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きょうの社説 2010年5月30日
◎總持寺移転100年 禅のふるさと見直す機会
輪島市門前町の曹洞宗總持寺祖院ゆかりの奇祭「ごうらい祭り」が2011年の本山移
転100年を祝うため、来年夏に横浜市鶴見区の大本山總持寺で披露されることになった。總持寺祖院は、曹洞宗の原点の地の一つとも言え、現在も訪れる人が絶えない名刹だが、移転100年の節目に向け、あらためて地元として、受け継がれた伝統の中に残る禅文化を発掘し、これまで以上に祖院の存在感を引き出すことで、禅のふるさと能登を発信したい。總持寺の移転は、1898(明治31)年の大火がきっかけだったが、当時、地元の反 対運動は激烈を極め、その影響から、門前と移転先の鶴見の交流は乏しく、現在の鶴見の住民の中には、かつて本山が門前にあったことを知らない人が大半という。ただ、一昨年、總持寺のおひざ元の門前町総持寺通りと鶴見区豊岡の両商店街協同組合が相互訪問するなど、徐々に恩しゅうを超えた交流の機運も見えてきた。 そうした中で總持寺に“出張”するごうらい祭りは、門前町の櫛比神社の神が、總持寺 開創を告げた總持寺祖院の観音にあいさつする奇祭として知られる。寺の原点を見つめ直し、門前町との結びつきを強めたいとの總持寺側の意向で実現するもので、寺の歴史を共有し、両地域の交流をより一層広げる確かな一歩になるだろう。 節目に合わせた企画にも力を入れたい。門前では10年前、移転90年記念として「寺 宝里帰り展」が開催されたが、今回は地元に埋もれた史料なども含めて、さらに質、量ともに厚みを増し、門外不出の逸品の里帰りを期待したい。また總持寺とともに発展したとも言われる輪島塗と絡めた切り口で、企画を打てるのも当地でしかできないことだろう。地域振興の観点から行政の積極的な支援を望みたい。 折しも總持寺移転100年の来年秋には、金沢市に鈴木大拙館(仮称)が開館する予定 であり、總持寺をはじめ金沢市の大乘寺、高岡市の瑞龍寺、福井県の曹洞宗大本山永平寺など北陸の禅文化を支えた寺院群に光が当たると期待される。こうした追い風を生かして禅のふるさとを盛り上げたい。
◎港湾の重点整備 海運力向上戦略と一体で
国土交通省は成長戦略の一環として、港湾機能の強化を掲げている。来年度以降に集中
的に整備する「重点港湾」の選定に当たり、全国の重要港湾の需要予測と実態の隔たりを指摘し、自治体などに港湾計画の見直しを求めているが、政府としては日本の海運力、海事産業そのものを強化、発展させる戦略を忘れてはならない。特に日本人船員の減少は経済の安全保障の点でも問題であり、人材確保の取り組みにさらに力を入れてもらいたい。アジアなどの新興国の経済成長で世界的な物流の増大が見込まれており、外航海運業は 成長産業と目されている。貿易量のほとんどを海上輸送に依存する日本にとって、海運の強化は成長に欠かせぬ重要テーマであり、国交省は重点整備する拠点港を選んで機能強化を図ることにしている。 「選択と集中」による港湾整備に並行して強化してほしいのは、海運の将来不安を取り 除く政策である。国交省によると、ピーク時の1974年で約5万7千人だった日本人船員は、2008年で約2600人に減り、日本の海運会社が運航する船舶(日本商船隊)の船員約5万人のうちのわずか5%という状態である。 また、最多時で1580隻(1972年)に上った日本籍船も98隻(08年)に激減 し、日本商船隊の全船舶の4%に過ぎない。日本商船隊の数量は世界トップクラスだが、コスト削減のため賃金や税金の安い外国人船員、外国籍船に取って代わられたのである。 これは経済のグローバル化に伴う合理的な変化ともいえる。しかし、日本経済の成長、 安定が海運の安定にかかっていることを考えれば、邦人船員と日本籍船の減少に歯止めをかける必要があり、そのための企業、個人の負担軽減策を考えたい。長期間、居住地を離れる船員の住民税を下げるべきという提案も検討に値しよう。 船員をめざす若者が少ないことも大きな課題であり、船員という職業の意義を含めた海 洋教育や広報活動の拡充を求める日本船主協会などの要望にも政府はこたえてもらいたい。
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