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市民複雑な思い基地負担増大に懸念…新滑走路運用開始

新滑走路をバックに報道陣の質問に答えるルース駐日米大使

 米海兵隊岩国基地で沖合移設された新滑走路運用が始まった29日、岩国市議会の移設決議から42年を経ての運用開始に、安全で静かな生活を求め続けた地元に喜びの声が上がった。一方、新滑走路が米空母艦載機部隊移駐の「呼び水」になって基地負担が増大するとの懸念は広がり、滑走路が近づいた周辺の島々も騒音拡大に警戒を強めるなど、様々な思いが交錯している。(大脇知子、小園雅寛)

    ■歓迎

 「市民の積年の悲願が実を結んだ。本日は市にとって歴史的な1日」。29日の運用開始式で福田良彦市長はこう述べ、関係者へ謝意を表明した。式典ではルース駐日米大使も「移設事業の成功は日米友好の明るい未来の証し」と歓迎した。

 中国四国防衛局は、新滑走路の運用で、岩国市内で防音工事が必要とされるエリアがこれまでの約1600ヘクタールから約300ヘクタールに減ると予測。旧滑走路北側に近接する帝人岩国事業所では、1975年までに模擬爆弾の落下など5件の事故があり、「敷地の上空を航空機が飛ばないのはありがたい」(石田晃事務室長)と胸をなで下ろしている。

     ■懸念

 米軍普天間飛行場(沖縄県)から空中給油機、米海軍厚木基地から空母艦載機の移駐が固まり、地元では「なし崩し的に基地機能が拡大するのでは」との不安が高まっている。住民の安全確保のために移設した滑走路が、逆に基地負担の増大を招くとする声は強い。

 岩国基地の騒音被害に対する損害賠償などを国に求めている岩国爆音訴訟の原告団などは「艦載機などが移駐されると、岩国は極東最大級の航空基地になる。爆音が倍増するのは明らかだ」と指摘する。

 埋め立て用の土砂を切り崩した岩国市の愛宕山では、予定していた宅地造成事業が廃止され、米軍住宅への転用が取りざたされている。地元住民でつくる「愛宕山を守る会」の岡村寛・世話人代表(66)は「宅地造成に協力したのに米軍住宅転用計画が浮上している。市民はだまされてばかり」と反発している。

    ■波紋

 一方、新たな騒音被害に身構える地域もある。106世帯約310人が暮らす広島県大竹市の阿多田島。沖合移設で滑走路が島まで約6キロに迫ることになり、住民は騒音の拡大に不安を募らす。自治会長の本田幸男さん(67)は「今も航空機が通るたびにテレビの音や電話の声が聞こえなくなる。これがさらにひどくなるなんて」と憤る。

 基地南側に位置する山口県の周防大島も同様に騒音が増すと見られている。周防大島町の住民団体「大島の静かな空を守る会」の河井弘志代表(74)は「沖合移設は岩国市の人たちにとって長年の悲願だが、周防大島には騒音をもたらす。複雑な心境だが、せめて艦載機の移駐は阻止したい」。

 かつて豊かな藻場だった埋め立て地一帯は、事業が進んだ2005年には藻のほとんどが姿を消した。漁業も深刻で、市漁協の沖井勝広組合長(69)は「魚礁がなくなったことでシロウオやカレイも捕れなくなった」と顔を曇らせた。

2010年5月30日  読売新聞)
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