―――――――知識は最大の………なんだっけ?
☆☆☆☆☆
「………はァ?」
とりあえず、状況が理解できない。
イヤ、理解はしている……それも違げェ。
疑問を感じるべき所がないのだから、理解も何もない。
いやいや、疑問は感じるべきではないのか。
だがしかし、これは当然のことだよな……?
「なんだ―――――おまeh?」
目の前にいる老人が驚愕した表情でこちらを凝視し、呟いた。
イヤ、こっちも混乱してるんだ。
「すまねェけどちょっと待ってくれィ。整理したい」
ちょっと整理してみよう。
俺は現在男子高校生であり、特別な力があるわけでも信じられない能力があるわけでもない。
いたって平々凡々黒目黒髪目立たないモブキャラである。
まあ、実は転生者だったりするのだがソレは今関係ない。
えーとだ。
先生に用事を頼まれ、帰るのが遅くなった俺は森の中にある近道を使おうとしたんだ。
前世の知識ではとある物語の中心であるココだが、おかしな行動さえしなけりゃ命に危険はないと認識していたからな。
その時に偶然10人程の人間が視界に入り、ココの学園の関係者じゃねェと思った時にそいつらの一人から襲われた。
だから、なんとなく襲ってきた奴からナイフを奪いかたっぱしから殺した。
ていうか現在進行形で殺ってる。
「別におかしいことはないよな………って、ちょっと待てィ!」
「た、助け、(ザシュ!!)ぎゃっ………!!」
オレは逆手に持ったナイフを袈裟懸けに振り切りながらツッコム。
おかしい。絶対おかしい。
考えてる今の状況もおかしい。
さっきの老人はオレに質問した瞬間、血だまりに沈んでるし。
いや、おかしくはねェだろィ。
なぜ殺した。
アン?なぜ殺さねェ。
殺すのはおかしいだろう。
はて、殺さないのはおかしくねェんだっけ。
いや、待て待て。おかしい。。
なんだァ。何か、分からないことでもあるか。
分からないことだらけだ。いや、重要なことがわからない。
分かりきってんだろォが。別にそれは重要なことでもねェし。
………俺は今何をやってる?
――――見りゃ解るだろ、人殺しやってんだぜオレァ。
「なるほどォ………どうやらオレは人殺しィらしいぜ」
自分でも意味不明だが、実感として沸いた言葉を俺は気負いもなく口にした。
いつのまにかオレの後ろに血の池が出来ていた。
前を見ると、10メートル程先にいかにも魔法使いな奴が目に入ってくる。
どうやら最後の一人らしい。
「え?………え?うあ”……うわああああああ!!!!」
現状を認識したかそいつはオレに向かって光る矢を撃ってきた。
おお!これが魔法の矢かァ!
マンガでは見てたが実際には始めて見たぜ!
オレはその魔法がオレに向かって来ることなど、どうでもいいようにそんな感想を抱いた。
それは完全に致命の一撃であり、普段のオレだったならば確実に死んでいたはずだった。
だがオレの身体は何故か動き、いつも考えていたように。いや、つねに考えていたように。
すべての矢を避け、操られてこちらに向いた矢を相殺させ、そしてオレの投げたナイフが相手の喉に突き刺さっていた。
「そして誰もいなくなった………ってかァ?笑えねェ」
死体と血だまりを見る。
特に何の感慨も沸かない。
別に殺したかったわけでもない。
ただ殺しただけ。
「なんだろうなァ……自分がおかしいっつうことは把握してんだが、それをおかしいとは思わねェ」
ナイフを回収しながら、そんなことを一人ごちる。
気が触れる前兆なんてなかったんだけどねィ。
まあ、精神の異常は自分でわからないって言うしなァ。
これじゃまるで零崎………それだァ!!
オレの中でパズルがはまった。
そうだ零崎!
オレの脳で前世の本の情報が検索される。
零崎一賊。
最も忌み嫌われる殺人鬼集団。
あるいはこの世で最も敵に回すのを忌避される醜悪な軍隊。
またはこの世で最も味方に回すのを忌避される最悪な群体。
邪悪と冒涜。
理由なく殺す《殺人鬼》。
悪意や害意はなく、理屈もなく。
ただなんとなく、あるいは当然のこととして。
ただ、殺す。
なるほどねェ。
確か、今まで一般人として暮らしていた奴が、ある日突然零崎の血に目覚めるということも書いてあったなァ。
納得。納得。
どォりでねェ。
やっと違和感の正体がわかったぜ。
ただ単純に――――――異常が正常に感じたのか。
例えば、奴等の一人からナイフを取り上げた時。
例えば、そのナイフを返し驚愕する奴等に向けた時。
例えば、首筋に刃を突き立てる瞬間。
それが当たり前だと思った。
それが呼吸をするように。
特に意識も意思もなく。
さも当然の事だとオレは把握していた。
それを、その行為を、オレの脳は正常だと認識した。
無論それが強大に狂大に凶大にイカれてる事もわかってはいるのだが………なるほどねェ。
確かにこりゃ説明できないわ。
つうことはァ………
「すまん。ついなんとなく殺しちまったァ。でもオレごときに殺されるのも悪いと思う。魔法障壁とかあるんじゃねェの?」
オレは無茶苦茶な論理を呟く。
というか、魔法使いの一人が持っていたナイフなのだから魔法障壁対策ぐらいやっているだろという結論はすでにでている。
だが、そのどうしようもない考えを何故だかオレは―――――意外に一興だと思った。
「……いやあ、やっぱり狂ったねェオレ」
これからどうしようかね。
普通ならこんな状況になったら絶望するが、オレが零崎になったせいなのか、それとも元々の性格なのか、オレは特に焦ったりはしていなかった。
前世の知識によって導き出したものと言えば、非常に危うくはあるものの、敵対行動をとらない者に対しての殺人は自重できるという結論だった。
つうことは警察に出頭したら手錠とか相応のことはされるわけだからァ。
オレにはそれを敵対行動だと認識しないのは………無理だな。
「まあ、ゆっくり考えるかねィ」
オレは血まみれのナイフを死体の服で拭うと寮へ向かって歩き出した。
――――――――――――オレの服には、一滴の血も付いていなかった。
―あとがき―
発作が、発作がきたんです!
主人公が転生者で、この世界がマンガの世界であることを知っていれば、魔法使いや剣士の殺し方を考えていた零崎になるんじゃね?という発作的思い付き。
原作知識+零崎+魔法=混ぜるな危険