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社説:「核拡散防止」会議 合意の着実な実践を

 10年ぶりの最終合意である。核兵器の拡散やテロの脅威から人類を守るにはどうすればいいか。約190カ国の代表がニューヨークの国連本部に集まって3日から始まったマラソン協議は「核兵器なき世界」を目標に掲げ、中東非核化会議の開催など数々の行動計画を盛り込んだ最終文書を採択した。5年ごとに開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議は今回、確かな成果を上げて閉幕したといえよう。

 とくに評価したいのは、最終文書が北朝鮮の核に厳しい態度を示したことだ。決裂状態で終わった前回05年の再検討会議後、北朝鮮は2度の核実験を実施してNPT体制を揺るがした。最終文書が北朝鮮の核実験を強く非難し、核兵器の全面廃棄を求めたうえで、北朝鮮を核保有国とは認めないことを再確認したのは、極めて重要かつ有益な判断である。

 中東非核化への具体策で合意したことも歓迎したい。中東では核兵器保有が確実視されるイスラエルと、核兵器を持たないアラブ・イスラム諸国の対立が続いている。12年に開かれる国際会議には中東のすべての国が参加し、非核地帯の創設をめざすという。95年採択の「中東決議」に基づくものでイスラエルの核兵器を念頭に置くのは明らかだ。

 オバマ米大統領は、非核地帯創設には中東包括和平が必要としてイスラエルだけを批判することに反対しているが、米国が常とする無条件のイスラエル擁護は逆効果になりかねない。イスラエルの核兵器保有を「公然の秘密」のまま放置すれば、対立するアラブ・イスラム諸国が核兵器技術の取得に傾くことは避けられまい。核をめぐる中東の危険な風土は、この辺で変える必要がある。

 米英仏露中の5カ国に核兵器保有を認めたNPTは一種の不平等条約であり、「持つ国」が「持たざる国」に配慮しないとNPT体制は維持できまい。米露は再検討会議前に新核軍縮条約に調印したが、5カ国全体の核軍縮への努力は十分とはいえない。今回、核軍縮に具体的な期限を定める提案が葬り去られ、14年の再検討会議準備会合で核削減状況などを報告する程度にとどまったのは残念である。

 最終文書には、核開発をめぐって国連の追加制裁に直面するイランをことさら刺激する文言は見られない。2回連続の決裂を避けるべく米国などが遠慮したのだろうか。その意味で最終文書は「妥協の産物」ともいえようが、核実験全面禁止条約(CTBT)の早期批准や兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始などは重要な合意である。「核なき世界」という遠大な目標に向かって、一歩一歩、合意の着実な実行が必要だ。

毎日新聞 2010年5月30日 2時34分

 

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