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[19041] 【習作】パワプロ13(再構成)
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/27 15:44
今回初投稿となりますUVERです。

この小説なんですが、パワプロ13の聖タチバナ学園を舞台とした再構成の物語を書こうと思います。

ただゲームの文章をコピってるように感じる場合もあるかもしれませんが何卒ご了承の方をお願いします。

感想、誤字、脱字、指摘などありがたく受け取ります。ぜひともお願いします。



この作品は『実況パワフルプロ野球13』を元にした二次創作です。

また本作品中に実在選手名、もしくは球団名等出る場合もありますが、「日本野球機構(NPB)」とはなんら関係がございません。


この小説独自の設定
・聖タチバナ学園と帝王実業は東東京代表
・パワフル高校は西東京代表



[19041] 主要人物象
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/27 15:39
杉矢 慎一(スギヤ シンイチ)

「俺はシスコンじゃねーぞ? ……おい、奈々に近寄ったらつぶすぞ?」

年齢・容姿

15歳
髪は耳の下ぐらいで色は黒
顔は中の上

性格・趣味
状況によって変わったりするが基本は落ち着いてる
趣味は家事

右投げ右打ち
打法 オープンスタンス(和田打法ー中日)

守備位置
捕手

野手能力

弾道2
ミート D
パワー E
走力 E
肩力 B
守備力 E
エラー回避 F

特殊能力

流し打ち
バント○
リード◎
安定度2
選球眼
サボリぐせ(野球以外)

備考

・野球を何よりも愛している
・でも野球以外になるとダラける傾向がある
・一つ下の妹がいる
・自分はシスコンではないと思っているが結構シスコンっぽい
・中学時代は兄妹バッテリーでかなり評価される(そのことを自分たちは知らない)もチームが弱く、優勝経験はない
・嫌いな球団は無く、特に好きなのは阪神
・尊敬する選手は早川あおい
・早川あおいは姉的存在


杉矢 奈々(スギヤ ナナ)

「私とお兄ちゃんに適うものはないっ!!」

年齢・容姿

14歳
髪は肩まで届いて色は兄と同じ黒
容姿は上の上(つまりかなりモテる)

性格・趣味
比較的普通の女の子
でも兄が居ると甘えん坊になる
趣味はランニング

左投げ左打ち
投法 オーバースロー(セットポジション)

守備位置
投手

投手能力

球速 120km/h
制球 D
スタミナ E

変化球
スライダー 1
カーブ  2
チェンジアップ 1

特殊能力

対左打者2
打たれ強さ2
対ピンチ2
回復4
テンポ○
リリース○
バント○

備考
・お兄ちゃんが大好き
・お兄ちゃんLOVE
・他の男なんて興味なし
・好きな食べ物とかも兄と一緒
・でも好きな球団は巨人
・でも好きな選手は早川あおい
・あおいを「あおいお姉ちゃん」と呼ぶ


青崎 信吾(アオサキ シンゴ)

「なんつーか…ほら、アレだよ! 流れに身を任せろって!」

年齢・容姿

15歳
髪は茶髪で短髪
容姿は中の中

性格・趣味

お調子者
趣味は音楽鑑賞

右投げ両打ち
打法 スタンダード(小笠原ー巨人)

守備位置
外野

野手能力

弾道4
ミート G
パワー B
走力 F
肩力 E
守備力 E
エラー回避 G

特殊能力

ブルヒッター
パワーヒッター
初球○
三振
エラー
走塁2
送球2

備考
・慎一の幼馴染でパワフル高校へと進学する
・慎一と甲子園で戦うため日々練習を頑張る。
・パワーは既に高校級だが、守備が中学生以下



随時更新予定




[19041] 第1話「お互いの道」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/24 01:44

「ストライクッ!! バッターアウト!! ゲームセット!!」

最後のバッターが三振に倒れ試合が終わる。

ああ…今年もダメだったか…。
これで俺の中学野球が終わったんだな…。

両チームが並び、礼をする。
その後監督の話があり、解散となる。

何もこれは全国大会決勝じゃない。
たかが地区予選初戦だから当然客席も全く居ない。

…というか河川敷グラウンドにそんな立派な客席もなく、土手で暇つぶしに見てるオッサンとかがほとんどだ。

「お兄ちゃぁ…ん…っ」

荷物を片していると後ろから妹の奈々が涙声で抱き着いてくる。

「ぅぅ…私があの場面を抑えていればまだわかんなかったのに…っ」

奈々が言っているのは六回表のことだ。
もともとピンチに弱い奈々は満塁の場面で臆してしまったんだろう。

「いや、奈々ちゃんは頑張ったよっ!!」

横から現れたのは俺の幼馴染の青崎信吾。

「奈々ちゃんを責められるわけないじゃないかっ。奈々ちゃんは良いピッチングだったんだから」

そうやって奈々を励ますが、俺には言いたいことがある。

「そうだよな…四回表の満塁のチャンスで誰かさんが三振しなかったら勝ってたかもな…」

「うっ」

「六回裏の始めに誰かさんがライト前ヒットをトンネルしなかったらいきなり無死三塁から始まらなかったかもな…」

「うぅっ」

「さらにそのあと二死満塁になってから誰かさんがフライを落球しなかったら勝てたかもな…」

「や、やめてくれぇ!!」

バタッと倒れる信吾。
俺は誰かのせいにして負けたなんて言うのは嫌いだがこれはひどいだろ。
まあそれでも最終回のホームランは見事だったけどさ。

結果は2-1。
要は信吾が打たなかったら完封負けだったんだ。
むしろ俺なんか三タコだったんだ。

「ま、奈々はよく投げてくれたな」

「ホントに…?」

「ああ、よくやったよ」

そんな妹の頭を撫でてあげる。
これで奈々の泣き顔は可愛い笑顔に変わってくれる。

「えへへ~」

ごらんのとおり笑顔になっている。

「さて、じゃあ早く帰って飯にすっか」

「うんっ!」

荷物をまとめてグラウンドから撤収する。

「待って~…」

「いつまで寝てんだ信吾」

「扱いひどい…」

そんなこんなで俺の中学野球は幕を閉じた。





第1話「お互いの道」






「いやぁ、今日も退屈な授業だったな」

「いや、お前サボってどっか行ってたじゃん…」

そんな細かいことは置いといて…。

「細かくねぇだろ!?」

うるさい。

「それよか帰ろうぜ信吾」

「別にいいけど奈々ちゃんは?」

「部活だよ」

「そっか~、新キャプテンだもんな」

俺達三年の引退後、キャプテンは俺から奈々へと引き継がれた。

「お兄ちゃんの後を、恥じないように頑張りますっ!」

結構意気込んでいたな。
こりゃ、来年は期待できるかもな。

「お待たせ、帰ろうぜ」

帰り支度を済ました信吾と学校を出た。





「しっかし俺達も来年は高校生かぁ~」

「いきなりどうした?」

「いや、なんとなくな。慎一はどこの高校行くんだ?」

「俺は…聖タチバナの推薦受けようと思う」

野球特待生らしいし受験もめんどいしな。

「へぇ~俺はパワフル高校だ」

「それじゃあ来年から俺達は敵になるわけか」

「そうだな…」

そこで信吾は足を止める。

「俺はパワフル高校でチームを代表するバッターになって甲子園を目指す」

そう言って拳を突き出した。

「…じゃあ俺は聖タチバナのでチームの司令塔として甲子園を目指す」

俺も同じように拳を突き出し。

「ともに」

「会おう」

「「甲子園で!!」」

コツンっと拳をお互いの胸に当てた。








あとがき

初投稿でした^^;

御覧の通り一話ごとが短いですが何卒よろしくお願いします。



[19041] 第2話「聖タチバナ学園」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/25 01:05
――ジリリリッ

目覚ましが鳴るってことはもう起きる時間か…。
とりあえず目覚ましを消して布団から出る。

「う~ん…っ」

カーテンを開けると気持ちのいい日差しが身体に染み込んでくる。
そこで軽くひと伸び。

「良い天気だ」

さて、準備しよっと。



基本的に俺の朝は早い。
なぜなら家には俺と妹の二人暮らしで朝の家事担当は俺がやるからだ。

何も両親が死んだとかじゃない。
両親はミゾット社に勤めていて、昨年本社の方へ異動になったからだ。

普通なら俺らを連れて引っ越すんだろうが、お二人とも放任主義なためか俺達は残ることになった。
それに俺も手の掛からないくらいに成長したから大丈夫だと思って残していったんだろう。

そんなわけで俺の朝はなにかと忙しい。

着替え、朝食、洗濯。
やることはたくさんある。

「むにゃぁ…」

やがて眠たそうな目を擦って奈々が起きてくる。

「おはよう~…」

「ああ、おはよ。ほら、顔洗って来い?」

「うん……」

足取り不安定だがいつもどおりなので大丈夫だろう。
こっちは朝食の準備を終わらせる。

「おはよ、お兄ちゃん」

「おはよう奈々」

完全に目を覚ました奈々が二度目の挨拶。
これもいつもどおり。





「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

「今日からお兄ちゃん居ないんだね…寂しいな」

「どうせお前も来年聖タチバナ来る予定なんだろ?」

「当然だねっ」

「なら一年間頑張って来い! さて、俺はそろそろ行くから片付け頼むな」

「うん、頑張ってねっ」

今日から俺は高校へと通う。
高校へは大体電車で30分かかるので、朝は奈々より早く出なければならないため片付けは任せることにした。

「それじゃ行ってくる。ああ、今日からさっそく部活参加してくるから夜は頼んだぞ」

「任せてっ、いってらっしゃいお兄ちゃんっ」








電車を降りて歩くこと5分。
聖タチバナ学園の門の前で校舎を見上げる。

「今日から俺の高校生活が始まるんだ…」

思い出すのは悔しき中学の大会。
一度も勝つことなく終わった大会。

思い出すのは幼馴染との約束。

「(絶対に甲子園であいつと戦うんだ…)」

まだ見ぬ未来に口元が緩む。

そのためにもまずはレギュラーを取る。
そして順調に大会を勝ち抜く。

この地区には帝王実業が居るがそれも乗り越えてみせる。

「(さぁ…いくぜ…俺の新しい一歩!!)」

いざ行かんと新しい一歩を踏み出す。






……予定だった。

「どいてどいてどいてーーっ!!」

「は?」

――ドーーンッ!!

俺の一歩はマウンテンバイクに突っ込まれて踏み出すことになった。




第2話「聖タチバナ学園」






「……腰が痛い…」

それもこれも朝にマウンテンバイクで俺にぶつかってきたあの女のせいだ。

『ごめんねぇ~、急いでるからっ!』

そう言ってあの女は去っていった。
まったく、災難にもおどがある。

「ってこんな場合じゃなかった。部活行かないと…」

今日は入学式、そして実力テストで早めに終わる。
そして今日から早速部活を開始しても良いのだ。

とりあえずグラウンドに行こう…。






「失礼しま~す」

更衣室に入ると中には誰も居なかった。

「先輩たちはまだ来てないのか…?」

まあ、一番に来ることは悪いことではないしむしろ良いことだろう。
さっさと着替えよう。

そうして着替えているとドアノブを捻る音が聞こえた。
そして入ってきたのは丸メガネを掛けた男子だった。

「あれ? 確か同じクラスの矢部だっけ?」

「そういう君は杉矢君でやんすね」

確か矢部明雄という名前だったはず。
『やんす』が特徴ですぐ名前を覚えてしまった。

「お前も野球部なんだな」

「そうでやんす。野球スポーツ推薦で入ったでやんすよ」

「俺と一緒か? まあよろしく頼む」

「よろしくでやんす」









「おお…綺麗にグラウンドが整備されてるでやんす」

「(気のせいか…? まったくこのグラウンドが使われてない気がするのは)」

不安を感じながら俺達はグラウンドへ向かった。

「お、来たな新入部員。オレは大仙清。野球部の顧問兼、数学教師だ!」

「よろしくお願いします」

「よーし、全員そろったな。左から番号!」

「(嫌な予感が…)1」

「2でやんす」

「3」

「よし! OK! それじゃ今日の練習を始める」

「…あの…?」

「どうした?」

「これだけっすか?」

「そうだ、三人で全員だ!」

「(やっぱり…)」

俺の不安通りこの野球部これだけしか居ないらしい。
悪い信吾…俺入る高校間違えたかも…。

「最近学校がなぜか野球に力を入れなくなってな…皆他の部にいってしまったんだ」

「まったく先生の野球の凄さがわからんバカチンばかりですね」

「さっきから気になってたでやんすがキャラの濃いあなたは誰でやんす?」

「私は太鼓望。君達の先輩であり、大仙先生を人生の師と仰ぐものです」

「…先輩でしたか」

「頭でかいでやんす」

「ま、部が潰れないように部員をお願いしていたんだが、二人も来るとはとんだラッキーだな」

「まったくです、これも先生の努力あってのこと!」

「よ~し、三人に増えたし、少数精鋭の野球部のスタートだ!」

「少数精鋭! いい言葉です! 流石先生!」

「なんかオイラたちがスポーツ特待生で入れた意味がわかってきたでやんすね」

「……頭が痛いんだけど…」





[19041] 第3話「生徒会」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/24 23:56





「まぁ…そんなわけであの高校は止めとけ」

「アハハ……。でもお兄ちゃんと同じ高校に行くのは止めないから!」

結局三人での練習なんてランニングや軽いノックぐらいしか出来ず、予定より早く帰宅したため、俺が夕飯を作った。
一方の奈々は驚いただろうな。
朝、意気込んで学校へ行った兄が帰ってきたら飯を作ってるんだから。

「そういや、そっちはどうだ?」

「ん~? こっちはなかなか良い一年生が入って来たよ!」

「へぇ~、じゃあ今年は一回戦突破出来そうか?」

「う~ん…キャッチャーがお兄ちゃんとは天地の差があるからね…」

そこまで言っては可哀想だろう。

「だって去年までうちが防御率1点台だったのお兄ちゃんのリードのおかげと言っても過言じゃないからね?」

「そうか? でも一番はやっぱり奈々のピッチングだろ」

「そ、そんなことないよぉ…。私なんてお兄ちゃんが居なきゃまだまだだもん…」

「それこそ違うさ、奈々は確実に実力を付けていってるからこのまま行けば良いピッチャーになれるはずだ」

「えへへ……なんか照れるね」

とにかく来年は奈々がうちに入ってくれると確定的だからなんとかなるかもしれないな。

「(でもやっぱり…)」

部員が増えないとなぁ~……。





第3話「生徒会」






「さて、部活に行くかな…」

『わあ!生徒会メンバーが廊下をお通りになるぞ~』

『マジかよ!』

『ワアアアーーーー!』

「…何の騒ぎ?」

やたらと廊下が騒がしいので廊下に出てみると、何やら四人の集団が揃って歩いていた。

「生徒会メンバー四人揃い踏みよ」

「やっぱそろうと威圧感あるなぁ」

「みんな、元気にしてるー? 困ったことがあれば生徒会までいつでも相談にきてねー!」

「なんだあれ…?」

「生徒会長の橘みずきちゃん率いる生徒会でやんす! なんと一年生のみで構成したみたいでやんす」

「…一年生のみ…? 凄いな…」

「しかも、この学校じゃ生徒会が全実権を握ってるでやんす、先生よりもえらいでやんす」

「おいおい、マジかよ…」

「あれ?キミ達見たところ外部入学制ね」

「わあ、入ってきたでやんす」

「(なんかこいつどっかで見たことあるような…?)…ういっす」

「オイラ達は野球の特待生で入ってきたでやんす!」

「野球!?」

「どうした?」

この橘って奴は一度表情を驚愕へと変えたがすぐに戻した。

「いや、なんでもないよ。そうだ、いい機会だから生徒会のメンバーも紹介しよっかな」

「そりゃどうも…」

「まずは会計の原啓太君」

「お金の相談やったら任せてや!!」

「そして書記の宇津久志君」

「男に優しくする趣味はないが…困ったときは助けてあげなくもないよ」

「最後は、副会長の大京均君」

「大京です。聖タチバナの秩序は私たち生徒会が守ります」

「個性たっぷりのメンバーでやんす」

ちっこい関西弁に優男に筋肉か。
まぁ、個性溢れた愉快な集団だな。

「みずきさん、そろそろ会議が始まります」

「あ、そう?んじゃま、困ったことがあったら、いつでも生徒会に言ってね」

「はぁ…」

「わかったでやんす」

そうして四人は去っていった。

「生徒会が最高権力者か、変わった学校だな」

「みずきちゃん可愛かったでやんす…」

隣の矢部を見ると顔が赤くなってニヤニヤしている。
うん、キモい。

(ていうか…あの女、入学式のときの女じゃねぇか…)

最高権力者か…。
こりゃあのことは忘れたほうが良さそうだな。







[19041] 第4話「ご要望会議」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/25 01:18

「いやぁ~春は良いなぁ…。こりゃ屋上で寝れば気持ち良さそうだ…ん?」

俺の前を歩いている女子。
確か隣のクラスの委員長の三条院麗菜だったか?

「お~「どいてどいてー!!」い……? ……デジャヴが…ぐはっ!?」

いつかと同じようにマウンテンバイクと衝突する俺。
……また腰だよ。

「ごめんごめーん! 誰か知らないけど、校門の前でぼーっとしてたら危ないよー!」

「全速力で突っ込んでくるお前が一番危ねぇよ……」

「あ、杉矢くん、おはっよー!」

「いいから早くタイヤ退かしてくれないですかね…?」

ようやくタイヤが退けられる。
しかしなんだ俺は、マウンテンバイクに縁があるのか?

「いやーごめんね、急いでたからさ…」

「とりあえずこれが二度目だと気づいて欲しい」

「あ、急がなくちゃ! じゃ、まったねー!」

「聞いてねぇ…」

既に橘は見えなくなっていた。






第4話「ご要望会議」










「行くぞー」

「オーライでやんす」

「声出していこー!」

「いくでやんす」

「オッケー」

「バッチコーイ、バッチコーイ」

「……」

やっぱり…このままじゃダメだな…。








「…監督」

「なんだ、もうバテたか?」

「やっぱりこの人数で野球は辛いですって…」

「でやんす」

「それに、このまま野球部が活躍できずに廃部になりますよ」

「え?!」

「廃部になったらもしかしたら顧問の管理責任も問われるかもでやんす」

「そうなの!?」

「何を言う、先生が少数精鋭でがんばると前に言ったではないですか!」

「よし、部員を集めよう。まあ、なんだ、ほら、野球部は九人いないとイカン」

「ほらみろ、先生も部員を集めようって…ええ?」

「いやーはじめから俺も思ってたんだよ、やっぱ必要だよな、部員」

まったく…。
でもこれでようやく進める。

「でもどうやって集めるんですか?簡単には集まらないですよ?」

「そうでやんすねぇ…」

「……生徒会長に頼むのは?」

「なるほど、生徒会のご要望会議ならいけるかもしれませんよ」

「ご要望会議ぃ?」

「生徒会が強力な決定権があるのは知っていますね、その、生徒会が不定期開催だが各部からの要望を聞く会議があるんですよ」

「はぁ…」

「その会議で承認されれば急遽部員を集めたり、部の設備を強化することも可能です」

「なんか…ますますこの学校の特殊さを感じる…。でも生徒会にかかってるわけか…」

「じゃあ早速でやんす」

「いや、待ってください。不定期だから開催告知がないと意見を聞いてもらえませんよ」

――ピンポンパンポン

『ただいまから、今期のご要望会議が開催されます』

「あ、開催連絡ですよ」

「なんとまぁ、タイミングの良いことで…」

「じゃ杉矢君交渉に行くでやんす!」

「って俺が行くんかい!? ……まぁいいや」










「失礼しますっと…なんだこの場違いな所」

「今サッカー部が交渉中なので、しばらく椅子でお待ちください。ところで…あなた初めてですか?」

「ええ…まあ」

「お待ちの間、よかったらシステムのご説明をしましょうか?」

…ここは病院か?

「お願いします」

「この会議は各部からのご要望を言って頂き、担当の者と会長のみずきさんの承認が出れば送球に要望の対応をさせていただきます」

「(意外と簡単だな…)

「しかし、みずきさんは天邪鬼です。他のメンバーも一癖も二癖もあるので、なかなか一筋縄では…」

「ですよねー」

そんな上手くいくわけないよな。
特にアレには…。

「でも、誠意と気合で交渉すればかならず気持ちは届くはずです。…おや」

「わーん、けち~。もうこねーよ!」

『残念でした。またどーぞ』

「あ、却下されたみたいですね」

「すげぇ不安だ……」

「さ、野球部の番ですよ」

「(こういうの苦手なんだけどな…まぁ、なるようになれ…か)」






「よろしくお願いしまーす…」

『用件をどうぞ』

「部員が必要なんですけど…」

「人事のことならオレだね。部員が必要なのかい? そうだねぇ…、ふむ…ボクは反対だな」

(宇津の評価はイマイチか……)

「一応みずきさんはどうだい?」

「ん?」

(橘は普通…か)

「ふーん、部員ねぇ…、どーしよかなぁ」

このまんまじゃマズいな…なんとか言ってみるか?

「えーと、ご存知かと思うんですが今うちには三人しか部員が居ません」

「ふーん」

「それで、このままでは野球どころか部活としてもなりたたないかと」

「それはただ単にこの学校じゃあ人気がない部ってことでしょうがないんじゃないかな?」

「まぁ、そう言われるときついんですけどね。このまま何も出来ず廃部ってのはあまりにも意味がなさ過ぎると思うわけですよ」

「ふむ…」

「物は試しってよく言うでしょ? だから今回は部員を増やすってのもアリなんじゃないかと」

「たしかに…ね。そう言われると…今回はボクはやっぱりアリかな…」

「(よし、宇津の評価が変わった! 後は橘だけなんけど…)」

「うーん………………いいよ」

「よし!!」

今回は成功だな。
これでなんとか部活らしくなるかな…?





その後宇津が連れて来た部員は3名。

全員運動部らしく、期待できる。
これでなんとかこの高校に希望が見えてきた……気がした。




あとがき

3,4話はゲームどおりって感じですね…
もう少しオリジナリティが欲しい…orz



[19041] 第5話「橘聖名子と早川あおい」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/26 00:32




「今日ってたしか教育実習の先生が来るんだっけ?」

「そうでやんす。オイラの情報によると女性の方らしいでやんす」

「(なんの情報だよそれ……)」

四月からあっという間に五月になった。
最初は部員が居なく大変だったけれど運よくご要望会議が重なり、運よく交渉が成立したわけだ。

そのおかげで今部員は10人となって立派に活動出来ている。

――キーンコーンカーンコーン

「そんなことより早く野球がしたいよ俺は」

「(前から思ったでやんすが杉矢君って野球馬鹿でやんす…)」

「授業もめんどいしな………サボるか」

「またでやんすか!? これで何度目でやんす!?」

「大丈夫だって、ちゃんと計算してっから」

「そういう問題じゃないと思うでやんす……」

「んじゃ、そんなわけでどっか行って来るから」

心配してくれる矢部を余所に教室から出るため扉に手を掛けた。

――ガラガラ

「え?」

扉を開けようとしたら先に向こうから開けられたらしく少し驚く。

「あれ? もうチャイム鳴ったよ? 席に着いてね」

「え……? ぁ……はい………」

入って来た先生に施され席に戻る。
いや…それよりも…。

「えー、みなさんおはようございます! 教育実習に来ました、橘聖名子です。よろしくおねがいします」

「ドッキーン!春の目覚めでやんす!」

「…………」

「よろしくね、キミ達」

「はいぃーーーーーでやんす!!」

「(おいおいマジかよ…あおいさんにそっくりじゃねぇか…)」

結局サボるタイミングを逃し、このまま授業を受けることになった。





第5話「橘聖名子と早川あおい」




――キーンコーンカーンコーン

~昼休み~

「加藤先生に続いてまた綺麗な先生が入ってきたでやんす! オイラ感激でやんす!!」

「わかったっつうの………」

休み時間のたびに同じことを熱弁してくる矢部。
おかげでまともに飯が食えやしねぇ…。

「これで練習も気合が入るってもんよ!! でやんす」

「アハハ……(乾いた笑いしか出ねぇ………ん?)そういえばさ、橘って……」

と、そこまで言葉を繋げた時、校門の前に車が止まった。

「うわぁ……凄げぇ高級車じゃねぇか……いくらすんだろ?」

そして運転席から黒尽くめの男が後部席の扉を開けた。








「どうぞ、学長」

「うむ、校内を見学させてもらおうか」








「おいおい、初めてSPなんてもん見たよ」

「オイラもでやんす」

と、矢部と話していると門の方へ駆けて行く女子生徒が居た。
………橘だ。







「おじいちゃん、いらっしゃい」

「みずきか、出迎え感心だな」







「へぇ、あのオッサンが理事長さんか」

「杉矢君、理事長は入学式のときに挨拶してるでやんすよ?」

「寝てたから知らん」







「どうしゃみずき、よい子にしておるか?」

「おじいさま、お久しぶりです。教育実習の許可ありがとうございます」

「聖名子か、家を離れたお前に、おじいさま呼ばわりされる覚えはない」

「おじいちゃん!」

「お前が試験で合格して、実習生になっただけのことじゃ。ワシとは学長と実習生の関係じゃ」

「分かっています……学長」

「お姉ちゃん……」

「行くぞみずき」

「は、はい……」






「なんか訳ありみたいだな」

「聖名子先生にあの態度! 許せないでやんす!!」

「なんでお前は怒ってるんだよ……。まぁいいや、飯食おう」

あちらさんの家庭問題なんて俺には関係ないしな。
一方の矢部は休み時間が終わるまで怒っていた。








「しかし驚いたな」

「そんなにあおいお姉ちゃんにそっくりだったの?」

「そりゃもうな、違うのは髪の色くらいだし」

「私もみてみたいなぁ~」

今日あったあのことを奈々に話したら興味心身のようだった。

「それにしてもあおいお姉ちゃん頑張ってるよね」

「そうだな…今年は開幕から1軍で今もまだ無失点だっけ?」

俺たちが話題に出しているのは千葉ロッテマリーンズに所属している早川あおいさんである。
あおいさんは俺と奈々の姉的存在であり、俺たちが目標とする選手でもある。

「奈々が甲子園目指せるのも元はといえばあおいさんのおかげだからなぁ…」

数年前まで女生徒が高校で野球部に所属し、公式戦に出るのは禁じられていた。
しかし、その決まりに革命的なことを行なったのがあおいさん率いる恋恋高校野球部だった。

そう簡単に事が進んだわけじゃないが結果は女子も甲子園を目指せるようになった。

「久しぶりにあおいお姉ちゃんに会いたいなぁ~」

そしてあおいさんは俺たち兄妹に野球を教えてくれた人でもある。

俺たちはそんな人と同じプロの世界に行くために日々頑張っている。

「(しっかし橘の様子だと明日は不機嫌っぽいなぁ…)」

あいつが不機嫌だとご要望会議で通る確立が0に近いのである。

「(明日はご要望会議がないように…)」

切実にそう願った。





[19041] 第6話「プレゼント」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/26 00:34







「却下」

「まだ話してもいないんですけど…?」

「うるさい却下」

「これでいいのか生徒会!?」

翌日俺の願いが裏切られご要望会議が開催された。
そしてこれだ。

「会長の決定ですから」

とあくまで橘側の大京。

「まぁ…仕方ないわ」

やや苦笑気味の原。

「今回ばかりは同情するよ」

さすがに可哀想かと思ったのか、宇津が同情してくれる。

「もう今日は全部却下!!」

「………やれやれ」

なんのために開催してるんだか。







第6話「プレゼント」







「しっかしもっと効率良く交渉する方法は無いのかね…?」

今日のように壊滅的なのはともかく最初の時のようにギリギリの時でも許可が出るようにしたい。

「なんかねぇかな…ん?」








「あ、あの先輩!」

「どうしたの? 後輩の鈴木君」

「お、俺…先輩のことずっと前から大好きでした! つきあってください!」










なんともタイミングが悪い。
丁度告白のシーンに居合わせちまったようだ。










「…! でも、わたし…貴方の気持ちはうれしいんだけど…」












「(あらら…残念だったな鈴木君よ)」














「これ、俺の気持ちッス!!」

「…! これは、私が前からほしかったバッグ!!」

「へへ、先輩のことならなんでもお見通しッス!!」

「鈴木君…私でよければ喜んでお受けするわ」

「ほんとですか!? やったー!」

ここに今、あらたなカップルが誕生した。












「っていいのか先輩!?」

明らか物に釣られてるじゃねぇか!!

「……ん? これは使えるかもしれない」














さっそくこのことを矢部に話し、攻略アイテムを集めてもらい、次回の会議を待った。













「ってなわけでまぁ、部員がもうちょっと欲しいわけですよ」

「もう10人居るじゃないか野球部は…。これ以上必要なのかい? まぁ、野球部は最近頑張ってるようだしボクは賛成だね。それで…みずきさんは…」

「却下」

「残念だったね、杉矢…」

思うんだが何故こいつらは会議を開いてるだろうか…?
こいつの機嫌見れば不可能だってわかると思うんだが……。

まぁいい、俺には秘密兵器がある。

「実はここにパワ堂のプリンが丁度余ってるんだが…」

「プリン!?」

見事に食いついてきたな。

「そういえば部員を増やして欲しいんだよな………」

「採用よ!! オッケーーッ!!」

自分でやっといてなんだがこれでいいのか生徒会?

「杉矢……せこいで」

黙ってろ、原。













「あれ? この袋なに?」

「勝手に人のバックを漁るな妹よ」

「むむ!? このバラはなんだ!?」

「いや…それは……(確か宇津対策のアイテム…)」

「お兄ちゃん…どういうこと!! これは誰にあげるために持ってるの!!」

「(父さん…母さん…妹が怖いです)」

「む~~、私を差し置いて一体誰なんだ~~!!」






[19041] 第7話「公式戦」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/27 10:01





side mizuki

「ただいま生徒会が終わりました」

「おお、みずき、うわさは聞いておるぞ。生徒会がんばってるようじゃな」

「はい、おじいちゃん」

「橘家の人間たるもの、人の上に立つ必要があるのじゃ…聖名子はその素養がなく困惑したが、お前なら任せられそうじゃ」

「う、うん…」

「ともかく勉強しておけば、将来橘家を任せられる、器の大きいお婿さんを見つける目も養われるからのぉ」

「はは、そうだね。あ、塾の時間だ…もう行くね」

「うむ、しっかり学んでくるんじゃぞ」

「…………」







「はぁ……」

私はひと知れずため息を付いていた。
理由はもちろん……。

『ばっちこーい!!』

「ん?」

グラウンドの方から声が聞こえる。
どうやら野球部が練習しているらしい。

「ノックいくぞーっ!」

「オーライ…わぁ!」

ノックを受けている部員が簡単な打球をエラーした。

「……しょぼいなぁウチの野球部…」

これじゃあ…私の夢は……。

「だよなぁ~。しょっぼいよなぁ」

「え?」

後ろを振り向くとタオルを肩に掛けた杉矢くんが居た。




side out

走りこみから帰ってくると、グラウンドを見つめてる生徒会長の橘が居た。

「……しょぼいなぁウチの野球部…」

練習風景を見て思わず呟いてしまったんだろう。

うん、わかるぞ。俺も同じ気持ちだもん…。

だから俺は…。

「だよなぁ~。しょっぼいよなぁ」

「え?」

同じ気持ちを伝えた。
俺の登場にどうやら橘は驚いた模様。

「よう橘、今から塾か?」

「そ、そうよ。一流大学目指してるからね」

「はぁ…橘は凄げぇな…。俺には到底真似できん」

やれやれ、と思わず腕を竦めてしまう。

「でもな、俺は一流大学は無理だが…一流のプロ野球選手になるつもりだ」

「え? 杉矢くん?」

「俺には野球しかないからなぁ…。ま、難しいけどさ」

「もー、子供レベルだね。杉矢くんの夢は」

一見バカにしてるように聞こえる発言だが、何故かそうは聞こえなかった。

「そう言うなって、夢はでっかく持ってこそだろ? まぁいいや、塾頑張れよ」

「うん……」

その後しばらく橘はそこに立ったままだった。





第7話「公式戦」





月日は流れあっという間に7月になった。
7月といえばもうすぐ予選だが…。

「しっかしこのメンバーで勝てるのかね…?」

まともな野球経験者は3人、他に元は野球をやっていた連中も合わせてざっと7人。
完全な寄せ集めチームだ。
なんか中学時代と大差ない気が……。

「たしかに不安でやんす。だから今回は敗北覚悟で当たって秋に備えるでやんす!」

その意見には賛成だ。あくまでも今回は今後のための試合ってことだな。

そして今部室にてみんなで太鼓先輩の帰りを待っている。
今日は抽選会だ。

「そろそろ太鼓先輩が抽選会から帰ってくる頃だな「ただいま戻りました…」お、帰ってきた…なんか元気ないな」

行くときとはうって変わって沈んだご様子の太鼓先輩。

「おかえりなさい、太鼓先輩。抽選どうでした?」

「………」

「先輩?」

「どうしたでやんすか?」

沈んだままの太鼓先輩。一体どうしたのだと言うのだろう。

「……です」

「はい?」

「初戦は……帝王実業です…」

「……………へ?」

『な、なんだってーーー(でやんす)っ!?』

「な、なんで初戦から帝王なんだよ!!」

「あそこってシード枠じゃないのかよ!?」

ということで聖タチバナ学園の記念すべき第一戦は、帝王実業となった。

「敗北覚悟より玉砕覚悟で行ったほうがいいかもな……」








「それじゃ今大会のスタメンを発表するぞ」

『はいっ!!」

1番センター、矢部

2番セカンド、田宮

3番キャッチャー、杉矢

4番サード、緑川

5番ファースト、小田切

6番レフト、佐川

7番ショート、鈴木

8番ライト、遠藤

9番ピッチャー、太鼓

「以上がこの大会のスタメンだ。皆、期待しているぞ」

「よっしゃ、スタメンだ! 気合入れてくぜ!」

対戦相手は最悪だが、高校で始めての公式戦。楽しみだ。







[19041] 第8話「帝王実業」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/28 22:45




「き、緊張するでやんす!」

「落ち着けって…」

いよいよ今日は甲子園予選。
ようやく俺の高校野球がスタートしたんだな…。

「(帝王実業か……ありったけのデータを集めてきたけどどうだろうな…)」

あの抽選日から今日までひたすら帝王実業のデータを集めまくった。
どこで調べたって? 企業秘密さ。

「(ま、中でも別格なのは3番セカンドの蛇島さんと同じ一年で4番ピッチャーの友沢だな)」

まぁ、不安になってもしょうがない。やるだけやってやろう。

『両者整列!!』

審判から声が掛かった。

「じゃあみんな行くぞ!!」

『オオーーーッ!!』











第8話「帝王実業」









 一塁側「帝王実業」      三塁側「聖タチバナ学園」


 1番 遊 関口        1番 中 矢部

 2番 右 東         2番 二 田宮

 3番 二 蛇島        3番 捕 杉矢

 4番 投 友沢        4番 三 緑川

 5番 捕 伊藤        5番 一 小田切
 
 6番 中 大嶺        6番 左 佐川
 
 7番 三 今岡        7番 遊 鈴木

 8番 一 高谷        8番 右 遠藤

 9番 左 園田        9番 投 太鼓







『1番、センター、矢部君』

「よっしゃーいけー! 矢部ーーっ!!」

「塁出ろよー!」

俺たちの先行で先頭打者は矢部。
さて、期待の一年のピッチングを見せてもらおうか…。









「ストライクッ! バッターアウトッ!! チェンジ!!」

はっきり言おう。

レベルが違いすぎる!
俺たち三人はバットにかすりもしなかった…。

ノビの良いストレートにキレの良い変化球。
なによりあのスライダーは魔球だろ…。

「切り替えよう……要は1点もやらなければ良いだけだ。太鼓先輩! いきますよ!!」

「了解です杉矢君!」

今度は俺たちが守備に付く番だ。

向こうが奪三振を取るならこっちは打ち取るピッチングだ。

「(今日は太鼓先輩の球は落ち着いてる…。意外といけるかもな…」

『一番、ショート、関口君』

アナウンスコールが流れ先頭打者がバッターボックスに入ってくる。

「プレイッ!」

「(よし…太鼓先輩、まずはここだ)」

相手は右打者。

俺は迷わず外角真ん中へのストレートを要求した。

――カキンッ!

心地よい金属音が鳴る。
無駄のない動きで打った打球はライトへのクリーンヒットとなった。

『二番、ライト、東君』

セオリーでいけばここは送りバント。
向こうもそのつもりのようで送りバントの構えを取る。

「(無駄球放るのもなんだし…ここは素直に送らせるか…)」

わざと甘い球を要求し、一発でバントを決めさせる。

『三番、セカンド、蛇島君』

場面は一死二塁。打順はクリーンナップへ回る。
蛇島さんは左打席に入った。

「(スイッチヒッターだったな…。ならインローに真っ直ぐだ)」

――キィンッ!

完璧に捕らえた打球はファーストの小田切を襲う。
しかし真正面だったこともあり難なくキャッチ。

ランナーは進塁したものの、ツーアウト。

「(いやぁ~おいしいね、3球でツーアウトだよ)」

だが、問題は……。

『4番、ピッチャー、友沢君』

……こいつだ。一番厄介だな。
友沢はグリップを握り締め、左打席へと入った。
こいつもスイッチヒッターだったな。

「(よし…様子見といきますか…アウトコースにボール気味の真っ直ぐだ、太鼓先輩)」

「(わかりました、行きますよ)」

コクッと頷き投球動作へと移り…投げた。

ボールは要求どおりボール気味へ来ている。

さぁ、どうくる?

――カキィンッ!!

鋭いスイングで振りぬかれた打球はライトポールギリギリの所へ舞い上がった。

「(おいおい…様子見だぜ?)」

太鼓先輩は驚愕の表情で打球を目で追うが問題ない。
友沢のバットの始動が早かったおかげで切れる。

予想通り打球はどんどん右へ反れ、ファールになった。

友沢の方も反れると分かったのか、打球を見ずに打席を外していた。

しかし、太鼓先輩は今のファールが効いたのか、若干動揺している。

「ふぅ~…タイムお願いします」

「タイムッ!」

審判にタイムを貰い、俺はマウンドへ駆け寄った。

「ど、どうするんですか杉矢君!?」

太鼓先輩は予想以上に慌てていた…。

「大丈夫っすよ、あれはいくら打ったってファールになりますから、それよりも次からが勝負ですから、しっかり頼みますよ?」

「わ、わかっていますが…」

口ではそう言っているがやっぱり不安そう。

「ふぅ……太鼓先輩、俺はキャッチャーですよね」

「…え? そうですよ」

太鼓先輩は何を当然なという顔をしている。

「キャッチャーっていうのは俗に言う恋女房…まぁ、要は相棒ですよ」

「………」

「ですから、相棒の俺を信じてください。絶対に太鼓先輩に情けないピッチングをさせませんから」

そう言って俺は元の位置へ戻り、マスクを被り直した。

「プレイッ!」

審判が試合再開の合図を出す。

「(さぁ、太鼓先輩、次はここだ)」








side taiko

「ですから、相棒の俺を信じてください。絶対に太鼓先輩に情けないピッチングをさせませんから」

そう言って彼は戻っていった。

私はさっきのファールで動揺していた。

何を投げても打たれる。
抑えようがない。

不安で押しつぶされそうだった。

でも彼の一言でそんな気持ちが薄れていった。

「プレイッ」

……彼からの要求はさっきと同じ。

何故だろう……打たれるという気が全くしない。
初回からピンチだと言うのに凄く落ち着いている。

杉矢君に…全てを任せられる。
彼のサイン通り投げれば打たれない…。
そんな自信で溢れてくる。

投球動作に入る。

私は彼のミット目掛けて…投げた!










side tomozawa

「ボールッ」

俺は5球目のボールを見逃して思った。
このキャッチャーのリードは目を張るものがある。

相手ピッチャーは一回戦ならどこにでも居るレベルだがピッチャーの能力を上手く引き出している。

配球の組み立て方も見事だ。
1球目のファール…普通ならあれだけの当たりをされたら二度も同じ所には投げない。
だが、このキャッチャーは同じ所を攻めてきた。

その後のリードも上手く組んでいる。

「(フッ…俺という奴がどうしてこんなにも相手の事を褒めているんだろうな…)」

どうしてだか自分でも分からない。

ただそれほどこの男のリードが凄い…ということなんだろう。

「(もし…この男がウチに居れば…俺はもっと強くなれるかもな)」

だが、今はそんなことは関係ない。
どうやってこのチャンスをものにするかだ。

カウントはツースリー。
相手ピッチャーのコントロールはあまり良いわけではない。
四球を出したいとも思わないだろう。

「(ストレート…)」

恐らくストレートで来る。

やがて投じられた6球目。
またもやアウトローだった。

「(舐めるな……っ)」

ボールに照準を合わせバットを振る。


俺のスイングは……空を切った。











side out

いやぁ~上手くいった。

最後のボール、あいつはストレートだと思ったんだろう。
セオリーに考えれば普通あの場面で変化球を投げない。
なぜなら四球の可能性が出てしまうから…。

だからこそ俺は変化球を要求した。

太鼓先輩が投げたのはシュート。
構えたのはボール気味にそれていく位置で、見逃せばボールだろう。

けど俺としては見逃してくれても良かったんだ。

次の5番打者は俗に言うホームランバッターでデータによる打率は.235で、とても高いとは言える打率じゃない。
だからこそ友沢と勝負するくらいならこっちと勝負したっていいわけだ。

まあそれなら最初から敬遠しても良かったんだけど。

けどまあ結果オーライ。何より三振を奪えた。

しかし…問題はこっちが問題なんだけどな…。

問題なのは攻撃面、ウチの打線であいつの球を打てる奴が居るのだろうか…?


「(せめて…1点くらい取りたいよなぁ…)」

三振に倒れた4番を見て俺はため息を付きながらそう思った。








[19041] 第9話「ライバル」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/29 00:57



第9話「ライバル」







「あ~あ、負けちまったな…」

「しかも完全試合だぜ…」

試合は1-0の完全試合という結果で幕を閉じた。
まさか完全試合をやられるとはなぁ……。

負け慣れちまってる俺でもヘコむ…。
……負け慣れてるってのも問題だが……。

「あれ…あいつ帝王実業のピッチャーじゃないか?」

「こっちにやってくるな…嫌味でも言いに来たのか?」

「って、杉矢の方に行ったな」

「俺らには関係ないな、先に帰ろうぜ~」

友沢が何故か俺の所にやってきた。
一体何の用だ……?

「………な、なにかな?」

「……お前の名前は?」

「え? ………杉矢慎一」

「…覚えておこう、次は絶対…負けない」

そう言って友沢は去っていった。
っていうか負けたの俺らじゃね?
完全試合ですよ? 完全試合。

「ライバルでやんすね」

「って矢部!? いつの間に!?」

「最初から居たでやんす……。友沢君、オイラに目もくれなかったでやんす……」

……それは…あれだ………哀れだな。

「ってそんなことはどうでもいいでやんす! 杉矢君はライバルとして認められたのでやんすよ!」

「お、俺がライバルぅ~? なんの冗談だって」

今日の俺の成績は3タコの2三振。
おまけにこっちは完全試合をやられてる。これのどこに認められる要素があったんだ?

「フッフッフ、オイラには分かるでやんすよ」

「(どうでも良いけどキモい……)」

「今日杉矢君の最後の打席はセカンドゴロだったでやんすね?」

「あぁ……」

「打った球種はスライダーでやんすね?」

「あぁ…よくわかったな」

「それでやんす!!」

矢部が声を張り上げた。普通にうるさいんだが……。

「実は今日ウチの打線でスライダーに当てたのは杉矢君しか居ないでやんす!」

たしかにあのスライダー、キレも変化も凄いから当てづらいな。
俺が当てられたのはで運よく読みきって思いっきり踏み込んだから打てただけだし…。
もしあれがストレートだったらドン詰まりのピッチャゴロだっただろうな。

「友沢君にとってスライダーは命とも言える切り札でやんす! それをこんな弱小校にマグレだとしても当てられたら認めざるを得ないでやんす!」

「お前、言ってて悲しくならない?」

「……なるでやんす。でも、だからこそ杉矢君は認められたでやんすよ!!」

「う~ん、そうなのかねぇ……?」

「そうでやんす! 自信を持つでやんす!」

「そうか…ライバルか……へへっ」

口元が緩む。ライバル…悪くない響きだ。
自分を卑下するわけじゃあないがこんな俺にあんな凄げぇ奴がライバルって認めてくれたんだ…。

「…よっしゃぁ、早速戻って練習するぞ矢部!!」

「え……オイラこれからアニメの再放送を…って待つでやんす杉矢君!!」

「次は絶対負けねぇぞ、友沢!!」

「か、完全に燃えてるでやんす…オイラ言葉間違えたかもでやんす…」

次の大会は9月だ。帰って練習だーーっ!!











side kageyama

「思わぬ収穫だ…」

帝王実業を調査に来たのだが、聖タチバナにまだまだこれからの選手だが良い選手を見つけた。

『杉矢 慎一 右投げ右打ち
 ポジション 捕手
 15歳   聖タチバナ学園高校
 バッティングはもうひとつだが、成長の期待あり。
 守備面は一年生ながらキャッチング、リード術に長ける。
 そのレベルは恐らく超高校級だろう』

メモよしっと…。それにこの選手は確か中学でもそれなりに有名だったはずだ。

たしか…投手の妹とバッテリーを組んで『兄妹バッテリー』で名が通っていたはず。
しかし彼の居た中学は弱かったらしく、そのせいで強豪校へ入れなかったんだろう。

中学が弱いといえば……。

わたしはある一枚のメモを手にする

『青崎 信吾 右投げ両打ち
 ポジション 外野
 15歳   パワフル高校
 高校1年生とは思えないパワーをもっており、そのパワーはパワフルズの福家、やんき~ずの半田を連想させる。
 しかし守備面、ミート率に問題大ありなため検討中』

ふふ……2年後のドラフトが楽しみでしょうがない。
果たしてこの二人がどれだけ成長しているのか楽しみでしょうがない。

「(近いうちに聖タチバナ学園を視察することにしよう)」

わたしはその場をあとにした…。









side ???

一方その頃球場付近で怪しい少年が居た。

「ふふ…さすがですよ杉矢先輩…」

その男は見た目は美少年でお姉さんたちが居ればお持ち帰りしたいような容姿をしていた。

「今日のリードだって凄かった…。あの痺れるような攻め方! ふふ…っ、ゾクゾクする!」

周りを歩く人たちは気味悪そうに彼を避けて通る。
顔が顔なだけに残念だろう。

「さすが…僕が愛する人です…ふふ…っ」

その少年は不気味に笑いながらその場を後にした。







[19041] 第10話「涙」
Name: UVER◆949ba060 ID:9aeb1d1f
Date: 2010/05/29 02:49




「塾、いってきます」

「うむ」





――首都大学室内練習場

大学の室内野球場に黄色いユニホームを着た3人の男子が居た。

「お待たせ」

そこにもう黄色い制服を着た女子が加わる。

「遅いで~みずきさん」

「ごめーん、おじいちゃんの監視が厳しくて」

「ま、学長の監視じゃしょうがないね」

「じゃ、はじめますか」

『よーし始めるぞー!』

『お願いしまーす』


――カキーンッ!!

『原!いいミートだ!』

「おおきにです!」

――ビュッ!

『球が伸びてきたね、宇津くん』

「ありがとうございます」

――グアッキーンッ!!

『大京、いいスイングだな』

「恐縮です」


「さて、いっくわよー!」

――ギューーーンッ! ククッ!!

『みずきくんの秘密兵器も完成してきたネ』

「へへーん」

――三時間後

『よし、今日の練習はここまで』

「ありがとうございました」

『惜しいネ、キミたちは高校レベルならトップクラスなのにネ』

「あはは…」

『おっと、大きなお世話だったカナ」

「いえ、ありがとうございます。お疲れ様でした」






「大京のお兄さんが大学の野球部の主将、副主将と知り合いでよかったなぁ」

「しかも、事情を説明したら練習場を貸してもらえるだけでなくコーチもしてくれるなんてね」

「恐縮です」

「………」

「どないしたん?みずきさん」

「……ねぇ、みんな。私のことはいいから、みんな野球部に入りなよ」

「みずきさん!?」

「前にも言ったやないか! シニアリーグの時から4人でいっしょに甲子園に行こうって」

「みずきさんがいたから今の僕たちがいるんじゃないですか!」

「みずきさんや、みずきさんの両親には感謝してもしきれないくらい恩があるんや」

「みずきさんの甲子園の夢をかなえるため、できることなら練習でもなんでもお供しますよ」

「私も、同意見です…」

「みんな…ありがとう、わかったよ」

「でも、学長が反対してるのをどーするかやな」

「ボク達で力になれたらいいんだけど…」

「うん、おじいちゃんだねぇ…」

悩む四人。




『でもな、俺は一流大学は無理だが…一流のプロ野球選手になるつもりだ』





「あ!! そうか! いけるかも…にしし」

そう言ったみずきの顔は悪巧みをしている顔だった。





一方その頃

「………ハックション!! …寒いな…奈々、窓閉めてくれないか?」

「大丈夫だよー、お兄ちゃんが風邪ひいても私が付きっ切りで看病してあげるから♪」

「……お前、それ目的で窓開けてるんじゃあないだろうな?」

「そんなことないよー。ただ、最近お兄ちゃんが構ってくれないから寂しいなんて思ってないよー」

「………やれやれ、ほら、おいで」

「えへへーー♪」

「まったく、手のかかる妹だな」

じゃれあう仲の良い兄妹が居た。







第10話「涙」











「バッターアウトッ! ゲームセット!!」

『ありがとうございましたー』

「ああ……負けちまった…」

今日は奈々の中学野球最後の大会。
今年こそは一回戦突破出来そうな戦力だったんだが…。

「めずらしいな……奈々があんなに落ち着かないピッチングなんて…」

奈々は3回1/3を投げて4失点の大乱調だった。
あんなピッチングの奈々は見たことがない…。

「…ぁ」

帰り支度を終わらせ、帰ろうとする奈々が俺を見つけたようだ。

「……っ」

だが、俺と目が会うと走って行ってしまった。
目が赤かった…泣いていたんだな。

「…少し遅く帰るか」

ああいう時は一人になりたいもんだからな。










「ただいま~」

いつもより遅めに帰宅したわけだが…暗い。
まだ帰ってきてないのか?

と、思うも靴は置いてある。

「部屋に居るのか……」

奈々の部屋の明かりは点いている。
帰ってそのまま部屋に籠ったか……。

「……飯つくるか」

今日はあいつの大好物のオムライスでも作ってやろう。











「お~い、晩メシだぞ~」

部屋の前に行き、ノックをするも返事がない。

「今日は奈々の大好きなオムライスだぞ~」

…………。
返事がない。

「やれやれ、入るぞー」

返事は待たず中へと入る。

部屋に入ると中は真っ暗で、窓の方に奈々は膝を抱えてうずくまってた。

「お兄ちゃん…」

俺を見ると小さく奈々は呟いた。

「あれ? てっきり泣いてると思ったんだけどな…?」

「もう…いっぱい泣いたもん……」

暗くてよく見えないが、声が若干涙声なのは泣いていたからなんだろう。

「そうか…、まま泣いてた理由は大体想像付くが…もう大丈夫なのか?」

「うん……大丈夫だから」

「そっか…じゃ、飯にすっか」

あまり解決してないように見えるが奈々が大丈夫だって言うなら俺がこれ以上言うことはない。
奈々が自分から話そうとしたときに聞く事にしよう。

そして今日も過ぎていく……。







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