【コラム】脱北記者が見た戦争の可能性(上)

 ある日、ソウル市内の地下鉄で、中学生と思われる生徒たちが「戦争になったらどうすれば良いのか」と不安げに話す様子を目にした。北朝鮮についてよく知らない一般の国民が、表面的な情勢ばかりを見て不安を感じるのは無理もない。このような世論の雰囲気を利用して、「太陽政策が行われていた当時はこんなことはなかったのに、北朝鮮に強い態度で出るから戦争が起こりそうな状況になってしまった」とする意見もある。

 記者はかつて北朝鮮で生活していた。その経験からすると、太陽政策が行われていた当時よりも、むしろ今の方が戦争の可能性は低いと言える。北朝鮮が哨戒艦『天安』沈没のような局地的な挑発を行う可能性や、それに対して韓国側が応戦することは十分に考えられる。しかし、全面戦争が起きる可能性はむしろ低くなったというわけだ。

 戦争が起きるにはまず、軍事バランスが崩壊しなければならない。それに、戦争に協力する同盟国が必要で、なおかつ相手が油断していなければならない。圧倒的な軍事力を持っていたとしても、相手がそれに応じる備えをしていれば、戦争が起きることはまずない。

 朝鮮人民軍は太陽政策がなければ、今ごろはほぼ無力状態となっていただろう。北朝鮮は1997年に大規模な軍事パレードを行う準備をしていたが、資金不足で最終的に中止せざるを得なかった。ファン・ジャンヨプ元朝鮮労働党秘書は当時、チョン・ビョンホ軍需工業部長から、「金日成(キム・イルソン)主席の3周忌に軍事パレードを行わなければならないが、装備が老朽化している上にガソリンも足りず、大変なことになった」という話を聞いたことがあるという。深刻な経済難と食糧難により、休戦ラインに展開する部隊への配給さえ滞るという状況だった。さらに韓国軍が大規模な宣伝放送を行ったことで、朝鮮人民軍の最後の砦である思想まで崩壊しそうな状況に陥った。この時が、韓国戦争(朝鮮戦争)後では、戦争の危険性が最も弱まった時期だ。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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