国立病院機構大阪医療センターや産業技術総合研究所(産総研)などのグループは、虐待を受けて頭をけがした子と別の原因でけがをした子の検査データを集め、虐待によるけがの特徴を明らかにする研究を始めた。虐待によるけがを医師が正確に診断するための判断材料を提供することで、早く虐待を見つけて子どもを守る一方、虐待でないケースを虐待と判断してしまう間違いの防止に役立ててもらう狙い。
海外の研究などによると、虐待で頭にけがをした子の15〜38%が死亡し、命を取り留めても30〜50%の子に重い後遺症が残るとされる。厚生労働省などの調査では、虐待を受けて死亡した子の5割弱が0歳で、その半数近くが頭部外傷を負っていた。体を強く揺さぶられたり、打ち付けられたりすることで、頭蓋(ずがい)内出血や脳挫傷などを起こす。頭のけがを正確に診断することが治療の前提になる。
大阪医療センターは、虐待が原因とみられる頭部外傷の子のほか、目撃者がいるなどして別の原因が明らかな子、頭部外傷以外の子ら計約60人について、頭部のコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴断層撮影(MRI)の画像、全身のエックス線撮影の画像を集めて分析する。いわゆる「揺さぶられっ子症候群」に特徴的な眼底出血の検査画像も収集して調べる。
頭部外傷については、けがをした状況を詳しく調べ、頭や体に加わった力や体の揺れ方、ぶつかり方と脳の出血の具合との関係を探る。
裁判所や検察庁にも協力を求め、虐待を受けたと判決で確定した子10人の資料を閲覧。頭部外傷を負った経緯を調べる一方、治療した病院に依頼してCT画像などを提供してもらい、加わった力などとけがの関係を分析する。
産総研と金沢大は、子どもの大きさの人形を使い、強く揺さぶったり、投げ飛ばしたりした時に頭や胴体にかかる力、揺れ方、速度を測り、大阪医療センターのデータと突き合わせる。虐待を隠そうとする親は、しばしば「いすから落ちた」などと説明するが、そうした状況も再現してデータを集め、大阪のデータと比べて検証する。
研究の代表を務める山崎麻美・大阪医療センター副院長(脳外科)は「虐待を科学的に診断するための基になるデータベースを作りたい」と話す。(大岩ゆり)