お菓子を渡そうとして硬直する。

 「あ、あの……」
「あ、いや、すいませんでした」

 目の前にいる少女は美少女だった。
今まで見たことがないような、ありえない美少女だった。
 流れるような長い金髪は、背中まで伸び、初雪のように白い肌はしみ一つなく、整った顔立ちの中で、宝石のような青い双眸が海のように輝く。
 金髪の間から覗く、とがった耳が、エルフだとわかった。
 しかし、驚いたよう様子をそのまま出し続ける滑稽な真似など出来ない。
 すぐさま営業スマイルを取り戻し、手に持っていたお菓子とお酒を手渡す。

 「これ、店からのサービスです」
「あ、えっと……、は、はい、ありがとうございます!」

 一瞬どうしようかと迷ってる様子を見せたが、エルフの少女は受け取るなりにすぐさま部屋の中に戻ってしまう。
 更にはガチャという鍵がかけられる音まで。

 「はぁ……ロリコンじゃねぇけど、少しドキッとした。ヤバイ客じゃなければ口説いてるな」

 ドキッとした感情を抑えつつ、階段を降りながらふと思う。

 「酒も一緒に渡したけど、まぁいいだろ」

 その3時間後――――ー――


 夜も更け、眠気にカウンターの中でうとうとしていると、ガシャガシャガシャとものすごい金属音を響かせて宿屋の中に甲冑を着込んだ沢山の兵士達が入ってくる。
 一体何事だ?と思っていた幸太の鼻先へ、突きつけられる鋼の槍。

「えっと……これは一体?」
 「王族暗殺未遂事件の容疑者として貴様を逮捕する。抵抗するならばその場で殺人を行う権限も我らには与えられている。死にたくなければ、我らと一緒に付いて来い」
「えええええええええええ!?」

 俺は、驚きに、悲鳴のような声をあげた。



[19146] おれ、がんばれがんばれがんばれ!
Name: 犬◆ef72b19c ID:765a7527
Date: 2010/05/30 10:38
 薄暗い牢獄の中で茫然自失に佇んでいると、牢屋の反対側、向こう側の牢屋から声が聞こえてくる。

 「おい、あんちゃん。お前は何をやったんだい?」

 酒でがらがらに焼けた声に、幸太はため息を漏らして答える。

「俺は冤罪だよ。つーか、あんたは何をやったんだよ」
 「俺か? 俺はただの――」
 
 途中で言葉がつかえたことに疑問を浮かべながらも先を促す。

 「ただの?」
 「そうさ。ただの――暗殺家業ってやつさ」
「………アサシンってやつか。というか、この国じゃ暗殺ギルドは表沙汰にならないとはいえ、裏側からは援助されてるだろ。
 それなのに捕まったのかよ」
「あんた詳しいね」
「まぁね。何度か狙われたこともあるし。全部冤罪だったんで助かったけど」
「ふーん」

 適当にあしらっていると、相手が感心したような声をあげる。つーか、こいつ本当に喉の酒焼けがひどいな。年齢がさっぱりわからん。

 「この国の暗殺ギルドから逃げ切れる人がいるんだね。始めてみた」
「いや、だから冤罪だって言ってんだろ。必死に隠れ家や町の外の森の中で、必死に真犯人が見つかるまで篭ってたんだよ。
 つーか、この国の住民票を持ってないからって何かあるたびに俺を捕まえようとしやがって!」
 
 苛立ちのあまり牢屋の壁を殴り―――かけ、思いとどまる。

「どうした?」
 「いや、なんでもない。どうせ今回も冤罪だろ。暫く待つさ。つーか、それよりお前こそなんで捕まったんだよ」
「俺の場合は冤罪ってわけじゃないんだな、それが。ちとばかし、この国のギルドの方に伺いを立てる前に仕事をやっちまってさ。
 逃げ切るにもちょっと疲れすぎたんで、ここで休憩してるってわけさ。
 まさか、相手も大物を仕留めた凄腕暗殺者が、ただの食い逃げで牢獄に捕まってるなんて思わないだろ?」
「頭いいのか、悪いのか、わからないなお前?」

 呆れ顔で幸太がそういうと、向こう側の薄暗闇の方から、笑い声が聞こえてくる。てっきり30代から40代を想像していたが、思った以上に若いのかもしれない。

「さてね。それは俺にもわからない。つーか、誰か来たぜ」

 カツカツと鉄製の廊下を歩いてくる足音と共に、やってきたのは一人の体格のいい巨躯の男だった。褐色の肌に長い白髭。全身に着込んでいるのは総重量40キロはありそうな金属甲冑(フルアーマー)だ。
 誰? と首を傾げる幸太の前を通り過ぎ、向こう側の牢獄へと向かう。

「おうおう、誰かと思えばカヴィル=エフィール将軍じゃないか。久しぶりだなぁ、確かこの前あったのは、確か6年前の依頼の時以来だな。元気そうで結構結構。そんで、どうした。俺のようなちんけな暗殺者にわざわざ将軍が護衛一人もなく、出てきて?」
「……あいかわらずお前は口が滑るな」
「悪ぃ悪ぃ。そんで、本当にどうしたよ。また俺に依頼か?」
「ふむ。今回は一応確か目に来ただけなのだが、それもあるかもしれん」
「なんだぁ、相変わらずこの国は裏でこそこそ人を殺すのが好きな国だな。ま、だから俺みたいなフリーランスのアサシンが仕事にありつけるわけなんだが……そういや、さっきから向こう側の住人が必死に冤罪冤罪って言ってるが?」

 向こう側であいつが俺を指しているのかがわかった。

「あれか」

 それに対して将軍は、あいつではなくあれと呼ぶ。イラッと来たが幸太は抑えた。

「あれとはひどいな。一応、見える感じ普通の人間にみえるが?」

 この暗闇の中でも向こう側のあいつには俺の姿が見えるらしい。
どんな視覚してるんだ?
 暗殺者だから、まぁ当然なのかもしれないが………。

「お前は始めてみるのかもしれないな。あれは《異邦者》だ」
 「異邦者? へぇ、始めてみた。つーか、てっきり御伽噺の存在って思ってたぜ。何? やっぱり御伽噺のように空を拳で切ったり、大地を蹴りで割ったりするのか?」
「そこまでいかん。ただ、あれ、たった一人に俺の率いる黒鋼魔導騎兵団が潰された」
「ほー、そいつはすごい。んでお前もやられたんだろ。腕でも折られたか?」
「いや、一発で右のあばら骨を全壊、肺、臓器をもろにやられて死の淵に追い込まれた。優秀な治癒術師がいなければ、そのまま黄泉へと誘われていたかもしれん」
「へぇ………裂剣とも歌われてるお前が一発でか。マジですげぇな」

 今、知った真実。なにそれ? なんで化け物。ハルクですか?

「あーあーあーあー、聞こえない俺は何も聞こえない」
「何か面白いことをしてるぞ。あれは何だ?」
「どうやら殺すことに躊躇する性格らしい。尖兵として送り込んだアクリスすら殺さなかったからな」

 アクリスとは角を持った狗のような生き物。巨大な角で相手を突き上げたり噛み付いたりしてくる。あの頃を思い出して、嫌な悪寒に幸太は背筋を振るわせる。
 それに対して、向こう側の牢獄の住民はげらげらと笑った。

「あひゃひゃっ、なんだそれ? 面白れなぁ。小国がゆえに力が無いから戦争が出来なので裏側で人を殺すこの国の中に、大きな力を持ってるから闘うことは出来るが、殺すことは出来ない異邦者ってちぐはぐすぎんだろ!あははははっ」
「おまえなぁ、人のことをげらげらと笑えるような状況じゃねぇだろ」

 ガチャガチャと何人もの兵士達がやってくる気配があり、そして幸太が座り込む牢屋の前にやってくる。

「出ろ。司法官がお待ちだ」
「…………めんどくせぇ」

 幸太は溜息を漏らして、牢獄から出て行く。その途中向こう側に巨躯の男の前の牢獄の中に小柄な人影のぼんやりとした姿が見えた。



[19146] 異世界だから、すぐに人間や動物を殺せますなんて…あほか
Name: 犬◆ef72b19c ID:1415b594
Date: 2010/05/29 22:24
 「またお前か、コウタ=サトウ」
 (それはこっちの台詞だ。糞ジジイ)
 
 内心で毒を吐きつつ、慣れた司法の部屋を見る。
 この世界で裁判というのは、アバウトであり、六法全書などは一切無く無慈悲に身勝手に司法官の感性のままに裁かれる。
 幸太の目の前にいる恰幅のいい白髪の老人(ビール腹)は幸太を見るなり、溜息をついた。

 「いい加減に国に忠を尽くす気は無いのか。
 もし、そうだったなら、すぐに国民の許可や、それだけでなく異邦者としての様々な特権が与えられるぞ」
 「で、俺は軍に入ったり、様々な裏の仕事を負わされるんだろ。冗談も馬鹿馬鹿しい。こちとら、死んだ牛が解体される現場を見ても、吐いちまうぐらいの繊細なんで、人の生き死には出来る限り見たくないし、人を殺すような仕事はやりたくない」
 「国を守る軍人は尊敬できんか?」
「……国を守る人は尊敬するよ。でもだからって人を殺す人は尊敬できない。どんな理由でもな。そういう教育を受けてきたんだ。良くも悪くも。ていうか、毎度恒例の会話はいいとして、今回呼ばれた王家暗殺事件の犯人ってどういうなんだよ」

 宿屋で逮捕された理由――一体合切わからない。
  いつものような国家侵入罪やら何やら、適当な理屈で捕まった理由じゃない。
 それに対してビール腹の司法官は、溜息をついた。

「これはお前のこれからにも関わることなんだが……お前、昨日の晩、2人の客を泊めただろ?」
 「ああ、かなり羽振りのいい客だった」
「あの2人がエルフだということもわかっておったか?」
「大きい方はわからなかった。小さいほうはエルフなのはわかってたけど……ああ、そういうことか。エルフの大きい方が未遂事件の実行犯ってわけか」
 「ふむ。どうやらそのようだが……裏には色々糸が巡っている。その糸の一本には鋼の大国とも繋がっているらしい」
「あの大国かぁ……俺も何度も絡まれたなぁ……でもエルフとはあの国は関係なかっただろ」
「いや、どうやらエルフの集落の一つが落とされ奴隷にされている。それを逆手にこの国の王家の一人を殺せば、助けてやると言われたらしい」
「糞が。そういう所がこの世界の嫌いの所だよ。もし王族暗殺を成功させたら、この国がその集落を滅ぼすだろうが」
「そして王家が殺された我らは大国と無謀な戦争を始めさせられる。もし、ここで我らが何もしなかったら、王族を殺されても無抵抗だと大国だけでなく他の国にも情報が流布して征服されてしまうからな」
「汚いやり方だな。あのチョビヒゲらしい」

 忌々しそうに呟く幸太に、ビール腹の司法官は、静かに呟く。

「それでだ。お前に護衛の罰を与える」
「は?」

 護衛の罰? 意味がわからないとばかりに訝しげな幸太に説明する。

「王族の現国王と王妃は国から離れられん。いつ王国が外交政策に打って変わるかわからんからのぅ。その代わりに警備は通常の数倍にする。その代わり、現国王と王妃との間に出来た三姉妹を別々に王都にだして護衛する」
「…………嫌だ」

 最後まで言ってから露骨に幸太は顔をゆがめる。

「三姉妹ってあれだろ。傲慢で嫌味たらしくてうざくて面倒臭い女の一番嫌な所を集めたようなやつらだろ。勘弁してくれ」
「いや、そうではないぞ。三姉妹の方々は仮面をつけて表では相手を持ち上げるが、裏では激しい毒舌で他人を罵倒したり、頑張ればどうにかなるとか思ってる相手に対して、真正面から無駄とか言われる方々だ」
「…………」
「…………」

「本気で俺に護衛をさせる気ないだろ」
 「いや、真正面からお前に、優しく美しい美女で、誰もが一目見れば見惚れ、その志は天上の天使よりも気高いとか言っても信用せんだろ」
「し、信用しないけど、それで護衛をさせようとするのは無理じゃないか? つーか、無理だろ」

 「しょうがあるまい。ゼナスか、ヴェルディール達に頼むとするか」

 呆れ顔の幸太に、ビール腹の司法官は諦めようとした所に、裁判室のドアが激しく開き、幼い少年が入ってくる。 

「おい、デブ。来てやったぞ。感謝しろ、デブ」
「…………」

 なんだこのガキ? 短い赤毛、小柄な体。
白い綿毛の高級服に、膝元までしかない短いズボン。
 活発そうというか、偉そうな雰囲気に、幸太は嫌な予感がビンビンしてくる。

「セイラ様。よく似合っておりますよ。さすが何を着ても似合う方だ」
「ふん。相変わらず世辞が下手糞なやつだ。まぁよい。他の国の王子などダラダラと長い口上を述べるので、どんだけ舌があるのかと驚くがな。ほぅ、お前が異邦者か。糞みたいな面をしてるのぅ」
「………えっと、待ってください。初対面ですね。貴方と、僕は?」
「そうじゃよ。出合った人の顔もわからぬほど異邦者というのは阿呆なのか。私の護衛を頼むにしても阿呆と馬鹿はタチが悪いぞ」

 痛い。頭が痛い。頭痛が痛いと思わず言ってしまいそうになる。
呼吸を整え、そしてビール腹の司法官を睨みつける。

「これは?」

 ゲシッと膝――ではなく踵のアキレス腱の辺りをけられる。普通の人なら靭帯が切れてもおかしくない場所だ。幸い、俺は大丈夫だが、少しは躊躇しろ。せめて初対面の相手なら。

「私をこれ扱いとか、マジで殺すぞ。この糞カス」
「…………第三姫セイラ様です。できるだけご無礼のないように」
「ああ、なんとなくわかってたけど、そうなんだ」

 幸太はため息をついき、未だに蹴ってくる赤毛の少年に見える少女を見て、口端から忌々しそうに、本気で唸る。

「絶っっっっっっ対に、断る!!!!!」




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